TOKYOミレニアムから40代目が旅立つまでの話 作:XX(旧山川海のすけ)
ゴトウの間に呼び出された俺とライドウは、畳の上に座り、目の前の目加田博士の言葉を聞いていた。
ゴトウ立会いの下で。
「センターの秘匿技術に、所謂タイムスリップに近いものがあったんだ」
その目加田博士の最初の言葉が、静かな部屋に響く。
「タイムスリップ?」
俺は思わず声を上げた。
ライドウも眉を少し上げ、博士を見つめる。
「そんなの、物語の中だけの話だろ?」
俺の言葉に、博士は大真面目に首を振った。
「いや、真実だ。詳細な原理は複雑だが、簡単に言うと、遺伝子の繋がりを道標にして過去を覗き見る技術だ。先祖の目を通じて、過去の世界を見る。メシア教はその技術をさらに進化させ、覗き見るだけじゃなく、意識をコピーして干渉する方法を開発した」
意識をコピー?
過去に干渉?
頭が整理しきれない。
「つまり、五感を先祖にリンクさせて、自分の意識を過去に送り込むってことですか?」
ライドウが冷静に確認する。博士は頷いた。
「その通りだ。メシア教は、万一自分たちの天下が崩れた場合、過去を書き換えて支配を維持するためにこの技術を開発していた」
俺の胸に、熱いものが込み上げてくる。
過去を書き換える。
メシア教が生まれなかった世界。
あの腐った天使どもが、TOKYOミレニアムという地獄を作る前に、全部なかったことにできるかもしれない。
「本当に行けるのか? 過去に?」
俺の声が少し震えた。
ライドウが俺の手をそっと握る。
その温かさが、俺を落ち着かせてくれる。
博士は続ける。
「理論上は可能だ。ただし、当然だが意識をコピーされる先祖には負担がかかる。だが、任務が終われば解除は可能だ。そこは保証する」
「なら、やるしかないだろ!」
俺は立ち上がり、拳を握った。
「メシア教が生まれない世界を作れるなら、俺が過去に行く! いつでもいい、準備はできてる!」
だが、目加田博士は静かに首を振った。
「サダハル、君にはできない」
「なんでだ!?」
俺は思わず詰め寄った。
博士は目を伏せ、ゆっくりと説明してくれた。
「この技術は、X遺伝子──つまり母系の遺伝子のみを辿る。Y遺伝子、父系の先祖は対象外だ。君の母方は……おそらく白人の女性だろ? メシア教が起きたのは旧世界の1990年代。メシア教を消すためにはその時代、またはそれ以前に飛ぶ必要がある。だが、君の母方の先祖は、その頃日本にいない可能性が高い」
俺は言葉を失った。
そうだ、俺はヴァルハラエリアの売春婦の息子で、多分母親は白人だった。
名前も知らない。なら、俺の先祖は日本じゃなく、どこか遠い国にいるかもしれない。
「メシア教の成立を阻止するには、もっと前の時代──1940年代以前に行くべきだ」
博士がさらに続ける。
「メシア教は、旧世界の宗教を土台に成立した。その土台となった宗教は、第二次世界大戦で日本が敗戦したことで勢力を拡大した側面がある。もし日本が敗戦しなければ、メシア教成立の芽は摘めたかもしれない」
「……1940年代か。今から何年前なんだろうな……」
俺は呟き、頭を整理した。
確かに、昔に行けば行くほど、メシア教の成立を防ぐ可能性は高まると思う。
バタフライエフェクトって話あるじゃん。
些細なことが、遠い場所で重大な結果の原因になるとか。
その考えで行くと、昔に行くほど実現の目は高まると考えるのが自然だ。
だけど
「……で、なんでアレフとヒロコ、ザインがここにいないんだ?」
俺はふと、その気になっていた疑問を口にした。
アレフなら悪魔使いとして、戦士として。
ヒロコなら知恵と魔術で。
ザインならリーダーシップに強い精神力、冷静な判断力で、この計画に最適だろ?
俺のそんな思いから出た疑問に。
目加田博士は一瞬目を伏せ、沈黙した。
だけど
やがて、重い口調で答えた。
「アレフとザインは……人造人間だ。センターの『人造メシア計画』で生まれた。適切な卵子の遺伝子を強化し、理想的な精子を受精させ、育成ポッドで一気に成人に育てた存在だ。彼らには、辿れる先祖が存在しない」
「人造メシア計画!?」
俺は目を剥いた。
ライドウも驚いたように息を呑む。
「いつまで経ってもメシアが降臨しないので、元老院の天使どもが自分たちでメシアを作ろうとしたんだ。その結果がアレフだ。だが、皮肉にもアレフの誕生が、TOKYOミレニアムの崩壊を早めた」
アレフが……人造人間。
確かに、アイツの戦闘力や精神の強さは常人離れしてた。
けど、そんな秘密があったなんて。
……ザインも同じってことか。
「じゃあ、ヒロコは?」
俺はさらに訊ねた。
博士の表情が一層暗くなる。
「ヒロコは私の娘だ。だが、あれの母親は白人の女性だった。君と同じく、母系の先祖を日本で辿るのは難しい」
そうだったのか……
そして
なるほど……ならばヒロコもダメか。
「じゃあ、残るのは……」
俺はライドウを見た。
ライドウの金髪が、部屋の明かりに映える。
20代目は黒髪だった。
あのとき、火葬の前に覆面を剥がした瞬間、黒い髪が見えたんだ。
目加田博士に後で聞いたら「クローンの重ねすぎで遺伝子に異常が出た可能性がある」って言われたけど……。
ライドウは静かに立ち上がり、目加田博士を見つめる。
「私でいいんですか?」
その声は、いつもの冷静さの中に、微かな決意が宿っていた。
博士は頷く。
「君の母系の遺伝子なら、1940年代の日本に辿れる可能性が高い。君は20代目の遺伝子を基に作られたクローンだが、母方のX遺伝子は純粋に日本由来だ」
ライドウは一瞬目を閉じ、深呼吸した。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「過去を変えれば、今が変わるということでしょうか?」
目加田博士は首を振った。
「多分、それは起こらない。現に私たちはセンターを倒した。そこに至るまでにメシア教が過去改変を試みなかったとは思えない。だが、結果として私たちの世界は変わらなかった。おそらく、過去を変えても平行世界が生まれるだけだ。メシア教のない世界が、別の時間軸で誕生するにすぎない」
平行世界。
……自己満足の話ってことか。
俺は悲しかった。
やはりこの現実に至った原因を取り除くことはできないのか……
だけど
ライドウは静かに、力強く言う。
「それでも、やります。メシア教が成した数々の悍ましい残虐行為がない世界ができるなら、やれることはやるべきです」
その言葉に、俺の心が震える。
ライドウの目には、迷いのない決意が宿っていた。
メシア教の支配、センターの非道、俺たちが戦ってきたもの全てをなかったことにできる可能性。
ライドウがそれを望むなら
「頼んだ、ライドウ」
俺は認めるだけだ。
「お前ならできる。俺は信じてる」
俺の言葉にライドウは微かに微笑み
「ありがとう、サダハル。君が信じてくれるなら、怖いものはない」
そう、強い決意を伺わせる声で誓ってくれた。
必ず別の幸せなif世界を創って見せると。
数日後。
上野ビルの一室で。
センターから運び出した時間跳躍装置を前にして、俺たちは佇んでいた。
装置のオペレーターとして、アリババと目加田博士が忙しく動いてくれている。
装置は巨大な円形の装置であり、外装に魔術的な文字が書かれている。
これも多分、魔術と科学のハイブリッド技術……
その中央に、人が入るためのカプセル。
ライドウはこの装置に入るため、薄手の布みたいな簡易な衣服一枚で。
その下に何もつけていない格好になっていて。
……なんだか、少し、ドキドキした。
「ライドウ、君を1870年の日本に送る。旧世界での明治時代という時代だ。この時代から、第二次世界大戦に負けないか、もしくは戦争そのものが起きない世界線を創ってくれ」
ライドウは頷く。
「了解しました」
そしてライドウは俺に向き直り。
俺たちは抱き合った。
「……サダハル行ってくる」
「頼むぜ。信じてるからな」
「ああ……」
俺たちは見つめ合い、頷き合って
「愛してるよ」
そう囁き合って。
唇を合わせた。
<了>
ここから葛葉ライドウVS超力兵団に続く。
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