TOKYOミレニアムから40代目が旅立つまでの話   作:XX(旧山川海のすけ)

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第89話 解放された奴隷は

「ここから地下世界に逃げるんだ。もうお前らは自由だ!」

 

 俺たちは監視塔を出て、足早に多数の労働者が働く農場に向かった。

 そこで言ったんだ。

 監視塔の悪魔セイレーンを仲魔にすることで排除して、洗脳システムを破壊したと。

 だからあんたらはもう自由なんだと。

 

 だが、その反応は予想外だった。

 誰も喜ばなくて……

 

 多くの労働者が戸惑い、顔を見合わせていた。

 

 やがて……こんな不安の声が上がり始めたんだ。

 

「地下世界に行くなんて恐ろしい……悪魔の世界なんだろ?」

 

「ガイア教徒の支配する地獄だって聞いてるけど……?」

 

 情報が無いから、そう思うのも当然かもしれない。

 だから俺はその言葉に応える。

 

 誤解を解くために、本当の地下世界の状況を喋ったんだ。

 

「ガイア教徒はかつての振る舞いを反省して、伝え聞くほど酷い奴らじゃなくなってる! そして地下世界は安全じゃないが、この世の地獄ってほどでもないぞ!」

 

 だが……

 

 そこで返ってきたのは感謝ではなく、怨嗟だった。

 

「何を勝手なことをしてくれてんだよ!?」

 

「英雄気取りか、クズが!」

 

「ここは黙って働いていれば楽だったんだよ!」

 

「俺たちの楽園を壊しやがって!」

 

 労働者たちが俺たちを睨み、憎悪を向ける。俺は愕然とした。

 

 こいつら、洗脳状態の方が良かったって言うのか?

 セイレーンの歌に操られ、自我を抑えられ、死ぬまで奴隷として働くことが「楽園」だって?

 

「あんたら、俺の言ったことを聞いて無いのか!?」

 

 思わず言った俺の言葉に

 

「だから勝手なことをするなって言ってんだ! ありがた迷惑なんだよ!」

 

 ……ありがた迷惑だって?

 俺の脳裏に、スレイブにされた人々の恨みの言葉が蘇った。

 

 あの人たちはメシア教に要らないと思われた人の成れの果て。

 あんな人たちを出すことを平気でやるセンターのやり方が許せず行動を起こしたのに……

 

 それを、ありがた迷惑だって?

 

 ……ふざけんなっ

 

 そして俺が激昂して言い返そうとした瞬間だった。

 その前にザインが飛び出したんだ。

 

 無表情のまま、彼は喚き散らす労働者たちをいきなりぶん投げ、素手で殴り飛ばした。

 

「ぐはぁ!」

 

「やめろ!」

 

 労働者が悲鳴を上げるが、ザインは止まらない。

 数人がかりで腕に掴みかかっても、まとめて投げ飛ばされる。

 

 ……いや、掴みかかってきた労働者を鈍器代わりに使い、他の労働者を殴りつけてる。

 

 血と汗が飛び散り、農場が混乱に包まれる。

 

 そこでザインの声が低く響いた。

 

「君たちは恥ずかしくないのか?」

 

 怒りの表情では無く、むしろ悲しげに

 

「君たちの言い分は美しいのか?」

 

 その本心を問いかける口調で話しながら

 

「どうなんだ? 答えるんだ」

 

 ザインは一方的に労働者を叩き伏せていく。

 

 その静かだが、あまりにも激しい怒りに……俺は動けなかった。

 

 俺の胸に渦巻いていた怒りが、ザインの行動を目の当たりにして急速に萎んでいく。

 確かに、労働者たちの言葉は許せなかった。

 ふざけんなと思ったよ。

 

 だけどこれは……違うだろ。

 

 ザイン、やめろ!

 

 そして俺がそう叫ぼうとした瞬間だった。

 その前にライドウが先に口を開いたんだ。

 

「ザイン、いい加減にしろ。私たちは別に感謝されるために行動を起こしたわけじゃないだろう」

 

 ライドウの落ち着いた声が、混乱の広場に響く。

 その言葉にザインが動きを止め、血に濡れた拳を下ろした。

 

 そして暴力から解放された労働者たちが怯え、ひれ伏す。

 

 ライドウが俺たちに視線を向け「サダハル、ザイン、行くぞ」と言った。

 ……その目には何も動じていない、強い光がある。

 

 そこに、アリババの緊急通信が入ってきた。

 

『サダハル、お前のいう20代目とヘットが監視塔から出て来た。グズグズしていられないぞ』

 

 ……マジか。

 だったらとっとと移動しないと。

 

 連戦はキツい。

 いつかは戦わないといけないが、それは多分今じゃ無い。

 

 そう思い、俺たちは次の目的地であるホーリータウンに向かおうとした。

 

 そのときだ

 

「……待ってくれ」

 

 呼び止められた。

 最初は「地下世界まで護衛してくれ」と言われるかと思った。

 

 その場合は断るつもりだった。

 流石に今の俺たちにそんな余裕はないから。

 

 だけど

 

「……急いでんだけど?」

 

「ありがとう」

 

 いきなり礼を言われた。

 どういうことだ?

 

 理由が分からず硬直する。

 

 けれどもその労働者の男は、そんな俺にはお構いなしに言い続けた。

 

「助けてくれてありがとう!」

 

 お陰で俺たち、自分で自分を救うチャンスを貰えた!

 最初からこの言葉を言えなくて悪かった!

 

 ……それを聞いて俺は思ったよ。

 

 さっきみたいな言い分の奴は声が大きいだけで。

 本当はこの人たちみたいな人が大半なのかもしれないな……

 

 だから俺は

 

「……どういたしまして」

 

 別に平凡で面白みも無い言葉だけど。

 彼の言葉にそう返したんだ。




次の目的地はホーリータウン。

ここで第11章終了です。
次回から第12章。

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