───東フレイムチャーチ山道。
出発してすぐ、テメノス様と私はものすごく困っていた旅人さんを発見した。
すぐに駆けつけてたずねてみると、どうやら盗賊に大事なカバンを盗まれたらしい。
「あれがないと旅が続けられねえ」と旅人・アルさんは困り果てて呟いた。
「あなた、その手……何を握ってるんですか?」とテメノス様は笑顔で聞く。
アルさんは手を開いて、聖火のロウソクを見せてくれた。ミントさんが作ったやつだ!
「すぐそこの町でもらった旅のお守りだ。夜になったら火を灯すんだよ。魔物が出るからこれだけは肌見放さず持ち歩いていたんだ」と話してくれたアルさんに、私の瞳はやる気で燃え上がりました。
「私とテメノス様が解決します!」と気合いを入れて言えば、困っていたアルさんはとっても笑顔になってくれた。
そして、盗賊がいそうなところに案内してくれた。
夜になると盗賊が出るらしく、アルさんを先頭にテメノス様と私は歩く。
「ミルフィーユ君……ランタンの光を消してください。盗賊に気付かれて逃げられる」
「はいテメノス様!(小声)」
そのお願いに、私はランタンの消し方が分からないのでカバンに片付ける。
よしよし光が消えてくれました。
それからしばらく進んで、盗賊がいそうな場所までもうすぐ……といったところで、
「……ど、どうなってるんですか。なんでこんなに魔物が出るんですか……」
「わ、わからねぇ……」
「ご……ごめんなさい。わたし……後ろで見ていることしかできなくて……」
よく分からないけど魔物にいっぱい遭遇した。
テメノス様とアルさんがボコボコにしたり、ボコボコにされたり、大苦戦だった。
私は戦えない自分が悔しくてずっとブルブルするしかできなかった。
魔物はテメノス様の“聖なる光”で倒れ、消滅する。“不滅の篝火”の近くで休憩した。
テメノス様は元気になるプラムをモグモグ食べる。
「買ったプラムがもう底を尽きそうですね。20個多く購入するべきでした」
「そんなにお金持ってないですよテメノス様……」
「今はあるので次に会う行商人から買います。
……アル君、共に魔物と戦ってくれてありがとう。このブドウを食べてください」
「悪い、ありがとうな。アイテムは全部、盗まれたカバンに入っててよ……」
「絶対取り返したいですね。テメノス様、私たくさん応援しますから!」
テメノス様はちょっと疲れた顔をしていた。
アルさんも、すごいくたくたの顔だった。
「……今まで戦った魔物達は、この地方では出てこないはずの魔物でしたよ」
「俺も思った。西大陸に出てくるヤツらばっかだったぜ。フレイムチャーチに着くまではこんなに魔物は出なかったのに……」
「げ、元気だしてください!“獲得品”は全部良いものでした!」
“獲得品”……魔物を倒した後で入手できる品だ。
袋に入ったプラム、きれいな花やハーブ、魔法の力が宿る精霊石に、落ちてるリーフがすっごく多い!
「高値で売れるものばかりだがなぁ……。街につく前にブッ倒れちまう」
「朝になるまで焚き火の前にいたいところですが、それだと盗賊には会えませんね」
「テメノス様……私は、やっぱりピカピカのランタンを出したいです。よく分からないけど安心して……」
カバンからランタンを出す。
出した瞬間、ぴっかぁ!と輝き、テメノス様はうなだれた。
「……そうしましょう。お願いします、ミルフィーユ君」
休憩が終わり、また出発する。
今度は3人で並んで歩いた。私がまんなかだ。
歩いてすぐに、出てきた魔物が逃げ、また別のところで現れた魔物が逃げ、一切戦うことがなくなった。
戦っていないのに“獲得品”をいっぱい手に入れる。
「わぁ! テメノス様!! これ、氷の精霊石です!!」
「どうなってるんだ……」
「……本当にどうなってるんでしょうね」
「やっぱり私のランタンはすごいです!!」
そして安全になった道を進み、たくさんの“獲得品”を得て、焚き火の前でゆっくりしている黒ずくめの怪しい人を発見した。
「……ったく! なんだこのカバンは! しけたモンしか入ってねえ!」
その声が聞こえて、左隣のアルさんが「俺のカバンだ……!」と呟いた。
黒ずくめの悪者はアルさんのカバンを地面にぶん投げる。
なんてひどいことを! アルさんの大事なものが入ったカバンなのに!!
すごく嫌な気持ちになって、私は全力で走ってしまう。
「なにやってるんですかぁ!!」
周りがなんだかすごくまぶしい気がする。
「はぁ……なんだお前……?」
振り返った悪者は「うおっまぶしっ!!」と片手で顔を覆う。
「“聖なる光”!」
そこで後ろにいるテメノス様が断罪の光を放ち、直撃した悪者は昏倒した。
「やった~! テメノス様お強いです!!」
喜んでふと気づく。さっきはまぶしかったのに今は普通だ。
気のせいかな?と少し首を傾げた。
「ありがとうよ、お二人さん!!」
アルさんは走ってカバンのところに行き、拾い上げてホッとする。
中身も無事みたいで本当に良かった。
「ありがてえな……! これで旅を続けられる!」
アルさんはテメノス様と私に笑いかける。心の底からホッとしたにっこり笑顔だ。
「本当に助かったぜ。たいしたもんじゃねえが礼をさせてくれ」
カバンをごそごそするアルさんに、テメノス様は待ったをかけた。
「お礼の品は不要です。それを目的に手助けを申し出たわけではありません」
「はい! 私もそう思います!困った人は助けるんです!」
「いや、しかしだな……」
「お礼をしたいなら、そうですね……。では、ひとつ教えていただけませんか? アル君は『あれがないと旅が続けられねえ』と言っていました。その“あれ”が何かを教えてください」
「……あ! 私もそれ気になりました! アルさんの大事なもの……知りたいです!」
申し訳なさそうにアルさんは微笑み、カバンをゴソゴソして何かを出した。
本をすごく薄くしたものだ。アルさんは両手で開く。
「俺が言っていたのはコレだ。旅をする上での必需品」
「……なるほど。地図ですか」
書庫の本に小さく載っていた絵が、大きな紙に大きく書き込まれている。
すごい宝物のように見えて、私は思わずアルさんにピタッとくっついてしまった。
「す、すごいです! これが地図ですか!? わたし、こんな大きいの初めて見ました!!」
「ハハハ、旅人はみんな持ってるやつだよ。ほいよ、優しいお兄さん」
アルさんはすごい地図をテメノス様に渡してしまった。私はそれを慌てて追いかける。
「ほらほらミルフィーユ君。私がランタンを持ってあげますから、君はコレを見ていいですよ」
ランタンと大きな地図を交換する。
私の視界には収まりきらない大きな地図だ。
「わ、わ、わ、すごい……! いろんな町の名前が書いてある!
わ! わぁ!! テメノス様すごいです!! ここにフレイムチャーチがあります!!」
「そうですよミルフィーユ君。地図にはフレイムチャーチもあるんです」
「ぶくくくく……!!」
アルさんが楽しそうに笑う。大事な地図が戻ってきて嬉しいのかな。
「アルさん、大事なものを見せてくださってありがとうございます!」
「はいよ。こっちもありがとうだ。俺ひとりだけじゃ取り戻せなかった」
「これで旅が続けられますね!」
解決して嬉しくなったけど、同時にハッと気づいてしまう。
「て、テメノス様! 私、地図を持ってませんでした!!」
「あー……そういえばそうでしたね」
「ど、どうしましょう! 私達も旅をしているのに! この近くで地図を売ってるところはありますか! 高くても買いましょうね!」
「マジか……地図を持たずに出発したのか? ……くそ、もう一枚カバンに入っていたらお兄さん達に渡せたのに……」
「それなら問題ありません。私、“不滅の篝火”がある道を全て記憶していますから」
「……え?」「そうなんですか!?」
「前に巡礼の旅をしたことがあります。どこを歩けばどこに着くか、私は全て覚えているんです」
「しゅ、しゅごい……!!」
私は興奮してまた噛んだ。アルさんも目をきらきらさせた。
「……そうか、お兄さん、異端審問官だったな。なら大丈夫か。良かったぜ」
「私達の道行きは安心してくださいね」
そして、昏倒している悪者が意識を取り戻す前に、私達はその場を離れた。
アルさんの目的は雪国の地方だ。
安全なところまで離れ、アルさんは焚き火を起こす。
アルさんも、テメノス様も、どこを目指して旅をしているかはお互い話さない。
テメノス様は懐中時計を出して「もうすぐ時間ですね……」と呟いた。
断罪の杖から手を離し、宙に待機させる。
「ミルフィーユ君、ここに頭を置いてください」
テメノス様の指差す“ここ”────ひざ枕だ。
春に楽しんだピクニックの日を思い出し、テメノス様のひざ枕にごろんとする。
真上にテメノス様の顔がある。優しく見下ろしてくれる。
心がふわりと温かくなって、就寝の時間になって……
「テメノス様、だいすきです。おやすみなさい……」
……そして、私のまぶたは勝手に閉じた。