底無き闇に光差せ / ortRoLoDs   作:弐の字

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くらい、くらい、なにもみえない

とまったあしは うごかせない

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ザギを宿したローズは検査や訓練のためまだ光の国に滞在している。ザギに再び顕現させられたメフィスト、ファウストも共に活動していたが……。
これはその片方、ダークファウストと絵の話をする話です。



ふたりの迷子

 

ここは光の国のとある一室。実体を持ったダークファウストは椅子に座りボーっとしていた。

まるで空っぽになったようだった。我が主たるダークザギはあの状態。光の者の力を奪ってやろうにも、この国はエネルギーを嫌になるほど押し付けてくる。存在意義を失ったようだった。しかし他にもなにか、失くしているものがあるような気もする。

 

ファウストはただ、ボーっとしていた。

 

「ファウストは、絵を描くのが好きなんですね」

手癖のように机を指でなぞっていたファウストにローズは声をかけた。ファウストはハッとして指を引っ込めると少し考え込む。

「……どうなのだろう。私はそうは思わない。ローズ、貴様は何故そう思った」

「あなたのなぞる軌跡が美しかった。ファウストには何かが視えているのでしょう?」

「……、私には何も見えないが?」

「えー、そんなはずないです! 絶対視えてましたって!」

ローズは子どものように頑固である。実際子どものようなものである。ファウストは押し負けた。

「私は……、何を描いていた」

「わかりません!」

ローズはキッパリと答えた。

「は?」

「だって私、何も見えませんし」

そうだった、こいつは目が見えないのだと、わかりきったことだったのに聞いた自分にファウストは頭が痛くなった。

「けれど、なんだかとても優しい絵だと思います」

「見えないのにわかるのか?」

「ファウストのなぞった軌跡を視界に残し続けてみたんです。途中からですよ?」

光の者がこいつの視界を再現したという装置でこいつの視界は見たことがある。闇の中に必死に像を結んだだけの、普段の活動にさえも頼りないものだった。だが、軌跡を残すなどという器用なことができるとは知らなかった。

「それでもいい。私は何を描いていた?」

ローズはふむぅと首を捻ると、絵の内容を順番に話していく。

「なんでしょうね、これ。たぶん怪獣だと思うんですけど。四本の細長い足があって、ツノのある首もそれくらい長くて。でも目は怖くないです。ファウスト達と一緒ですね!」

光の灯らぬこの目に恐怖を抱かない。やはりこいつも闇に在る者なのだとファウストは思った。

「そんな怪獣が、小さいのと大きいのと、二匹居ます。このへんで私が声をかけてしまいました」

たぶんここに大きいのがもう一匹いたのかなと、ローズはファウストの左手側を円でなぞり囲む。

「家族……。家族を……描いていたのかもしれない……」

ファウストが片目を隠すように額に手を当てた。

「私を構成していた……ひとりの人間だ。そいつがまだ存在していたときに……描きたがっていた絵だ……」

「ファウストも、ゼット達みたいに人間と融合していたんですか?」

「いや、違う……。私は…………、私はあいつだった。私はあいつであり、あいつは私……。だがあいつはあいつでしかなくて……」

なにか彼の中を刺激するものがあったらしい。もう片方の手も添え、ファウストは俯く。

「……ファウスト?」

「私は最期あいつに呑まれた。そして、また死んだ。そして私は今ここに……。なのにあいつは……(リコ)はいない……。私は(リコ)を失くしちゃった……」

ファウストが泣き崩れる。心做しか声も女のように細くなっていた。ローズは察した。この人が、ファウストと同一だった人間なのだと。

「居ますよ、ちゃんとここに」

「えっ?」

「あなたはちゃんとここに居ます。私の目の前に」

「でも、私はとっくに死んでるんだよ?」

「あなたはついさっき私に素敵な絵を描いみせてくれました」

机の上には何もない。彼女は首を傾げる。

「私、なにも見えないけどその分他の人に視えない世界を視れるんです」

「ねえ、私に絵を描いてみせてくれませんか?」

今の自分と同じ闇の瞳を持っているというのに随分と明るい様子のローズを、彼女は微笑ましく思った。

 

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彼女が絵を描くのを見ながら、ローズは話した。

「家族の絵、あなたが描きたがっていたものだとファウストは言っていました。そんなあなたが居なくなってしまったと、悲しんでもいました」

ファウスト……かつて自分が操り人形として変貌させられた恐ろしい魔人の名前。しかし最後は……。リコは彼のことを知りたくなった。

「その子は、あなたから見てどんな子なの」

「ファウストですか? うーん。今はもしかしたら、迷子なのかもしれないです。ザギ様と出会う前の私と一緒です。道も導も灯も見失って、闇の中で動けなくなってしまってるんです」

「そう……」

自分であり、自分にとって恐怖の対象となってしまったあの魔人。しかし最期には、自分の愛した彼を護ることの叶ったあの体を持つ魔人。その子が今、苦しんでいる……。

彼女は自身─ファウスト─の胸のコアに手を当てる。

「私はここに居るよ」

ローズは彼女を見守る。

「私はもう、あなたのことは怖くないよ。憎んでなんかいないよ。最後に、私に孤門くんを護らせてくれて、ありがとう」

 

「また一緒に、絵を描こうね」

 

 

 

 

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「……!!」

机に突っ伏していたファウストがガバリと起き上がった。そして机の上の状態に驚いた。

先程までは無かった画材達が散らばっていたのだ。

「あっ、ファウスト……起きたんですね。すみません、私も寝てしまってたみたいです」

向かい側に同じく突っ伏していたローズがゆっくりと顔を起こす。

「これらは?」

「ゼロにお願いして持ってきてもらいました!」

「いや、そうではなく……」

「ああ! 一緒にお絵描きしてたんです! 私もたくさん描きました!」

ほら! と見せられた紙には人型が四人。めちゃくちゃな色で塗られてはいるが、その造形から辛うじて自分たちだとわかった。

 

【挿絵表示】

 

「これも、軌跡を記憶して描いたのか」

「そうです! 頑張ったんですよ!」

「……上手いものだな」

「っし!」

みんなだとわかってもらえた。ローズはガッツポーズをした。

 

「あっ、ファウスト! あのですね! これ、これ見てください!」

そう言ってローズはファウストが腕の下敷きにしていたスケッチブックを取り上げる。そのページを一枚ずつめくり、目的のページを見付けると黒い目を輝かせ、ファウストへ押し付けた。

「これは……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

ファウストは驚愕した様子でローズを見る。しかしローズは嬉しそうに首を傾けるばかり。

「貴様、私に何をした……?」

「言ったじゃないですか。一緒にお絵描きしてたって」

ファウストは目線を手元に戻す。

「……消えたものだと……ずっと……」

「彼女はちゃんと居ますよ。彼女も含めてあなたなんですから、ちゃんと手を繋いでてあげてください! そうじゃないとふたりとも迷子になっちゃいますよ」

「……そうしてやろう。まったく……世話のやける人間だ」

手元のスケッチブックに書かれた彼女の名前を、ファウストはそっとなぞった。

「ねえ、ファウスト。やっぱりファウストも絵を描くのは好きですか?」

「……ふっ、そうかもしれないな」

「じゃあファウスト、また一緒に、みんなで絵を描きませんか?」

ローズからの提案にファウストは黒い目をきょろんとさせると、しばらくして笑った。

 

「いいだろう。今度は……私達みんなを描いてやるか」




─Result─
【ふたりの迷子】
たいせつなもの『私の中の彼女』を手に入れた。
厳密には彼女本人ではないらしいが、ファウストはそれを彼女自身と捉え、自分の一部として大切にしている。
実績『軌跡をなぞって』を解除した。
実績『わたしとあなたで私は私』を解除した。

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子供が描く絵みたいに描くのって結構難しいですよ。
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