8人の旅人と、赤い髪の娘たち   作:遠野ハネ

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【5話③】「これはとってもすごいものなんですうううう!!」「わがまま言うんじゃありません!」「親と子の会話だな」

「テメノスさん達はどこを目指して旅をしているの?」

「カナルブラインです」

「私はオアーズラッシュ」

「俺はコニングクリークだ」

「みんな行き先がバラバラだぁ……。

あたしもね、明日旅に出るの。行きたいのは東大陸のニューデルスタってところ」

「……へぇ」

「ニューデルスタなら、カナルブラインから出港する船に乗るのがいいですね」

「あたし、本当はひとりで行くつもりだったの。

でも、テメノスさん達と出会って、カナルブラインまで一緒に行きたいなぁって思ったんです」

 

 アグネア君は背筋を伸ばす。晴れた空がよく似合う笑みを浮かべた。

 

「魔物が出たら戦います。途中まであたしもご一緒させてください」

「いいですよ。ありがとうございます」

「大歓迎。よろしく」

「ああ。ミルフィーユも喜ぶ」

「やったぁ! ありがとう!」

 

 そして、私達は談笑しながらミルフィーユ君を待つ。

 帰ってきたのは10分後だ。

 ミルフィーユ君は花の蕾がたくさんついた枝も持ち、ここで購入したリュックを背負っている。

 その後ろには父君だ。ミルフィーユ君からもらったであろうかわいい包みを手に一礼する。

 私もお辞儀をして、村人の輪に入っていく彼を見送った。

 

「テメノス様見てください!

ミントさん達のおみやげです!」

「あ! これ、マリーちゃんのお母さんがお店で出してたやつだ」

「……キレイだね。なんの花?」

「ロウロウサクだな。剪定した後でも蕾が花開く」

「ずっとずっと後に咲くんだよーって、お店の人が言ってました」

「良い花を選びましたね。

これは開花がとても遅く、長く楽しめる品種ですよ。ミントさん達もきっと喜びます」

「えへへ」

 

 ミルフィーユ君に笑顔の花が咲く。

 リュックを下ろし、枝を片手にごそごそし始めた。

 

「花の枝、持ちますよ」

「ありがとうございます!

テメノス様、このリュックね、たくさん入るよってお店の人が言ってたので買いました。

私へのプレゼントです!」

「良かったですねぇ」

 

 気持ちがほんわかして、さらに目尻も下がってしまう。

 ミルフィーユ君は「うっふふ」とニコニコ笑う。

 

「実はテメノス様にプレゼントを買いました。

手を! 手を出してください!」

「ええっ? 手を?

何でしょう? ドキドキしますね」

 

 知らないフリをしながら両手を出す。

 ミルフィーユ君はわくわくした満開の笑みを浮かべながらソッと何かを置いた。

 銀のブレスレットだ。白い石が埋め込まれている。

 

「おお……」

「……いいじゃん」

 

 後ろでオズバルドとソローネが覗き込んでいる。

 ミルフィーユ君は『えっへん』と得意げに笑った。

 

「これを見た瞬間、『テメノス様はこれ!』と私思いました!

キラキラでピカピカなんですよ。

テメノス様のプレゼントは……えっと、ひとつだけです」

 

 ミルフィーユ君の目が泳いでいる。

 おやおや。まるでプレゼントが他にもあるようだ。

 ジッと見つめれば、逃げるようにリュックをゴソゴソし始める。

 

「アグネアさん! 手を出してください!」

「えっ? あたしが次? いいのかなぁ……ありがとう!」

「アグネアさんにはこれです!

シャラシャラしてとってもキレイ!」

「わぁ! 髪飾りだ!」

「いっぱいあったからたくさん悩みました」

 

 こちらも銀の装飾品だ。

 とても小さな宝石の粒が散りばめられ、身につけて外で踊れば、太陽の光が当たってきらきらと光って見える。

 

「ありがとう! ミルフィーユちゃん!」

「うふふふふ。

お次はソローネさんです」

「何が出てくるんだろうね?」

「ふわふわのストールです!」

 

 ふわぁっと出してきたのは、オズバルドが巻いている物の色違いだ。

 

「お店の人が言ってました。首を冷やすのはダメだよって!

夜は冷えるので、これでほかほか温かくしてくださいね~」

「いいね。先生とおそろい。

ありがとう、ミルフィーユ」

「むふふ。

次はオズバルドさんです!」

 

 ミルフィーユ君はリュックからハンカチを出した。

 

「眼鏡拭きです!

汚れがピッカピカに取れる気がしました」

「……おお。とても有用な」

 

 オズバルドは深く感心した声を出す。

 大きな手に、ミルフィーユ君は小さな手でハンカチを置く。

 

「礼を言う」

「オズバルドさんにはね、プレゼントがもう一個あるんです!」

「……ん?」

 

 聞き間違い? オズバルドにだけですか?

 ソローネ君がちらりと視線を向けてくる。こっちを見ないでください。

 

「俺に? いいのか?」

「はい! これを見た時、オズバルドさんにプレゼントしたい!って不思議と思ったんです」

「良いですねぇオズバルド、私のプレゼントはひとつだけです」

「ふてくされないの」

「ミルフィーユちゃん。

オズバルドさんには、眼鏡拭きの他に何を選んだの?」

「とってもすごいものですよ!」

 

 ミルフィーユ君はリュックに両手を突っ込んだ。片手で持てないやつを?

「ジャーン!」と堂々と出したものは……

 

「でっかい岩です!!」

「岩です!?」

 

 何を見せられているのか理解が及ばなくて、私達は一様に沈黙した。

 ニッコニコのミルフィーユ君は両手で抱えて見せてくる。

 

「すっごく良い物に見えたんです!」

「そんな重そうな岩なんで買ったんですか。いくら使ったんですか?」

「無料でもらいました。お店の人が『こんなの店に出してないんだけどな』って言ってました」

「ミルフィーユちゃん!? 売り物じゃないやつを!?」

「持ってこないでください。返してきてください」

「ええん! だってすっごく良い物に見えたんです!! ピッカピカに輝いてる気がしてぇ!」

 

 ミルフィーユ君はでっかい岩をオズバルドに渡そうとする。ピカピカの自信満々な笑顔で。

 

「どうぞオズバルドさん!!」

「どうぞって渡されても困るって」

「見てみなさいミルフィーユ君、あのオズバルドの顔を。

言いたいことを全て飲み込んでいる顔です」

 

 オズバルドはでっかい岩を受け取ってしまった。

 

「大きいが……しかし、とても軽いな」

「でしょ!? すごいすごい岩なんです!!」

 

 オズバルドはでっかい岩を片手で持ち上げる。

 剣士が鍛錬の時に使っている光景が脳裏をよぎった。

 ミルフィーユ君はまたカバンをごそごそする。

 出してきたのは同じ大きさのでっかい岩だ。

 

「もう一個もらいました!」

「嘘でしょ!?」

「まさか君……それもオズバルドに……?」

「はい! こっちもプレゼントです!!」

「なに言ってるんですか君は本当に……」

「ミルフィーユちゃん……その岩、ほんとにすごいの……?」

「キラキラしてるように見えました!」

「ただのでっかい岩ですよそれ……」

「軽いんです! こんなにおっきいのに!!」

「あたしも持っていい……?」

「はい! どうぞ!!」

 

 手渡されたでっかい岩をアグネア君は緊張しながら持つ。

 パッと表情が明るくなった。

 

「わっ! 思っていたよりずっと軽い!! きっとすごい岩ね!!」

「……無理してフォローしなくていいよ」

「ミルフィーユ君、そのよく分からない岩はお店に戻して来てください」

「え!? やだ! ヤダヤダです!」

「私が返してきてあげますから」

「ええんヤダ! これはとってもすごいものなんですうううう!!」

「わがまま言うんじゃありません!」

「親と子の会話だな」

 

 なぜ固執しているか分からない。

 アグネア君から返してもらったでっかい岩を、ミルフィーユ君は私に奪われないよう、後ろ手に一生懸命隠した。

 

「お店の人も分からない岩なんです。返しに行きますよ」

「持ってって良いよって言いました!

やだ! やだ! これは絶対良いヤツなんですううううううう!!」

「強情だ……何が君をそこまで駆り立てるんですか……」

「ミルフィーユ……いつもより小さく見えるんだけど」

 

 ソローネ君の言葉に頷いた。

 駄々をこねる姿は、普段の彼女よりも幼く見える。

 

「よく分からないものを持って行くのは承諾できません。

手放してほしいという私の“お願い”を聞いてくれないんですか?」

「私はこれ欲しいんです!テメノス様だって私の“お願い”聞いてくださいよ!」

「なんです君……なんでそんなに……」

「ソローネさん助けてください!」

 

 応援を求められ、ソローネお姉さんが前に出て来てしまった。

 

「こんな小さな子にガミガミ言って……。

いじめちゃダメだよ、テメノス」

「そうですよ! 私にいじわる言わないでください!」

 

 頭が痛くなりながら、私は静かにため息をこぼした。

 

「……その岩、あの魔女さんが置いていったやつかもしれません」

「あ! そう言えばさっきライトさんがいました!

ずっとずっと向こうの森のところで笑顔でピースしてましたよ。

すぐいなくなったんですけど!」

 

 ゾッとする。ソローネ君を味方につける為の嘘だったのに。

 ソローネお姉さんの顔つきが変わった。

 

「返しに行くよ」

「うわあああんっ! ふたりで言ってきます!!」

「どこが良いと思った」

「……オズバルド?」

「説明を。ただ何となくではいけない。

この岩がどう素晴らしいのか、それを俺に話しなさい」

「はい……」

 

 後ろに隠したでっかい岩を前に持ってくる。

 今にも泣きそうな幼子は、両手で持ち上げて沈黙した。

 パッと顔を上げる。

 

「大きいけど、とても軽いです!」

「……他には?」

 

 自信満々の笑みが徐々に固まり、ミルフィーユ君は言葉を失う。

 10秒沈黙が続き、私は彼女のでっかい岩をガッと掴んだ。

 

「返しに行きましょう」

「うわあああんもっとちゃんと考えます!」

 

 奪われまいと全身で抵抗する。

 可哀想なので私は少し離れた。

 

 ミルフィーユ君はでっかい岩をジーッと見つめる。

 両手で上げ下げして、真剣な顔で抱きしめる。赤ん坊をあやしているような動きだ。

 

「ミルフィーユちゃん……理由をいっぱい考えてる……」

「すごい哀れですね」

「……なんか、うまく説明できないんですけど……」

「いい。上手に語らなくていい。ミルフィーユの言葉で俺に伝えろ」

「はい」

 

 抱きしめたまま、指先で優しく撫でた。

 

「……なんだか、とっても小さい子が……。

かわいい子が……こっちを見ている気がします。

守らなきゃいけない。大事にしてあげたい……そう、思うんです」

「もらおう。両方とも」

 

 本気ですか!?

 驚きすぎて声も出せなかった。

 

 オズバルドはコートのポケットにでっかい岩をしまい込む。

 ポケットの膨らみが不自然に特大だ。笑ってはいけない気がして、私は口を閉じ、ひたすら耐えた。

 

「こんなにも大きいが……不思議と、動きを邪魔しない……」

「ありがとうございますオズバルドさん!!」

「次の目的はオアーズラッシュだ。そこで鑑定してもらう」

 

 なるほど。鑑定して、結果を聞いて、そこらの荒野にポイッですね! さすがオズバルドだ。

 ミルフィーユ君も文句は言わないでしょう。

 

 贈り物の次は食事の時間だ。

 私達はお互い目配せして、こっそり席を立って一人ずつ買い物をする。

 プレゼントを貰ったらお返しです。

 

 私は店を歩きながら、先ほどのミルフィーユ君の発言を思い出した。

 

「(あの魔女が何も言わずに接触もせずに帰った……?

何を企んでいるんだ、あの魔女は……)」

 

 森に視線を送ってみたものの、黒ずくめの魔女はどこにもいない。

 

 全員の買い物が終わり、野菜と肉の焼串3本目を完食したミルフィーユ君に、私達はプレゼントのお返しをした。

 

「はい、ミルフィーユ。

かわいい音がする木のおもちゃ」

「わぁ!! コロコロ転がってリンリン鳴ります!! 中に鈴が入ってるんですか!? すっごいです!! ありがとうございますソローネさん!!」

「俺は小さな手記だ。小さなペンもセットになっている。好きに使うといい」

「わっわっわぁ~! すっごく欲しかったやつです!! 持ってる手帳書けるところが全然無くて……! ありがとうございますオズバルドさん!!」

「あたしはコレ。ローリエおばあちゃん手作りのお守り。とってもかわいい鳥が彫ってあるんだよ」

「かっ……かわいいです……!

リュックにつけます! ありがとうございますアグネアさん!!」

「ミルフィーユ君、すてきな贈り物をありがとう。

これは私からのお返しです、どうぞ」

 

 私が贈るのは花弁の多い白い花。

 茎が長い一輪の花だ。

 いつか彼女に『花なら私がプレゼントしますよ』と言った。

 手渡した花をミルフィーユ君は両手で握る。

 黙ってしまい、大喜びの声は聞こえない。私達が心配するほどの沈黙だ。

 

「ミルフィーユ君……?」

「ありがとうございます、テメノス様」

 

 甘い声でお礼を言う。

 頬は薔薇色で、赤い瞳はきらめく色をしていて、ふんわり微笑む乙女の表情はとても可愛らしい。

 

「……大好きです」

 

 花が霞むほどに美しかった。

 ソローネ君が私の背をバンバン叩いてくる。

 やめてほしいけど反応したくないので私は笑顔で頷いた。

 乙女の顔が幼子の表情に変わっていく。照れてれと嬉しそうに笑った。

 

「は、花、テメノス様の花がずっと欲しかったんです。

へへ、えへへ……とってもうれしい……。

ありがとうございます。

ずっとずっとずっとずっと大事にします」

 

 心から喜ぶ表情に、申し訳なく思ってしまう。

 この人生で、私は誰かに花を贈ったことは一度もない。

 よく分かっていなかった。切り花は何日くらいで枯れてしまうのか。

 

「(この子に話さなければ。

元気がなくなったと大騒ぎする前に……)」

 





【次回予告】
 祭りの夜、オズバルドは追憶する。
 家族が暮らす家と、同志がいる大図書館を行き来していた6年前を思い出す。
 リタとエレナ。赤い髪の少女とハーヴェイを。

  [過去編 オズバルドと赤い髪の少女]

「オズバルド先生に、解読してほしい字があるんです」

 得体の知れない少女に話しかけられたオズバルドは、警戒しながらも、その依頼に興味を抱いてしまう。

「何を……やっているんだ……ッ!」
「見せてみろ、とオズバルド先生が言ったので」

 オズバルドは少女を連れて乗船する。
 少女を大図書館に連れて行くしかなかった。

「こんにちは、赤い髪のお嬢さん」
「……こんにちは、黒い髪のお兄さん」
 友好的に微笑むハーヴェイと、にこりともしない少女が対面する。

「クク、面白いことになったな、オズバルド。
私も参加していいか?」
「真剣に取り組めよ、ハーヴェイ」
 少女の背中に刻まれた未知の29字に、ハーヴェイは喜悦の笑みを浮かべる。


[6話 追憶①]「オズバルドが隠し子を連れてきた」「冗談は止めろハーヴェイ」

(閲覧ありがとうございます! )
 
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