ミルフィーユ君が手を洗った後、手分けして情報を集めることになった。
気合いに溢れるミルフィーユ君には“あれこれ質問しないこと”と、正確な証言を得る為のコツを授けた。
「ミルフィーユ君は分からない言葉があると質問しますよね。アレ、情報集めてる間は禁止です」
「はい! 分かりました!」
「(どうしてですかテメノス様って聞かないんですね)
……あと、相手が情報を話してる時も静かに聞くんですよ」
「紙芝居の時のミミリちゃんみたいに、ですね。みんなが拍手した後に『ありがとうございます』を言うんです」
「(すごい。とても理解が早い)
……情報を得る為に他に何をやるか、ミルフィーユ君は分かります?」
「『いま、お時間いいですか?』と最初に聞きます。『良いですよぉ!』って言ってもらったら、とっても困った顔をして『知りたいことがあるんです』って言います。
それですぐにテメノス様が話を聞くんです。私は後ろでピッタリくっついて沈黙します。お話しが終わって、テメノス様が『ありがとうございました』を言った後に私もお礼を言います。情報もらえたらとっても嬉しいので、嬉しい気持ちをたくさん込めて感謝します」
「おお……ミルフィーユ君、ブラヴォー」
「わっあぁ! ぶ、ぶらぼーです! テメノス様からぶらぼーを頂きました!! いいいん……うれしいです……!」
「(半泣きで震えるほど喜んでる)」
そんなこんなで、情報集めが始まった。
困り顔のミルフィーユ君の『知りたいことがあるんです』はとても威力が強く、面白いほど情報を得た。
いやぁ……本当に見事だった。彼女の『ありがとうございます』は相手をとんでもなく笑顔にして『他にも思い出したら言うからな!』とか『困った事があったらお姉さんが助けるからね』とかの言葉まで引き出した。
町を4分割にして“どこで情報集めするか”を仲間達と事前に決めていた。
担当する場所が終われば、墓地の前で集合だ。
「たくさん話してもらえましたね」
「はい! テメノス様にピッタリできてとっても嬉しかったです!」
「(“情報を得て嬉しい”ではないんですね……)」
集合場所にはオズバルドとソローネ君が待っていた。
「おや。キャスティは?」
「……薬師だからな。情報の対価として、心身の悩みも聞いているんだろう」
「ここに来る前に見てたよ。情報集め中のテメノス達を。お願いする時のアレ……良かったよ」
ソローネお姉さんは彼女に笑いかけた。
「ミルフィーユ、ブラヴォー」
ふわりとした声で言って、ミルフィーユ君はパァッと明るい顔をした。
「わ、あぁ……ソローネさんからもぶらぼーを頂きました……! ううう……嬉しいです……!」
「(また半泣きで震えてる)」
「アレは幅広く活用できる。しかし、誰に対しても気軽に使っていいわけではない。お願いする相手を見定めてから実行しろ」
「はいオズバルドさん!」
「ブラヴォー。素晴らしかった」
「ううう……オズバルドさんからもぶらぼーを!! えええん……しあわせです……!」
「(喜びに打ち震えている)」
ちょうどキャスティが帰ってきた。
ブルブル震える幼子を見て、薬包を出しながら走ってきた。
事情説明後、キャスティが安心してから、私達は集めた情報の共有を始めた。
「まずは私からだね。衛兵隊について教えてくれた。昔から働いていた奴らが解雇されて、東大陸から来たならず者ばかりになった、って男が。全部、衛兵隊長ステンバールの仕業だよ。
この町の支配者気取り……そう話してくれた」
「ステンバールか、その男の話なら俺も耳にした。数年前からこの町の衛兵隊はその男が仕切り、いい噂を聞かないと。裏で変な学者とつながってる……そんな噂もあるようだ。5年前の事件、その前に密会しているのを見た人がいたらしい」
「この町、以外と長く住んでいる方がいらっしゃるんですね。オズバルドはあまり近所付き合いしてませんでした?」
「……我が家と大図書館を行き来していたからな」
「はい! 次はテメノス様が得た情報です!」とミルフィーユ君が元気に挙手する。
「話してみろ」
「ええ。私は赤い帽子に緑のエプロンを着用している男から情報を。
町の東にある廃墟……オズバルドの家ですね。
当時を思い出していましたよ。本当に大きな火事だったと。衛兵隊が数日で調査を切り上げ、今も不審に思っていましたよ。調査に半月はかかりそうな事件なのに、と。
……けっこう皆さん憶えているんですよ、5年前の事を」
「私はフィール一家の話を。病気で亡くなったと、女性が残念そうに話していたわ。『衛兵隊の誰かが言ってた』と。
他に『奥さんと子どもさん達、バタバタと引っ越していったのよねぇ』と話していたわ」
「事件を揉み消しましたね、衛兵隊」
「あとは、酒場の外で旅人が困っていたわね。衛兵隊の集団が酒を飲んでいるから中に入りづらいって」
「職務放棄を……とんでもない集まりですね……」
「しかし、衛兵隊基地へ行くにはまたとない好機だ。そこが一番きな臭い」
オズバルドの眼光が鋭くなる。
ミルフィーユ君はトコトコ歩き、無言でオズバルドに抱きついた。
彼の表情がやわらかくなる。
この一連の流れを見ると、オズバルドにはミルフィーユ君が必要だと思います。
「当時、調査を指揮したのは衛兵隊長ステンバール。彼は、事件前にハーヴェイと密会していたらしい。現在も衛兵隊基地にいる。
……探るべきはヤツだ」
「先生」
ソローネ君が小さく呼ぶ。
彼女の視線は町のある方向……クラリッサさんが歩いてきた。
私達は沈黙し、歩み寄る彼女を待つ。
「……助手か」
クラリッサさんはオズバルドを一心に見つめる。
「復讐を……されるおつもりなのですね」
オズバルドは沈黙した。
彼女はさらに続ける。
「先生、主人の名を憶えておいでですか?」
「イーサンのことか。無論、憶えている。彼の紹介で君は助手となった」
「主人は、死んだのです。あの事件の後に……」
ミルフィーユ君が怯えた顔をする。一番近くにいるオズバルドに反射的にしがみついた。
ソローネ君とキャスティの表情にも緊張が浮かんだ。
打ち明ける彼女はひたすらに静かだった。
「港に打ち上げられ、自死と断じられました。
命を断つ理由などないのに、衛兵隊は調査をせず……。
主人は……事件の前、何かを知ったようでしたわ」
「……助手よ。君は事件を調査しないのか?」
「“無からは何も成されない”……貴方様の言葉です。復讐とは……“無”ですわ。オズバルド様」
クラリッサさんの瞳は生命力に溢れている。光の道を歩いている者の目だ。
オズバルドの影が濃くなったように感じた。
「それでも……俺は行かねばならない」
オズバルドはミルフィーユ君から離れ、歩き始める。
見送るクラリッサさんの眼差しを無視して、たったひとりで。
私達もすぐに、その背に続いた。
そして、次に乗り込んだのは衛兵隊基地だ。
この町で一番大きな屋敷で、通路には青い絨毯が敷かれている。
稽古の部屋もあり、休憩室もある。
通路にはたくさんの槍や剣が壁に立て掛けられている。
照明はきらびやかで、美術品もそこかしこにある。
「ねぇキャスティ、ここ……」
「ええ。隊長の趣味かしら」
「青いの、ふかふかしてますね」
「……無駄にお金を掛けすぎですよ。衛兵隊基地なのに」
照明や調度品、壁に設置された美術品……ここが本当に衛兵隊基地なのか分からなくなる内装だった。
隊長のステンバールがいるのは一番奥だろうと、オズバルドはひたすら進む。
扉の無い大部屋に目的の人物がいた。
火がついていない暖炉の前で、美術品の位置を変えている。
右手側には床に金貨が散らばり、左奥には青い宝箱が並び、金銀財宝が収まりきらなくて蓋が開けっ放しで……
「(……なんて趣味の悪い)」
ミルフィーユ君は『散らかってますね! お片付けしないと踏んじゃいますよ!』の顔をした。
男は金髪を後ろに結んでいる。赤いマントを左肩に掛け、立派な兵装に身を包んでいる。
「……何者だ?」
振り向き、数歩前に出る。
オズバルド値踏みする眼差しはいやらしく、衛兵とは思えない濁った瞳だ。
「その熊のような風貌……待てよ、憶えているぞ……。オズバルド・V・ヴァンシュタイン」
にたり、と気持ち悪く笑った。
オズバルドが大柄なせいか、ステンバールは後ろにいる私達には気付いていない。
「……いかにも」
オズバルドの声は落ち着いている。いつも通りだ。
「脱獄に失敗し、死んだはずだが……」
「ハーヴェイを捜している」
目元がピクリと震え、いやらしい笑みが消える。ステンバールはオズバルドから目をそらした。
「……何か知っているな?」
分かり易すぎる顔、沈黙する姿があまりにも面白くて、私はヒョコッと顔を出して「おやおや。知っているご様子ですねぇ」と言ってやった。
「あの事件の前……貴様はハーヴェイと密会した。それを証言した者がいる。レディ・クラリッサの夫だ。
だが、貴様は耳を塞ぎ、彼を亡き者とした。ハーヴェイに買収されたからだ」
ステンバールはニヤリとする。
「ククク……」と喉で笑い、オズバルドへ視線を戻す。
「……学者というのは小賢しいな。正解だ。俺がハーヴェイに手を貸した。事実とは、捻じ曲げられるものだ。力ある者の都合の良いように」
あざ笑う。とても卑しい笑みで、やれやれと肩をすくめた。
「……それなりの金が要るがな」
私の後ろでミルフィーユ君がマントを握る。
グイーッと力を込めて。コレ、怒ってますね……。
ステンバールは宝箱に歩み寄り、ひとつの金塊を取り上げた。
「俺は金が好きだ。捻じ曲がらんからな。金の為ならなんでもするぞ。ここにあるものも、全て金で手に入れた」
オズバルドは呆れてため息をこぼす。
その気持ち分かります。時間の無駄遣い極まりない。くだらない話を聞きにきたんじゃないんです。
オズバルドは部屋の中心に進み、ステンバールと対峙する。
彼も私も、早く終わらせたくて同時に構えた。
「ハーヴェイの居場所を言え、時間を節約したい」
「……さて、知らんな。そして、貴様を帰しもしない」
「テメノス様! 下の方からダカダカ走る音が近づいてきます!」
「先生やっちまいな!! 来る奴らは私達が何とかする!!」
ステンバールは剣立てに並べているハルバードを握る。
片手で風を切るように振り、構えた。
「貴様は知り過ぎた。俺にとって、都合の悪い存在だ」
「なるほど……そうだろう」
「オズバルド・V・ヴァンシュタイン、悲劇の学者よ……。貴様もここで捻じ曲がってもらおうか……!!」
ステンバールと対峙するのはオズバルドと私、後ろにミルフィーユ君。
「“聖なる盾”よ!!」
「演算は終わった!」
「あ! すっごく美味しそうな元気になるザクロありました! オズバルドさんお口開けてください!!」
ソローネ君とキャスティがバッと通路に飛び出し、増援に駆け付ける衛兵隊連中を迎撃する。
「……遅いね、動きが。2人やったよ」
「私は夢呼びの花と衰弱の花と拡散剤を……! 悪い子達にはこうよ!!」
こちらは3人だ。ステンバールは増援無しで懸命に戦う。
オズバルドの大雷撃魔法、私は痺れて動けない奴にマジックスティールロッドを何撃も叩き込み、追い討ちで大雷撃魔法、さらに光明魔法を数回発動すれば、ステンバールはハルバードをガランと落として膝をついた。
カナルブラインの水源で戦った“病原”のほうが手強かったのでは?と思った。
「わぁい! テメノス様とオズバルドさんの大勝利です!!」
「ミルフィーユよ……果物を口に押し込むのは止めなさい」
「ごめんなさい……」
キャスティとソローネ君も戻って来る。
立てずに這いつくばるステンバールに、ソローネ君が『どうするのコイツ?』の目をオズバルドに向ける。
「た、頼む……許してくれ……。ど、どうか命だけは……」
私は歩み寄り、ステンバールの頭を断罪の杖でコツンと小突いた。
「我々が聞きたいのはあなたの命乞いではないんですよぉ」
「さっさとハーヴェイの情報を吐きな」
ソローネ君は今にもステンバールを踏みそうな顔付きだ。
「貴様の命など要らん」
オズバルドの手からボッと炎が現れる。
憎しみの炎はパチパチと音を立て、火の粉をまばゆく散らす。
「欲しいのはハーヴェイの命だ。答えろ、ヤツはどこにいる?」
震え上がるステンバールはズリズリと後ずさった。
「お、俺は……本当に知らないんだ。ほ、本当だ! 信じてくれっ!!」
「無駄口はいらん。ヤツは何か言っていなかったか?」
オズバルドの炎がさらにボウッ!!と燃え盛る。
「そ、そそ、そうだ! 1つ思い出したことがある! お前から奪った研究成果は、モンテワイズへと移送した……! すべてハーヴェイの指示でだ!」
モンテワイズは、ヴェリテが学んでいた大図書館のある街だ。
オズバルドが右手を払う。
部屋中に散乱する金銀財宝に大きな炎が広がった。
「お、お、俺の金がああっ……!!」
「わぁ! とてもきれいな炎ですね!」
燃え盛る炎にミルフィーユ君は満面の笑みでニコッとする。
大丈夫でしょうか、この子……と少し心配になった。
火を消そうとバタバタ動くステンバールを放置し、オズバルドは部屋を出る。
「行くぞ」
「この炎は何分後に消えるのかしら……。他の建物に燃え移ったら大迷惑よ」
「演算した火炎魔法は延焼しない。汚い手段で得た財産が焼け尽きた後に鎮火される」
「……へぇ。さすがだね、先生」
「行きますよ、ミルフィーユ君」
「はいテメノス様! ……あ! ちょっと待ってください!」
ミルフィーユ君は炎が舞い上がる部屋に向けて、
「ステンバールさん!! 今までやった悪い事ぜんぶ街の人に話すんですよッ!! なんにも言わなかったらテメノス様が後日いっぱい断罪しますからね!!!!」
強く怒鳴り、私のもとに戻って来た。
「断罪お願いしますね、テメノス様!」と凛々しい顔付きで頼んできた。
「はい。任せてくださいね!」と私は笑顔で頷いた。
通路で寝転がる兵隊連中に、キャスティは夢呼びの花と拡散剤を混ぜたものを広く散布する。
私達は追われることなく外に出た。
「ハーヴェイはモンテワイズにいると思いますか?」
「あの慎重な男が、簡単に足取りを残すとは考えにくい……」
「来てほしいのかもね、先生に。ステンバールにわざわざ教えて」
「ああ。おそらくハーヴェイは、俺がここに来ると知っていた」
進む先を見据えるオズバルドの目付きが鋭くなる。復讐の炎が浮かび上がったように見えた
「……ヤツめ、これを伝えるためにステンバールを生かしておいたな。俺が脱獄し、ここへ来るまで全てを予見して……」
「誘っていますね、ハーヴェイは」
「罠かしら……」
「行くの? 先生」
「ああ。罠に掛かってやろう」
「オズバルドさん、みんなで罠をぶっ壊しましょう。私、頑張ります」
そして全員で相談した。今日の宿泊場所は“サイの街”の宿屋にしようと。
火炎魔法と大雷撃魔法をたっぷり味わったステンバールが逆恨みで宿屋に襲撃をかけるとは思えないが、念の為だ。
「オズバルド。クラリッサさんにご挨拶は?」
「……全てが終わった後だ」
キャスティも、ソローネ君も、ミルフィーユ君も、物言いたそうな顔をして、だけど何もオズバルドには言わなかった。
街の出入り口が見えてくる。
肩を落として立つクラリッサさんが待ち構えていた。彼女はオズバルドにすぐ気付く。
「先生……!」
走り寄って来る。話すしかありませんねぇ。
私達は少しだけ後ずさり、2人が落ち着いて話せるように離れた。
ミルフィーユ君は私のマントをギュッと掴んでいる。ちょっとだけ覗く姿は本当に幼子だ。
「行ってしまわれるのですね……」
「……ここでの目的は達した。助手よ、もう関わるな。俺はいずれ……重罪人となる」
クラリッサさんは力強く微笑み、首を振る。
やはり、光の道を歩いている瞳だ。
「わたくしは……貴方様の助手でございますから」
オズバルドに手を差し伸べる眼差しだ。
「主人は、自らの危機を悟っていました。死の前……わたくしに約束させたのです。
“私に何かあっても、誰も恨んではいけない”
“君は、君の人生を生きてくれ”……と」
大事なものを心に抱えている。彼女は胸に手を当て、さらに続けた。
「わたくしは、主人の想いを大切にしたい。
遺恨を忘れ、残りの時を研究に捧げたいのです」
「……不可解だ。死者との約束に、意味があるというのか」
「いいえ、意味などありません。これはただ……」
慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
「主人への……愛でございます」
私の後ろで「あい……」と呟く可愛い声が聞こえた。
「……オズバルド様。ご家族が墓地に眠っています。お顔を見せられては……」
「愛など……俺には、もう。
俺が行くべきはハーヴェイのもと、それだけだ」
絞り出すその声は、ただひたすらに重く、苦しげだ。
オズバルドは沈黙して、クラリッサさんを見ることなく、歩き始めた。
ソローネ君がオズバルドの隣を歩き、キャスティもそれを追いかける。
「あの、クラリッサさん」
子どもみたいな無垢な声で、ミルフィーユ君は……
「“あい”って何ですか?」
……私の後ろで、クラリッサさんに問いかけた。オズバルドは歩みを止める。
「あらあら、まぁまぁ」
クラリッサさんは微笑みをこぼした。
「……ミルフィーユさん、でしたか」
「はい。私の名前はミルフィーユです」
「あなたは……“愛”が何かを知りたいのね」
「とっても気になりました。本には……書いてなくて」
私は遠い目をする。『“好きです”が“愛してます”になりますよ! 阻止しなければ!!』と、それらしき内容が掲載されている本を片っ端から撤去した過去を思い出す。そして、今もその本は書庫に戻していない。
ああ〜……やってしまいました。
察知したソローネ君に鋭く睨まれた。本当に申し訳ありません。
「ミルフィーユさんは……『好きです』を最初に思った方はいますか?」
「! はい、います! テメノス様です!!」
クラリッサさんがチラリと私を見る。あぁ〜止めてください!!
「『大好きです』と初めて思った方は?」
ミルフィーユ君はバッと前に飛び出した。キラッキラな乙女の微笑みで。止めてください!!
「テメノス様ですっ!!」
「それはとても喜ばしいことです。“愛”が何かを、わたくしはあなたに話したい」
クラリッサさんは私からミルフィーユ君に視線を戻す。母親みたいな温かい眼差しだ。
「……けれど、わたくしが教えるべきではありません。あなたが『大好きです』と初めて思った方に、聞いてくださいね」
「はいっ!!!!!!」
特大の声で、満面の笑みで頷いた。
『勘弁してください!!!!!』と私は全身で思った。
その後のことを、私はあまりよく憶えてない。
コニングクリークを出発してから、ソローネ君とミルフィーユ君に引っ張られながら、ハッと我に返る。
「テメノス様、あの……」
「1週間後に」
キリッとした声で、私はミルフィーユ君の言葉を遮った。
「お教えします。説明しますから」
と、それだけを言った。
シュンとしながらオズバルドのところに行くミルフィーユ君の背を見送りながら、謝罪したい気持ちでいっぱいになる。
「今言ってあげな」と怖い顔のソローネ君に言われて、
「家族愛があるわよ。それを話してあげたらいいわ」とお姉さんの声でキャスティに言われた。
「……ちゃんと答えてあげたいんです。返答を間違えたら大変なことになる。『結婚したいです』になりますよ」
と言いつつも、1週間は長すぎるなと思った私は『3日後、いや2日後かな……』と思考をふらふらさせながら、考えを改めた。
パーティーチャット
【さっさと言えばいいのに(ソローネ・キャスティ・ミルフィーユ)】
「テメノス様、すごいです。私が聞く前にお返事しました……」
「(とてもしょんぼりしてる)……寂しいわね」
「聞こうとしたのに遮ってた。ダメダメだよ、アレは」
「ダメダメじゃないです。いっぱい考えて、頭も心もいっぱいいっぱいなんです、きっと」
「(さっさと言えばいいのに)……ソローネお姉さんと手を繋ぐ? ほら」
「……ぎゅっ」
「私も手を繋ぎたいけど……テメノスが心配ね。上の空で歩いてる」
「ちょっと避けてる。転びそうな所を全部」
「テメノス様すっごいです!」
「ふふふ。良い笑顔ね」