生命の冒涜者 作:アトランティスの観測者(自称)
ノルドシュライフェ・・・エンセキ・・・カルッセル・・・うっ頭が・・・。
・・・失礼、イベストのサブタイトルで少々取り乱しました。
Tips : 仮面とミメシス
唯彩の仮面とライのミメシスは物理的に離れることができない。
頭に着ける、手で持つ、装飾品に繋げるなど、何らかの形で繋がっている状態のまま外れることはない。
ただし、本人の意思で離した場合は接続が切れミメシスが霧散する。
「みんなおはよう~」
「「「「「
(・・・はぁ)
朝、視界ゼロの中、上から聴こえる朝の挨拶を聞いてため息をつく。
結局、俺が逃げることはできなかった。
理由はいくつかある。
一つ、何も見えないので夜間もホシノが確実に寝ているという保証がなかった。
二つ、ホシノが仮面をベッドの枕元、それも壁際に置きやがったので、ホシノに触れずにミメシスを出す場所がなかった。
三つ、仮に寝ているかつミメシスを出せたとしても、ホシノなら部屋の中に現れた存在にふつーに気付いて起きてきそうだったので、動くに動けなかった。
結論、詰んでた。
・・・こんなことになるなら、多少不自然でも仮面をラボへの通風口に投げ入れとくべきだった。
冷静に考えたら、自力で動けない本体を目の前に放置するってやっちゃいけないことだよな。
まぁ、やらかしたことは仕方がない。
「あれ、ユイロちゃんはまだ来てないの~?」
「ん、まだ来てない」
(そのユイロちゃん本人がアンタの手元にいるからね!)
「そっか~。 昨日パトロールしてたらこれを拾ったから、ユイロちゃんに返そうと思ってたんだけど」
「それって・・・ユイロさんの仮面?」
おそらくホシノは今、俺の仮面を皆に見せているのだろう。
起きてからずっと手に持ち歩いてやがったせいで、どうしようもできなかった。
とはいえ、俺も何の対応もしなかったワケではない。 一晩も時間があれば、現状を打開する方法の一つや二つくらいは思いつくというものだ。
「あ、足音が聞こえてきた。 ユイロちゃんかな?」
その呟きに、皆が扉の方を向いた・・・多分。 そんな中、俺も仮面に転送されてくる映像に意識を戻す。
どうやら、そちらは既にアビドスの校舎に入っているようだ。
「邪魔するぜ~」
扉が開き、部屋に入ってきたのはかわいいかわいいユイロちゃん・・・などではなく、骸骨のような仮面を付け、禍々しい杖を持った白いコートの人間?だった。
「「「「「「・・・・・・誰!!?」」」」」」
その反応も無理はない。 というワケで、自己紹介からしようか。
「初めまして、オレはエファイル。 Memento moriの“顧問”兼“経営アドバイザー”を務めている者だ」
なお、操縦している中身は俺本人である。 一度詳しく説明をしようか。
まず、エファイルが付けている骸骨のような仮面。 これは“
完成版ということで、俺が使うための便利な機能を色々と仕込んである。
その中から今回使用しているのは、“姿の投影”と“任意の声を発声する”機能。
それからボディ側に備わっている“遠隔での操作”を併用している。
まぁ、文字通りの機能だから想像はつくだろう。
遠隔での操作についてだが、イメージとしてはほぼラジコンみたいなものだ。
こっちの仮面も、投影された部分に当たる可視光を認識している。 この映像は俺の本体にあたる唯彩の仮面に転送され、普段の視界と平行して認識できる。
・・・まぁ、今は普段の視界が一切ないからこっちのしか見れないんだが。
しかしまぁ、普段は滅多にやらないが意外とコレ便利だな。 向こうの視覚情報しか入ってこないのが大きいが。
いやな? 別に全然並列で動かせるんだが、ただでさえ360°見えるのに、それが二つもあると少し疲れるんだ。
音の聞こえ方も別だし、それぞれに合わせて行動させないといけないから尚更な。
あと、普段使わないのは遠隔操作の精度がカスなのが理由だ。 ミメシスと仮面を繋いだ普段の直接操作とは比較にならない程度には細かな操作が効かない。
一度コレでタイピングとか裁縫とか試してみたんだが、どうにも上手くいかなかった。
ボディの操作と声の発声が別の対象になっているのもいただけない。 ボディを操作しつつ、仮面から声を出す同時操作。 ユイロとして動いていたらそっちもやりながら、だ。
トリプルタスク。 なんの問題もなくこなせるが、それはそれとして普通に疲れるし、わざわざこんなことするのも面倒。 便利さと快適さは常にイコールではないのだ。
とはいえ、ある程度おおざっぱに動ける戦闘とか、お使いくらいなら問題なくこなせる。 今回とかみたいに。
「えぇっと、それでエファイル・・・さん? アビドスにはどのようなご用件で・・・?」
「聞いた話なんだが、ユイロが仮面を失くしたらしくてな。 アイツは重度の“人見知り”で、仮面がない時は人に会いたくないっつーヤツなんだ。 で、そんなアイツに“頼まれて”仮面のGPSを追跡したら、ここに辿り着いたってワケだ」
そう言いながら、首を回してホシノの方を向けさせる。
「そーゆうワケでだ、それを返して欲しい」
「う~ん、エファイルさん・・・だっけ? おじさんが直接返すのじゃダメなの?」
「ダメだ。 アイツは仮面無しだと借りてきた猫みたいになっちまう。 今もMemento moriの物置に引きこもっててな」
「「「「「「えぇ・・・?」」」」」」
エファイルの言葉に、対策委員会の全員が怪訝な表情を浮かべた。
俺としては、直接返すというのは断固拒否しなくてはならない。 だってそれが本体なんだもん。
《・・・ユイロ、いくらなんでもその設定は無理があると思います》
(うるさい。 他にいい理由が思い付かなかったのよ)
「・・・あのユイロさんが? まだ数日しか関わってないけど、全然そんな風には見えなかったわよ?」
「ん、少し怪しいけど、強いし頼りになるし、冗談とかも言う面白い人。 ・・・引きこもる姿が想像できない」
「というか、申し訳ないんだけどさ。 その見た目と胡散臭い口調でいきなりそんなこと言われても怪しいというか・・・」
・・・まぁ、そうだよな。 こんな怪しさ満点のヤツがいきなりライの手がかりを寄越せだなんて言ったらそうなるよな。
薄々こうなるとわかってはいた。 俺としても結構苦肉の策なんだ。
なにせ、昨日の感じからして今のホシノは“ユイロ”から“ライ”の手がかりを探してる。 ホシノは俺が黒服に連れていかれたのも知っているし、帰れなくなったのに黒服が関与していると確信しているだろう。
そんな中、Memento moriの関係者を名乗る骸骨が来たら、俺ならまず黒服と繋がりのある存在だと疑う。
続いて、Memento moriとエファイルの“顧問”という繋がりを辿って、ユイロはエファイルを通じてライと知り合ったのではないかと推測するだろう。
まぁ実際には全員が同一人物なんだが。
「こちらとしちゃ、信じてくれとしか言いようがないな。 事実として、ユイロはここに来てないだろ?」
「・・・断る、って言ったら?」
「その時は・・・こうだ」
その言葉と共に杖を構え、前傾姿勢を取る。 ホシノが武力行使かと身構えたのも束の間、エファイルの身体はそのまま額が地に落ち、たちまち土下座の体勢になった。
「「「「「「・・・・・・・・・・えぇ・・・?」」」」」」
本日三度目のガチ困惑。
こうするしかないんだから仕方ないだろ。 今のエファイルじゃ勝てないというのもあるし、大事なホシノに手なんて出したくない。
エファイルの中身はケセド君が作ったオートマタから鹵獲したジャンクパーツを組み合わせて作った機械人形だ。 要は鉄屑を寄せ集めたスクラップだな。
ツギハギだから耐久力は弱く、マトモに戦えるようなシロモノじゃない。
["みんなおはよう───って、どういう状況?"]
そんなことをしていたら、遂に先生まで来てしまった。 どうやって収拾つければいいんだコレ。
「えぇっとね───」
["・・・なるほど、状況はわかった"]
どうしたものかとフリーズしていた俺たちを他所に、代表してユメ先輩が事の顛末を先生に伝えた。
["エファイル、貴方がMemento moriの顧問兼経営アドバイザーであると証明できるものはある?"]
「あるぞ。 まず、これが名刺だ」
そう言いつつ、コートから名刺を取り出す。 そこには確かに、エファイルの名と“Memento mori顧問” “Memento mori経営アドバイザー”の肩書きが書かれていた。
「次に、Memento moriの生徒の連絡先だ。 と言っても、お前達はユイロしか知らないだろうが」
ぎこちない手つきでスマホを操作し、即行で下にスクロールして連絡先を見せる。 先生達が見たことのない名が幾つか連なっており、一番下には夜美月ユイロの名が記されていた。
ちなみに上側は絶対に見せない。 そっちには黒服やマエストロ、ゴルゴンダ達の連絡先があるからだ。
エファイルとして連絡する相手はゲマトリア側の方が多いため、使いやすいよう読み仮名をわざと無茶苦茶にして上側にソートしておいたのだが、思わぬところでプラスに働いた。
「最後に、Memento moriを背景に撮ったユイロとのツーショだ。 これでも証拠にならないって言われたら、オレは何を提示すりゃいいんだと質問を返すことになる」
スマホのアルバムを開き、目当ての写真を探して表示する。
Memento moriと書かれた店の前に、直立状態のエファイルと指ハートを作りウィンクをしているお茶目なユイロの姿が・・・って、俺この時こんなポーズしたっけか?
ホシノとユメ先輩と後輩達にこの姿を見られるのはちょっと恥ずかしいかも。 唐突な公開処刑。
["いや、十分だよ。 ありがとう"]
「そりゃあ何よりだ。 んじゃ、潔白も証明できたところでユイロの仮面を返してくれ」
「・・・・・・うへ、仕方ないな~。 はい、これ。 ユイロちゃんによろしくね~」
本ッッッッ当に渋々といった様子で、ホシノはエファイルに仮面を渡した。
「サンキュな、この恩は必ず仇で返すから楽しみにしてろよ~」
「ふつーにやめてね?」
["・・・それにしてもエファイル、ユイロが物置に引きこもるなんて想像つかないんだけど"]
「ま、言いたいことはわかる。 アイツはそういうキャラに見えないって言いたいんだろ?」
そう尋ねると、先生は首肯した。
「確かに、こんな降って湧いたような設定を唐突に言われりゃ、困惑するのは無理もない」
実際、これはでっち上げに嘘っぱちの設定だから、降って湧いたのが間違いじゃないってのが困る。
だってどう考えてもユイロのキャラじゃないもん引きこもりとか。
「しかし、本当にそうでしょうか? お前が先生だっつーなら、それも生徒の“個性”として尊重してやるべきじゃないか?」
["・・・なるほど"]
「誰もが人には言えない素顔を持っている。 世界ってのは、それを隠すための“仮面”や、それぞれが演じる“役”によって織り成される、群像劇みたいなモンだ」
そう言いながら、ホシノの方を見やる。 ホシノは、喪失の傷痕を抱えながらもそれを表に出さずに“みんなの先輩”を演じ続けれる強い人間だ。
・・・いや、もしかしたらホシノだけではないかもしれないな。
その傷痕は、きっとユメ先輩にもあるはずだ。 本当に、こんなにも優しい二人にそんなものを遺してしまったことが愚かしくて仕方ない。
「・・・っと、少し難しい話になっちまったな。 とにかく、人には案外、思いもよらない一面があったりするんだぜ」
いずれにせよ、目的は果たした。
さっさと撤収して、どこかでユイロを解放しなければ。
「じゃ、俺はこれにて失礼するぜ。 突然押しかけてすまなかったな」
「・・・待って!」
踵を返して引き上げようとすると、後ろからユメ先輩に呼び止められた。
「・・・何か用か?」
足を止めて訊ねれば、ユメ先輩は何やらなんと言おうか悩んでいるような様子を見せた。
恐らく、呼び止めたのも反射的なものだったのかもしれない。
「・・・えっと、エファイルさん。 その、今から訊くことは、少し不思議な内容で、自分でもなんで訊こうと思ったのかよくわかってないんだけど・・・・・・」
随分と予防線を張るな。 そんなにかしこまって、何を訊くというのだろう。
純粋な疑問と少しの好奇心から、体の動きを止め次の言葉を待つ。
「私たち、どこかで会ったことがある?」
「・・・・・・」
驚いた。 まさかそんな質問をされるとは。
動揺を悟られないよう、咄嗟に操作を切って無反応にする。
あるかないかで言えばある以外の答えなどない。 ・・・だが、それはまだ俺がエファイルになる前の話だ。
当然、あの日から俺はアビドスの生徒に会ったことなどないし、会わないよう細心の注意を払っていた。
となれば、おそらく直感的にエファイルから“ライ”に近しい雰囲気を感じ取ったのだろう。
・・・いや、なんで?
「・・・ないだろ。 そもそも、こんな見た目の不審者と会ったことがあるんなら、きっと鮮明に記憶しているはずだ」
「・・・うん、そうだよね。 ごめんなさい、なんだか貴方を見てたら、昔の後輩を思い出して・・・・・・」
本当に何で??? おかしいだろだって。
いや、確かに深月の仮面に登録されている投影は在りし日の虚月ライだけどさ、骸骨の仮面に異なる声にガラクタボディだぞ?
おまけにラジコンライクな遠隔操作だから、指定の動きしかできない。 つまり、動きのクセとかもほとんど発生しない。
口調だって掴み所のない飄々とした喋り方だ。
俺がこんな見た目と声と口調のヤツを見かけたら、たとえ知り合いだと思っても絶対に距離を取る。
・・・なんでそんなヤバそうな奴にそんな質問を投げられるの? ホシノが警戒心とユメ先輩を守らなきゃって意識でめちゃくちゃこっちに殺意を向けてきてるんだけど。
え、怖っわ。
「・・・その後輩とやらのことをオレは知らないが、もし何か感じたのなら、恐らく錯覚か何かだろう。 ・・・そうだ、先生、帰る前に一つ」
これ以上話すとボロが出るかもしれないという危機感から、先生に話のターゲットを変えて話題を逸らす。
「・・・Memento moriの顧問として、シャーレの顧問であるお前とは良好な関係を築きたいと考えている。 シャーレの手伝いを引き受けたユイロが、双方のよき架け橋となってくれるだろう」
これは未来への布石だ。
いつか“ゲマトリア”としてシャーレと対立することは確定している、こう言っておけば後々のヘイトも上昇するだろう。
そも、先生だって常に全ての生徒の味方であることはできない。 俺もそうだが。
Memento moriは、俺は、その廻り合わせにおいて先生と対立することになる生徒の味方でありたいのだ。
その時、背後に“エファイル”という存在がいれば、ソイツが唆したということにできるからな。
["・・・うん、そうだね。 大人として、これからよろしく、エファイル"]
そう言って微笑み、先生はエファイルに手を差し出す。 少しどうしようか考えた後、体温のない手でその手を握り返した。
「・・・ふぅ。 さて、回収完了だな」
アビドスの校舎を後にし、周囲に誰もいない場所で少し一息。
いや、長かった。 主に精神的に。
『・・・ひとまず、ご無事で何よりです。 エファイル』
「あぁ、助かった。 ・・・悪かったな、ド深夜に救難を送って」
『構いませんよ。 貴方が仮面から直接連絡するのはよっぽどの非常事態ですから。 ・・・もっとも、まさか内容が“ラボの人形に仮面を着けてから外に出して欲しい”だとは思ってもいませんでしたが』
"肩透かしを食らった気分です・・・"と続けて言う黒服に、内心で苦笑する。
「仕方ねぇだろ。 本体の仮面がホシノに拾われた以上、自力での脱出は不可能だ。 お前が直接会って回収するのは“契約”に反するしな」
『・・・はぁ、貴方のラボに入るのは結構苦労するんですよ。 しかも、入った後に重い金属の人形抱えて外に出るだなんて苦行です苦行。 私は貴方と違ってキヴォトス人じゃないんですよ?』
「・・・マジでごめん。 じゃあオレのカラダはラボの入口に置いておくから、中に仕舞っておいてくれ」
『今苦行って言ったはずなんですけど???。 ・・・この貸しは高くつきますからね』
そう言って通信が切られた。 支払いは後払いでいいと言われていたが、今回は何を要求されることやら・・・。
まぁ、“観測録”の内容はまだまだ長くあるから別にいいが。
さて、とりあえずユイロを解放しよう。 いい加減エファイルの転送映像を見続けるのも疲れてきた。
「・・・よいしょっと。 やっと出れた、このポンコツロボの操作性、もうちょいどうにかならないものかしらね」
無事に戻れたところで念のため深月の仮面を回収し、エファイルボディをオート操作にしてラボに向かって歩かせる。
まぁ、多分トラブルはないだろう。 ・・・仮面回収しちゃったから映像受信できないけど、最悪何かあったらまた作ればいいし。
「じゃ、アビドスに行きますか。 絶対エファイルのことをアレコレ聞かれそうだけど。 あとホシノからの尋問も待ってるし・・・」
あぁ、厭だ厭だ。 自分が蒔いた種だけど。
少し足取りが重くなるくらいは、まぁ許されるだろう。
そもそもでっち上げた設定的には今の俺はMemento moriの物置にいるのだし、すぐ戻ったら余計怪しまれそうだ。
ストックが尽きました、土日に気合いで仕上げます。 火曜に投稿されなかったら察してください。
□本編に一言
なんで仮面取り戻すだけでこんな尺取ってんの?