ねえ 見える?
僕らの飛んだこの宙が
僕らの手にした星の欠片が
君の中に宿ってる
「今回はちゃんと撮ってきたようだな」
ローズから渡された記録端末のメモリを確認しながら、ヒカリはソファに寝転がるザギへと呼び掛ける。しかしザギは少し視線をやっただけで、すぐにそっぽを向いてしまった。
ローズほか二名はそれぞれ外を出歩いているが、特に行きたい場所のないザギはそのままヒカリのラボに滞在している。いや、ローズの中に居ればいいものをわざわざ外へ出ているのだ。ここに居るのは比較的居心地が良いから、であろう。
「ほぅ、地球に行ってきたのか。どうだった?」
処理中のデータの中に見覚えのある風景の画像が流れ、ヒカリはザギへ再び話し掛けた。
「……、面白い人間が居た」
「サキト、と言う彼のことだな」
そう言ってヒカリは処理したデータの中からロッカク隊員の姿を写した画像を取り出す。彼の姿を目に入れるためにザギは起き上がった。
「彼奴め、このザギを自分に似ているだの人間臭いだのと言いおったのだ。俺の全てを知った上でだぞ」
「いい理解者ができて良かったじゃないか」
ヒカリの言葉に、どこが、とザギは鼻を鳴らす。
「だが所詮は人間だ。瞬きもせぬ間に死んで消える」
「無理やり彼と融合して連れてくるような真似はしなかったわけだ」
「力を持ってしまえば自分は人ではいられなくなってしまうなどと言って、人間の身体を捨てることを奴自身が拒んだのだ」
理解がいかない、とザギは肩を竦めてみせる。
「それでも、彼の気持ちを尊重したのだな」
その成長を感心するような言葉を言ってしまえばザギの変なスイッチを押してしまいそうな感じがして、ヒカリはそのそれを心にしまった。
「しかし、確かにな。力というのは危険なものでもある。それを扱う技量と心が無ければ、自分のことも、周りのことも、破滅に追いやる」
かつては私も復讐の怨念に囚われた身だ……とヒカリは宙を見つめた。
「彼が断った理由を推測するに、君の与える力に耐えられるほどの心は自分には無い、ということだろうか」
「とんだ腰抜けだ」
「本気でそう思っているようには見えないな。君はさっき、彼のことを『面白い人間』とも言ったじゃないか」
「闇の力に呑まれ踊り狂う駒のほうが、見ていてまだ面白い」
かつて闇へと落とした人間たちのように。
「滑稽、嘲笑、か……。君は、彼がそうなる様を見たかったのか?」
「………………」長い沈黙。わからない、ということなのだろう。
「彼が力に耐えうる人間と判断しての行動か、それともただ単に君が彼を欲しがったのか」
どちらが近い? ヒカリはザギに回答の切り口を与える。ザギは考えに考え、順々に答えを並べ始めた。
「………………、耐えられるのかどうか、見てみたくなった。人間にしておくには惜しいと、思った。駒では……ない。ただ……与えたい、と……。なによりも……」
ザギは震える手を額に当てる。
「ただ俺を知ること……。このザギの力ではなく……、ひたすらに俺自身を探し求めたあの人間に……さらに求められたいと……」
「それを奴は拒んだのだ!!!!」
頭痛を鎮めるように頭を押さえていた両手を振り解き、ザギが表す感情は理解のいかぬものへの怒り。
「俺は何故拒まれた!? あそこまで執念深く俺を探し求めたくせに、何故!? このザギを目の前にしたというのに、何故ただ俺を知るだけで奴は満足できた!?」
そう叫び放つと、ザギは鼓動と感情を落ち着けるために少し思考をとめた。
「最後まで思い通りにならん奴だった……。だが……約束は……した……。たかが人間の命程度の時間を待てぬ俺ではないからな……」
少しだけ落ち込んだような様子を見せるザギを励まそうとヒカリは言葉を投げる。
「彼は君を拒んではいない。君の全てを受け入れた上で、それでも彼は命を閉ざすその瞬間までは人間でいたかった。それだけなのだろう」
人間の価値観というのも様々だな。とヒカリは笑った。
〜*〜*〜
データの処理を終え、ヒカリが伸びをする。
「前回より随分と処理が早いな」ラボの来客用のソファにどっかりと座り寛いでいたザギが呟いた。
「前回はどこかの誰かが端末を粉々にしてしまったせいで余計な時間がかかった」
「ぎぃ……」
「あとは……彼のおかげだな。出ておいで」
ヒカリがそう言うと、彼の作業していたコンピューターから黒いモヤが宙に染み出す。この気配にいい思い出は無い。ザギは立ち上がり身構えた。
「大丈夫だ。害のあるものじゃない」
モヤが人型へと形を変えていく。大きさとしてはウルトラ族の子供くらい。胸の中央に一文字の赤い光が核として灯り、そこから赤いラインが引かれていく。最後に顔面に六つの点光が現れるとそれは声を発した。
「きさま、はかい、たんまつ!! おれ、げきど!! おれ、ちょうばつ、きさま!!」
「ネイビー、やめるんだ」
「のあぁぁぁぁ!?」
ザギに飛び掛ろうとした彼の二本の触角のようなパーツをヒカリは掴んでとめた。
「なぜ! なぜ! ぎもん、ヒカリ、そし、ちょうばつ!」
「ザギは充分に罰を受けた」
「ふりかい! ふりかい! ふりかい!! おれ、ふか、りかい! ぎいいいぃぃぃ!!」
ヒカリに触角を掴まれたまま、ネイビーと呼ばれた黒はじたばたと暴れている。その様子はまさに駄々をこねる子供のよう。
「なんだ、そいつは」呆れた様子でザギは問う。
「前回、データ処理をしたときにネビュラムの結晶が残っていてな。それがこうなった。人格と人型を持ったネビュラム……ネビュロイドと命名したが……。まさか君のことを記憶しているとは」
「その小僧がデータ処理を、ねぇ」
少しだけ興味を示したザギがネイビーの頭に手を近づけるが、その手ははたき落とされてしまった。
「データに関する作業をひと通りやらせてみたが、すごいものだぞ。それ以外は……からっきしだが」
「……ここに置いていていいのか? こいつも闇から成る存在だろう?」
子供のようにも見えるが、その気配はローズと同様に、紛うことなき、闇。
「流石に初めは警戒のもと観察してみたんだが、データ管理以外に一切の関心を示さなくてな……。情報端末を雑に扱う輩に攻撃的になる以外は大人しいものだ」
「ぎぃぃ……。きさま、ちょうばつ、ふじゅうぶん。ぎゃくせつ、こんかい、たんまつ、むきず。だきょう、めんしゃ」
ネイビーはぷいっとそっぽを向いた。
「気に障る小僧だ」
「どこか君に似ているような気も、しなくもないがね」
「あ?」
「なにも?」
〜*〜*〜
「そうだ、君たちに渡したこの端末だが、次はこれを使ってくれ。メモリは入れ替えてある」
そう言ってヒカリは新しい記録端末をザギに渡した。ザギはそれを手に取り見回す。見た目はあまり変わっていないが……。
「そいつのニオイがする」
「おれ、ほきょう。きさま、はかい、ふか!」
「ここに置いていたら彼が手を出してしまってな。この端末にはネビュラムが組み込まれている」
「壊せないようにしたと言って聞かないので、とりあえず使って様子を見てくれ」
「他ので試せばよいだろうが」俺達は実験台か? とザギは呆れる。
「言ったじゃないか。彼はデータ管理以外に一切の関心を示さなかったと。この端末以外にはそこれと同じことをしてくれなくてね。一品ものだ」
「これも……私からの依頼と受けとってくれて構わない。頼めるか?」
「見返りは貰うぞ」
「勿論。タダ働きにはさせないさ」
〜*〜*〜
ヒカリへの用事が済んだため、ザギはほか三人に向けテレパシーを飛ばす。
「もう行ってしまうのか」
「ああ。行く場所がある」
「ノアか?」
そう、今回ザギ達はバベルへ向かう前に光の国へ寄っているのだ。
「そこにも行く」
「……あの次元の穴か」
ヒカリの問にザギは沈黙で肯定する。
「我々もあの次元の穴は認知しているが……」
「手は出さなかったのか」
「不審な反応が増えている座標。我々がその次元の穴の存在を知ったのはそのためだ。危険区域として監視している」
ザギはヒカリの言葉に疑問を持つ。
「俺達が行った時にはそんなものは無かった。……ニアを、連れて行ったせいか?」
「その可能性もありうるか……。君達がニアと呼んだ発光体のことについても、我々で調べてみよう。気をつけて行くんだぞ」
「ふん、このザギを甘く見るな」
ザギはヒカリに背を向けるとそのままラボを出た。
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時も所も変わって惑星バベル。
ノアとザギが激しく戦うのをローズ達は地上から見ていた。
「やはり凄まじいな、ザギ様も、ノアも」ファウストが感嘆の言葉を漏らす。
「ザギ様、力は完全じゃないはず……でしたよね?」
「そうだな。我等がザギ様の御力を割いて作られている以上、常にリンクしているわけではないとはいえ多少の負荷はかけてしまっている」
「それでもあんなに戦えるんですね」
「いや……ザギ様、ノアに集中できてないな。ノアもそれに合わせて加減している」
お互いにそれには気付いてて、ただ言い出すタイミングを見失ってんじゃねえかな。ファウストとローズの会話を聴いていたメフィストがボソリと呟いた。
「気の済むまでやれば終わるだろうが、俺達はここで待つことしかできない」
「下手に手を出せば巻き込まれてしまうものな」
それほどまでに次元が違う。あの二人の世界はそういう世界。そしてノアは本来さらに上に在る存在だ。
「ザギ様の御力になれたらどんなによかったか」
「……見上げた忠誠心だな、ファウスト」
「お前も似たようなものだろう、メフィスト」
メフィストはファウストにそう言われたが、何か少し、思い悩むような様子を見せる。少し黙ってしまった後に、恐る恐るその口を開いた。
「俺は……、わからなくなってしまった。恐いんだよ、ただひたすらに」
「過去に俺と同化した人間の記憶が、ザギ様を恐れている。それが俺に反映されている……。前までは……こんなことなかったのに。くそ……っ」
震えるメフィストの手をローズが、肩をファウストが押さえてやる。
「大丈夫ですよメフィスト、ザギ様はもう怖くないです」
「もしもの時は私がザギ様からお前を守ろう」
「ファウスト……、お前を失うことも……俺の記憶は恐れているんだが……?」
「そうだったな。さて、どうしたものか」
ファウストは苦笑いするしかなかった。
〜*〜*〜
赤と虹のふたつの光線の衝突の後、ふたりの激しい戦闘は、緊張の糸が切れたように鎮まった。
「………………」
「……………………ザギ」
「ノア、俺は……」
「行くんだな」
「……ああ」
言葉は短くとも、ぎこちなくとも、ノアには伝わる。
「ニアを……」
「勘違いするな」ザギはノアの顔スレスレの位置へと光弾を放つ。ザギがわざと外していることを知っていたノアは微動だにしなかった。
「このザギのようなものは何人も必要ない。奴と……奴の追う闇がいったい何なのか、この目で確かめ、そして潰す。その為に行くのだ」
「なあザギ」
「なんだ」
「次元の穴の入口までで構わない。やはり私も君と共に行こう。見送りだけでもさせてくれ」
以前ネクサスとして会った時同様に、ノアはあの場所へ行くことを希望した。ザギはそれを嫌がりながらも理由を訊ねる。
「……あそこの周辺宙域に不審な反応が増えていると聞いた。そのためか?」
「それも勿論あるが……、帰りの道標のひとつやふたつ、あったほうがいいだろう」
道標。ザギ……ではなくローズに必要なもの。それならばまあ、仕方がないだろう。ザギはそれを許すことにした。
「帰りを待つ間に居眠りでもして俺にその寝首を掻かれぬよう、せいぜい気を付けることだ」
「大丈夫、私が眠れるほどの静寂は、あの場所には無い」
「……戻ろうか。彼らの元へ」
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「そうしてノアも一緒に来ることになったんですね」
「私が共に行くのは入口まで。君達が帰ってくるまで、誰も通さないことを約束しよう」
宇宙空間を飛びながらローズはノアと話す。呑気に話しているようにも見えるが、現在爆速で宇宙空間を飛行中である。測定不能とまでされるノアの飛行速度を振り切りそうな勢いで嬉しそうに飛ぶローズ。流石に速すぎて体がもたないのか、ネビュラムで外殻を作っているが。
それでノアが振り切られるなんてことはなく、ふたりは飛行を続けていた。そんな飛び方をしたものだから目的地に着くのなんてあっという間で……。
「着いちゃいました……」
「今度は、目的無く宇宙を漂うというのもしたいものだな」
「そうですね。私ももっとあなたと一緒に飛びたかったです」
次元の穴を前にふたりは向き合う。
「ノア、少しだけお願いがあるんです」
手を、とローズはノアに求める。ノアがその手を差し出すと、ローズはそれを自身のコアの仕舞われている場所へ触れさせた。
「待て、ローズ。私の力は君を傷付けてしまう」
「大丈夫ですよ、ノア。もう痛くありません。もう熱くありません」
手を引こうとするノアをローズは静かに首を横に振って引き止める。
「私達の旅の無事を、祈ってほしいのです」
ノアは少し驚いた様子を見せたが、頷き、顔を伏せ深く祈った。そして顔を上げたノアは再び驚く。
ローズの翼の星の煌めきが増していた。
祈りが彼の力になったのだろう、ノアはそう納得した。
「ザギを、頼んだ」
「ノア、私もあなたに約束します。この旅の先から、ザギ様を……、何があってもあなたの元へ送り返すと」
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ローズが次元の穴の向こうへと消え、静まり返ったはずのこの場所で、ノアは入口を背に立ち塞がる。
「さて、彼らの旅の邪魔はしないでもらおうか」
ノアは、彼を取り囲む無数の存在に対し言い放ち、戦闘の構えを取った。
─Result─
【闇行人の記録3】
たいせつなもの『ライズレコードパッド』が更新された。
たいせつなもの『ノアの願い』が更新された。
実績『ネビュロイド』を解除した。
実績『使い魔の吐露』を解除した。
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【闇宙飛行編】これにて完結となります。
現行版には追いついていませんが、ここから暫しお休みを頂きます。コミケに向けた原稿と、次編の書き溜めをしております。
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