TOKYOミレニアムから40代目が旅立つまでの話   作:XX(旧山川海のすけ)

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第70話 俺はガイア教徒にはならない

 アレフの「ガイア教徒とは組めない」という言葉が、俺の胸に突き刺さった。

 守護神の右足を握る手が思わず強くなる。

 ライドウが静かに俺を見守り、ヒロコが「アレフ……?」と戸惑いの視線を向けていた。

 

 アレフの鋭い目は、まるで俺たちの信念を試すようだ。

 俺は深呼吸して、問いかけた。

 

「アレフさん、なんでガイア教徒と組めないんだ? センターを倒したいのは同じだろ?」

 

 アレフは一瞬、目を伏せ、ゆっくりと口を開いた。

 

「ガイア教徒は、ただ自分の欲が通らないから、動物の世界の弱肉強食を持ち出して好き勝手やってる連中だ。俺はそう思ってる」

 

 その言葉に、俺は言葉を失った。

 俺だってそう思ってたし、一部はその通りなんだろう。

 

 アレフは続ける。

 

「現行のセンターの奴らは、確かに異常で醜悪だ。ベスのことで、俺はそれを確信した。あいつらはベスの死をお祭り騒ぎのシンボルにした。信者たちをまとめ上げるための材料に使ったんだ。そしてヴァルハラエリアも、もう用済みになった、という理由で消し去った。これが邪悪でないなら、何なんだ?」

 

 アレフの声が低く震える。ベスの名前が出た瞬間、俺の胸にまたあの黒髪の聖女の高潔な生きざまが浮かんだ。

 センターが彼女の死をそんな形で利用したなんて、許せない。俺は拳を握り、思わず言った。

 

「だったら、一緒に戦おう! センターの邪悪を潰すために、ガイア教団と手を組もうぜ!」

 

 だが、アレフは首を横に振った。

 ヒロコは黙って彼を見守っている。

 彼は静かに、だが力強く答えた。

 

「……ガイア教徒にはヒトを統べることはできない。小さな範囲内で原始的な社会を作るのが精一杯だ。TOKYOミレニアムの人間を全部まとめ上げる社会なんて作れない」

 

「どういう意味だ?」

 

 アレフのその言葉に俺が聞き返すと、アレフは目を上げ、自説の理由を言葉にする。

 

「弱肉強食は原始人の理屈だ……。明確な法律がない世の中では、あれだけの人数をまとめるのは無理がある。正義同士がぶつかったとき、力の比べ合い以外に解決策を持たない社会だぞ? 君らにこの意味が理解できるか?」

 

 俺は一瞬、言葉に詰まった。

 アレフの言うことは、どこかで聞いたことのある論理だった。

 

 彼はさらに続ける。

 

「力比べで解決する社会の何が悪いか? ……それは『約束』ができないことだ。理詰めで『戦ったら大きな怪我をするから』『戦っても勝てないから』と仕方なく約束を結ぶ社会では、両者の力の均衡が崩れた瞬間、約束はあっさり反故にされる。そんな状況で、大規模な社会は作れない」

 

 アレフの言葉は、まるで刃のように鋭く、俺の心に突き刺さった。

 

 確かに「借金を10年後までに2倍にして返す」という約束が「それまでに貸主を殺してしまえば踏み倒せる」という手段が存在している社会。

 結婚しても「相手が邪魔になってきたらいつでも離婚できるし、文句を言ってきたら殺せばチャラ」そんな社会。

 

 そんなものに、メシア教が作り上げた以上の社会を作るのは不可能に思える。

 弱肉強食の摂理が絶対の社会だと……

 

 良く知らない相手と助け合えないし、深く人と結びつくことも難しい。

 

 ……確かに問題だ。

 

 俺はライドウに視線を向けた。

 彼は黙ってアレフの話を聞いているが、その目は何か考えているようだった。

 

「ライドウ、どう思う?」

 

 俺はライドウにそう訊ねる。

 彼は少し思案し、そして

 

「アレフ、私は君の言うことも理解できる。……しかし、組織で動かないと、組織には勝てないと思うぞ」

 

 今度はアレフが顔を強張らせた。

 ライドウは続けた。

 

「向こうは人海戦術も取れるし、複数同時に行動を起こしたり、情報共有して相談もできるんだ」

 

 そう、組織であれば選択できる様々な手段について口に出し

 そして

 

「それに、センターは最悪の未来に向けて既に行動を開始している。……グズグズしている時間は無いと思うよ?」

 

 その、最大の問題点を突き出した。

 

 アレフは沈黙する。

 

「ねえ、アレフ……私、彼らの言うことに一理あると思うんだけど」

 

 ヒロコがそう口を挟んだ。

 アレフの目が揺れ、ベスのことを思い出したのか、一瞬遠くを見る。

 

 ……やがて口を開いた。

 

「……俺はガイア教徒にはならない。だが、共闘ならしよう。まずはセンターの企みを叩き潰さないとどうしようもない」

 

 その言葉に、俺の胸に熱いものが込み上げた。

 ライドウが「それで十分だ」と小さく笑う。

 ヒロコが「私もそれでいいわ」と頷く。

 

 俺は守護神の右足をアレフに差し出した。

 

「これを……。残りの遺体の場所を教えてくれ。手伝うよ」

 

 アレフは俺から遺体を受け取り、頷いた。

 そして

 

「……もう残りは首だけだ。そちらの心当たりはあるから、さっさと済ませよう」

 

 なぁに。これだけヒトがいれば、簡単に終わるさ。

 

 アレフはそう言って、爽やかに笑った。




同盟関係構築!

これにて第9章は終了。
次回より第10章です。

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