日が沈み、街にも多くの明かりが灯る。
ニューデルスタに到着する目前で足を止め、トモルには羽根つき帽子、ディアには俺の帽子をを渡した。
「いいの!? 被ってもいいの!?」
「おう! 手持ちの帽子はトモルのそれと俺のやつだけだからな」
「なぜ、この帽子を?」
「赤い髪と赤い瞳の……トモルとディアと同じ顔の女がニューデルスタで長年好き放題してたらしいんだ。ここにいるヤツら、誰かは分からねぇがめちゃくちゃ見てくるってよ。帽子で髪を隠したほうがいいって話を聞いたんだ」
「すきほーだいかぁ……何してたんだ?」
「すごい有名な人みたいなの。あたしが聞いた話はね……」
カナルブラインで出港数時間前にテメノス達に教えてもらった情報をそのまま伝える。オーシュットは笑顔でウンウン頷きながら聞いた。
「ありがとうございます、パルテティオさん」
「感謝する。これでトモルも安心して街を歩ける」
「おう! ここの店に好きな帽子が売ってたら買い替えようぜ」
帽子を受け取ってすぐに被る。お宝を貰ったような大喜びの顔だ
俺とヒカリも嬉しい気持ちでニコニコする。
「お兄様、お兄様、どうですか?」
「色がとても良いな。よく似合ってる」
「かわいいなぁ」
「パルテティオ! わたしはどうかな?」
ディアにも同じように『かわいい』を言いたいのに、くすぐったい気持ちになって顔も熱くなった。
「おう……いいかんじだな……」
「良かったぁ! 被ってみたいなって思ってたの! 上着もちょっと貸してほしいな。パルテティオみたいな格好したい」
いつも被っていた帽子が俺の目の前に……低い位置にある。
無言で黄色コートを渡したらフワッと羽織り、はにかんでくれた。
心臓がいつもより大きい気がする。めちゃくちゃうるさくドキドキした。
そして俺達はニューデルスタへ。
オーシュットが「ここにウラウラと同じ顔の……真っ黒々の人がいるのかぁ。会いたいな!」と言ってて『強いな……!』と感心した。
全ての建物がとにかくデカい。3階建てが奥までずっと並んでいる。
「お〜!! すっげーな!!」
「こ、ここが“花の都”ニューデルスタ……ごくっ……」
「並ぶ低木……全てに花が咲いている。見事な景観だ。トモル、ゆっくり歩こう。行きたいところがあれば言ってくれ」
「は、はい……ぜんぶ見たいです……」
整った石畳の道はとても広く、上と右と左を忙しなく見てしまう。
この土地を“街”にする為にどれだけ多くの人が集まったんだろうな。すげぇや。
ディアが俺の耳元でコソコソッと「オパールさん、こんなすごい街に住んでるんだね」と小声で話す。
俺も同じように「早寝早起きだからな。明日の朝行こうぜ」と耳打ちした。
「くんくん、くんくんくん……しらない匂いがいっぱいだ!!」
「いろんな音もたくさんするわね」
「音かぁ……人間には分からない音がマヒナには聞こえるんだね。あ〜すっごいワクワクする! この街、あっちとそっちと向こうのほうにキラキラがある!」
「端から端まで見て回ろうぜ!!」
「ん? なんだろ、これ……」
最初に動いたのはアグネアだ。俺達も続く。
おしゃれな板が立て掛けられていて、ドレスを着た女の姿絵の紙が貼ってある。
「大きな帽子みたいな髪型だ〜」
「ドルシネア……この人の名前かぁ?」
「“あなたへ全てを捧げる”……“スーパースター ドルシネア”……ス、スーパースター……!?」
「すーぱーすたー?」
「“スーパー”は一番すごいって意味かな。全ての人々を幸せにする存在、それが“スター”よ。踊りと歌で、みんなの心に希望を届けるの。“スター”になりたい、それがあたしの夢」
トモルをヒカリが優しく見つめている。良いお兄さんしてるな……とほんわか思う。
お兄さんの眼差しに妹さんが気付き、パッと明るく笑う。嬉しそうな表情がまんまミルフィーユだ。
ヒカリはトモルに、そうやっていつも希望を届けているんだな。
マヒナがバッサバッサと飛び、周りを確認して降りてくる。
「この人、あっちこっちに飾ってあるわ」
「わぁ……こんな街中に! どんなスターなんだろ……」
街を歩けばそこかしこでドルシネアの話をしている。その会話が聞こえてくる。
みんな笑顔だ。大人気の踊子だな。
「いい席が埋まるわ、急ぎましょ!」
仲の良い男女がドルシネアの舞台を見に行くみたいだ。しっかりした石造りの階段を上って行った。
ヒカリが眉間に軽くシワを寄せる。
「いい席が埋まる、とは……?」
「大きな建物の中にたくさんの椅子が並んでいるの。踊りを観たい人がその椅子に座って、たくさんの人が座ったら“スター”がみんなの前で踊る。“いい席”はね、その踊りがよく見える椅子のことを言うの」
「座るところは早いモン勝ちかぁ」
「劇場でスーパースターに会える! あたしも行ってみたいなー!」
「アグねえの行きたいところにわたしも行きたい!!」
「わたしも!!」
次に行くところが決まった。ドルシネアの舞台がある劇場に向かう。
目的地はそこだが、気になるところがあれば足を止めた。
酒場は俺が少し覗いたり、青果店の店頭でジッとしてる白い猫をトモル達が撫でたりもした。
どの建物も窓が多い。漏れる明かりで美しい。人が多くて、楽しそうに時間を過ごしている顔ばかりだ。
階段を上りきるとまた大きな道に出る。
とても大きな屋敷と、その隣には、
「で……ででででで……でっけえぇーーーーーーっ!!」
思ったことをアグネアが言ってくれた。
本当にデカすぎる。首の後ろが痛くなるほど見上げてもテッペンが見えねぇ。
「でっ……! ……!! ……!!」
「これを人間が建てたのかぁ……!?」
トモルは絶句してお兄さんにしがみつき、お兄さんは「美しい彫像があちこちに……素晴らしいな……」と明るい声で呟いた。
「アグねえ、ここにスーパースターがいるの?」
「そう、ここにいるの! ここにいるんだけどぉ〜……!」
一歩を踏み出せない顔だ。アグネアの気持ちがよく分かる! 俺もこの建物には気軽に入れねぇ!!
アグネアはキリッとした目でまっすぐ前を見る。心の中で自分を奮い立たせた顔だ。
「……よし、行くわよ!」
「突入だぁ〜!!」
オーシュットのワクワク声に俺達は歩き始める。アグネアが先頭だ。
門をくぐろうとすれば、紺色の制服を着た兄ちゃんがスッと通せんぼしてきた。
「チケットを拝見します」
「へ……?」
「ちけっと……?」
「恐れ入りますが、チケットがないと通せません」
チケットで思い出したのはカナルブラインだ。踊子ヘルメスの舞台を見に行く為、ディアが赤いチケットを買ってくれた。
貴族っぽいオジサンが通り、片手でピラッと見せたのは1枚の細い紙だ。兄ちゃんは通せんぼすることなく道を譲る。あれがここのチケットかぁ!
ヒカリが『ここは一時撤退だな』の顔で後方に視線をやり、それにアグネアが頷き、門前から離れた。
「ほしにくじゃ中には入れない?」
「うん。文化が違うのね。あたしの村では桃で通じたけど。チケット、欲しいな……どこにあるのかしら……」
「街人に片っ端から声を掛けてはどうだ。不要な者は譲ってくれるはずだ」
「チケットいらないよって人を探すの?」
「よし! あたし、おねだりする! チケットを手に入れるわよ!」
「お〜!」
手分けして街のヤツに声を掛けることにした。
アグネアとオーシュットは酒場のあるほうへ。
ヒカリとトモルは大きな階段を下りて行き、俺とディアは細い階段へ。
下りた後は雰囲気がガラッと変わる。建物は同じ形で明かりが漏れる窓の数も同じで……だけど全体的に暗かった。灯りがひとつも無い。
「道の端に色んなものが置いてるね」
「そうだな。酒の瓶も転がってる」
石畳はボロボロで汚れていた。
顔を上げると、あっちの2階の窓とそっちの2階の窓を繋ぐロープに洗濯物が干されている。
ここは住んでる人達に声を掛けていく。
まずは劇場について質問する。返事をしてくれたやつの話を聞き、『いけそうだな』と思ったらチケットの話を切り出す。
そうして何人か声を掛けたけど収穫は無しだった。
ひとりだけ気になることを言っていた。礼を言って別れた後、ディアがこっそり笑いかけてくる。
「この裏通りに酒場があるって!」
「看板を出してないって言ってた。行ってみたいな!」
「後で探そうねっ」
看板を出してない店は他にもあり、街の人の不要品を売っている雑貨店もあった。
『売ったヤツが誰かは教えない。詮索してはいけない』がルールの店だ。
「これがキラキラしてる!」とディア指差したのは小さな木箱で、購入してすぐに退店する。
「開かない箱かぁ」
「いろんな木材を使ってる。キラキラしてるところを触ったらちょっと動いたの。
あちこち動かしたら開く仕組みかな」
「宝箱みたいだ」
ディアは頭上に持ち上げる。
夜空を仰ぎながら背伸びして、すごい頑張ってる顔で、帽子が脱げて落ちても気にせず掲げ続ける。
今にもひっくり返りそうだから背中を支えた。
「何か気づいたのか?」
「小さいのが大きくなって……夜空を見せたらもっと大きくなった。“この子”……帰りたいって言ってる……」
小さな木箱を下ろし、抱きしめるように持つ。
俺は拾った帽子の汚れを払い、ディアの頭にまた戻す。
「声が聞こえるのか……?」
「……伝わってくる、かな。気のせいかもしれないけど……そう思っちゃうの。ここじゃないどこかに行きたがってる……。わたし、捜したい。“この子”の前の持ち主さん」
「俺も一緒に捜す。絶対見つけようぜ」
帽子が落ちないように手で押さえて俺を見上げ、ふわりと微笑んでくれる。ありがとうの笑顔だ。
心の中にある『愛してる』がまた大きくなった。
小さな木箱を鞄に入れ、俺達は劇場前に戻ることにした。そろそろアグネア達が集まっていそうだ。
大人気のスーパースターのチケットは簡単には入手できない。『いつか見たいな』の気持ちで歩く。
途中、花束を抱えた人とすれ違う。花の匂いか香水か……いい匂いがした。思わず足を止めて目で追ってしまう。
銀髪の男だ。ミルフィーユと同じくらい髪が長くて、肩幅が広い。
「この街は花も売ってるんだね」
「……いいな」
ディアに花を贈りたくなった。
階段を上ろうとしたら、白い花が1本落ちている。
「あれ! あの人の花束から落ちたやつだ!」とディアがすぐに拾い上げて「落とし物届けに行こう!」とやる気に溢れた顔をする。即決で行動する……ディアらしいな。
走ったらすぐに追いつき、呼び止めるディアの声に銀髪の男は気付いて振り返る。
目鼻立ちの良いキレーな男だ。思わず息を呑んだ。
「花が落ちてました。これ、お兄さんのですか?」
「あ、ああ……俺のだ。参ったな……どこで落としたんだろう……」
すげーやわらかい声だ。表情を緩めて微笑んで、瞳が見たことないキレーな色で、暗いところにいるのに月に照らされているみたいに明るく見える。
胸の奥がグッとして頭がクラッとした。
「階段のところに落ちてましたよ。お兄さんの花束のやつだ!って思ったんです」
「ありがとう。旅の人かな。初めて見る顔だ」
「はい。西大陸から来ました」
「俺はクロード。優しくしてくれた人の名を知りたいな。教えてくれないか」
気持ちのいい風が吹くような声と、美術品みたいな美しい微笑みだ。
旅の疲れが出たのか急に頭がボーッとする。
“名乗りたいな”と強く思ってしまった。
「俺はパルテティオ・イエローウェル。西大陸のオアーズラッシュから来た商人なんだ」
口が勝手に動いてペラペラ話してしまう。
「わたしはミルディア・オレンジハートです。あ! お兄さんはここの劇場にいるスーパースターって知ってます? 今、そのスーパースターさんを知ってる人を探してて! 大人気で、一番すごい人みたいなんです。どんな人なんだろうなぁ〜って気になっちゃって!」
クロードさんが目を細めて微笑んだ。さらにボーッとして全身が重くなってくる。やわらかいので包まれてるみたいに頭がふわふわしてくる。
「……俺はおまえが気になるな。おまえのことを話してくれ」
心の中いっぱいに“話したい”の気持ちになる。
「え? わたしのことですか?」
「ああ。おまえを全て知りたいんだ」
心の中いっぱいに“知ってほしい”の気持ちになる。
「わたしも知りたいことがあって! お兄さん、劇場のチケット持ってます!? 実はわたし達、チケットいらないよって人を探してるんです!!」
「……今は、持ってないな」
「持ってない……あ! それなら劇場のチケットを貰える場所は知ってます?」
「……宝石商の店で販売していると聞いたことがある」
「宝石!? 宝石売ってる店がこの街に!?」
「……宿屋の2軒隣に」
「ななな何リーフで売ってるんだろ……! あぁごめんなさい! 情報をありがとうございます! 次はわたしのことですね! 知りたいことは何ですか? 質問に答える、そんな感じでいきましょう!」
「……ハハハハハ!!」
心がガシッと掴まれる。“もっと笑ってほしいな”と思った。
「……ククク。いいな。ミルディアはおもしろいな」
「ありがとうございます! ねぇねぇパルテティオ聞いた? わたしのことおもしろいって!
……あれ? パルテティオ?」
“俺を見てほしい”と思ってしまう。
「パルテティオ、大丈夫……?」
「疲れたのかな。俺、運ぼうか。ゆっくりできるところに連れて行ってやるよ」
“クロードさんのところに行きたいな”で頭ン中がいっぱいになる。
「ここでいいです。階段上ったところに友達がいるはずだから。お兄さんはその花束をどこかに持って行こうとしたんですよね。ありがとうございます。わたし達のことは気にせず行ってください」
両肩を誰かが触る。誰だ? 頭がぼやけて分からねぇ。
「わかった。またいつか会おうな」
「はい。ありがとうございます」
“行かないでほしい”と思った。
「オーーーーーーーーちゃああああああああああん!!!! パルテティオがあああああああ!!!! なんか変んんんんん!!!!」
頭と心がビリッとする。ぼやぼやふわふわしていた頭ン中がハッと冴えた。
目の前がよく見えて、ディアが俺の肩を触っててドキッとする。
「おわぁああああ何だ何だ何だ!?」
「パルテティオ大丈夫? すごいボーッとしてたよ」
「え……俺が……?」
バタバタした走る音が近づいてくる。
「ウラウラ! たいへんなのか!?」
「何があったの!?」
「へ? なにがあったんだ……?」
ディアとオーシュット達を交互に見る。
ヒカリとトモルは階段の上で心配そうにこちらの様子を伺っていた。
「街の人と話してる時にね、パルテティオがボーッとしちゃって。声を掛けたのに全然わたしを見てくれないの。疲れてる感じじゃなくてね……」
「話してる時? 俺は誰かと話してたのか?」
「え。パルテティオ……立ったまま寝てたの……!?」
ディアが教えてくれた。
俺は花束を抱えた銀髪の“クロード”っていう男と話してたみたいだ。
『西大陸のオアーズラッシュから来た商人だ』と自分で名乗っていたけどその記憶が無い。
頭を軽くコンコンしながら「なんだろーな……思い出せねぇ……」と呟けば、ヒカリが「先に宿屋へ行くか」と言ってくれた。
「悪いな、心配掛けて。今日はちっとだけ早く寝る」
「今寝なくて大丈夫……?」
「大丈夫だ! 元気いっぱいだぜ!」
ジト目でジーッと見てくる。『ほんとに?』の顔だ。『いっぱい元気だ!』の笑顔を返せば『わかった』の顔で頷いてくれた。
「それよりチケットはどうだ?」
「あたしは1枚貰えたよ」
「俺とトモルは商人から話を聞いた。一番後ろの席ならチケットがまだ売っていると」
「おぉ〜どこで買えるんだ?」
「宝石売ってる店だよ。宿屋の2軒隣。クロードさんが教えてくれた」
「……あんちゃんとウラウラ、イヤなにおいがする」
「え!?」
「俺、臭いか!?」
オーシュットの耳がペタンとしてる。すごい嫌そうな顔で数歩後ずさった。
「嗅いだことないくらい暗くて歪んだにおいだ……」
「そんなひどいのか!?」
「ごめん、もっと離れるね!」
「どこに行っていたんだ」
「裏通りだな。街灯が全然無くて、洗濯物があちこちに干してあって」
「色んな物が置いてたよ。そんなひどい匂いしてたかなぁ……?」
「オーシュットはあたし達の気づかない匂いも分かっちゃうのね」
「湯で身を清め、新しい服に着替えて、その後で劇場ですか」
「もうそろそろ始まる時間だ。俺達は後から行く。先に行っててくれねぇか? リーフを渡すからそれでチケットを買ってくれ」
「いいのか?」
「みんなで頑張って手に入れたリーフだ。ここでしか見れないものを見る為に使おうぜ」
3万リーフ渡して、口々に言われる「ありがとう」の声を聞きながらみんなを見送った。
いきなりディアがピタッとくっついてくる。
『どわあ!!』と思い、オーシュットみたいに匂いを嗅いできて『わああ!!』ってなって、「ほんの少しだけ……クロードさんの香水の匂いがするような? あとはティオの匂いがいっぱいだよ」と至近距離で言われて『ううう!!』と思った。
「ティオ! 次はわたしの匂いを確認して!」とさらに追い討ちをかけて俺は逃げた。
「今すぐ服を買って宿屋に行くぜーーーーーーーー!!」
「わぁ〜速い! 行こう行こう!!」
服を売ってそうな店に到着し、俺の心臓はバグバグうるさかった。
顔が熱くて目が回る。
「悪ぃ……先に服を買ってくれ……」
財布を渡し、俺は外で頭を冷やした。
入店後、すぐに勢いよく出てくる。
「ティオ! この店、服を貸してくれる店だった! 翌朝返却で1着700リーフ!!」
「おう……借りようぜ……」
『そんな店もあるのか』と珍しく思いながら、自分達の着ているのとよく似た服を借り、リーフを払った。
宿屋は全員が泊まれる部屋にした。
店主の「お洗濯しますよ。乾いた服を翌朝お渡しします。1着307リーフです」の言葉に『そんなのもあるのか』と珍しく思いながら頼んだ。
ベッドは6台、脱衣室も浴室も広かった。
『オーシュットの嫌がる匂いが部屋にうつるな』と思い、ディアの風呂と着替えが終わるまで廊下で待つ。
壁に背を預け、指先でオデコをトントンする。
「んー……んんん……“クロード”かぁ……」
本当にそんな男と話したのか?と半信半疑でいっぱいになる。
ディアが小さい木箱を買って、持ち主を捜したいと思って、その後だな。何ひとつ思い出せない。
「立ったまま寝て、しかも寝言で名乗って……? 大丈夫か俺……」
今日は一度も眠いとは思わなかった。こんな事は初めてだ。
取りあえず、ディアが教えてくれた話を手帳に全部書いた。
ディアと交代で風呂に入る。『オーシュットにあんな顔させたくねぇ!!』の気持ちで丁寧に洗う。
着替えて準備した後、大劇場に行く。
チケットを買わずにアグネア達を待つことにした。