8人の旅人と、赤い髪の娘たち   作:遠野ハネ

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【9話⑤】「同時に討ちます。キャスティ!」 「できるわ!やり繰りは得意なの!!」

 静かに眠っているように見えた。

 触って気づいた。思わず手を引っ込めそうになる熱さに。

 

「その子ね!!」

 

 青い制服の女性が駆け寄ってくる。

 店主は他の客に声をかけ、青年店員が大急ぎで各テーブルに配膳した水を急いで下げ始めた。

 

「……君は?」

「私はキャスティ! 薬師よ!!」

 

 名乗りながら、テーブルに突っ伏すミルフィーユ君を椅子から引き離し、床に寝かせた。

 手際が良い。こちらが手を出す前に処置を始める。

 私が「頭巾を外します」と動けば、

 キャスティは「ありがとう!」と答えて首元を緩める。

 赤々とした顔と肌にびっしりと湿疹が出ていた。

 キャスティはカバンから鉢と棒を取り出した。

 

「これを使え」とオズバルドが薬草を渡し、

「他に必要な物は?」とソローネ君が声をかける。

 キャスティは「ありがとう。必要な物は持ってるの。薬草は貰うわね」と受け取り、手早く薬を練り始めた。

 邪魔にならないよう、後ずさる。

 今、私にできることは何もない。胸の奥が絞られているように痛んだ。

 後ろでアグネア君達も息ができない顔で事の成り行きを見守っている。

 

「(先ほど鉢に入れたのは、あれは……センジュの種と薬草か……)」

 

 教本で読んだことがある。解熱薬を作る為の組み合わせだ。

 

「……できたわ。これを飲ませれば……」

 

 キャスティの手がピタリと止まる。

 緊迫した表情が困惑したものになった。

 ミルフィーユ君の顔色が健康な色に戻り、湿疹が全て引いていく。

 私は歩いて立ち位置を変え、他の客達の目からミルフィーユ君を隠した。

 キャスティに「後で説明します。飲ませるフリを」と小声で伝えた。

「え、ええ……」と小声で応じた彼女は、手をわずかに震えさせながら解熱剤を口元に運ぶフリをする。

 そして、完成した薬を手早く紙に包み、鉢と棒と薬包をカバンに戻した。

 

「……薬を飲んでくれたわ。宿屋で寝かせてあげましょう」

「ありがとう。運びます」

 

 ミルフィーユ君を抱き起こす。

 アグネア君が彼女のリュックを持ち、ソローネ君が頭巾を拾い上げる。

 パルテティオとミルディア君が店主に飲食の代金を支払おうとして、店主は「代金はいりません。お嬢さんに酒を飲ませちまってすまなかった」と謝り、青年店員が「すみませんでした……!!」と頭を下げた。

 いつミルフィーユ君が元気いっぱいに目覚めるか分からない。私は早足で店を後にする。

 

 全員で外に出た。

 宿屋に近いところで足を止める。

 その瞬間、ミルフィーユ君の閉じていたまぶたがパチッと開く。

 

「え? テメノス様?」

 

 赤い瞳をまん丸にして、不思議そうに見上げてくる。

 ソローネ君達が一様にホッとし、キャスティは「薬を飲んでいないのに……」と釈然としない声で呟いた。

 

「キャスティ、この子は特異体質なんです。負傷してもすぐに癒え、風邪も引かず、薬も効かない。その体質が今回は幸いしました」

 

 そしておそらく、ミルディア君も。

 彼女はパルテティオの隣で青ざめた顔をしている。

 私は改めてミルフィーユ君を見下ろした。

 

「気分はどうですか? 酒も飲んでしまったんですよ」

「……おさけを、ですか?」

 

『私が????』という、よく分かっていないほわほわ顔だ。

 

「覚えていないな」とオズバルドが呟き、

「全部忘れてるね」とソローネ君が言い、

「あれを全部? 良かったじゃねぇか……」とパルテティオがホッとして、

「うん。ミルちゃんが元気になって本当によかった」とアグネア君も安心して微笑んだ。

 

 抱き上げていたのを下ろす。

 ミルフィーユ君は自分の足で立ち、残念そうな顔をした。

 キャスティが歩み寄る。

 

「こんばんは。ちょっとあなたのことを診てもいいかしら?」

「はい! どうぞ!」

「私はキャスティ、薬師よ。ちょっと失礼するわね」

 

 湿疹の有無の確認、脈拍を測り、体温も確認する。

「体温が……とても高いわ……!」という呟きに、

「言い忘れてました。この子は常にその体温なんです」と付け加えておく。

 キャスティはやわらかく微笑み、ミルフィーユ君から離れた。

 

「ご家族の方、安心してちょうだい。この子は健康そのものよ」

「はい。処置をありがとうございます」

「ありがとうございます!!」

 

 仲間達が口々にお礼を言う。キャスティは頷き、全員を一瞥した。

 

「体調を崩した人は……他にはいないわね? 感染症の原因が水だと周知できたから、高熱に倒れる人はもう現れないと思うけど……。解決するまでは煮沸をお願い。それじゃあ私は行くわね」

「……どちらに行くんですか?」

「水源の洞窟へ。そこに“病原”がある疑いが強いの」

「ひとりで行くのか」

 

 オズバルドの言葉にミルフィーユ君は慌てた。

 

「ひとりは危ないです!! 魔物が出るんですよっ!!」

「見送れねぇ、一緒に行くぜ」

「……うん、わたしもそうしたい。夜は本当に危ないから」

「あたしも手伝う!」

「ありがとう。町の人もそう言ってくれたけど、全て私に任せてほしいの。“病原”を扱うのは危険だから」

「……専門外が手を出せば、私達が病に伏せってしまうから……ですか?」

「そう。魔物のことも心配しないで」

 

 キャスティは右手を前に出す。

 腕輪がカッと光り、大きな斧が出現した。

 オズバルドが顎に指を添える。

 

「……おお、珍しい。“保管輝石”の腕輪か」

「テメノス様! ピカッてなってボンと出ました!」

「武器や大きなもの、たくさんの品物を別の空間に保管できる希少品です。いつでも出し入れ自由なんですよ」

 

 キャスティは大きな斧を軽々と振るう。

 腕輪がまた光り、握っていたものがフッと消えた。

 

「病人を背負うのが常だったみたい。腕には自信があるの」

「(……強いな。あの振り方なら一度に3撃はいける)」

「魔物はとっても強いんです!! ひとりはダメなんですよ! すっごく強いテメノス様が一緒に戦いますから!!」

 

 私の腕をグイグイ引っ張り、強引にキャスティのほうへ連れて行く。

 

「テメノス様は“回復魔法”で傷を癒して、“聖なる光”でドーン!ってします!! しかも断罪の杖でボコォ!!ってできます!!」

 

 一生懸命アピールする。興奮してハァハァし始める。

 

「さらにかっこいいんです! 強くて美しくて強いんです!! テメノス様がいれば、ぜったい安心安全なんです!!」

「“強くて”と“強い”……同じこと言ってますよ……」

 

 キャスティのところに連れて行かれた。

 ミルフィーユ君は走ってオズバルドのところに行く。

 私と同じようにオズバルドをグイグイ引っ張った。キャスティのほうへ。

 

「オズバルドさんもね、とっても強いんです!! いろんな魔法でいっつも助けてくれます!! すっご~く強い先生なんです!!」

 

 途中、オズバルドは自分で歩いてキャスティのところに行った。

 ミルフィーユ君は息切れしながらソローネ君のところに走っていく。

「行く。引っ張らなくていいから」と言って、自分の足でキャスティのところに進む。

 

「ソローネさんはね、とっても速いんです!! ナイフが強くてかっこいいです!!」

 

 ピカピカの笑顔だ。全力で私達全員をキャスティに同行させようとしている。

 

「アグネアさんもね、とても速いです!! 応援の踊りで皆いっぱい頑張れるんですよ!! すっごいんです!」

 

 ひとりで行こうとしていたキャスティの顔つきが変わる。ミルフィーユ君の話を一心に聞く。

 

「パルテティオさんは精霊石をドーン!!です!! 遠くから投げても絶対当ててすっごいんですよ!! それにね、ミルディアお姉ちゃんもね、すっごく離れたキラキラを見つけます! とってもとってもすごいんです!!」

 

 ミルフィーユ君は全員をキャスティのもとへ送り込む。

 大仕事の後の大満足な顔で、彼女は誇らしげに胸を張る。

 

「私はテメノス様が安心できるお店にいます!! お外には行かないので、皆さんで“びょーげん”を解決お願いします!!」

「ミルフィーユ君……」

 

『自分も一緒に行きたい』が彼女の顔には一切無い。

 苦しいものが胸いっぱいに溢れ、息が詰まってしまう。

 ミルディア君が動き、ミルフィーユ君の近くに歩み寄った。

 

「わたしとパルテティオがそばにいる」

 

 パルテティオは私に布袋を渡し、ミルディア君の隣に行った。

 

「頼んだぜ。俺達は倒れた奴を看病するから」

 

 布袋の中身を確認する。様々な大きさの精霊石がごろごろ入っていた。

 キャスティは胸の辺りで拳を握る。

 

「ありがとう。町をお願いするわね」

 

 そして、信頼を寄せる眼差しを私達に向けてくる。

 

「あなた達も、助けてくれてありがとう。“病原”は私が対処するわ。それ以外をお願い」

「任せてください。魔物は全てこちらで退治しますから」

「……急いだほうがいい」

「さっさと片付けるよ」

「うん! みんなで協力して!」

「夜11時までに……ここに帰りましょう」

「キャスティさん!」

 

 ミルフィーユ君が走ってくる。リュックから紙袋を出し、彼女に渡した。

 

「クロップデールのお祭りで買いました! 薬師さんが使う葉っぱ詰め合わせセットです!」

「ミルフィーユ君、それも買ってたんですね……」

「はい! なんか欲しいなって思って!」

 

 キャスティは紙袋を確認して「ねんちゃくの花と免疫の葉と拡散剤がこんなに! ザクロの葉も入ってるわ……!」と驚きの声を上げた。

 

「ありがとう! あなたとってもすごいわ!」

「えっへへへ!!」

 

 大喜びに笑い、ミルフィーユ君は私に向き直る。

 

「テメノス様!」

 

 リュックからランタンを出してきた。白い輝きが灯る。

 

「本当は一緒に行きたいです。でも私がいたら、テメノス様達が大変になる魔物がたくさんたくさん出てきます」

「君、気付いていたんですか……」

「……はい。お風呂に入ってる時に、夜の魔物の話になって、ソローネさん達の話を聞いて、変だなって思ったんです。だから……テメノス様、キャスティさんを……皆さんを助けてくださいね」

 

 大事なランタンを手渡してくる。ランタンよりも明るい笑顔で。

 

「テメノス様に、聖火の加護がありますように!!」

 

 ランタンがまばゆく輝く。全員の凝視する眼差しを感じながらも、私は笑顔で受け取った。

 

「ありがとう、ミルフィーユ君。町をよろしくお願いしますね。無事に帰ってきますから」

「はい!!」

 

 眩しいランタンを持ち、出発する。

「いってらっしゃ~い!!」と元気いっぱいの声を背に受けながら。

 町を発って、夜道を歩く。

 

「……そろそろ聞いてもいいかしら」

「どうなってるのソレ」

 

 ガサガサ、ガサッ!と草木をかき分け、魔物が現れる。

 しかし、ランタンの白い輝きに怯み、逃げていった。

 

「え、え、えぇ……?」

「……“獲得品”が落ちているな」

「すごいんですよコレ、本当に。使えるのは夜だけですが、戦わずに得ることができるんです。全ての魔物と戦闘することなく、安全に目的地へ到着できます」

 

 落ちているものを拾う。

 先頭を歩いているから、全員の視線をグサグサ感じた。

 

「……私には、あの子が“何か”したように見えたわ」

「眩しくなったね」

「う、うん。強く光った!」

「魔物と遭遇する頻度を減少させる技は習得できることが確認されている。その効果を付与している携行品や装飾品も売買されている。学会ではそれを専門に学び、調査する学徒や学者もいるほどだ。モンテワイズの大図書館では多くの名著が寄贈されている。俺もひと通り読んでいるが、その効果は……」

 

 とてもたくさん話している。

 

「……昼と夜なら夜のほうが魔物と多く遭遇するが、その夜に、全ての魔物と一切戦闘することがなくなるランタンだと? しかも、魔物が所持するものを放り捨てて逃走する効果、そんなもの、俺は聞いたこともない。全ての学者が知らぬ効果だ。ミルフィーユのあれは“付与”だ。あの子のことだ、己が持つ才を把握も自覚もしていない。原石だ……磨けば無限に光るぞ……!」

 

『すごい!』という顔をアグネア君がして、

『とてもたくさん話してくれたわ!』という顔をキャスティがして、

『先生が饒舌に話してる!』という顔をソローネ君がする。

 私達は早歩きで洞窟を目指している。オズバルドの饒舌な早口はそれが理由だと思うが。

 話したくなってしまうのはよく分かる。

 

「その通りですオズバルド。あの子は自分のことをよく分かっていない。『私のランタンはピカピカですごいんです!』としか思っていません」

「なんてこと……」

「……あの子らしいね」

 

 へへ、とアグネア君も笑う。

 

「テメノスさん。あたしね、ミルちゃんがあたしのことを『すっごいんです!』って言ってくれたの、あれ……嬉しかった」

 

 自分のことは言わない。あの子のアレが私にとっては“すごい”だ。

 晴れやかに、明るく、誇らしく思った。

 

「少ししか話せなかったけど……。気持ちが伝わってきたわ。大切に思っているのね、皆のことを」

「あの子の気持ちに応えてやらないとね」

「……即座に解決だ」

 

 笑顔で見送ってくれたが、今、あの子がどんな気持ちで待っているかは分からない。

 寂しくて泣いているかもしれない。誰もいない部屋の隅でコッソリと。

 

 断罪の杖を握り直す。いつもより強い力で戦えそうだ。

 

「急ぎましょう!」

 

 早歩きよりも速く、目的地まで走っていく。

 遭遇する魔物は逃げていき、落とした“獲得品”はアグネア君とソローネ君が拾ってくれて、私達は洞窟に到着した。

 桟橋からカヌーに乗り、水上を進む。

 水源に続く洞窟は鉄格子が壊れ、何かがここから侵入したようだ。

 

「……水源はこの先ね。注意して進みましょう」

 

 洞窟に入ってすぐ、灯りが吊るされた桟橋が見えてくる。

 カヌーを降り、キャスティにランタンを渡し、先頭をお願いした。

 壁には“不滅の篝火”が設置されている。

 通路の端を膨大な水が流れ、足を滑らせれば水中にドボンだ。注意して進まなければ。

 

 灯りがぽつりぽつりと洞窟内を照らしている。

 ミルフィーユ君のまばゆいランタンのおかげで、安心して進むことができた。

 道中、青みがかった大蟹の魔物・アオコケバサミが現れるも、白い輝きに負け、逃走する。

 落としたリーフを拾い、また先を進む。

 

「す、すごいねぇソローネさん! 戦わないでリーフが手に入ったよ」

「……楽に金稼ぎできるね」

「このランタン、注意点がひとつだけあります。この輝きは大きな魔獣には通用しないんです。戦わなければならない場面は必ずあると思ってくださいね」

「分かったわ」

「……肝に銘じておく」

 

 水源の洞窟内部は鍾乳洞に似た景色が広がっている。

 灯りに照らされた景色は青銅色だ。

 上には鋭利なつらら石、下には鋭い石筍が伸び、転倒すれば負傷する。

 危険な洞窟だ。ここにはミルフィーユ君は連れて行けない。

 くすんだ色の古い石橋を渡り、さらに奥へ進んでいく。

 魔物が2体現れ、すぐに逃げていった。

 

「……海のリザードマンとアオコケガメか」

「詳しいですねオズバルド。一瞥しただけで」

「調べるのは得意だからな」

 

 そして訪れた最奥地。ツンとした刺激臭に私達は顔をしかめた。

 

「……ひどい臭い」

「空気が澱んでいるな」

「見てくださいよソローネ君、あの水面を。ひどい色だ……」

「濃い緑がうねって見えるね。あれがカナルブラインの水に」

「あ、あれを町の人やミルちゃんが飲んだの……!?」

 

 キャスティはカバンからハンカチを出し、鼻と口を覆い隠した。

 

「不衛生は万病の元ね……。さて、肝心の“病原”はどこかしら」

 

 水面にランタンを近づける。

 

「そこら中に毒素が蔓延しているわ。……吸い込まないよう注意しないと」

 

 キャスティは水源を確認し、私達は周囲に視線を走らせる。

「いたよ。上だ」とソローネ君が静かに呟き、私は断罪の杖を、オズバルドは右手を上に突き出した。

 

「あ、あんなところに……!」

 

 アグネア君が小さく悲鳴を上げる。

 高く高く迫り上がった岩の上に、毒物を纏った魔獣が私達の様子を伺っていた。

 

「……あれが“病原”ね」

 

 ソローネ君は素早くナイフを構えた。

 キャスティも魔獣達を見据える。

 

「あなた達だったのね。ここで“病原”をばらまいていたのは」

 

 魔獣が岩を飛び降り、私達の前へ。

 月が昇り、月明かりが差し込み、魔獣を照らす。

 降りてきたのは2体。岩にはさらに、もう2体。全てが毒にまみれている。

 全身にゾッと寒気が走った。

 

「番の魔獣ですね……!」

「……最悪」

「充血した眼、毒素の混じった体液……感染症にかかっているようね。彼らが触れた水を口にすると、ヒトにも感染症状が現れる……」

 

 猿に似た細身の魔獣が甲高く鳴き、巨体の魔獣は野太く鳴く。

 

「ここは町の人達の大事な水源なの。あなた達の住処へ帰ってくれないかしら」

 

 キャスティの静かな説得に、猿の魔獣達は一斉に猿叫を上げる。

 

「……交渉決裂だな」

「わかってたけど……話が通じないわね。残念……。“病原”を駆除するわ」

 

 キャスティは大斧を出し、洞窟内に4体の猿叫が響く。

 頭が痛くなってくる鳴き声だ。

 

「離れて攻撃を! 毒素が混じる体液が身体にかからないように!」

「え!? 蹴っちゃダメ!?」

「ナイフでも斬れないね……!」

「オズバルド! あの魔獣達に効く根源は!?」

 

 眼鏡を押し上げ、鋭く睨む。

 襲いかかろうとする魔獣達に、アグネア君は所持している風の精霊石を投げて対処する。

 巨体の魔獣が怯み、痛みに鳴いた。

 

「ブラヴォー! アグネア君!」

「……闇だな。あの魔獣らには闇の根源が効く。巨体は風も有効のようだ」

「ソローネ君!」

 

 私の声にソローネ君は目を向ける。

 すぐに精霊石を詰めた布袋を渡し、受け取った彼女は闇の精霊石を魔獣達に投てきする。

 キャスティの手には鉢と棒、手早く調合する。

 

「薄闇の花と疾風の花を……これで!」

「“氷よ……切り裂け”!!」

「“聖火よ……輝きたまえ”!!」

 

 魔獣達も一斉に強襲する。

 毒の塊が飛んできて、反射的に上半身を反らして避ける。

 しかし、さらにもう一発。

 

「……ぐ!!」

 

 肩に直撃した。

 激臭が鼻を突き、めまいがして、思わず膝をつきそうになる。

 

「テメノスさん!!」

「私に任せてそのまま精霊石を!」

 

 アグネア君の声が遠い。

 毒だ。呼吸するのが難しくなる。

 

「免疫の葉とブドウの葉を……お薬の時間よ。これを!」

「感謝します……」

 

 調合してもらった薬を飲み、全身が一気に楽になった。

「服にも塗っておくわね」と直撃したところにキャスティは手早く塗る。

 強烈な毒が、臭いが消え、私はすぐに立ち上がった。

 

「キャスティ! 先生にも毒が直撃した!」

「気持ち悪……あたしも……クラクラする……!」

「任せて! 免疫の葉と拡散剤を……みんな! これを!」

 

 プラムをかじり、断罪の杖を強く握る。

 私は光明魔法で。オズバルドは氷結魔法で、魔獣達を尖鋭に穿つ。

 

 よろめいた細身の魔獣は巨体の魔獣に倒れ込み、大口を開けて喰い付いた。

 こちらの攻撃する手が止まるほどの異様な光景だった。

 咀嚼し、飲み込み、細身が膨れ上がる。眼光が禍々しく光を放ち、大きくげっぷした。

 

「うっ……。仲間を……食べた……?」

「食べたの!?」

「……ケダモノめ」

 

 猿叫を飛ばしてくる。

 

「うっ、ひどい臭い……。まさか、仲間を食べて強化したの? これは……迅速に対処する必要がありそうね」

「残り全ての魔獣を」

「ええ! 同時に討ちます。キャスティ!」

「できるわ! やり繰りは得意なの!!」

 

 心強い笑みを浮かべ、キャスティは手際よく調合する。

 

「拡散剤と薄闇の花をたくさん……駆除するわ! 悪い子にはこうよ!!」

 

 私とオズバルドの詠唱が重なり、アグネア君とソローネ君が同時に精霊石を投げつける。

 全力を尽くし────やっと、魔獣達は蒸発して。

 めまいがする臭気が充満した。

 

「……悪く思わないでね」

「優しいね、魔獣相手に」

「病は正気を失わせるの。あの魔獣達も感染症の被害を受けてしまった側だわ……」

「キャスティ、これで“病原”は?」

「ええ。“病原”は断てた……。あとは、ジョウカソウを撒いておきましょう」

 

 カバンから出したものを、水面に大きく撒いていく。

 アグネア君はその場にしゃがんだ。

 

「よ、良かったぁ~! ど……どうなることかと思ったべ……」

「4体だよ、4体。よくやったね、私達」

「魔法と精霊石と……遠くから攻撃できる手段があったのは幸いだったな……」

 

 ジョウカソウを撒き終わり、キャスティが戻ってくる。

 

「時間が経てば汚染は浄化されるはずよ。あなた達にも、私にも、身体にジョウカソウを振りかけておくわね」

「感謝します」

「礼を言う」

「ありがとう……!」

「ありがとうね」

 

 全身を浄化する。キャスティがランタンを持ち直した。

 

「さあ、帰りましょう」

 

 その一声で、私達は洞窟を後にした。

 

 外に出て、やっと深呼吸する。

 清々しい空気にホッとした。

 

「……臭い、全身に染み付いてる」

「臭いまでは取れないわね。仕方ないわ……」

「お……お風呂に入りたい……」

「帰ったらすぐ入浴ですね」

「……洗濯もしなければ」

 

 ずっと緊張していたようだ。全身の力が抜けそうになる。ミルフィーユ君の笑顔が早く見たい。

 キャスティは満面の笑みを浮かべた。

 

「みんな、一緒に来てくれて本当にありがとう。“病原”があんなにいるとは思わなかった。ひとりで行かなくて良かったわ」

「ミルフィーユに感謝だね。あの子がキャスティをひとりにしなかった」

「言わなくても私が後を追いかけますよ。薬師ひとりだけを現場には行かせません」

「……ああ。迅速な解決には人手が必要不可欠だ」

「うん! あたしも後を追いかけてた!」

「さっさと帰ろう。あの子も、パルテティオとミルディアも、私達の帰りを待ってる。

テメノス、今何時?」

「ああそうでした、時計を」 

 

 懐中時計を開く。時計の針は……

 

「……夜の10時35分です」

 

 血の気が引く。ここからカナルブラインまでは……

 

「……走って帰りますよ!!」

 

 私達は大急ぎで帰路に着いた。

 




・“病原”戦の難易度
・保管輝石

全て捏造、独自設定です。
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