生命の冒涜者 作:アトランティスの観測者(自称)
※お知らせ : タイトルとあらすじを変更しました。 内容に変わりはないのでご留意くだしあ。
Tips : 視界
ユイロは
そのため、見た目上の視界関係なく、常に360°見渡すことができる。
なお、見えることと見ることは別問題である。 視界の端とかは意識しないと見えないのと同じ。
「───虚月ライは、もういない。 だから、託されたモノはちゃんと守ってね」
(・・・
ひどい悲嘆に染まった表情を、これ以上ホシノに見られないよう背を向けそう言うと、仮面を肉体から切り離しミメシスを収納する。
今のホシノの精神状態なら、この不自然な消え方でも違和感を抱く余裕はないだろう。
まぁ、あれだ。 追い返すか逃げるために一芝居打ったんだが、ついヒートアップしてしまった。
足元の草に火をつけて煙に巻こうとしたら、思ってたより燃え広がって大火事になったみたいな、そんな感じ。
「・・・・・・ライのいない世界で、“幸せ”が何なのかなんて、わかんないよ」
もう、ホシノが悲しむのは見たくなかったんだがな。
わかってたハズだ。 黒服と契約して、ここにラボを作ってから、ホシノはここを毎日のように訪れていた。
あぁ、探し人が誰かなんて考えるまでもない。
本来の世界だと、ホシノはユメ先輩を失った。 アイツはそれをいつまでも引き摺って、故人の影を追い、思い出をなぞるようになったんだ。
たとえそれを覆しても、その結果俺がいなくなればどれ程の傷跡を遺すことになるかなんて、わかっていたろうに。
「・・・ライ、帰ってきてよ。 私たちの“幸せ”は、ライがいないままじゃ掴めないんだ・・・・・・」
その嘆きを聞いてなお、俺は戻ることができない。
・・・何故だろうな。
(その答えだけは、常に
この仮面を造った時。 自身の複製などという禁忌を是とした俺は、虚月ライの処遇を決定した。
そして夜美月ユイロとしてそれを永劫背負い続けるため、唯彩の仮面に二つのエラーを仕込んだ。
だから俺はもう虚月ライではない。 アイツはとっくに過去の人間だ。
ここに残っている夜美月ユイロは、ソイツの生と記憶をなぞるだけの紛い物。
というか、“唯一の彩”だなんて名前を付けといてこんなエラー仕込むとか、
いくらなんでも皮肉が過ぎるだろ。
(まぁ、だから。 これは自分が招いた結果でしかない。 そう、仕方のないことなのよ。 今更悔いても意味はないし、ホシノの苦しみと悲哀を黙って見ていることしかできないのも、仕方ないこと)
・・・本当に愚かしい。 俺はどうすればよかったんだろう。
一つ言えるのは、今の俺たちに選べる余地など無いということだけ。
・・・これは、自らの選択がどのような結果をもたらしたのかの“答え合わせ”なのだから。
この悲哀も、嘆きも、全てはこの世界から虚月ライを消した俺への罰だ。
在るべき存在に死を与え、喪われたはずの生を冒涜した愚か者。
生きていないが死んでもいない、生きることも死ぬこともない。
・・・少し断定的な言い方をするなら、“生きることも死ぬことも許されない”。
死者は過去になり、生者は未来へ進む。 なら、そのどちらでもない者は?
───答えは“停滞”だ。
未来を歩むことはできず、未来を閉ざすこともできない。
過去を悔いることは自らを否定することになり、過去を想うことはただ虚しいだけ。
ただ現在にのみ在り、そこから手を伸ばして誰かの背を押すことしかできない。
そして、だからこそ。 ホシノにだけは、曖昧なままで済ませたかったんだがな。
ライは俺が殺したが、それを知らないホシノはいつか帰ってくるかもしれないと思っていたハズだ。
いつまでも叶うことのない希望を持ち続けるのは残酷なことだが、少しでも“どこかで生きている”と思っててくれるなら、気休め程度の救いにはなる。
だから、その希望を打ち砕くようなことは言いたくなかった。
そうなってしまえば、ホシノはきっと全部自分の責任と捉えてしまうから。
あの日のことに、ホシノのせいで起こったことなど一切ないというのに。
運命だとか、脚本だとか、神話だとか、そんなものキヴォトスを生きる生徒からすれば関係ない。
お前らがなんと言おうが、ここで生きている俺達は一人の人間だ、一人の生徒だと主張する。 けれど、大いなる世界にそんな声は届かない。
それでも、抗って。 そうしてユメ先輩の命を繋ぐことができた。
だというのに、俺は何をしているんだろうな。
その結果として、大切な人が“幸せ”を得るピースを奪った。
故郷の幸福を願っているのに、俺が自分勝手なばかりに・・・いや、違うか。
自分勝手だから、幸福を奪った分際で幸福を願っているのだろう。
・・・笑えるな。
(ねぇ、ケイ。 ワタシはどうすればよかったんでしょうね)
《・・・私には、貴方が望むような答えを持っていません。 貴方の旅路に付き添う者として、貴方を否定することはできませんし、かと言って肯定するのは目の前にいる
《・・・少し、意地悪な質問だったわね》
ケイが困っているのを感じ取り、少し冗談めかして取り繕う。
この感覚も感情もお見通しだとわかっているんだがな。
《・・・ですが、言うことならあります》
(・・・?)
言うこととはなんだろうか。 思い当たる節が多すぎてどれのことやら。
思い当たる節が多すぎるのよくないな。 誰かのせいにしたいが自分の顔しか思い浮かばない。
《せめて一度くらい、故郷としっかり向き合ってください。 先程あれだけ感情的になったのは、紛れもなく貴方がこの地に未練を残しているからでしょう?》
(それは・・・)
・・・ケイの言う通りだ。 思えば初めから、ずっとアビドスから距離を取ろうとしていた。
ここに来たら、きっと戻りたくなる。 事実、何度も何度も“帰りたい”と思った。
《自分の気持ちにくらい、正直になったらどうです?》
(でも、それは“夜美月ユイロ”じゃ───)
《私たちの生きる“現在”に、脚本や決められたキャラクターなんてありません。 役者が役の外へ出たって、何の問題もないハズです。 ・・・でなければ、貴方が抗った過去すら意味を失くしますよ》
俺は、アビドスが関わることになると“役”に没入しきれなくなる。 それはケイの言う通り、かつての“
(ワタシは生命を冒涜した存在で───)
《私は、今の貴方と同じ“造られた存在”です》
アリスは名もなき神々の王女。 ケイは無名の司祭共が王女を厄災に変えるため作った“鍵”だ。 その本質は今でも変わっていない。
(・・・ワタシは、“虚構”が形作った“偽者”だから───)
《貴方自身が偽者であろうと、貴方の“誰かの幸せを願う心”は偽りではないでしょう? それとも、アリスや彼女達をあれだけ甘やかしていたのも嘘だったんですか?》
心・・・。 俺が狂わせたのは“自身への認識”だけだ。 俺の意思や心は何も変わってない。
(・・・・・・ワタシ、は・・・・・・・・・・)
《・・・ユイロ。 ずっと貴方の隣にいた私には、全部わかってますよ。 貴方の本音を聞かせてください》
そう尋ねるケイの言葉はとても優しくて、何故だか、在りし日のユメ先輩を思い出した。
(・・・きっとね、戻ろうと思えば戻れたの。 でも、できなかった。 人として長く生きられなくなったこと、故郷より世界を優先したこと、そして“ライ”を殺したこと。 負い目と隠し事のために、戻らないと決めて距離を取った)
戻るだけなら簡単だった。 肉体をミメシスとした後も、それを隠すこと自体はそう難しくない。
黒服の実験はあらかた終わってたし、今のアイツは俺という個人への興味の方が大きいように思える。
契約の変更はできなかったが、今は契約内容の更新という名目で自由行動を認められている。
戻ることはいつでもできた。
“自分殺し”の罪悪を背負うことに変わりはないが、あの状態ならどのみちすぐ死んでたろうし、建前上なら延命として体裁は保てただろう。
五感をなくしたのは割とバレそうな気もするが、それでも生きてさえいると思われているのなら、さして問題はないハズだ。
(戻らないと、戻れないと決めていたのに、ワタシを望む声を聞いたのよ? 他でもない、誰よりも大切な女から)
俺は今も昔も変わってない。 求める声に応え、目の前の人の未来のためなら鋼鉄の捕食者にすら単騎で抵抗する。
表向きは悪役として振る舞っているが、慈善事業としてMemento moriを創った程だ。
望まれれば、いくらでも手を伸ばす。 そう在りたいのに、一番大事な相手にはそれができない。
(“俺”という存在を望まれて、必要だって叫びを聞いて、喜ばないワケがないわ。 だってそれは、かつての日々がホシノにとっても素晴らしいモノだったって証拠でしょう?)
エゴとエゴがぶつかって、互いにヒートアップした感情を冷やしたのは、“必要”という一言だった。
Memento moriには、俺の存在が必要不可欠だ。 なら、アビドスは?
アビドスは、対策委員会は、俺がいなくとも問題なく回っている。 そこに俺が紛れ込む必要性などない。
そう、客観的に観れば不要だ。 だから、ここに必要とされてなければ、潔く向こうに専念できたのに。
・・・必要と言われたら、ここにいていいと言われたら、戻る理由ができてしまう。
自分を納得させるための言葉なら簡単にでっち上げられる。 内容はかなり残酷だが、さっきは咄嗟にこれを詠唱することで頭を冷やした。
───ホシノが望んでいるのは、“ライ”であって“ユイロ”ではない───
過去と今を分離している俺だからできる、自己防衛的な暗示だ。
《ユイロ、彼女たちが求めているのは───》
(・・・うっさい、わかってるわよ。 望まれてるのは“ワタシという存在”であって、“ライ”か“ユイロ”かは重要じゃないことなんて)
そんなこと、とっくの昔からわかってた。
なのに、あの時の俺は好奇心から自身の命を危険に晒し、身勝手にも世界と故郷を天秤にかけ世界を選んでしまった。
だから、引き返す道を塞ぐためにバリケードを幾つも設置した。
ゲマトリアに所属し、いつかの日にヴィランとなる準備を整えた。
自分を殺め、人の身を逸脱した。
仮面にエラーを仕込み、ユイロとライに境界を定めた。
Memento moriを創り、自身を必要とする存在を庇護した。
これだけやっておいて、いざここへ来たら自己の認識と、定めたハズの心が容易く揺らいでいる。
本当に、笑っちゃうくらい。
実験の日々はかなり苦痛だったし、Memento moriは守るべきモノのためにある。
結局、俺が一番毎日を楽しめていたのは、ここでの日々だった。
故郷とは原点で、そこでの生活は記憶の底で地盤となる。 いくら他の記憶が積み重なろうと、根底に根差すソレは上塗りできない。
それでも、俺がユイロで在り続ける限りアビドスに戻ることはできない。
それはきっと、もう変えられない。
あの頃とは、何もかもが変質してしまったから。 生と死は不可逆で、もう取り返しがつかない。
・・・俺はその一方通行の境界に自身を縫い付け、死の方向に進めないよう縛っているが、喪われた生を取り戻すこともできないからな。
いっそ、忘れてしまえばよかった。 過去の記憶で、思い出で苦しむくらいなら、記憶をデータに移す時に破棄すればよかったんだ。
・・・そうしなかったのは、俺がこの思い出を大切にしていたから。
これでよく、ホシノに"そんな記憶忘れなさい"なんて言えたもんだ。
戻れないヤツが過去に囚われてるのは、アイツだけじゃない。 まるで同じ穴の狢だな。
(・・・ね、ケイちゃん。 ワタシはどうしたらいいかしら?)
《自分がどうしたいか決まってるのに、私に聞く意味あります?》
(ふふっ、そうかもね)
《好きにすればいいんですよ。 私は貴方がどうしようが知りません。 過去も未来もないなら、
それは、あまりにも単純で。
それは、とても無計画で。
それは、ある意味思考放棄とも取れて。
だからこそ、自分勝手な俺に相応しい。
(その方が、よっぽど
今の俺がどうであれ、今アビドスにいるという事実は不変なんだ。 せっかく帰ってきたのに避けてたら、きっと失った思い出は失ったままだろう。
せっかく繋いだユメ先輩の命も。 一度は別れたホシノとの、形を変えた日常も。
今楽しめないのなら、楽しめるようになる日なんて永遠に訪れない。
俺だって、ホシノとユメ先輩と歩む未来を望んでた。 とっくに諦めたつもりだったのに、やっぱり諦めきれないみたいだ。
きっと、“俺”が“ワタシ”である限り、ホシノ達が心からの幸せを掴める日は来ないかもしれない。 それは俺が道を誤ったからで、言ってしまえば俺のせいだ。
それは赦されることのない大罪だ、その事実は変わらない。
けど、“
それは夜美月ユイロの管轄外のことで、咎人である虚月ライは表舞台に戻れないから。 これはきっと、ある種の現実逃避かもしれないし、自分の行いに対する罰かもしれない。
(だから、これはまだ妥協に過ぎないのよね)
《それでも、少しくらい前を向けただけ上出来ですよ》
(・・・そうかしらね?)
今の俺は、生徒の幸せな明日を願うお節介な通行人だ。
たとえ彼女たちが望む“ライ”でなくとも、
その一瞬の交わりを、無駄にするのはもったいないだろ?
・・・それに、もう見てみぬフリもできないからな。
今この瞬間、“夜美月ユイロ”は小鳥遊ホシノの悲哀を知ってしまった。 悲痛に満ちた慟哭を、嘆きにも似た願いを聞いてしまった。
それは、夜美月ユイロが“ホシノのため”に行動することを是とする理由として十分すぎる。
(・・・明日からは、また表舞台での活動ね。 今だけは、少し寄りかからせてちょうだい)
《ご自由に。 私はいつでもここにいますから》
隠した本心も塗り重ねた嘘も見抜いて、弱音も本音も受け止めてくれる。
だから、今は少しだけ甘えさせてもらおう。 素晴らしい相棒の、優しさと思いやりに。
「ユイロちゃんは・・・」
(・・・・・・ん?)
ふと、目の前で立ち尽くしていたホシノが口を開いた。
「ユイロちゃんは、ライとどこで会ったんだろう。
そう言いながら、こちらに足音が近付いてくる。
「まさか、
やがて仮面の真横で足音が止まり、地面へかがむ気配を感じた。
・・・真横で、かがんだ? 何のために?
「明日会ったら詳しく聞かなきゃ。 はぐらかされそうだけど、これをダシにすれば話してくれるかな・・・?」
考える間もなく、仮面に小さな手が触れ、地面と設置する感覚が消えた。
(あのー、ホシノさん?)
「明日、覚悟しててよ。 せっかく掴んだライの手がかりを、手放す気なんてないから」
すまんホシノ、その仮面本体なんだ。 それ握られてると外に出れないんだ。
(ちょっ、ホシノ!? お願いだから離して!)
《ユイロ、多分ムリです。 どこかで隙を見てこっそり抜け出しましょう》
(無理無理無理無理! どうやってキヴォトス最強からバレずに逃げろってのよ! ただでさえミメシス無しだと何も見えないってのに!)
そんな俺たちの内心を知らないまま、ホシノは仮面を片手にアビドスへと歩を進める。
明日が恐ろしくて仕方ない、こんなに明日が来ないことを望んだのは初めてのことだった。
この二人、ものの見事に全責任を自分に押しつけて償おうとしてますね。 お似合いだよお前ら。
ライ/ユイロの理論に則れば悪いのは作者なんですけどね。 愉悦愉悦。
それはそうとケイちゃんが強すぎる。 メインヒロインかな?