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天愛星さんとキリノキ高校の文化祭に行く約束をした次の日の放課後、俺は文芸部の部室で一人読書に勤しんでいた。
焼塩は陸上部、小鞠は弟の保育園が休園らしく帰宅、白玉さんは委員会の仕事と、今日は各々忙しいらしい。
八奈見は普段通り部活に来るはずだが、未だ来ず。
突然、部室の扉が読書中の静寂を破り、八奈見が入ってくる。
「遅かったね。八奈見さん」
「……うん」
明らかに不機嫌な様子の八奈見。これ面倒くさいヤツだな。
「えーっと、何があったか聞かなくていい?」
「今朝、華恋が何かのパンフレットを読んでたの」
俺の提案を無視して話し続ける八奈見。
話し相手が欲しいだけなら、カカシでもあげようか。
「何なのか聞いてもなかなか答えてくれなくてさ。拒否されたら余計に気になるじゃん?だからしつこく聞いちゃったの」
「聞いちゃったか」
「聞いちゃったの。そしたらさ、何だったと思う!?」
「さっぱり見当つかないな」
「……文化祭のパンフレット、だよ」
全く頭を使わずに相槌を打っていると、タイムリーな話題が出てきた。
「温水君が知ってるわけないか。まぁそうだよね。実は――」
「もしかして次の日曜日にあるキリノキ高校の?」
「――知ってたんだ。どうして?」
八奈見が少し眼光を鋭くして俺を見る。
昨日のことを話すのは面倒だし、適当な嘘でごまかすか。
「佳樹の志望校選びで調べてさ」
「ふーん……。まあ抜け駆けしないならいいか」
「なんて?」
「なんでもなーい」
とてもなんでもない事を言うトーンじゃなかったが、これ以上踏み込むと厄介そうなので素直に手を引くことにする。
「話を戻そうよ。姫宮さんたちが文化祭に行くんだろ。でもカップルなら普通のことじゃないか?」
「何も分かってないね、温水君。なんて言ったって、次の日曜はあの日じゃん、あの日……」
「あの日?」
八奈見は言いづらそうにもじもじと体を小刻みに揺らす。
「分からないんだけど、何の日なの?」
八奈見が重い口調で話し出す。
「……二人が付き合って1周年記念日だよ」
「あー……」
それはつまり、八奈見が振られてからちょうど1年ということでもある。
「最近は収まってきてるけど、カップルというは記念日になると何をやらかすか分からない生き物なの」
「そうなんだ」
「そうなの」
八奈見がさも真理のように語る。
八奈見は一人でもやらかしているのですがそれは。
「だから、私たちが監視しなきゃなの。どうせ温水君のことだから日曜空いてるでしょ?」
「いや?」
「うんうん!そうと決まれば早速作戦会議だね!やっぱり食べ物は欠かせないかな……。焼きそばに綿あめ、あと焼きそば――」
俺の返答など気にも留めず、頬杖をつき天井を仰ぎながら妄想を膨らませる八奈見。
普段の日曜ならオールウェイズ暇だが、今回は違う。
「――あぁ、考えてたら楽しみになってきたー!いざ、キリノキ高校文化祭へ!」
「ごめん八奈見さん」
「ん?」
「日曜日は予定が入ってて……」
「え」
先程までとは打って変わって、八奈見は目を見開く。
恐れるな俺。行けない旨をしっかり伝えるんだ。
「つまり、その、行けな――」
ギラリ、そう聞こえるほどに八奈見がこちらを睨む。
「ひっ!?」
「……ねぇ温水君。抜け駆け禁止の話はどこいったのかな?かな?」
「ぬ、抜け駆け?」
「私たち友達だよね!?小説一巻のラストに相応しいあの告白はどこいったのさ!」
「何を言ってるの八奈見さん!?」
思わずメタ発言をするくらいには冷静さを欠いている八奈見。
こんな状態の八奈見と落ち着いて話せるわけもないので、選択肢は逃走一択だ。
「ごめん八奈見さん。ちょっと用事を思い出したから、先帰るね。帰るときは部室の鍵を閉めて、小抜先生に終了報告よろしく!」
「ちょ、ちょ待っ!話終わってないって!」
「またあし、わ!?」
まとめておいた荷物を掴み、木村杏菜を置いて帰ろうと扉を開けると、ツワブキ高校の生徒が立っていた。
「白玉さん?なんでここに……」
「こんにちは、部長さん。遅れちゃいました、テヘ」
右手で頭を叩くフリをする白玉さん。あざとい。
「今来た、って訳じゃないよね。どこから聞いてた?」
「え〜っと〜……」
顎に手を当て、考え込む白玉さん。だからあざといって。
「部長さんがカカシを買うことを検討したときからですかね?」
「ほぼ最初からじゃん……。てか、それ地の文じゃ!?」
「えへへ、たまたまです!」
純粋な恐怖しか感じない。なんか今日、メタ発言多くないか?
「ちょうどいいところに!リコちゃん!温水君を取り押さえて!」
「承知しました!」
俺が思わず動きを止めたのを見逃さず、八奈見が声を上げる。
だが、こちらを捕まえようとする腕を最小限の動きで避け、難なく抜け出す。元GHQ(Go Home Quickly)を舐めてもらっては困るな。
「くっ!こんな時に限って無駄に素早いっ!」
「じゃあね、八奈見さん、白玉さん!また明日!」
そう言い残し、俺は廊下を駆ける。ふっはっは、今の俺は風だ!
* * *
高二フロアまで逃げた俺は、荒れた息を整えながらある人を探していた。
隣の教室をのぞき込み、目的の人物を探す。
「あっ、温水君!」
「こんにちは、姫宮さん」
姫宮さんだ。やはり八奈見を見てからだと眩しく見えるな。
「うちのクラスに何か用でも?」
「実は姫宮さんに用事があって」
「私?ちょいっと任せなさいな!」
胸に拳を当てる姫宮さん。
頼もしい。自信に満ちているところも八奈見には無い部分だ。
「実はキリノキ高校の文化祭のパンフレットが欲しくて」
「あーね?なるほどなるほど……」
姫宮さんは何かを察したかのように深くうなずく。
「賢い私にはどういう意味か分かっちゃいました!」
「えっと……」
「おっと!みなまで言わなくてもいいんだよ?私には全部お見通しだからね!」
俺が天愛星さんと文化祭に行くことは、どうやら姫宮さんにはバレてるらしい。
天愛星さんのことを言った記憶はないが、全部お見通しとは流石姫宮さんだ。
「それでパンフレットってどこでもらえるのかな?」
「あー、それなら私のパンフレットをあげるよ」
そういってカバンの中からパンフレットを差し出してくれる姫宮さん。
「ありがとうだけど、いいの?」
「全然大丈夫!草介がもう一部持ってるから、余っちゃうところだったし」
「そういってくれると助かるよ」
ありがたく受け取り、俺は自分のカバンの中にしまう。
「ありがとう、姫宮さん。また明日」
「うん、また明日!週末はお互い楽しもうね!」
こちらに向かって手を振ってくれる姫宮さんに、俺も手を振り返しながら帰路へと着く。
パンフレットも手に入ったし、明日は天愛星さんと文化祭の詳しい内容を詰めるとしよう。
天愛星さんに明日の予定を聞くため、俺はスマホを取り出した。
「あーあ、行っちゃいましたね」
「くそう、詳しい話を根掘り葉掘り聞きたかったのに……」
「八奈見先輩、私の予想だと部長さんは週末に女子と文化祭に行く予定だと思います」
「やっぱり?そうと決まれば対策会議だね!白玉ちゃん、準備はいい?」
「もちろんです!文芸部の総力を挙げて、必ず部長さんの予定を聞き出しましょう!」
「「おー!!」」