生命の冒涜者 作:アトランティスの観測者(自称)
Tips : 触覚
ユイロには触覚がない。 しかし、ユイロは何の問題もなく物に触れ、自在に操作している。
本人曰く、「例えばゲームでキャラクターを操作する時、自身のコマンドで好きに動かせるでしょう? それと同じよ」とのこと。
「・・・えーっと、ユイロさんも来ましたので、定例会議を始めます」
「遅れてごめんなさいね~♪」
(((((("・・・人見知りには到底見えないし、謝罪にまるで心がこもってない・・・・・・"))))))
なんだか周りから訝しげな視線を感じる。 何故だろう。
「・・・コホン、では早速議題に入ります。 今回は、私たちにとって非常に重要な問題。 “学校の負債をどう返済するか”について、具体的な方法を議論します。 ご意見のある方は、挙手をお願いします!」
「はい! はい!」
「はい、三年の梔子委員長、お願いします」
「・・・ねぇアヤネちゃん、名字で呼ぶのやめない? ぎこちないんだけど」
「せ、セリカちゃん・・・でも、せっかく会議だし・・・」
「いいじゃーん、おカタ~い感じで。 それに今日は、先生にユイロちゃんもいるんだし」
「そうそう。 ホシノの言う通り、雰囲気を楽しむのは大事なことよ。 ・・・ほら、それよりもアナタ達の先輩が、早く発言したくてウズウズしてるみたいよ?」
チラリとユメ先輩の方を見れば、目をキラキラさせて前のめりになっている。
何故だろうな、何を提案するのか簡単に予想がついてしまう。 多分却下サレルンダロウナー。
「では、改めて梔子委員長、お願いします」
「はい! 皆で宝探し!!」
知 っ て た 。
まぁ、うん。 昔っからよくやってたもんな。 問題があるとしたら、この広大なアビドスでそんなもの早々見つからないってことだ。
言ってしまえば、あまりにも成功率が低すぎる。 だから“宝”探しなんだが。 宝くじが当たらないのと同じだな。
俺はやらんぞ、そんな成果の見込めないようなこと。 無駄に時間取られるし疲れ・・・はしないか、もう。
ユメ先輩の案は不確実であることを指摘され、やんわりと却下された。
その後も会議は続いたものの、ホシノが提案したのは他校のバスジャック。 シロコちゃんは銀行強盗。
・・・セリカちゃん? あぁ、あの子なら俺が初日にゲルマニウムブレスレットが詐欺商品だって現実を突きつけちゃったから、他の案がないんじゃないか?
「・・・はい、じゃあワタシが。 部外者の発案で恐縮だけれど」
「はい。 では、Memento moriの夜美月さん。 不確実な方法と犯罪は抜きでお願いします・・・」
「宝探しよりも確実、かつ銀行強盗よりも高額の報酬を合法に獲られる方法があるの。 アナタ達、カイザーコーポレーションの名前は聞いたことあるかしら?」
「・・・えぇ、よく知ってるわ。 なにせ、私たちが負債を抱えている相手が、そのカイザーコーポレーションの傘下にあるカイザーローンだもの」
そう語るは、対策委員会の会計担当セリカちゃん。
「アイツらのせいで、我が校の財政状況は破産寸前としか言いようがないわ! 毎月の利息だけでも788万円! 私たちも頑張って稼いでいるけど、利息の返済も追いつかない」
「わー・・・。 かなり鬱憤が溜まってるみたいね。 ま、知ってるなら話は早いわ。 なに、とっても簡単なことよ。 ワタシをカイザーに突き出して、懸賞金を受け取りなさい」
「懸賞金って・・・、指名手配犯を捕まえるくらい私たちもしてるわよ? そんな数十万から数百万くらいじゃ、利息の足しくらいにしか「3億7000万」・・・え?」
「聞こえなかったかしら? 3億7000万。 それが、カイザーコーポレーションがワタシの首に懸けた懸賞金よ」
「ん、3億円確保」
賞金を言った途端、シロコちゃんにがっしりと肩を掴まれる。 判断が早くない?
「あー、捕まってしまったわ~。 じゃ、これワタシの手配書ね」
「うわ、ホントに3億7000万って書いてある・・・。 って、なんでアンタは自分の手配書持ってんのよ・・・」
「アナタ達が賞金を受け取ったら、ワタシは逃げる。 これを三回も繰り返せば、アビドスの借金を全部返しても1億くらいお釣りがくるわ。 Memento moriでの資金調達として、よく使ってる手法よ」
「ユイロ、早くカイザーに行こう。 善は急げ」
「それじゃ、サクッと稼いでくるわね~♪」
「いや待ちなさい! ストップ! ストップーッ!」
シロコちゃんに連れられ、いざカイザーへ行かんと意気込んだのも束の間、セリカちゃんに制止された。
「なによ~? とってもステキなアイデアじゃない」
「人身売買で得たお金なんか受け取れるか! 却下よ却下!」
「別に賞金首を突き出して得た懸賞金なら合法でしょう? アナタ達もよくやってるらしいじゃない」
「これはかなりグレーゾーンなのでは・・・? それに、協力者の方を突き出すのは、道徳に反するといいますか・・・」
「だいたい、何をやらかしたらそんな莫大な懸賞金を懸けられるのよ・・・」
「え~? カイザーの傘下の企業を襲撃したり、アイツらのプロジェクトを壊滅させたり、他にも色々と」
「それで3億も・・・? どんだけ派手に暴れたらそうなるワケ? というか、そんなになるまでやるって、何がアンタをそこまで駆り立てるのよ・・・」
その話をするのは議題から逸れるので、「この会議の後にでも話すわね」と流して次の人に回す。
それにしても、ちゃんとストップがかかってよかった。 セリカちゃんなら止めてくれるだろうと思っていたが、万が一通ってたら大問題だ。
ハナっから本気でやるつもりなんてない。 なぜならこれは、アビドスの生徒が稼いだ金じゃないからだ。
・・・いや、名目上はちゃんとアビドスの生徒が指名手配犯を捕まえた懸賞金なんだが、そういうことではなく。
上手く言葉にするのが難しいが、ここはアビドスであってMemento moriではない。
Memento moriはカイザーに好き放題やってるし、アイツらを利用するのもその一部だが、それはアビドスではなくMemento moriの稼ぎ方。 それは本当にアビドスの皆が稼いだ金と言えるのか?ってこと。
「あのー! はい! 次は私が!」
「はい・・・二年の十六夜ノノミさん。不確実な方法と、犯罪と、道徳に反する方法はナシでお願いします・・・・・・」
「はい! 犯罪ではなく道徳にも反さない、とってもクリーンかつ確実な方法があります!」
その随分と自信がありそうな前置きに、たわけたアイディアをずっと聞かされてた一年生組の表情に期待の色が見えた。
「アイドルです! スクールアイドル!」
「ア、アイドル・・・!?」
「そうです! アニメで観たんですけど、学校を復興する定番の方法はアイドルです! 私たち全員がアイドルとしてデビューすれば「「却下」」・・・あら」
ノノミのアイドル案は、俺とホシノの二人によってノータイムで却下された。
一応言っておくと、俺は案自体は結構アリだと思っている。
「・・・これも駄目なんですか?」
「なんで? ホシノ先輩なら、特定のマニアに大ウケしそうなのに」
「うへー、こんな貧相な体が好きとか言っちゃう輩なんて、人間としてダメっしょー。 ないわー、ないない」
やめてくれホシノ、その言葉は俺に効く。 いやそんなことないか。 そういや俺もう人間じゃないんだったわハッハッハッ。
《なんでこの人はすぐブラックジョークを言うんですか・・・》
というかホシノ、お前は自分が愛されている自覚を持て。 ほらお前のすぐ近くにいるユメ先輩が、"私はホシノちゃんの体、小さくて可愛いと思うけどな~"って顔してるぞ。
《・・・そうですね、ユイロとかめちゃくちゃ惚れ込んでますもんね。 昨晩“誰よりも大切な女”とか言ってましたし》
(あら、もしかして妬いてるの? 可愛いわね~♪ 心配しなくとも、今のワタシが何も気を張らずに過ごせる相手はアナタだけよ?)
《・・・“一番大切”とは言ってくれないのですね》
(・・・それを揺るがせたら、きっとワタシの“役者”の輪郭がぼやけちゃうからね。 もしワタシから“
それは揺るがせてはいけない、絶対に越えてはいけないラインだ。
虚月ライにとって一番大切なのは、故郷で共に過ごした者との記憶。 つまり、小鳥遊ホシノと梔子ユメである。
虚月ライを殺し、アイツの過去を踏みつけ未来を奪った俺は、自己を消してはいけないんだ。
咎と後悔、未練と罪悪、忘れることなんて赦されない。
だから俺は、誰よりも二人の幸福を追求しなければならない。
そこに俺の存在が必要だということはわかってる。 俺だって諦めたくない。 けど、俺がいなければ幸せになれない、なんてことはないハズだ。
・・・ならいっそのこと、その未練を晴らしてやることができれば・・・・・・。
ケイは、俺の好きにしていいと肯定してくれた。 俺自身の自己定義は大層なモノだが、それは虚月ライの感情と夜美月ユイロの行動を抑制する理由にはならない。
それに気付けたのは、俺が自分の意思を抑えなくてもいいと教えてくれたのは、全部ケイのおかげってことで・・・・・・あれ?
(・・・あぁ、そっか)
《・・・ユイロ?》
そうだ、俺にはケイがいる。
過去は消えない、罪には罰を与えなければならない。
その罪に相応しい罰で過去を清算しても、俺は独りになるわけじゃないんだ。
(なら・・・ふふ。 夜美月ユイロ役の言葉でよければ、言うこともできるわよ。 今は・・・ね)
《別にいいです。 私が求めているのは、役者とか役とか関係ない、一人の人間としての貴方の言葉なので。 それに・・・・・・》
そこで一度区切ると、ケイは俺の視界の中からホシノ達を見た。
《貴方の愛する彼女たちを幸せにできない貴方が、私を幸せにできるとは思えませんから》
これはまた、手厳しい言葉だな・・・。 相変わらず、俺の問題点を容赦なく突いてくる。
・・・そもそも、俺が自分の未来を認めてない以上“そういった相手”を作ることはないんだがな。
ただ、少なくともケイは、それをわかった上で言ってるんだから恐ろしい。
昨日の一件で思ったが、どうにもホシノとケイの二人は俺の自己定義を揺るがしてくる存在のようだ。
だというのに、何故だか悪い気はしない。
「・・・ちなみに、ユイロさんはなんで却下したんですか?」
「もしこの案が通って成功したら、世間にホシノの可愛さが広まっちゃうじゃな
「「「「・・・・・・えっ?」」」」
「こんな可愛いのが世間にバレたら、報道陣や厄介なファンが押しかけてきて、皆が危ない目に遭っちゃうわよ? そんなリスクのある方法、私は賛成できないわね」
・・・おっとマズい、つい建前より先に本音が出てしまった。
「・・・うんうん、そうだよねっ! ホシノちゃんは可愛いよ、ユイロちゃんはよくわかってる!」
顔を赤くするホシノ、見事に固まる後輩達、前のめりになって目を輝かせるユメ先輩。
新しい波乱が生まれる予感がする。
「だいたい、ホシノちゃんは自分が可愛いことを自覚しないんだよ。 昔っからずっと可愛いって言ってるのに・・・」
「えー・・・? アナタ、こんなにも愛されててさっきの発言をしたの? いい、ホシノ。 アナタは少しくらい自分が可愛くて愛されていることを自覚なさい」
「・・・ユメ先輩はいつものことだからともかく、ユイロさんはなんでこんなホシノ先輩に肯定的なの?」
「ん、ユイロはホシノ先輩にぞっこん。 多分一目惚れってやつ」
「ま、まるで運命の出会いですね・・・!」
おいそこ、聞こえてるぞ。
まぁ、ホシノがちゃんと愛されてるんだって自覚させるいい機会だ。 折角だしユメ先輩と一緒にいっぱい褒めよう。
「ホシノちゃんはね~、こんなのほほんとしてるけど毎晩アビドスのパトロールをしたり、しっかりしてる子なんだ~。 私も数えきれないくらい助けられてきたの」
「ふふっ、故郷想いのいい後輩じゃない」
「そうなの! そんなしっかり者のホシノちゃんだけど、お昼寝してる時の寝顔とかすっごい可愛いんだよ~! ほら、これ!」
「あら~、なにこの可愛い生き物!」
実を言うと、俺はホシノの寝顔を見たことがない。
昔はお昼寝なんてするようなキャラじゃなかったからな。 それはどっちかというと俺の方だった。
一度くらい生で見たいものだが、写真でもわかるこの可愛さ。 一体実物はどれだけ可愛いのだろう。
「ホシノちゃん、さっきは貧相な体って言ってたけど、私は小さくて可愛いと思うんだよね。 ユイロちゃんはどう思う?」
「なんていうか、つい撫でたり抱き締めたくなるわよね。 ぎゅってしてよしよしって」
「そうそう! いつもありがとうって、い~っぱい労ってあげたくなるの!」
このユメ先輩の発言に対し、ホシノは顔を赤くして俯いた。 かなり照れてるみたいだし、これは割と日常的に行われている可能性高いな。 ・・・なんと羨ましい。
《・・・それ、どっちに対してですか?》
(どっちも)
《そうですか・・・》
「戦ってる様子を後ろから見てたけど、あの大きな背中は頼りがいがあるわね。 あんなに見ていて安心できるヒト、そうそういないわよ?」
「だよねだよねっ! ホシノちゃん、一見しててきとーに戦ってるみたいだけど、ちゃんと相手の配置とか、攻め方とかをちゃんと考えて的確に行動してるんだよ!」
ああ、よく見えてた。 スペック差のゴリ押しで雑に戦ってるように見えるが、どの順で相手取れば優位に立てるかをしっかり筋道立てて進んでいた。
「・・・こうして見ると、ホシノって優しい目をしてるわよね」
「わかる! ホシノちゃん、昔は目付きが鋭くてカッコよかったんだけど、今の優しい目付きも可愛くていいんだよね!」
とっても共感。 今と昔で可愛さの方向性が違うんだよな。 昔は周りを警戒しつつ、信頼する身内にだけ見せる子犬のようなはしゃぎかたが可愛かった。
今は大事な先輩と後輩を支え、守るために頑張っているが、普段はそれを表に出さずにゆる~く振る舞っている姿がとても可愛らしい。
どっちが好きかと聞かれればどっちも。
「アナタに似たんじゃない? すぐ側にこんな優しい先輩がいるんだもの」
「そうかなぁ・・・? ホシノちゃんは昔からずっと優しい良い子だよ?」
「わー! わー! 二人ともおじさんをからかって楽しいかー!!」
「「え、本音だけど?」」
「お、お二人とも! ホシノ先輩が困ってますのでその辺にしておいていただけると・・・!」
アヤネからのストップが入ったので、ユメ先輩共々渋々引き下がる。
・・・止められなかったらまだまだ話してたんだろうな。
「・・・コホン。 ま、何はともあれ。 これでひとまずある程度の案は出てきたワケだけれど・・・」
「・・・そ、そこは先生に任せちゃおう~! 先生、これまでの意見で、やるならどれがいい?」
正直、何一つとしてマトモな案がないだろとは客観視思うが、問われた先生は今までの案を咀嚼して考え始めた。
アヤネちゃんが制止しようとしているが、残念ながら手遅れである。
「まさかアイドルをやれなんて言わないよね?」
「アイドルで☆ お願いします♤」
「宝探しなら探す過程も楽しめるし、見つけた時の達成感はスゴいよ!」
「ん、やっぱり銀行強盗を・・・」
「縄で腕を縛って~っと。 あ、もしもしカイザーコーポ? おたくが指名手配してるMemento moriの店長を捕まえたから、懸賞金の用意をお願いするわね~♪」
先生が考えてるのを見て、各々が自分の案を通して貰おうとアピールをする。
ちょっと自由すぎないかコイツら。
《その筆頭は悪ふざけで腕を縛ってるユイロですよ? どの口が言ってるんですか》
(あら、失礼ねぇ。 スコップ片手に意気込んでるユメ先輩と、既に覆面を被ってるシロコちゃんを見ても同じことが言えるかしら?)
《言えますけど》
(うん、確かにそうね)
そして、先生が意を決して口を開いた。
["・・・よし、ユイロをカイザーに売り飛ばそう!"]
えっ、マジで?
まぁ別にいいか。 俺にデメリットないし、なんなら他の“多少手荒な手段”と比べてリスクもない。
それに、なんだかんだ俺もホシノも悪ふざけなのは自覚してるし、先生だってそのくらい認識してるだろう。
俺たちは真面目とおふざけを区別できるタイプだ。
大丈夫大丈夫、アヤネちゃんかセリカちゃんが止めてくれるよきっと。
「えぇっ!? 本気ですか!?」
["聞いてる限り、確実かつローリスクでハイリターンだから。 この中だったらコレかなって"]
「あははは~! よし、決まりー! それじゃあ出発だー!」
「ヒドイワセンセー、シンジテタノニー」
「そんなこと言って~。 自分で腕縛って通報までしてたし、一番乗り気なのはユイロちゃんじゃ~ん?」
「計画は大胆なほどいい。 でしょ、アヤネ?」
「・・・い・・・・・・」
「「・・・い?」」
「いいワケないじゃないですかぁ!!」
あ、キレた。
すっごい綺麗なちゃぶ台返しを決めたアヤネちゃんは、そのままアビドスの面々へのお説教を始める。
そのまま場を治めるべき大人でありながら俺を売り飛ばそうとした先生に飛び火し、全員揃ってめちゃくちゃ説教されていた。
「他人事のように思ってそうですけどユイロさんもですよ! システムを悪用するような方法を資金調達として提案しないでください!!」
なんかこっちにも来た。 俺はただ用意されたものを有効活用しているだけなのに。 解せぬ。
「いやぁ~、悪かったってばアヤネちゃーん。 ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ね?」
「・・・怒ってません」
あの後、お怒りのアヤネの機嫌を直してもらおうと一行は柴関ラーメンを訪れていた。
とりあえずこの卓の会計はホシノが持ってくれるらしい。 昨日なぜか口座から500万円が消えたせいで財布がすっからかんだったから、とってもとってもありがたい。
ちらりと大将の方を見ると、"大変そうだなぁ"と思いつつも微笑ましくこちらを見守っている様子が伺える。
「そういえばユイロ、さっきは結局聞けなかったけど、なんで3億も懸賞金をかけられる程カイザーを攻撃してるの?」
「んー? そんな大した理由じゃないわよ? ただアイツらに故郷を奪われたから、その復讐をしてるだけ」
((((((・・・・・・想像以上に重かった・・・・・・))))))
「ワタシの故郷はアイツらに借金漬けにされて、先代の皆々様がそれをなんとかしようと足掻いてたけど、結局借金のカタに自治区を売っ払ってやがったのよね~」
「・・・なんだか、私たちの現状に似ていますね」
似ているというか、ここのことだからな。 俺はただ夜美月ユイロの過去として、アビドスの現状を語っているだけである。
何一つとして偽りはない。 嘘を吐くときのコツは、事実を混ぜて話すことだと太古の昔から言われている。
カイザーの毒牙にやられた学園の一つや二つくらい、アビドス以外にも探せばあるだろう。 アイツら悪どいし。
「・・・で、そうして行く宛がなくなったワタシを拾ってくれたのが、エファイル様・・・長いしエファ様でいっか、さっき仮面を回収に来たエファ様ってワケ。 この仮面は、エファ様がワタシのために作ってくれたモノで、ワタシの“故郷を失った過去”と“Memento moriの店長である現在”を区別するための境界として機能しているわ」
時系列としては、ライ→エファイル→ユイロ、という感じなので、“拾った”ではなく“造った”という表現が適切になる。
自分自身の別の顔を様付けして、さも敬っているかのように振る舞うのはなんだか複雑な気分だが、この設定にした方が俺にとって都合がいいのでな。
仮面が境界というのは、真でも偽でもない。
「Memento moriは、ワタシみたいな故郷がない生徒や、故郷で非道い扱いを受けた生徒の居場所となることを目的として創ったの。 ・・・って、食事中にするような話じゃなかったわね」
ふと周りを見れば、皆神妙な表情を浮かべていた。
冷静に考えて、こんな話を聞かされてもいい気分はしないよな。
そんなことを思っていると、不意に目の前に座っていたユメ先輩の手が、頭に伸ばされた。
「・・・ユイロちゃん、貴方はすごいよ。 故郷を失って、一人になっても、誰かの居場所になろうと頑張ってる」
そのまま「よしよし」と頭を撫でられる。
・・・触覚などとうに失くしたというのに、懐かしい感覚を覚えた。
ホント、昔っから変わらないな、ユメ先輩は。
「ユメせ・・・ユメ、そんな褒められるようなことじゃないわよ。 ・・・聞くところによると、今でも故郷には、カイザーの借金に抗うレジスタンスがいるらしいわ。 ワタシは故郷を見捨てた“裏切者”なの」
これは、決して美談などではない。 故郷を見捨てた薄情者が、善行じみたことをしてその事実を霞ませているだけに過ぎない。
Memento moriは間違いではないと思っているが、間違いでないから正しいという単純な話じゃないんだ。
・・・というか、なにげ今ユメ先輩と言いそうになったな。 気をつけないと。
ユイロのユメホシへの愛は本物。 その深い愛が相手にとっていい影響を与えるかは別のお話。