8人の旅人と、赤い髪の娘たち   作:遠野ハネ

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【5話②】「(初めてですね。私以外の誰かに『好きです』と言ったのは)」

 停泊所を降りる。ここは西大陸・ワイルドランド地方だ。

 この船から東大陸に渡ろうとする旅人が「クロップデールで今日、豊穣のお祭りがあるってよ」と私達に教えてくれた。

 

「お祭り! お祭り! みんなで行きたいですテメノス様!」

「はいはい行きましょう。こんなところで跳ねないでくださいねー」

「……あの子、子兎が人間になった子?」

「そんなわけない」

「知ってる」

 

 そして私達はリーフランド地方 東クロップデール森道を歩く。

 ここは木々や緑が多い。

 魔物と遭遇しても私達の敵ではなく、苦も無く撃退し、立て看板へ。

 

「このまま西へ進むとクロップデールか」

「あっちは南クロップデール森道ですね!」

 

 西へ進み、全員で歩いていく。小さな石橋を渡った。

 

「テメノス様! 水に葉っぱと花が浮いてます!」

「……あぁ、それは睡蓮ですね」

「あっちにまっすぐな紫色の花も咲いてます!」

「あれはラベンダーだ」

「ありがとうございますオズバルドさん。

ふふふ! 先生がふたりいて嬉しいです!」

 

 クロップデールに到着した。

 祭りの会場が村の奥にあるようで、村内は無人だった。

 

「パーラちゃーーーーん!!」

 

 男が必死の形相で駆け回っている。

 

「なにかお困り事ですか!!」

 

 一番に飛んでいったのはミルフィーユ君だ。

 男は初対面の旅人達に一瞬戸惑ったものの、助けを求める目で話してくれた。

 パーラという名の娘が、木いちごを採りに行ったっきり森から帰っていない、と。

 

「ここに戻ってきていると思ったんだが……全然見つからねぇんだべ……」

「捜しに行きましょう」

「はい! テメノス様!」

「ありがとう!! 俺は会場をもう一回確認するべ!」

 

 走る男の背中を見送り、ミルフィーユ君も動く。

 

 「テメノス様! あっちが大変な感じがします!!」

 

 返事をする前に走り出す。

 全速力で走るミルフィーユ君を私達は追いかける。

 彼女の後ろ姿を見ると、早く行かなければという焦燥感を抱いてしまう。

 大きな木々が並ぶ道を通り、薄暗い森を走り抜け、ひらけたところに出る。

 娘と青年が、巨大イノシシと戦っていた。

 大聖堂の魔獣より何倍も大きいイノシシを娘は鋭く蹴り上げ、青年が斧を振るう。

 

「“傷を癒やしたまえ“!」

 

 治癒の光が戦う2人を包み込む。

「え!?」「誰だ!?」と振り返りそうになった男女に、巨大イノシシの前に滑り込んだソローネ君が「敵から目を離さない」と呟き、高速のナイフ捌きで斬り払う。

 ミルフィーユ君が私の後ろで「先生が大魔法を使います! 下がってください!!」と声をかけ、男女が急いで後退したところで。

 

「“炎よ……燃えろ”!!」

 

 穏やかな村では絶対に発生しない業火が、巨大イノシシを焼き払った。

 怯えた鳴き声を上げながらドシンドシンと逃げていく。

 

「やった……」「よ、良かったぁ……」

 

 その場で座り込んだ男女2人に、ミルフィーユ君が歩み寄る。安心できる表情で笑いかける。

 

「すごい怖かったですよね。もう大丈夫です。とっても強い皆さんが来てくれました」

「あ、ありがとう……」

「ありがとうございます……!」

 

 ミルフィーユ君、私とソローネ君に男女がお礼を言っている間、オズバルドが“獲得品”の葉を燃やし、森の奥に向けて煙をパタパタ送っているのが見える。

 あの香りは知っている。燃やすとイノシシ避けの匂いを放つ薬草だ。人間には心地よく、猪にとっては有毒な匂い。

 手酷く焼かれた痛みもあり、あの巨大イノシシはもうここには出てこないでしょう。

 

 男女が自己紹介をする。

 娘は“アグネア”……踊子。

 青年は“ガス”……酒場の店主だ。

 

「アグネアさん! ガスさん!

あんなおっきいのと戦ってたのすごいです!!」

「アグネアのおかげだ。本当にすげぇよ……。

為せば成った……まじで……」

「あんたのおかげよ、ガス。

これで、守れたかな。

……みんなの楽しみを」

 

 2人がここで戦わなければ、あの巨大イノシシは祭り会場を襲っていた。腹を空かせた獣は食べ物の匂いに釣られてしまうから。

 応援を呼ぶこともできず、態勢を整えることもできず、たった2人で戦っていた。

 戻ってきたオズバルドに私は微笑みかける。

 

「間に合って良かったですね」

「……ああ」

「あ、あの、旅の人!

あたしの妹を今捜してて……パーラって名前の女の子で……!」

「私達も捜していました。

名前を呼びながら村中を走る方に話を聞きまして」

「あれ、アグ姉?」

 

 後ろから話しかけられた。

 声の主は、アグネア君と似ている顔立ちの娘だ。

 

「あの方が……?」

「はい! パーラです!」

 

 アグネア君は慌てて駆け寄り、そばで安否を確認する。

 

「どうしたんだべ? すんごい音がしたけど……」

 

 ぽかんとしている。

 よく分かっていない顔で、パーラ君は私達をジロジロ見つめてきた。

 

「知らない人達がたくさんだべ……。

祭りのお客さんか?」

 

 好奇心に輝く瞳が、私達の後ろの────巨大イノシシが暴れて木が倒れてる光景を見る。

 

「え……アグ姉、こんなところで何やってたの……?」

「巨大なイノシシと戦っていましたよ。アグネア君とガス君が」

「いや……俺はあんま動けなかったべ。薪割りみたいに斧振るうので精一杯だった……。

アグネアがいっぱい踊って頑張ったんだ!」

 

 パーラ君はきらきらした眼差しを姉に向ける。

 

「すっごいべ……!

やっぱ、アグ姉は村に収まる器じゃねえべ……」

「パーラ、どこ行っての。心配して……。

旅の人も捜してくれたのよ」

「いい木いちごがなくてさ。森の奥にね……ごめん」

「……ま、いいや。無事で良かった。

皆さん、助けてくれてありがとうございます!」

 

 深々と頭を下げる姉を見て、パーラ君もぺこりとお辞儀する。

 アグネア君と同じ背丈だ。

 

「旅人さん達は祭り目当てで来てくれたんだべ?」

「はい! お祭り見に来ました!」

「迷惑かけちゃった……。

皆さん、本当にありがとう。

パーラも帰りましょう。お祭りが待ってる」

「でも……アグ姉、お祭りで踊るんだべ?」

 

 私達は一斉にアグネア君を見た。

 彼女の負傷は“回復魔法”で癒えている。しかし、服はあちこち破れ、汚れていた。

 

「……祭りの主役がここにいたんですね」

「踊るなら、その格好は……」

「“いっちょうら”が泥だらけじゃん。それじゃ……」

「ま、まあ……」

 

 アグネア君は苦笑する。しかし、パッと明るく笑った。

 

「しゃーないっしょ!」

 

 森から村へ、全員で帰る。

 

「テメノス様……きれいな服、私達持ってませんね……」

「洗濯する時間もありません。

アグネア君には予備の衣装も無さそうだ……」

 

 先頭を歩くアグネア君がピタリと止まる。

 もうすぐ祭り会場の通り道で、男が仁王立ちで立っていた。大きな布袋を抱えている。

 眉をキリリと吊り上げ、口も固く結んでいた。オズバルドより年上の男だ。

 

「父さん……」

「(……なるほど。あの男がアグネア君の)」

「た、ただいま……」

 

 アグネア君は肩を落とす。気まずそうな声だ。

 父君が彼女を叱りつけたら仲裁しよう、と私は心に決めた。

 

「……ボロボロでねえか」

 

 父君の声は低く小さい。威厳のある声音だ。

 

「う、うん。いろいろあってね……」

 

 ミルフィーユ君が説明しようと前に出る。それをアグネア君がサッと手で制した。

 

「大丈夫。あたしこれでも踊るよ。

みんな待ってるから……」

「……ちょい待ち」

 

 渋い声で呟く。

「ん……」と言いながら、大きな布袋をアグネア君に差し出してくる。

 アグネア君は戸惑い、一歩も動けない。

 パーラ君がアグネア君に走り寄り、こそこそと耳打ちする。

 

「父さん……なんか渡したいみたいだけど。

ほら……ああいう人だから。素直じゃないからさ。アグ姉から行ったほうがいいんでない?」

「そ、そっか……」

 

 パタパタ走り寄り、父君の前で手を合わせる。

 

「父さん、なに持ってるの?」

「……ん」

 

 娘の“おねだり”に、父君は布袋を広げ、中身を出した。

 黄色と橙色が美しいきらびやかなドレスだった。

 

「これは……母さんの衣装……」

「……お前に合うよう、仕立て直した」

「父さん……」

 

 寡黙な父君は感情を表に出すのが苦手のようで、唇の端がほんの少し、わずかに上がる。

 

「その服……きっと皆のために、ボロボロになったんだべ。

……母さんそっくりだ」

 

 父君の声には慈しみが溢れていた。

 ミルフィーユ君はずっと静かだ。横目でソッと様子を確認する。

 父君に何か思うところがあるのか、赤い瞳はまばたきをしない。幼子の顔で寂しそうに見つめている。

 声を掛けられず、私は視線をアグネア君に戻す。

 

「父さん……。

……うん、そうだよ。みんなを幸せにするのが、スターだからね!」

 

 涙をこらえて明るく笑う声に、父君はわずかに目を細めた。

 

「行って来い、アグネア。

……皆が待ってるんだべ」

「うん。着替えたらすぐ、みんなのところに。

いってきます、父さん」

 

 アグネア君はドレスを右手で抱え、左腕で父君を抱きしめる。

 すぐに離れ、着替える為に走っていった。行き先は彼女の自宅のようだ。

  

「テメノス様……」

「はい。なんですか?」

 

 ミルフィーユ君は沈黙する。

 言いたいことがあるのに、ごまかすようにへらっと笑う。

 

「……ごめんなさい。忘れました」

 

『嘘だな』と私は思った。オズバルドとソローネ君も。

 

「ド忘れしたんですか。

それは大変だ。話したいことは思い出さないと」

「わ、う、お、思い出さなくて良いやつですから」

「おやおや。君らしくない。それでは当てましょうか」

「だ! ダメです!」

「だめぇ〜? それなら私は当てません。

ソローネ君は分かります?」

「すっごく簡単、教えてあげるよ」

「ソローネさんもダメです!」

「俺も答えられる。ミルフィーユが何を思ったか」

「いいい言わないでください!」

「言い当てられるか、自分で言うか、ミルフィーユ君はどちらがいいですか?」

「う、うぅ……」

 

 困りすぎて今にも潰れそうな顔をしているミルフィーユ君は「あした話します!!」と会話拒否してスタスターッと逃げた。

 

 その後、美しい衣装に着替えたアグネア君が戻ってくる。ミルフィーユ君は彼女の後ろに隠れていた。

 

「あのぉ……テメノスさんと何かあったの?」

「私はアグネアさんの後ろがいいです」

「意地悪しすぎました。

ごめんなさいミルフィーユ君、明日聞かせてくださいね」

 

 プイッとしながら「約束です」と不機嫌の声で言う。

『これはダメですね』と私はオズバルド達に肩をすくめた。

 村中を駆け回っていた男は戻ってきたパーラ君に安堵の笑顔を見せ、パーラ君は申し訳なさそうに謝った。

 

 そして、私達は祭り会場へ。

 長い時間をかけて作られた大きな木造のステージにアグネア君は堂々と上がる。

 村人全員、たくさんの旅人が一斉に拍手で迎えた。

 

「アグネア! 待ってたぞーーっ!」

「アグネアの踊りがねえと始まんねえべ!」

 

 私達はガス君に説得され、一番良い席で観覧させてもらうことになった。

 木の椅子に腰掛ける。表面がよく磨かれて滑らかだ。

 アグネア君がよく見える。

 

「ありがと……みんな」

 

 太陽の光が降り注ぐ。快晴の良い天気だ。

 

「みんなの為に踊るわ。心を込めて……!」

 

 クロップデールの踊子はステージで舞い始めた。語りかけるように歌いながら。

 音楽がない、一人で歌っている。

 どこまでも伸びやかに、その歌声は会場の端まで大きく届く。

 私の目はアグネア君の踊りを見つめ、私の耳はアグネア君の歌を聴く。

 周囲はとても静かで、この会場に自分しかいないと錯覚してしまう。

 全員が夢中で聞き入っていた。

 

 “たとえ どれだけ離れても 

  歌が あなたのそばにいる”

 

 旅立つ“わたし”が、最愛の者に向けて贈る言葉────そんな歌詞。

 美しい歌声だ。ほんの少しだけ寂しくなってくる。

 しかし、アグネア君の表情は明るい。曇り一つない、希望に溢れた喜びの笑顔だ。

 切なくなるのに、踊りを見ていると不思議とワクワクしてしまう。もっと見ていたいと思ってしまう。

 脚を揃えて、手を高らかに上げ、アグネア君は踊りきった。

 後ろで大歓声が湧き上がる。背を押されるのではと思えるほどの大喝采だった。

 右隣のミルフィーユ君が静かすぎる。少し不安になって目を向けた。

 夢を見ているようなぼんやり顔で、涙をぽろぽろとこぼしていた。

 ソローネ君とオズバルドは彼女の涙に気付いて中腰を上げる。私は唇に人差し指を当て、『落ち着いてください大丈夫です』と目配せした。

 アグネア君が満面の笑みでステージを降りてくる。『どうだった?』の明るい表情だ。

 私は拍手と微笑みで称賛を送る。

 アグネア君はミルフィーユ君の涙にギクッとする。お姉さんの顔で慌てた。

「わ、あっ、どこか痛くなっちゃった?」

 

 パーラ君が拍手しながら「きっと感動したんだべ!」と誇らしげに言う。

 アグネア君はミルフィーユ君の前でしゃがむ。優しいお姉さんの表情だ。

 

「ミルフィーユちゃん」

 

 柔らかい呼びかけに、頬を涙で濡らしたままハッとする。

 

「は、はい!」

「あたしの踊り、どうだった?」

「あ、あのあのあの、あのあのですね!」

 

 真っ赤になってアタフタする。

 心配していたソローネ君、オズバルドの顔に微笑みが戻った。

 

「好きですっ!!」

 

 周囲の村人は「おおっ!!」と声を上げ、

 アグネア君は「えっ……えぇ~?」と照れ笑いを浮かべ、

 私は『初めてですね、私以外の誰かに「好きです」と言ったのは』と思ってフッと微笑み、

 左隣のソローネ君が私の肩をパシパシ叩いた。やめてください。

 

 ミルフィーユ君は真っ赤っ赤の顔で「ううう……」と小さい声を上げながら、両手を握ってぷるぷる震える。

 

「あ、あの、すごいドキドキしました!

キラキラして、すっごくキレイで、キラキラしててっ!

歌が! ギュッて抱きしめてくれてるみたいな声で、だいじょうぶだよって言ってもらってるみたいな歌で!

嬉しくなっちゃって……!」

 

 また涙をぼろぼろこぼす。

 

「好きですぅうううううう……!」

 

 興奮と感動の嗚咽だった。

 アグネア君は大輪の花束をもらったような笑顔で立ち上がり、「ありがとうっ!!」とミルフィーユ君を抱きしめた。

 

 村人達が「良かったなぁアグネア!!」と「私もらい泣きしちゃったべ!!」という、和気あいあいと盛り上がってるあたたかい空気に包まれている中。

 ほっこりしている私の背を、オズバルドもなぜかポンポンしてきた。

私は『やめてください慰めるみたいなことしないでください』と思いながら、オズバルドとソローネ君を見ないようにして、ミルフィーユ君にひたすら微笑みを向けた。

 

 その後、村人のご厚意で果物のジュースをごちそうしてもらったミルフィーユ君は、泣き腫らした顔でニッコニコ笑いながら「おいしいです!」とゴクゴク飲んだ。

 アグネア君は離れたところで家族と談笑している。

 

「ミルフィーユ君」

 

 ウキウキしている白頭巾に上から声をかければ、パッと見上げて満面の笑みを返してくれる。

 

「はい! テメノス様、なんですか?」

「私のことはどう思ってますか?」

「好きです!!」

 

 頬を染めた乙女の笑顔で即答だ。

 後ろでソローネ君が私の背をバシバシ叩いてくる。やめてほしいけど反応したくないので無視した。

 

「テメノス様。

村の人と旅人さんが、あっちこっち歩いてますね」

「あちらで店を出してますね。

手作りの品やここでしか入手できない品が売っているようです。

村長らしき方に先ほど話を聞きました」

 

 喜ぶ幼子は笑顔を輝かせ、勢いよく立ち上がった。

 

「お買い物! 行きたいです!!」

「俺も興味がある。共に店を覗くか?」

 

 ぶるんぶるんと頭を振る。

 ソローネ君がひょっこり顔を出した。

 

「へぇ、先生とは行かないの。私と行く?」

「ひとりで買い物したいんです」

 

 私の口元はピクリと引きつり、「一人で……!?」と驚愕に思わず呟いてしまった。

 店が並んでいる区画にサッと視線を走らせる。男の旅人が多い。あの中にミルフィーユ君をたった一人歩かせるのか……!?

 

「ミルフィーユ君、私だけご一緒するのはダメですか?」

「やです。テメノス様はソローネさんとオズバルドさんとここで待っててください」

 

 意思の強い瞳。そうと決まったらけして意見を変えない表情だ。

 アグネア君がこっちを見た。気になりますよね、ミルフィーユ君がぷぅと頬を膨らませているから。

 私は『アグネア君こっちへ来てください!』の手振りをする。

 

「どうしたの~?」

 

 すぐ来てくれた!

 

「あぁアグネア君。

ミルフィーユ君が今ひとりで買い物をしたいと言ってきて……。

あちらは見知らぬ旅人が多い。誰かひとりでいいから付き添いをお願いしたいんです」

 

 ハッとしたアグネア君は全てを察した顔になる。

 そして『任せてくださいテメノスさん!』の笑顔を見せて、ミルフィーユ君に向き直った。

 

「ねぇミルフィーユちゃん。あたしも買い物したいと思ってるの。

“好きです”同士でお店一緒に回ろう?」

「ご、ごめんなさ〜い!

アグネアさんもここで待っててください!」

「そう……」

 

 アグネア君がチラッと私達を見る。

『こっちも全員ダメでした!』の顔をすれば、納得した表情で頷いた。

 

「全員かぁ……。

村のみんなは安心できるんだけど、旅の人が多いからなぁ……」

「ミルフィーユ君。

私も本当は君にひとりで買い物を楽しんでもらいたい。

ですが思い出してください。君が書庫で金髪の男にチョイチョイされたことを」

「あ!」

「思い出しましたね。一人で買い物したらあんな事がまた起こりますよ」

「邪魔されたくないです!

で、でも……ここ……ここにいてほしいんです……」

「あたし達にここにいてほしい……。

……あ! わかった! 父さんにお願いするのはどう?」

 

『それだ!』と、私はアグネア君を見た。

 全面拒否のミルフィーユ君が話を聞く顔になる。

 

「あたしの父さんはね、なーんにも話さないの! とっても静か!

ミルフィーユちゃんの買い物を絶対ジャマしない! 父さんならいい?」

「はい、それならお買い物できます。一緒がいいです」

「よかったぁ! 父さんのところ行こう!」

 

 アグネア君はミルフィーユ君の手を繋いで案内する。

 拍子抜けした。こんなすぐに承諾してくれるとは思わなかった。

 

「テメノス……」

「ああ、ソローネ君そんな近くに。

良かったですね、ミルフィーユ君が安心して買い物できることになって」

「金髪の男にチョイチョイって……何?」

 

 いつもの顔で声音は恐ろしい。

 ソローネの背後に立つオズバルドからは、ゴゴゴゴゴゴ……という音が聞こえてくる。『しまった』と内心思った。

 

「……以前発生した問題です。

仲の良い神官と大聖堂の書庫に行ったミルフィーユ君に、金髪の男が気安く声を掛けたことがありました。

若い娘が好きな最低下劣野郎で……チョイチョイと触ってきたんです。

……とても不愉快でした」

「そう……それは寒気がするね……」

「……雷は落としたか?」

「落としきれずに逃げられました。

この前の冬の事件です。件の男はそれきり一度も姿を見せていません」

「……あの子は怖がってた?」

「いいえ全く。ほわほわホワ〜ンとしていました。

しかし、嫌な記憶として覚えているみたいですよ」

「……そう。逃がしたくなかったね」

 

 お互い頷き合っていたら、ミルフィーユ君とアグネア君が戻ってきた。

 遠く離れたところで父君が待っている。

 

「テメノス様っ」

「はい。何でしょう? 忘れ物ですか?」

「腕を出してくださいっ」

「腕を、ですか?

……どうぞ」

 

 なにをするんだ?と疑問に思いつつも右腕を前に出す。

 ミルフィーユ君は真剣な顔で手首をぎゅっと握ってきた。

 これは……もしや……と思っていたら、彼女はウンと頷き、サッと離れた。

 両手で輪っかを作ったまま、「テメノス様、ありがとうございますっ」と店のほうに戻っていった。

 アグネア君が「いってらっしゃ〜い」と私達のところで彼女の背を見送った。

 

「ふふ……テメノスにブレスレットをプレゼントするのかな」

「腕輪かもしれない」

「……そういえば言ってましたね。

『テメノス様にプレゼントします』と」

 

 贈り物をもらう前からワクワクしている。初めての心地だ。

 ソローネ君はやわらかく微笑み、オズバルドはほんの少しソワソワして、アグネア君はどこか緊張している。

 全員に『ここで待っててください』だ。私だけじゃなく、全員にプレゼントを。

 

「ふふ……」

 

 嬉しくて、つい小さく笑ってしまった。

 

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