ザギは一時ファウストに祈織を任せ、ひとりこの世界について調べていた。
ザギにとって一般情報へのアクセスは造作もない。しかしスペースビースト関連となるとTILTのデータベースに潜らなければならない。多少の改竄はやむを得ないとしザギはそれを行った。
ここまでのナイトレイダーの記録はザギの知るものとまるっきり同じだった。ネクサスが存在せず、その代わりにルナが存在しているというのに、ここまで綺麗に同じだとは。ザギにはにわかに信じ難い話であった。
石堀光彦の存在するこの世界でその姿に擬態するのは流石にまずいと考え、ザギは鹿角鋒人の姿でこの地を歩いた。
この世界でどう行動すべきか。注意を向けるべきTLT外部の人間は複数居たが……。
「やはりこの世界は何かがおかしい」
あの時のあの地球と全く同じ人間が存在し、ザギの見てきた過去をなぞった出来事ばかりがここまで起こっていたこともそうだが……、ザギの目にはまだ異様に映るものがあった。
人間が自分を認識しないのだ。話し掛けても、軽く小突いてみても、自分に対して一切の反応が無い。確かに
ここで擬態を解いてやったらどうなるのか。考えてはみたがTLTを敵に回してしまいそうな予感がしたために取り止めた。
「だが溝呂木や姫矢、ナイトレイダー共は俺達を認識した」
何が関係している?
ビーストか? ネクサス……
ビーストから遠く、ネクサスに近い場所に存在した人間をザギは思い出した。あの場所が行動可能範囲内であれば滞在場所として使えるかもしれない。三人目とも関わりやすくなる。候補としておくことにした。
範囲内か範囲外か。これは歩いている時に分かったことだが、この世界、この地にはなにか見えない壁がある。歩いている最中に突然ザギは別の場所に転送されたのだ。それに驚き、引き返してみれば元の場所に戻る。さながらゲームのマップ移動のようであった。
この世界の人間がザギを認識しないと確証できたのも、壁を何度も通り瞬間移動を繰り返すなどという挙動不審を見せる彼に誰も反応しなかったからだ。
しかし人間はその壁をすり抜けて進んでいって背景に溶け込んでしまう。この壁と壁の間の座標には別の空間があるのだろうかと疑いザギはテレポートを試したが、滑り抜けて元の場所へと戻されてしまった。
やはりこの現象もネクサスやその周囲の人物に関係した場所に限られていた。そもそもローズが次元の穴を通り抜けた先で宇宙空間ではなくこの星の地上スレスレに落とされていた時点でおかしいと言えばおかしかった。
行動範囲もコンタクトを取れる相手も制限されている。
「まるで箱庭だな……」
自分の居た世界の複製。パラレルワールドとは恐らく違うが、全く同じように進むことを強制された世界。果たしてこの世界の奴等はそれを認知しているのだろうか。
この世界のことがいくらか分かった所で、話の通じそうなアイツと接触すべくザギはテレパシーを飛ばした。
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「誰かな。僕を覗き見ているのは。作戦行動中だよ」
『─そうか、ノスフェルが出ているのだったな。邪魔をした─』
ザギがテレパシーを飛ばしたのはイラストレーター。来訪者とのコンタクトを可能とし、この世界において最もウルトラマンのことを知っているであろう人物だ。
「急ぎじゃないのかい? TLTのデータベースも覗きに来てたのに」
『─何?─』
「足跡がくっきりだったよ。不用心だね」
『─痕跡は消したはずだが。そうだな……、まずはその該当箇所がもう一度見たい─』
「そう言われて見せると思う?」
『─拒否するのであれば強行突破する─』
ザギ相手に抵抗ができない事を悟り、イラストレーターはため息をついた。
「仕方ないな。一度ここに入り込めた君を拒む力はこちらに無いわけだし」
『─謝─』
「どういたしまして。そのまま君の目的も教えて貰えると嬉しいんだけど」
『─イラストレーター、お前に話があって来た─』
「こちらのことを知っているらしい、というのは本当のようだね。君は何者だい?」
『─……奴に聞かれているやもしれん。こちらの回線をお前に解放する。それに乗れ─』
「対話の意思ありということでいいのかな」
『─あぁ─』
ザギの使う周波を探り当て、イラストレーターは彼との念話を開始する。
「─君はものを調べながら話せるたちかい?─」
『─調べは済んだ。やはり一度消した痕跡が復元されていた。俺の邪魔をしたつもりなのだろうな─』
「─早いね─」
『─この程度のこと造作もない─』
「─ふぅん、で、話ってなんだい─」
『─不戦を言い渡しに来た。俺達はお前達TLTと対立するつもりはない。先日のお前達からの攻撃を不問とし、お前達には我々への攻撃停止を求める─』
イラストレーターは思案する。
無抵抗の者へ攻撃をした。それを理由に何時でも自分たちを滅することができよう上位者が、それを不問とすると言った。その代わりに自分達と和平を結べ、と。
だがまだイラストレーターはザギ達を信用しきれていない。よって彼にとってこれはまだ飲めない条件なのだった。
「─素直に頷くことはできない。僕達と君達の戦力差が大きいからね。君達の戦力はあのウルトラマンが四人居るようなものだよ。和平を望むのならこちら側の不安をさらに取り払う必要がある─」
到底飲めるものではないので別の条件を提示する。当然の権利をイラストレーターは使用した。
『─貴様は俺に何を求める─』
「─まずは君達について聞こうか─」
『─……答えられる限り答えよう─』
「─こちらを攻撃しなかった彼、もうひとりのメフィスト、ファウスト、そしてダークサイドルナではない君……。君達は一体何者だい?─」
『─俺はダークザギ。来訪者からは聞いていないのか?─』
「─ダークザギ……、初めて聞く名前だよ─」
『─おかしい。知らぬはずはない。いや、俺とそのダークサイドルナとやらが置きかわっている……? しかしそれだと……。いや、それについては後ほど訊ねよう─』
「─他の闇の巨人三体については?─」
『─俺達はもうひとつのこの世界の存在。同じ者が存在していても不自然ではない─』
「─平行世界というやつかな?─」
『─似て非なるものだと考えているがこの話も後に回す。メフィストとファウストは俺の知る通りにこの世界にも存在したが、ローズはこの世界には存在しないはずだ─』
「─ローズ。溝呂木眞也を攻撃した彼だね。それは何故?─」
『─こいつだけは元の世界に存在しない。この世界はこいつを作り出せない─』
この世界が俺の知るものと相違なければ、とザギはつけくわえた。
「─では君は? この世界の君もいて、まだどこかに隠れているのかい─」
『─そう考えるのが妥当だが……、これは来訪者に問いたい。お前達はウルトラマンを造ろうとしたか?─』
「─………………、我々の守神たる彼女を造るなど言語道断、だそうだ─」
『─……!─』
「─どうしたんだい─」
『─この世界に……俺は居ない……?─』
『─俺は……、ウルティノイド・ザギは……、俺の世界の来訪者が守神ウルトラマンノアを求め造りだした存在だ。守神などと言ってしまえばあいつは苦い顔をするだろうが─』
『─来訪者が俺を造っていないと言うならば、なぜメフィストとファウストが存在する 誰が……ふたりを作った……? あいつが言っていた“闇”とは何だ……─』
対話へと呼び戻す。
「─君にとっても想定外、なのかい─」
『─ああ。俺はこの世界を、俺達の世界を元にして複製された世界だと考えていた。それならば、平行同位体が見付からないと言われた俺であっても、ここにもうひとり存在するかもしれない、と─』
『─平行世界なら分岐により異なる進み方をするはずだが、この世界は条件が違うのに俺達の世界と全く同じ進み方をしている。全ての元凶たる俺が存在しないというのに、だ─」
「─そんなに有り得ないことなのかい─」
「─もしその有り得ないが起こり得たのだとしても……。この世界は異物たる俺達の行動を制限している。そこまでしてこの世界はあの歴史をなぞろうとしているのだ。まるで何者かがこの世界にそう定めたように─』
「─僕達は箱庭に並べられた人形だと?─」
『─的確な表現だ─』
「─信じられない─」
『─無理もない。だがそう推測せざるをえない─』
「─…………そんな箱庭へどうして君達は来たんだい。君からの情報を総括して、君は元の世界では僕達人類の敵である闇の首領だったと僕は推測した。だとしたらなぜこの世界で僕達と敵対しない─」
『─それは……─』
『─ザギ様!─』
突如としてザギの回線にファウストが割り込んだ。
『─……ファウスト? イラストレーター、返答は少々待っていてくれ─』
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ザギに待機を言い渡され、
「なにか気になるんですか?」
「メフィストが……孤門一輝を狙っている予感がしてな……」
そう言ってファウストは左手首の黒いブレスレット─ガルダナブレス─を触る。
ガルダナブレスは祈織がお守りとして以前渡したネビュラム製のブレスレットが己の形を定めたものだ。これは先日メフィストの持つネビュラムとリンクした。故に、メフィストの様子がファウストへと伝わる現象が起こってもおかしくはない。祈織はそう理解した。
「行っていいですよ」
「だがザギ様は私にお前を任せたのだぞ。その命を破るわけには」
「擬態を解けば私だって戦えますよ。また擬態するのに手間を掛けさせてしまうからこの姿のままなだけです」
祈織はぷくーっと頬を膨らませた。
「私になにかあったらザギ様が飛んでくると思いますし、ファウストがザギ様に怒られそうになったら私がちゃんと言います。私が行かせたって。だから行って。リコにとって大切な人なんですよね?」
「それでも、ザギ様には伝えねばならない」
「ですけど……」
「大丈夫、断りをいれるだけだ。とめられても押し切る」
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ファウストがザギにテレパシーで連絡を取っている。その間、祈織はじっとふたりのテレパシーを聴いていた。
「ザギ様……。このファウストめの独断行動をお許しください。どうしても、私が行かねばならぬのです!」
『─溝呂木ではなくメフィストが、か……。メフィストが孤門一輝を狙うのなら溝呂木がこちらに来る可能性がある。それは警戒しなければならない。一旦俺が戻っ……─』
「ザギ様、私も戦えます!」
『祈織……』
『溝呂木は危険だ……が…………』
ザギが口ごもった。祈織はザギの次の言葉を待つ。
『この場合……、お前を大切にする、とはどういうことを指すだろうか』
ザギ様が、問う。祈織はそれに答える。
「私の意思を尊重し、私の身を私に任せることだと思います。私を信じてください。私は頑張れます」
『…………、基本的に溝呂木に対して戦闘は許さない。出来うる限り逃走を。厳しくなったら俺の事は構わずに連絡しろ。すぐ行く』
「わかりました!」
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『失礼、横槍が入った』
「─君の仲間からだろう、構わないよ─」
『俺の事についてだが……、貴様はこの先俺が伝える事柄の他言無用を貫けるか?』
「─……約束しよう─」
『……俺は、貴様の推測した通り、元の世界でお前達人類を利用し復活を目論んだ闇だ。来訪者により対ビースト兵器として作られ戦い続けた。この身のオリジナルを憎悪するようになってからは、それを超え唯一無二となるためにビーストを利用した。俺を恐れた来訪者どもが起こした超新星爆発により体を失った。だが流れ着いたこの星で全てを欺き、全てを陥れ、復活した。そして……オリジナルたるノアに敗れ去った』
『その後も力を得て復活しては何度もノアに敗れてきた身だ。だが今は…………、ローズやあいつらのせいだろうな、ノアに対し以前程の感情が湧かんのだ……』
『俺がここへ来た目的は、この世界に存在する闇の根源を知り、潰すこと。不安要素はあれど、俺の知るとおりに進むのであればそれは叶うと見込んでいた』
『だが厄介なことになった。あのウルトラマンの性質がノアと違うこともそうだが……、溝呂木眞也が手を出してきたのだ。こちらのメフィストが離反しそいつの側に着いてしまったと思われる』
「─なんだって……─」
『このザギのミスだ。俺が奴を追い込んでしまい、この手元から離れられてしまった。だが俺はメフィストを必ず連れ戻す。人間に頭を下げるなど屈辱でしかないが……俺の……仲間の身には……代えられん。ナイトレイダーには……あいつの撃破を……命じないでくれ……』
懇願とも取れる声色。イラストレーターはその中に確かにザギの人間味を感じた。
「─ふむ……。一瞬見えた限り、君のメフィストと溝呂木眞也の姿は全く同じだ。判別がつかなければ難しいね─」
『右腕の装備の……鉤爪が折れている。それの代わりに作り出す鉤爪が黒なら、もしくは槍を使ってきたらこちらのメフィストだ』
「─わかった。……けれど、僕達の邪魔をしたり、僕達に危害を加えたりするようならその約束を守りきれない。それでもいいかい?─」
『そちらもこれ以上は譲れないだろう。止むを得んが……それで構わない』
『俺とメフィストはこの先起こることを知っている。俺は知る未来をできるだけ維持して進めたい。だがメフィストがどう動いてくるか俺にはわからない。だから俺達はメフィストの動きを押さえることに尽力する』
「─溝呂木眞也にふれるつもりはないんだね?─」
『これ以上、可能な限りは接触しない。下手に接触して殺しでもすれば、未来が大きく変わってしまう』
「─君は先日それをしようとしたわけだけど─」
『手を間違えたと言っただろう。痛い所を突いてくれるな……』
「─すまないね。けれど……、黒幕の居場所は教えてくれないわけだ─」
『教えられない。条件が変わってしまう。手を間違えれば奴を取り逃す。俺たちについて話せる情報はここまでだ。どうだ、不戦は交わせそうか?』
「─……いいよ。僕からは君達に対する攻撃命令は出さない─」
『攻撃禁止、ではないのか。……いや、いい。これで妥協する』
こうしてザギとTLTの和平は無事に結ばれた。