TOKYOミレニアムから40代目が旅立つまでの話 作:XX(旧山川海のすけ)
ホーリータウンの夜は冷たくて、街灯の光が俺の足元を薄く照らしてる。
ディスコ・ムーンライトに向かう途中、俺は色々考え過ぎていた。
「リアルで会おう」
「痕跡が残る」
……何を言われるんだ?
好奇心もあるけど、不安……恐怖もある。
ムーンライトに着いたのは、約束の9時の少し前だった。
店の入り口には派手なネオンサインが光ってて、中から漏れる重低音が地面を震わせてる。
ドアを開けると、熱気と音楽が一気に俺を飲み込んだ。
暗い店内は人で溢れかえってて、皆が踊り狂うことに夢中だ。
他人のことなんて誰も見てない。
確かに、密会には最適な場所かもしれないな。
「よお、サダハル! 先に来てたぜ!」
そこで店に入ってすぐに。
俺は女の子に声を掛けられた。
笑いながら手を振ってる、オレンジ色に染めた長髪の眼鏡少女。
……ちょっと待て。
こいつ多分アリババだ……
だって……
アバターとそっくりなんだよ。
なんでや……
普通、変えるだろ。
常識的に考えて……
まあ、服装がアバターのときと違うけどな。
向こうはピッチリスーツで。
こっちは所謂シブヤ系ファッションだし。
「お前……なんでアバターと一緒なんだよ」
「他人の前に姿はほとんど見せないから問題ないんだ」
……そんなもんなの?
何か納得いかなかったけど。
アリババの「奥に個室を借りたから」という言葉に従い。
俺は奥の個室ブースに案内され、そこの席に腰を下ろした。
小さいテーブルを挟んで、向かい合って座る。
「いやー、来てくれてありがとー」
彼女はフランクな調子で笑いながら、テーブルに肘をついた。俺は小さく笑って返す。
「まあな。で、早速だけど……何の話だよ?」
俺のその言葉でアリババの顔が一瞬だけ真剣になった。
彼女は深呼吸して、俺をじっと見つめた。
「うん、じゃあお言葉に甘えて、いきなり本題なんだが」
その言葉にドキドキする。
何を言われるのか……?
嫌な予感がすごくする。
「うん」
俺が頷くと、アリババは少し声を低くして話し始めた。
「サダハル。アバドンの事件……ヴァルハラエリアが消滅したあれさ。あの首謀者、ガイア教徒じゃないよ」
「……何?」
俺は一瞬固まった。頭が理解を拒否する。
アリババは俺の反応を無視して、淡々と続ける。
「センター指導部だよ。ヴァルハラエリアを消したのは、ガイア教徒じゃなくて、センターそのもの」
「待てよ、何!? 何でそんな……!」
俺の声が思わず大きくなって、アリババが「シッ!」と制した。
俺は慌てて口を閉じ、周りを確認する。
音楽と喧騒に紛れて、誰もこっちを気にしてないみたいだ。
アリババは小さく息をついて、話を続けた。
「理由はさ、ヴァルハラエリアの役目が『メシアの出身地』だからだよ。あそこは、メシアが最底辺から這い上がって、全てを救う存在としての資格を得るための場所だった。でも、メシアはもう現れた。センターにとっては、あのエリアは役目を終えたんだ」
「役目を終えた……?」
俺の声が震えた。
ヴァルハラエリアこそ、メシアが立ち上がる場所として相応しいのは納得は出来る。
仮にメシアが、センターの何不自由なく育ったエリート出身だったら……?
きっとその場合は、俺たちのような育ちの悪い人間は、心からメシアを支持するのが難しくなったかもしれない。
エリート出身のメシア様には俺たちの気持ちなんて分かるはずがない、って。
だからヴァルハラエリアの存在した理由がメシア出現の場所としての相応しいから、というのは理解はできる。
……でも、それが終わったからって何で消されなきゃいけないんだ?
マダムも、ケルベロスも、屋敷の使用人たちも……
消されないといけないようなこと、何もしてないだろ……?
それなのに「役目が終わった」ってだけで消されたのか?
まるでゴミか何かみたいに……!
アリババの話はまだ続く。
「それだけじゃないよ、サダハル」
……アリババの声が、さらに小さくなり。
俺は彼女に耳打ちされる。
……とんでもないことを。
「センターは近い将来、センターの住民以外──つまり私たちみたいな外縁の市民を全員消去するつもりだよ」
センター「メシアが出現してから消去まで時間があったでしょ? その間にセンターに上がってこれば良かったんだよ。己が怠惰を我々のせいにされてもねぇ」
本作を読んでいただき感謝です。
続きが気になる、面白かった。
その場合は評価、お気に入り、コメント等を頂けますと嬉しいです。