TOKYOミレニアムから40代目が旅立つまでの話 作:XX(旧山川海のすけ)
ベルフェゴールが守っていた扉を押し開け、俺は石造りの部屋に飛び込んだ。
その部屋の中央に、緑色の衣装に身を包んだ有翼の金髪乙女がいる。
……これがセイレーンか。
顔に手を当て、泣きながら悲し気な旋律の歌を歌っている。
その歌声が耳に触れた瞬間、俺の心にざわめきが走った。
まるで自我が溶け、他人の言うことに逆らうのが面倒だというような感覚……。
……これがセイレーンの歌の魔力か。
塔の外で聞く分には何ともなかったが、直接聞くとこれは危険だ。
聞き続けると、俺も労働者のように自我を封じ込まれてしまう。
「まずい……!」
俺は耳を塞ぎ、近づけずに立ち尽くす。
このままじゃいけないのに。
ここに20代目とヘットが迫る中、時間が少ない。
だが、セイレーンの歌に近づけば心を奪われそうだ。
……どうすればいい?
そのとき、コノハナサクヤが静かに進み出た。
彼女がセイレーンに何かを言うと、突然、歌が止んだ。
俺は耳を塞ぐのをやめ、息を整えた。
セイレーンがコノハナサクヤに向かって饒舌に話し始めてる。
「……私の恋人はペテルセンって言うの。彼は音楽家の魔界人で、夢追い人で、いつも駅前で歌ってて……」
悲しみの感情はどこへ行ったのか?
セイレーンは目を輝かせ、恋人の話を続ける。
「彼の音楽はスピックって言って、フォークソングにロックンロールとラップの高揚感をブレンドした彼オリジナルの歌なの。理解するにはそれらすべてを勉強しなきゃいけないの」
「なるほど。とても好きだったのね。それで……?」
コノハナサクヤは相槌を打ち、黙って聞いている。
俺は徐々に理解した。
……コノハナサクヤはセイレーンに恋人語りを持ち掛けたんだ。
悲しみ続けるより、愛する恋人について語る方が心が軽くなり、悲しみを一時忘れられる。
コノハナサクヤ自身、夫を昔に亡くした神だからこその発想かもしれない。
……だが、時間が気にかかる。
20代目とヘットがここに迫っているんだ。
あまり時間は無い。
俺は邪魔にならないよう、小声で言った。
「コノハナサクヤ、時間が無いぞ」
彼女が静かに頷き、セイレーンに微笑んだ。
「では、セイレーン、その素敵な恋人に魔界へ会いに行きましょう。番人をたった今排除したから、不可能ではないはずよ」
「……本当に?」
セイレーンが信じられない、という顔をした。
だがその顔には期待が浮かんでいて。
そこにコノハナサクヤが続ける。
「この方と悪魔召喚契約を交わして、仲魔になればいいのよ。そしたらこの人が魔界まで連れて行ってくれるわ」
セイレーンが俺を見る。
俺は頷いた。
「俺はサダハル。セイレーン、お前をペテルセンに会わせる。契約してくれ」
そして俺はアームターミナルのキーボードを叩き、契約同意書を呼び出した。
空中に投影される契約同意書。
「さぁ、署名をしてくれ」
俺の言葉にセイレーンが一瞬躊躇したが、コノハナサクヤの笑顔に背中を押され
「分かったわ」
そう答えた。
そしてセイレーンの真の名が契約同意書の署名欄に署名されたとき。
アームターミナル内の仲魔一覧に妖鳥セイレーンの名が追加される。
セイレーンとの契約が成立。
これで、ファクトリーで労働者を洗脳する存在が居なくなったんだ。
俺が部屋を出ると、廊下ではエグゼクターの戦いがほぼ終わっていた。
6人いた粛清部隊は、残り1人にまで減り、その最後の1人もライドウのフェンリルがファイアブレスで焼き尽くしていた。
「の、呪われよぉぉぉっ!」
最期の呪いの言葉を残し、エグゼクターが倒れる。
ザインが拳を下ろし、息を整える。
そしてライドウが俺を見て、言った。
「サダハル、済んだのか?」
「ああ。セイレーンと契約した」
俺が頷くと
「なら脱出だ。長居する理由はない」
ライドウがそう返す。
……20代目とヘットが迫る中、監視塔に留まるのは危険だ。
ザインが「行くぞ」と呟き、俺たちは走り出した。
ファクトリーを解放すれば、TOKYOミレニアムの衣食住に無視できないほどの影響が出るはずだ。
次に俺たちは何をやっていくべきなのか。
でも、前には絶対に進んでいるはず。
俺はそこは疑っていなかった。
ペテルセンは多分悪魔では無いと思うんですよ。
魔界人ではないかと。
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