TOKYOミレニアムから40代目が旅立つまでの話 作:XX(旧山川海のすけ)
労働者寮から退出し。
俺たちは人目のないファクトリーの片隅……
労働者寮傍の運動場。
そこのベンチに腰掛けて。
俺たちはそこでアリババと会話した。
アリババの声がアームターミナルから響く。
『私のせいで仕事を増やしてたんだな。スマヌ』
アリババの言葉に
「いやいや、逆に助かった」
俺は思わず笑った。
あのとき、ファクトリーでスレイブが反乱を起こさなかったら、俺たちは魔王アバドンに飲み込まれていたんだ。
だから
「アリババ、礼を言う。あの反乱がなかったら、俺たち全滅だった」
ライドウが「感謝する」と短く付け加える。
アリババが少し照れたように答えた。
『全くの偶然だ。礼を言われるのはちょっと照れ臭いな。で、ファクトリーの状況なんだが……』
アリババの口調が真剣になる。
『監視塔に妖鳥セイレーンって悪魔がいる。その歌を聞くと、エゴが抑えられて、命じられた仕事のことしか考えられなくなるらしい』
「ハッキングで分かったのか?」
俺が聞くと、アリババが続ける。
『そうだ。セイレーンは暗示を掛けられてる。魔界にいる恋人と引き離されて、その悲しみが癒えない暗示だ。深い悲しみを覚えたとき、セイレーンは自己防衛で辛い感情を抑える歌を歌う。センターはそれを利用して、労働者のマイナス感情を抑え、従順な労働者を作ってるんだ』
俺は眉を寄せた。
その説明、疑問なんだが
だから
「ちょっと待て、なんで俺たちは影響受けてないんだ?」
そこを訊くと
『それは多分、継続して聞き続けてないからだ。ファクトリーの労働者は24時間365日、ずっと歌を聞いてる。弱い毒を飲み続けるようなもんだな』
なるほど。
アリババの説明に、俺は納得した。
まるでセンターの支配そのものだな……労働者を人間として扱っていない。
「セイレーンに歌を止めさせるには?」
ライドウが冷静に尋ねる。
それにアリババが答えた。
『悲しみを止めるしかない。ただ、悲しみの歌に集中しすぎて、会話できない状態にあるようだぞ』
一番手っ取り早いのは殺すことだが。
アリババはそう言うけど
俺は
「殺すのは違う。酷すぎる」
即座に返す。
セイレーンも被害者だろ。
それにライドウが「そうだな」と頷き、俺は思案した。
「セイレーンは恋人と引き離された悲しみが癒えない暗示を受けてるんだよな?」
「そうだ。時間によってその悲しみが決して癒えないようにされてる」
そんなアリババの言葉に、俺はひとつのアイデアを思いついた。
「……恋人をここに連れてくるのはどうだ?」
しかしライドウが「無茶だ。セイレーンの恋人は魔界にいる」と即答。
だけど俺は食い下がる。
「なら、幻影でもいい! アリババ、それができる悪魔を教えてくれ、頼む!」
『ちょっと待ってくれ』
そこでアリババが少し沈黙し、そして
『……堕天使ダンタリアンだな。該当するのは』
調査してくれたのか言ってくれた。
俺は
「ダンタリアンはどうやって呼ぶんだ?」
そう訊ねるが、返って来た言葉は
『合体じゃ召喚できない。青銅の箱が必要だ』
青銅の箱……
知らないアイテムだ。
なので
「その箱はどこにある?」
そう訊ねる。
すると
『……わからん』
俺はその言葉に「それじゃダメじゃねえか!」と叫びそうになったが、寸前で飲み込んだ。
アリババは調べてくれたんだ。文句を言うのは筋違いだ。
だから
「そうか……分かったありがとう」
俺は礼を言い「他に方法を考える」と伝えた。
……そしてしばらく考えていると
「仲魔に相談してみたらどうだ?」
ライドウがそう提案してくる。
……そうだな。やってみるか。
俺はアームターミナルを操作し、自分の仲魔たちを1体ずつ呼び出した。
そして何か方法は無いか訊ねたんだけど……
コノハナサクヤを呼び出したとき。
彼女が桜の花びらを舞わせ、静かに進み出て。
言ったんだ。
「……私が説得してみようぞ」
その声は穏やかだが、強い決意に満ちていた。
俺は驚き、尋ねた。
「コノハナサクヤ、できるのか? セイレーンは会話できない状態だぞ」
「愛する者がおらず、悲しみに囚われた心は理解できるつもりだ。……私もまた、愛する者を失った神なのだ。セイレーンの心に触れられるかもしれぬ」
聞くと、コノハナサクヤはニニギノミコトという、アマテラスの孫神と夫婦の契りを交わした神なんだそうだ。
だけどニニギノミコトは……
「選択を誤り、神としての永遠の寿命を失ってしまったのだ」
辛そうに、コノハナサクヤ。
選択を誤ったせいで、寿命が定められ、普通人のように死の運命を背負ってしまったニニギノミコト。
彼女はニニギノミコトの子供を産んだけど……
当然のことながら、夫と死に別れる運命だった。
その辛さで、セイレーンの気持ちに寄り添おう。
そう言ってるのか。
……俺は
「分かった。頼む」
そう言う以外、無かったね。
魔界にはホイホイ行けませんしねぇ
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