TOKYOミレニアムから40代目が旅立つまでの話   作:XX(旧山川海のすけ)

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第31話 受け入れがたい真実

 地鳴りのような唸り声が鉱山全体を震わせ、俺とライドウは即座に身構えた。

 空気が重く、冷たく、そして何とも言えない不穏な気配が漂い始める。

 スレイブの残骸が散らばる地面が微かに揺れ、そこから黒い何かが沸き上がり

 

 空中で寄り集まり、何かを形成していく……

 

「サダハル、来るぞ」

 

 ライドウの声が鋭く響き、再び封魔管を手にした。

 俺もプラズマソードを再度抜刀し、構える。

 

 その瞬間、寄り集まった黒い何かの中から赤黒い肉の塊が姿を現した。

 

 悪霊レギオン……

 

 怨念の塊で、何十人、何百人もの怨念が、その恨みを晴らすために結合した姿……

 

 直径数メートルはあるその塊は、まるで臓物のように蠢く。

 その表面には無数の人面が浮かんでいた。

 苦しみと憎悪に歪んだ顔が、絶え間なく呻き声を上げている。

 

 俺は思わず一歩後ずさった。

 

「何だよ、これ……」

 

 俺の呻くような呟きに答える間もなく、レギオンが動き出す。

 その存在自体が呪いのように周囲の空気を汚染し、俺の体が急に重くなった。

 

 生命力を直接削ってくるような感覚だ。皮膚がチリチリと焼けるように痛む。

 

「ライドウ!」

 

「分かってる。フェンリル、フレスベルグ、再召喚だ!」

 

 ライドウが封魔管を開くと、再び緑色の輝きが溢れ出し、巨大な白狼と白鷲が姿を現した。

 

 フェンリルが吠え、フレスベルグが鋭い鳴き声を上げると同時に、レギオンに向かって突進する。

 

 俺も負けてられない。

 

 プラズマソードを振り上げ、ライドウの仲魔に追われて地上に降りてきたレギオンに斬りかかった。

 

 刃が肉塊に食い込むと、ドロリとした赤黒い液体が飛び散り、人面の一つが絶叫を上げて消えた。

 だが、その数が多すぎる。切り刻んでも切り刻んでも、次々と新たな顔が浮かんでくる。

 

 フェンリルが火炎の息を吐き出すと、レギオンの一部が燃え上がり、焼けた肉の臭いが鼻をついた。

 フレスベルグのアイスブレスが別の部分を凍らせ、俺はその凍った箇所をソードで叩き割る。

 

 連携はまたしても完璧だったが、レギオンの生命力は異常に強く、簡単には倒れそうにない。

 

 その時、肉塊の中から声が聞こえてきた。

 複数の声が重なり合い、怨念に満ちた言葉となって俺たちの耳に届く。

 

「センターの指導部に不満を口にしただけなのに……」

 

「ヴァルハラエリアじゃ許されたことが何故許されないんだ……」

 

「ファクトリーで仕事ができないからって……」

 

 そして

 

「だからって、スレイブにするなんて酷過ぎる……」

 

 俺はその言葉に凍りついた。

 プラズマソードを握る手が一瞬止まる。

 

「……何?」

 

 頭の中で何かが繋がった。さっきのスレイブの叫び声。あの脳みそ。

 そして今、このレギオンの言葉。

 全てが一つの恐ろしい結論を指し示していた。

 

「ライドウ、これって……」

 

 俺は振り返り、ライドウを見た。

 彼は無言でレギオンを見つめていたが、その手に持つ封魔管が微かに震えているのが分かった。

 いつも冷静沈着なライドウがだ。

 

「こいつら……スレイブの素材だった人間だろ。メシア教が『要らない』って判断した人間の成れの果てなんだ……」

 

 俺の声は震えていた。怒りと恐怖と混乱が混ざり合って、頭の中がぐちゃぐちゃになる。

 ライドウは目を閉じ、一瞬だけ息を吐いた。

 

「……早計だ。集中するんだ」

 

 その言葉は静かだったが、俺はそこに迷いを見た。

 彼もまた、俺と同じ衝撃を受けているのかもしれない。

 

 レギオンの呻き声がさらに大きくなり、俺たちに襲いかかってきた。

 俺は咄嗟に横に飛び、プラズマソードで応戦する。

 フェンリルとフレスベルグも攻撃を続け、レギオンの表面がどんどん削れていく。

 

「ライドウ、動きが本格的に鈍って来た!」

 

「……ああ。フェンリル、焼き払え」

 

 ライドウの声が低く響き、フェンリルが最後の火炎の息を吐き出した。

 

 ヒャアアアアアアアアアア!!

 

 灼熱の炎がレギオンを包み込み、肉塊が溶けるように崩れ落ちる。

 人面の一つ一つが断末魔の叫びを上げながら消えていき、全て消え去って。

 やがてその場には静寂が戻った。

 

 地面には焦げた残骸だけが残り、俺は息を切らしながら立ち尽くした。

 ライドウは封魔管を手に持ったまま、じっとその残骸を見つめている。

 

 いつもと違う雰囲気だった。

 どこか虚ろで、どこか疲れ切ったような表情。

 

「ライドウ……」

 

 俺が声をかけると、彼はゆっくりと顔を上げた。

 

「サダハル。今回のことは報告する」

 

 彼は言葉を切り、視線を逸らした。

 そして

 

「……だが、君は何も言うな。いいな? 絶対だぞ!」

 

 その言葉に、俺はただ頷くしかなかった。

 胸の中のもやもやは消えない。

 

 スレイブの真実、レギオンの正体、そしてメシア教のやり方……。

 

 何もかもが俺たちの理解を超えていて、そして考えたくない事実。

 

 知ったことに蓋をしろ。

 それはライドウらしくない言葉な気がした。

 

 だけど

 何だかそう思い

 

 ……何故か、感じるものがあったんだ。




要らない人間だから改造して機械にするなんて。

さすがにそれは許されない。
略してさす許。

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