その名に宿るは嘘か未来か 作:アトランティスの観測者(自称)
ここに書くことがない
「・・・ここ最近のキヴォトスは随分と荒れてるわねー。 アンタもそう思わない?」
街を荒らしてる不良をリボルバーから放たれる弾丸一発で沈めながらそんなことを呟く。
近頃のキヴォトスは平時の倍以上に治安が悪化してる。 違法な武器や弾丸の売買、街での破壊行為、インフラの機能停止やらその他諸々。
そんな混沌の中、俺は日夜シャーレオフィスの防衛をボランティアで行ってるというワケだ。
・・・先生が来たらこの恩を盾に押し売りしようという打算で。
とは言え、俺はこの治安悪化の理由を知っている。 “連邦生徒会長の失踪”、表向きには公表されていないが、主が不在でサンクトゥムタワーは制御を失いどっちもこっちも大混乱。
黒服から聞いた情報だから間違いない。
そうなると後は“先生”がいつ来るかだが・・・ん?
「もしもし黒服? 珍しいわね、こっちの非常用の番号でかけて来るだなんて」
非常時に連絡できるようにという名目で黒服に渡された、ゲマトリア(ベアトリーチェを除く)メンバーとの連絡専用端末。
それに着信があったので左手で取り出し応答する。
『クックックッ、貴女が以前言っていた“先生”。 彼がキヴォトスに到着したようですので、一報をと』
「! それは良いことを聞いたわ! さすが情報が早いわね、ありが───」
「テメェ、戦闘中に電話とはずいぶん余裕だなぁ!」
「・・・あのねぇ、人が電話してるんだから邪魔しないでくれる?」
折角朗報を聞けたのに水を差されたので腹いせに強めの弾をぶっ放す。
「───“増幅・半月”」
“増幅・半月”、リボルバー及びハンドキャノンに搭載された専用の神秘チャージ機構によりチャージされた神秘の半分を消費して弾の威力を増幅させる。
弾丸を3発撃つことで100%までチャージされ、増幅は任意で行える。 あと、1分間神秘を込め続けることでもフルチャージが可能。
最大までチャージしないと増幅はできない。
増幅装置の方向性を調節し、今回は命中したら爆ぜるようにさせる。 貫通力に振り切ることもできる、状況で使い分けられるとっても優秀。
ゲーム的に言うなら攻撃属性を爆発と貫通で自由に使い分けられる。 便利。
・・・ところで、俺の神秘はキヴォトスでもかなり上澄みの方らしく、そこらのスケバンやらヘルメット団やらの不良はもちろん、風紀委員やら正実やらのモブちゃん程度なら一撃で
そんな俺が威力を増幅させた弾丸を放ったらどうなるか・・・、答えは簡単、それはもう可哀想なくらいにオーバーキルしちゃう。
「「「「「ッ!?」」」」」
「ヒュウ、ざまぁないわね。 10人くらい吹っ飛んだかしら? 人の邪魔するからそうなるのよ♪」
『・・・楽しそうで何よりです。 私からの用件はそれだけですので、また』
「えぇ、またねー」
そう言って電話を切ると一度リロードを挟み、再びリボルバーを構えて殲滅に戻る。
「つ、強すぎる・・・! おい! アレ持ってこい!」
「・・・アレ?」
俺がそう呟くと、答え合わせと言わんばかりに奥から戦車に乗った不良生徒がやってくる。
「・・・あらあら、その戦車を用意するのは苦労したでしょうに。 さすがにつらいわねぇ・・・」
「撃てぇッ!!!」
その叫びと共に正面から砲弾が浴びせられる。
辺りは硝煙や瓦礫で覆われ、俺の姿は相手から視認されてないだろう。
「・・・やったか?」
「それフラグにしか聞こえなグェッ!?」
煙の中から気配を頼りにし、無作為に一発放つ。
「・・・あぁ、つらいつらい。 とても心苦しいわー。 今からその苦労して用意した戦車を、スクラップにされるんだもの」
「ありえない・・・! 無傷だなんて・・・」
「それじゃ、コレは頑張って戦車を調達したアンタらへのご褒美よ。 “増幅・新月”!」
マグナムに残った50%の神秘を貫通力に寄せて乗せた弾丸を戦車に向けて発砲する。 弾丸は一切のブレなく機関部を貫き、燃料に引火して他の戦車を巻き込み大爆発を起こす。
「あーあ、可哀想に。 相手が悪かったわねー、アンタ達が対峙してるのは、正義実現委員会のトップやゲヘナの風紀委員長に並びかけれる実力の持ち主よ?(嘘)」
「「「・・・は?」」」
目の前の不良共は一斉にすっとんきょうな声を上げると、顔を見合せ動きを止める。 皆一様に"いやそんなわけ・・・"とか"どうりで勝てる未来が見えないわけだ・・・"とか呟いてる。
このまま撤退してくれれば・・・ん?
「あらあら、この者達が気を引いている間に内部に侵入し、連邦生徒会が大切にしてる物を破壊しようと考えていたのですが・・・。 あなたの目を掻い潜っての侵入は難しそうですね。 私、狐坂ワカモがお相手いたしましょう」
・・・面倒なのが来た。 狐坂ワカモ、七囚人と呼ばれる脱獄者の一人。
あーいや、まだ七囚人の通り名はないんだっけ。 どちらにせよ面倒な相手なのは変わらないが。
「・・・脱走直後だってのに、随分とアクティブなのねー。 よっぽど檻の中は退屈だったと見たわ」
「えぇ、それはもう。 ですので、その鬱憤をあなたで晴らさせていただこうかと」
「ま、ターゲットがワタシなら別にいっか。 この中には入れさせないわ、せいぜい楽しませてよね」
「楽しめるかどうかは、あなたの実力次第ですよ。 始めましょうか」
その宣言を切っ掛けに、戦いが始まる。 先手を取ったのはワカモ、正確無比なSRでの六連射をこちらに撃ち込んでくる。
その弾丸を右に大きく跳びながら回避し、お返しと言わんばかりにマグナムに残った弾を三発連射する。
ワカモはそれを回避しながらリロードを行い、ビルの壁を使って跳躍すると再び連射を放ってくる。
回避に大きく動くのも面倒なので左手で腰から特殊警棒を引き抜き、最小限の動きで回避しつつ命中する弾丸を叩き落とす。
「・・・ほう」
警棒捌きに驚嘆し一瞬動きが鈍くなった隙を逃さず、溜めた神秘の100%を使ってチャージショット。
「“増幅・新月”っと」
禍々しい銃声が鳴り響き、本能で危険を察知したであろうワカモは大きく後方上空に飛び上がって回避。
その間にリロードを済ませ、再び三連射からの“半月”、“新月”と繋げる。
「ッ、厄介ですね、その銃!」
ワカモはチャージされた弾丸を紙一重で回避すると、その言葉と共に距離を詰め銃剣から短刀を取り外し斬撃。
再び特殊警棒を引き抜いて応戦し、辺りには金属の鍔迫り合う音が木霊する。
「あら、刃物で斬りかかってくるだなんて、随分と野蛮だこと」
「その銃、自身を巻き込む距離では使えないでしょう?」
「別に使えるわよー? 爆発力じゃなく貫通力に寄せればいいだけだもの。 ただ、あまり使いたくはないのよ。 いくらアンタでも無傷じゃ済まない威力だもの」
「そういうのは、やってみてから言うものですよ!」
短刀を振り払うことで鍔迫り合いの拮抗を崩され、隙だらけの胸元に零距離でライフルの銃口が向けられる。
「ハッ、それもそうねぇ! 後悔しても知らないわよー!!」
リボルバーを真上に放り投げ、抜刀のような動作でハンドキャノンを取り出し銃身でSRをパリィ。
サイトにワカモの額を捉え、そのまま神秘のチャージを解放する。
「“増幅・新月”ッ!!」
引き金を引くと、対物ライフル顔負けの禍々しい銃声が轟き一発の凶弾がワカモの仮面を破損させた。
「うぐっ、これは・・・効きますね・・・・・・ッ!」
「そりゃあそうよ、ケセド君の作ったゴリアテを一撃で屠った実績のあるとっておきだもの。 よく耐えれたわね。 ・・・それで、まだやるつもり?」
「・・・当然、です・・・! このまま引き下がる、つもりは、ありません」
「意識を保つのもだいぶしんどいでしょうに、頑張るわねぇ。 仕方ないか、第二ラウンドと行きましょ───ん?」
「な、なんなのよこれ・・・」
「破壊されたクルセイダー1型、恐慌状態の不良に騒動の中心生徒と対峙する謎の生徒・・・」
["えっと・・・どういう状況?"]
・・・シャーレオフィスの目の前、この周辺でもっとも苛烈な戦場のど真ん中に、先生とチュートリアル組が来た。
大事なところをもう一度言おう。 先生が来た。
あ、ワカモが先生を見て硬直してる。 ・・・オちたな。
「・・・・・・し」
["・・・し?"]
「失礼いたしました~~~!!!」
ワカモはそう叫びながらこの場から逃げ去って行った。
いや待てどこにその体力残してやがった???
「あ、待ちなさい! 追いかけるわよ!」
「いえ、我々の目的はあくまでもシャーレの奪還。 追うのは得策ではありません」
「えぇ、その通り、冷静で助かるわ。 ・・・アナタが先生ね? 待ってたわよ」
["うん、そうだけど・・・。 待ってたって?"]
「色々言いたいことはあるけれど、まずはチュートリアルお疲れ様。 ワタシは夜美月ユイロ。 ミレニアムの外郭で質屋兼便利屋のMemento moriって店を営んでる───」
そこまで言ったところで先生と共にこの場に訪れたトリニティとゲヘナの治安維持部隊のメンバーに一斉に銃を向けられる。
「Memento mori・・・トリニティで要警戒対象とされている店ですね。 価値のある物を担保とすれば相手の望む恩恵を与えるという」
["いいことじゃない?"]
「やり方が悪質なんです。 腕は確かな一方、愛用してた銃や家宝、全財産などを対価に要求されたという話が後を絶ちません。 噂では裏組織との繋がりまであるとか」
「ゲヘナでも同様の噂が広がっています。 キヴォトスのあちこちに出没しては、困っている生徒に押し売りを行っている迷惑極まりない危険人物だ、と」
「はぁ? 誰よそんな噂広めたの。 風評被害もいいとこだわ、営業妨害かしら」
実際のところを言うと、噂広めた犯人は俺なんだけどね☆ 困ってそうな人を見つける度に押し売りしてるってのも事実。
「ま、待ってください! 確かにユイロさんは飄々としてて胡散臭い上にそこかしこに出没するような怪しい人ですけど、悪い人じゃないんです! 実際、ミレニアムではMemento moriを頼りにする生徒だってたくさんいます」
そう声を上げたのは全ての先生の
相変わらず優しいことこの上ない助け船だが、今回はその優しさが少し困る。
「それはミレニアムでの話よ、ユウカ? そもそも、おかしいとは思わない? 先生がキヴォトスに来たのは今日、そしてキヴォトスに来たばかりの先生のことを連邦生徒会ではなくここで待っていただなんて、どこでそんな情報を仕入れたんでしょうね?」
「・・・なるほど。 あなたは先生を狙う何者かからの刺客、ということですね? 先生、指揮をお願いします。」
「先生、ユイロさんは単身で各校の治安維持組織を壊滅させる実力者です。 Memento moriとは過去に交戦したことがありますが、風紀委員に所属する生徒の多くがリボルバーの弾丸一発で戦闘不能に陥りました」
無事深読みしてくれたハスミとチナツが戦闘態勢に入り、それに倣うようにスズミも獲物を構える。
「あらら、ワタシはそんなこと一言も言ってないのだけれど。 悲しいわねー、えぇ、とってもとっても悲しいわー」
「え、ええっと・・・。 ユイロさん、もしかして会長に何か言われて来たんですか?」
「いいえ? リオは今回の件に一切の関与をしていないことを断言するわ。 そもそも、リオが先生の存在を知ったとして、それはどんなに早くともアナタと同じタイミングになるでしょうね」
「・・・なるほど。 前々からユイロさんの情報網は謎に包まれていますが、今回ので更に謎が深まりました・・・」
「・・・さて、ごめんなさいね、先生。 まだ戦闘チュートリアルは続くみたい。 ま、これは負けイベだから気軽にね。 大体のチュートリアルはさっきので終わってるはずだから、おさらいみたいなモノよ」
ワカモとの戦闘中、少し離れたところからハスミのSRが火を吹く音が聞こえた。 つまり向こうでも巡航戦車を一台スクラップにしたということ。
イコール属性のチュートリアルも済んでると見た。
ユウカはまだ戸惑っているものの、渋々ではあるが構えに入る。
それを見て、手早くリボルバーとハンドキャノンのリロードを行いホルスターに収納する。
「さ、どこからでもかかってきなさい。 返り討ちにしてあげる」
リボルバーをすぐ発砲できるように手を掛け、言葉と共に軽く微笑を浮かべる。
そうして先生の最初の負けイベが始まった。
戦闘が開始して一分、ユイロは先生の指揮能力に舌を巻いていた。
(・・・ここまでとは思ってなかったわねー、予想よりも手こずってるわ。 普段ならもう
安易なチャージショットはユウカのシールドで相殺され、ハスミの狙撃を防ぐか回避しようとするとスズミの閃光弾で妨害され、閃光弾を投擲の瞬間に撃ち抜こうとするとハスミやユウカの射撃で狙いを逸らされる。
リボルバーによる通常攻撃はチナツによりヒールされ、決め手に欠けている状況。
即席かつ面識もほとんどないメンバーでこれほど連携が取れ、こちらの動きに合わせて生徒を動かせる。
それはまごうことなく先生の手腕だろう。
(というか、この中だとスズミが一番厄介ね。 リボルバーの機動力にモノを言わせて多少強引に攻撃を通せてるけれど、スズミの戦闘技術が高くて決めきれない・・・! 流石、自警団としてトリニティをほぼ一人で走り回ってるだけのことはあるわ)
一方で、先生も先生で強い危機感を持っていた。 目の前にいる相手は先ほどまでの不良生徒とは“格”が違う。
攻撃が通ってる気配はなく、できるのはこちらへの攻撃の手を少し緩める程度。
ここまでで本気を出している気配が一切なく、いつでもこちらを壊滅させられるという“圧”が感じられる。
「相変わらずタフだこと、いい加減落ちてもらうわよ。 ごめんなさいね、ユウカ。 “増幅・半月”、“増幅・新月”。 ・・・“増幅・新月”」
ユイロは遮蔽物に隠れてリロードを行っていたユウカに対し二発の禍々しい銃声を響かせると、一発目で遮蔽を跡形もなく破壊し二発目でシールドを破砕。
刹那、リボルバーのとは異なる三発目の銃声が鳴り響きユウカが戦闘不能に陥った。
「「「["なっ・・・!?"]」」」
「さて、次は鬱陶しい長物使いね」
(ッ、速い・・・!?)
ユイロはマグナムのリロードを行いながらユウカの横を素通りし、瓦礫を縦横無尽に飛び回りながら地面や空へ適当に三発撃ちチャージを完了させる。
「ここまでお疲れ様♪ コイツはご褒美よッ!」
ハスミはユイロの自在な空中での体捌きに翻弄され、エイムを合わせる間もなく“増幅・新月”のヘッドショットを撃ち込まれダウンした。
(・・・で、問題は)
「もうアナタだけだけど、まだ戦うつもり?」
ユイロは華麗に着地すると、ハンドキャノンのリロードをしながらスズミと遮蔽を隔てて対峙する。
「・・・一つ、聞かせてください」
「えぇ、いいわよ」
互いにいつでも動けるよう構えつつ、真紅の瞳が交錯した。
「貴女は、本当に悪徳商人なのですか? その白と蒼の髪、青と紅の瞳、濃紺のコート。 自警団の活動中に不良生徒から聴いた、“不良を更正させ新しい道を示す通りすがり”の特徴と一致します」
「・・・人違いじゃないかしら? ワタシ、わざわざ不良やってる子を助けてあげるようないいヤツじゃないわよ」
「それに、ミレ
「顔馴染みなの、アナタだって急に知り合いと戦うってなったら戸惑うでしょう?」
「・・・それはおかしいですね。 もし貴女がミレニアム以外での噂通りの人物なら、ミレニアムの
そのもっともな指摘を受けても、ユイロは顔色一つ変えず・・・いや、心なしか苦い表情を浮かべているようだ。
「・・そりゃ、ミレニアムは活動拠点だからね。 ご近所付き合いくらいはいい顔しなきゃでしょ?」
「それこそあり得ません。 ミレニアムのセミナーともあろう者が、自分たちのお膝元で活動する組織の実態を調査しないはずが───ッ」
スズミが言葉を言い切る前に、弾丸が頬を掠める。 額目掛けて発射された弾丸を咄嗟に回避したことで、発言が強制的に中断された。
「残念だけど、お喋りはここまでよ」
「・・・その反応、図星と捉えてよろしいでしょうか」
「ふふっ、アナタってとっても賢いのね。 そんな賢いアナタに大切なことを教えてあげる。 世の中には知りすぎてはいけないことが存在するの。 それと、気付いても口に出してはいけないことも、ね」
「・・・なぜそうまでして“悪徳商人”の立ち位置をしようとするのか、理解に苦しみます。 」
「人には人の事情があるの。 アナタだって、アナタなりの事情があるから“正義実現委員会”ではなく、“自警団”をやってるのでしょう? ───“
「ぐっ・・・!」
ユイロはDoomsWingの“新月”を地面に転がる瓦礫に撃ち込んで爆発を引き起こし、瓦礫と爆風でスズミにダメージを与え砂煙で姿を眩ます。
「視界が・・・───」
「気付いた人間の口は封じておかないとなの。 悪いけれど、一旦身柄を確保させてもら───」
「───ッ、閃光弾!」
「・・・あら?」
ユイロがスズミの真後ろまで忍び寄った刹那、眩い光が視界を惑わす砂煙を上塗りする。
「わ、眩しいっ・・・!」
「───今ッ!」
「・・・なーんて、ね」
「っ!?」
スズミが閃光弾で動きの止まったユイロに最大火力を放とうとした、その一瞬。 攻撃の瞬間、完全に自身が状況を握っていると確信した状態。
───その攻撃の瞬間が、最も無防備な瞬間である。
リボルバーの重い銃声が鳴り響き、煙が晴れた時、地面に転がるスズミを見下ろすユイロの姿があった。
「ありえ、ません・・・! あの至近距離で、どうして・・・」
「さてさて、なんでかしらね? いやはや、今のはちょっと危なかったかな~。 なかなか頑張ったわね」
「心のこもってない称賛ほど、嬉しくないものはないですね・・・!」
「ふふっ、減らず口を叩く余裕があるようで何より。 ま、ひとまずこれで制圧完了。 お疲れ様ね、先生」
["・・・参ったね。 私たちの敗けだ"]
「うんうん、引き際を弁えてるのは指揮官として合格よ♪ とりあえず、この子達の応急処置をしましょうか。 ・・・あ、先生は先に行ってていいわよ。 サンクトゥムタワーの制御権、さっさと掌握しないとでしょ?」
["わかった。 ユウカ達のこと、お願いね"]
「・・・ねぇ、いくらなんでも無用心がすぎないかしら。 ワタシが悪い生徒だったらどうするつもり?」
["う~ん、なんていうのかな・・・。 ユウカやスズミの反応を見たら、悪い子には見えなくて"]
「・・・そ。 いつか後悔しても知らないわよ」
["治療、よろしくね。 それとここを守っててくれてありがとう"]
そう言うと先生はシャーレのビルに急ぎ足で入って行った。
「・・・ま、先生らしいと言えばらしいわね」
ユイロはそれを見送ると手早くユウカ達の手当を済ませ、ちゃっかりMemento moriの連絡先の書かれた紙を先生に渡すようユウカに頼み、気絶したスズミをお姫様抱っこして用は済んだと言わんばかりに帰って行った。
「・・・・・・ふぅ、終わったわね」
目的は達成された、ついでに賢い子の身柄も回収した。 もうここに用はない。
サンクトゥムタワーは正常に戻り、キヴォトスの混沌はやがて落ち着き平穏を取り戻す。 ・・・ま、その平穏がnotキヴォトス人にとっての平穏かと問われれば否なのだが。
今頃先生はクラフトチェンバーやらのチュートリアルを終え、
「・・・っと、あら?」
Memento moriの連絡先の内、店長としてのユイロに直通する仕事用スマホから着信がした。
「はい、もしもしー? Memento mori店長の夜美月ユイロよ。 ご用件を伺いましょうか」
『"もしもし、ユイロ?"』
「あら、先生じゃない。 さっそくかけてくるだなんて、何か困ったことでもあったの?」
『"・・・書類が多すぎて、手伝ってもらえないかなーって"』
「え、いやだけど」
『"そこをなんとか!"』
「・・・あのねぇ、Memento moriは慈善事業じゃないの。 確かにさっきはボランティアでビルの防衛をしてたけど、本来はこっちが恩を盾にして押し売りする立場なのよ?」
『"うーん、それなら、Memento moriの夜美月ユイロに依頼って形じゃダメかな? そしたら私の権限でミレニアム以外での活動の制約も減ると思う"』
・・・先生が店の裏事情を知ってるのは、ユウカが教えたのか。
先生の言う通り。 現在のMemento moriは、リオの公認があることで、ミレニアム内でセミナーが“公平性を保つ為に肩入れできない案件”をあちこちから頼まれる程度には自由度が高い。
が、それはあくまでもミレニアムだけ。
なにもかもミレニアム以外での悪評が原因だ。 ばら蒔いたのは俺なんだけど。
いやさ、あんまり仕事が多くても面倒だし、そもこれ形式上対価を要求してるだけで、その実態はほとんど生徒専用慈善事業みたいなものだし。
そういうわけだからあんまりそっちに時間取られるとプライベートでの小銭稼ぎができないんだよね。
一応助けた生徒には口止めしてるんだが、それでも悪評を否定しようと動くいい子が多いから、その度にそれを上塗りするだけの悪評をばら撒いて汚名を保ってる。
その結果がさっきのだから、結構頑張ってるんだよな。
ただ、どうしても鋭い人ならあぁして感づくことがある。 そうなったら仕方なし、一度連れ帰ってしっかり口封じをしなきゃいけない。
こんな感じでな。
・・・・・・まぁ、それは置いておいて。
シャーレの権限を所属という形で得られれば、ミレニアム以外での行動も融通が効くようになる。
別に強引に動いてもいいんだが、非合法アクセスを繰り返すよりはちゃんと正式な認可のもとで行動した方が基本得だし。
よって、元々は明日またシャーレを訪問して今日のことを盾に押し売りするつもりだったわけだが。
あっちから提案してくれるのなら願ったり叶ったりと言ったところ。
「・・・わかったわ。 ただ、今日はこのあと少し用事があるから、明日からでもいいかしら?」
『"うん、わかった。 それじゃあ、明日からよろしくね、ユイロ"』
「えぇ。 それじゃ、チャオ♪」
Tips : 服装
ユイロの服装はTシャツに濃紺のロングコートを羽織ったもの。 下半身は白色のミニスカート、膝上までのソックスとブーツで構成されている。
Tシャツにはどこぞの地獄の女神のTシャツを彷彿とさせるデザインで
ちなみにユイロちゃんの実力は本人が言っている通り、ヒナやツルギに並びかけれる程度(嘘)です。 はい、嘘です。
実際どうなのって話をすると、そのままのユイロでも対等にやり合えるくらいには強いですね。 勝てるとは言ってない。
本人のスペックではサオリやミカ、アル トキ エイミなどの“学園最強級―準最強級”と同等か少し上。
ホシノ、ヒナ、ツルギ、ネルなどの“キヴォトス最強級”相手には劣るものの、単騎である程度までなら渡り合える程度の実力です。
ちなみにこの強さは作者の解釈です。