“マザーズ・ガーデン”と呼ばれる孤児院から帰った後、ウェルグローブの宿屋に泊まった。
夜11時、ソローネ君とミルフィーユ君は同じ布団でくっついて寝ている。
『ミルフィーユ君のそれは暖炉の温もりです。ソローネ君も私みたいに朝まで起きないでしょうね』と微笑ましく思った。
外したマントと脱いだ法衣を畳み、就寝の準備をする。
キャスティは白いキャップを外し、まとめていた髪をほどいて櫛でとかす。
寝台に座るオズバルドは……右手を火の根源、左手を氷の根源でパァッと輝かせる。
「前々から気になってましたけど……オズバルド、それ、何をやってるの?」
「“ご飯”をあげている」
とても気になることを言った。
私とキャスティはすぐにオズバルドのところに集まった。
「それは……火と氷の精霊石……?」
「キャスティは知りませんでしたね。これは、ミルフィーユ君がとある祭り会場で入手したでっかい岩の中にあったもので」
「でっかい……岩……?」
キャスティの気持ちがとてもよく分かります。
オズバルドがイチから説明し、彼女は全てを理解して微笑んだ。
「ミルフィーユに言われた……『ご飯をあげてくださいね』と」
「何を言ってるんでしょうね、あの子は……」
「……俺もそう思った。しかし、魚と鳥は今も元気に動き回っている。生きているなら食事は必要だ。それぞれの色に応じた根源を与えている」
「魚と鳥……どんな形をしているのかしら」
「手元にルーペがありませんね。キャスティにも見せたかった」
「……大きくなっているぞ、テメノス」
「え。なに言ってるんですか」
オズバルドが両手を差し出してくれて、私達はそれぞれ覗き込む。
ルーペが無くても肉眼で確認できる大きさに育っていた。
「これは……何ミリくらい大きくなってます……?」
「50ミリだ」
「生き生きと動いているわ……!」
魚は遊泳し、小鳥は飛び回り、まるでミルフィーユ君みたいに元気いっぱいだ。
「かわいい命ですねぇ」
「ああ」
深く考えない、ほわほわした声で言い合った。
オズバルドはハンカチを広げ、そっと置く。
「ふふふ。オズバルドの優しさで育ったのね」
「贈り物を蔑ろに扱いたくはない。ミルフィーユが悲しむからな」
私はかつての自分の過ち(そこらの荒野にポイッ!)を思い出す。
「すみません……」
「何を謝っている」
「……急に謝罪したくなりました」
「意味不明だ」
謝りたいと言えばもうひとつある。
虹が出る前、私がソローネ君と話している間のことだ。
オズバルドとキャスティから情報共有してもらいたい事がある。
「話が変わりますが、ミルフィーユ君が書いていた手紙、あれは鞄の中に?」
「ええ。言っていたわ。『明日手紙屋さんに配達をお願いします』と」
「内容はつぶさに確認した。書いていたぞ。サイの街での出来事を全て」
「その時に思ったことも丁寧に書き上げていたわ」
「まずいですね……」
私はすぐに枕元に置いてある鞄を掴み、オズバルド達のところに戻る。
“ミントさんへ”と書かれた青い封筒を出した。
「書き直してもらいます。これをミントさんにはそのまま渡せない」
「……そうね。その“ミントさん”は、命に関わる情報をテメノスに打ち明けなかった……」
「ミルフィーユに他言無用を約束させ、“付与”のことを隠し続けた。不審に思うのは至極当然だ。テメノスの本来の誕生日は?」
「分からないから話を濁しています。年齢を数える必要があるので、異端審問官になった日を誕生日に」
「特別な日ね」
「ミルフィーユ君にはこう言います。『帰った時にビックリさせたいので、ミントさんには全て内緒にしてください』」
「まぁ」
「すると、あの子はこう言うはずです。『分かりましたテメノス様、ミントさんをいっぱいビックリさせましょうね』」
「間違いなく言う。あの子なら」
「言うわね……ミルフィーユなら……」
「危ういんですよ、あの子は。優しい顔をした悪い大人でもコロッと信じてしまう。導いてあげないと」
「そうね。私達全員で」
「……保護者が4名、だな」
東大陸に行ったミルディア君を思い出す。
彼女なら……
『保護者? キャスティ達が? ありがとう! ねぇパルテティオ!! パルテティオもわたしの妹の保護者になって!』
『お、俺がァ!?』
『アグネアはどう? ミルフィーユの“お姉ちゃん”……する? 一緒に』
『え? いいの?』
『うん! わたしはアグネアと一緒にミルフィーユの“お姉ちゃん”をしたいな』
『あ……ありがとうミルディアさん!』
……何を考えてるんでしょうね、私は。
鞄から地図を出し、開く。
「まだトト・ハハ島にいますよ。パルテティオ達」
「一度下船した後、村に行き、その後ニューデルスタ港行きの船に乗り遅れたのか?」
「大丈夫かしら……何もトラブルが無ければいいわね……」
何をしているんでしょうかね?
──【時を遡り、パルテティオ達は】──
【もうひとつの10話 パルテティオ、ク兄妹から話を聞き、己の過去を思い出す】
乗船した船に赤い髪の子が他にもいた。
剣士のお兄さんの隣で、ディアを見つめて驚いている。
ディアは酒場を飛び出して甲板へ、引っ張らなきゃ海に落ちそうになるほど身を乗り出し、停泊所で見送るテメノス達に必死に伝えた。
ミルフィーユの返事を聞いたようで、ズシャッと甲板に倒れ込む。
感激に打ち震えていた。
「うわあん……ミルフィーユが言ってくれたぁん……『いつかどこかでみんなで集まろうね』ってぇえええん……」
「良かったな、ディア……」
「今にも落ちそうだったべ……」
視線を感じる。変わった赤い服を着た黒髪のお兄さんと男装している赤い髪の子だ。
ジーッと俺達を見つめている。
「悪いな、大騒ぎして。俺はパルテティオ・イエローウィル。旅の商人だ。酒場で飲み物ごちそうするから、お互い自分のことを話し合おうぜ」
まずは笑顔だ。相手が話しやすいように。
赤い髪の子とお兄さんの緊張を解せないようで、笑みのない顔でふたりは頷いた。
「あたしはアグネア・ブリスターニ。旅の踊子。よろしくね」
「行こうぜ、ディア」
うずくまって喜んでいるところに手を差し伸べると、すぐに握って立ち上がってくれた。
「良かったな、もうひとり見つかって」
「うん! 良かったぁ……!!」
ボロッと感涙をこぼす。ハンカチ片手にえぐえぐ泣く。
なんだか……慣れないな。オアーズラッシュにいる時は本当に辛い時しか泣かなかったのに……。
酒場に戻り、注文してから着席する。
「改めまして、わたしの名前はミルディア・オレンジハートよ。鑑定士をしてるの」
お兄さんの服は本当に見慣れない。商売で出会った人達の服とも、テメノス達の服とも違った。
腰に下げている武器は剣に見えるが、俺の知ってる剣より細い。奇妙な模様も刻まれている。
「俺はヒカリ・クという。ヒノエウマ地方から来た、旅の剣士だ」
「私はトモル・クです。お兄様と共に旅をしています」
「ご兄妹だったのぉ!!!!??」
ディアが大興奮で叫んだ。アグネアは驚きつつも微笑んでいる。
顔立ちが違うから義理の兄妹だな。詳しく知りたくなった。
「ふたりの話を聞いてもいいか?」
「はい、もちろんです」
妹さんが上品に微笑む。笑い方がディアともミルフィーユとも違う。穏やかに淡く光る月みたいだ。
「赤ん坊の私を、お兄様が拾ってくれました」
「俺がまだ剣も握れぬ幼い身だった15年前、吹き荒れる風で視界が悪い夜、同胞が眠る墓所が赤くまばゆく輝いたんだ。一瞬だが、とても大きな何かを感じて……世話役の者に言っても信じてもらえなくて、ひとりで墓所に行ったんだ」
15年前なら……お兄さんは何歳だ?
俺と歳が近い気がする。6、7歳くらいの出来事か?
「吹き荒れる風に押されながら、一歩ずつ。この目で確かめなければと、その心だけで。墓所に続く坂道のあたりで赤子の泣き声が聞こえて、ひたすらに駆け上がったんだ。おくるみに包まれた小さな命が力強く泣いていたんだ」
お兄さんと妹さんがお互い見つめ合い、ふわりと笑い合う。
まるで血の繋がった家族みたいに。とても強い絆を感じた。
お兄さんはまた俺達に視線を戻す。顔付きが変わる。笑わねぇお兄さんになっちまった。
「……声を掛けたら泣き止んでくれた。小さな手を握ったら笑ってくれた。この命尽きるまで守りたいと、あの日の俺は心に誓ったんだ」
「そして私は、私を救ってくださったお兄様に、生涯寄り添いたいと思いました」
妹さんは聞いていて照れくさくなることを言い、お兄さんに熱い眼差しを向ける。
色白の頬がやわらかく染まった。
「愛してます、お兄様」
「ありがとう。俺もトモルが大切だ」
「おおう……」
つい呻いてしまった。テメノスとミルフィーユには見せられない光景だ。
「素敵ぃ……」
「わたしの妹を……よろしくお願いします……!」
2人が感動に包まれている。
微笑んでいた妹さんが急に真顔になった。とても困った顔をディアに向けた。
「私の家族は父上とお兄様だけです。その……あなたと私は容姿が同じの……ただの他人なので、妹扱いしないで頂けますか……?」
ディアはガーーーーーーン!!の顔をして、全ての終わりを迎えたように青ざめて、「ゴメンナサイ……」と、かすかに呟いた。
『そりゃそうだろうなぁ』の気持ちで俺は頷いた。
「悪いな。ディアはちいさい頃、『もしも本当の家族がどこかにいるなら』でいっぱい俺に話していたんだ。自分と同じ顔した子にやっと会えて……嬉しくて、妹のように思うんだ。ビックリしたよな」
「はい……とても、驚きました……」
「喜びもひとしおだったことだろう。トモル、友人になってはどうだ?」
「友人なら……はい」
「あ……ありがとうございます……!!」
「ありがとさん!」
注文した飲み物が届き、全員で乾杯する。
「俺とディアはクロックバンクに行きてぇんだ」と目的地を伝えたら、「そなたはクロックバンクか……」とお兄さんが呟いた。
「俺とトモルはクレストランド地方の“モンテワイズ”だ」
大図書館のある街だ。その名を聞くと心が温かくなる。
「アグネアさんも行き先は同じですか?」
「ううん。あたしはニューデルスタ。花の都よ! あたしの歌を作るの。それで、世界中のみんなを幸せにするんだ!」
「おお〜それがアグネアの夢かぁ! 俺は、世界中の貧しい人を救いたいんだ!」
「わたしはねぇ〜ふふふ! なんか言い合いっこする空気になってる。わたしの夢はまた今度話すね! まずは皆がどこに行きたいか、それを地図で確認しよう」
ディアが魔法の地図を出した。折って半分にして、東大陸側を見せた。
お兄さんと妹さんが真剣な顔でそれを見つめた。
「お兄様、これは」
「地図、だな。ここまで緻密なものは初めて見た……」
ディアは地図を指差しながらモンテワイズとクロックバンクとニューデルスタの位置を説明する。
お兄さんと妹さんの表情がパッと明るくなった。笑顔は見せないけど、ディアを見る瞳には感謝が浮かんでいる。
地図を確認し、片付けた。
「理解しました。ありがとうございます、ミルディアさん」
「俺とトモルはかつての友を探して旅をしている。良ければ、共に行かないか?」
俺達は大賛成の声を上げた。
お兄さんがやっと俺達にも笑顔を見せてくれる。
「よろしくお願いします」
「感謝する。この剣……存分に振るおう」
「ありがとう、トモルちゃん、ヒカリくん!
やったね、ミルディアさん!」
「イェ〜イ!」
アグネアとディアは仲良しだ。手を合わせる音が軽やかに聞こえた。
「すっごい心強いなぁ。わたし、手が震えて武器を握れないの。ヒカリさん、助けてくれてありがとう」
「買いたいものがあったら言ってくれ。俺、誰とでも商談するから」
「あたしも。トモルちゃん、困ったことあったら相談してね」
飲み物を全員飲み終わり、トト・ハハ島に到着するまで自由時間だ。
ディアはひとりで席を立って「パルテティオはヒカリさんと話してね〜」と明るい声で行ってしまった。
長い付き合いだからよく分かる。トモルの『妹扱いしないで』が心にズガンと響いてヘコんでいる。
「ヒカリくん、トモルちゃん。ミルディアさんの妹でね、ミルフィーユちゃんって子がいるの。トモルちゃんとそっくりでね……」
アグネアが話してくれている。
「悪ぃな、ディアんところ行ってくる」と声を掛けて席を外した。
甲板に出る。少し風が強くて、帽子を押さえながらディアのところに行った。
思い詰めた顔で、ボンヤリした目で海を眺めている。声は掛けない。息を潜めながら近くにいく。同じように海を眺めながら、ディアが言いそうなことを考える。
『ねぇ、ティオ……わたし、嬉しくてはしゃいじゃって“お姉ちゃん”してたけどさ……ミルフィーユも、本当はトモルみたいなことを思ってたのかな』
んで、俺の返事は……『ミルフィーユは我慢して合わせる子じゃねぇ。大丈夫だ、ディア』だ!
「ねぇ、パルテティオ……」
「お、おう! なんだ!?」
深刻そうな重い声に、俺は明るい声で返事する。
サササッと脚を動かし、ディアにもっと近づいた。隣に並ぶ。
「考えたんだけど、分からないことがあって……」
「答えるぜ! 言ってくれ!」
ディアは苦しそうにまぶたを閉じる。
腹痛に襲われたみたいな顔をした。
「……“あいしてます”って何?」
「ん!!?? ぐ、ごっほ!!」
息が詰まってむせた。俺の心にズガンと響いちまった。
あ、愛してますが何かを聞かれちまった!!
「そそそそそそうだなぁ……」
声だけじゃなく全身がガタガタしてしまう。
ディアはぶつぶつと「初めて聞いたんだよね……なんの言葉だろう……トモルがヒカリさんに言うんだから家族相手に伝える言葉だよね……でもティオは親父さんに言ったことないしな……」とぶつぶつ言う。
ディアは知らない、俺は知ってる言葉だ。意味もちゃんと理解している。ディアに言えねぇ言葉だってのもよく分かっている。
困り果てた赤い瞳を俺に向けてきた。助けを求める顔だ。
ズガンと響いた心がうるさくドキドキしてくる。
「ティオは……知ってる……?」
いつもと違って弱々しい声だ。ここで答えなきゃ男じゃねぇ!!!!
「なんか分かんねぇけど!! 大好きをいっぱい集めて固めた言葉だと思うぜ!!」
自信満々の笑顔で俺は嘘をついた。
ディアがホッと笑う。好きな表情にまたドキドキしてきた。
「……あリがとう、ティオ」
「分からないこと……分かったか?」
「うん!」
太陽よりも明るく笑う。
俺は遠い目で海を眺めた。地平線に『大好きだ』を叫びたくなった。
「それじゃあわたしもティオに“あいしてる”を言いたいな!」
「んっグ!! ゲッホごっほ!!」
「……大丈夫? 水飲む?」
「エッホげっほ!!」
ディアからもらった水を飲む。
心臓がうるさくて顔面に熱が集まっちまう。
「えーっと……その言葉なんだがな、大事な約束ごとがあるんだ」
「……約束ごと?」
「ああ。それを言う時はな、ソリスティアで一番すげぇお宝を渡した後じゃないと言っちゃダメなんだ」
「一番すごいお宝!?」
赤い瞳がキラキラッと輝く。
ときめきと後悔で心臓がバクバクする。
「お宝は人によって違う。ソリスティア中を巡り、自分の一番を探すんだ。これだ!って思えるお宝を見つけて、それを相手に贈る。そして言う。あ、あ、あ……“愛してる”をな」
「今言ったのは良いの?」
「1回だけだ! 俺もディアも言ったからもう言っちゃならねーーーーーー!!!!」
「あははっ! 大きい声、気合入ってるね!! ティオは一番すごいお宝、なんだと思う?」
ウキウキとわくわくで頬がほんのり赤い。輝く瞳を俺だけに向けてくれている。
目の前がグルグルしながら、俺はオアーズラッシュで頑張ってる仲間達の言葉を思い出す。
ジョーには『兄貴……愛を伝える指輪はいつ贈るんすか?』って心配されながら言われたし、
ハリーには『結婚する時、すっげぇキレイなドレスも贈るんだぜ! ディア姐さんが喜ぶやつを!!』と鼻息荒く言われたし、
ニッキには『早く……気持ちを伝えてください……!!』って必死な顔でお願いされたし、
ネッドには『応援してますよ、兄貴!!』って励まされた。
「俺は……一番すごいお宝は、そうだなぁ……。すごいヤツだと、思うぜ……」
分からなかった。想像もつかなかった。
ディアはどうだ? 横目で見る。
すげぇ宝探しを想像しているのか、遠くを見つめる瞳が希望に溢れていた。
「わたしはとってもキレイな宝石だと思うの。赤色でね、世界に一つしかなくてね、値段が付けられない……一番すごい宝石……」
憧れている夢を話してくれている声だ! やっぱりそうだよな。
俺も赤い宝石が輝く指輪を贈りてぇんだ。ディアの髪と瞳みてぇな色の宝石を。そして“愛してる”を言いたい。
俺は思い出す。親父の真似して商売やってた、ちいさい俺を。
ちいさいディアと初めて出会った、特別な日を────
────【パルテティオ・イエローウィル 8歳】
オアーズラッシュがただの土地だった16年前、ちいさい俺はわくわくしていた。
なんもねえけど、たくさんの事ができる。
ちいさい俺は、“なにをしようか? なんでもできるぞ!”と楽しい気持ちでいっぱいだった。
『こんにちは!』
あの日、ちいさいディアが親父に話しかけてきた。
着ているワンピースは白色、足首まで伸びた長い髪はまぶしい赤色、瞳はきらきらした赤色で、話しかけてきたその子しか見えなかった。
“すっげーかわいい! おれとおなじしんちょうだ!”と感動した。
『……ん? 嬢ちゃん、どこの子だ?』
『あの、わたし、ミルディアです! 赤い宝石をかってください!!』
緊張した声で言って、出してきたのは火の精霊石だ。
店で売ったら630リーフのところ、親父は倍のリーフで買った。
ちいさい俺は飛び上がるほど驚いた。高く買い取るのは初めてだったから。
『へっへっへ、覚えとけよパルテティオ! 良いと思ったヤツは高く買い取るンだぜぇ!!』
“しょーにんって、かっけー!!”……なんて思って、ちいさい俺の目には、その時の親父がカッコよく見えた。
親父は買い取るだけでなく、鞄と財布までプレゼントした。『こっちはオマケだ』と言って。
ディアはプレゼントを大事そうにギュッと握り、にっこり笑った。
今でも思い出せる。胸の奥が熱くなって、嬉しいのに苦しくなって、“へんなかんじになった!”と思った。
『ありがとうございます! あ、あの……わたし、リーフがたくさんひつようで……! はたらかせてください!!』
突然のお願いに親父は固まり、なんとか言葉を絞り出し、ディアを離れた場所に座らせた。
そして俺と親父はロックのおやっさんのところに行った。
説明したら、腹を抱えて笑ったな、あの日のおやっさん。
『ハッハッハッハッ!! パルテティオと同い年の少女が働きたいと!』
『笑うんじゃねェロック。でけぇ夢を叶えたいから働くんだ。なんか仕事を与えてやろうぜ』
『パルテティオは……あの少女にやってもらいたい仕事は何かあるか?』
ちいさい俺は考えた。
“こどもはちからしごとをできない、あぶないところもダメだ、それならけいさん?”と。
親父とおやっさんの目がキラッと光り、そのまま全員でディアのところに行った。
質問して、答えてもらう。
計算も読み書きも出来なくて、ぜんぶ分からない顔をしていた。
俺は確か、自分の得意な事を言っていた。ディアはそれも分からないようで、迷子みたいな顔をして、助けたい気持ちになって手を握った。
“やりたいことはあるか?”みたいなことを聞いたら、『あの山にあるキラキラをほりたい』と答えた。
親父もおやっさんも大笑いして、俺は怒ってディアを銀鉱山に連れて行った。
ムカついた。本当にほんとうに腹が立った。
やりたいことを言ったのに、まじめに返事をしてくれなくて。
道具を管理するおっちゃんにお願いして、興味津々のお兄さんも来て、ディアの掘りたいところを掘る手伝いをした。
その頃の銀鉱山は、まだ誰も手をつけていなくて、見た目はただの大きな山だ。
『ここにね、キラキラがあるの』
言われた通りに掘る。銀を掘り当てた。
『あっち、とても大きいのがキラキラしてる』
言われた通りに掘る。特大の銀を掘り当てた。
『ここもね、キラキラなの』
ディアの言うところを掘ると必ず銀がある。みんなの笑顔が消えた。
『ここにはたくさんの銀が眠ってるんだ。掘ったところ全部出てくるだろ。たまたまだ』
お兄さんはそう言って、ディアの言葉を待たずに掘った。
『そっちはキラキラ無いよ。ずっとずっと無い』
ディアの言った通り、5メートル掘っても銀を発見できなかった。
おっちゃんが誰かを呼び、その誰かが親父とおやっさんを呼んだ。
周辺にいた大人達が全員駆けつけた。
『お嬢ちゃん! すっげぇキラキラ、この近くにあるか!?』
『上のほうかな。あっちにすごいキラキラしてる』
『下のほうはどうだ?』
『した……ずっと右の、ピカピカでキラキラッてしてる』
『誰か紙と書くモン持ってこい!!』
『あ! そっちのほう! ピカピカがある!!』
『うわぁあああちょっと待ってくれっ』
『野郎ども! 嬢ちゃんの言ってくれたところ全部掘るぞ!!』
大興奮で大騒ぎだった。
ピカピカでキラキラッとしているのは金で、ピカピカは“火の精霊石”だった。
3日分の銀を掘り当てることができて、みんなで大きな焚き火を囲んでごちそうを食べた。
『明日からミルディアちゃんと共に、掘って掘って掘りまくるぞォ〜!!』
『美しい赤髪の嬢ちゃんにかんぱーーーーい!!』
親父やロックさん、おっちゃん達に報酬という名のお小遣いをもらったディアは、俺の手をいきなり握ってリーフをチャリチャリ置いていく。
あの日の俺はすっげぇ驚いた。
“掘ったのはおっちゃん達で、ピカピカに気づいたのはミルディアなのに”って。
『ティオがね、わたしをつれて行ってくれたの。“やりたいこと”をさせてくれた』
……ああ、そうだ。ディアから言ってくれたんだ。俺のことをパルテティオじゃなくて、ティオと。
それで俺も、ミルディアのことをディアって呼ぶようになった。
とても近くで、すっげぇきれいな赤い目で俺を見つめてくる。
夜空に輝く星みたいにキラキラした瞳で、とびっきりの笑顔を見せてくれた。
『わたしをたすけてくれてありがとう、ティオ』
その笑顔と声に、顔がブワッと熱くなって、ドキドキした記憶がある。
翌日から、ちいさな女の子をガタイの良い大人達で囲むことになって、俺は“やべーことになった!”と幼心にけっこう焦った。
親父がいつもと違って怖いぐらい真剣だったから、あの日の俺はさらに縮み上がった。
『言われてすぐに、やみくもに掘るのはよくねぇな。鉱山内に大きな道をまず掘って、そこから区画を決めて別の道を掘って、通り道が完成したら嬢ちゃんにキラキラを確認してもらう』
ロックのおやっさんはいつもよりニコニコしていた。
『地図を作ろう。教えてくれた情報を全て記録するんだ』
『赤い髪の嬢ちゃんの眼は俺達とは違うなぁ。誰も気づかないお宝がキラキラして視えるんだな!』
誰かが言ったそれに、ディアはやる気でいっぱいになった。
『わたし、できることをたくさんやりたい!』
みんな喜びの声をわぁわぁ言って、楽しい空気でいっぱいになった。
でも、あの日の俺は寂しくなっちまったんだ。
できること、じゃなくて、やりたいこと、をやってほしかった。
鉱山内に大きな道を掘ることになり、俺とディアは台地に敷いた布の上に座った。
親父の家を建てる為にたくさんの職人さんが集まり、それを俺達は眺めていた。
“ディアはやりたいこと、ほかにあるか?”……そんなことを聞いた。
『かぞくを探したいの』
そして話してくれた。
たくさんリーフが欲しいのは、こっちの大陸とあっちの大陸で家族を探す為だと。
俺はなんて言ったっけな……“ディアのやりたいこと、おれ、てつだうよ!!”みたいなことを言ったはずだ。
あの日の俺は、とにかくディアを助けたかった。笑ってほしかったんだろうな。
ディアのことが好きだと自覚しないまま、ディアの力になりたかったんだ。
家が建つまではテントで寝た。
クロップデールから来てくれた職人のおっちゃんの奥さんがディアと一緒に寝てくれて、ちいさい俺は“ディアとねたい”なんて……今思えばとんでもないことを親父に言っていた。
『パルテティオ……。おまえは男の子であの子は女の子だ。ちいさくてもくっついて寝るのは絶対ダメだぜ』
それを思い出す度、恥ずかしさで転げ回りたくなるし、親父にすげぇ感謝する。誰にも話せねぇ思い出だ。
とにかく人手がいるから、親父やおやっさんや誰かが人を集めまくって、ディアの言ってくれたキラキラを躍起になって掘りまくった。
何も無かったところにたくさんの家が建ち、親父の家も完成した。
おやっさんの勧めでディアは俺達と住むことになって、ちいさい俺は喜んだ。
思い出したら恥ずかしくなるくらい大喜びだった。“ずっとキラキラしたまいにちがつづくんだ”なんて……思ったんだよなぁ……。