底無き闇に光差せ / ortRoLoDs   作:弐の字

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09 魔獣、奮闘す

 

── 郊外の森 ──

 

「ん…………」

 

次に目を覚ました時には炎も重力も収まっており、俺は祈織と共にファウストの両手に包まれていた。ファウストは俺達を守るようにその両手を自身の胸へ引き寄せてしゃがみ込み、その姿勢のまま休眠しているようだ。

 

ファウストの手に包まれたこの空間にこいつのエネルギーが充ちている。コアのすぐ側に曝されていたからだろう。ファウストはそれを俺の回復に当ててくれていたらしい。

 

上を見上げ、俺は少し驚いた。ファウストのコアが僅かに、静かに明滅する青い光を宿していたのだ。それへと手を伸ばすと、僅かに光の力が感じられた。

 

「ファウスト」

「……………………」

 

俺がファウストの名を呼ぶと、ファウストはゆっくりと手を開き体を起こした。

 

「ザギ様、お身体の調子はいかがでしょうか」

「問題ない。だいぶ回復した。それよりもファウスト、貴様の体のほうが……」

「ザギ様が回復なされば自然と戻るでしょう。祈織も今は、眠っているだけのようです」

 

俺の手を握ったまま寝息を立てている祈織へと目をやる。目元が少し赤い。また泣いたのだろうか。俺は空いているほうの手でその頭を撫でてやった。

 

「ファウスト、今の状況はわかるか」

「先日、ビースト振動波の検知が複数回ありました。溝呂木の仕業と思われます。ザギ様の記憶と相違ありません」

 

「メフィストは」

「その間、奴の動きはありませんでした」

 

「異界の門はまだ開いていない。そうだな?」

「はい、今晩と思われます」

 

随分とギリギリだ。いや、そこに間に合うようにこのザギを回復させたファウストを褒めてやるべきか。

 

「これから向かう。ファウスト、俺と代われ。今回ばかりはこのザギが直々に出向いてやる」

「祈織も一旦俺の中へ。目を覚ましたら状況を説明してやってくれ。万が一の時はこいつを頼らねばならん」

「はっ」

 

俺はファウストの手から降りて元の姿へと戻る。そしてファウストと祈織を自身の中へ仕舞い、この場を飛び立った。

 

::::

 

::::

 

── inside ──

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

熱い。

ひたすらに、熱い。

青黒い炎が、俺の体を燃やしていく。

 

「やめるんだ……、ルナ……」

 

彼女の激しい感情が俺を呑み込んでいく。

彼女の憎しみが戦火のように燃え上がる。

 

遠くに立つ彼女の背に手を伸ばす。

 

届かない……。

 

 

::::

 

::::

 

── 異形の海 ──

 

『ジェアッ!』

 

ウルトラマンの両腕の装備、そのフィンを軸に構成された光刃を纏う手刀が、手斧を振るように振り下ろされる。

 

「ちいっ」

 

その片方をメフィストクローで受け止め、もう一方は振り下ろされる前に押さえに行く。しかしこうして両腕を使わされてしまえば次に飛んでくるのは、ガラ空きになった脇への蹴り。

 

「ぐあっ」

 

その衝撃で両手を放してしまえば、光刃が俺の体を裂いた。

 

なんなんだ。こいつはいったい何なんだ。本当に別人になったかのように戦い方が違う。

 

よろけた俺に向け、青黒い光刃を纏わせ回転を乗せたかかと落としが決まる。バリアも張って防いだが、あまりにも重い一撃に水面ギリギリまで叩き落とされてしまった。姿勢を立て直し空中戦を続ける。

 

奴は手を緩めずにこちらへと向かって飛んでくる。俺がそれをダークレイクラスターで迎え撃っても、奴はそれを宙を泳ぐように飛行し次々に躱していく。

俺はバハメットの力だった闇手を伸ばし奴を絡め取る。そしてそのまま岩礁へと叩き付けた。

 

『ジェアッ……ッ、アアアッ!』

 

立ち上がるなり光線の構えをするウルトラマン。俺も光線を放ち迎え撃つ。

 

─ルナティクサー・シュトローム─

─ダークレイ・シュトローム─

 

青と赤が衝突する。

 

『ウオオオオオ!!』

『ヌアアアア!!』

 

引き出されるように互いの光線の威力は高まっていく。しかし残エネルギー量的に軍配が上がるのは俺の方だろう。

 

──ドクン

 

ほらみろ。ウルトラマンのエナジーコアが点滅する。俺は光線の出力を一気に上げ、奴を飲み込んだ。

 

爆発の煙が捌ける。そこに現れた奴は片膝をつき、肩で息をしていた。押し負ける直前でバリアへの切り替えでもしたのだろう、光線自体のダメージは少ないようだ。しぶとい。

 

だがこれまでだ。俺はメフィストクローを展開し、バハメットの力の闇エネルギーをそこへ凝縮する。

「トドメだ」

ウルトラマンへと急降下しメフィストクローを振りかざす。が、

 

「させねえよ!」

 

五十木(バハメット)が割り込んできた。俺と同じダークメフィストの姿。しかし右手のアームドメフィストからは俺のものと違う黒い鉤爪を展開し、俺のメフィストクローを受け止めている。

 

「邪魔をするなと俺に言われたのを忘れたのか?」

「あぁ忘れちまったよ綺麗さっぱりなァ!!」

 

バハメットが左腕を大刃へと変えるのが見えた。

 

「ちっ」

 

それが振るわれる直前、俺はバハメットから距離を取り、構え直す。バハメットも振り抜いた刃を構え直し、俺達は向かい合う。

 

「レヴィーサぁ、俺はお前に手ェ貸す……ンギャ!?」

 

何故かは知らんがウルトラマンがバハメットの背を攻撃した。

 

「レヴィーサ、なんでっ……」

 

狼狽えるバハメットに攻撃を続け、奴は自身の傍からそいつを追い払う。転がり逃げるバハメットの様子は中々に可笑しかった。

 

「そいつは貴様を味方だとは思っていないみてえだぜ?」

「にゃああああ! それでも俺様はやんなきゃならねえんだよ!!」

 

からかってやると奴は俺へと向き直り、飛び掛ってきた。俺は振るわれる刃をいなす。奴が大刃を細かく裂いた刃には同じ数の闇手で対応した。

 

『ジェアアッ!!』

 

絡み合う俺たちへ向けウルトラマンが光線を放ってくる。こいつを盾にするつもりだったが、抵抗され蹴り離されてしまったために二人共この光線を避けることとなった。

ウルトラマンはバハメット諸共俺を消し飛ばすつもりだったらしい。本当に容赦がないようだ。

 

バハメットとウルトラマン、両方の上を取りダークレイクラスターを放とうとした俺の耳に、無線の声が聞こえてきた。

 

─全機、異界への突入に成功─

─前方にウルトラマンの反応を確認、向かいます─

─待て、この反応は……─

 

漸くナイトレイダーのお出ましだ。

 

─メフィストが二体?─

─片方は溝呂木、もう片方はニセモノ、そう捉えていいわ─

─CIC、両方攻撃対象で構いませんね?─

─現場判断に任せます─

 

─総員、攻撃開始!─

 

力なんて無ぇくせにちょこまかと鬱陶しい奴等だ。あいつらの相手は予定通りクトゥーラに任せるのがいい。

 

「クトゥーラ、やれ」

─ピシャァァ……!

 

─何っ!?─

─ビーストまで居るっていうの!─

─総員、待避……ッ!?─

 

クトゥーラの触手が奴等を追い、奴らの乗る機体を絡めとった。

 

「貴様を助けに来た人間どもも捕らえた。終わりだなウルトラマン」

『…………、ウオォ、オオオオオ!!』

 

コアの鼓動が早くなるのも意に介さぬように、ウルトラマンは左腕の篭手に手を当て、エネルギーを溜め始めた。そしてその手を俺へと向け、狙いを定めようとしている。まだ何か撃つつもりのようだ。

俺はクトゥーラに呼びかけ、捕らえたナイトレイダーどもを俺とウルトラマンとの間に吊るした。

 

「みっ……馬鹿野郎が!」

「そのまま撃っちまえウルトラマン。まあ、撃てばそいつらに当たるだろうがな!」

 

俺の行動にバハメットが慌ててクトゥーラへと攻撃しようとする。俺はそれを押さえ込み、ウルトラマンへと嗤った。それでもウルトラマンは腕を下ろさない。

 

─待ってください姫矢さんッ!─

 

操縦席から孤門が奴に呼びかける。そこに姫矢は居ねぇぜ、孤門。ウルトラマンの鋭い目は俺を睨んだまま動かない。この場を一瞬、奴の鼓動の音のみが響く静寂が包む。

 

『ジェアッ!!』

 

ウルトラマンは動いた。溜められたエネルギーが三日月形の散弾となり放たれた。三日月は器用に機体のギリギリの位置を飛んで抜け、一部はクトゥーラの触手を断ち切り、残りはそのまま俺を囲うように向かってくる。

 

「溝呂木ッ……! てめっ、放せ……ギャアァッ!!」

 

俺は押さえていたバハメットを身代わりにこの場を脱した。空中からウルトラマンを見下ろす。

 

「ちっ、あいつらを巻き添えにするほど血迷っちゃいねえ、ってか」

「言ったじゃねえかよ! 盾にしようとしてもあいつは撃つって…………、ッ!!」

 

爆煙を切り裂いてバハメットが俺に叫ぶが、直後に何かを察知し顔を別方向へと向ける。ナイトレイダーに続き、大きな気配が向かってくるのが俺にも感じられた。一番来てほしくなかった奴と言えばそうなる。が、

 

「ザアァァギイィィィィ!!」

 

バハメットが俺の相手を放棄して向こうへとすっ飛んだ。てめえの役目を忘れちゃいねえみたいだな。せめて足止めくらいにはなってくれよ?

 

 

〜*〜*〜

 

 

俺が異界の門を通り抜けた直後、黒い影が弾丸のように飛来し俺に襲いかかってきた。そいつが左腕の大刃を突き出した突撃を俺はいなす。俺の左脇を抜けていったそいつは燕返し、右手の鉤爪による後方切り上げを行う。俺はそれを右腕の装甲部分で受け止めた。

 

「キハハッ、漸くお出ましか! 俺様に殺される覚悟はできたかよ!」

 

確かにメフィストだ。メフィストの姿はしている。だがその気配は先日メフィストが殺意と加虐心を剥き出しにした時のものに近く、そこから丁度メフィストの気配だけが抜けたもののようだった。

 

「貴様、やはりメフィストではないな。奴をどうした」

「どうもしてねえよ? こいつは俺だ。てめえを殺すのにこの力を使って良いってよ!!」

 

呑まれたのか。なにをしている、メフィスト。

ルナやナイトレイダーの方へ向かうにはこいつをどうにかしなければ。しかし……、こいつが使っているのがメフィストの体である以上、下手に攻撃できないことに変わりはない。

 

「ぎにっ!?」

 

まだ空いている左手でこいつの背側から首を掴み、ルナが居るのとは別方向に投げやった。

 

「他人の面を被った蟻風情の相手をするつもりは無い。行かせてもらうぞ」

 

俺は奴に背を向け飛行する。のだが、

 

「行かせねえよ!!」

 

奴はすぐさま追い掛けて来、左腕を触手へと変えて俺へと伸ばす。俺はそれを躱し、至近距離にまで迫ったものは闇刃で断ち切った。一度停止し、奴へと向き直る。

 

「蟻の相手をするつもりはないと言ったはずだが?」

「行かせねえっつってんだろが!」

 

そいつは叫び、敵意を剥き出しにする。感情が激しい。案外、手玉に取りやすいタイプの相手かもしれないな。

 

「奴の光が欲しくばこのザギが来る前にとっとと奴を殺してしまえば良かったというのに。手負いを相手に二人がかりでも手こずったのか? 不様だな」

「っざけんじゃねえ! 俺様が殺してえのは、俺様の邪魔をしやがったてめえらだけだ!! レヴィーサじゃねえ!!」

 

奴が度を増して激高する。レヴィーサ? ルナではなく? いや、こいつとルナの関係については今後探っていくことにする。

しかしこいつの目的はルナの光ではないのか……。 加えて敵意が向いているのは俺達にだけの様子。ここをつつくか。

 

「ほう、このザギがいつ貴様の邪魔をしたと? このザギには一度だけ溝呂木眞也の邪魔をした記憶しかないが……」

「とぼけんなよダークザギ。てめえらが来たせいでシナリオが狂ってんだよ。だから殺す!」

 

そいつは刃を振るい、俺へと襲い掛かる。

 

「……シナリオと言ったな? 貴様、わかっていて行動しているな?」

 

襲い来る刃に戸惑いは無い。

 

「このザギが溝呂木眞也に下手に接触し、その【シナリオ】を乱したことは確かだ。だがこのザギはそれ以降を乱したつもりはないぞ」

 

確かにシナリオと言った。やはり奴はこれのオリジナルとなった地で俺が起こした歴史を知り、それをなぞっている。

 

「大人しく排除されりゃいいってのに、抵抗しやがったじゃねえかよ!」

「いいや、そうやって貴様らが乱した分をこのザギが修正してやっている。感謝してもらいたいものだな」

「にいぃぃぃ……」

 

攻撃の手が緩み、奴が歯噛みした。言い返せなくなっている。攻め込め。

 

「今もそうだろう。なぜ既に奴は動いている? シナリオ通りならばまだ磔の筈だろう。溝呂木眞也もだ。なぜ既に奴も戦闘している? パワーバランスの調整のために来てやったというのになんという有様だ」

「……へっ?」

 

奴の殺意が揺らいだ。俺は確信する。こいつは俺の駒にできる、と。

 

「貴様に問う。貴様は溝呂木眞也の味方か? それとも、飽くまでも貴様は監視者であり、溝呂木眞也はただの道具か?」

「……それに俺様が答える意味あるか?」

「大アリだな。貴様の回答によってはこの場において俺は貴様の味方になる。慎重に答えろ」

「はァ!? 意味わかんねえよ。てめえが味方になる、だ? 信用でき……」

「答えろ。早くしないと姫矢が奴に飲まれて死ぬぞ」

「ッ!!」

 

俺が言葉を遮り脅すと、そいつは驚愕した様子でルナの居る方角へと振り返った。その行動でもう答えは出たも同然だった。

 

「答えろ」

「ちっ……、俺様は…………監視者……。なんとしてもこの地で溝呂木を姫矢と相討ちさせる」

「いいだろう。協力してやる。あいつの中に居る姫矢を回復させる。手を貸せ」

「はァ!? なんでてめえに従わなきゃならねえんだよ!」

「貴様一人でアレの修正をできるのなら無視して構わん。このザギは貴様以上にこの場を知っているつもりだがな」

「にいぃぃ…………。仕方ねえな。俺様はやってやるぜ」

 

 

 

〜*〜*〜

 

 

「もう一人のメフィストを追いますか?」

「あいつの目的はウルトラマンでも俺達でもなくあの真っ黒い闇の巨人でしょう? だったら今追う必要はないはず」

「ならば俺たちはここを片付けるぞ」

「了解!」

 

ウルトラマンの手によりビーストの触手から開放された僕たちは、彼の様子に戸惑いながらもまずはビーストを倒すべく行動する。

 

「孤門、ハイパーストライクフォーメーションだ」

「了解!」

 

僕達の乗る機体が合体し、ビーストへと向かう。

 

「凪、ウルティメイトバニッシャー」

「了解! ッ、砕け散れ!!」

 

チェスターからウルトラマンの光線と同じものが放たれる。それは狂いなくビーストへ命中し、消し去った。

 

「今度こそ溝呂木を……、うわっ」

 

僕達のすぐ真上を溝呂木が飛び煽られる。その後を三日月型の光刃が飛んでいく。

 

「また……。私たちのこともお構い無しってこと!?」

「姫矢さんはそんな事しない……!」

「ウルトラマンは暴走しているのか? しかし、我々の敵が溝呂木であることに変わりはない。ウルティメイトバニッシャー、スタンバイ!」

「了解、エネルギー充填、ウルティメイトバニッシャー、撃てます!」

「溝呂木の隙を狙う、まだ待て」

 

胸のコアが点滅しているというのにウルトラマンの攻撃は緩まない。僕には、姫矢さんの命を最後の一片まで残さずに燃やし尽くそうとしているように見えてならなかった。しかし体力が限界なのは変わらず、空中で時折ふらついては溝呂木にそこを突かれている。

 

「溝呂木がウルトラマンを攻撃する瞬間、そこが奴の隙です!」

「わかった。ふたりの戦闘に巻き込まれない距離を保ち、タイミングを見計らって撃て!」

「了解!」

 

空中戦の末にウルトラマンが撃ち落とされ、海へと不時着する。それに続き溝呂木が着地し、ウルトラマンへと歩む。

 

『しぶとい奴だ。だがここまでだ』

 

溝呂木が右腕にエネルギーを溜め始める。撃つなら今だ。

 

「ウルティメイトバニッシャー、発射!」

『ぐおっ!?』

 

ウルティメイトバニッシャーが溝呂木の背に命中する。しかし大きなダメージにはならず、溝呂木のヘイトが僕達へと向いた。僕達へ向け、光弾が放たれる。

 

「待避せよ!」

 

エネルギーの再充填をしながら僕達は溝呂木の攻撃を躱していく。

 

『ただの人間が手こずらせやがって』

 

痺れを切らした溝呂木が飛び立とうと足に力を込めるが、立ち上がったウルトラマンにしがみつかれ防がれる。拘束から逃れようと溝呂木がもがくが、ウルトラマンは溝呂木を放さない。

 

『ちっ、放せ! くそっ、どこにこんな力が残っていやがった!』

 

─ 撃て ─

 

僕の頭の中に声が聞こえた。初めて聴く女性の声だった。けれど僕にはウルトラマンの声だと思えた。

 

「隊長、もう一度撃ちます。溝呂木と距離を詰めてください!」

「わかった」

 

チェスターを旋回させ、もう一度溝呂木へと砲口を向ける。

 

「ウルティメイトバニッシャー、発射!!」

 

しかし、

 

『調子に乗るなぁぁっ!!』

 

溝呂木が闇の力を周囲に解放し、ウルトラマンを弾き飛ばすだけでなくウルティメイトバニッシャーまでもを打ち消した。

闇の力に押し返され、僕達は溝呂木と距離を取らざるを得なくなった。

 

『はぁ……、はぁ……。もういい。貴様から直接その力を奪ってやる』

 

溝呂木がウルトラマンの首を両手で絞め上げ、宙へと高く持ち上げる。溝呂木の背後に生まれた闇からは無数の手が伸び、ウルトラマンへと絡み付く。時折黄金の光が脈打つそれにウルトラマンを引き渡し、溝呂木は空いた両手を横に広げた。

 

「ヌアァアアアアアアアアッ!!」

 

苦しむようにウルトラマンが叫びだす。

 

『フハハハッ! これが貴様の力か。好きなだけもがけよ。貴様が生み出すエネルギーは全て俺のものだ』

 

ウルトラマンから溝呂木へと、光が手を伝う。

 

「ウルトラマンのエネルギーを吸収しているのか!?」

「やめさせないとウルトラマンが……!」

 

溝呂木がウルトラマンへと顔を近づける。そして煽るように首を傾げた。

 

『そのまま姫矢を焼き尽くしちまえよ』

『“あのときてめえが喰い殺したクソ男みてぇによォ!!”』

 

「ッ!!」

 

苦しんでいたウルトラマンの様子が豹変する。

 

「ウオオオオオオオオ!!!!」

 

怨嗟を叫ぶように吼え、闇に絡み付かれた体を軋ませ、溝呂木を攻撃しようともがく。その銀の体色の表面に炎のような青い模様が浮かび上がっては消えていく。

 

「あんなの! 絶対ヤバいじゃない!」

「早く溝呂木を倒さないと姫矢さんが!」

「しかし次の一撃が、最後です!」

「CIC、教えてくれ。最後の一発をどこに撃つべきか」

 

隊長がイラストレーターへ指示を仰ぐ。それに対する返答は信じられないものだった。

 

[ウルトラマンを撃ってください]

「なんですって!?」

「イラストレーター、本気ですか!?」

[ウルトラマンのエナジーコアを狙い撃てれば、ウルトラマンにエネルギーの供給ができるはずです]

「しかし……」

 

『ウルティメイトバニッシャーはウルトラマンの光を再現したもの、そうだなイラストレーター?』

 

僕たちの通信に突然男の声が割り込んだ。この声は以前、星河(ほしかわ)鋒人(さきと)と名乗った男、つまりは真っ黒い闇の巨人のものだ。

 

[そうです]

『俺からもその作戦を推奨する。いや、やれ』

『エネルギー切れ寸前だというだけならまだ俺でも対処できただろう。だが姫矢は今、ウルトラマン自身の闇に呑まれている』

「ウルトラマン自身の、闇に……?」

 

「ちょっと! いきなり割り込んできて、誰よアンタ!」

「平木隊員、今それを聞いている暇はない。……、ウルトラマンの闇とはいったいどういうことだ」

『闇への憎しみ。以前より奴はそれに囚われていた。何がきっかけかは知らんが、今この地でそれが爆発したのだろう』

「そのまま姫矢さんを呑み込んで暴れているってことですか! でもさっき……」

『たしかに今奴は暴走状態とも受け取れる。だが貴様らを識別し、攻撃を当てまいとする程度の理知は残っていたようだ』

 

『だから貴様らは奴の内側に居る姫矢へその光を届け、姫矢に内側から奴の闇を焼き消させる』

「そんなことができるのか……?」

『やるしかないだろう』

「しかしあそこまで激しく暴れられていては、狙うものも狙えないぞ」

 

ウルトラマンは拘束されていながらも暴れもがいている。狙いを定めるどころの話じゃない。

 

『溝呂木とウルトラマンは俺達で動きを止める。貴様らはそのうちに撃て』

「俺達……って、まさかもう一人のメフィスト……。あいつのことも信用しろっていうの!?」

『そうだ。少なくともこの場においては我々の目的は同じだという確認が取れた。それにこいつは元より俺の仲間だ』

「隊長……、どうしますか」

「ッ……」

『奴は過去に友の光を飲み込んでしまったことがあると自責していた。貴様らは姫矢にも同じ末路を辿らせたいのか……?』

 

『決断しろナイトレイダー』

「……隊長、僕やります。やらせてください!」

「わかった。任せたぞ、孤門」

「はいっ!」

 

 

〜*〜*〜

 

 

「ということだ。貴様は溝呂木を押さえろ。俺はルナを拘束する」

 

ナイトレイダーとの通信を終え、俺は回線を共有し内容を聞かせていたこいつの方を向く。

 

「あいつはルナなんて名前じゃねえ。レヴィーサだ。何回言やァわかるんだてめえは」

「ルナだろうがレヴィーサだろうが関係ない。俺にとって奴は『ノアのようでノアでない者』でしかない」

「レヴィーサのどこがあんな奴と似てるってんだよ!」

 

こいつはまた怒ってきた。奴への執着が酷いな。

 

「貴様らの関係性など知らんと言っただろう。奴はノアではない。このザギが奴について知っていることなどその程度だ。ここでこのザギと争い、姫矢准を死なせたいのであればそうしろ」

「ちっ。てめえはつくづくムカつく野郎だぜ」

 

俺達はルナと溝呂木の方へと飛ぶ。

 

〜*〜*〜

 

「副隊長、あの声の主ともう一人のメフィストには関係があるんですか?」

「あーっ、確かに! 私たち、あの声と喋るの初めてなはずですよね?」

 

僕と隊長は鋒人として接触されたし、副隊長も本人の声は既に聴いている。石堀隊員と平木隊員はまだ彼との接触をしていなかった。戸惑うのも当然だった。

 

「あの声は真っ黒い闇の巨人、奴と同じだったわ。そしてもう一人のメフィストは奴の中から出てきた。それに今、奴も関係性は認めた。これで充分かしら」

「だが黒い闇の巨人も、もう一人のメフィストも俺たちに敵意を向けていたと報告されているじゃないですか。信用できるかっていうと……」

 

関係についてはわかった。けれど不安要素しかない助っ人に石堀隊員が渋る。

 

「私だってまだ信じきれてるわけじゃない。けど、敵の敵は味方、今回は互いに利用価値があった、そういうことでしょ」

「疑心暗鬼になっていても仕方がない。俺達は今はウルトラマンへ光を届けることだけを考えろ。来るぞ」

 

黒い巨人が高速でふたりへと向かう。そして彼は溝呂木がウルトラマンを捕らえていた闇の手を斬り裂き、二人を引き剥がす。そして溝呂木へ襲いかかろうとするウルトラマンを正面から抱き留めて押さえ込んだ。ウルトラマンが暴れもがき彼へと攻撃を加えるが、彼はそれを堪えている。

 

『ダークザギ!?』

『させるかよ!』

『ちっ、邪魔をするな!!』

 

黒い巨人へと攻撃しようとする溝呂木を、今度はもう一人のメフィストが攻撃し邪魔を始める。刃へと変貌させた左腕で溝呂木を斬り裂く。

 

『ルナ! 暴れるな大人しく……』

「ウアアアッ!!」

『っ…………、ぬあっ!!』

 

黒い巨人がウルトラマンを裏返して前面を僕達へ向ける。ウルトラマンの両腕を後ろ手で押さえ、首に腕を掛けてできる限りの拘束をした。

 

『─早くしろ!!─』

 

彼の急かす声が僕へと届く。僕は集中し、照準をウルトラマンへと合わせる。姫矢さん……、今度は僕があなたを助ける番だ。

 

「ウルティメイトバニッシャー、発射!!」

 

 

〜*〜*〜

 

 

── inside ──

 

熱い……。

俺の体を焼く炎は威力を増し、俺から光を奪っていく。既に闇に呑み込まれたこの空間が、俺の命を蝕んでいく。彼女の姿はもう、見えない。

 

俺はここで……、独りで死んでしまうのか……。

 

「姫矢さん!!」

 

孤門の声が聞こえ顔を上げた俺は、視界を、全身を、貫く光に曝された。

 

「今度は僕が、あなたを助ける番だ!!」

 

光の中から孤門が、俺へと手を伸ばす。

 

俺は手を伸ばす。

 

俺たちの手が触れた。

 

真っ白い光の中へと俺は呑まれる。

 

────

 

─姫矢准、彼女を……─

 

声が聴こえる。

 

─彼女を助けてあげて─

 

光が俺の中に収まり周囲の明るさが元に戻る。俺と顔の見えない声の主は火中の遺跡を前にしていた。

 

─僕じゃ彼女を救いきれなかった─

 

君は……?

 

─過去僕は、闇へ囚われた彼女をこの身を犠牲にして光へと引き戻した─

─けれどそれと引き換えに、僕の消失は彼女の心を憎しみの闇に突き落としてしまったんだ─

─そして彼女は僕の消失の原因となった闇を憎み、葬り去ろうとしている─

 

そうか、君が、彼女の言っていた……。

 

─彼女の力は怒りや憎しみで振るうものじゃない─

─彼女の力は心を救うために、手を伸ばすためにあるんだ─

 

─彼女が君に手を伸ばしたのも、そのためだ─

─あの子の……セラの心を救った君の光が失われようとしていた─

─彼女は、君の心を救いたかった─

─だから君へと手を伸ばした─

 

だから俺に、この力を……。

 

─けれど彼女の憎しみは強かった─

─心を救いたい、その心を塗り潰すほどの憎しみが今の彼女を動かしている─

─心を救いたい、彼女のその気持ちは……─

─あの闇に対しても最初は同じだったんだ─

 

─彼女にそれを、思い出させてくれ!─

 

その声に俺は力強く頷き、この身に灯った光を解き放つ。この空間が再び、光に包まれた。

 

 

〜*〜*〜

 

 

ウルティメイトバニッシャーの直撃をコアに受け、ガックリと項垂れていたルナの体が光り輝く。

 

「ウオォ……」

 

彼の足に力が入ったことを確認すると、ザギは彼を放した。

 

『正気には戻れたか?』

 

ザギの問いかけるような視線にルナ(姫矢)がゆっくりと頷き、胸のコアに手を添える。

 

『レヴィーサ……?』

 

メフィスト(バハメット)が恐る恐るルナへと近付く。しかしキッと彼を睨むルナを前に怯えるように身を小さくし、後ずさった。そんなバハメットへと構えようとするルナをザギは手で制し、目を合わせる。

 

『ルナ、貴様は貴様の相手に集中しろ。間違ってもこのザギの戦いに加勢しようなどという思考は持つな。いいな?』

 

ルナ(姫矢)が再び頷くと、ザギはバハメットを無理やり連れ去る形でこの場を離脱した。

 

 

 

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