その名に宿るは嘘か未来か 作:アトランティスの観測者(自称)
Tips :
ミメシスについては謎が多いため、当作品内では作者による解釈や考察を元にした独自の設定で運用する。
何か間違ってたりしたらこっそり教えてください。
「さて、今日も今日とて作業を進めましょ」
天空の明かりが届くことのないラボに、自由人の声が響く。
この肉体に睡眠は不要なので、アビドスに滞在している今はこうしてラボで仮面の改良を進めている。
《・・・何のんきなこと言ってるんですか》
「あらケイちゃん、休息は必要でしょう?」
《ユイロ、作業は休息とは言いませんよ・・・じゃなくて、ユイロの話によれば、今頃セリカがヘルメット団に誘拐されているのでは?》
「そーなのよね~。 ま、そろぼち先生から連絡が来るでしょ。
《・・・確か、まだ先生を信用していない彼女が先生をきちんと信じられる大人だと証明するのに、先生が助ける必要があるのでしたっけ?》
「そゆこと」
《・・・なら、ユイロも早く動いた方がいいのでは? 彼女たちから信用されなくて悲しい思いをするのは貴方ですよ》
「いいのよワタシは。 裏でゲマトリアやってるヴィラン時々ダークヒーローに、信用なんてあってたまるかっての」
ケイとそんなことを話していると、ふと誰かからの呼び出しを告げる着信音が聞こえてきた。
「はいは~い、呼ばれて応答のユイロちゃんです」
『あ、もしもしユイロちゃん~。 セリカちゃんがバイト終わってから帰ってきてないらしくってさ~。 電話も繋がらないしで、今大慌てなんだ~』
「・・・あらまぁ、それは一大事ね。 場所の検討はついてるの?」
ホシノから告げられたその内容にわざとらしく驚いたような反応をすると、俺にとっては既知の情報を問うてみる。
『うん、今先生が“シャーレ”の権限で行方を探ってる。 場所がハッキリしたら先生に座標を共有してもらうから、ユイロちゃんも協力してくれないかな~って。 あ、もちろん無理にとは言わないよ~』
"無理にとは言わない"、ねぇ。 よく言うわ、それで手伝わなきゃ信用がゼロになるだろうに。
「わかったわ、ワタシの方でも居場所を探してみるわね」
『ありがと~、それじゃよろしくね~』
そう締めると、通話が切られる。
(ん~、どうしましょっか)
《今回は何を悩んでらっしゃるのですか?》
(いやね、先に現場にカチコミかけるか、皆と合流してから行くか、それとも後から参戦するか。 どうしよっかな~って)
《私は合流が丸いのではと思います。 遅れるより印象がよく、先に行くよりも自然に参加できるでしょう》
(それもそうね。 じゃ、そうしましょ、う・・・か・・・・・・)
《・・・ユイロ? どうかしました?》
ふと、監視用ドローンの動きに違和感を覚えた。
移動する座標が、明らかに想定よりも速い。 このままでは、アビドスから皆が追い付くよりも前に郊外の砂漠まで行ってしまう。
何故だ? どうなってる? 砂漠は砂嵐で荒れに荒れているハズ。
確かに線路はある、そこまで行ければある程度楽に進めるだろうが、セリカを乗せたトラックでそこまで行くのは本来であればかなり手こずるだろう。
砂漠をこんなに速く走破されるのは完全に想定外だ、何が原因で・・・・・・
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
原因俺じゃねぇか!?
ヤバい急がないとマズいことになる! なんでこんなとこで砂嵐が減った影響をモロに受けるハメになるんだよ!!
(ヤバいわケイちゃん! ナビゲートお願い!)
《いや貴方の方がアビドスの地理は詳しいでしょう!? とにかく急ぎますよユイロ! 体裁とか気にしてる場合じゃないです!》
(あぁもう、どうしてワタシがこんな目に~!)
大慌てでラボから廊下に走り、仮面を外して地上と繋がるトンネルに放り投げる。 仮面が手を離れた瞬間、ミメシスの肉体が青い煙になり霧散。
周囲に拡散された神秘は仮面に収納され、仮面は通気口を吹き抜けて地上の廃墟に転がった。
(・・・こういう時は、この再構築の一瞬すら長く感じるわね!)
地面に転がる仮面からミメシスを再構築して外に出し走り出し追跡を開始する。
と、このように。 俺のラボは人間が入れない構造になっている。
ライの時は外に出る必要がないのだし、外部からの侵入は完全に遮断した方がいいと黒服と話し合って決まった。
トンネルは仮面が引っ掛からずに通れるだけのサイズがあればいいので、ヒトが入れるように作られていない。
ちなみに黒服とかは謎の技術でどこからか訪れる。 今までゲマトリアの定例会議なんかは黒服がラボからの送迎を担ってくれていた。
っとと、
現場へ向かって走っていると、ふと着信音が鳴っているのに気付いた。
手早くスマホに触れ通話を繋ぐ。
「ハイもしもしユイロよ、今急いでるから用件は手短に」
『"ユイロ、セリカの反応が途絶えた場所がわかった。 私達はそこからセリカを攫ったヘルメット団を追跡するから、ユイロも"』
「そんな悠長なことしてるヒマないわ! ワタシはさっさと現場で足止めしてるから、アナタ達も来なさい!」
そう言いながら、仮面とスマホの間に繋いだ内部回線からスマホを操作して追跡ドローンの座標を送信する。
更に現在進行形でトラックを追跡中のカメラ映像を共有する。
これで向こうも間に合うハズだ。
["・・・切れた"]
ユイロとの通信を終えた先生、そして隣でそれを聞いていた対策委員会の面々はとても困惑していた。
『先生、ユイロさんから送信された座標と共有された権限を確認しました。 ドローンのカメラ映像と現在地のようです』
アロナからそれを聞いた先生は、素早くシッテムの箱を操作すると対策委員会の面々が見えるように内容を映し出す。
「これは・・・ドローンのカメラですか?」
「ん、砂漠を走るトラックが映ってる。 きっとこれがセリカを攫った奴ら」
「ここ、郊外の砂漠の方・・・! みんな、急いで助けに行こう!」
「先生、ユイロさんからは座標も送られているんですよね? すぐに追跡しましょう!」
そんな中、一人だけ異なる反応を見せる者がいた。
「・・・先生? コレってユイロちゃんから送られてきたんだよね?」
["うん、そうだね"]
「そっかそっか。 じゃあ、ユイロちゃんは私達より前から知ってたわけだ。 セリカちゃんがヘルメット団に攫われたって」
「「「「["・・・!"]」」」」
そう口を開いたホシノの表情は一見いつもと変わらぬ笑顔だが、目が全く笑っていない。
「じゃなきゃ、こんな映像送れないもん。 流石にあの焦りようならヘルメット団とグルってことはないだろうけど、ユイロちゃんがなんですぐ動かなかったのかは考えなきゃいけないんじゃないかな?」
「「「["・・・・・・"]」」」
ホシノの指摘に、皆が動きを止め思考に入る。
が、一人の人間が手を叩く音により現実に引き戻された。
「はいっ、皆ストップ!」
「・・・ユメ先輩?」
「確かにホシノちゃんの言うことも気になるけど、セリカちゃんを助けるのが先だよ。 ユイロちゃんのことは後から考えても遅くないし、今は“ユイロちゃんがセリカちゃんを助けようとしてくれている”っていう事実だけで十分じゃないかな?」
ユメの言葉を聞いた一同はハッとしたように前を向くと、現状を思い出し立ち上がる。
「ん、ユメ先輩の言う通り。 今はセリカの救助が先決」
「セリカちゃん、きっと今頃不安ですよね。 早く行って安心させてあげましょう☆」
["戦闘になったら指揮をするよ。 行こう"]
各々が武器を取り部室から駆け出す。 そうして部屋には皆の“先輩”である二人が残された。
「行こ? ホシノちゃん。 大丈夫、きっとうまく行くよ」
ホシノは、その言葉と共に差し出された手を取ると、困ったような呆れたような、それでも決してイヤではない笑みを浮かべこう言った。
「・・・うん、きっとそうだよね」
砂漠を走ってどれだけ経ったろうか。 気付けば朝日が顔を覗かせ、夜の帳が明け始めていた。
物体とは便利なもので、疲れという言葉と一切の縁がない。 おかげで一切休むことなくノンストップで追跡を続けられた。
(・・・見ーつけた)
結局、追いついたのは捨てられた列車と線路が残る郊外の砂漠エリアだった。
(本当ならさっさと救出したいのだけど、全部一人で解決するワケにはいかないのよね。 ヘルメット団には悪いけど、足止めさせてもらうわ)
バレない程度の距離を開けて尾行しつつ、スマホからトラックのコンピューターをハック。 スピードリミッターを少しずつ引き下げ減速させる。
低下量は違和感に気付きにくいよう、10分につき1km/hずつ落としていく。
並行して車速センサーも弄くり、メーターに表示される速度が変わらないように調整。
『おい、なんか速度落ちてないか?』
『いやでも、メーターは特に何も変わってないぞ?』
(うんうん、戸惑ってるわね)
ヘルメット団員のスマホを盗聴して様子を見たところ、少し疑心は持ちつつもまだ異常には気付いてなさそうだ。
《・・・ユイロ、今更思ったんですけど、トラックをハッキングできるならわざわざ急いで来なくてもよかったのでは?》
(何言ってるの、あんな遠距離からハックできるツールなんてワタシ達にはないでしょう?)
《あのドローンはエンジニア部製の多機能ドローンですよ、その程度の機能なら搭載されているのでは?》
(え゛)
ケイの言葉にドローンの取扱説明書を取り出し、内容の目次に目を通す。
軽めの長編小説本一冊程度の厚みがあるそれから機能の欄を見てみると、なるほど確かにハッキングの機能を記したページがあった。
(・・・見なかったことにしましょう)
そっとページを破り捨てた。
『やっぱ減速してるって!』
『というかもうほとんど止まってない?』
『リ、リーダーどうしましょう!』
『チッ、貸せ! ええい動けこのポンコツが! 動けってんだよ!!』
しばらく放置していると、やがてトラックは停止し異常に気付いたヘルメット団達の怒号が聞こえてくる。
奴らがトラックを置いていくことはないだろう。 カイザーに身柄を届けるのが目的なのに、肝心の人質を置いてきましたなんて言えるワケがない。
『ダメですリーダー、完全に故障してます!』
『だったら押せばいいだろう! お前等降りろ、目的地まで押してくぞ!』
やがて自走させることを諦め、ぞろぞろと降りてくるのが見えた。
何をするのか聞いていた俺は、そっと電動パーキングブレーキをオンにした。
「おいビクともしねぇぞどうなってんだ!」
「ねぇこれブレーキかかってない!?」
「解除しろよ!」
『ダメです解除できません!!』
解除しようとボタンを連打する車内からは、警告を告げるブザーの音が鳴り響く。
・・・うるさいので盗聴の音量を下げた。
《ユイロ、こちらに向かってくる反応があります。 おそらく先生達かと》
(オーケー、時間稼ぎは終わりね。 じゃ、感動の再開が終わったら行きましょっか)
一方その頃、対策委員会。
『皆さん、ユイロさんのドローンが示す座標までもうすぐです!』
「な~んか、思ってたよりも早く追い付いたね~」
「ん、途中から移動速度が落ちてた。 何かトラブルでもあったのかな?」
「きっとユイロちゃんが足止めしてくれたんだよ!」
そう話しながら砂漠を前進する彼女らは、ついに後輩を連れ去ったであろうトラックを視界に捉える。
・・・何故か停止したトラックと、束になって手で押そうと悪戦苦闘しているヘルメット団を。
「・・・あれ、なにやってるんだろう」
「え~っと、故障でもしたのかな・・・?」
『と、とりあえずセリカちゃんを救出しましょうか・・・!』
「ん、そうだね」
そう言うと、シロコとアヤネがドローンからの射撃やグレネードによる爆撃を行い、トラックを押しているヘルメット団員を一網打尽にする。
「「「ぎゃぁぁぁあああ!!?」」」
ヘルメット団は悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、最も重要な荷物を乗せたトラックが無防備になる。
「よし、鍵を壊してさっさと開けよう」
そうして荷台の鍵を破壊しドアを開ければ、少し目元が赤くなっている探し人がいた。
『セリカちゃん発見! 生存確認しました!』
「ん、半泣きのセリカ発見」
「え、みんな!?」
セリカは、どうやら一人でトラックに閉じ込められていた不安からか少し涙していたようだ。
そんな中、級友が全員で押し掛け救助されたことで気が緩んだのか、更に瞳に涙が溜まる。
「なにぃー!? うちの可愛いセリカちゃんが泣いてただと! そんなに寂しかったの? ママが悪かったわ、ごめんねー!!」
「う、うわああっ!? う、うるさいっ! な、泣いてなんかないわよッ!!」
「嘘! この目でしっかり見た!」
「泣かないでくださいセリカちゃん! 私たちがその涙を拭いて差し上げますから!」
「あーもう、うるさいってば! 違うったら違うのっ、だまれーっ!!」
恥ずかしさと照れ隠しから必死でその事実を否定しようと叫ぶセリカ。 彼女の先輩達はその様子をからかい混じりに微笑ましく眺めている。
ピンク髪の上級生の発言に“お前はいつからママになったんだ”と、どこかでこの現場を見ている者が思っていたのは別のお話。
["無事でよかった、安心したよ"]
「な、何で先生まで!? どうやってここまで来たの!?」
["さらわれたお姫様を助けるのは勇者の役目!"]
「ば・・・ばっ・・・・・・! バッカじゃないの!!?」
“お姫様”と呼ばれた照れ隠しに、一際大きな声を上げた。
そんな中、セリカにユメが駆け寄り、無事を確認するように抱きしめる。
「無事でよかった、セリカちゃん」
『・・・私、セリカちゃんに何かあったんじゃないかって思って・・・!』
「ユメ先輩、アヤネちゃん・・・」
友人の身を誰よりも案じていた通信越しのアヤネもまた、涙ぐみながら声をかける。
そうして無事に感動の再開を果たした一行は、しかしまだここが敵地の真っ只中であることを思い出す。
『・・・前方にカタカタヘルメット団の兵力、多数確認!』
「・・・そういえばユイロは? てっきりもういるかと思ってたんだけど」
「あれ、皆と一緒に来たんじゃないの? 先生もいるし」
「ユイロちゃんなら、先に現場に行って足止めしてるって」
「じゃあ、トラックがどんどん減速してたのってユイロさんの仕業ってこと?」
「多分そうなんじゃないかな~?」
現場にいる一同が、まだこの場に来ていない少女のことを頭に浮かべると、答え合わせとでも言わんばかりに天空から一筋の鋭い月光が落ちてきた。
「
突然聞こえてきたその声と共に、四本の鋭い風が巻き上がり、ヘルメット団の包囲を壊滅させた。
「え、何事!?」
「風・・・? いや、衝撃波?」
何事かと皆がそちらに目を向ければ、舞い上がった砂塵から今話題に上がった少女が歩いてきた。
「よいしょっと。 ・・・ありゃ、遅れちゃったかしら? 少し離れた場所からヘルメット団のトラックをハックして動きを止めてたのだけど、足止めに夢中になってたら置いてかれちゃって」
嘘である。 この女、足止めは片手間で行っていたし、しっかりとバレないよう尾行してきていた。
何故遅れたのかと言えば、トラックを止めてから救出を見届けるまでの間、暇だからとずっとリボルバー片手に“カッコいいリロード”の練習をしていたのだ。
今頃彼女の脳内・・・いや、仮面内では、頼もしい相棒からの呆れたようなツッコミが入っているのだろうが、対策委員会の面々はそんなこと知る由もない。
「ユイロちゃん! 足止めに情報の共有、ありがとうね!」
「ん、助かった。 イチから追跡してたら、追い付けなかったかもしれない」
「礼には及ばないわ、大切な“お姫様”でしょう?」
「ア、アンタまで・・・! だいたい、誰がお姫様よ! ぶん殴られたいの!?」
「気に食わないなら好きに殴ってくれて構わないわよ? 大して痛くもないし」
「大して痛くもないって、私のことバカにしてる!?」
あっけらかんと言い放つユイロに、セリカはお姫様と呼ばれた照れと侮られたような言動に対する少しの怒りを込めて拳を握り締める。 ・・・が、今はその鬱憤もヘルメット団にぶつければいいと思い直したのか銃を構えた。
「・・・みんな、気を付けて。 奴ら、改造した重戦車を持ってるわよ」
「知ってる、Flak41改良型」
「そんなもの、スクラップにしてやればいいわ。 少しだけ本気を見せてあげましょう」
「それじゃ・・・・・・行こうか」
先生のセリフにどの括弧使ってたかいつも忘れる。