8人の旅人と、赤い髪の娘たち   作:遠野ハネ

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【7話】「ミルフィーユ君はヴェリテですよ。そうとしか思えません」

 

 夕食はアグネア君宅でごちそうになり、クロップデールの宿を取る。

 夜11時になり、ミルフィーユ君が眠った後、オズバルドとソローネ君は散歩に行ってくると宿屋を出た。

 ソローネ君はストールを巻き、オズバルドは今も律儀にでっかい岩をポケットに入れている。

 2人で話すのか、途中で分かれてそれぞれの時間を過ごすのか。

 

 一輪の花は今はコップの水につけている。

 しかし、同じことを明日からはできない。

 カバンに大事にしまったままになりそうだ。

 ミルフィーユ君の体温は高い。花を握ったまま旅はさせられない。

 

「(……ミントさんなら知っているかもしれませんね。切り花を長持ちさせる方法を)」

 

 ミルフィーユ君がフレイムチャーチで暮らすことになってからだ。

 知りたいことがあれば『ミントさ~ん!』と走っていくのを何度も見た。

 “ミントさんなら”と思ってしまう。

 今回贈った花でいつかミルフィーユ君が泣くかもしれない。

 フレイムチャーチに帰った後に、また花を贈ろう。

 

 なんだか目の奥が痛く、頭が重い。

 仮眠を取ろう。彼女が起きる時間に私も起きたらいい。

 マントを脱いでたたみ、断罪の杖をそばに立てかけ、首元を緩めて寝台に横になる。

 ミルフィーユ君の隣だ。

『テメノス寝てるじゃん』とソローネ君は思うだろうが、関係ありません。

 まぶたをすぐに閉じた。

 

 

 ──────「テメノス様」

 

 その小さな呟きに、ハッと目が覚める。

 ランプがひとつだけ灯る真夜中の宿屋で、ミルフィーユ君が私を見下ろしていた。

 

「おは、よう、ございます……」

 

 とても小さな声で返事をする。

 もぞ、と起き上がった。

 別の寝台にはソローネ君とオズバルドがそれぞれ眠っていて、就寝しているのか寝たフリなのかは判別できなかった。

 

「……どうしました? 初めて起こしましたね」

 

 声を潜めて話しかける。

 白い頭巾を被ったミルフィーユ君は「夜のお散歩したいです」とひそひそ声で教えてくれた。

 衣服を整え、寝台を降り、断罪の杖を握る。

 

「はい、行きましょう。

頭巾は外してもいいですよ」

「外だけど……大丈夫ですか?」

「この村は安全です。それに、ここは風が気持ち良い。外したほうがいい」

 

 遠慮がちに、だけど思い切ってスポッと外す。

 自由になった赤い長髪が軽やかに揺れた。

 白い頭巾をベッドに置き、それから2人で宿屋を出る。

 

 ちょっと離れた後、閉めた扉がこっそり開く。

 ソローネ君とオズバルドが盗み聞きしに来た。

 宿屋からアグネア君宅に向かう道の途中、アーチ状の小さな石橋の上。

 空高く輝く月はまぶしく、私とミルフィーユ君を明るく照らす。

 

「ありがとう、ミルフィーユ君。

私も夜のお散歩をしたかったんですよ」

 

 申し訳なさそうな幼子は、安心した顔でパァッと笑った。

 

「良かったです。起こしていいのかなってたくさん悩みました」

「次も起こしてくださいね。ミルフィーユ君と過ごす時間が私は嬉しいんです」

「えへへ……」

 

 祭り会場の賑やかな声が遠く聞こえる。

 こんな時間でもまだ続いている。

 アグネア君曰く、『夜明けまで続くかなぁ……年に一度のお祭りだから』だ。

 やわらかい風が吹いてくる。

 

「ふふ。きもちいいです」

 

 目を細め、そして表情が変わる。話したそうな横顔だ。

 促さずに静かに待つ。

 

「……あの、テメノス様。

ド忘れしたことを話したくなりました」

「明日じゃなくていいんですか?」

「はい。今、テメノス様に言いたいんです」

 

 内容はおそらく、自身の父についての話だ。

 アグネア君と父君を見て、思ったのだろう。

 

「……あの時私は、テメノス様にもわかんない事を言ってしまいそうになりました。

困らせたくないって思っちゃって、それで……」

 

 ほんの少しだけ顔を向けてくる。

 親とはぐれてしまった迷子の表情だ。

 

「困りませんよ。全て話していいんです」

「はい。ありがとうございます」

 

 頷き、月を見上げる。

 

「私のお父さん、どんな人なんだろうなって……。

どうして……離ればなれ……なのかなって……」

 

 まん丸の赤い瞳が潤む。今にも泣きそうだ。

 大きな心に、途方もない疑問を抱えている。

 ミルフィーユ君の父は想像がつかない。

 この子は聖火から産まれた……と、私はどうしても思ってしまう。

 

「……そうですね、私は知りません。君の本当の父親のことは。

しかし、他の親のことは知っていますよ」

 

 ミルフィーユ君は目を大きく見開き、私をジッと見つめてくる。

 

「親と離ればなれになった赤ん坊を、別の人間が育てるんです。

もちろん血の繋がりはありません。赤の他人ですね。

私はそれを“育ての親”と呼んでいます。

ミルフィーユ君にとっての育ての親は?」 

「……テメノス様と、大聖堂と教会の皆さんです」

「ブラヴォー! その通りです!

さらにもうひとつありますよ。

名前をもらう前に親と離ればなれになった赤ん坊に名を贈る……それを私は“名付け親”と呼んでいる。

君にとっての名付け親は?」

「私の名前は……ミントさんが教えてくれました……。

だから、ミントさんが名付け親だと思うんですけど……」

 

 頬を染めて恥ずかしそうに、もじもじと。

 恋する乙女の顔で私を見つめた。

 

「名付け親は……テメノス様がいいなって思いました」

 

 ああ、本当に君は。

 一生分の“ブラヴォー”をあげたくなる。

 

「……正解です。

黙っててごめんなさい。私が君に“ミルフィーユ”という名を贈りました」

 

 まばたきすらできず、ミルフィーユ君は固まった。

 隠し通すつもりだったのに。話さなければいけない、と思ってしまった。

 

「とても大きな贈りものだ。

真実を話せば、君の『好きです』が『大好きです』になってしまう。それは避けたかった。

君に贈り物をする方を増やしたかったんです。

私だけを『好きです』と思わず、優しくしてくれた他の誰かにも『好きです』と思ってもらいたかった」

 

 だから嬉しかった。

 アグネア君に『好きです』と言ったことが。

 

「それが、隠していた理由です。

すみません、ミルフィーユ君。

私は嘘つきな悪い子だ。けして“良い子”ではないんです」

 

 ミルフィーユ君は頭をブンブン振り、両手をバッと広げた。

 子どもが親に抱っこをねだる時の仕草だった。 

 断罪の杖を手放し、夜空に待機させる。

 ミルフィーユ君が来やすいように両手を広げた。

 

「いいですよ。私のところに来てください」

 

 ダッと走り、ドッとぶつかってくる。

 ふふふ、と息がこぼれてしまう。

 精一杯抱き着いてくる幼子を、私は両腕で抱きしめた。

 

「好きですよ、ミルフィーユ君」

 

 そっと伝えれば、さらに強く抱き着いてきた。

 お父さんになった気持ちで背中をポンポンする。

 

「テメノス様大好きです……!」

 

 離れた場所の月明かりの下で、手を振るソローネ君とオズバルドが宿屋に帰っていくのが見える。お礼は明日言いましょう。

 

 しばし密着して、ほんの少しだけ背筋を伸ばしたくなってくる。

「そろそろ離れましょうか」と提案すれば、 「もうちょっとこうしたいです……!」と拒否された。

 この子の言う“もうちょっと”は30分くらいありそうだ。

 

「……そうですか、分かりました。

では、これが終わってからプレゼントをお渡しします」

「プレゼントですか!?」

 

 すごい勢いで飛び退いた。

 

「すぐ離れましたね」

「プレゼント! 私にもう一個プレゼントですか!?」

「跳ねない跳ねない。

そうです。私のプレゼントは、本当は花だけじゃないんですよ。

さ、手を出して」

「はい!」

 

 サッと両手を突き出してくる。

 もう少し近くにいたら私のお腹に刺さるところだった。

 うきうきに輝く瞳は月夜の下でも明るく見える。

 もらう前から大喜びの笑みを浮かべていて、私もわくわくしてしまう。

 

「どうぞ。後で着けてあげますから」

 

 かわいい手のひらにプレゼントを置く。

 光の精霊石を小さく丸く研磨してペンダントに加工したものだ。

 花を渡した時と違い、ミルフィーユ君は真っ赤になって沈黙した。

 両手を前に突き出したままの姿勢で「う……うぅ……」と弱々しい声を漏らす。

 大騒ぎで喜ぶことなく、静かに歓喜することもなく、気まずそうに眉を寄せている。

『気に入らなかったか?』と少しだけ不安がよぎった。

 

「テメノスさまぁ……」

 

 むにゃむにゃの声だ。どう答えてあげればいいか迷ってしまう。

 

「……は、はい。テメノスです」

「うう……うぅ……」

 

 ミルフィーユ君は左手にペンダントを置き直し、右手でポケットをゴソゴソする。

 耳まで真っ赤なミルフィーユ君は「私も同じの買ったんです……」と呟き、光の精霊石ペンダントを出してきた。

 

「テメノス様に……もうひとつプレゼントしたくて……」

 

 白い左右の手、それぞれに同じペンダントが。

 不安がどこかに消え、胸の奥がくすぐったくなる。

 

「ふ……ふふ……ふふふ、はははっ!

私達同じこと考えてますよ!」

「えへへ……」

 

 私の笑い声にミルフィーユ君の表情もやわらかくなる。

 やっと分かりました。あの時君が言った『テメノス様は……えっと、ひとつだけです』がかわいい嘘だったことを。

 全員がいる前ではなく、私と2人きりの時に贈りたいと。そんなところまで私と同じだ。

 

「着けてあげます。私のは君が着けますか?」

「はい。着けたいです」

 

 ふにゃふにゃと微笑んで頷いてくれた。

 ミルフィーユ君の手のひらからペンダントをひとつ取る。

 細い首に手を回し、難なく着ける。

 

「……できましたよ。

私がしゃがみますから、落ち着いてゆっくり着けてくださいね」

 

 着けやすいようにその場でしゃがみ、背を向ける。ミルフィーユ君はすぐに始めてくれた。

 初めてのことに一生懸命取り組んでいる。

 熱い手首がもぞもぞしている……くすぐったいですね……。

 ずっと頑張っている。もぞもぞ、さわさわ、私の首にずっと触れている。

 恥ずかしくなってきた。

 自分でやれば良かったです……と少し後悔しながら、私は気を紛らわせる為、オズバルドのストールぎゅうぎゅう詰め事件を思い出しながらひたすら耐えた。

 

 ミルフィーユ君がやっと離れてくれた。全然動いていないのに動悸や息切れが。

 私は呼吸を整えてから立ち上がった。着けてもらったペンダントは服の下へ。

 

「テメノス様……隠しちゃうんですか?」

「はい。特別なプレゼントですから。

オズバルド達にはしばらくナイショにしたい。私ひとりだけでこっそり見たい」

「そっそれなら私もこっそり見てニコニコします! 一緒ですね、うふふ」

「服を引っ張って見たらダメですよ。

ビロンビロンになってしまう」

「はい……きをつけます……」

「ミルフィーユ君、私の手を。

少し散歩してから宿屋に戻りましょう」

「はい!!」

 

 手を繋いで歩く。

 ミルフィーユ君の体温は高い。

 握ってくれるこの子の手の熱さも覚えていたい、忘れたくない夜になった。

 

 贈った花はいつか枯れてしまうことを教えると、悲しむことなく「大丈夫です。テメノス様の花は私の心の中でずっと咲いてますから」と言ってくれた。

 

 宿屋に戻って、ほかほかに温まった私は寝台に直行した。

「すみません……朝まで寝ます……」と小声で申し訳ない気持ちで言えば、

「おやすみなさい、テメノス様」と小声で嬉しそうに返事してくれた。

 ムクッとソローネ君が起床する。

 

「おはよう、ミルフィーユ。

次は私が夜の散歩を一緒にしたい。いい?」

「わぁい! ソローネさんとお散歩したいです!」

 

 喜び大満開の笑顔でミルフィーユ君は「いってきます、テメノス様っ」と手を振って、ソローネ君と出かけて行った。

オズバルドは深く眠っている。枕もとにはでっかい岩が並んでいる。

 

「大事にしてますね。

ごめんなさいオズバルド、私、そこらの荒野にポイッ!なんて思っちゃいました。

そんな事したらミルフィーユ君が悲しむのに。

はぁ……私はダメなお父さんです」

 

 就寝の準備をしてから、改めて私は布団に潜り込んだ。

 眠気は穏やかに引いていき、横にならずに寝台の上に座る。

 

「……オズバルド。

私が打ち明けた話で……きっとあなたは思ったはずだ。ミルフィーユ君とヴェリテは同一人物だと。

私がそう思うんです。オズバルドならもっと強く思っている。

私に気を遣ってあなたはそれを言わないでいる。『姉妹だ』なんて言って、私に希望を抱かせて。

ミルフィーユ君はヴェリテですよ。そうとしか思えません」

 

 寝たフリか、本当に眠っているのか。

 離れているから分からなかった。

 

「ミルフィーユ君が全てを思い出したら、あの子は……私のことをなんて呼ぶんでしょうね?

“テメノス様”とはきっと呼ばない。

全てを忘れているから、あの子は私を“テメノス様”と呼んでくれるんです。

思い出してヴェリテに戻ったら、私のことをどう呼んでくれるのか。

“テメノスさん”だったらちょっと傷つきます。

たくさんのことを教えるので“テメノス先生”と呼んでもらいたい。

ふふふ。“オズバルド先生”と“テメノス先生”か。やっぱり私には分が悪いです。あなたの方が智慧も知識もある。

やっぱり……“テメノスさん”になるんでしょうね。

心の準備をしないといけません。“テメノス様”と呼ばれなくても平気でいられるように。

もう今、覚悟を決めたほうがいいかもな。明日、ヴェリテに戻るかもしれないから。

走って転んで頭を打って、そんな感じで、あの子は思い出すんですよ、きっと。

そうしたら……」

 

 オズバルドから視線を外し、部屋の端の暗いところを見る。

 

「……お別れですね。

同じ旅路は、もう歩けなくなる」

 

 ペラペラ馬鹿みたいに喋っていく内に、大事なものも溢れ落ちてしまったようだ。

 胸の奥が、大きく大きく空いていた。

 

 ヴェリテが姉。ミルフィーユ君が妹。

 どちらでもいい。姉妹であってほしかった。

 “テメノス様”と、ずっと私を呼んでほしかった。

 

「……どこかの街で事件が起こったら、連れて行かないほうがいい。

店か宿屋か、安全なところで、オズバルドと待っていてもらう。

ミルフィーユ君に“お願い”して……何があっても待ってもらいましょう。決まりです」

 

 胸に大きな穴が空いたまま、すっきりした気持ちで呟いて、私は布団に潜り込んだ。

 ミルフィーユ君とソローネ君が帰って来る前に就寝して。

 

 

 ────もう二度と戻らない、色褪せた夢を見た。

 私の名を呼ぶ声、微笑みかけてくれる表情。

 遠い過去の大切な日々。

 名を呼びたいのに、夢だから声を出せなくて。

 あっという間に、夢が終わって……

 

 

 ────目が覚めて、明るくなった天井が見えて、もう朝かとまぶたをこする。

「テメノス様、おはようございます」とミルフィーユ君が覗き込んできた。

 起き上がれないまま、なんとか唇を微笑みの形にする。

 

「……おはようございます」

 

 全身が重い。喪失感で心の一部が欠けている、ような気がする。

 ふわりと額に熱い手が。

 

「テメノス様元気無いです……。

悲しい夢を見ましたか……?」

 

 優しく撫でてくれる。

 ミルフィーユ君は今にも泣きそうな顔だ。

 

「テメノス起きた?」

「ああ、ソローネ君。

はい、今起きましたよ」

 

 上半身を起こす。

 オズバルドもソローネ君も出発する準備を整えているところだ。

 ミルフィーユ君の白い頭巾を撫で返す。

 

「起床は私が一番遅いですね。

すぐ準備しますから」

「……本当に元気無いね。

ゆっくりでいいから。ミルフィーユと少し話しな」

 

 いつもの調子で言って、ソローネ君は宿屋を出た。

 オズバルドも「買い物に行く」と行ってしまった。ポケットが特大に膨らんでいる。

 ミルフィーユ君のプレゼントをとても大事にしている……。

 

「……テメノス様、私、お話聞きます」

 

 力強い瞳と、やる気に溢れた表情。

 頼もしく思って、しかし私は、打ち明ける気持ちにはならなかった。

 

「ありがとうございます。

何か夢を見たんですけど、夢の内容は全然覚えてなくて……。

でも心配しないでくださいね。ミルフィーユ君を見てたら気持ちが上向きになりましたから」

「元気になりました?」

「はい、とっても」

「えへへ。良かった!

私、夢はまだ見てないんですけど、夢を見たら、テメノス様に一番に話しますね。

悲しい夢でも、楽しい夢でも、嬉しい夢でも。

だからテメノス様も!」

「ええ、必ず。約束します。」

「はい! 約束で~す!」

 

 元気いっぱいの笑顔に安心して、ミルフィーユ君と出発の準備をする。

 

「(ロイ……)」

 

 呼びたかった名前を、私は胸の内だけで呟いた。

 

 

 ────そして、出発の時。

 アグネア君も私達の旅路を共に歩くと知ったミルフィーユ君は、かつてないほど大きく跳ねて大喜びした。

 “ミルちゃん”と呼び名を改め、アグネア君は村人達と話している。

 

「貯まったお金で旅の支度も調えられたし……。

じゃ……行くね」

 

 パーラ君と父君と、ガス君と、少年と少女、娘や若者達、夫婦達、狩人に木こり、ご老人、老夫婦まで。

 

「アグネア……行っちまうのかよ……」

「寂しくなんかねえべ! そうだべ! みんな!」

「おう! アグネアにゃ腹いっぱい笑顔にしてもらった」

「笑って送り出してやるべさ! あっはっはっは!」

「良かったなアグネア! 旅人さん達と一緒なら安心だべ!」

 

 旅立ちを惜しんだり、寂しがったり、応援したり、見せる表情は様々だ。

 

「みんな……ありがと」

 

 目が潤むアグネア君にガス君は笑顔を向ける。

 

「アグネア。

スターになるまで帰って来んなよ、絶対だぞ」

「うん……。

またいつか、踊らせてね、ガス」

「おう!」

「アグ姉~、家んことは任しといて。

へへ、大船に乗ったつもりで!」

「頼んだわよ、パーラ。ほんとに」

 

 パーラ君とアグネア君はお互いに笑い合う。

 そばで見守る父君の寡黙な表情は変わらない。

 

「父さん……」

 

 口を結び、ジッと見つめる父君は、ゆるりと誇らしげに微笑んだ。

 

「あの踊り……。

……母さんみたいだった」

「……うん。

あれは母さんの歌だったけど。

いつか、あたしの歌を作るの。それで……」

 

 アグネア君はドレスをひらりとなびかせる。

 太陽が似合う笑顔でいっぱい笑った。

 

「世界中のみんなを幸せにするんだ!

へへへっ!」

「風邪……ひくなよ」

「うん、父さんもね。

じゃ、いってきます!!」

 

 アグネア君が走ってくる。

 私達の輪に入り、見送る村人達に手を振った。

 

「みんな、ありがとう!

ありがとーーーーーーっ!!」

 

 その声に「おーーーーーーっ!!」と、賑やかな大勢の声援が。

 アグネア君と共に出発する。

 

 次はソローネ君の目的地、オアーズラッシュへ。

 

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