…白い世界。そこに私は突っ立っていた。
どこからも光が浴びてこないのに、世界は真っ白。
下を見たって、できるはずの影一つない。
きっと、夢なんだろうなと考える。
夢を見るなんて、久しぶりかもしれない。
いや…もしかしたら、近頃の記憶も夢かもしれないが。
ほんの数秒、物思いに浸っていると、急に前方から何かが流れてくる。
本当に急なことが多いと思いながら、それは私のもとまで滑ってくる。
足元まで流れてきたそれは、霧というべきか、雲というべきか。
先ほどまで、嫌に明瞭だった視界が突然曖昧になる。
私の心中でも表しているんだろうか…それなら、最初の白い世界はやめてほしい。
そこまで過去に踏ん切りをつけられるほど、私は人間出来ていない。
急に、前のほうから気配がした。
周りを警戒しながら視線を狭める。
…先生…?
スーツ姿…生徒の中にはスーツを着ている人もいるが、その生徒たちとは違う、男性用のスーツに身を包んでいる。
かといってロボットの顔をした市民でもない。
なら、キヴォトスでそんな人間は先生しかいない。
私がそれを判別した途端に、その人物が消えていく。
待って、という間もなく、先生の姿は消えていった。
これは、この夢は、私に何を見せようとしている…?
立ち尽くしていると、服の隙間…ポケットの中に、何やら熱を帯びたものが入っているのに気づいた。
別にやけどをするような温度ではない、人の体温のように温いそれを取り出す。
…大人のカード…?
なぜこれが、ポケットに入っているのかがわからない。
アサルトライフルのホルダーにしまっていたはず。
でもこの場所には、その武器たちも、鞄もない。
霧が濃くなり、目の前が見えなくなっていく。
なぜこんな夢なのか、理由が何なのかもわからないまま、私の意識は宙に浮いた。
*****
目を見開き、体を起こす。
先ほどとは打って変わり、視界は暗く、私は寝ていた。
寝かせている下半身に来る感触は柔らかい。
おそらく、ベッドだろうか。
近くに気配がある…誰かの寝息が聞こえる。
そういえば、先生と休憩室で寝たのだった、と思い出す。
先生の体を確認するが、特に何も異常はなさそうだ。
シャーレが繁盛してきたら、ヴェリタスの盗聴…音好きと、七囚人の怪盗等が先生の安全確保に実質協力してくれるので、早いところ協力を取り付けたい所ではあるが、私から会うことはあまりないだろうから、その時が来るまで、先生は私が守らないといけない。
左手首につけている時計を起動し、時刻を確認する。
時刻は午前2時半程度、眠った時間からまだ1時間しか経っていなかった。
あれほど眠かったのに睡眠が短かったのは、あの夢が原因か、今の状況が原因か。
…そういえば、一つ確定したことがある。
この世界が、夢じゃないってことだ。
夢の中で夢を見るなんてことはないし、それにしたって感覚が安定しすぎている。
それに夢にしてはかなり現実的で、長すぎる。
不意に、顔に何かが触れる。
いや、目の下に何かが流れている。
手で触れてようやく気づく、その熱を持った水分に。
私は、自分が思っているよりも、無理していたし、枯れても居なかったようだ。
夢じゃなかったことに、心から安堵できたのだろう。
ため息とともに深呼吸をする。
自分の心がそんなにすり減っていることにも気づけないとは、前世では思いもよらなかった。
1度子供に戻り、感受性が復活したからだろうか?
…しかしまだ、安心はできない。
夢じゃないなら、尚更だ。
腕で目を擦り、起き上がる。
せっかく起きたのなら、昨日のうちにできなかったことをやろう。
椅子に掛けていたコートを羽織り、コートの下に物があるのを確認する。
休憩室を出てエレベーターを使い、シャーレのオフィスへと向かう。
訓練室やら格納庫などを見て、私の世界になかったものを探すのもまた手でてはあったが、それよりも確認したいのが山ほどある。
いつもの部室につき、扉を開けて机の上に置かれているPCの電源を入れる。
…知ってはいたが、あまりにもセキュリティが緩すぎる。
確か、記憶している限りだとその点は原作のほうでも指摘されていたはずだが、誰のストーリーだったか…そうだ、ヴェリタスのあの人だ。
頭の中にあの眼鏡をかけた、トラブルメーカー3児の母親のようなことになってる副部長が思い出される。
一応その中の一人は同学年のはずなのだが…。
それと同時に、机の上にほったらかしにしていたペンを取り出し、いつかの映像でも見えた正方形の付箋にメモをする。
まだ始まったばかりだから仕方がないとはいえ、今のシャーレは人員不足だ。
私が把握している限りだと、先生の最初の指揮から特に人員は変わっていないため、セミナーの冷徹な算術使いの早瀬ユウカ、ゲヘナ風紀委員会1年生の火宮チナツ、トリニティの走る閃光弾と言われている守月スズミに、正義実現委員会の体重に悩んでいる副部長、羽川ハスミ…えっ、体重に悩んでいるはいらない?それはそう、激しく同意と言わざるを得ない。
とにかく、この4人が今のシャーレに協力してくれるメンバーだ。
はっきり言って足りない。早瀬ユウカはミレニアムの生徒会であるセミナーの1人だから忙しいし、火宮チナツはそもそもゲヘナが治安悪すぎて風紀委員会の仕事から手が離せないだろうし、羽川ハスミは戦闘狂と狂気と乙女を併せ持つ、最強格の一人ともいわれているあの部長に代わり、部下に指示をしなければいけない。
コンスタントにシャーレへと出向くことができるのが、守月スズミしかいない。
そのスズミですら、トリニティの自警団活動をおろそかにするタイプではないので、この4人が同時に来れるのはあまりないとみてもいい。
当番の人の足りなさも、各校に行った際の協力者も、戦闘になった際に先生を守れる人員も足りない。
戦いは数だよ兄貴!と、心の中の古いアニメが言っている。
恐らく先生がシャーレの人員の募集はもう始めているだろうから、そろそろ人数は増えてきてもいいとは思うが、まだ審査等に時間がかかっている可能性がある。
人数がそろうまでは、私が先生を守らないといけない。
所属学校などなくシャーレ常駐だから、ほかの生徒より長い時間先生のそばで守っていられる。
…後になって生徒の皆に怒られそうだな、この発言。
黄色い付箋の上をペンが躍る。
まるでほしいものリストを書くように、名前や部活を書いていく。
内容は、優先順位がかなり高い生徒。
ゲームだと性能で決めてはいたが、現実となると所属なども視野に入れないといけない。
とりあえず思いついた生徒の中から、シャーレの協力を早急に取り付けたい生徒を書いていく。
その生徒たちが協力してくれるなら、私もある程度の余裕が持てる。
裏を返せば、その生徒たちが協力してくれるまでの期間、その方面では要注意していかなければならないのだが。
ほしい人材といえば、先ほど指摘したセキュリティ面に強い生徒、ミレニアムからシャーレに着やすい生徒がいいだろう。
ほかで言えば治療面や戦闘面にて強い生徒は欲しいが、一人はほぼ確実なこと、もう一人はすでにいることがあげられる。
治療面に関しては彼女の理念から察するにシャーレに協力してくれるのはほぼ確実、何よりホラー映画みたく急に現れることのできるワープ持ちであることから、この生徒がいればかなり解決できる。
そう、治療面でワープ持ちと言えば勘のいいひとならわかるだろう、トリニティの部活である救護騎士団の2年生、鷲見セリナである。
まあぶっちゃけ鷲見セリナとあとゲヘナにいるあの救急医学部の3年生がいてくれれば治療面は安寧だろう。
問題は戦闘面だ。
戦闘が強く、先生を確実に護衛できるとなれば、やはり昔よく耳にしていたあの4人があげられる。
実際協力してくれるのであれば心強いが、やはり全員どこかのリーダー格というのがネックだ。
やはりシャーレに来れない日が多いだろうし、人数はそろえなければならない。
結局のところ人数をそろえない限り穴が開いてしまう。
そういう穴がちょうど開いているときに限って、嫌なことは起こりうるものだ。
…えっ、私一人で先生を年中護衛?出来らぁ!
まあそれはそれとして、明確にシャーレに入部等はしていないが、戦闘面にて優秀で先生を守ってくれる生徒はいる。
…知ってはいたのだが、相変わらずどの世界でも、その燃えるような愛は変わっていない。
ある程度考察し、付箋に生徒を書き終えたところでPCに手を付ける。
次にやることといえば、不審な点の捜索だ。
言い方が悪いが、前の世界や原作のほうになかったものをPCで探していくだけだ。
例えで言うなら、前の世界での面識がない、でも高い地位にまで上り詰めている生徒とか、前の世界では聞いたことのない物騒な噂を持っている生徒だとか。
端的にいえば、転生者や特異な生徒の目星を付けることだ。
当たり前だが、平衡世界なんて山の数ほど存在する。
この世界のことをすべて把握したわけではない。
なら、この世界がその平衡世界の可能性であることにも、脅威が存在しうることにも、警戒するに越したことはない。
転生者やその生徒が私と同じで、先生に完全とまではいかなくとも協力してくれる確率は五分五分だ。
人間だから自分のやりたいことはあるし、それが先生にとって脅威になりえる可能性もある。
前世ではよく二次創作を読んではいたが、最強とまではいかなくとも厄介な生徒たちが多かった。
…もしいたら悪いが、先生の邪魔になるのなら、私自ら叩き潰させてもらうことにしよう。
いないことを祈りたいものだが。
しかしだからといって完全にいないと決まったわけではない。百鬼夜行やレッドウィンターに在籍しているかもだし、それこそアリウスなどの見つからない場所にいるという可能性だってある。
どちらにしろ、注意を払い続けなければならないのは確実か。
…原作を知っている設定の二次創作のキャラクターたちも、このような可能性を考慮して活動していたのだろか?
あえて言おう、めちゃくちゃに面倒くさいと。
ミレニアム、ゲヘナ、百鬼夜行、山海経などのホームページやその中の部活動紹介、
どこの学園も、私の知るような顔しか載っていなかった。
最上部の組織、生徒会に類するものにいないとなれば、次は各部活動のメンバーの確認だが…残念ながら、そこまで詳細に見れるほど学園内の情報は公開していないのが普通だ。
そうなると手段としては2つ。直接見に行くか、ハッキングして生徒情報を確認するかのどちらかだ。
前者は一校一校やっていく時間がないためやらないが、じゃあ後者となると少々面倒になる。
ほかの場所ならともかく、シャーレビルからのハッキングなんて知られたら今後の先生と生徒の関係に溝ができる可能性ができてしまう、それは避けたい。
結局のところ、後手に回ってどうにかするしかないな、これは。
学園情報のタブをすべて消し、次にマップ系のブラウザを開く。
生徒が特に異常なしなら、地形におかしな部分がないかを確認しないといけない。
例えば、私の知りえない兵器がこの世界には存在し、後々先生の敵になりそうな場合があるかもしれない。
そうなった場合に対処できるようにあらかじめ確認しておきたかったのだが、これといった変化はなかった。
デカグラマトンなどの巨大なものは特に見当たらなかったし、じゃあほかの細々としたものを探していくかと考えると、やはり時間が足りない。
そんなのを探している暇があったら、先生のそばにいて襲撃してきたやつにカウンターしたほうが早い。
…かなり考え、指を動かし目を流していたが、結局平行線だった。
人生うまくいくことなんてほとんどないと言われているがまさにそう。
この世界に来て1日目の調査はほとんど不発に終わった。
いや不発というよりかは不変なのが確認できた、というべきか。
とりあえず、不審…というより見たことのない顔の生徒、原作には出てこなかった学校や部活動などは確認できなかった。
左手首につけっぱなしだった時計を見る。
先ほど見た時間より1時間がたとうとしていた。
意外とのめりこんでいたようだ、私は。
手をキーボードから放し、目線をどんどん上昇させる。見えるのはきれいな天井だけだが。
…それはそれとして、彼女はいつまで私を見ているつもりだろうか。
今の彼女なら休憩室で寝ている先生のほうに足を運んでそうとは思ったが、突然出てきた同性の大人に対抗心でも燃やしているのかもしれない。
まあそもそも、彼女は本来矯正局にいるはずの存在なのだから、どういう行動をしてもおかしくはないだろう。
そういえば先ほどの生徒たちのことで、戦闘面に関しての生徒だったが、当然彼女のことだ。
普段の行いとは裏腹に、彼女の先生に対する感情はいたってシンプル。
いやまあ確かに先生は女受けしそうな顔ではあるのだが、一目惚れになってそこまで変わるものなのだろうか。
そう考えて、無駄だと悟った。そういえば先生の周りにいた生徒たちはみんな同じだったか。
どこぞの公園ウサギといい、どこぞの参謀といい、どこぞのお姫様だったり。
もはや先生がサキュバス…じゃない、男性だからインキュバスだ。その神秘を持っているかもしれないと疑いすらある。
恋は人を変えると、よくCMとかで聞いたフレーズを思い出す。
にしたってそこまで変わるものなのだろうか。
まあ、先生に危害を加えなければ、誰が誰に恋をしようと関係ない。
先生が誰とくっつき、誰と恋愛をし、誰と結婚しようが、かまわず私は先生を愛し続ける。
それが私の願いであり、贖罪でもあるのだから。
そんな私の心中はどうでもいいとして、すぐにはそうならないだろうと予測する。
先生は生徒との関係はかなり重視しているのはわかっている。
当然、付き合うにしろ結婚するにしろ、その生徒が卒業した後だろう。
キヴォトスでは生徒と先生の恋愛は犯罪じゃないけど、先生が持つ常識からしたらバッシング不可避のことだからね、あっちの世界では当たり前のことだけど。
…よく見る生徒、俗にいうネームドが卒業して先生に告白したら、先生は付き合うのだろうか。
卒業後なら全然いいと思うし、先生にもさすがに性欲はあるだろうから、好みの生徒とかいるだろうけど。
かといって先生が快く頷いてくれるイメージが思い浮かばない。
言われるまで気づかないか、やんわり断ってきそうなイメージしか湧いてこない。
そもそも先生は、誰が好みなのだろうか?
生徒たちは結構個性豊かで、キャラがかぶっている生徒なんてほとんど見かけない。
誰かひとり先生が興味を示してくれたらわかるが…やはり褐色か?
そう考えながら席を立ち、PCの電源を切る。
机に出していた筆記用具を全て元の場所に戻し、部屋の電気を消してそそくさと部屋を出る。
前の世界でもある程度は考えていたことだが、あの褐色二人は先生の好みというよりかは、いい反応をしてくれるからやっているという可能性もある。というか多分そうだ。
先生は生徒によって立ち回り方を変えている節がある。わかりやすいので言えば、さっきから言っているゲヘナの褐色の誰かさんと、トリニティのお姫様がいい例だ。
トリニティのお姫様に対する先生の立ち回り…憶測にはなるが、先生は依存してほしくないからこその行動とも言える。
先生がある程度はっちゃける時は、そばにいる生徒が自立できているからともいえる。
足をつかつかと前に出し、エントランスが左側に見えてくる。
中央にある六角形のデザインをした物の奥に見える扉へと足を進める。
扉を開け電気をつけ、中央まで歩く。
シャーレの格納庫、ここがその部屋の名称だ。
格納庫という名もあってか、同じフロアにある体育館と同等の面積を持つ。
…話が少し逸れた。先生の好みの生徒の話だったか、先生の立ち回り方の話だったか。
まあ結論付けるには早すぎるが、どうせ生徒たらしなのはどこの世界でも同じようなものだろう。
まあ、まだほかのメンバーと会ったことがないから確定はしていないのだが、決め打ちをしてもいいだろう。
それに対する、生徒の皆へのデメリットといえば…。
「先生の隣はいつの時代も激戦区になりそうだな…原因1のお狐さん?」
ゆっくりと振り返る。見ると、先ほど入ってきた扉の前に、誰かが立っている。
気配はあった。ずっとつけてきているのもわかっていたのだから、私はここを選んだ。
姿を見る。黒と赤と鼻の模様が目立つ和服に、狐のお面。
そして肩にかけている銃剣のついたサブマシンガン。…確か九十九式だったはず。全く同じかどうかは覚えていないが。
まあお察しの通り、我らがバーニング・ラブこと狐坂ワカモである。
どうして私をつけてきたかは、聞くまでもないだろう。
…ちなみに、どこから入ってきたかについては不問としよう。シャーレのセキュリティがあまりにも脆いのは散々言ってきたからまあ、仕方がない。
「最初に言っておくが、私はお前が思っているようなことをしたいわけじゃないぞ」
「うふふふふ…信じられると思っているのですか?」
「別に信じてもらおうなんて魂胆はない。話して止まるなら今頃、停学にもなってないだろうからな…あの人がらみのことは、特にだが」
「…少し有名になっているとは自覚しておりますが、まるで私のことを知った風に言いますね。以前お会いしたことがありましたか?」
「いや?…風の噂と、似ている友人がいたので少々予測をしてみた。…それだけだ」
私の知っている狐坂ワカモは、先生のことばかりだった。
恐らく原作と同じように先生を愛していたのだろう。先生のためならこのワカモ、すべてを蹴散らして見せます!…とか言ってたっけ。
彼女の瞳…正確には、仮面の奥に見える、圧倒的な殺気を感じる。
やっぱり、恋は人を盲目にするものだな。うん、全体話通じないだろう。
「…重ねて伝えるが、別にお前から先生を盗ろうなんて思ってはいない、いや先生は別にお前のものじゃないんだが、私は先生の役に立ちたいだけだ」
「それが信用できないと言っておりますの。彼のそばにいる生徒たちも、きっと同じような回答をするでしょう」
「困ったな、私も考えてみたけど確かに言いそうな気がしてきた」
特に早瀬ユウカぐらいは言ってそうだ。
とはいえ、じゃあ彼女の思い通りここでくたばったり屈するわけにはいかないのだ。
「…で、どうする?さっきも言ったけど話し合いに来たわけじゃないんだろう?」
「えぇ、その通り…わかっているのでしょう?」
「寝起きでさっきまで調べのもしていたから、気は引けるけどな」
言葉ではどうにもならない、彼女の私に対する態度だろう。
理解はするけど納得はしないようなものだ。彼女の場合、理解もしなければ納得もしないようだが。
さて、狐坂ワカモか…。
「ちなみに、私と先生がいるのはいつからみていた?」
「昨日の昼ぐらいから、ですわ」
「じゃあ話は聞いていたな?…ハンドガンは、護身用に向いているということを」
素早く、コートの下から白い拳銃を引き抜き、そのまま発砲する。
最強論争になると候補から外されがちとはいえ、不意打ち程度当たるほど彼女は弱くない。
持っていた機関銃の口をこちらに向け、鉛球を放つ。
飛んできていた銃弾を横目に、一気に彼女の懐へと近づく。
先生に話した通りであるが、銃身が大きいほど取り回しが悪くなる。
つまり、彼女の短機関銃と私の拳銃なら、私のほうが近距離は有利になる。
そんなことキヴォトス人ならみんな分かっている。当然彼女も後ろに足を滑らせて距離を取ってくる。
瞬間的に距離を取りたい場合、地面をけって後ろに飛ぶのがかなり有効。
なぜなら少ない時間で近距離戦闘から離れるのに大いに役立つ。実際私もよくやる。
ただ、小さいとはいえちゃんと隙はできる。どこかというと当然。
足が地面から離れている瞬間だ。
ワカモが地面をけった瞬間に、着地する方向と一直線になるように位置を合わせる。
悲しいかな、神秘があっても急には曲がれないんだ。
ハンドガンが彼女を直線にとらえる。
マウスの左側でダブルクリックするように、トリガーを引く。
2発の弾丸が、彼女の体に接触する。
ほんの少しのうめき声とともに、彼女の体が崩れる…が、すぐに立て直し、こちらに銃をむけてトリガーを引いていた。
放たれる無数の弾丸、直線状の私に引き寄せられるように。
ただもう一つ、あの回避行動には弱点があることを言うのを忘れていた。
これはその回避行動に限った話ではないのだが、短機関銃、つまりフルオートは撃つほど銃身が上へと跳ねていく。
これはどの銃もそうだが、リコイルと言ってフルオートで撃つときは重要になる要素だ。
どこぞの頂点ゲームをやっている人間なら、誰しもが聞くだろう。
それが起きた場合、リコイルを抑えるために銃を抑えないといけないわけだが、空中にいる間は空気抵抗や着地、動作の安定等でそれが難しくなる。
つまりだ、要するにばらばらの方向に銃弾は飛んでいきやすくなる。
放たれた弾丸、しかしこちらに飛んでくる弾は1つのみ。
それだけを顔をそらして回避し、また直線に入って追撃を始める。
弾丸をよけるのを見たのか、彼女は懐から何かを取り出し、こちらに投げてくる。
さて、この状況で投げてくるものなんて大方見当がついている。
まあ十中八九、手榴弾だろう。
問題はどの種類の手榴弾か。コンマ0.何秒かの瞬間で判別する。
よく見るデザインのものではない。この時点で爆発するタイプのものではない。
少し見えたのはアルファベットのKEの文字。
それを見て私は空いている左手でそれを掴み、前方に飛ぶ。
ワカモと私の距離が近くなる、おおよそ30㎝程度か。
左手を伸ばして手榴弾を彼女の体へと接近させる。
2,1,0。お互い起爆のタイミングが分かっていたため、後ろに飛びのく。
目の前に突然の視界不良、視界が煙で覆いつくされる。
靴が地面に触れた音が前方からした。その瞬間に銃を前に向けて発砲する。
当たっ…てないなこれは。その証拠に、左側から銃弾が飛び込んでくる。
体をそらして真っすぐ飛んできた弾を避けて、音のなるほうへと目をやる。
気配はない。しっかり射撃場所を変えてきている。
みんなもちゃんと撃つ場所は変えようね、カウンタースナイプされるから。
後ろから靴が擦れる音がした。それと同時に発砲音。
前と横は背中を見せるためリスクがある。幸い距離は近そうだ。
やることは一つ、高跳び選手のように地面をける。
足のつま先に力を入れ、体を後ろに倒しながら跳躍する。
煙、天井、壁、そして、狐のお面。
すぐさまトリガーを引き、そのお面に発砲する。
ワカモも反応し、銃を上に向けて発砲する。
どちらの攻撃も、仮面の端と天井に吸われたようだ。
ワカモの背後を取るようにして片腕だけで着地をする。
そのまま跳ねて次は両足で着地をする。
そのうちに彼女のほうは銃のリロードが終わったのか、マガジンを捨ててこちらに銃口を向けている。
後ろは壁、さっきの跳躍で距離は離れている。また詰めなければならないな。
銃弾が私の着地硬直を狩るかのように飛んでくる。
横に飛ぶように避けて、野球のオーバーランのように膨らみながら接近する。
放ってきた弾丸は体勢がしっかりしていたためか、正確だった。
危ない、危うく制服が傷つくところだった。いやそれより私の体に当たっていただろうけど。
走りながら、銃のリロードを済まそうとした瞬間に気が付いた。
…マガジンがない。補充し忘れた!
なんというミス…22年間キヴォトスで生きてきたやつのやることか!?
銃弾は切れた。ワカモはこちらを追うように銃を向けてきている。
まあ、マガジンの補充以外はある程度は予測できていたことだ。
だからこちらも応じよう。
懐から、右手に持っている銃と似ていて異なる姿かたちをしたものを取り出す。
そのまま左回転をしながら、先ほどまでの走る力を消すためにブレーキをかけ、ワカモにそれを向ける。
「なっ…!」
彼女が回避体勢をとる。トリガーに指をかける。
ピストル型の榴弾銃、グレネードランチャーをワカモに向けて。
トリガーを引く、それと同時にワカモが回避するために体勢か崩れた。
…爆発することも、弾が発射されることもなかったが。
「ブラフ…!?」
「生憎、シャーレができて時間がたってないからな…!」
その榴弾銃の中には、弾など入ってなかった。
何故って?シャーレ内で爆発なんて起こせるわけないでしょーが。
だから別にこの時のためではなく、もともと榴弾は抜いていたのだった。
ワカモは回避姿勢の真っ最中で銃は向けれない。
私のブレーキは、止まっている。
地面をけり、急接近する。
接近に対応したワカモが短機関銃を横なぎに振ったのを見てから回避する。
振った右手とは逆の、空いている左手、その近くの袖をつかむ。
キヴォトス人が持つトップクラスの身体能力と、動体視力でつかんだとほぼ同タイミングで振り払いに来る。
キヴォトス人だからこそできる近接攻撃への対応術、それを逆手に取る。
振り払う方向と同じ方向に足を滑らせる。
回るように移動する私たち。そういえばスケートやったことないな。
滑らせた足を踏みとどまらせて、軸足にする。
そうして私も、キヴォトス人特有の力の強さで彼女の体を振る。
軸足じゃないほうの足をさらに滑らせ、体を掴んだまま回る。
1回転目はワカモの振った力で、2回転目は私が回って、遠心力が生まれる。
その力と私の力で、彼女の体が宙に浮いた。
悲しいかな(2回目)、キヴォトス人は空中ジャンプができないんだ。
残念だったな、とでもいうべきか。
そのまま彼女の体を地面へとたたきつける。
…顔面からは危ないので背中から。
「かはっ…!」
叩きつけられた彼女が息と声を吐く。それと同時に放り出される銃。
素早く彼女の体に覆いかぶさり、拳銃をお面へとあてた。
「…なぜ、とどめを刺さないのですか?」
「別に?おまえを潰したいわけじゃないからな。それに必要以上に生徒を痛めつけてるなんて、
…ここまで話しておいてなんだが、彼女は本気を出していない。
彼女の本領発揮は扇動や様々な兵器を使った総合戦闘術にある。
現に彼女、発煙手榴弾以外はほとんど銃しか使っていなかった。
それがその証拠だ。
彼女がもし、本気で私を潰しに来るなら、もっと準備するはずだ。
それをしなかった理由といえば。
「先生の近くにいる私への威嚇か、はたまた興味がわいたか」
「…半々、といったところです。先生に会うほかの生徒と違って、異性に対する緊張感といったものが貴女からは感じられませんでした」
「だから言っただろう?私はそういう気を起こして先生のそばにいるわけじゃないって」
「口頭で言われても、信用できるわけないでしょう?」
「それはそうだ。私たち、
覆いかぶさるのをやめ、立ち上がる。
ワカモも私がどいたのを見て、ゆっくりと立ち上がる。
「悔しいですが、言っていることは本当のようですね」
「悔しがらなくても、恋敵が減ったと喜べばいいのに」
そういうと彼女はすこし言葉が詰まった後、こちらに尋ねてくる。
「…いつから気づいておりましたの?」
「逆に気づいていないと思ったのか?」
すこしだけ彼女の体が震えている。お面の下の顔は真っ赤になってそうだ。
…正義実現委員会の委員長も同じようなことになっていたのだが、ワカモってこんなに恥ずかしがっていたか?
そう思って考え直す。そういえばまだ先生が着任して間もない時期だった。
私が見てきたワカモはおそらく、ある程度の時間が流れて慣れてきたころだろう。
一目惚れした相手を思うと体が熱くなるのは乙女心だろうか。うんわからないな。
よく考えると、その一目惚れした相手が急に現れた人と同衾なんてすればそりゃ興味も殺意も沸く。
あの時は眠気でさっさと寝たいからとった行動だったが、見ている側からすればたまったものではないの当然だ。
つまり私が原因ってことだ。
困ったことに否定できない。
…それと同時に私わかってしまった。
こいつ上の階に先生がいるから本気出せなかったんだな。
そりゃ上に先生がいるなら、お得意の爆発物系は使うことができないな。
つまり彼女との初対面・初戦闘は、私の運がよかったってだけだったか。
…彼女が強いのは原作が好きだから喜ばしいことではあるが、それはそれとしてなんか自分の実力で勝った気がしないからモヤモヤするな…。
うん、深く考えないようにしよう。
生徒が強いことなんて、喜ばしい限りだ。全国の先生方もそう言っている。
「…あー、そのなんだ、悪かったな。勘違いさせるようなことして」
「…まあ、私の勘違いでもありましたので、謝罪は結構です」
ちょっと今回は反省点がありそうだ。シャーレの部員が増えてきたらもっとひどくなりそうだから早めに直しておこう。
…いや、あの時間まで先生を見ているワカモも悪いんじゃないかとも考えた。
…やっぱりそこを突っ込むのはやめておこう。
さて、少し変な空気になってしまったのだが、これからどうしようか。
みまだに日は昇ってないし空は群青色のまま。
私たちが遊んでいる時間は意外と短かったらしい。
とにかくシャーレ設立早々に侵入者が出たとは洒落にならない。
私じゃなきゃ見逃しちゃうね…というやつだ。
これは早々にセキュリティを強化しないといけないな、今回は狐坂ワカモだったからよかったものの、先生に敵対意識を持つ人物に奇襲を仕掛けられたらたまったものではない。
原作ならそんなことないと言い切れるが、原作と違う世界線を進んできた私にとっては他人事ではない。
しかし私から動いてもほかの生徒が心を開いてくれるかはわからない。やはり先生が交友関係を広めてくれるのを待つしかないか。
まあそれまで、先生を守り切って見せようじゃないか。
それはそうと…。
「用が済んだらかえってほしいのだが?」
「…今日のところは、これで失礼します。…次出会ったときはあの方との関係、詳しく聞かせてもらいますよ?」
「…話聞いてたか?私と先生はそういう関係じゃ…もういないし」
なんでこう、どいつもこいつも逃げ足は速いんだろうな。というかそんなに先生にお熱なら、私より先生を付け回しなさいよ。
…今考えて後悔した、先生の名前出してワカモをシャーレに引き入れればよかった。
なんでそういうところに頭が回らないんだろうか。
今からでも遅くない、船降りるか…?いやどこぞのウサギがまだ休んじゃいけませんよと言ってる気がする…。
…ワカモに関しては先生に頑張ってもらおう。爆死の向こう側を超えてもらって。
…よく考えなくてもガチャじゃないんだから爆死も何もないな。
まだ暗い当たりを見渡す。
ワカモと戦ったにしては損傷を抑えられたほうか。
ほんとに戦車やら人海戦術やら持ち出されてたらこうもなってなかった。
少なくとも、たとえ生徒たちが0歳から先頭の特訓を始めていても、私には4年程度は戦闘経験に対してアドバンテージがあるし、体もまあまあ恵まれたほうだ。
よっぽどのことがない限り、大概の生徒は叩き潰せるとは思う。
そのよっぽどのことが起きるのがこのブルーアーカイブなんだけどね。絶対に許さんぞ運営。
其れは兎も角、先生が生徒への攻撃を許してくれるかは別問題だが。
え、昨日戦闘してなかった?あれは防衛なのでセーフだ、セーフ。
ふと、戦闘というワードで思い出す。
左手首に巻いている時計のディスプレイを操作し、複数のデータのうちの数個を見る。
ミレニアムのエンジニア部に渡せば嬉々としてもらうだろうそれをみて、作ってもらうか考えたが…やめた。
今のところは必要ないしコネもないからね、是非もなし。
ある程度の思考を終えると、唐突に眠気と寒気が襲う。戦いで熱をもった体も冷えてきた。
…この服、どうにかしてくれないかね。
愚痴をこぼしながら、2度値をしに、休憩室に戻ることにした。
*****
…襲撃から時間がたち、夜が更けて朝になった。
今日も変わらずシャーレに来る連邦生徒会の仕事に手を付けている。
夜も考えたが、やはり先生でないとできないことが多すぎる。
というよりも、下手に手を出して関係悪化したり、原作と違う方向に行くほうが面倒極まりない。
それなら遅かれ早かれ、先生が生徒たちと出会い、絆を育むのを待ったほうがまだ安定性はある。
問題は、それ以前にこの世界が原作と同じ世界かどうか、という話でもあるが。
いくら先生側…シャーレの動向を原作に知被けたところで、そもそも全く違う物語が展開してしまうのなら、私の努力は水の泡になってしまう。
つまりは、今後とも世界線の違いについて用心深く観察しなければならない。
…いかん、そんなこと考えてたら仕事が滞ってしまう。ただでさえ原作でも先生が徹夜するぐらいには量が多いのに。
書類に目を通し、次の書類に手を付けようとしたところであるものが目に入る。
「…もう来たか…」
見覚えのある紙、見覚えのある字。
シャーレがまだできたばかりだというのに、もう送られてきたのか。
まあ、あの高校の現状を鑑みれば、早急に対処したいのは当たり前の話だが。
驚きはしたが、同時に安堵もする。とりあえずここは変わらないようだ。
対面側で元気に社畜をやっている先生に声をかける。
「先生、少し時間を」
「…はっ、仕事に集中しすぎてた…どうしたの?」
紙を広げ、見やすいように先生の目の前にその紙を差し出す。
記念すべきか恨むべきか、時間が待つはずもなく物語が始まる。
その始まりは、凶報となるか福音となるか。
「早速シャーレの本業開始のようです。差出人は…
アビドス高等学校、だそうです」
こんにちは、お久しぶりです。
前回の話からおおよそ五ヵ月が過ぎました。…マジです?
罠だ、これは罠だ!私たちを陥れるための罠だったんだ!…言い訳話この辺にしておいて、一応こんなに投稿期間が開いてしまった理由を話しますと、1つめが単純にリアルのほうがめちゃくちゃ忙しかったからですね、はい。前の投稿は春期休暇中であったため、ある程度の時間が取れていましたが、休みが明けるとさあ大変、小説を書く時間が無くなったんですよね。これが1つ目の理由でして、もう一つの理由が自分で作った作品に解釈違いを起こすというunwelcome school流れそうな理由だからです。実はこの話は前回の投稿の大体三日後には書き終えていて、あとは投稿するだけだったんですが、誤字修正がてら読み返すと解釈違いが起きてしまいまして。細かく言えば、ワカモとの戦闘の場面とかですね。戦闘内容自体はあまり変わってなかったんですけども、読み終わった後に「ワカモは強い生徒だから負けない!」と私の中の先生が盛大に解釈違いを起こしてしまいました。書いていたときは問題なかったんですけどね。一応特に支障がないので言っておきますと、設定的にはカイナは転生していて0歳から記憶を保持している、ブルアカの世界だと気づいているため、幼少時に生徒達がけんか等の理由で銃器を使うのに対し、カイナはかなり幼少の時から戦闘力増強のために、22年間という時間をフル活用して今の強さに至る。という設定があるんです。だから、生徒たちが0歳児から戦闘訓練を始めていたとしても、最低4年のアドバンテージと別世界での戦闘の記録があると小説内にも書いてあるため、ワカモが負けても仕方がない、というのですが、それを許さないが故の解釈違いですね。原作でも似たようなことが起こりましたが、あれは原作が提供しているからよいのであって、ぽっと出のキャラが既存のキャラに買っていいものか…と悩んだ結果、時間が無くなって今に至ってます。結局、あまり戦闘描写は変えずに、負けても納得のいく理由を付け足すことで解釈違いをある程度緩和しましたが、やっぱり私も先生。愛しの生徒が負けてる姿なんて見たくないんですね。なので今後、カイナと生徒が戦う際には、勝敗にかかわらず少しでも納得のいくような理由を付けることを心がけたいと思います。いや大人に対しては情け容赦なくぶちのめさせますけどね(笑)。長々となってしまいましたがまとめると、原作を踏み台にするのではなく、原作とともに歩めるような物語にしたいということです。今後は時間もとれるようになってきますので、おそらく今回ほど投稿期間が開くなんてことはないでしょう!多分きっとmaybe。二次創作を書くって、とても難しいですね。ただでさえ面白いものを書いているほかのブルアカ二次創作製作者が神のように見えてきました。
あとがきが結構長くなってしまいましたが、ここらで終えたいと思います。あと、前回、前々回にて誤字修正をしてくれた人に最大限の感謝を。ありがてぇ…!!!!こうして書いてる間にもめちゃくちゃ誤字を連発しているので、ほぼ確実にあると思いますので、一応見直しましたが、誤字があった場合には、できれば報告していただけると助かります。
次回も今回のように話の解釈一致が難しいと時間がかかる可能性があるので、気長に待っていただけると幸いです。そんなあなたに素晴らしい提案をしよう。君もブルアカの二次創作を読み漁らないか?(笑)
それでは、また遠くないうちに。