8人の旅人と、赤い髪の娘たち   作:遠野ハネ

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テメノス達がミルフィーユの目覚めを待っている午前中、パルテティオ達は……



【もうひとつの12話② ケノモの村】「昨日の魔物はその腕輪の中か?」 「うん。眠ってる。師匠がね、けして外には出すなって」 「それは“災い”だ。解き放てば昨晩のように暴れ、多くの者を傷付ける」

 ケノモの村に朝日が昇る。

 

 師匠さんのお気に入りの場所で朝食だ。

 ヒカリもトモルもアグネアもぐっすり寝た後のスッキリした顔で、ディアも元気いっぱいに干し肉を食べる。

 オーシュットは師匠さんの隣で大きな口を開けて干し肉をモグモグしてる。マヒナは毛繕い中だ。

 

「ねぇねぇ聞いて〜! わたしね、生まれて初めてたくさん寝たかもしれない!!」

「おお……まことか」

「深夜1時に起きた後、ですよね」

「うん!! そこから夜明けまで!」

「なにがあったの?」

「ウラウラね、師匠にくっついてたよ」

「うらうら……?」

 

 首を傾げる俺に、ディアが「わたしの名前、呼びづらいみたい。髪と瞳の色で“ウラウラ”って」と、とびっきりの笑顔で教えてくれた。

 

「師匠さんがよく分かんない言葉でずっと話してくれてね〜温かくてボーッとしてたらいつの間にか朝になってた〜!」

「やったねミルディアさん! おめでとう!!」

「うん! 今日はいつもよりいっぱい頑張れるよ!」

「……そうか。それはとても喜ばしいことだ。トモルは……」

「お兄様の心音を聞き続けていたらいつの間にか朝になってました」

「トモルは温かいからな。俺もよく眠れた」

「師匠はなんの言葉で話してたの?」

「オーシュットも知らねーのか」

 

 師匠さんがむにゃむにゃと何かを言う。みんな黙り込み、師匠さんに注目する。低い声でなんか喋ってるけどサッパリ分からねぇ。

 アグネアは難しい顔で、ヒカリは眉間にシワを寄せまくり、トモルは真剣に聞く顔で、ディアは子守唄を聞いてるみたいな安らかな顔をした。

 

「……古の言葉だ。私も意味は知らない」

「し……知らないまま言ってたのか……!!」

「師匠てきとう言ってたの?」

「言われたままを憶えていた」

 

 まじめに聞いていた全員が脱力した。

 干し肉を食べ終わり、水を飲む。ごちそうさまの後で師匠さんが話してくれた。

 

「はるか昔だ。海を泳ぎ、ザバァッと上陸した者がいた。赤い髪と赤い瞳の娘だ。一糸纏わぬ姿で、知らぬ言葉で話しかけてきて……」

「髪の長さは私と同じですか?」

「そうだ。昨晩、私を癒やしたおぬしを見て、帰ってきてくれたのかと思ってしまった」

 

 裸で海を泳ぐ……想像する前に、頭を強めに小突いて考えないようにした。

 

「食べ物と美しいものを出してきた。求めていないのに、たくさんのものを与えてくれた。

夜は共に横たわり、泣いてる時は慰めたりもした。とても温かな娘だった。焚き火のそばにいると思ってしまうほどに」

 

 師匠さんが人間の言葉を話すようになったのは20年前、赤い髪の娘が現れたのはそれよりずっとずっと前。

 気が遠くなるほど昔の話を師匠さんは楽しそうに語ってくれる。

 師匠さんは鳴き声で、赤い髪の娘は古の言葉で、通じなくても声を掛け合い、寄り添って暮らしていた。共に生きていた。

 師匠さんは溜め息をこぼす。

 

「赤い髪の娘は聖火に祈りを捧げ、翼を得た。引き抜いた羽根と装飾品を渡し、羽ばたき去っていった」

 

 しんみりした寂しい空気でいっぱいになる。

 ディアが座ったまま師匠さんのところに近寄り、両手で撫でた。

 

「赤い髪の娘の最後の贈り物……それが、オーシュットの両腕の装飾品だ」

「そうか……これが師匠の宝物だったのか……」

 

 オーシュットの左の腕輪が光る。ふわりと現れたのは赤い羽根だ。

 すごく馴染みのある色に目が釘付けになった。

 

「トモルちゃんとミルディアさんの髪と同じ色!」

「オーちゃん、見てもいい?」

「うん!」

 

 みんなで確認する。

 宝石みたいに輝き、艶々している。俺の肘から指先までの長さだ。

『ソリスティアで一番すげぇお宝はコレか!?』と思うくらい見事な羽根だった。

 

「師匠さん、この羽根は……」

「大不死鳥の羽根だと私は考えている」

 

「これをカザンに見せたらひっくり返るぞ……!」とヒカリはブツブツ言って、クンクンと匂いを嗅ぐトモルはくしゃみした。

 

「見せてくれてありがとう、オーシュット。すごく大事な物ね……無くしたら大変」

「うん! しまっておくね〜」

 

 左の腕輪が光り、輝く羽根がパッと消えた。

 もう少しだけ見たかった。ヒカリも腕輪を凝視する。

 

「……オーシュットよ、気になったのだが……昨日の魔物はその腕輪の中か?」

「うん。眠ってる。師匠がね、けして外には出すなって」

「それは“災い”だ。解き放てば昨晩のように暴れ、多くの者を傷付ける」

「出さなかったら安全かぁ。オーシュットは『泣いてる』って言ってただろ。魔物は何か話してたか?」

 

 手帳とペンを用意する。これもテメノス達に報告だ。

 

「えっと、うーんと……」

 

 オーシュットは難しい顔で思い出し、口を開く。

 

「うーん……『もう……を信じ……られない……。この……世に……あっては……なら……ない……』だったかな」

「ありがとさん!」

 

 言ってくれた言葉をそのまま書き残すが、よく分からねぇ。テメノスを逆に困らせることになりそうだな……。

 

「……オーシュット。あの魔物は始まりに過ぎない。この島に……さらなる災いが近づいている……」

 

 師匠さんの声に肩がズシリと重くなる。寒気がする風が吹いた。

 

「……“緋月の夜”だ」

「ひげつの……」

「400年に一度、月が緋色となる夜が訪れ、厄災が訪れると……島に伝えられてきた。

ついて来い。おまえに見せたいものがある。旅人達も共に来ていい」

 

 師匠さんがスッと立つ。

 四足歩行で進み、俺達はドキドキしながら続いた。

 ケノモの村を抜け、でっけー木や濃い色の葉っぱが密集した道を行く。師匠さんは“島の主”と呼ばれるだけあって、魔物が一切出てこなかった。

 隠された道を進み、青い石が組み込まれた石畳の洞窟に入る。上はがら空きだ。日の光が降り注ぐ。

 一番奥で石の壁が広がっていた。

 

「アグネア……何かの絵が描いてるよ……」

「すごいね、ミルディアさん……」

「壁画か……俺の住んでいた街の近くの洞窟にもあったな」

「描かれてるものが全然違いますね」

 

 左半分には赤いモヤモヤした特大の何かが描かれ、右半分にはデカいのとデカいのとデカいのが描かれている。戦ってるように見えた。

 

「師匠……これって……」

「その昔、3体の伝説の魔物たち、あり。守護者テラ、守護者カタルアクタ、守護者グラチェス。魔物たちは永く島を護ったが、かの地の守護者となるため、去る。再びその力求めし時、魔物たちを島へ集わすべし。災い来る“緋月の夜”までに……」

「ひげつの……よる……?」

「遠い遠い、昔の伝説だ。それが今、現実になろうとしている」

 

 壁の絵を見上げていた師匠さんが振り返る。オーシュットをジッと見据えた。

 

「“島を背負うのは、重い”……そう言ったな。だが……おまえにしか背負えないのだ」

 

 後ろで「お前にしか背負えない……」とトモルが呟いた。今にも消えそうな声だ。

 ヒカリがトモルを抱きしめる。心が粉々に砕けないように支えているんだな。

 

「旅へ出ろ、オーシュット。厄災に備えるため……集めて来るのだ。3体の伝説の魔物を……」

「ちょ、ちょっと待ってよ師匠……! 島を出ちゃったらみんなのメシはどうなる?」

 

 師匠さんの話に俺達も戸惑った。

 困りきった顔をするオーシュットに、師匠さんは優しく微笑む。

 

「心配するな。なんとでもなる。

オーシュット、おまえは……特別な子だ。赤子のおまえを一目見て、私は心の声を聞いた。“この子が、いずれ島を厄災から救う”……と。私はその声を信じ、おまえを狩人に育てたのだ」

「だからわたしに宝物の腕輪をくれたのか! この腕輪に3体の伝説の魔物を集めるんだな?」

「そうだ」

 

 うつむくオーシュットの耳がペタンとする。

 手伝いたいな。ひとりだけに背負わせちゃダメだろ……。

 ディアも俺と同じ気持ちみたいだ。表情で分かった。

 見届けなきゃいけない気がして、俺達は口を挟まない。

 心苦しい沈黙が続き、オーシュットが顔を上げる。耳がピン!とした。

 

「わかったよ、師匠。わたし、いってくる。伝説の魔物を連れてくるよ」

「それでこそ、私の弟子だ。島を頼んだぞ……オーシュット……」

「オーシュット! 俺、伝説の魔物集めを手伝いたくなった!!」

 

 勢いよく挙手しながら言う。

 オーシュットと師匠さんがバッと俺を見た。驚き顔だ。

 

「あたしも手伝わせて!!」

「わたしも!! オーちゃんを助けたい!!」

 

 ヒカリが拳を掲げた。勇ましいお兄さんにトモルは寄り添っている。

 

「俺達にはやるべき事がある。しかし、道が交わっている間なら、俺もオーシュットの為に戦う」

「はい、私も。お兄様と同じ気持ちです」

「みんな……!」

 

 オーシュットが喜びに大きく跳ねた。マヒナがバサバサしながら「良かったわねぇオーシュット!」と嬉しそうに言った。

 

「みんなありがとう!!」

 

 師匠さんが深々と頭を下げた。

 そして俺達は壁画をもう一度確認する。

 

「その3体の魔物はどこにいるんだぁ?」

「それぞれ伝説がある。守護者テラは……噴火せんとする大山を沈め、その地を守った。

守護者カタルアクタは……全てを飲み込まんとする大波を砕き、その地を守った。

守護者グラチェスは……大陸を凍てつかせんとする大吹雪を塞き止め、その地を守った」

 

 手帳に素早く書き残して「ん〜?」と呻く。隣で覗き込むディアも「ん〜?」と同じような声を上げる。アグネア達も難しい顔で考えた。

 

「大山と、大波と、大吹雪……オズバルドさんとテメノスさんに聞きたいわね……」

「その者達は詳しいのだな。俺とトモルのいたヒノエウマ地方にはどれも該当しない」

「大山なら……ワイルドランド地方だな。大波なら海沿いのどこかになるのか……?」

「大吹雪、ならウィンターランド地方かな。行くなら装備を整えないと。リーフを貯めないとね」

「みんな、たくさん考えてくれてる。仲間だな! うれしいな! わくわくしてきたぞ!!」

 

 明るい声と喜びが溢れた表情に俺達も笑い合った。

 

「そうね、わくわくする。踊りたくなっちゃうくらい」

「わたしも。みんなで旅するんだ、って思うと嬉しくなる」

「いつかテメノス達とも、どこかで会えるんだ。その時に全員で旅できたら最高だな」

「トモル、“ミルフィーユ”だ。そなたと同じ気持ちで家族を大切に思っている子と、いつか話しができるぞ」

「私と同じ気持ち、ですか……」

 

 師匠さんのそばでオーシュットとマヒナが話している。

 “厄災に備える為の魔物集め”────責任重大の大役を任されたとは思えない楽しそうな表情だ。

 大丈夫かぁ?と心配してしまう。たぶん大丈夫だろうな!とも思った。

 

 ケノモの村に戻る。

 オーシュットが旅立ちの準備を整えている間、俺達は師匠さんのところにいた。

 

「師匠さんに聞きたいことがあるの」

「話しなさい」

「わたしの背中によく分かんない字があってね。大昔に師匠さんと仲良しだった子はどうだったのかなって」

「……背中、か。何かが刻まれていた記憶はあるが……」

「脱ぐ! 今脱ぐから師匠さん見て! 確認してほしい!!」

「だぁあああああああああああ!!!!」

「ミルディアサンッ!!」

「そなたも……!? トモルの背中にも知らぬ文字が刻まれている!」

「……え?」

 

 ディアがトモルをジッと見る。あの目は分かる。『トモルの背中も見たいな』だ。

 トモルはビクッとしてお兄さんの後ろに隠れた。ディアが両手を合わせてペコペコする。

 

「ヒカリお兄さぁ〜ん、わたし、妹さんの背中に書いてるものが自分の背中のやつと同じかどうか確認したくてぇ〜。お願いします! 妹さんのお背中を見せてください!!」

「ものすごく丁寧に言ってるぜ……」

「長年の謎だった。俺も知りたいと思っていた」

 

 お兄さんが説得したことでディアの願いが叶った。トモルとアグネアを連れて家の中に入る。

 師匠さんが確認するのは後だ。

 

「まさか……ミルディアの背中にも文字があったとは……」

「ディアの世話をしてくれた姉ちゃんが背中の文字を教えてくれたんだ。『なんの文字だろうな?』っていうのは俺も親父も思ってた。ヒカリは誰に教えてもらったんだ?」

「母上だ。赤ん坊の小さな背に解読出来ない文字が……」

「誰がやったんだろうな。赤ちゃんの背中によ」

「生まれつきの痣だと薬師は話していた。背中の文字に何かの力が宿っている。成長と共に文字も大きくなっているんだ。あまりにも奇妙で、洗う手がいつも止まってしまう」

「洗う手が……いつも……?」

 

 俺を見つめていた目が地面を向く。だらだらダラダラと冷や汗を流す顔になった。

 

「……まさか、風呂も……?」

「『お兄様と一緒じゃないと怖いです』とお願いされ、共に……」

「ともに」

「……2年前、やっとひとりで入浴してくれるようになった」

「にねんまえ」

 

 俺は聞かなかったことにした。

 10分後にディア達が戻って来る。

「お兄様! お兄様!」とぱたぱた走ってお兄さんに抱きついた。

 

「私の背中、ミルディアさんと全部同じです!」

「師匠さん! 次は師匠さんが確認して!」

「アグネア……コレに頼む……!」

「これに書いていいの?」

「おう。背中の文字はそのまま書き写さなくていい。テメノスと旦那が多分把握してる。それ以外で気づいた事と師匠さんが教えてくれたことを書いてくれ」

「わかった!」

 

 渡した手帳を受け取り、アグネアはやる気に溢れた顔で笑ってくれた。

 申し訳なさそうな顔をする師匠さんと、ウキウキ顔のディアと、手帳を両手で持つアグネアが家の中に入る。

 

「そなたも解読を?」

「俺じゃない。解読したがってる人がいるんだ。今日得た情報が役立つかもしれねぇ」

 

 旦那にもテメノスにも褒められるかもな、なんて思いながらヘヘッと笑っていたら、数分後に……

 

「どっひゃあああああ〜!!」

 

 アグネアの特大の驚き声が家の中から聞こえてきた。

 

「一体なにが!」

「何があった!?」

 

 俺とヒカリは家の前で踏みとどまった。今入ったら見ちゃいけねぇ姿を見ることになる。

 

「ディアーーーーなんかあったかーーーー!?」

「ティオ! 光ったの!!」

 

 バン!!と扉を開けて出てきたのはディアだ。脱いだ服で前を隠して、色白の両肩が丸出しの……

 

「どわぁあああああああ!!!!」

「師匠さんがなんか言ったら背中の文字が光ったの! ティオも見て!!」

「見ねぇええええええ!!!!」

「ミルディアさん!! 服を着てっ!!」

 

 目を閉じてるから何も分からない。

 バタバタの音が離れていき、パタンと扉が閉じた音が聞こえた。

 罪悪感にドッッッッと襲われる。

 

「悪い……ディア……見るつもりはなかったんだ……!」

「俺は出てくる気配を感じてすぐに目を閉じた。何も見ていないからな」

「お兄様すごいです!!」

 

 確認を終えてディア達が出てきて、師匠さんが「顔を上げていい」と言うまで俺は動けなかった。

 

「ふふふ、ごめんね! 大至急知らせなきゃと思って」

「見て悪かった……」

「あたしもすごいビックリして……手が震えて走り書きみたいになっちゃった」

「ありがとさん」

 

 手帳を返してもらう。

 背中の文字が全員同じならテメノスと旦那も大体のことを把握している。

 アグネアは丸を29個書いてくれた。29文字背中に刻まれてるのか……。

 13個目と17個目の丸が塗り潰されている。

 

「ミルディアの背中に刻まれてるものは多すぎる。私がはるか昔に見たものは6字だった。左から2つ目だったか……一字だけ小さい形をしていた」

「師匠さんがね、昨晩と違う言葉をホニャホニャ言ってた。その後、背中が熱くなって……」

「光ったところを塗り潰したの」

「背中の字が光る……不思議だな……」

「特定の言葉に反応しているな。やはり、背中の文字に力が宿っている」

「もう一回言ったらトモルちゃんのも光るのかしら」

 

 チラッと見れば、トモルはサッと逃げてお兄さんにくっついた。『怖いです』の顔に「やめておこうぜ」とやんわり言っておく。

 

「なんて言ったら光ったんだ……?」

「記憶に強く残っていた言葉だ。よく言ってくれて……別れの時には何回も言われた」

「すごい! 超重要なヒントみたい!!」

 

 なんか解けそうな気がするぜ!と思ったものの、1分ぐらいで俺達は頭を抱えた。

 マヒナとオーシュットが笑顔で戻って来る。

 

「みんな〜! お待たせ〜!!」

「よし! 出発だな!!」

 

 テメノス達と再会してから考えればいいか!と俺達は気持ちを切り替えた。

 ディアが膝をつき、師匠さんのもふもふに顔を埋め、抱きしめる。

 

「師匠さんありがとう……。温かいのと、フワフワしてるのと、柔らかいのと、優しい声でね、ずっとずっと嬉しかった」

 

 喜びに溢れた声で、だけど切なくなる声だった。

 師匠さんから離れてディアは笑う。泣くのを我慢する顔だ。

 

「いってきます、師匠さん」

「嗚呼……」

 

 師匠さんも泣きそうな声を出した。

 オーシュットがすぐにピタッと師匠さんにくっつく。

 

「……別れの時に何度も言ってくれたあの言葉に、私は何も返せなかった。同じように言えなかった」

「師匠は……伝えたかったんだね……」

「ああ、そうだ。離れたくないと、共に生きたいと、そんな気持ちになった。しかし私は……気持ちを伝える為の言葉を知らなかった。同じように……声を上げればよかったのに……」

 

 気持ちを伝えられなかった師匠さんの後悔が俺の心に突き刺さる。

 みんなも同じように思ったみたいだ。重い空気の中、話すヤツは誰もいなかった。

 

「旅人よ。気持ちを伝えるのだ。離れたくないと、共に生きたいと願うのなら……」

 

 大事な言葉を聞いた後、師匠さんと村人達に見送られ、出発した。

 次の行き先は“トロップホップ”だ。

 

 先頭をヒカリとトモルが歩き、真ん中をアグネアとオーシュットとマヒナ、後ろに俺とディアだ。

 

「……なぁ、ディア」

「ん〜? なぁに?」

「師匠さんの言葉で『俺も伝えなきゃな』って思ったんだが……」

「うん」

「俺はディアとずっと生きたい。ディアと離れたくねぇなって思うんだ」

 

 ニコッ!!とディアは笑った。いつもの笑顔で。

 

「うん! 私もパルテティオとずっと生きたい!! これからもずっと離れないでいようね!!」

 

 いつもの明るい感じで言った。

 

「パルテティオは他に『ずっと一緒に生きたいなぁ』って思う人いる? わたしはミルフィーユ!!」

「おう……そうだな……大事な、妹だからなぁ……」

 

 俺はフッと微笑み、心の中でズシャッと崩れ落ちた。やっぱり『愛してる。俺と結婚してくれ』じゃないとダメだぜ〜〜〜〜!!!!

 

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