ようこそ俺の実力至上主義のまちがった青春がある教室へ   作:ゆっくりblue1

1 / 26
pixivに投稿している作品を投稿します。第一話


入学日がこんなやばい(白目)ので、既に胃が痛い。

突然であるが、『自由』とはなんだろうか。生活の中での食事、就寝時間、趣味、学校や職業の選択など。他には住居選択の自由、思想、宗教、商業などでの物品の販売。

 

 

そして其れ等は国によっても違いがある。少なくともこの法治国家であり、資本主義社会を形成する日本にとってはとても寛容であるが、それと同時にシビアであり、序列が明確だ。その序列の最上位を目指す為にこの国に住む人々は競争する。

 

 

そしてその競争をすることもまた自由であること。まあ、他人によって定義は違うだろうが俺にとっての自由は、これから向かう政府公認兼経営の東京に建立する『高度育成高等学校』で目立つ事無く、平穏無事に過ごすことだ。

 

 

そう思いながら桜の花が舞い散るのを見ながら目的地に向かうバスに乗り込む。そしてバスに乗り込むと通勤通学の他の学生やサラリーマンやOL、更には何処か遠出する為にバスを早くから利用するお年寄りの姿と様々だ。結構な人が乗ってんな……座る場所は。

 

 

そう考えながら相席者のいない空いている席に座る。座ると鞄からラノベを取り出して、中身を開く。するとその時、自分以外の影が読んでいるラノベの紙を覆った。俺は視線を上げると、そこには銀髪のサイドテールが特徴的なベレー帽を被ったまるでお伽話に出てくる浮世離れした美貌の小柄で杖を突いた少女が肩に鞄をかけて存在していた。俺は動揺して身体を背後に反らしかける。すると少女は中学時代の頃にネタにされた原因である腐った瞳を真っ直ぐと見詰めて言った。

 

 

「済みませんが相席してもよろしいでしょうか?」

 

 

「あ、あぁ、はい。ど、どうじょ………」

 

 

目の前の美少女に急に話し掛けられた所為か、動揺してかみっかみで了承の返事をする俺。……うわぁ、凄え死にてえ。穴があったら入りたい。そしてこの応対を今直ぐ記憶から消し去りたい。俺が心中で新たな黒歴史が刻まれたことに悶えていると、件の少女は俺の反応が少女の琴線にふれたのか、くすりと笑った。

 

 

「ふふ、うふふっ……そんな緊張なさらず。貴方と私は同じ目的地に向かうようですし」

 

 

少女の言葉に俺は少女の服装が同じく高度育成高等学校の制服であることに気づいた。このバスに乗るってことは同じ新入生か。そう思っていると、少女は続ける。

 

 

「折角ですし、自己紹介をしておきましょう。私は坂柳有栖と言います。以後、お見知り置きを」

 

 

「……比企谷八幡だ。どうせ関わることがないと思うから憶え無くてもいい」

 

 

「そんな寂しいことを言わずに。それに何と無くですが、貴方とはこれから関わることが多そうです」

 

 

バスが出発して、その際にスルリと静かに相席して杖を両手に持ちながら、そう微笑みかけてくる坂柳。その笑みは何処か得体の知れない底知れなさを感じて、顎が引き気味になった。て言うか眼の腐った奴と関わることが多そうってヤバくね?そう思っていると、坂柳は俺の持っているラノベを見ると、聞いてきた。

 

 

「本を開いていますが比企谷君は読書好きですか?」

 

 

「……それなりには読むが」

 

 

そう答え、視線をラノベに向けて読み進めていると、何やら騒めきが聞こえてきた。その声に視線を向けると、何やらOLと金髪のガタイの良い男が言い争っている。そのOLの隣にお年寄りの女性がいた。男が座っている場所は優先席で、辛そうにしているお年寄りを見兼ねたOLが男に頼み込んでいるのだろう。

 

 

「君、其処は優先席だからお年寄りの肩に譲ってあげてよ」

 

 

そのOLの言葉に男は鼻で笑って、その申し出を断った。曰く、優先席はあくまで優先であって法的強制力はないので退く義理は無いとの事。正しく自己中心的で屁理屈な答えだが、今時、そんな悪目立ちする行動を起こす人間は珍しい。俺は僅かに驚いていると、隣からクスっと笑いが洩れる声が聞こえた。俺は怪訝に思って坂柳を見る。

 

 

「……ふふ、中々に面白そうな人ですね。彼は」

 

 

「……面白そうって、あれがか?」

 

 

思わず返事をしてしまった。俺は絶対に関わりたくねえ人種だ。現時点で隣にいる坂柳も含めて。平穏無事な学校生活が一瞬で瓦解するだろう。見ればあの男だけでなく、俺と隣の坂柳を含めて同じ制服を着た奴が何人もいた。結構多い。しかも滅茶苦茶個性が強そうな奴だらけだ。金髪自己中ナルシスト男、黒髪長髪の眼のキツイ美少女に、ナルシスト男の説得に行った茶髪ショートのスタイル抜群な裏の顔がありそうな美少女、そして黒髪長髪の美少女の横に座っている感情の見えないイケメン。茶髪ショートの裏のありそうな女子と感情の見えないイケメンは特にヤバそうな気がする。俺の得意な人間観察で15年間培った感覚が静かにそう告げている。

 

 

そしてそうこうしているうちに茶髪ショート女子は金髪ナルシスト男の説得を諦め、他にお年寄りに席を譲ってくれないかを呼びかける。ぶっちゃけ俺は退く気は無い。今動けば目立つ上に、面倒くさい。妹に知られたらごみいちゃん呼びは確定案件だが、今回は勘弁してもらう。

 

 

「貴方は動かないんですか?」

 

 

どういう意図があるのかはわからないが小声で席を譲らないかを聞いてくる坂柳に俺は小さく溜息を吐いて言った。

 

 

「……今動けば目立つ上に面倒だからな」

 

 

「…まぁ、私も同意見ではありますが、もっと他に理由はないものですか?その言い方は聞く人によってはかなり気を悪くしますよ」

 

 

俺の意見に呆れたように言う坂柳。俺はその言葉にバツが悪くなって目を逸らして、外の景色を見る。すると、目的地である高度育成高等学校が見えてきた。そして優先席の騒動にも決着が着き、近くのサラリーマンが席を譲っていた。俺はラノベを鞄にしまって、バス停に到着するのを待つ。坂柳も杖を突いて荷物を肩にかけ、立ち上がる準備をしている。

 

 

そしてバス停に着いた。高度育成高等学校の制服を着た奴等が金髪ナルシスト男を先頭にぞろぞろとバスを降りるので、俺も降りようと動き、バスを降りたとき、背後に坂柳がいることを確認する。そして振り向いて、途中で止まっている俺を怪訝そうに見ている坂柳に向かって手を差し出す。すると、坂柳は最初はキョトンとした表情を浮かべていたが、俺の意図に直ぐに気づくとクスッと笑った。

 

 

「おや、意外ですね。先程とは違って助けるのですか?」

 

 

おっと、皮肉はやめてくれよな……八幡豆腐メンタルだから泣いちゃうよ?決してこの時のことを弱みにされることを恐れた訳ではない。決してない。…多分。その言いように俺は顔を顰めて、言い返す。

 

 

「…他意はねえよ。……嫌なら別に良いが」

 

 

「ふふ、冗談ですよ。では御好意に甘えて」

 

 

そう言って俺の手を取って、バスを降りる坂柳。荷物を持つつもりで差し出したのだが……俺は坂柳を見ると、当の本人は愉しそうに此方に笑みを浮かべている。此奴…確信犯だろ絶対。その様子を睨んで俺は言った。

 

 

「……おい、荷物を持つつもりで手を貸したんだが?何で手を握ってるの?」

 

 

真面に家族以外で女性の手を握ったのはコレが初めてだ。て言うか何で女の子の手って柔らかい上に生暖かいのん?俺はドッキンコと心臓の鼓動が早くなっていくのを認識する。それにしてもいつまで握ってんの?

 

 

「あぁ、すいません。てっきり貴方が紳士にも手を貸して私の補助をしてくれるのだと思ったので。まあでもこのまま連れて行ってもらえませんか?私としても楽なので」

 

 

「いやいや、俺は目が腐った奴だぞ?いつまでもお前が手を握ってたら嫌ってほど目立つし、下手すりゃ通報されるから」

 

 

中学校の時、偶々一緒の通学路で前の方を歩いてた女子にストーカー呼ばわりされて危うく通報されかけた。俺は20メートルくらいは離れてたのに気づくって逆に怖い。何にしようが通報しようとした女子は絶対許さないノートに殿堂入りを果たした。そう遠い目をしながら言うと、坂柳は苦笑しつつこう言った。

 

 

「大丈夫ですよ。貴方がしていることは困っている女性を助ける行為なのですから。仮に通報されても事情を説明すれば良いでしょう?それとも恥ずかしいのですか?」

 

 

そう言って揶揄いながらも手を離すことなく歩いて行くので俺もその動きにつられて歩き出す。手を振り払おうと思えば振り払えるのだが、坂柳は歩行に何かしらの障害を患っていると考えられるので振り払おうとすれば怪我をするかもしれない。本人はそれを逆手にとって俺が振り払おうとすることがないと確信している。打算の高い奴はこれだから苦手なんだよなぁ……俺は溜息を吐いて言った。

 

 

「一緒に行くからとりあえず手は放してくれ。入学早々目立つのはゴメンなんだよ」

 

 

「ふふ、良いでしょう。まあでも逃げだそうとしても無駄ですけどね」

 

 

そう恐ろしいことを言う坂柳にげんなりしつつ、手を解放してもらった俺は逃げ出さずに坂柳の隣を歩く。逃げ出したらヤバい報復がある事はこの短い間に坂柳の印象から予感がするので逃げない。荷物は良いと言われたのでそのまま自分のクラスが書かれた掲示板の所に向かう。俺のクラスは……

 

 

「私のクラスはAクラスですか……比企谷くんの名前はありませんね。少し残念です……比企谷君のクラスはDクラスでしたか」

 

 

坂柳みたいな奴意外が言ったら中学の俺なら勘違いしていたが、此奴の事だ。俺と言う玩具が居ないことを残念がっているのだろう。訓練されたエリートボッチの俺は勘違いしない。決してドキドキしてない。してないよ?本当だよ?ハチマンウソツカナイ。俺は静かに言う。

 

 

「……これでもう関わりがなくなるな。安心s「今度の休み時間お迎えにあがりますね」……勘弁してくれ」

 

 

何て恐ろしいことを言いやがるんだこの銀髪っ子は。休み時間は教室に居れなくなるじゃねえか。さてはそれが目的なんじゃね?……何処か一人で過ごせるベストプレイスを見つけとかなければ俺の平穏無事なスクールライフが完全に危うい。俺は溜息を吐いて、自分の割り当てられている教室に向かおうとすると、坂柳は呼び止めてきた。

 

 

「待ってください。連絡先を交換しましょう」

 

 

「ことわ「此処で断ったら今此処で泣きますよ?」……はぁ、分かった分かった。交換するからこれ以上は勘弁してくれ」

 

 

その脅しを聞いて、バスの中で話し掛けられた時点で俺の平穏無事なスクールライフは終わってしまったんだな。と回避ルートの無い現実に嘆きつつ、坂柳の連絡先が目覚まし付きの暇つぶし機であるスマホに追加された。何気にこの学校に来て初めての連絡先交換だが、嬉しいと思えないとは。そして俺は今度こそ教室へと足を運んでいく。

 

 

途中までは坂柳もついて来て、その際に何人かの男子からの嫉妬の視線と女子の好奇な視線を向けられて心底居心地が悪い。そしてその視線に紛れて廊下の天井からも見られている感覚がしたので視線を上にすると、そこには無機質な監視の眼があった。端の視界に映る坂柳も俺と同じように確認している。

 

 

監視カメラ………常に見られていると考えたら落ち着かねえな。生徒が問題を起こしたときに備えているんだろうが、此処が最新設備を導入しているとはいえ、ここまで厳重なのは違和感がある。

 

 

坂柳は特に気にした様子もなくAクラスに入っていった。そして俺はそのままDクラスの教室へ入る。

 

 

教室へ入ると、既に何人かの生徒がいた。そして一緒に乗り合わせた見憶えのある生徒が何人かいた。てか、全員居るし。金髪ナルシスト男は椅子に座って脚を組んでいて、茶髪ショートの女子は早速初対面の奴と会話を弾ませていて、黒髪長髪のツリ目の女子は感情の見えないイケメンと何やら会話をしている。

 

 

「……関わらんとこ」

 

 

そう呟き、ふと何かにジッと見られているような感覚を感じた。今まで培われたボッチ特有の察知力を活かした俺はその元であった天井に視線を送ると、そこには小さな全方位を監視するカメラがあった。赤い点が薄っすらと見えた。如何やら起動中のようだ。

 

 

此処にもって……普通学校の教室に付けないだろ。政府公認の学校は一体何を目指してんの?学校のパンフレットを見たが"入学時から三年間、特例を除いて学校の外部の連絡を禁ずる"。ってあったし。この項目さえ知っていればこの学校に行くことは無かった。だって妹の小町に顔も合わせられないとか俺には死活問題だし。

 

 

親父にやってみろって言われて、偏差値を比較して元々の第一志望だった総武高校を第二志望にして此処を第一志望にしたのが間違いだった。合格した事知ったら異様に機嫌が良くて気持ち悪かったのはこういうことだった。この事を知ったときには取り消して貰おうと足掻いて家族全員に滅茶苦茶怒られた。

 

 

結局、小町にそんな我儘言うんだったら絶縁する。って脅し文句が決め手になってこの学校に行くことが確定してしまった。本気で親父に殺意が湧いた瞬間であった。卒業したら絶対に倍にして返してやる。親父のへそくりとか、隠れてキャバクラに行っているなどのネタは山程あるからな。

 

 

そんなことを考えて、ラノベの続きを読む。そしてある程度の時間を潰していると生徒も増えて騒めきが増す中、教卓側の扉からグレースーツを着たポニーテールの眼の鋭い女性が入ってきた。あの女性がこのクラスの担任か。

 

 

「今から入学案内の説明とLHRを始める。喋っているのは良いが、席に着け」

 

 

そう言われて会話を弾ませていた生徒は各々の席に座る。俺もラノベを鞄にしまって話を聞く姿勢を取る。その様子を確認して、女性は話を始める。

 

 

「まず始めに、この高度育成高等学校への入学についておめでとうと言っておこう。クラスの数は4つにA〜Dに分類される。そして私がこのDクラスの担任となる茶柱だ。この学校には他の学校と違い、この三年間で学年が変わる毎に行われるクラス替えと言ったものはない。そして担任の変更も同様なので三年間一緒に学んで成長していくことになるのでよろしく」

 

 

淡々と説明していく茶柱先生。にしても三年間のクラス替えが無いってどう考えても何か裏がありそうなんだが。

 

 

「今からこの学校の概要についての重要事項を説明するからよく聴くように。質問は説明後に受け付ける。まず、この高度育成高等学校の関係者以外の外部の人間との連絡や外泊を入学後からの三年間は特例の事例以外では原則禁ずることだ。特例の事例とは事件事故などの出来事や部活動での大会などだ。その代わりとして本校の生徒の為に寮が用意されていたり、不便にならないように商業施設や医療機関、娯楽を扱う施設と豊富に建てられているので安心しても構わない。また、当校は虐めについては厳しいのでそのようなことが無いように心がけて貰いたい」

 

 

「そしてこれが一番の重要事項だ。この学校では商品やサービスを売買する為に『Sシステム』と言われる仕組みでキャッシュと言った類いの代わりに『プライベートポイント』と言ったポイントで賄うことが可能だ。今からそのポイントが入っている学生証を配るので紛失しないように厳重管理しておくように」

 

 

そう言われて配られた学生証と言う名のアプリには自分の名前に"10万ppt"と表示されていた。その額の高さに驚き、思わずアメリカ通貨式かと疑うが、その思いを茶柱先生は否定する。

 

 

「このポイントは日本の通貨と同じく1ポイント=1円だ。つまり10万だ。当校は生徒の実力を測っている。よってこの学校に受かったご褒美として使っても、節制するにしてもそれは君達の自由だ。そしてこの学校でこのプライベートポイントを使うにあたって、基本的に学校内で買えないものはない」

 

 

その言葉と学生証のpt金額を目の当たりにして、生徒達は色めき出した。こそこそと何に使うか話し合いを行う程に。しかし冷静な生徒もいるようで真剣な表情で茶柱先生の話を聞き続ける。

 

 

「そしてこのpptは毎月の月初めである1日に配当される。これで大まかな重要事項の説明については終了だ。何か疑問点などはあるか?」

 

 

明らかに過剰と言えるpptの多さや監視カメラの事など疑問はあるが、この場では聞かない。聞いたら注目の視線を浴びることになるからな。そう思っていると疑問を挙げる生徒は爽やかイケメンの他に誰も居らず、そのままLHRに入って、最後に茶柱先生が2時間後に体育館で部活動のオリエンテーションがあり、見学は自由参加であることを言われて、LHRは締めくくられた。そして茶柱先生が教室を去った後自由時間になったときに質問していた爽やかイケメンが席から立ち上がって話し始めた。

 

 

「少し良いかな。これから三年間一緒に僕達は集団として行動することになるよね。僕は円滑でより良い関係性を持ちたいからこの時間を有意義に使って自己紹介の時間を設けようと思うんだけど、如何かな?」

 

 

そのイケメンの言葉に大半の生徒はイケメンのフィルターも相まって好意的だが、そう思わない奴も出てくる。その反対意見を言ったのは赤く丸刈りにした頭のガタイの滅茶苦茶良い不良然とした男子生徒だった。

 

 

「けっ、今時自己紹介って小学生かよ。馴れ合う為に俺はこの学校に来たんじゃねえ。俺はやらねえから勝手にやれ」

 

 

そうメンチを切るように言った後、その男子生徒は乱暴な動きで席から立って教室を出ていく。それを皮切りに他に自己紹介する気がない何人かの生徒も出て行く。その中には金髪ナルシスト男や黒髪長髪ツリ目女子の姿もあった。俺も怠いので静かに荷物を纏めて席を立ち、ぼっちの108ある得意技の一つである常時気配遮断術ーーーステルスヒッキーを用いて目立つことなく、教室を出る事に成功した。

 

 

そして廊下に出て、向かう先は職員室。先ほど質問しなかった疑問を話しに行くのだ。正直、職員室にはあまり立ち寄りたくない。それどころか呼び出されても行きたくないまであるが、疑問を疑問のままにしておくのはもっと気持ち悪いし、何より確実にこの学校は重要な何かを隠していると思ったので職員室に向かう。

 

 

そしてまだ学校上の構図を全く知らないので何度も迷いそうになるが、やがて職員室の表示された部屋に着いた。此処にくるのにも何台かの監視カメラがあったので一応場所の把握する為に写真に収めておいた。そして職員室前の扉をノックして常套句を言う。

 

 

「失礼します」

 

 

その声に応答があり、入室の了承を得られたので扉を開ける。そして中には何人かの教員がいて、此方を向いてきた。やっぱ慣れねえな。すると、1人のゆるふわウェーブのピンクに近い染め上げられた髪に容姿の良い女性が聞いてきた。

 

 

「はいはい、君の名前と学年クラスを言ってね。職員室の誰に用があるの〜?」

 

 

その女性は微笑みを浮かべながら此方に来て聞く。その時に距離感が近かったので一歩だけ後ろに下がって言った。

 

 

「……ひ、比企谷八幡、一年Dクラスです。茶柱先生に用がありまして」

 

 

何とか噛まずに用件を伝えると、職員室に居たようで話が聞こえていたのか茶柱先生が来て、用を訪ねてくる。

 

 

「用件は何だ、比企谷」

 

 

「…さっきの事項について二つほどあります」

 

 

その言葉に茶柱先生は眉根を上げて怪訝そうに言った。

 

 

「何故あの場で聞かなかった?」

 

 

「……目立つのは嫌いなので」

 

 

俺のその言葉に対して、そうか。と言ったので質問する。その時僅かに苦虫を噛み潰したような表情をしたことに俺は気付いたが、何もしてない俺は疑問に思う事なく言った。

 

 

「それで、一つ目なんですけど。この学校に異様なまでの監視カメラ、廊下はまあ何と無く分かるんですけど。教室にまで設置されているのは何でです?」

 

 

そう質問すると職員室の空気が揺らぎ、重くなったように感じた。そして茶柱先生は平然と応える。

 

 

「……各々のクラスの生活態度を記録するためのものだ。教師だけでは見きれない部分が如何しても生じるからな」

 

 

「…分かりました。そして二つ目なんですけど、pptって本当に毎月に配当されるんですか?」

 

 

「…それはどう言う意味だ?」

 

 

先ほどの質問では表情を崩さなかった茶柱先生だったが、この質問ではあからさまに驚きで目を見開いている。ビンゴか。やっぱり何か重要な事を茶柱先生は言っていない。しかも茶柱先生だけでは無く、職員室にいる教師達も同様な表情を見せている。

 

 

「そのままの意味ですよ。はっきり言って義務教育を終えて間もない子供にここまで尽くすような仕組みは変過ぎるんです。クラスの生徒の数は40人は居ました。他のクラスもそれくらいの人数でしょう。仮に毎月10万ものpptを配当されるとして1クラスだけでも一年間で4,800万pptの出費になる。それを三年間、続けるのなら1億は余裕で越える。どう考えても怪しいでしょう」

 

 

「………その質問には来月になったら分かると言っておこう」

 

 

そう答える茶柱先生。その言葉で俺の中での推測が確信に変わった。無償の善意程、疑わしいものは無い。こんな都合の良い展開には絶対に裏があるのはフィクションだろうと現実だろうと同じだ。

 

 

「他に質問は?答えられることは答えるが…」

 

 

「…いえ、充分です。ありがとうございました」

 

 

収穫はあったので俺は頭を下げて退室した。部活動のオリエンテーションには興味ないし生活用品とか必要だろうからコンビニに行くか。そして昇降口に向かっていると、家族と○mazonの連絡先が消えて全く鳴ることが無い筈のスマホが振動する。間違い電話か?一応確認すると件名は最初に此処で番号を交換した人物からだった。

 

 

「うわぁ……凄え無視してえ」

 

 

別に充電が切れたとか、気付かなかったって事にすれば良いだろ。ぶっちゃけ彼奴怖過ぎて相手にしたくない。俺の中で最早彼奴は最大危険人物(特級)に指定しているので面と向かって会うという選択肢はない。

 

 

そういうことで俺はスマホに応対すること無く変わらず昇降口へ向かおうとする。

 

 

「あらあら、初めて連絡先の交換をしていたというのに女の子にそのような対応をするのですね」

 

 

後ろからそう声が聞こえて来たが、俺じゃない他の誰かだろう「無視するのなら泣きますよ?丁度此処には監視カメラもありますし」……はぁ、何で入学早々に平穏が消え去るんだ。俺はげんなりしながら後ろを振り返ると、ニコニコと微笑んだ表情を見せた坂柳が杖をついて近寄って来る。

 

 

「……何の用だ。俺はコンビニに行って生活用品を揃えたいから暇じゃないんだが?」

 

 

「奇遇ですね、私も丁度生活用品を揃えようとコンビニに行こうとしていたんですよ。貴方と話したい事もあるので同行させて頂いても?」

 

 

「断る。お前と行ったら目立つだろうが。別の奴にやってもらえ」

 

 

俺が断りを入れると、坂柳は微笑みを崩さずに俺の前にきた瞬間、杖を滑らせ前のめりに倒れるので慌てて受け止める。

 

 

「お、おい、坂柳?」

 

 

「ああすいません、足を滑らせました。受け止めて貰ってありがとうございます」

 

 

そう言って俺は受け止めた時に抱きしめた手を急いで放そうとして、その刹那坂柳が俺の耳元でねっとりと囁く。

 

 

「これで監視カメラに私達のこの状況は収まってしまいましたし、此処で私が叫べばどうなるでしょうね……?」

 

 

「お、お前…!最初からそのつもりだったのかよ……」

 

 

やられた…此奴の身体の持病は本当だったので演技とは思えなかった。演技だと気付いたとして受け止めなかったとしても上手く受身が取れず怪我をしてしまえば、俺が見捨てたような状況が監視カメラに記録される。香水のような香りが俺の鼻元に届いた時に坂柳はゆっくりと俺から距離を置いて、言った。

 

 

「最初から素直に聴いてくださればこんな手段を取らなかったのですがね。では改めて、コンビニまで御同伴よろしくお願いしますね?」

 

 

「……へいへい、分かった分かった」

 

 

そうして、俺は坂柳を伴って昇降口を目指す。坂柳の要件を聞く為に坂柳との間を1人分開けて隣に並んで歩く。そして口を開く。

 

 

「それで?わざわざあんな真似をしてまで話したいことって何だよ?」

 

 

「……この学校について担任の先生に説明されたことで比企谷君の意見を聞きたいと思いましてね」

 

 

坂柳は微笑みを崩さずにそう聞いてくるので、俺は怪訝に思いながら何でだと聞く。すると、他のクラスの生徒の意見も聞いておきたいと思ったので連絡先の交換をした貴方に聞いているのですよ。と言ったので、一応納得して、ゆっくり此処までで得た情報を元に組み立てた意見を話す。

 

 

「…まぁ、結論から先に言えば、信用出来ないだな。pptと言い、意味もなく10万なんて義務教育を終えたばかりの子供に持たせるとは思えない」

 

 

その言葉に坂柳は心なしか微笑みは変わらないが、視線の鋭さが増したような気がする。

 

 

「ほう、ですが此処は政府公認の高校ですから他の高校とは違いは合ってもそこまで不思議だと?」

 

 

「政府公認だからこそだよ。ポイントは現金の代わりって言ってたから40人いるクラスで400万、莫大な出資過ぎる。そんな事をわざわざ行政がやるとは思えん。毎月の月初めにポイントが入るらしいが今日受け取った10万pptが貰えたとして12ヶ月あるんだから4,800万とか逆に受け入れる生徒の方が恐い」

 

 

坂柳はその言葉に笑みを濃くして続きを促すように瞑目する。俺は続ける。

 

 

「だから貰えるpptに増減があるんだろうが、増減の肝になる所がまだ分かってないんだよな」

 

 

毎月10万pptを貰えることは無い事は分かったので節制して対策を講じれば良いがpptの増減の裁定基準が分からなければタブーをおかしてしまって意味が無い。俺は思考の渦中に嵌っていると坂柳の視線がふと、上を向いた。

 

 

「此処にもありましたか」

 

 

呟いた坂柳の視線を追うと昇降口近くにも監視カメラが稼働している。

 

 

監視カメラ……俺はそこで先程の茶柱先生とのやりとりを思い出す。

 

 

あの時、茶柱先生は教室の監視カメラについて生徒の生活態度を"記録"すると言った。何故記録すると言った?記録することは後で確認するということ。見守るなどや監視するという言葉ではなく記録すると言うこと。

 

 

廊下に設けられているこれらの監視カメラとは役割が違う。生活態度とはどのような事を指す?頭を回転させて、一つずつ整理する。考える事においてボッチ歴プロの俺には誰にも負けない自負がある。考えろ。考えろ。

 

 

生活態度、主に学校で生徒が過ごす時間の殆どは?出席日数、遅刻回数、授業態度、生徒同士の人間関係の動き……

 

 

……待てよ?ポイントの増減の肝がこれらだとしたら?であれば茶柱先生の言葉にも納得がいく。俺はこの推論に辿り着いた時、思わず呟いた。

 

 

「……これは抜かったか?」

 

 

俺の呟きに坂柳は上にやっていた視線を此方に向けて言った。

 

 

「抜かったとは?」

 

 

「教室に設置されていた監視カメラがpptの増減に関係していると思ったんだよ。教室で過ごす時間の中で問題児と思われる奴にはpptを減らすとかな」

 

 

俺がそう言うと、坂柳は。

 

 

「アハッ」

 

 

「!?さ、坂柳……?」

 

 

まるで無邪気な子供のような声を出した。俺の顔から冷や汗が流れ始める。何故なら坂柳の瞳の瞳孔が猫のように細くなり、纏う雰囲気が明らかに変わったからだ。そして笑い声を出す。

 

 

「ふふ、ふふふふふふ……まさか、此処までとは。はあぁ……同じクラスでは無くて残念、いや、敢えて良かったのでしょうか?まあ何にせよ比企谷君………」

 

 

坂柳が此方を見据えた。先程までの狂気的雰囲気は既に霧散していてまるで幻覚だったかのように思えた。

 

 

「お見事です。素晴らしい観察力に推測力でした。正しく貴方の意見と私の意見は同じです」

 

 

……此奴、まさかさっき監視カメラにワザと視線を向けたのか?つまり俺は………

 

 

「試されたってことか……」

 

 

「気を悪くさせてしまったならすみませんでした。ただ、貴方の考え方が知りたかったのですよ。お詫びとして貸し一つで手を打ちません?」

 

 

ふふふと心底愉しそうに言う坂柳に、せめて言動を合わせろよ……と内心突っ込みを入れ、改めて此奴は危険だと思った。此奴がもし、俺と対立する場面が来たら即刻降参することを選ぶだろうと思うぐらいには。そして坂柳が続ける。

 

 

「ただ、比企谷君の意見だけで点数をつけるとすれば90点と言う所ですね」

 

 

俺の意見について敢えてそういう言い方をするということは、坂柳が俺の気付かないところに気付いていると言うこと。そう思った瞬間此奴は本気で恐いと思ってしまった。俺より身体の弱い坂柳のペースに乗せられている。そのことがどうしようない程に恐い。

 

 

「…ッ、一体何を知ってんだよ」

 

 

俺は冷や汗を流して首を引きながら悟られないように聞く。すると坂柳は笑みを深めてこう言った。

 

 

「流石にこれは解りませんでしたか。惜しいですねぇ、これも解っていたのなら私は今、本気で有りとあらゆる手段を用いてーーーーー」

 

 

不自然にそこで言葉を区切って、坂柳が鼻が触れ合いそうになる程近付き、俺の眼を見据えた。顔を引けと理性が言っているのにまるで俺の生殺与奪の権を握られている状態で金縛りにあったかのように身体の至るところが動かせない。坂柳の瞳のどす黒い何かが俺の瞳に絡み付いた。

 

 

「貴方を手に入れていましたよ」

 

 

そう言われた瞬間に身体の機能が戻って、弾かれるように身を引いて距離を置いた。此奴はやばいなんて軽い言葉では済まない。格が違うと会ったばかりなのに思わせられる存在。俺は言葉を振り絞る。

 

 

「ッ…悪いがコンビニにはお前一人で行ってくれ。俺は寮に行くわ」

 

 

「…そうですか。ではまた今度にお話ししましょう。貴方にますます興味が湧きましたから」

 

 

……全身全霊全力で此奴から距離を置いて暮らしたい。だが、最早此奴から逃げられないとも思った。俺は坂柳の言葉に答える事をせず、上履きを履き替えて速足で寮を目指した。

 

 

本当に何でこんなに早く平穏な学校生活が崩れるんだよ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。