ねえねえそこ行くけものひと
灯りも持たずに何処へ行く
正しき道は見えておろう
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やあやあそこなる旅人よ
我を手招き何を問う
この喉通るは血肉の餌のみ
貴様の呑ませるその針に
たとえこの首裂けたとて
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ゼロ&ゼットに特訓を受けるローズがメフィストのことも誘う話。
ジードも加えてメフィストと一緒にゲームをする話。
前後編に分かれていたものをまとめました。
毒気を抜かれそうだ。
久々に顕現させられてみればここは光の国などという場所。至る所に光の巨人どもが居る。そんな中に闇たる俺がいる。陣地に敵が放り込まれている状況のはずなのだが、警戒はされても何故か奴らはこちらに敵意を示さない。
我が主たるザギ様もあの小僧の中で0と1を吐き続け、相方たるファウストもあの小僧に構いっきりだ。
顕現されて早々に主からは光の者との不戦を言い渡され、タワーからブロックを引き抜いて積み上げるだけのくだらん遊びやトランプゲームに付き合わされたときは俺もどうにかなりそうだった。
全く、毒気を抜かれそうだ。
ただそれでも、俺の奥底にある欲求を消すことはできないようで、俺は燻ってばかりいた。
「メフィスト、ゼロたちが稽古を付けてくれるそうなんです! 一緒にやりませんか?」
星が舞っているような笑顔でローズはメフィストを特訓に誘う。
「あ? どうして俺が」
「だってメフィスト、ずっとつまらなそうにしてたんですから。何かやってみるのがいいと思うんです」
乗り気でなさそうなメフィストをローズは半ば無理やり稽古に連れて行く。
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ウルトラマンの特訓と言えばK76星。ローズ、メフィスト、ゼロ、ゼットはここにやって来ていた。光の国から離れ光が少なくなった為に、ローズのダークダイブは解除され、久々にグレー地に黄色でトゲトゲのない姿となっていた。
「ほぇー、これがローズの本来の姿なんですね」
「俺も見るのは初めてだな。初対面の時は既に赤黒かったし」
「私も久々なので力が抜けた感じが落ち着かないです」
まじまじと見てくるふたりに苦笑いのローズ。
「やっぱありゃあ強化形態ってことなのか」
「そうですね。闇に潜ってその力を強めた状態です。潜るほど光への耐性が高まるんですが、潜りすぎると私の身が危ないです」
「コントロールが効かない感じですか?」ゼットが疑問を投げる。
「自力で元に戻れなくなるって感じです。ザギ様のお陰である程度までは自分で行き来できるようになったんですけど……。それ以上は光がないと戻れない。私にはどうしてもひとの助けが必要なんです」
「ウルトラマンはひとりで戦うもんじゃねえ。大丈夫だ、俺たちがついてるからよ」そう言ってゼロはローズの背を叩く。
「ありがとうございます、ゼロ」
ローズが嬉しそうにするのと一緒に、頭部の結晶─ローズサイン─が少し瞬いた。
「自分の力のことがわかってんなら、後は動かしてみることだな。旅でいろんなとこに行くなら戦闘を避けられない場合もあるかもしれねえ。もしそうでなくても、自分の身を守るために体は動けるようにしておいた方がいい」
「なるほど、ということで俺たちとの特訓なんですねゼロ師匠!」納得。ゼットは手を叩く。
「お前を弟子にした覚えは無ぇ。なんとなくこいつと波長が会いそうだったからお前に声をかけたんだよ」
「私も! 相手がゼットで良かったです! 近寄り難い感じがなくて、遠慮なくいけそうな気がします」
そう言ってガッツポーズを決めるローズを前に、ほらな? という顔でゼロはゼットを見る。そこには、近寄り難いというか
「ところでローズ、お前、戦闘経験はあるか」
「無いです! 全く!」
キッパリ。ローズは言い切った。
「惑星バベルに着くまで全部躱して振り切って来ましたもん。でもやってみます! 本能で!」
「とのことだゼット。何をしてくるかわからねえからな。怪獣だと思って相手してみろ」
「はい師匠!」
「だからおめーを弟子にした覚えは無ェ」
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「えっちょ、待ってくれでございますよ! 本当に見えてないんですよね!?」
ローズは正確にゼットのいる方向に突きを繰り出してみせた。なんと方向だけでなく距離まで正確だ。
「お前もこいつの視界の体験はしただろ、あの真っ暗闇だぞゼット」
盲目盲聴の二重苦があるはずなのに活動ができているローズの知覚に興味を持ったヒカリが彼を調べに調べ、その視界を再現した装置を作り上げた。ゼロもゼットもその装置にてローズの視界は体験済みである。
「あんな視界でここまで正確な攻撃ができるなんてウルトラびっくりでございますよ!!」
視界から外れるようにして躱し、後ろに回り込んだとしても次の瞬間には手刀や回し蹴りが飛んでくる。体が追いつかないのか見当は不確実だが、まるで背中にも目があるような動きだ。
「視覚に頼らない怪獣だって居るんだ。俺たちの知らない世界をローズは視てるんだろうぜ」
「そうです! 見えない代わりに色々わかりますよ」
「ほらほら集中集中」
「「はいっ!」」
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「まだまだやれます!」
ローズはその背から不定形の黒い翼─ネビュラウイング─を出し、その翼を腕の代わりにするように構えを低く前傾に変えた。知ってか知らずかダークザギの構えのひとつに近いのだが、それを知るものはローズの中のザギ本人しかいない。その翼を警戒し、ゼットは一度距離を取った。
『ンラァッ!!』
しかしその距離をものともせずにローズは前に踏み込んだ。そこから届くのかという距離をその翼は詰めてきた。
「わっ!?」
直前まで雲のように揺らめいていた翼が、ローズが踏み込んだ瞬間に拳として目の前に実体を持ったことに気付き、ゼットは咄嗟に防御体勢をとった。弾けるような衝撃の直後にその翼の実体は解け、周囲に消えていった。
間髪入れずに次の攻撃がゼットを襲っていく。
「ゼロ師匠ぉ~!! これありなんでございますかぁぁ!?」
「ハンデだと思え!」
「ええ〜〜??」
しかしゼットの防戦一方のように見えて戦闘経験の有無は明確に現れていた。ローズの攻撃は単調で前に前にと突っ込むばかり。それに対応しながらゼットは考える。
「(下がってばかりじゃずっとローズの間合いのままだ。けど、これなら対処は簡単なはず)」
実体を持ったネビュラウイングを弾くとゼットは低く前に踏み込む。そのまま地面を蹴り、ローズとの距離を一気に詰め、
『キアッ!!』
『ンラッ!? ……、ラ…………ァ、ダァァァ……』
鋭い突きをローズの顔面に当たる直前でとめた。意表をつかれたこととその一瞬の気迫で気圧されたことでローズは尻もちをつくこととなった。
「勝負あったな。ローズ、やってみてどうだった?」
「今の……すごくびっくりしました! まだドキドキしてる」ローズサインを明滅させ、ローズは興奮している。
「目が見えてないっていうのが信じられないくらい動けてましたよ、ローズ!」
「メフィスト、あんたはどうだ? ずっと黙ってたけどなんか無えのか」
腕を組んだままつまらなそうに二人の組手を観ていたメフィストへ、ゼロは意見を求める。
「……動きが単調。敵の動きを見ていない。両腕空いてるならしっかり使え。そして……」
「お前のそれに間合いというものは存在しないんじゃないか?」
「え?」「へ?」
「おいおいそれってどういう……」
メフィストの指摘に対し、三人の頭には疑問符が浮かんでいる。
「あの拳の攻撃速度がおかしい。起点自体はお前の背中なのだろうが、それが明確に形を持つのはその小僧の目の前からだ。その間には距離があるはずだが、初撃の一番間合いの遠かったときと、後半の詰まった間合いのときとで発動したであろう時間から着弾までの時間に変化が無かった」
「確かに! なんだかやりずらかったのはそれのせいだったんてございますな! 思い返してみると、翼として背中に繋がってて、俺とはまだ距離が空いていたはずなのに、目の前に張り付かれて光弾を連射されてるような感覚でした」
三人はローズのほうを向く。見詰められることとなったローズは照れながら口を開いた。
「私の体─ローズネビュラ─は私の望んだ通りに動きます。だから私は飛べるし、今だってゼットにちゃんと当てることを意識して……、となると私が距離を詰める必要は無かった……?」
ローズ自身もこれは無自覚であるようだった。メフィストは評価を続ける。
「詰めるなとは言っていない。使い分けろ。望むようにできるのなら、発生場所、方向、距離、タイミング、何もかも把握して使いこなせ。普通の格闘にこれを加えるだけでもだいぶ変わる」
「こりゃあ……育ったらかなり厄介になりそうだぜ」
ローズのあの攻撃の詳細を聞き、ゼロは身震いした。
「何でですか? ゼロ師匠」
「いとも簡単に相手の予測できない攻撃をできるってことだ。遠くから殴り掛かろうとしてるその出鼻を挫けさせたり、正面で殴りあってるのに横とか後ろとかからも攻撃できたり」
「うわぁ、それは凄いですね……。ローズ、これは特訓のしがいがありますね!」
「私ももっと戦えるんですね……! ゼット、もう一回、お願いします!」
「押忍! なんどでもやってやりますよぉ!」
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「メフィスト、ついて来たからにはお前もやってくだろ?」
自称弟子のゼットとローズの組手が軌道に乗ったのを見、黙って見ていたメフィストにゼロは話しかけた。
「ガキが。俺の相手になるとでも思っているのか? 随分な自信だな」
「甘く見てもらっちゃ困るぜ。これでもいろんな奴を相手にしてきたんだ」
「……、面白い。やってやるよ」
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ゼロとの組手をするうちにメフィストは気付いた。この体にはあの男の体捌きが染み付いていたようだった。光の力で己に変身してみせた忌々しい男だが、その力は存外悪いものでもなかったかもしれないと懐かしく思った。
ダークメフィスト、使えるものはとことん使い倒してやる性分である。その男の経験すらも自分のもののように扱ってみせていた。
「ふんっ」
『デリャッ!』
互いの腕を押さえた一瞬の膠着時間。ゼロはメフィストのある様子を指摘した。
「へっ、随分と楽しそーじゃねえか」
「どこが。ガキの相手など面白いはずがない」
「顔に出てるくせに、よく言う……、ッ!」
ゼロの言葉が途中で切られる。ゼロを押し退けたその腹にメフィストが蹴りを叩き込んだのだ。
「口を動かす暇があるなら体を動かすことだな」
「ちいっ、本当に、よく顔に出るやつだぜ」
メフィストの目が赤い光を灯していた。それはメフィスト本人には気付きようのない変化だった。
ふたりの戦いはヒートアップしていく。
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ゼロ達の組手の余波を感じながら、ローズとゼットも同じく組手を続けていた。
「師匠たち激しくなってますね。ローズ、俺達も負けてられないですぞ!」
「はい!」
「さあ、ドンと来なさい!」
メフィストのアドバイスのお陰もあってか、ローズの動きは格段に良くなっていた。それでもまだまだゼットに防ぎ切られている。
「くぅ〜やっぱりなかなか厄介でございますよ!」
「ちょっと意地悪をしてるような気持ちになってきました……」
「ローズは優しいのでございますな。けど! 心を鬼にして戦わなければならないこともあるぞ!」
「わかりました! 心を鬼に……、心を鬼に……、こころを…………、!!」
突如としてローズが口を閉ざす。
「ロ、ローズ……? なにも顔まで鬼にしなくてもいいんでございますよ……?」
少し下を向いた角度で微動だにしなくなったローズを心配し、ゼットは声を掛ける。
「ロー…… 「ローズ貴様ァ!!」 ……へ?」
向こうから飛んできたメフィストの怒号に、ゼットはゼロ達が組手をしていたほうを見た。するとそちらではゼロもメフィストも地面に転げていた。メフィストは自身の右腕と地面とを縫い付けている黒い六又槍を抜こうともがいているが……。
「随分と派手にコケてますな」
向こうで何かがあった。しかしそれの詳細をローズに察されてはいけないような気がして、ゼットの口からは呆けた言葉が出ることとなった。
ゼットはローズへと視線を戻すが、ローズは先程の怖い顔をしたまま硬直している。よく見るとローズの背後で揺らめいていた翼が片方無くなっている。
「……、あれ? ねえ、ゼット、私いまどうなってますか? 私いま、こっちの翼を動かしてるはずなんですけど」
きょろんとした表情に戻ったローズはネビュラウイングを動かそうとするが、それが動いている感覚は無いようで疑問符を出す。
「そっちの……メフィストさんの腕を掴んでいるでございますよ」
ゼットはローズを気遣い、向こうの状況をあえてぼかして伝えた。
「そうですか……。邪魔してすみません! メフィスト!」
「……いいから早く解除しろ!!」
距離が少し離れているのでふたりは大声でやり取りをした。
『ラァァ……、ンンンゥゥ〜!!』
「っはぁ……はぁ……」
「ローズ、大丈夫ですか?」
メフィストのところで実体を持ったままのネビュラウイングを解除しようとするが上手くいかない。息を切らすローズをゼットは心配した。
「わからないです。上手く動いてくれません」
「うーむ、どうしたものか……。あっ、そうだ! ローズ、右手をギュッと握ってください」
「こうですか?」
ローズはゼットの言う通りに右手を握った。
「そう! そしてそれをゆっくり開きながらネビュラウイングを戻してみましょう!」
ネビュラウイングの片方がメフィストの腕を握っている、というていをそのまま利用してゼットはローズを誘導する。
「〜〜〜〜ッ、、っはぁ…………。できてますか?」
「戻ってますよ! 上手い!」
「よかった……」
ローズは胸をなでおろした。
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六又槍の実体が解け、解放されたメフィストは自身の右腕の調子をみる。
「ちっ…………」
あの六又槍は自身の腕……というよりはアームドメフィストを狙って放たれたものだったのだろう。鉤爪が根元から綺麗に折られていた。
「(なんのつもりだ、ローズ……)」
折れた断面とその根元を覆うようにローズネビュラが残り、まとわりついている。エナジーコアを守るようにザギの胸部を覆っていた装甲と同じだ。
メフィストは立ち上がると、ゼロと共にローズ達のほうへ向かった。
「あれはわざとか?」
戻ってくるなりメフィストはローズを問い詰める。
「いえ、私は、メフィストがまた変なところに行こうとするから引き止めただけです。メフィスト、何かしようとしたんですか?」
六つの光がメフィストを見詰める。
「……興が覚めた。その辺で時間を潰してくる。帰る時には声をかけろ」
その光から顔を背けると、メフィストはどこかへ歩いていってしまった。
「悪ぃ。助かったぜ」
「ゼロ、メフィストは何をしたんですか?」
「え?」
ローズから聞き返されてしまい、ゼロは困惑した。
「やっぱりなにかしたんだろうなということは分かるんですけど、何をしたかまではわからないんですよ。私の目が見えないこと、忘れてませんか」
「いや……、お前あいつの武器に的確に攻撃当ててただろ。ありゃあ見えてなきゃ出来ねえ芸当だぜ?」
「ゼロ師匠、それは俺から否定させてほしいです。ローズはずっと俺のほうを向いてましたし俺はウルトラ怖い顔したままのローズとずっっっと向かい合ってました」
「えっ私そんなに怖い顔してたんですか!?」
ローズはまさかと自分の顔をぺたぺたとさわる。
「超獣を前にしたエース兄さんと同じくらい怖い顔でした。なかなかの気迫でしたぞ」
噛み締めるようにゼットは深く頷いた。
::::
「……あいつ強いな」先程のメフィストとの組手を思い出し、ゼロは呟く。
「そうですよ! メフィストは強いんです」ローズは自分の事のように誇らしげだ。
「しっかしなぁ……、あの殺気はマジだったぜ。あんたが押さえてくれてなかったら危なかった」
実は、ローズが反らしてくれていなければメフィストの鉤爪がゼロの体をプロテクターごと穿いていたところだったのだ。先程メフィストだけでなくゼロもが転げていたのはそのためである。
「メフィストはゼロを殺そうとしたんですか……? どうしてでしょうか……」
「殺らなきゃ殺られるとでも思ってんじゃねえのかな。んなことしねえのに」
「メフィストは今まで、そんな世界で戦ってきたのかもしれません。だからたぶん、それが染み付いちゃってるんですね。メフィストは遊びでも相手をしっかり追い詰めてましたもん」
そして、そういえばという風にローズは声のトーンを変えて話を続ける。
「そう、この前のトランプ遊びも凄かったんですよ! いろんな遊びをやって見せてくれてたんですけど、ファウストはずっと苦しそうな顔してましたし、ザギ様も途中で投げ出しちゃってましたし。メフィストはゲームも強いんです!」
ウルティノイドがトランプ……? 有り得ないほどに跳躍した話は一旦置いておいて、意外すぎるくみあわせにゼロとゼットは顔を見合わせた。私は柄が見えないので遊べないんですけどね、とローズは笑うが、ちがう、そこじゃないんだ。
「地球で人間と居た時期があるから知ってるんだそうです」ふたりの反応に疑問を持ったローズが付け加えた。
「いや、なんか……」
「意外、ですよね」
やはりまあ、ふたりの欲しい答えはそれではなかったわけだが。
「私いまみんなにいろいろ教えてもらってるじゃないですか。これもそのうちのひとつだったんです!」
「……たぶんメフィストも……、遊ぶのは好きなんだと思います。すごく楽しそうにしてました。この前も、さっきも……。それがきっとどこかですり変わってしまうんです……。メフィスト、いつも変なところ歩いてるから」
ローズの顔が陰る。
「私……メフィストにも楽しい気持ちで居てもらいたいんです。私も……、メフィストと一緒に楽しく遊びたいんです……。だからもっと、メフィストのことが知りたい」
ローズの願いを聞き、ゼロとゼットは考える。少ししてゼットが口を開く。
「ゼロ師匠、ハルキが……、地球のゲームを渡してみたらどうかって言ってます。アクションゲームとかならやり込みそうって」
「こいつのはどうすんだよ。画面見れねえだろ?」
「目が見えなくても遊べるリズムゲームがあるそうです! しかもマルチプレイ対応!」
「抜かりねえな地球人」
それを聞き、ローズの表情が明るくなる。
「それだったらメフィストと一緒に遊べるかもしれないんですね! 気になります!」
「じゃあ早く帰ってそれらの取り寄せを頼もうぜ」
「そうと決まれば! ローズ、メフィストを呼び戻して来てください」
「わかりました!」
ローズはメフィストの元へ文字通りウキウキで飛んで行った。そんなローズを見送り、ゼロはゼットに問う。
「なあゼット、アイツらのことどう思う?」
「ローズは眩しいですよね。闇の巨人とは思えないくらい。メフィストさんはまだ……。ローズの言ってた、『変なところにいる』っていうのはこのことなんでしょうか」
「それは俺にもわかんねえ。けど、あいつに邪悪な心があるのも確か、光の心が芽生え始めてるのも確かなんだろ。俺らはそれを見守ってやるくらいが丁度いいのかもしれねえな」
::::
メフィストは先程ローズに破壊されたアームドメフィストを見詰めていた。
「……」
先程の組手のさなか、あの小僧を地面に倒した俺は、そいつに向けクローを振り下ろした。トドメを刺すつもりだった。だがそれは文字通りの横槍によって防がれ、俺は地面に括り付けられることとなったのだった。
これはただの遊びだ。痛めつけるだけでよかった。トドメを刺す必要などなかった。これは遊び。ただのゲーム。力を振るい、敵を徹底的に追い詰め、その光をこの手で潰えさせる。死の…………。
─やめろ─
「ちっ……」
メフィストを頭痛が襲った。自身を咎める声が木霊する。思考が、かき乱され、ていく。
「誰だ……」
あの小僧の持つ力は強い。ネクサス……いや、ノアの気配がしていた。我が主の元となった神。俺より遥かに強く、更には我が主を超える神の力……。それを……、向けられてしまえば俺は……。
─あいつはそんなことしない─
「何を考えているんだ俺は……!」
力で捩じ伏せてしまえばいい。殺せる時に殺してしまえばいい。この世界を支配するのは力のある者……。誰が上なのか、示してしまえばいい。
─違う─
「っ……! 誰なんだいったい!!」
頭痛が増す。
ローズの目の光が脳裏にチラつく。ローズのあの目が嫌いだ。静かにこちらを覗き込む光。俺の、奥底を照らし出そうとする光……。
「メフィスト?」
「……ローズか」
かけられた声に俺は現実に引き戻される。
「そろそろ帰りますよ。あと行きたいところができたので皆で寄って帰りましょう!」
「あぁ……」
ローズは俺の手を引く。
まるで赦されでもしたかのように引いた痛みが気持ち悪かった。
::::
「で、行きたい場所というのがここか」
光の国のショッピングモールのひとつらしい。ウルトラマンにも人間のような営みがあることがメフィストには未だに馴染まない。彼の知るウルトラマンというのは
「地球産のゲームを多く取り扱っているお店です。 メフィストさん達は地球で人間と居たことがあるそうなので、馴染み深いものがあるかなーと思いまして」
メフィストはゼットへの返答に困った。
人間と居たとは言ってもその人間は特殊部隊の人間である。彼は世間一般から切り離された生活をしていたし、自分と融合してからは放浪の身となっている。
馴染みのあるものなど有るかと心の中で悪態をつくが、ローズの中に居る主からの無言の圧を感じ、メフィストは渋々店内を見て回ることにした。
::::
「気になるの見つかりましたか?」
「………………、お前は誰だ?」
見た目はゼットだが少し雰囲気が違う。
「ハルキです。ゼットの相棒の」
「(この小僧、人間と融合していたのか……)」
ハルキはメフィストが棚から引き抜いていたソフトを覗き込む。
「お、B-ハザードですね。大人気シリーズですよ! お、この辺も傾向近いと思いませんか?」
そういってハルキが引き抜いたソフトのパッケージには『死宙』と書かれており、こちらも銃を使うゲームのようだ。にしてもどちらも敵がなかなかにエグ味のある造形をしている。スペースビーストのほうがまだ可愛げがあるかもしれないと、メフィストは少し人間の感性を疑った。
「ローズはどうした。ここに来たいと言ったのはあいつなんだろう。画面なんて見れないのにこんなところに来たんだ、明確な目的があったんだろう?」
「ローズなら選び終わってゼロ師匠と外で待ってますよ」
「早いな」
「じっくり見てていいんですよ。ゲームは逃げませんから」
「いや、いい。これで充分だ」
メフィストとしてはこんなこと早く終わらせて帰りたいのだ。
「じゃあ、あとこれとこれと、よしっ! 会計してくるので先に外出てていいですよ!」
そう言ってハルキは店の奥へと消えていったので、メフィストも外で待つことにした。
::::
「ゼットさんも明日お休みですし、ゼロ師匠もまだ暫く休暇ですもんね。ということで!!」
「ゲーム三昧といきましょうか!」
「ゲーム三昧といくでございますよ!」
「「おー!!」」
ゼット&ハルキとローズは買ってきたゲームやその本体諸々を床に並べてウキウキである。
「いやいや待て待て、なんで俺まで。しかもなんか増えてやがるし」
先程買ったゲームを携え、特訓メンバーにジードが加わり、ローズ達の借り部屋に押しかけていた。
「リクくん先輩も地球生まれ地球育ちですからね! それにローズと一応面識はあるんですよね? せっかく地球産のゲームで遊ぶんですから、ベリアロクさんに頼んで連れてきちゃいました!」
「ゼロ、こちらは……?」
若干状況が理解できていないジードがゼロに訊ねる。
「ああ、その赤黒くてトゲトゲしてるのがローズ。以前お前が遭遇した『闇を纏ったウルトラマン』で、こっちのイカついのがダークメフィスト。向こうで寛いでるツノのある奴がダークファウスト。そしてローズの中にもうひとり、ダークザギってのが居る」
「みんな闇の巨人? それなのになんだか平和だね」
「まあ、いろいろあってな。全員、ローズの保護者みてえなもんだよ」
「なにが保護者だ。俺はこいつに付き合わされてるだけだぞ」
突っかかってきたメフィストをゼロは笑ってあしらう。
「なんだかんだ付き合ってくれるくせにな」
ジードは部屋の中を見回す。
「なんだかゼットが増えたみたいな賑やかさだ」
「俺もそれは同意するぜ」
::::
「わーー!! また負けたぁぁあ!! メフィストさん、もう一回! もう一回です!!」
「面倒だ、ガキども! まとめていっぺんにかかって来い!」
パーティーゲームやら格ゲーやらボードゲームやら、大乱闘なゲーム大会を彼らは楽しんでいた。始めは渋々だったメフィストも段々と熱が入ってきたのか、なかなかコントローラーを手放す気配は無い。メフィストが今晩の主役なので計画通りなのであるが。
途中、一度混ざったファウスト(&リコ)が優勝をかっさらったり、次の手に悩む少年たちを面白がってザギがこっそりテレパシーで耳打ちしたりなど本当に賑やかだ。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!? 無理無理無理無理マジで無理グロいうわぁぁぁこっち来んなァァァ!!」
「おいおい情けねえなぁ。それでもノアに魅入られた光の戦士か??」
「それとこれとは関係なっ……うぎゃぁぁ!!」
「メフィスト、ナイスサポート!!」
「た……助かったぜ……」
今はメフィストとゼロの二人で先程メフィストが選んだB-ハザードをプレイ中だ。この前にひとつ、ハルキチョイスの死宙をメフィストがプレイしたのを皆で見守ったはずだが、光の国育ちのゼロとゼットの悲鳴は止まなかった。
::::
叫び疲れたのか、師弟コンビは先にダウンしていた。
「ローズはやらなくてよかったの?」
ジードはここまで一度もローズがコントローラーを握っていなかったことに気付いて声をかけた。
「うーん、私の場合、やらないというより、やれないが正しいです。画面が見えないので。でもメフィストが楽しそうにしてるのが嬉しいです。それに、見えなくても出来るゲームもあるのでこの後でメフィストに教えてもらいながらやってみるつもりです!」
「もしかして目が見えない……?」
「そうですよ」
「それなのに宇宙をひとりで飛べてたの……?」
当然のように返したローズにジードは驚愕した。
「ザギ様も一緒でしたよ。でも、ひとりと言われればひとりだったかもしれません」
「すごいな……」
「ローズくんは絵だって描けるんだよ。軌跡を視界に残すんだって」
ファウスト……ではなくリコの言葉にジードは少し考えると口を開いた。
「目隠しでゲームをクリアする『心眼』っていうのができる人がいるんだ。マップとか移動のスピードとか、距離とか、いろんなものを記憶と体に叩き込んでるんだ」
もしかして出来るんじゃ……? とジードはローズを見る。
「本当ですか!!」
「練習すればできるかもしれない」
「面白そうです! やってみたい!」
::::
「シューティングゲーム……? お前、画面見えないだろ」
ガチャガチャとコントローラーを弄っていた手を止めてメフィストは言う。
「ええ、だからメフィストが教えてください!」
「……は?」
「ゲームの概要は説明してあるから、あとは画面の広さと自機の動きと敵の動きがわかればできると思うんだ」
こんなのも入れてたのかと思うような、少し古いソフトをジードは手に取ってメフィストに見せていた。パッケージには『スモールインベーダーズ』と書いてある。
「最初から3D操作は難しいと思って」
なるほど確かに。言われるままにメフィストはそれをプレイし、一面をクリアするとコントローラーを置いた。
「で、俺にどうしろと?」
「画面の四隅を指さして教えてください。そうしたら私が自機を動かすので、その動きを追ってなぞってほしいです」
メフィストは画面の四隅を指で触って示し、次にローズが左右に大きく小さく動かす自機をなぞった。自機は横移動だけなので割と簡単だ。
「うん、わかりました。いけます! あとは敵の動きなんですけど……」
「配置は固定。縦四列 横八列、等間隔に三十二体」
敵の配置を口頭で伝え、その四隅をメフィストは示した。
「ありがとうございます! やってみます」
リトライで配置を直し、挑戦する。
画面中央から始まり、ローズは攻撃ボタンを押したままコントローラーの左を入力して離した。
─ぷちゅん、ぷちゅん、ぷちゅん、ぷちゅん
敵の撃破音だ。縦に並んだ四体をしっかり倒した。次は更に左隣。更に左隣と、左側四列を討ち漏らすことなく撃破した。
「あとは反対側だね」
「はい!」
ローズは今度は右を入力する。押し続け、押し続け、そして離した。
─ぷちゅん、ぷちゅん、ぷちゅん、ぷちゅん
自機は右に行き過ぎることも、手前過ぎることもなく敵の正面で綺麗に止まった。感嘆の声がジードから漏れる。
「今のよく止まれたね」
頑張りました! と目を輝かせてジードの方を向くローズがなんだか子どものようで、ジードはついその頭を撫でていた。そんなジードをローズはきょろんとした目で見詰める。
「あっ、ごめん、つい……」
「いいんですよ? ジードにも褒められて私は嬉しいです!」
そんな微笑ましい光景をメフィストは横目で睨むように眺めていた。
残りの三列も倒し切って一面はクリアとなり、次の面へ進む。配置はメフィストに教えてもらい、順調に進んでいたが、
「……? いま何があったんですか?」
聞きなれない音─ゲームオーバー音─にローズがメフィストをつつく。
「攻撃されてお前がやられた」
「この敵攻撃してくるんですか!?」
「そうらしい」
「うう、メフィスト……、どんな攻撃か教えてください……」
「敵の位置から正面に弾をひとつ。攻撃感覚は一定でホーミングは無し」
敵が弾を発射する度にメフィストはそれをなぞった。
「わかりました、やってみます! ………………、メフィスト……、最初の一発を敵がいつ撃って来たのかわかりません……」
「あ、あぁ〜、どうするんだこれ」
このゲーム、敵の攻撃音が入っていないのだ。助言を求めるようにジードのほうを見るが、夢うつつのよう。
「ロード時間…………、あと……スタートの……むにゃ……」
「考えるっきゃねえか」
メフィストはローズからコントローラーを受け取り、一時停止とリトライを繰り返す。この操作が基準になるはずなのだ。しかし時間……? そんなもの正確に測れる訳でもなし。メフィストは行き詰まっていた。
『リトライ押下後1.7秒で明転、0.5秒でゲーム開始、その3秒後に攻撃開始。そこから3秒間隔で攻撃がある。こちらの攻撃間隔は0.25秒』
突然聞こえた低い声にメフィストがぎょっとして振り返ると、主の赤い目と目が合った。胸から上だけが宙に浮いているなんともシュールな姿だったが見紛うはずなどない。
「ザギ……様…………」
『余計な信号が飛び交っていてろくに寝られん。早く片してしまえ』
「は…………」
『やらないのか?』
「いえ……」
メフィストはすっかり硬直してしまっていた。
「びょう……ってなんですか?」
間に挟まれたローズの質問にふたりはそちらを向いて黙り込む。視線を外され、メフィスト内心ほっとしていた。
『………………、その間隔で叩いてやる。覚えろ』
ザギが右腕を実体化させてメフィストからコントローラーを攫い、自身も重ねて握る形でローズに持たせた。
ザギはローズにリトライを押させると、カツ、カツ、と先程の秒を刻んでコントローラーを指先で叩いた。その間隔は見事にゲームの動きと合っていた。
「もう一回、お願いします」
「もう一回」
「もう一回……………、覚えました。いけます!」
ローズが覚えたと言うのでザギはやれやれというようにローズの中へと戻っていった。
「いきます」
リトライ押下。盤面が直される。敵の配置は縦二列横十列。自機はやはり中央から。
ローズは待つ。敵の弾が通り過ぎていく。一回。二回。三回目が通り過ぎた後に左を入力する。
─ぷちゅん、ぷちゅん
成功だ。
「メフィスト! できました!! できましたよ!!」
「あぁ、あぁ、もう、抱き着くな!」
「すみません、でも、凄く嬉しいです!!」
コントローラーを手放してメフィストに抱き着き、引っペがされてもローズは星の舞う笑顔を向けていた。
「…………」
そんなローズに対して上がりかけた掌を宙にとめて数秒、メフィストは振り払うようにそれを下ろした。
「……あっ、、敵の攻撃のタイミングがわからなくなっちゃいました」
まあ、コントローラーも集中も手放してしまえばそうなるだろう。
「……うん。充分楽しみました。頭が少しクラクラします。もう一個はまた今度にします。メフィストはまだやりますか?」
「ん、あぁ」
メフィストはローズからコントローラーを受け取ると、本体に刺さっていたソフトを入れ替えてプレイを開始する。
「『死宙』ですね?」
メフィストが黙々とプレイするものだから、ローズも口を噤んだ。
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「昼間ゼロと話したんですけど、メフィストはひとのために命を掛けようとしたことはありますか?」
メフィストの隣に横になり、その様子をじっと見ていたローズが再び口を開いた。
ローズに問われ、メフィストはあの人間のことを思う。俺の姿を使い、敵を倒すために自らの命を投げたあの人間を。
「他人のために掛けてやる命など無い」
「そう……。自分のことだけで精一杯なんですね。やっぱりメフィストは私と一緒でまだまだ弱いです」
「どういう意味だ」
弱いという言葉に反応したのか、メフィストはコントローラーを置く。
「力って本来、余るものだと思うんです。自分を守るために勿論力は必要です。けれど、そのために必要な力以上の力をひとは得ることができる。じゃあその余った力は何のためにあるのか」
「それは他のひとの為」
「さっきも、メフィストはその目を私のために貸してくれたでしょう?」
「けれど私もメフィストも自分を守るだけで精一杯。だからまだまだ弱いんです。でも……メフィストは強いです。だからわからないんです」
「ねえ、メフィスト。あなたは何を恐れているんですか?」
ローズサイン、十二の灯りがメフィストの闇の瞳を覗き込んだ。先程ザギと目が合った時のようにメフィストは硬直する。
「……ぉ、お前のその目が嫌いだ。その目で俺を覗き込まないでくれ……」
やっとのことで口を開くとメフィストは拒絶の意を示す。
「ふーむ、じゃあ今はやめておきます」
ローズが顔を背けると、酷い頭痛にでも襲われたようにメフィストは額に手をやった。
「どうしてお前はその目を俺に向ける?」
「メフィストが変なところを歩いているからです。そのまま進み続けたら多分、あなたは戻って来れなくなる。あなたを引き戻すひとは確かに在るはずなのに」
「言っている意味がわからないな」
「まだわからなくても遅くはならない。大丈夫、もし本当に戻ってこれなくなりそうになったら、」
私が力づくで引き戻しますので。
背けた顔を再びメフィストへと戻し、ローズはその闇の瞳で彼を睨んだ。そのまま暫くして、ローズまたその顔を背けて丸くなった。
「メフィストは好きなところを歩くといいです。そこからじゃないと視えないものもきっとありますから。……けど少し羨ましいです。私は……道の通りにしか歩けないので……」
「たくさん遊んで疲れました。私もそろそろやすみますね」
「…………、はぁ……」
自身に向けられたローズの背を見てメフィストはため息をついた。
光を点してこちらを覗き込むあの目は嫌いだ。だが先程の、、、光は勿論、闇さえも呑み込んで閉じ込めてしまいそうなあの真黒な眼も……。
頭の中で声が木霊する。
─随分な様だな─
「五月蝿い。貴様のせいで俺は……。貴様自身だって…………、ちっ」
考え事にふけりそうになった頭を現実に引き戻すためにメフィストは再びコントローラーを握った。
このゲームの実績、その9割10割がメフィストによって達成されていたことに寝起きのウルトラ少年組が度肝を抜かすことになるのは、あとほんの少しだけ先の話。
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メフィストさえも疲れきって崩れるように眠った頃、ローズの中に居るザギはひとり呟いた。
「なにが『自分のことで精一杯』だ。貴様はこのザギを止めようとノアの射線に出たことを忘れたのか?」
それにローズの返答は無く、ザギの呟きは星雲の闇に溶けて消えた。
【獣道を行く男1 前編】
たいせつなもの『鉤爪の折れたアームドメフィスト』を手に入れた。
鉤爪が根元から折れ、代わりにネビュラムの黒が侵食している。
実績『望みへと導く翼』を解除した。
実績『赤い目の悪魔』を解除した。
【獣道を行く男1 後編】
実績『ゲーム大会』を解除した。
実践『心眼発動!』を解除した。
実績『怖いものはなんですか?』を解除した。
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いつの間にか感想を頂いていた様子。やはり、嬉しいものです。