キランソウの花束   作:chaiNTec

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備えあれど憂いは絶えず

 

アビドス高等学校。

原作、ブルーアーカイブを通るならだれもが通る道だろう。

ストーリー名「対策委員会編」の主役としても覚えられている。

内容は読んで字のごとく、対策委員会を主としたストーリーである。

つまりは、物語の始まりでもあり、後々に来るであろう物語においても大きなターニングポイントになってくるであろう、重要な章なのだ。

なので、ひとまずアビドスの書記からこの手紙が来たということは、ほぼ確実に原作と同じように進むと考えてもいいだろう。

あくまでも、アビドス周辺に限った話ではあるが。

さて、問題はここからである。…なんかずっと「問題はここから」みたいな状況が続いてるな。ひとえにバタフライエフェクトが全部悪いのだが。

原作通りに万事うまくいけばいいのだが、そうじゃない場合を考慮しなければならない。

現に、私のいた世界では最後があんなのになってしまったから。

二度も同じ轍を踏みたくないし、踏ませもしない。

よってここで選択すべきことはといえば。

 

「先生、アビドスの情報はちゃんと頭の中に入れてますか?」

 

“ごめん、実のところうわさや地図でしか聞いたことがないんだ…。よかったら教えてくれないかな?”

 

先生がそう言っている間にも、私は左腕に巻いた時計の画面を操作し、アビドス、そしてアビドス高等学校の周辺地理の情報を先生の目の前にモニターのように投影する。

 

“…カイナのその腕時計って、かなり高性能だよね。やっぱり、ユウカみたいにミレニアムが作った時計なの?”

 

「ん?あぁまあ…あながち間違いでもないです。戦友というか…古い友人が、私のために持てる力のすべてで作ってくれたものなので」

 

そういえば前の世界にいた時から、この時計を付け始めてもう2年以上は経過していたのか。

あまりに使い勝手が良すぎるから、外すメリットもないため基本的につけている。

材質はよほど良質なものを作ったのだろう、そこまで使っても傷一つない外郭に、腕時計が持つ面積量でなしえるとは思うことのできない、高度な性能を持ち合わせている。

多分、説明をしたら皆が欲しがると思うぐらいには、旧友として誇らしい逸品だ。

知ればだれもが望むだろう、このようなハイスペックな腕時計が欲しいと!

…いけない、話がそれた。

人の業さんは隅に寄せておいて、ほかに大事なことがある。

 

「腕時計の性能の話などはまた今度するとして、アビドスについての説明をします。どうせ現地に赴くんでしょう?」

 

“そうだね、困っている生徒がいたらほおっておけないし”

 

「…生徒を手助けするのも大人の役目、ですからね」

 

“うん、私たちの仕事がそうだから”

 

嘘偽りのない、真摯な生徒に対する愛情は、純情通り越してもはや狂気に近しいものさえ感じる。

まあそれに惹かれた私は大差負けなのだが。

 

「はぁ…まず、アビドスとは、キヴォトスにおいて珍しく、砂漠地帯にある学園です。昔は画面で写っているような砂漠が広がってはいなかったみたいですけど」

 

“砂漠が広がっていなかった?”

 

「はい、昔はキヴォトス最大の学園として名を馳せ、かなり繁盛した学園であったのですが…数十年前に、突然の砂嵐現象が発生。県境は激変してオアシスも枯れ、近隣住民は退去を余儀なくされるといったことが相次ぎ、徐々に衰退していってしまったというのが昔からアビドスにかけての出来事です」

 

“そ、それは大変だね…住民は退去したり転向したりしたと思うんだけど、じゃあ今のアビドスに生徒たちはどのくらいの人数がいるの?”

 

「それがこれまた面倒でして…現在、アビドス高等学校に在籍している生徒は、確認できる範囲で見ても5人ほどしか在籍していません」

 

“ご、5人…?!それってかなりまずいんじゃ…?”

 

「はい、しかも昔に砂漠化を抑えるために多額の出費を行ったためか、現在では多くの借金を抱えているとのことです」

 

“…今すぐに行ったほうがいいんじゃないかな、これ”

 

「そうですね、手紙の内容を見ても早急に問題解決に勤しむべきです」

 

“よし、そうと決まれば今すぐにでも”

 

「はいそこまで。ここから大事なことを言うので、その立ち上がろうとしている足を抑えてください」

 

さて、私が問題といったのはここからだ。

先生がアビドスに徒歩で行くこと、それは原作通りである。

通常であれば補給物資を持たせ、先生にGOサインを出すところではある。

ここが本当に、原作の世界であるならばの話だ。

例えば、先生は原作では2,3日遭難した後、ある生徒に拾われるのが物語として書かれていたが、もし拾われなかったとしたら?

その場合、先生は放浪の末死亡してしまう可能性がある。

ほかの可能性だってそうだ。

もし道中で先生と敵対するような連中とであったら?もしあの折るね☆されているのが高頻度で見つかるあいつと出くわしたら?もし急な天候変化により、安全性を確保できなくなったら…?

バタフライエフェクトを加味するとこれだけじゃ足りない。

はっきり言っていくら対策しようがきりがない。

しかも考察ではあるが、先に行ったある生徒に拾われるという行動。

これもターニングポイントになるかもしれない。

下手こいて後々の結末が変わったらそれこそシャレにならない。

頭も胃も痛くなってきた、せめて結果は収束していくという一種の考察が嘘でないことを祈る程度しかない。

しかしやはり優先目標は先生の命だ。それに変わりはない。

 

「水筒、予備とで2つ持って行ってください。砂漠は高温が見込まれる可能性があるので保冷剤なども。また、もし遭難しても見つけられるように信号拳銃、シッテムの箱が充電切れを起こさないようにモバイルバッテリーも。地図とコンパスは確定事項として、地図にてアビドス高等学校がどの位置にあるかの把握を徹底、あとそれから…」

 

“ちょっ、ちょっとまって!!結構多い!”

 

「そりゃそうですよ。砂漠の遭難事故なんて生き残れる確率は極めて低いですからね。しかも環境変化が著しいアビドスならなおのことです。これでもまだ足りませんよ」

 

念には念を。アビドスのように環境変化が激しくない砂漠ですら遭難事故は絶えないのに、そうじゃないならもってのほかだ。

 

「…とにかく、あとでメモを渡すので、それに書かれているものは全部持って行ってください。当然物資も大切ですけど、一番は自分の命です。先生は少し、いやかなり自分の命に疎いので、ちゃんと意識しないとだめですよ」

 

“な、なんだか、私のことを昔から知っているみたいな言い方だね…?”

 

「………気のせいです、ただの勘ですよ、勘」

 

…少ししゃべりすぎた。いくら容姿が同じだからって、中身まで同じであるとは限らない。今のところは全く同じだが。

まだ私は、こちらの世界とあちらの世界の区別ができていないらしい。

…そういえば、あのことを失念していた。後からでも遅くは…いや今やろう。そうでないと不安で押しつぶされそうだ。余分な知識に頭を使ってしまうと、余計なことまで考えてしまう。はっきり言って思考の無駄使いだ。今のうちに不安要素を潰して余裕を空けなければ。

 

「先生、その前に少しいいですか?」

 

“どうしたの?”

 

私…出なくても、ある程度原作を知っている人間がもし、ブルーアーカイブの世界に来た際、恐らくほとんどの人間が確認することだろう。

それの結果次第では今後の対応、そして世界の移り変わりが確定していくのだから。

 

「シッテムの箱、貸してもらえませんか?」

 

“シッテムの箱を?”

 

「はい、確認したいことがあるので」

 

“いいけど…指紋認証だから、多分開かないよ?”

 

「その時は先生に直接聞きますので」

 

そういいながら先生が差し出してきたタブレット…シッテムの箱を受け取る。

現在は開いていない状態なため、スリープ状態のスマートフォンなどと同じ画面が真っ暗な状態となっている。

真っ暗な画面には唯一、覗き込んでいる私の顔が見える。

化粧は必要最低限、20代の女性とは思えない飾り気のなさに笑いすら出そうになる。

…自分の顔をよく見ると美人なんだが、興奮とかはしないな。

きっと前世と同じぐらいの時間、この体で過ごしてきたのだからだろう。

ナルシストなら自分の顔に興奮とか感激するんだろうが、私はそうではなかったらしい。

そういえばBLゲームのロードが暗転から白い画面になったのは、ロード中にプレイしている人物の顔が反射して見えるということを対策した結果らしい、いやそんなことはどうでもよくて。

画面をタップする。

当然ながら、シッテムの箱は沈黙を続けている。

指紋があっていなければ、そもそも電源すらつかない、ということなのか。

はたまた、中にいるイチゴミルク大好きなOSがぐーすか寝てるからだろうか。

…とりあえず、外部からの物理的な干渉によって開かないことは確認できた。

ハッキングなどについては問題ないだろう。

原作では、中にいるOSがくしゃみをするだけで、ハッキングを吹っ飛ばせるぐらいの強固なガードがある。

ひとしきり触った後、先生にタブレットを返す。

 

“どうだった?”

 

「先生が言っていた通り、開きませんでしたね」

 

先生がシッテムの箱をまじまじと見る。

指揮能力の向上や、弾道を曲げると言った機能以外は、ほとんど通常のタブレットと大差ない。

これがオーパーツだ、なんて言われても、はたから見れば疑問符しか浮かべられないのも当然だろう。

 

“…それで、カイナが聞きたいことって何だったの?”

 

…アビドスに行く時間もある、早々に終わらせよう。

少しばかりの緊張感が私を包む。

この結果次第で、今後の行動が大きく変わる。

浅い呼吸の後、意を決して言葉を発する。

 

「…先生、一つだけ聞いてもいいですか」

 

“…?そんなに改まるようなことなの?"

 

「はい、死活問題ですので」

 

この世界に来て、原作をある程度知っている人なら誰もが確認しないといけない問題だ。

 

「“…我々は望む、ジェリコの嘆きを。

 …我々は覚えている、七つの古則を。”

…パスワードは、これでしたか?」

 

先生がはっ、と息を呑む音がする。

息を飲みたいのはこちらの方だ。

緊張のせいで心臓が鳴り止まない上に、息が荒くなるのを抑え、先生が発する言葉を待つ。

さて…どっちだ。

…先生が息を吸う。

 

“…いや、私が入れたパスワードは、確か「ジェリコ」と「七つ」が逆だったはずだよ"

 

「…」

 

その言葉を聞き入れて、数秒。

長距離を走り切った陸上選手の状態のように鳴り響く心臓と息、そして緊張感がほんの少しづつ薄まっていく。

目元に手を当て、多分部屋中に響くぐらいのため息を放つ。

 

“だ、大丈夫?!何か気に障るようなことでも言ったかな?!"

 

「あー、大丈夫です。確認したいことは確認できたので」

 

本当に緊張した。

もしここが原作の世界軸ではなく、原作にある方の別世界だった場合…という可能性は潰れた…と思う。

いやこれで潰れてなかったら私は恨む、神が許してもトミーガンで蜂の巣にしてやる。

正確には、その世界線という可能性がつぶれただけで、私の元いた世界のようになる可能性はまだある。

…分岐点探すのに毎回緊張しなければいけないのか?

悪ぃ、やっぱつれぇわ…。

それはそれとして、かなり大きな一歩だ。

原作に近い世界線ということは確定したので、原作どうりに修正させる際に不必要な懸念点を出さずに済む。

…ここまで考えておいてなんだが、パスワード聞かれて違ってた瞬間に大ため息を付くような行動、不審がられてもおかしくないのだが。

当の先生はこちらのことを心配そうに見つめているだけだ。

 

「…やっててなんですけど、質問とかしないんですか?」

 

“えっと、そうだね…"

 

少し考える素振りをした後、先生が言う。

 

“確かに気になるよ。でも、大事な事情があってのことだと思うし、何よりカイナがあんまり聞いてほしくないって言ってるのだから、踏み込むようなことはしないよ。それに、大切な生徒を疑うわけにはいかないからね"

 

「…心中察して頂いて、感謝します」

 

ほんとにそう、別の世界の記憶持ってますとか、本来の行動を知ってますとか打ち明けて、先生の行動に変化が生じる…具体的には、その世界線の結末等を教えて、先生が行動をためらってしまう、なんてことがあってはならない。

100%、とまでは言わないが、先生は高確率で先生の直感で行動した方がいいと個人的に考えている。

先生が生徒を助けるにあたって、足枷になるようなことはあってはならない。

だいぶ状態が落ち着いてきた、いい情報が確定した後の安心感は強い。

 

「引き留めてしまってすみません。…アビドスに行くための準備を始めましょうか」

 

*****

 

その後、私が書いたメモの通りに準備をし、先生はアビドスに向けて出発した…のが1日前の出来事。

え、なんで急に1日飛ばしたのかだって?…なにも!…な゛かった…!からだ。

はっきり言って仕事しているだけだし、それ以外に私が何やるかといわれても何もないためでもある。

本当なら私も先生についていくほうが確実性があるのだが、連邦生徒会から出された仕事を先生の分まで終わらせなければならない。

この仕事が終わり次第、私も先生の後を追ってアビドスへと行く予定だ。

幸い昨日終わらせた分、普段よりかは仕事の量は少ないため、2日あれば事足りると思われるし、私がいない間は、ちょうどスズミとユウカが時間が空いているとのことなので、少しだけ作業を終わらせてもらうことにしている。

悪いが今回の当番に先生の顔は見れない。ひとえに先生が生徒思いの先生であったためだからね、是非もなし。

そんなこんなでデスクワークと洒落込んでいるのだが、特に話すことがない。

連邦生徒会から出される仕事は様々だが、まあいかにも統制してる側の仕事だという印象。

まあ政治方面の書類仕事が主なものだ。

…よくよく考えたら、大体18歳以下で政治家がやるような仕事をやっているようなものか、キヴォトス人て凄い。

私が転生前に17〜18歳の時にやってたことなんて、それこそ大学受験とか高校時の勉強、部活動や文化祭・体育祭だったりで。

生前の世界と比べるとあまりにも年齢に対してやることが大きすぎる、生前の私ならもう禿げ上がってそうだ。

まあ、そんな私も大学卒業前にして死んだのだが…。

合計年数はこの世界の生徒たちよりも断然上だけど、最大年数で考えると実は今と昔、どちらも4年程度しか変わらない。

私は大人、なんて言っていたが、実際のところ大人であった年数は合計して8年、しかも前の世界はキヴォトスが滅びてまともに生活もできていなかったため、カウントできるかどうかすら怪しい。

この世界で最初に先生と会った時に号泣してしまったように、年数の割に私はまだまだ子供なのかもしれない。

でも、大人ってそういうものだ。

誕生日が来て、今なら18歳になると急に子供から大人になる。

何が変わったのかもわからないまま生活をし、大学生を終えた後…人によっては専門高校などを終えてから、仕事に就くようになる。

真に大人になるというのは、実際のところ慣れかもしれない。

中学1年から見た中学3年が大人びて見えるように。

高校生から見た大学生が大人びて見えるように。

子供から大人と言われる年齢に上がって、慣れていってようやく大人と呼べる人間になるのかもしれない。

それがいい方向になのか、悪い方向になのかは別として。

先生が指している大人というのは、勿論いい方向の大人だと思う。

キヴォトスの大人で見られるのは、生徒を見下し、搾取する大人が多い。

お前らのことやぞブラックスーツとタコのエンブレムの社長共。

実際、人間ってそんなものだと思う。自己の欲望のために他人を利用し、必要とあれば略奪さえする。

高度な知能を持ったが故の運命なのだろう。

その点に関して言えば、キヴォトスの生徒にも当てはまる人物が多く存在する。

前者と後者の違いはきっと、良識の有無だろうか。

前者である悪い大人たちは、それが悪いと知りながらも行う。

後者である生徒たちは、自分の正義などに従って行動する、そしてそこに善悪の区別がついていないのではないのだろうか。

大人になって、社会のルールを身につけ、それを犯すか。

子供だから、社会のルールがまだ身についておらず、好奇心のままに行動をするか。

私なりに考えて、違いはここだと思う。

そして、先生が生徒たちに見せる大人の例。

いい大人というもの。

側から見れば、自身の欲望を殺し切って、他人のために尽くすような人間だ。

先に言った、悪い大人よりも自由度はないだろう。

しかし、それでもやるのだ。

理由は…まあ一般的な回答として、その方が正しい、善である、というのが無難な回答であるが。

私の考える理由としては…「存続」だろうか。

生物とは生まれ、育ち、そして死ぬ。

その循環の中で子を成して、木の根のように多くの枝分かれをするようになる。

そうやってして、繰り返していく、生命の基本的なことだ。

その中で必ず、成長が鍵となっていく。

親がやることを子が真似するように、先人がなしたことを後世で繰り返したりする。

先ほどの例で当てはまれば…悪い大人がやるようなことを、生徒たちが真似するようになる。

そうして成長してしまえば、悪い大人の出来上がりだ。

このような連鎖は、はっきり言って失敗だ。

別の言い方をすれば、生物学的に非効率といったところか。

生きるから死ぬまで、循環を繰り返していくのが生物であるのなら、その循環を邪魔するような行動は生産的ではない。

年齢が下の人物を搾取し、搾取された側が大きくなって同じように搾取する側になるというのは、搾取される側の成長を著しく損なってしまう。

そうなれば、種の存続も夢物語になってしまう。

…とまあ、大層なことを言ってるかのように感じるかもしれないが、じゃあ先生はそんな大層なことを考えていい大人を生徒たちに見せているのか、と言われるとそうではなくて。

先生は、生徒たちに優しい人になってほしいのだと、私は考えている。

悪い大人のように、明確に他者を陥れて自身の欲を満たすような人物ではなく。

先生のような、ある程度の欲は持ちつつも、他者に歩み寄り、寄り添うことのできる優しい大人になって欲しいのだと。

負の連鎖を断ち切るには、誰かがやらなくちゃいけない。

生物的にも、精神的にも。

次の世代に成長を促し、存続を続けるために。

私は…出来るのだろうか?

精神的に大人といえないのかもしれない私が、先生と同じように、シャーレの大人として、生徒たちに“いい大人"としての姿を見せることのできるのだろうか…?

キーボードのEnterキーを押し、作業を終える。

…ふと思う、私は何を考えているんだ?

最初は私も年齢だけは大人で実際は子供かもしれない〜みたいなことから始まった気がする。

考え事をしている最中に作業は進んだから別に良かったものの、いったい私はいつから哲学者にでもなったつもりなのだろうか。

作業していたら急に悪い大人・いい大人の理由とか、生物の存続だとか、変なことを考えすぎなのではないのだろうか?

別にガセを言ったわけではなく、自分なりに考えていたことを頭の中で考えていただけなのだが、それはそれとして変な思考であることには変わらない。

…大層な理由じゃなくても、答えは明白ではないか。

大人は子供を守る義務が、責任がある。

常識的に考えて、これでいいのだ。

それを私ときたら、生物学的やらなんやらと。

まるであの、ブルーアーカイブじゃないゲームの3000年生きたフェリーンの構文と同じじゃないか。

…疲れてるんだろうか、うん疲れてるだろう。

じゃなきゃ自分が大人であるという疑問のためにここまでの思考、考察は巡らせない。

仕事は大体3/4程度終わっていた。

別に集中していないわけではなかったが、予想以上に進みが早く感じられた。

顔を上げて天井を仰ぐ。

あったのは白い天井ただそれだけ。

ため息をつき項垂れると、連邦生徒会の制服に身を包んだ私の身体がある。

…そういえば、服を買わなくてはならない。

よくよく考えたら銃弾もそうだ。

昨日のワカモとの戦闘でやらかしたばかりではないか。

昔の私だったら絶対にやらないようなミス、恐らく無意識的に動揺などがあるのかもしれない。

…覚えているうちにさっさと揃えてしまおう。

どうせ今日中にアビドスに行くことはできないのだから、仕事のせいで。

気分転換がわりになるよう祈りつつ、私は席を立った。

 

 

 

*****

 

 

 

私が寝た休憩室と同階にあるコンビニ、エンジェル24に私は足を踏み入れていた。

一応説明しておくと、エンジェル24は名前の通り、24時間営業の小規模商業施設であり、コンビニである。

と、いったはいいものの、コンビニかどうかは疑問視されてるらしい。確か前世で原作をやっていた時、コンビニと言い切るような時もあれば、コンビニであるもの、コンビニじゃないと言われていたりと、はっきりしてなかった記憶がある。

私から見たらどう見てもコンビニだろ、と言いたいのだが、まあ公式がどっちか決定するまでは大きく言わないようにしよう。

その公式が決定する瞬間は見れないのだけど。

このコンビニは一応、セルフレジではないため店員がいる。

そう、おでこが光り輝くあの子のことだ。

…まぁ、複数名該当しそうな生徒はいるが、エンジェル24の店員は一人しかいないため、割愛しよう。

店に入ると、人が来ないためかその店員は暇そうにスマホをいじっていた。

よっぽど暇なんだろうな、そりゃ原作でも先生か当番の生徒しか来なかったのに、その二つともいないとなればスマホだっていじりたくなる。

そんな彼女を横目に、目的のものを探し始める。

とりあえず、銃弾だ。

普通の、いや日本のコンビニになら絶対にないだろう銃弾コーナーに目を向ける。

アサルトライフルやスナイパーライフル用の銃弾、サブマシンガン用のものまでそろってある。

この世界にきてすぐは慣れることができなかったが、今となっては慣れてしまった。

これでいいのか日本人、いやキヴォトス人だからノーカンだ、ノーカン。

そんなどこぞの班長みたくノーカン連呼を脳内でしていると、目的の銃弾が目に入る。

パッケージを確認、そして実物も確認する。

45 ACP弾で間違いないようだ。

とりあえずこれと、あともう1品ぐらい買って、ついでに飲み物も買おう。

ちなみにお金は先生から軍資金でもらっているため、よっぽどのことがなければ使い切らない…と思う。

少なくとも銃弾を水のように使うようなことをしなければだが。

まぁ私の武装で弾丸を多く消費する武装は少ないし、仮にそういう武装を作成・譲渡されたとしても、そんなバカスカ使わないだろう。

言ってて思い出した、ARとSRの弾どうしよう。

あの武器二つとも改造してある上、ここ数年はまともな弾丸を使ってなかったから既存製品のものが使えるかどうかもわからない。

クラフトチェンバーって銃弾作れたっけ?なんでも作れるからいけるかも?

ああでも、結局素材が必要だったはずだから…どうしよう。

エンジニア部に作ってもらう?コネもかかわりもないから無理だなこれ。

…いやでも残弾はまだあったはずだから…2マガジン分しかなかった覚えがあるけど。

とりあえず節制するか…嫌でもハンドガン縛りになることが確定した。

先が思いやられる…未来のことも考えないといけないのに目先のことがまず多すぎる!

ため息をつきながらほかの商品に目を向ける。

ほかに買うものは…とりあえず40mmの榴弾は複数個買っておくとして、あとついでにスピードローダーも買っておこう、昔なくしてから予備もなくなったはず。

それも手に取って、あとは飲み物だ。

飲食類や雑誌を見ると、日本のコンビニと変わらないんだが…やはり銃弾が物騒というか存在感があるというか。

冷やされている棚の中から一つ、ブラックコーヒーを手に取りそのままレジに向かう。

相変わらずレジにいる店員は暇そうだ。

 

「ソラ、これよろしく」

 

「ひゃあっ!?…カ、カイナさん!?いつからいたんですか?!」

 

「数分前程度に来てたぞ」

 

うん、原作通りの反応だなこれ。

一応顔合わせとかは事前にしておいた、目の前で小忙しく商品のバーコードをスキャナーで読み込んでいる彼女、ソラはエンジェル24シャーレ支店でバイトをしている中学生だ。

確かどこかのストーリーではゲヘナ志望?と聞いた覚えがある気がする。

それ以外に情報がない…というわけではないが、いかんせん名字もわかっていなければ、どこの中学に所属しているのかもわからないので、ためになるようなことは私の記憶にはない。

…前の世界では、シャーレに来る時に見かけた覚えが複数回ある。

ある、が、そもそも私がシャーレに来る際は必要なものを全て整えてから来るため、エンジェル24にやる必要がないのもあってか、面と向かって会話したことはほとんどない。

あの時…数年前にあのことが起きてからは、顔どころか動向すら把握できていない。

ソラは、前の世界で生きているのだろうか…?

支払いを現金で済ませながら考える。

…生きていて欲しい。

殆どの…先生に関わった全ての生徒たちが幸せになって欲しい。

結局、叶わぬ夢だったけど。

前世から情報を持ってて、生まれてから高い知性を持てていたのに、結果はあのザマだ。

私がもっと努力していれば、私がもっと才能を持っていれば。

そう考えて、思考を中断する。

…センチメンタルになりすぎた。

過去を振り返るのは大事だけど、失ったものを元には戻せない。

過去を大切にしたい気持ちがあるなら、いつでも思い出せるように今を生きようと、友も言っていたではないか。

…1人で悩んで迷走したってなんの成功も得られないって、私は前世から理解しているのに、学習していないようだ。

早急にこの悪い癖を治さなければならないな。

どんなに頑張っても、治せそうになさそうな()だけども。

 

「…あのー?」

 

「…すまない、少し呆けてた」

 

レジには恐らく売買が終わったであろう袋に入れられた商品と、少し訝しげにこちらを見るソラの顔があった。

深く考えすぎていた。

 

「体調が悪いなら、薬でも買って行きますか?」

 

「いや、そこまでは要らない。単純に考え事が多すぎて悩んでただけだ」

 

袋を手に取り、その場を後にしようとし、ふと思い出す。

 

「ソラ」

 

「は、はい?!」

 

「…今後とも御贔屓に」

 

「…!ま、またのご利用をお待ちしています!」

 

さっきから嘆いてばっかだけど、こうやってまた知っているキャラの知らない部分を見れることだけは、いい点か。

…銃弾その他を買って、次に買うものといえば、服が欲しいな。

ここらにはあまりいい店がなかった覚えがあるから、ショッピングモールにでも行こうか。

 

 

*****

 

 

…といって現地。

私は足を踏み出せずにいた。

というかあまり入りたくない。

理由はやはり、前の世界の惨状を思い出す…のもほんの少しあるけど、そこじゃない。

数秒立ち尽くした後、意を決して中に入る。

…慣れない!主に女性専用の衣服とか、化粧品とかがずらりと並んでるの!

ここ、キヴォトスの中心街にあるショッピングモールは、様々な学園の生徒が足を運ぶ、品揃えのいい場所なんだけど、当たり前だがそんな場所には女性しか来ない。

はっきり言おう、気まずい。

22年たった今でも気まずい。

いや、22年前の転生したばっかのころよりかはマシなんだが。

22年間で当然、学園生活もしてきたし、女性とかかわるのはやってきた。

というか生徒が女性しかいない都合上、必然的に女性とのかかわりが多くなる。

キヴォトスに人間の男性が先生含めて2人以上いるのはなんだか…と思っていたあの頃の私を殴って言ってやりたい。

転生して10年もたてば気の許せる男友達みたいな生徒が欲しくなるぞって。

前世からよく男ばっかとつるんでいた私には、キヴォトスはかなり気まずい世界だったようだ。

いや、前世でも女友達とかはいたし、一緒に遊びに行ったこともある。

複数人の女友達と、全員女友達は話が違う。

あぁ男だけで遊びに行ってバカ騒ぎがしたかったキヴォトスの生徒での生活。

…話が逸れた。

こういう場所は昔からそうだが、あまり入らないようにしている。

服装はいつも制服か、男物の服を着ていたからこういう場所にはなおさら来なかった。

中に足を進めていくと、左右の店からいやでも女性の衣類とかそういうものが見えてくる。

これに慣れると男だった私の尊厳はぐちゃぐちゃになってしまう。

22年間の男の尊厳を22年間の女の生活では打ち消せなかったよ。

男だった時から思う、なんで女性ってあんな肌面積が多服ばっか着るんだと。

答えは着てみてもわからなかったよ、着てなおさら寒いと思ったほどでもあるし。

本当のことなら今着てる連邦生徒会の制服から一新して、男物のやつに全部変えようかと思ってはみたものの、お金は有限なのでそこまでは買わないようにした。

ということで、今私がここに来たのは、制服の上から着る上着を探しに来た。

…この制服思っていた以上に薄い…!リンとかアユムとかこんなの着てたのか…?!

確かに最初着た時は通気性がよく、軽いからいい…スカートはスースーするけどとは言ったが。

通気性がよいのと単純に寒いのは話が違う、この服でレッドウィンターに行くときなんて体が凍り付いてそうだ。

そんなことを考えつつ、エスカレーターに乗って上へと上がる。

あー見えない見えない女性用の下着とか口紅だとか見えない見たくないもうヤダ帰りたい気まずい。

シャーレ付近に気軽に着れそうな服が売ってあったらよかったのに。

今のシラトリ区は、治安がまあまあ悪くてしかもあの場所だからスーツ程度しか売ってないのが悪い。

…何か視線を感じるけど、たぶんこの制服を着ているからだろうか。

まあ今は連邦生徒会長が失踪して早いし、その捜査が遅いせいで連邦生徒会への信頼が下がっているかもしれない。

単純に私の身長が他より高いだけかも。

もうしばらく測ってはいないが、まあ大体先生と同じかそれより小さい程度だったので、170ぐらいはあるんじゃないかな、私。

原作の生徒でも、170㎝以上はあまりいなかったし、女性の平均身長が大体158㎝だったはずなので、そりゃ目立ってもしかたないな。

まあそこまで視線が集中しているわけもなく、ただただ物珍しいだけだと思う。

エスカレーターを降りて、店を探す。

とことこ歩いていると、良さそうな上着を売っている店が見えたため、そこに入ることにする。

中に入ると暖色系の照明が私を照らす。

ハンガーにかけられている上着たちを物色してみる。

パーカーやらコートやらが並んでおり、好みに合わせるにはここは最適なようだ。

ダウンジャケットとかもあるようだがどうしようか。

薄い薄いとは言ったものの、制服のコートからさらに着ればさすがに寒さも薄まるだろう。

いや私が寒がりなだけなのもあるが。

…寒がりで思い出した、グローブとかも買っておかないと。

銃を撃つときは手の動きが激しくなるため、肝心な時にすっぽ抜けましたとかなったらシャレにならないからな。

…とりあえず今はこれでいいか。

ジップアップで黒白のパーカーを手に取る。

値段も安いし、生地も薄すぎず厚すぎずでちょうどいい。

ポケットは外も内にもあるからマガジンが入れやすいし、こういうのは普段使いもできるから変に選ばないで着ることができる。

会計を済ませるためにレジまでもっていく、そういえば衣類をまっとうに売買したのも久しぶりだな…。

支払いをしている間、特に面白いものもなかったのでさっさと終わらせて袋に包んでもらい、持ち帰る。

特に何もない時の空気は少し気まずいな、うん。

せめて前の世界から着てきた服がボロボロになっていなければこんなことには…。

当分は給料で所持金が潤うまで、制服で生活しないといけないな。

普段着で着るのは上下どっちも含めてあと3着ずつぐらいほしい。

そのぐらいあれば、普段着る分には困らないだろう。

…下着?そんなものよくあるスポーツ系のものでいいじゃないか、絶対にここに売ってあるような洒落た下着は着ないぞ…!

あと、先生からお金を借りるのはなしだ、私だって腐っても大人だし、大人なら自分でお金は稼がないといけないからね。

そんな考えをしながら帰路に就く。

グローブはあとででもいいし、今のところはほかに買うものもないはず。

手帳はシャーレの付箋とかを代わりに使えばいいし、気になるのは銃弾ぐらいか。

あぁいや、足も欲しいな。

電車でもいいけど、やはりいろんな場所に行くとなると…時間に縛られることのない交通手段が欲しい。

…先生がどんな状況でも、安全に運べる手段として。

ここは前の世界とは別の世界で、何が起こるかは分かったものではない。

対策なんていくらでもすべきだ、某ステルスゲームの蛇もそういっているに違いない。

今だってそうだ、対策は複数に分けて行ったとはいえ、先生の身に危険がない保証はどこにもない。

結局私は、原作というレールから外れるのを恐れて、後手に回ることを決めた人間かもしれない…。

だったら決めた分だけ、対策していかないといけない。

…連邦生徒会に頼んで、シャーレ用の車も用意してもらおう。

それができないのなら、ローン組んで借金してでも買おう。

少なくとも生身で移動するよりもはるかに安全性は高まるし、機動力のない先生を運ぶのにはうってつけだ。

知らないところで先生が危険な目に合うぐらいなら、どんな手段を使ってでも、先生を守らないと…。

さっきまではたから見たらTSモノの可愛らしい考えが、一瞬にして冷めていく。

現実に引き戻されるというのは、こういうものだ。

何度も何度も。

吐き気がこみ上げるぐらいに、味わってきた。

…早く帰ろう、こんな話していると不安になってくる。

さっさと仕事を終わらせて、明日にでも先生の顔を見に行かねばなるまい。

店を出て、下りのエスカレーターに乗る前に下の階層が見える。

服の上から服をかぶせて、はしゃぐ生徒たち。

大量の紙袋を持ちながらも、楽しそうに隣の子と会話する生徒。

いろいろな子たちが、この世界(ブルーアーカイブ)の青春を謳歌している。

前の世界では、どうなったかもわからないのに。

もし…前の世界と同じようなことが起こった時。

 

私は生徒(この子たち)を救えるのか?

 

 

 

 

*****

 

 

 

あれからシャーレに帰ってきて、デスクワークをこなしている。

時刻は午後6時、そろそろ夜になってくるころだ。

適度に買っていた飲み物を飲みながら、仕事に勤しむ。

けれど、買い物から頭に出てきた考えが、脳にこびりついて離れようとしない。

原作の先生も確か、アビドス高校…の生徒に拾われるまでは、数日間砂漠を放浪していたはず。

だから、数日間立てばアビドスのストーリーが始まるはず。

 

…本当に?

 

もしかしたら今、先生が大変な目に遭っているのかも知れない。

いや原作でも遭難はしていたのだけれど。

シャーレが超法的機関というのは周知の事実なため、狙われる可能さも高い。

現に、アビドス編ではそれが原因で狙われていることがあった。

そして私は、原作のように物事が運ばない可能性があるのを知っている、知ってしまっている。

現状シャーレには連邦生徒会という後ろ盾はあるものの、他の学園とは一切の関わりを持っていないため…いや実際にはあるんだが、ずっとシャーレにいられるほど彼女たち(チュートリアル組)は暇ではない。

1人で全てを解決できるわけではないが、無いものはない。

どうするべきだ?過干渉はそれこそ、原作からかけ離れる可能性が大いにあるが、かといってそういう時に原作と違う状況が起こると、取り返しのつかないことになる可能性がある。

考えがまとまらない、結局何が言いたいのだ私は。

Enterキーを押し、イライラと考察と…薄い恐怖と焦燥を整理しながら仕事を終える。

ひとまずこれで、大部分の仕事は終わった。

あとは当番に任せてもすぐに終わる、もしくは学園生活に支障がない程度の仕事量しかない。

…今からでもアビドスに行くか?

…馬鹿か私は。

原作通りに物語が進まなかったという実体験が、私の思考を縛り付けてくる。

この世界でも上手くいかなかったらどうする?次があるとは思えない。

そもそもなぜここに来れたのかもわかっていないのに、やり直しが効くとは到底思えない。

再現性のない事実に縋るのは悪手だ、せめて最終手段にしなければ。

瞬間、思い出される前の世界での記憶。

片手で目元を押さえる。

疲れている…そう、疲れているのだ私は。

一晩寝ても取れないような疲労がずっと私に付き纏っている。

ブルアカに限った話ではないが、前世に私が読んでいた小説などのキャラクターたちは、よく私と似たような体験をして正気でいられるなとつくづく思う。

元々ただの一般人だった私が、あんな体験をすればこうもなる!とも言うが。

あぁ、どうして私はこんな一個人程度の力しか与えられなかったのだろうか。

前世によくあったあの無駄にタイトルが長い作品の主人公みたいに、ほぼ全てを掌握することができる力があれば、こうやって悩むことも、脳裏に映る彼女たちの顔や荒んだ世界も、今にでも喉から何かが出てきそうな感覚もなかったのに。

某背中に龍が宿ってる主人公のように台パンしたくなるぐらいの苛つきを覚える。

その苛立ちを落ち着けるために、そばにあったペットボトルを取り、キャップを開けて中身を口に入れる。

…だいぶ傾けたはずなのに、入ってくる量が少なく感じる…が、ある程度落ち着いてきた。

ペットボトルの傾きを緩やかにし、キャップを閉める。

…一旦寝よう、取り敢えず寝よう。

こういう時は寝て頭を整理するものだ、こういうメンタルが低下している状態で変に行動を起こそうとするから、失敗を犯す。

というかブルアカは原作からして、その典型例が多い記憶がある。

pcの電源を落として、書類を退けて机に突っ伏す。

腕を枕がわりにして、少しでも早く寝られるように努力する。

こういう時、腕がある程度柔らかいため楽なのだが、その代償のように胸が邪魔になってくる。

少しの窮屈を覚えつつ、目を瞑る。

少し仮眠をするだけだ、少しだけ。

…それにしてもなんでだろうか、ここまで焦燥感が込み上げてきたのは。

バタフライ・エフェクトは考え出すと仕方ないと割り切ってはいたものの、ここまで頭にこびりつくなんて。

いや、もっと別の理由があるのかも知れない…。

そう考えていくうちに、私の意識は遠のいていった…。

 

 

 

*****

 

 

 

夢をみる。

夢だと気づいている。

シャーレで色々な学園の生徒が楽しく過ごしている。

この光景を私は知っている。

かつて私も、その輪の中に入っていた記憶がある。

先生に呼ばれたような気がする。

声がした方向に行くと、先生は生徒とゲームをやっていて。

対戦結果は先生のボロ負け、ぐぬぬと言わんばかりの表情に、自分の表情が綻ぶのが感覚でわかる。

こういうのでいいんだよ、こういうので。

先生と生徒が幸せそうに、青春を謳歌しているこの光景こそが、私の求めていたブルーアーカイブ、その物語なのだ。

先生がコントローラーを渡してくる、どうやら私に代わってもらいたいらしい。

そういえばキヴォトスにきて、ゲームはあまりやってなかったな。

久しぶりの感覚だと、コントローラーを手にした。

しようと、した。

 

私は何を持っている?

 

先ほどのシャーレの場所と違う、でも記憶にある。

目の前には墓があった。

…私が転移する前、元いた場所だ。

周囲には沢山の花が咲いている、色彩の失った世界と違って。

…よく覚えている。

だって私が植えた花々なのだから。

コントローラーを手にした手には、彼の遺品(大人のカード)が。

ここは夢?それとも現実?さっきまで私が見ていたのは、私が見ていた幻覚?

わからない、何も分かりたくない。

…落ち着け、落ち着け、落ち着け。

自分に言い聞かせる、プラシーボ効果である程度は収まるはずだ。

荒くなる息が少し整った…と思ったら声が聞こえてきた。

幻聴かと思ったが、幻聴のようだ、このパターンで幻聴のことなんてあるのか。

そうギャグのような言い回しでなんとか自分の理性を維持しつつ、耳を傾ける。

…くぐもった声、ぼやけていると言ってもいいかも知れない。

はっきり聞こえない、もっと耳をすまさないと。

聴覚に頼るために、視覚をシャットダウンする。

…どんどん鮮明になっていく声…なぜ私は、声と判断できている?

理由は多分、私がよく知っている声だから。

その声はだんだんと鮮明になっていく。

詳細に聞こえるほどにまで鮮明になって気づいたのは、声がする方角が真正面(墓がある位置)であること。

…誰かが私の手を握っている。

とても冷たくて、今にも死にそうなこの感覚を、私は覚えている。

ハッと目を見開き、正面を見据える。

 

“…辛い思いをさせて、ごめんね”

 

嫌でも目に焼きついた顔を、私は知っている。

内から湧き出たのは、驚愕と困惑、そして私自身の正気を疑いたくなる程度に感じた、安堵。

わからない。

私はわかっていない。

なんで急に、こんな場面が思い出されるのかを。

 

 

私は、寂しかったのだろうか?

 

 

視界が暗転する。

2度と、2度も、見たくなかった。

 

 

 

*****

 

 

 

「…せん、せい…?」

 

目を開ける、周囲は明るいが、窓の外は暗かった。

椅子から落ちて、変な体制になっているのだろう。

照明が私の視線の先にある。

這いつくばりながら、ゆっくりと体をあげる。

時刻は午前4時を過ぎ、今日は昨日となっていた。

悪夢…を見た割には、寝つきは良かったようだ。

後味は最悪だけど。

…それに、夢にしては、起きた後もはっきりしている。

まだ、寝る前にあった焦燥感もある。

でも、寝る前よりかは安定している。

やはり睡眠は大事だ、睡眠は全てを解決する…!!

寝起きと夢の内容は酷いものではあるが、そこは突っ込んでくれるな。

…寝てから少し、頭の整理が追いついてきた。

よく考えろ私、イレギュラーが発生したところで、その世界にとってはそういうものだということを。

先生は、あらかじめ決まった物語を進んでいるわけじゃない。

先生自身の選択と責任で、原作の物語が語られてきたじゃないか。

だから、そっとやちょっと展開が変わったからといって、先生が何もできずに死ぬなんてことはほとんどないはずだ。

私のやるべきことは、その展開が変わった点を修正して、なるべく原作と同じ道を歩ませることにある。

そこのところを間違ってはいけない。

…信じよう、先生の選択を。

少なくともこの世界の誰よりも、先生を見てきた私が信じなくてどうする。

先生ならきっと、なんとかしてみせる。

そう思うと、少し気が晴れてきた。

先生って偉大だな、生徒の皆が熱中するわけだ、いやわかってたけども。

やはり先生は主人公の格がある…連邦生徒会長が選んだ人間というのは伊達ではない。

…仕事は終わっている。

…当番の生徒にも、他の業務内容は知らせている。

もう少し、休息を取ろう。

全ては、今日から始まる先生の旅路(メインストーリー)のために。

 

…祈っておこうかな、この先の旅路の成功を。

 

 

 

*****

 

 

 

現在時刻午前9時。

…買った服のタグを切り、コートの上から更に着る。

鞄の中に弾薬とマガジンを乱雑に入れる。

ホルダーに入っているハンドガンを確認して…再度鞄の中身を確認し、ダガーナイフが入っているかを確認する。

ARとSRは今は持っていかない。

その代わりに、右腰にあの剣(オーパーツ)を携える。

この私は数日待ったのだ、と言わんばかりの緊張感。

腕時計のモニターを起動し、マップを確認する。

最速で行って、原作通りなら既に、先生が学校にいるからだろう。

部屋の照明を消し、部室の扉を閉める。

空になった部室に、喧騒や作業音が聞こえないのは少しだけ、違和感がある。

…また、賑やかになるといいな。

昔のことを思い出しながら、扉の横のシャーレのロゴに少し触れて…私は部室を背に歩き出した。

 

 

 

 




こんにちは、お久しぶりです。
前回の投稿から1ヶ月が過ぎようとしています、嘘でしょ…?(某先頭民族並感)
時間が経つのは早いですね、前回の投稿からまだ2週間程度しか経ってない感覚でした。ちびちびと書きたいこと書いた結果がこんだけ時間立ってしまったというわけですね、はい。正直もっと早くに出せると思ってたんですけど、日常パートを書くのが予想以上に難しくてですね…。キヴォトスの全体図とかあればもっと書きやすいんですけどね、無いものはないので是非もなし、というやつです。あと、やっぱり他キャラとの絡みが少ない、というよりもシャーレの実務担当は原作通り先生を主軸にしたいので、そうなると下手に先にカイナと他生徒を合わせるよりも、先生を先に合わせてカイナとの絡みは後から…という方がしっくり来るせいですね。やっぱり生徒と関わる姿が似合うのは先生ですからね。
カイネの話が出てきたので、今回の話に少し触れますが…取り敢えず今回の話は、前に決めた指針の確定や装備品等の補充をしながら、少し大事な部分を取り上げる話になりました。正直即アビドスに行くのでもいいと思いましたけど、最終的に原作に沿うようにしたいとなると、特に干渉しなくてもよい部分で、下手に干渉してしまうのはよくないと思ったため、アビドス編の開始は少し伸ばさせていただきました。拳銃の弾も切れていましたからね、これでまた弾切れ起こしたら何やってんだお前!ってなりますからね。
今回の話は行動こそ、アビドスやその他に対する準備をしていましたが、話を見てたら分かる通り、カイナの心境はとんでもなく上下していましたね。急に大人について哲学っぽく考えたり、色々なものを見ては過去のことを思い出して顔が引き攣ってそうな感じになっていたり、現状を思い出して押しつぶされそうになったり、懸念点を深々と考え込んでしまい不安そうに感情が揺れたりと、生きた・生きてる年数の割に未熟な点を大きく取り上げました。見てる人からすると「こいつやたらと感情が乱高下するやん」と思うかもしれません、全くその通りです。
カイナは話で出している通り、前世では大学卒業直前に死亡、前の世界ではそれどころではない状態ですから、大人になった時間は長くとも、大人として活動した時間が短い、というのがあります。まだまだカイナは生徒として、先生を見習わないといけない部分が多々あります。社会人1年目みたいなものですね。みんな初めてはそうです、失敗なんてみんなします。
カイナは大失敗して、変えることの恐怖を味わってこうなっちゃってますけど、そこからどう卍解…いや挽回するのかが、大人としての第一歩だと私は考えています。カイナはここからどう変化して、大人として成長できるかが見ものですね。…作ってるのお前なのに、他人事みたいな後書き書いてるぞって?それはそう、激しく同意と言わざるを得ない。まあ他人事みたいな後書かはともかく、下がったままのメンタルでアビドスに行くのではなく、他者の助けなしに自分なりの答えを出してメンタルを回復して、考えを固定させず整理することができる点については、曲がりなりにもカイナが大人として存在できている点であるとも考えています。ブルアカには先走った挙句、メンタル底辺を維持し続けて自身のパフォーマンスを発揮できないという生徒がチラチラ見受けられますからね…子供なので仕方のないことです、大人が支えてやらないといけないとですね。
…なんか他人事みたいな文章な上に、少し長くなっちゃいましたね笑笑。ここらでお暇させていただきましょう…と、その前に評価とか感想の話を最後にしたいと思います。
正直、この作品は作者のというか私の癖とか妄想詰め込んだ話ですので、高評価とか付かないと思っていました。なので、高評価や感想などを貰った際に、殺人的な高評価だ…!グハッ!(吐血)でしたね。本当にありがたいです。でもやはり投稿ペースは遅いですし、みなさんに合うストーリーになるかは正直わかっていないので、ほどほどに期待していただければ幸いです。こいつまた投稿おせーなとおもったら、その時は別の人のブルアカ二次創作を読みましょう、いい品揃ってますよ!…この台詞似たようなの前にも書いたな?(某バーガー店のピエロ並感)
あと誤字修正も、報告していただければ幸いです。作者はいつもありがてぇ…!と思っています。
それではまた今度、アビドス編にてお会いしましょう。
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