“俺と結婚してくれ”を伝える前に、ソリスティアで一番すげぇお宝を入手する必要がある。
つい口走ってしまった嘘を俺は後悔した。
停泊所に立ち寄り、出港の時間を確認する。
「テメノスさん、小さい時計を持ってたわね」
「あ〜わたしも見た! あれ、かわいくて便利だよね!」
『ソリスティアで一番すげぇお宝かぁ……なんだろうな……』と俺はひたすら考えた。
そして次に行くのは“トロップホップ”だ。
魔物と戦いながら道を進み、海の上にある町に到着する。地面じゃないのが落ち着かない。
「この下にある柱……ボキッて折れたら全部傾きそうだな……」
「足元バキッて割れたら下の海にボチャンだね……」
「気持ちいい風が吹き抜けていく……とても素敵な町だべ!」
「清々しい空気に満ちているな」
「くんくん、くんくんくん……あっちからうまそうな匂いがするよ」
「ケノモの村ではしない匂いね」
「くんくん、くんくん……お兄様の匂いしかしないです」
全員で町を見て回ることにした。
酒場には初めて見る酒が並び、ヒカリがヒノエウマ地方の酒を教えてくれて一緒に飲みたくなった。
「あたしとトモルちゃんはジュースね。好きなものある?」
「じゅーす……私、水とお茶しか飲んだことないです……」
「えっ」
「ヒノエウマ地方にもあるだろ?」
「木イチゴのジュースならあるが、トモルは嫌いなんだ」
「見たくないです……」
店では装備を買った。
武器や防具だけでなく、旅に必要な品とコーヒー豆も売っていた。
「お! コレを旦那にプレゼントしたいな!」
「オズバルドさん、きっと喜ぶね。キレイな貝殻も売ってる……ミルフィーユにプレゼントしたいなぁ……」
「この町の店は……ほしにくと交換してくれない……」
「乗船すればこの店の品は買えなくなる。残っているリーフがあるから、これを使って買ってくれ」
「ありがとう……! ひかりんはいいやつだな!」
「足りるか? 俺のも使えよ。欲しい物を買えない気持ちはずっと心に残るからな」
買い物した後、“水上劇場”と呼ばれるところにも行った。
屋台で料理を売ってる兄ちゃんが「悪いな。舞台は今整備中なんだ」と教えてくれた。
4人の男女が何か作業しているところがある。
「ここの舞台はすごく近くで見てもらえるのね。いいなぁ……あたしもここで踊ってみたい!」
「俺も見たいな! あの舞台、特別な感じがするぜ」
「次に来る時はミルフィーユ達も一緒がいいな。……あ」
ディアがぽつりと呟いた。
「どうした?」
「あっち……すごい大きいのがキラキラしてる……」
いつもと違う静かな声だ。遠くを見つめる瞳はいつもより明るく鮮やかな色をしている。
「みんなで行こうぜ」と声を掛け、全員で行く。
ディアの気づいた“すごい大きいキラキラ”は町の外れにあった。
木材が多く積まれ、船はあるけど俺達の乗った船より小さい。作ってる途中みたいだ。
「ほぉーう……この辺りは造船所か?」
「前方で誰かが揉めているな」
「ヒカリくんは目がいいね」
気になるから近づいた。ディアは作りかけの船を一心に見つめている。
「あんな出来損ないの船をわしに売りつけようとしたのか!」
富豪の男が商人っぽい兄ちゃんに怒鳴り散らしてる。船を買う為に造船所を訪れた客だな。
「いえ、そんな……! 滅相もございません!!」
「あれが伝説の船大工の弟子だと!? 馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
「すごく怒ってる……肉くえばいいのにね」とオーシュットが不思議そうな顔で呟いた。
「話し終わるまでは近づけないな……」とヒカリも呟いた。
「申し訳ございません……! 私めも、まさかあれが弟子だとは……」
「しかも、あんな大金を吹っ掛けて! 船の相場も知らんのか!」
「なにもかも仰る通りでございます!」
「ええい、時間を無駄にした! 不愉快だ! わしは帰るぞ!!」
富豪の男が心頭の怒り散らしながら帰っていき、商人っぽい兄ちゃんが「ああっ! お待ちくださいませっ……!」と慌てて追い掛ける。
騒がしいのが静かになった。塞いでいた道も通れるようになったぜ。
「伝説の船大工の弟子、ですって!」
「ワクワクしてきたぜ! 面白そうだな……!」
「トモル、近くで見るか?」
「はい!」
「ウミネコ達が鳴いてる。マヒナ、話しに行く?」
「ええ。行ってくるわね」
ディアが歩き始める。
船じゃなくて、船の奥にあるキラキラを見つめている瞳だ。
造船所の階段を踏み外しそうで危ねぇな……すぐに隣を歩いた。
海の上の造船所、日差しを遮る帆布の屋根の下・作業台の前で、伝説の船大工の弟子っぽい姉ちゃんがいる。
職人の顔でこちらに目を向け、プイッと違うほうを見る。俺達を相手にしない表情だ。
「……帰んな。ここには出来損ないの船しかないよ」
「その出来損ないの船ってやつに興味があってね」
船を見上げるアグネア達は『これが出来損ないの船?』と言いたそうな顔をしていた。
厳しい職人の眼がジロッと俺を睨む。
「俺の名前はパルテティオ。西大陸から来た商人だ。あんたの船、ちょいと拝ませちゃくれないか?」
「……この船は売りモンじゃない」
「さっき、どこかの金持ちが吹っ掛けられたってボヤいてたぜ?」
俺の真上でピャアピャア鳴いてるのが聞こえる。これがウミネコか? 帆布の屋根にとまってるんだな。
鳥の言葉で話しかけるマヒナの鳴き声も聞こえた。
「うんうん。わたしもそう思うよ」とオーシュットが上を見ながら相づちを打っている。
「値段を聞かれたから答えてやっただけさ」
「ちなみに幾らなんだ? 参考までに聞かせてくれよ」
ヒカリ達がパッと船大工の姉ちゃんを見る。値段を知りたがる興味津々の目だ。
ハッとしたディアが俺のところに走ってきた。サッと隣に並ぶ。
船大工の姉ちゃんが『なんか来た……!』の顔をしてから、小さく溜め息をこぼして教えてくれる。
「……10万リーフ」
「じゅじゅじゅ10万リーフ!? すっごい大金だべ〜!!」
「売りモンじゃないって言ったろ。文句があんなら帰りな!」
全て拒絶する顔付きと声だ。今まで散々文句を言われたんだろうな。
たしかに作りかけのまま、長い間放置されてるようだが、俺の商売人としての勘が告げてる。これは“買い”だってな。
そっとディアを見る。何かをすげー言いたそうな顔で黙ってる。どれだけ睨まれても輝く瞳を向けていた。
「ディア、この船がキラキラしてるんだな?」
「うん。“この子”は絶対すごい船になる」
「あの船が欲しい! 俺にあの船を売ってくれ!!」
「あんた、まさか……!!」
船大工の姉ちゃんは驚いて一歩後ずさった。俺も一歩前に出る。
アグネアが『10万リーフ持ってるの!?』という顔をして、ヒカリが財布を出しながら『俺も払うぞ』の顔をして、トモルが『お兄様が出すなら私も……あ、持ってませんでした』の顔をして、オーシュットが『ほしにくあるぞ、食うか?』の顔で干し肉を出した。
「……なるほどね。あんたも、そういうクチか」
「ん?」
「どうせ噂を聞いてきたんだろ? この船が……伝説の船大工の最後の作品だって」
船大工の姉ちゃんがフッと笑って肩をすくめる。そんなモン関係なしに買いたいんだけどなぁ。
「だけど、残念だったね。この船を設計したのは師匠じゃない。このアタシさ!」
「それがどうかしたのか?」
「価値がないって言ってんだよ! 弟子のアタシの設計じゃ! 今までの奴らだってそれ聞いた途端に……」
「誰が設計したかなんて関係ねーよ。俺はあの船にホレたんだ」
「この……未完成の船にかい? 素人が何を根拠にホレただなんて……!」
「確かに、俺は船に関しちゃ素人だ。だが、商人としての目には自信がある。その俺の勘が言ってるんだ。これは手に入れる価値があるってな」
「勘だけで、そんな大金を賭けるっていうのかい……!?」
「勘だけじゃねぇ」
「欲しいっ!!!!」
ディアがでっけえ声で言った。
「わたし“この子”がいい!! “この子”と一緒に旅がしたい!! みんなで乗って東大陸から西大陸まで行きたい!! 売ってほしい!!」
「……この船は、欲しいって思える良い船だ。
あとは……ここだな。俺はガキの頃、目利きを養う為に銀細工職人の仕事場に出入りしてた」
チラ、と横目に見る。ここで作業してるんだろうな。必要な物が全部置いてある。
あとは船大工の姉ちゃんの手だ。
「使い込まれていながら、きっちり手入れされた仕事道具。それに、研鑽を積み重ねてきた証のゴツゴツしたその指……」
船大工の姉ちゃんの目つきが少しずつ和らいでいく。
「同じなんだよ、あんたは。俺の知ってる一流の職人達と。だから、あんたが設計した船なら、ぜってー良い船に違いねえんだ」
「こんな可愛げない指をホメてくれる男がいるなんてね……」
「一流の品には魂が宿るもんだ。その声があんたにも聞こえないか?」
船首像は雄々しい一角獣だ。魂と想いが籠もっている。語りかけてくるような力強さを感じてしまう。
「海の上を誰よりも速く疾走りたい! そう言ってるだろ、あいつは」
一角獣の力強さに負けない気持ちで、船大工の姉ちゃんを熱く見つめた。
ディアも同じようにしてるな……目を向けなくても隣から熱意を感じる。
「頼む! あの船を俺に売ってくれ!」
「お願い!! “あの子”と一緒に旅をしたいの!!」
「……売れないよ。売りモンじゃないって言ったろ」
「そうか……」
隣でしゅんとするのが横目に見えた。帰る時も元気が無かったら美味しいものをごちそうするか。
船大工の姉ちゃんがニッと笑う。明るくて良い笑顔だ。
「だから、売りモンに仕上げる」
「え?」
「これから船を完成させるって言ってんだ。10万リーフ、あるんだろ」
「いや、10万リーフは無ぇ!」
「無いのかよ!!」
後ろでアグネア達がどよめいた。俺とディアは同時に財布を出し、頭を下げて船大工の姉ちゃんに差し出した。
「有り金全部だ! 残りは次ここに来た時に払う!!」
「ごめんなさい! お願いします!!」
「10万リーフ持ってないのに売ってくれって言ったのかい……」
「ああ。他のヤツに買われたくねぇ!って思ってな……」
船大工の姉ちゃんは俺達の財布を両手でグッと押し返した。
「今は受け取らない。あんた達にしか売らないから、次来た時に10万リーフ出しな」
「ありがとさん!!」
「ありがとう!!」
「アタシはテリー。腕利きの船大工達にも声掛けるから。ホラ、今のうちに要望伝えときな。船体を何色で塗るか、とか帆に入れるマークとか。何人で旅するの? リクエストあるなら言って」
「おぉ〜!! 言う言う! 全部言うぜ!!」
「すごい……! 今言って良いの……!?」
俺はアグネア達に向き直る。みんな喜びの笑顔を見せていた。
「おお〜い!! みんなでどんな船にするか考えようぜ!!」
大喜びでみんな来てくれて、テリーの前で『こんな船が良い』をワイワイ言い合った。
テメノス達の事も考えて人数を伝えれば「そんな大勢で……!?」とテリーに驚かれた。
「10万リーフを貯めねばな」
「あたし、たくさん踊って“おひねり”をもらうね!」
「私にできることは……」
「ヒカリさんをギュッてして応援する、かな! わたしもパルテティオをギュウしようか?」
「う、動けねーから声援を送ってくれ」
「うん! いっぱい応援するね!」
「師匠がね、言ってたよ。“かこう”したものをリーフと交換できるって」
「お〜いいな! 食べたがってるヤツに声掛けて売ろうぜ!」
テメノス達と再会する時に完成した船を見せたらすっげー驚きそうだな。想像して「ヘヘっ」と笑った。
テリーにみんなで挨拶して、俺も「またな!」って言ってから、トロップホップを離れた。
遭遇する魔物と戦ったり、オーシュットが“捕獲”したり、そんな感じで道を進み、停泊所の船に乗った。
自分達の船があれば時間を気にせず、好きな時に出港できる。
海の冒険だってできるんだ。
「俺は絶対10万リーフ貯めるぜ。1ヶ月以内に!」
────そして俺達は東ニューデルスタ街道へ。
「その料理、キラキラしてる」
オーシュットが“捕獲”した魔物を“かこう”して得た料理(三ツ星テリーヌ/マヒナが名付けた)にディアがそう言った。ヒカリと俺で味見する。
「これは疲れが癒えるだけでなく、しばしの間……強くなれる料理だ!!」
「うめぇえええ!! これは700リーフで売れるぜ!!」
リーフをどこで稼ぐか決まった。
俺達は魔物とひたすら戦うことになり、標的は2種だ。
首回りの毛が葉っぱみたいな、立派な角をもつ羊の魔物・オオヒツジと、
頭の皮膚が分厚くて帽子をかぶってるみたいな、でっぷり太った短い脚の四足歩行の魔物・ビープだ。
魔物の名を教えてくれたのはマヒナで「ジュバ様のもとでたくさん学んだの」と話してくれた。
「きたきたぁ〜獲物だぁ!」
「ごめんね! 急所蹴り!」
「アグねえすごいな! 次はわたしだ! それ〜!!」
“捕獲”して“かこう”する。
オーシュットは三ツ星テリーヌを腕輪に保管し続ける。
たまに休憩も挟んだ。
全員でブドウとプラムを食べながら「このペースなら2週間かな」と話した。
そうやって獲物を“捕獲”していたら、よく分からねぇ猫と遭遇した。
「お兄様! あの魔物は何ですか!?」
「わからない。俺も初めて見た」
「俺もだ!」
黄色の袋を背負ってる、二足歩行の猫に似た魔物だ。とても素早く、すぐ逃げられた。
「あの魔物が持ってる黄色の袋……あれがとってもキラッキラしてた!!」
「マヒナ、知ってる?」
「あれはキャットリンね。自分より強くて疾い者に褒美を与える気高い魔物よ。なかなか遭遇しないの」
「あの魔物、もう一回出てきてほしいです! お兄様なら一撃です!!」
俺がチラッとヒカリを見れば、お兄さんが頼もしい笑みを浮かべて『次は必ず斬る』の顔をした。
「三ツ星テリーヌを集めつつ、キャットリンが出てきてくれたら即座に袋叩き、そんな感じ?」
「ディア……その言い方は物騒だぜ……」
「ジュバ様が話していたわ。この世界のどこかに、キャットリンと遭遇しやすくなる加護が宿る御守りがあるって」
「遭遇しやすくなる御守り、かぁ……」
俺はピーン!と閃いた。
上着の内ポケットに大事にしまっておいたミルフィーユのプレゼントを出す。金の鈴だ。
「あんちゃん、そのツヤツヤの丸いのは何だ?」
「あー!! 珍しい魔物にいっぱい会えそうな鈴!」
「わぁ〜! とってもきれい!」
「宝物ですね」
「おう。特別な贈り物だ。これをリンリン鳴らす! 音色に誘われてアイツがまた現れてほしいなぁ」
金の鈴を鳴らしながら俺が先頭を歩く。
後ろで獲物を待つ狩人の瞳と『斬る!!』の目ヂカラが強すぎる剣士の気迫に冷や汗だらだらの俺はしばらく歩き、
『また三ツ星テリーヌかぁ〜』を繰り返し、日没を考えてニューデルスタを目指していた時、やっと遭遇したものの……
「なんだありゃあ!?」
宝石で全身着飾る貴族みたいな猫が現れた。
白い袋を抱え、図体がデカくて丸っとして、巨体のくせにビュンビュン動いて速すぎる。
ヒカリの剣もオーシュットの放つ矢も当たらず、アグネアの「ちょっとだけよ〜」の踊りも無視して、右に左にビュンビュン避け続ける。
マヒナが飛んでいくも、デカい猫の魔物のほうが俊敏だ。
「マヒナ!! デカい精霊石を投げるからな!!」
「ええ、わかったわ!」
「もう! なんなんだべ、この魔物はぁ〜!
“摩訶不思議の舞”!!」
アグネアが踊った瞬間、グラッとめまいがした。
特大の精霊石を投てきしようと思ったのにミルフィーユのプレゼントをブン投げちまった。
「ああああああそっちじゃねぇ!!」
貴族みたいな猫の魔物がバッと跳ね上がり、白い袋を放り捨てて金の鈴をキャッチする。
スタッと着地、ゴロンと横になり、金の鈴をリンリン鳴らしながらゴロゴロ左右に転がって……
「遊んでいる……」
あ然としたヒカリの声に、俺達は無言で頷いた。
オーシュットが音を立てずに接近し、金の鈴で楽しそうに遊んでる魔物を“捕獲”する。
「はぁ〜腹減ったぁ〜」
「よっしゃあああああああ!!」
「イェエエエエエエエイ!!」
全員でハイタッチする。
オーシュットは左の腕輪を見つめながら「この子の名前は“ブルジョワキャットリン”だね。何が得意なんだろう。また今度わたし達を助けてもらおう」と微笑んで言った。
「オーシュットはすげー狩人だな!!」
「あんちゃんの投げた鈴のおかげだよ。この子の宝物になった」
「宝物、かぁ……」
ディアが悲しそうに顔をくしゃっとさせる。
「ああ……ミルフィーユのプレゼントが……ティオの宝物がぁ……!」
「……オーシュットの腕輪に入っちまったな」
「きっとミルフィーユなら『猫ちゃん喜んで良かったです』って言う! 言うけどぉおおおお……!!」
「再会したら、俺……謝るぜ……」
気持ちを切り替え、地面に落ちてる白い袋だ。俺が拾い上げ、みんなで囲んで確認する。
中に入っていたのは1万リーフ金貨が5枚。
「おおお……!!」
「わわわ……!!」
「大金だべ〜!!」
「魔物1体で5万リーフか……カザンが知ったら目の色を変えそうだ……」
「『共に探しましょう、ヒカリ殿』って言いそうですね」
1週間くらいで10万貯まりそうだ。
やりきった思いでみんなの笑顔は明るく、嬉しい気持ちで街道を進み、オーシュットにいくつか“かこう”してもらいながらニューデルスタを目指した。