8人の旅人と、赤い髪の娘たち   作:遠野ハネ

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【8話】「私も反省します。情報を得る為にわざと怒らせたりはしません」「テメノス……おまえ、サイテーだな……」

 次の目的地はオアーズラッシュ。

 数年前に新種の鉱石が採掘され、一躍有名になった町だ。

 

「オアーズラッシュに立ち寄り、ソローネ君の用事が済んだ後、カナルブラインで宿を取りましょう」

「はーい!」

「良いお返事ですね」

「はいテメノス様!! オアーズラッシュはどんな町ですか?」

「銀で有名な町ですよ。大陸有数の銀の名産地」

「銀! 銀製リーフの銀ですね!!」

「はい。ミルフィーユ君はよく覚えていましたね。テメノス先生に質問はありますか?」

「はーーーい! いっぱいあります!」

 

 というやり取りを、後ろで笑顔で見守るアグネア君が……

 

「……ソローネさんオズバルドさん。あのふたりは先生と生徒?」

 

 ……質問している声が聞こえる。

 ソローネ君は「そうだよ」と答え、

 オズバルドは「ああ。そう思っていい」と答えた。説明するのが面倒くさそうだ。

 

 道をしばらく歩いて、オアーズラッシュまで目と鼻の先……といったところで、町から猛スピードで誰かが走ってきた。

 私はスッと目を細める。

 

「……誰だ?」

「女だよ」

「ソローネさんすごいです! 私全然見えません!!」

 

 ソローネ君はさらに「は?」と呟いた。

 イノシシが如く一直線に駆けてくる女は、どんどんその顔がよく見えるようになって……

 

「あれは……!?」

「えっ? えっ? ミルちゃんに似てる!?」

「……いや、同じ顔です……!」

 

 土煙を上げて私達の前でピタリと止まった。

 ミルフィーユ君と同じ顔、同じ色の瞳、同じ色の髪は……肩のあたりで切り揃えている。

 瓜二つの娘は息切れしながら、目をカッと開きながらオズバルドだけを凝視していた。

 

「あ、あのあのあのあの!! 眼鏡を掛けた素敵な旦那さん!! あなたの両ポケットに入ってるヤツ!! わたしお金払うんで鑑定させてください!!」

 

 まるで嵐だ。私達は何も言えなかった。

 オズバルドですら難しい顔で沈黙している。

 声も同じの瓜二つの娘は顔をグシャァッとしながら両手を合わせて頭を下げる。すごい勢いだ……!

 

「うううういきなりすみません!! 旦那さんの持ってるその両ポケットのやつ!! 言い値でリーフ払うので鑑定させてくださいぃいいいい! 金額によっては分割払いで契約書用意します!! ちゃんと契約書お渡ししますのでーーーー!!!」

 

 オズバルドは難しい顔でポケットをゴソゴソする。両手を使い、でっかい岩を両方出した。

 

「これの事か?」

「キャアアアアアアアアアアまぶしッ!!」

 

 喜びに叫んで目を覆う。

 ミルフィーユ君は私の後ろでひたすら困惑していた。

 

「好きにしていい。売買せずに受け取ってくれ」

「イヤッだめです! 1リーフも払わずになんてっ!!」

 

 “だめです”がまんまミルフィーユ君と同じ言い方だった。

 

「鑑定料は後ほど相談する。 この岩を持ってくれるか?」

「ありがとうございますっ!!」

 

 ソローネ君がヒソヒソと「あの笑顔、ミルフィーユと同じだね」と耳打ちしてきた。

 アグネア君もウンウン頷く。

「同じことを思いました」と私も小声で返事をする。

 

「オアーズラッシュの宿屋2階で鑑定します! ご案内しますのでどうぞ!!」

 

 満面の笑顔の彼女の向こう側、オアーズラッシュからまた誰かが走ってきた。

 おや。なにかを叫んでる。

 

「ディアーーーーーーーーーッ!!!!」

「あ。パルテティオ」

 

 猛スピードで到着し、滑り込んで私達の前に現れたのは青年だ。

 黄色のコートはマントのようになびき、片手で白い帽子を押さえながら駆ける足を止める。

 肩で息をして「は、おま、なん、いきなり……飛び出すんじゃ……」と息も絶え絶えだ。

「あはは……ごめん。遠くのキラキラしか見えなくなっちゃって……」と赤い髪の娘は苦笑する。

 私は一歩前に出た。

 

「私達は旅の者です。ミルフィーユ君、頭巾を」

 

 後ろにコソッと伝えれば、ミルフィーユ君は外した頭巾を抱え、出てきてくれた。

「え……?」「は……!?」とふたりは驚き、

 

「ディアがもう一人いる!?」と青年は飛び上がり、

「わたしと同じ色の髪だ!」と娘も飛び上がった。

 そして「「え……?」」と2人は顔を見合わせる。随分と仲良しだ。

 

「案内してください。道中、お互いの事を話し合いましょう」

 

 にっこり、と私は微笑んだ。

 

 オアーズラッシュへ続く道を歩きながら、私達はお互いに自己紹介しあった。

 ミルフィーユ君と同じ容姿の娘は“ミルディア・オレンジハート”

 青年は“パルテティオ・イエローウィル”

 

 ミルフィーユ君は自分と同じ顔の娘がとても気になるのか、自然と彼女の隣に並んだ。

 

「あ、あの、あの、私とミルディアさん、名前に入ってる“ミル”が同じですね!」

「あ~本当だぁ! 旅人さん達、東大陸から来たんでしょ? こうやって出会えたのは運命だね! わたし達、離ればなれになっちゃった家族かな?」

「お顔が一緒だからそうだと思います! でも、私じぶんの記憶が全然無くて……」

「そう……そりゃ寂しかったね……」

「テメノス様がずっと一緒だからさびしくないですよ! 」

「……テメノス様?」

 

 ミルディア君は歩きながら振り返る。

 赤い瞳でこちらをジッと見つめ、私は朗らかに微笑みながら手を振った。

 彼女は嬉しそうにふわりと微笑む。ミルフィーユ君と同じ笑い方だ。

 すぐに前を向き、話にまた花を咲かせる。

 

「ミルフィーユは“お姉ちゃん”欲しい? わたし、あなたがいいなら“お姉ちゃん”になりたいな」

「っ!! ほほほ欲しいです!」

「やったぁ! それじゃあ今からわたしがミルフィーユのお姉ちゃんね!」

「わぁ~い!!」

 

後方で見守る保護者達の隣をアグネア君は歩いている。彼女はジーッと2人を見つめた。

 

「同じ声がふたり分……」

「顔も同じです。あれで髪の長さと服が同じなら見分けがつきませんね」

「見分けられるぞ」

「そうそう。テメノスが『ブラヴォー』って言って大喜びしたほうがミルフィーユ」

 

 パルテティオはでっかい岩を両手で持って私達の隣を歩いている。

 ジッと娘2人を見つめ、無言のままだ。

 

「パルテティオ」

「……! あ、おう! なんだ?」

「“オレンジハート”……その姓を名乗るのは彼女の他にいますか? 他にご家族は……」

「いないぜ。その姓はあいつが自分で考えたんだ。『鑑定士をする上で姓が無いのは信頼してもらえない』って」

「幼なじみ?」

「ああ。昔っからの付き合いだ。 16年前……だったかな、まだオアーズラッシュが町になる前に俺の親父んところに来たんだ。『この宝石を買い取ってください』って」

「……へぇ。その時彼女は何歳ぐらいでした?」

「俺と同じ背だったから……8歳ぐらい、だったはずだ。実際のところはわかんねぇ。多分それぐらいの年齢だろって俺の親父が」

 

 アグネア君はフフッと上機嫌に笑う。

 

「ミルディアさんがお姉さん、ミルちゃんが妹みたい」

 

 背丈は同じでも顔つきが違う。

 一生懸命に話すミルフィーユ君を見つめるミルディア君の眼差しは、長年共に過ごした姉のようだ。

 

「魔女とあの2人。同じ容姿の人間がこんなにいるなんてね」

「あとは俺の生徒だな」

「4人もいるんだ……すごいね……」

「え!? そんないんのか!?」 

「どうしますオズバルド? 5人目、6人目と現れたら」

「……大家族だな」

 

 なんだかんだで私達の話も弾み、あっという間にオアーズラッシュに到着した。

 

 乾燥した空気が吹き抜けていく。

 たまに砂の混じった風も吹いてきて、荒野の地方独自の風車がカラカラと回る。

 左手の台地には大きな屋敷が建ち、右手の奥には店が横並びに建っている。

 ミルディア君とパルテティオは私達を宿屋に案内した。

 外に木造の階段が設置され、全員で階段を上る。

 ミルディア君の言っていた“宿屋2階”は、日当たりのいい場所にテーブルと椅子が置かれていた。

 ミルフィーユ君が「洗濯物干しやすいところですね」と耳元で小さく言ってくる。

 私は彼女の頭巾をそっと撫でた。

 

「テメノス」

「はい。なんですかソローネ君」

「やることあるからちょっと抜ける。終わったらここに戻ってくるから」

 

 小さな声で伝え、ス……と抜けようとした彼女に「ソローネさんいってらっしゃい!」とミルフィーユ君が。

 その元気いっぱいな声にアグネア君やオズバルドも気づき、ミルディア君やパルテティオも笑顔で手を振り、賑やかに見送られて、ソローネ君は居心地が悪そうな様子で行ってしまった。

 

 パルテティオが2つのでっかい岩をテーブルに置く。そして鑑定に使う器具も出していく。

 黒いハンマーと石ノミ……

 

「……それで割るんですね」

「そう、ちょっとずつ。パルテティオが割って、中の鉱石をわたしが鑑定するの。本当は割るのもわたしがやらなきゃなんだけど、刃物を持ったら手が震えちゃって……」

「それで俺が協力している。オズバルドさん、始めてもいいか?」

「ああ。やってくれ」

 

 パルテティオは笑顔で頷き、でっかい岩を割っていく。手慣れてますね。

「ミルディア」とオズバルドが声をかけ、「はい」と彼女は満面の笑顔で応じた。

 

「お前はここを飛び出して俺のところにきた。その岩を所持していると何故分かった」

「まぶしがってましたね、君。私達には見えないものが見えてるんですか?」

 

 ミルディア君は両手で口を押さえて驚いた。

 そして、興奮に拳を握り、頬を染めて笑いかけてくる。

 

「そう! そうなの!! 私の眼は他の人とちょっと違ってて、皆が気づかないお宝がキラキラして視えるんだ! こんなすぐ気づくなんてすごい!」

 

 嬉しそうに。笑い方も同じだ。

 

「初めてかも! ふふ、嬉しい! ありがとう! テメノス!!」

 

 ミルフィーユ君と同じ声で。“テメノス様”ではなく“テメノス”と。

 違和感で私はビキンと固まってしまった。

 ミルフィーユ君が「う……うう~……」とかわいく呻く。君の心がよく分かりますよ。“テメノスさんと呼んでください”ですね。

 パルテティオはコンコンと岩を割りながら苦笑する。

 

「ディアは仲良くなりたいと思った相手を友達みたいに呼ぶんだ」

「……なるほどなるほど」

 

 ミルフィーユ君がパッと笑顔を見せる。

『私のお姉ちゃんだからいいですよ! ゆるします!』の顔ですねアレは。

「お」とパルテティオが声を上げ、私達は一斉に岩を見る。

 大きく割れた岩の断面、でっかい岩の内側に、とても小さな青い宝石が埋まっていた。

 アグネア君が「わぁ……!」と明るい声を上げる。

 

「すごい綺麗な青い宝石ね!」

「氷の精霊石か?」

「……今までで一番輝いて視えたんです。これはただの精霊石じゃない」

 

 ミルディア君の声は緊張で固い。しかし、その表情には自信満々の笑みが浮かんでいた。

 パルテティオはさらにハンマーを振る。

 目当てのものを発見したから岩を手早く割っていく。

「テメノス様テメノス様」とこっそりと渡してきたのは氷の精霊石。

 以前入手した“獲得品”をカバンから出してきたのか。

 ミルフィーユ君はちょっとしゃがみ、私に頭巾を見せてくる。わくわくしてる顔だ。

 

「……テメノス」

「分かりますオズバルド。この子が何をして欲しいのか」

 

 頭巾をよしよし撫でれば、ミルフィーユ君は「むふふ」と小さく笑って背筋を伸ばした。

 

「……完了したぜ」

 

 達成感に笑顔を見せながらパルテティオは大満足の息をこぼす。

 青い宝石の隣に、ミルフィーユ君が出してくれた氷の精霊石を並べた。

 

「ふむ。同じ色に見えますが……」

「……少し違うな。岩から出てきたものは中心の色が濃い」

 

 オズバルドはヒョイと拾い上げ、空にかざす。

 ジッと目を凝らし、私達は気づいた。宝石の中心で小さい何かが動いている。

 

「オズバルドさん、これを使って」

 

 ミルディア君がルーペを手渡す。

「助かる」と受け取ったオズバルドはルーペを使い、改めて確認した。

 

「これは、魚か……?」

 

 耳を疑うことをオズバルドは言う。

 宝石とルーペを手渡され、次は私が確認した。

 ジッと目を凝らし、集中して、ふと思い出したのは、巡礼の旅で出会った漁師の言だ。

 “海の深いところはな、海水よりも暗ぁい色してるんだ。海上では出てこねぇデッカイヤツがいんだ!”────と。

 宝石は淡い水の色だ。しかし、中心の濃い青は、その漁師の言を思い出す“深海”だった。

 

「……魚に似た何か、ですね。悠々と旋回している……」

 

 すぐそばで「やったなディア!!」「イェーーーイ!!」と喜びながら手を叩きあう仲良しの声が聞こえてくる。

 私は改めて宝石を凝視した。

 背筋が寒くなる。抱いた感情は畏怖だ。

 

「これは……なんなんだ、一体……」

 

 ……それにしても、傍らにいるミルフィーユ君がとても静かだ。

 私はチラリと横を見る。

 彼女は無言だった。しかし、好奇心に見開いた赤い瞳はうるさかった。

『みたいみたいみたい! 見たい見たいですテメノス様おねがいします!! 見せてくださいいいいいい!!!!』と訴えている。

 

「どうぞ」

 

 渡したらバッと飛びついた。

 

「ありがとうございますテメノス様!!(とても小さな声)」

 

 私と同じようにルーペで宝石を確認する。

「きゃあああかわい!!」と顔を上げ、すぐにアグネア君に手渡した。いいんですかそんな短時間で。

 奇跡の青い宝石で周囲が大盛り上がりの中、ミルフィーユ君はテーブルの上のでっかい岩をよしよし撫でる。

 

「……もう少しで外に出れますよ。パルテティオさんが助けてくれますからね」

 

 母親みたいな笑顔で声を掛け、大騒ぎの席はピタリと静まり返った。

 全員ミルフィーユ君に注目しているのに、当の本人は気付いていない。

 

「あとでオズバルドさんのポケットでゆっくり休んでくださいね」

 

 慈愛に溢れた声だ。私はその頭巾を無言で撫でたくなった。

 

 ────パルテティオが割り、もうひとつの宝石が現れた。

 火の精霊石に似た、中で小さな小鳥が元気に飛び回る赤い宝石だった。

 みんなで確認した後、オズバルドはポケットに宝石を戻す。

 そのポケットに向けてミルフィーユ君が「あとでお店でハンカチを買いますね。ふわふわのベッドです」と声を掛けている。

 

「……すごいね。ミルフィーユの眼……私と同じだなんて……」

「入手経路がビックリだな。1リーフも払わずに手に入れちまうなんて」

「このでっかい岩、店主も分からない品だったんですよ。いつの間にか店先に置いてあった」

「……それをこの子がもらってきたんだ。俺のプレゼントに」

「はい!! すっごく良い物に見えたんです! ピッカピカに輝いてて、ここで買わなきゃ後悔するって思って!! 買いますって言ったら『持ってっていいよ』って。 『こっちもいいよ』って」

 

 ニコニコ笑顔が急に怒り顔になる。

 

「でも聞いてくださいミルディアお姉ちゃん! テメノス様ね、『返してきてください』って言ったんですよ!!」

「えーーーーーーーーーー!!!??」

 

 全身で驚くミルディア君にアグネア君は苦笑する。

 

「あたしもきっと同じ事言うなぁ。店にこんな大きな岩置いてて、お店の人が『こんなの知らない』って言ったら近くの森に戻しに行っちゃう……」

「あのでっかい岩なら誰だってそう思いますよ。その店主が大らかで良かったですね。もっとキッチリした方なら、ミルフィーユ君が気づく前に捨ててました」

「そ、そんなぁ……でもでも、誰かひとりは手に取る人いるはずだよ。ね! パルテティオ?」

「……いや、正直俺も手に取らないぜ。“店主が置いた覚えのない商品は触らない”だ。それを価値ある物だと見抜けるのはディアとミルフィーユだけだ」

「パルテティオ……」

「……すげぇよな。ミルフィーユが見つけて、オズバルドさんが信じてここまで運んでくれて、その輝きにディアが気づいてくれた」

 

 パルテティオは快活に笑う。とても爽やかだ。

 

「ディア、走ってくれてありがとさん。さすが俺の太陽だ!」

「ふふふ、どういたしまして。これからも頼りにしてるからね、わたしのお月様!」

 

 アグネア君はポッと顔を赤らめ、ミルフィーユ君は恋する乙女の顔で「はわわわわ……」と呟く。

 私はニッコリ!と微笑んで「お二人は恋仲ですか?」と質問する。

「「え……???」」と仲良し2人はポカンとした。

「恋人同士ではないのか?」とオズバルドは渋い声で聞いた。

 困りきった顔のミルディア君と、未習得の言語で話しかけられたような顔のパルテティオはお互いに見つめ合う。

 2人とも思っていることが顔に出ています。

『わたし達って恋人同士なの?』『いや違う違うそんなわけねーって。勘違いだろ』『そうだよね。わたし達そんなんじゃないのに』『ああ。俺たちは幼なじみだ』『うん。そうだよね』『だよな』────目だけで会話しないでくださーい。

 

「「恋人同士じゃない」」

 

 声が重なり、

 

「です!」「ぜ!」

 

 語尾だけ違う。なんなんですかねこの仲良し男女は。

「ふふふ」と私は乾いた笑みを浮かべ、

「すっごいです! ミルディアお姉ちゃんとパルテティオさんはお互いがすっごくすっごく大好きなんですね!!」と鼻息荒く言う。前もってこの子の口を塞げば良かったです。

 ミルディア君とパルテティオは明るく笑う。

 

「うん、そうよ! わたしパルテティオのこと、すっごい大好き!」

「そうだぜ! 俺もディアのことがすっげー大好きだ!」

 

 なんなんでしょうねこの相思相愛の男女は、と思っていたら、

「……想い合っているな」とオズバルドがボソッと呟いた。

 

 その後、鑑定料の話になり、オズバルドが受け取ったのは16リーフだった。

「もっとお支払いさせてください……!」と半泣きで訴える彼女に「ひと宝石8リーフだ。“8”は俺にとっての特別な数字でな」と彼女の交渉を終わらせた。

 下から誰かが近づいてくる。

 物音を立てず、静かに上ってきたのは黒い顔のソローネ君。

 おやおや。とんでもなく不機嫌だ。

 

「だ、大丈夫ソローネさん!? 何があったの!」

 

 アグネア君がすぐに走り寄る。

 ソローネ君はそれを無言で手で制して疲れ切った顔で端の方に行き、座り込んだ。

 

「魔女さんと遭遇しました?」

 

 疲れ切った顔にぶわりと怒りが現れ出る。

 

「最悪だった……。ずっとあの魔女が後ろをついてきて……」

 

 ミルフィーユ君の顔がパッと輝き『魔女さんが来てくれたんですね!』と喜んだものの、ソローネ君の形相を見て黙り込む。成長しましたね。

 

「それはそれは……とんでもない困難と災難にぶつかってしまいましたね」

「ぶつかりたくなかった……」

「私も思います心の底から。あの魔女とは話もしたくないし顔も見たくない。オズバルドは?」

「来るなと思っている。耐えたな、ソローネ」

「何か嫌なことされました? 至近距離の魔女はひたすら禍々しいですよ」

「……見るモン見て帰っていった」

 

 ミルディア君が「ソローネ、ひどい顔色……酒場で何か飲み物ごちそうしようか?」と声をかける。

 ソローネ君はビクッと震え、サッと顔を背けた。

 

「……いらない」

「うん。わかった」

 

 パルテティオもソローネ君を心配している。

 

「魔女ってのは……誰のこと言ってるんだ……?」

 

 そして、答えを求める目を私に向けてきた。

 

「ミルディア君と同じ顔の女です。自分のことを“魔女”と呼んでいます。ソローネ君は、その魔女と大きな因縁があって」

「“追い回されてる”か? ……趣味悪いな、ソイツ。俺が追っ払ってやろうか」

「パルテティオ……」

 

 パァッとソローネの表情が明るくなる。

 しかし、秒でスンとクールになった。

 

「……いいね、アンタ。追っ払ってほしい。この先もずっとずっと」

「お、おう……できるところまでな……」

 

 弱気にならないでほしいですね。

 ソローネ君はテーブルに視線を落とす。割れた岩の残骸を見つめた。

 

「……用事、終わった? できればすぐに出発したい」

「そうしましょうか。魔女さんが屋根の上から見守ってる気がします」

「次はカナルブラインね!」

 

 期待に胸を膨らませるアグネア君は、ミルフィーユ君に笑顔を向ける。

 幼子はいつの間にかしゃがんでいた。テーブルの高さまで頭巾が沈んでいる。

 

「おやおや? どうしたんですミルフィーユ君、そんなに小さくなってしまって」

「お腹空いたの?」

「あ。あたしのお菓子あげる。旅の準備で包んだやつ持ってきたの」

 

 頭巾がブルンブルン揺れる。

 あ、泣いてますねコレ。

 ミルディア君はゆっくり着席した。

 

「ミルフィーユ、お姉ちゃんのところおいで。2人で話そう」

 

 頭巾がもぞ……もぞ……とミルディア君のところに移動する。

「悪いな。全員下におりてくれ」とパルテティオが声をかける。

 2人の会話は気になるが、視線を向けないようにしなければ。

 宿屋を離れ、町の出入り口のところまで行ってから足を止める。

 

「ありがとさん。2人きりにしてくれて」

「あそこまで口を閉ざすのは初めてだ」

「……反抗期?」

「成長ですよ……」

「ミルちゃん、ソローネさんが戻ってきた時は笑顔だったのに……。いつの間にかすごい悲しそうで……」

 

 私はピン!と閃いてしまった。

 

「分かりました」「解を得た」「あの子……本当に好きなんだね……」

 

 私だけじゃなく、オズバルドとソローネ君も申し訳ない気持ちになったようだ。

「な、何が分かったんだ……?」とパルテティオはソワソワする。

「原因……気づいた……?」とアグネア君はソワソワする。私達は空を仰いだ。

 

「ソローネ君の話す魔女……彼女は“欲しい物”を執拗に聞きます。彼女はミルフィーユ君が欲しがった地図を贈りました」

 

 大きく喜んでいた彼女の笑顔を思い出す。そして、魔女のことを話していたソローネ君の顔も思い出す。ひたすら同情する。私の“聖なる光”が魔女に効けば良かったのに。

 

「……しかし、ソローネ君には。魔女はソローネ君が望んでいない物を……永遠に手放す事ができない呪われた品を与えました。得体が知れず、どこからともなく現れる。関わりたくない……と私は思っています」

「見ていて背筋が粟立つ不審者だ」

「私が幼い頃からずっと付きまとってる」

 

 私達の声音にアグネア君とパルテティオはゾゾゾと寒がった。

 

「……私達はこうですが、ミルフィーユ君だけは彼女を好意的に思っています。“地図が欲しい”と心から望んだ時にプレゼントしてくれたから」

 

 パルテティオは苦い顔をした。

 

「自分は好きだけど、周りは皆好きじゃない……」

「すぐそばで、ソローネさん達の話を聞いて……傷ついちゃったんだ……」

 

 ソローネ君は大きくて深いため息をこぼした。

 

「……謝るよ。アイツへの嫌悪を、できるだけあの子の前では見せないようにする」

「……配慮する」

「……私も反省します。情報を得る為にわざと怒らせたりはしません」

 

「テメノス……おまえ、サイテーだな……」とパルテティオが呟いた。

 

 そして、ミルディア君とミルフィーユ君が戻ってきた。

 姉は布の包みを片手に妹の肩を抱いている。

 ご機嫌ナナメの幼子は姉にギュッと抱きついている。頬をプクッと膨らませていた。

 アグネア君がパタパタ走って行く。

 

「ミルちゃんおかえりなさい! ミルディアさんもありがとう!! テメノスさん達もお話があるって!」

 

 お姉さんがもうひとり増えましたね。

 ミルフィーユ君はかわいい瞳で私達をジロリと見つめてくる。

 

「悪かったねミルフィーユ、嫌な気分にさせた。ちゃんと考えて話すから」

「私もたくさん失礼しました。魔女さんにはいつか(その日は永遠に訪れない)ちゃんと謝ります」

「……善処する」

 

 ミルフィーユ君はぷぅと頬を膨らませる。

 なんなんですかねこの幼子は。等身がいつもより低く見えた。

 

「……お姉ちゃん、やっぱり私じぶんでいいます」

「がんばれ。応援してる」

「テメノス様」

「はい、なんですか?」

「私、魔女さんとお話ししたいです。でもテメノス様たちは魔女さんとお話ししたくありません。来ないでほしいってテメノス様たち思ってるのがすごく悲しいです。とってもとっても悲しくなりました」

 

 表情を変えずに『それが理由か』と思った。

 ミルディア君は私にニコリと笑いかける。挑戦的な微笑みだ。

 

「場所はどこかの酒場か大衆食堂で、魔女のお姉さんといつか対話したい。話すのはわたしとミルフィーユだけ。気になる方は後ろの席で“静かに”見守ってほしい。“きらきらしたもの”をたくさん持って帰る。魔女さんと話してもいいかな? テメノス“様”?」

 

『もちろんいいよね』という有無を言わさぬ強い瞳。

 ミルフィーユ君と同じ声だが、“生きている”年数が全く違う。

 私も負けじとにっこり微笑み返す。

 

「ここの酒場ですか?」

「ううん。違う町がいい」

「私達は旅をしている。同行するんですか?」

「うん! わたしとパルテティオで!」

 

 私のすぐそばで「え!? 行くのか!?」とパルテティオは驚きの声を上げる。

「そう! 行くの!!」と明るく返事する。

 これは勝てませんね。

 

「……いいですよ。たくさんのきらきらを期待しています」

「いいって。ミルフィーユ」

 

 ミルディア君の言葉にミルフィーユ君はやっと笑顔を見せる。

 姉は白頭巾をスポッと外し、赤い髪を撫でた。

 

「はい! ということで解決だよ! 気分を切り替えて出発しよう! ゴー!!」

 

 軽やかな足取りで歩いて行く。

 思い切りが良すぎる。すぐに旅立ちを決めるなんて。

 少し戸惑うパルテティオに、ミルディア君はパチッとウインクする。

 

「やっぱり今日だった! 行こう、パルテティオ!」

「え、ま……マジか……。準備はしてたが……」

「……準備とは?」

「わたしとパルテティオ、旅に出ようって考えてたの! 東大陸のクロックバンクってところに! カナルブラインの船に乗るから、途中まで一緒に同行する!  いいよね、テメノス?」

 

 ミルフィーユ君と同じ声で“テメノス”と。

 ……早く慣れないといけませんね。

 私は白旗を揚げた。全員に確認しないで「いいですよ」と返事した。

 

「ありがとう!! イェーーーーーーイ!!」

 

 元気いっぱい振り上げる姉の腕に、妹は小さく挙手して「わぁーい」と言った。

 ミルディア君に白頭巾を渡され、大事そうに両手で抱える。

 笑顔が戻ったようで良かったです。私は心からホッとした。

 町を出る手前、ミルディア君は端っこにトコトコ歩いていった。

 

「なにをするんです?」

「ディアがいつもやってるヤツだ」

 

 端っこでしゃがむ。その姿を私達は見守ることにした。

 彼女は布の包みをふわりと広げる。

 中身はパルテティオが割ったでっかい岩の破片や塊だ。それを地面に優しく置いていく。

 

「……わたしのところに立ち寄ってくれてありがとう」

 

 岩の欠片全てにミルディア君はお礼を言った。チャリ、と置いたのは1リーフ。

 

「……あなた達に感謝と祝福を。いつかまた、輝けるものになりますように」

 

 祈りの言葉を伝え、スッと立ち上がる。

 そして大きく伸びをした。

 

「よ~しオッケー! それじゃあ行こうか、ミルフィーユ!」

「はい! お姉ちゃん!!」

 

 姉は妹のところに戻り、肩を組んで先頭を歩く。うきうき、ワクワク、とても仲良しに。

 出会って数時間とは思えないほど打ち解けている。

 本当に楽しそうで、2人で歩きながら踊り始める。アグネア君もダーッと走り、踊りの輪に加わった。

 観客が私達しかいない、素晴らしいステージだった。

 

「良かったじゃん、ミルフィーユ」

「ええ」

「……ああ」

 

 あー……外套の下にまとめていた赤い長髪がすべて表に出てしまいました。

 カナルブラインで髪留めを買ってあげましょうか。

 後ろを歩くパルテティオが小さくポツリと呟いた。

 

「なんか言った?」

 

 ソローネの質問に「いいや、なんもねぇ」とぎこちない微笑みで返事をする。

 私達は次の目的地を目指して歩いていく。

 

「(……パルテティオ。

私には聞こえましたよ、ハッキリとね)」

 

『やっぱり切るんじゃなかった……』

 

 深い後悔がこもった呟きを。

 

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