【パルテティオ・イエローウィル 9歳】
……1年後、だったか。ちいさいディアの言うピカピカが、銀じゃなくて黄色の石を指すようになっちまったのは。
掘ったら出てきたよく分からないヤツで、ちょっと力を入れたらボロボロに崩れて砂になる……別名・ボロ石に、親父達は頭を悩ませた。
すぐ割れて砂になって砂埃が発生するから、掘ってくれるおっちゃん達は特に嫌がった。
『ミルディア……そんなものを鞄の中に入れるな。砂まみれになる』
『まぁまぁ、そう言うんじゃねェロック。好きにやらせてやれ。黄色は……パルテティオの色だからなぁ……ヘヘッ』
大事なものを入れる鞄に、ディアはボロ石をたくさん入れた。
新たに発見した火の精霊石が砂に埋もれる……それを見て、なんだっけな……“そんなたくさん入れたらほかのモン入らないぞ!”って反対した気がする。
『これがたくさんほしいの!!』
初めてケンカをして、俺とディアがフン!!ってなって、ムキになって離れた。
おっちゃん達はボロ石を嫌がり、ディアの言ってくれた場所を掘らなくなり、ディアがすごく泣きそうな顔をして……あの日の俺も泣きたくなった。
次の日も次の日もフン!!は続き、俺は違うところに行くディアを見ながら“ごめんなさいしたいけどなんも言えねぇ!!”なんて思ったな。
ディアはキラキラの場所を言わなくなり、大人達のいるところに行くのを避けるようになった。
町の端で積まれたボロ石の山を何かの袋に入れる姿を目撃されるようになった。
『砂遊びしてるみたいだ。かわいいな』と、おやっさんはニヤニヤして、
『アレを……何かに使えたらいいんだがなぁ……』と、親父は困った顔で言った。
キラキラの場所が分からなくても銀はザクザク出るし、ディアには頼らなくなっていった。
その頃の……ディアがどんな顔をしていたか、俺は思い出せなかった。ずっと背中を向けていたからだ。
ディアは何してるかな?と大人達は前より気にしなくなって、そして、事件が起きた。
ディアの赤い髪がどこにも見えなくて、ディアがいないことに親父が最初に気付いた。
みんなで捜したけど、町のどこにもいなかった。
『銀鉱山に入ったのか?』
『んなワケねぇ! 入る時は大人と一緒だぜって俺ァ約束したんだ!! 絶対に入らねぇ!!』
『もしや……オアーズラッシュの外に出たのでは? もっと大きな輝きが視えて』
ロックのおやっさんの話に全員が震え上がった。女の子がたったひとりで、魔物が出る外に。
ちいさい俺は必死になって考えて“ひとりで行くもんか”と思って、“ディアならぜったいおれに言う。だからちがう。おとながディアをつれて行ったんだ!”って言って、そこでやっと皆気付いたんだ。
ディアが誘拐された、と。
銀を掘るどころじゃねぇ。町にいるヤツ全員でディアを捜した。
誘拐されて当然だ。キラキラが視えて、美しい赤髪で、すっげぇかわいい女の子なんだから。
みんなすごい後悔した。一緒にいてやれば良かった、って。
外に出て捜して、魔物が出てきたらおっちゃん達が戦った。
“俺もあんなにふうにたたかいたい!!”って、ハッキリと思い出せる。
夜になっても見つからなくて、みんなで帰らなきゃいけなくなって……“おやじ!! キラキラがある!!”って俺が一番に気が付いた。
光る砂が、ずっとずっと遠くに続いていた。おっちゃんがすぐに調べた。
『この光るヤツ……この手触りはアレだ、ボロ石だ』
『野郎ども!! この光ってるやつを辿った先にミルディアがいる!! 助けに行くぞ!!』
『おおおおおおおお!!!!!!』
総勢30人で光る砂を辿り、3時間走ったところに、誘拐した悪いヤツらとディアがいた。
親父達がボコボコにした。二度と悪さできないように。
ディアのところには俺が行った。ひどいことはされなかったみたいで、ディアは少しも泣かなかった。
悪いヤツらはおっちゃん達がどこかに連れて行った。
親父がディアをヒョイと抱っこして、それで全員で帰ったんだ。
この先、みんなでディアを絶対に見守ろう、って……そう約束した。
安心できる家に帰って、親父がたくさん話しかけて、ディアはボロボロッと泣いた。
俺は“うわあああああ!!”って思ったし、“わああああああああ!!”ってなったし、“うううううううう!!”って思った。
ディアが話してくれて、俺と親父は知ったんだ。
悪い大人に騙されて遠くに連れ去られた事よりも、キラキラだと思っている物をおっちゃん達がゴミ扱いした……そっちのほうが心が痛くて辛かった、ってディアが言ってくれた。
“ごめん!! ごめんな!!”って……俺は確か、そう言って謝った。
親父はすぐに家を飛び出して、ディアのキラキラを大事にしなかったヤツを全員連れて戻ってきた。
親父も謝ったし、ロックのおやっさんも頭を下げて、集まった全員で真剣に謝罪した。
大きくなった今だから思う。ちいさな子どもにとってあれは……とても異様な光景だった。怖かったはずだ。
『あっはははははは!!』
ディアは苦しそうな顔で笑った。
『ふふふ、あははははっ!! あの黄色の石、わたしだけすごいって気づいたんだ!! すごいなぁ、わたしってすごい!! あっははは!!』
泣きそうな顔で大笑いして言ったんだ。
今だから分かる。あの時のディアは相当無理していた。
でも、親父もおっちゃん達もそこまでは気付かない。みんなホッと笑顔になって、安心した表情で帰っていった。
おやっさんも嬉しそうにニコニコした。
『そうだ。ミルディアはすごい。君だけが……砂になってしまうあの石の価値に気付いた』
俺も誇らしくなって“ディアはいちばんすごいぜ!!”って言った。
今思えば、その日からだ。ディアは嬉しい時と悲しい時、両方大笑いするようになった。
嬉しい時は本当に嬉しそうで……悲しい時は苦しそうな顔で大笑いする。
でも声はすごく明るくて、とても楽しそうで、だからおっちゃん達は気づかなかった。
“いやだな”とちいさい俺は思い、今の俺も“笑わないでくれ”と思っている。どっちの俺も思うだけだ。あいつには伝えていない。
そしてその日から、ディアは何があっても、みんなの前で泣かなくなった。
ボロ石じゃなくて、黄色石とみんなが呼ぶようになって、なんで光ったんだ?の調査が始まった。
ロックのおやっさんが『光る条件があるはずだ……分かったらすごいことになるぞ』と言った。
調べたけど分からないし、ディア自身も分からなかった。
結局、判明したのはずっとずっと後で、俺とディアが大きくなってから、その石は蛍光輝石という名でソリスティア鉱物図鑑に登録されることになる。
ちいさい俺は気付いたはずなんだよなぁ……ディアがお気に入りの鞄に黄色石を詰めていた時に“赤いせいれいせきが見えなくなっちまう!”って思ったんだから。
黄色石は精霊石と長時間くっつけておくと光を放つようになるんだ。
……んで、過去をまた思い出す。
9歳のあの日、おやっさんがディアのところに色んな物を持ってくるようになった。
『ミルディア……どちらがキラキラしてるか教えてほしいんだが……いいか?』
『当てっこゲームか!? 俺ぁこの宝石箱だ!』
『ふっふっふ、パルテティオはどっちだと思う?』
俺も覗き込んだ。おやっさんがテーブルに置いたのは本と小さな宝石箱で、親父は宝石箱を指差した。
宝石がついた赤い箱で、ディアが『きれい……』と呟きながら、ぽやぽやしたかわいい顔をした。
ちいさい俺は本だと思った。勉強できるから。
『……どっちもね、キラキラしてるの。ロックさん、この宝石箱、開けてもいい?』
『ああ。好きに触ってくれ』
『中になんか入ってんのか?』
『空っぽだ』
『パカッて開けたここね……デコボコしてる花の……これ、なんですか?』
『レリーフ……彫刻だ。平らな木を削って絵にするんだ』
『この花がキラキラしてるの』
『……へぇ。表面じゃなくて裏側を』
『そっちの本はね、表の小さな文字がキラキラしてる』
『ん〜? この小さいのは著者か?』
『無名の作家らしい。学者仲間に声を掛けて調べたほうがいいな』
そしておやっさんは宝石箱をディアに渡した。
『助けてくれてありがとう。これは君にプレゼントだ』
『えっ!!』
ディアは驚いて、そして笑った。
かわいいのがもっとかわいくなって、花がフワッと咲いたように見えて、良いことが100個一気に飛び込んできたような気持ちになった。
『あリがとう! ロックさん!!』
ちいさい俺はドキドキしながら思った。
“ぷれぜんと?をしたらディアがいっぱいえがおになる!!”と。
その日から俺は毎日、ディアにプレゼントするようになった。
ディアはいつもいっぱい笑ってくれて、
『かわいい! ティオ、ありがとうっ!!』
ちいさい俺はドキドキしながら笑って、顔がすごく熱くなって、大きく喜んで熱を出した。
【パルテティオ・イエローウィル 10歳】
『パル坊はディア嬢ちゃんのことが好きなのか?』
酒場でジュースをごちそうしてくれた鉱員のおっちゃんが、ナイショ話する声で聞いてきた。
あの日の俺はまだ子どもなのに、楽しいからって理由でその話題を振ってきたんだよなぁ……。
“すきってなんだ?”って俺は難しい気持ちになった。
『好きっちゅうのはアレだよアレ〜』
鉱員のおっちゃんが分かりやすく説明してくれて、俺はコロッと“おれ、ディアが好きだ!!”と思って走って行こうとしたんだよな……。“おれは言うぜ!!”そんな気持ちになって。
『待て待て待て待て、男はそんなすぐに気持ちを伝えちゃダメだぜ〜』
おっちゃん……長く楽しみたかったんだろうな……事あるごとに俺の邪魔をしていた記憶がある。
親父にナイショで、おっちゃんと兄ちゃん達が子ども向けに濁した恋愛話を聞かせてきた。俺の反応を酒の肴にして……最悪じゃねぇか……。
おかげでちいさい俺は……年齢の割にアレコレ知っちまって、ちいさいディアの前でドギマギして……。
どこから聞き付けたのか、親父がおっちゃん達にでっかい雷を落としていた。
俺はまだ子どもなのに、好きから大好き、大好きから愛してる、になることを知った。
その日、いつもならすぐ寝る俺は、ドキドキが止まらなくて眠れなかった。
親父はグースカ寝て、水を飲んでまたゴロンと横になったけど、目がギンギンして、まぶたを少しも閉じることが出来なかった。
この日だな、ディアが1日に2時間しか眠れないのを知ったのは。
ディアの秘密を知って、どこまでも行けると思っていた軽やかな心がズドン!と重くなったのを覚えている。
この時の俺は────なんでずっとだまってたんだ? さびしい夜をずっとひとりで起きてたのかよ!────っていう強い気持ちで、思わずディアに詰め寄りそうになった。
んで、言っちゃならねぇ……って思い直して、ちゃんと考えて、ディアに言ったんだ。
その時に自分が何を言ったかはハッキリと思い出せる。
『おれがディアのお月さまになる!!』
空に浮かぶ月みたいに、ディアの夜を見守りたかった。
『よるにふたりでやりたいことを話そう!!』
ディアはぼろぼろ泣いた。声も上げずに涙をこぼした。
言ったことを後悔した俺に、ディアは泣きながら笑ってくれた。
『ありがとう、ティオ』
その日、ちいさい俺は知ったんだ。ひとは嬉しい時でも泣くんだと。
好き、じゃなくて、大好き、になった。
【パルテティオ・イエローウィル 15歳】
この頃からだな。身長に差が出始めたのは。
俺の背だけぐんぐん伸びて、声変わりもして男になった。
ディアは美しくなって、女の子じゃなくなった。
俺はディアが大好きで、ディアは俺が大好きで、同じようで、お互いに向ける気持ちは全然違う。
さすがに鉱員のおっちゃん達は酒の肴にして楽しんだりはしない。ただひたすらに応援する生暖かい眼差しを向けてくるだけだ。
空がきれいで風が吹かない日、ディアの世話をしてくれていたプラム姉ちゃんと鉱員のレザン兄ちゃんが結婚した。
レザン兄ちゃんは特別な白い服を着て、プラム姉ちゃんは白いドレスを着て、町のみんなで盛大に祝福した。
ディアはもちろん目を輝かせた。憧れる眼差しで姉ちゃんを見つめた。
宝物みたいなすげぇドレスだったから。
『けっこん?ってすごいね!』
結婚が何かを分かっていない声だった。
兄ちゃんと姉ちゃんが誓いの口付けをする時、俺はとっさにディアの両目を塞いだ。
『どうしたの? なにも見えないんだけど』
『いま目を隠してるのはダレデショーカ!?』
『へへへ、簡単。この手はパルテティオの手だよ』
『へへへへへ、もうちっとこのままでいいか?』
『……どうして?』
『どうしてもだ……!』
みんなが俺を見て、全てを察した目をして、恥ずかしさで自分の頭を打ちつけたくなった。
俺はこの祝いの日を絶対に忘れない。
後日、商人仲間からつつかれた。深い仲になってはどうかとお節介を言われて、想像がつかなくて全てを払い除けた。
【パルテティオ・イエローウィル 16歳】
……8年前だな、俺が16歳の時、ロックのおやっさんの話を、俺とディアは聞いたんだ。
『東は進んでいるぞ。有望な商品に満ちているし、誰も気付いていない輝きを秘めたお宝が数え切れないほどある』
そして聞かされた蒸気機関の話には、俺もディアも心を掴まれた。
ドキドキしてワクワクして、何ができるのかを知りたくなった。
『パルテティオ、ミルディア、君達が欲しい。パルテティオには商才、行動力、人望があり、ミルディアには信望、輝きを見つける瞳、思いきりの良さがある。君達ほどの逸材は、そういない。世界中を見てきた私が保証する』
おやっさんの称賛は素直に嬉しかった。
誰にも言われなかった言葉を贈ってくれて、まっすぐな言葉で認めてくれた。
ディアも同じように思ったはずだ。
おやっさんはいつでも何歩か先を見ている。俺の憧れの商人だった。
“すげぇな”って思ったし、“おやっさんならこういう時は”って思い出して参考にする時もあった。尊敬していたんだ。
もっと他に言葉があったはずなのに、おやっさんは、一番言っちゃいけないことをディアと俺に言った。
『この町を捨て、新たな商売を共に始めないか? 我らで、巨万の富を────』
『わたしはこの町が好きなの! 絶対行かない!! じゃあねロックさんあリがとうございました!! お世話になりましたお元気で!! “聖火の加護がありますように”!!』
以前この町に来たカナルブラインの神官さんの言葉をディアが言った。
バタバタと家ん中に入っていった。
『俺も行かねー。俺はまだ、この町の奴らと商売がしてぇんだ。わりー……おやっさん』
『パルテティオ。君の眼は、そうは言っていないぞ。外の世界を見つめている。まだ見ぬ商機に、心躍らせて』
おやっさんは隠していることを、奥の奥まで見抜く眼を持っている。
そこが本当に“すごい”と思ったんだ。
『惜しいな、実に惜しい。君の才能が……この町と共に廃れていくとはな』
おやっさんとは長い付き合いだった。なのに知らなかったんだ。
冷たい言葉を、冷たい声で言う人だとは……思いもしなかったんだ。
『……さらばだ、パルテティオ』
おやっさんが去った後だ。
ミルディアが2階の窓からバッと飛び降り、豪快に着地したのは。
『なッなにやってんだディアーーーー!?』
『ずっと聞いてた! 窓ちょっと開けて!!』
あの高さから飛び降りたディアには本当に肝が冷えた。
赤い瞳は怒りとやる気に溢れて燃え盛り、今にもそこら中を駆け回りたそうに足踏みをする。
『わたしは絶対に!! ぜぇぇえええええったいに!! この町を今よりもすっごい町にする!! するーーーーーーーー!!!!』
家ン中で親父が『俺だってやってやるぜ!!!!』と特大の声で返事をした。
離れたところから『兄貴ーーーー!! 俺も手伝うからなああああああ!!』『姐さああああああん!! 僕も頑張ります!!』と声援が飛んできた。
町のあちこちから声が聞こえた。誰かの声を聞き、また誰かが声を上げる。
姿が見えないのに、全員の顔を想像できた。
『一緒に頑張ろうね、ティオ!!』
『へへ……おう!!』
ディアの笑顔を見ると嬉しくなる。
ディアの元気な声を聞くと俺も元気になる。
暗い空が晴れていくように、心が明るくなっちまう。
ディアは俺の太陽だ────と、あの日の俺は誇らしく思ったんだ。
……頑張ってもどうにも出来ねぇ事があるって、16歳の俺は知らなかった。