ようこそ俺の実力至上主義のまちがった青春がある教室へ 作:ゆっくりblue1
その日も学校に何時も通り登校して、何時も通り授業を受けた後に昼休みになった。私の隣の席の眼の濁った男子生徒は居ない。その男子生徒は何時もの様に図書室に行っているに違いない。
教室は僅かにその何時も通りではなく、少し緊張感が漂っている。それは何故かと言えば、今日がCクラスとの話し合いが生徒会を交えて行われる日だからだ。
騒動の当事者たる須藤君は勿論の事。須藤君の無実を晴らすべく、弁護人役の堀北さんと、その堀北さんに弱みを見せてしまって話し合いに参加することになった隣人の比企谷君。それと、この騒動の目撃者である佐倉さん。
この騒動を勝つことが出来れば、私達は0ptの極貧生活を抜け出せる。しかし、そう上手く事が進むとは思えないが。この騒動がCクラスのリーダーである龍園君によるものであるからだ。
比企谷君との契約を手伝った後に、比企谷君が彼奴の相手は本気で面倒くさいと言っていたし、先週の休日に遭遇して少し話して感じたことだが、かなりの切れ者であると思った。比企谷君と似た様な考え方をしていると比企谷君も言っていたのでまあ面倒だと思う。
私は直接的に話し合いには関与しないが、目撃者である佐倉さんの学校内での動きの把握を比企谷君に頼まれている。依頼料も振り込まれているのできちんと仕事はしないといけない。と言っても今は特に変わった動きは無い。
話し合いは今日の放課後。それまで何も変わらないだろう。そんな暇を持て余しながら、考えることは隣人の事だ。
比企谷八幡、Dクラスの私の席の隣の男子生徒。眼の濁りとアホ毛のある髪型が特徴的。本人は面倒くさがりで、目立つことを嫌って1人でいる事を望んでいる。ぼっちに対して変な誇りを持っていて、更に働きたくないと言う面倒で物を斜に構えて見る捻くれ者。これだけで見るとニート予備軍だ。思いたくはないが結構なクズっぷりである。
しかし、本人は面倒だ面倒だと言いながらも自分で行うことには筋を通すし、なんだかんだ人に頼られると手伝う天邪鬼な一面もある。見た限りでは本人の学力も高く、私が全力を出しても恐らく良くて五分、それ以上の学力を持っている。身体も細い身体つきではあるが、並みの男子よりも遥かに鍛えられていて腹筋は割れているのが水泳の授業で分かった。
女性に対しては大変警戒的な面があって、同居している椎名さんにはアレだけの好意を寄せられているにも関わらず手は出さないという理性を持っている。正直、紳士なのかヘタレなのかはとても判断しにくい。まあ、警戒するであろう理由も知っているのだけど、そこは割愛する。
そんな比企谷君と同じ中学だった私は、比企谷君に興味を持って、話し掛ける様になった。最初は私の事も警戒していたが、少しずつ会話を重ねる内に警戒が薄れていき、クラスの中では1番話す仲になった、と思っている。
そんな時に私が更に比企谷君に興味を持つ理由になった出来事がある。それは椎名さんとの関係を絶ちたくなくて龍園君との契約を手伝った時だ。1人でいたがる彼が、関係を終わらせたくないなんて言うとは思わなかった。然も異性であり、敵対しているクラスの人と。
それが分かった時には何故か私の心が騒ついた。最初は契約するのに私を利用してきたからだと思った。けれど、そう納得させようとも椎名さんの待つ図書室へ行く比企谷君の姿を見ると落ち着く何処か更に騒つきが激しくなる。違うクラスの人なのに何故?という疑問を持つようになった。そしてこの気持ちについても日に日に強くなっていき、考えるようになった。
彼とは隣人でただの雇用関係……その筈だ。大体、あの面倒くさがりに此処まで興味を惹かれている自分自身に驚きがある。ただ彼が私がこの学校でやっていくのに丁度良い関係性を築けると思って近付いただけだ。それに彼には椎名さんがいるし、私とも隣人の雇用関係と思っているに違いない。……私もそこまで甘い女ではないし、この関係性が1番丁度良いのだろうと思う。
彼が椎名さんと関係性が進んでも私がこの学校で上手くやっていければ何でも良い。
それにしても、比企谷君に関わる毎に思うのだが、何故彼には椎名さんと言い、坂柳さんや神室さん、何故か気に入られた2年生の鬼龍院先輩、つい最近関係性を持ち始めた一之瀬さんと言い、女性と関わることが多いのだろうか。いや、本人もそんなつもりで過ごしている訳ではないと言っていたが、異様に多く見える。
池君や山内君と言ったモテたい生徒からすると男の敵だろう。女子生徒から見ても次々女子生徒に手を出す節操無しに見えそうだし。いつか刺されそうで内心ドキドキしている。
そう隣人の謎の女性関係の多さについて考えていると、私に話し掛けてくる生徒が居た。同じグループの篠原さんと佐藤さんである。
「松下さん、最近グループに来てないけど、如何して?」
このクラスの女子リーダーの軽井沢さんと同じ様な気の強さを持っている篠原さんがそう聞いてくる。彼女とは気は合うのだが、いかんせん直情的で、3バカと揶揄されている須藤君達にも臆せず物を言う性格だ。臆せず物を言うのは良いことではあるのだが、もっと落ち着きを持って欲しいと思っているし、成績も後ろから数える方が早いのであまり須藤君達の事を強くは言えないと思う。私はそんな思いをおくびにも出さずに平然として言う。
「別の友達付き合いだって大事にしたいからね。グループを抜けたい訳じゃないよ?」
そう言うと篠原さんは何処か納得がいかないのか、怪訝そうな顔つきになった。すると次は佐藤さんが話し出す。
「最近、隣の席のひき、ヒキタニ君だっけ?その人とも仲が良いじゃん」
佐藤さんは篠原さん程の気の強さは無いが、周りの人間関係には機敏だ。学力も平均的だが、妙に勘が鋭い。その言葉に私はこう言った。
「比企谷君だよ。それに隣の席だよ?話せば普通に面白いし、会話が多くなるのは当然だと思うよ?」
比企谷君に対する私の印象はさっき思った通りで悪い要素は無いので、唯々事実を言う。すると篠原さんは顔を顰めて言った。
「でも、何か陰険そうじゃん。眼も変だし、正直オタクっぽい感じで無理」
何が"でも"なのだろうか。篠原さんは外見で物事を判断するきらいがある。全部が全部悪いことではないし、第二成長期で思春期の真っ只中で仕方ない部分もあるとは思うが、その言葉は差別だろう。私はすぐに言い返す。
「話してみれば普通だよ?それに外見で判断するのは良くないと思う」
そう言えば、篠原さんは何時もは合わせている会話を合わせない事を怪訝に思ったのか、私にこう聞いてきた。
「……何、松下さんって其奴の事が好きなの?」
そう聞かれたことに対して、私は内心溜息を吐く。女子生徒の間ではやはりこう言うゴシップみたいな話題に食いつきやすくて油断をすれば問い詰められる。ただ私が差別発言は辞めとくほうがいいよって言ってることもあるかもしれないのに気付かないのかな。私は当たり感触ない答えを口にする。
「……別に私は外見で判断するのは駄目だって言ってるの。本当にそういうの辞めた方が良いよ。隣人だし、そういうのは聞いてるこっちもあんまり気分良くないから。そんな事言ってたら友達離れるよ?」
そう答えれば、篠原さん達は正論を言われた事で押し黙った。そして、吐き捨てる様に、ノリ悪っ。と言って私から離れていく。これで篠原さん達との間に今迄は曖昧だったものがはっきりと溝となって線引きされた気がした。恐らく徐々にゆっくりと関係性は離れていくだろう。折角出来た友達ではあるが、正直退屈だった面もあるので、少なくとも後悔はしていない。
「………何も知らないくせに」
ボソッと誰にも聞こえない程の声音で呟くと、その声は周りの雑音に掻き消された。
[newpage]
昼休みを図書室で過ごして、教室に戻る。教室に入ったとき、何故か佐藤?と篠、篠なんとかさんに睨まれた。何もしてないのに何で睨まれんの?もしかして一緒の教室にいるのが嫌になったとか?何それ理不尽。その視線に内心ビビりつつも自分の席に座ろうとしたところで、隣人の松下が何やら不機嫌そうな顔つきなので、何があったのか聞いてみる。
「……なぁ、何かあったか?」
「……別に、何でもないよ」
そんな某芸能人みたいな態度を取られて、言わないなら無理して聞く必要も無いか。と思って授業の準備を進めた。
そして授業は通常通りに進行して、数学の授業を何とか眠らずにクリアした後に終わりのHRが始まった。教卓に立った茶柱先生が言った。
「今日の放課後、Cクラスの話し合いに出席する生徒は生徒会会議室に来い。それ以外の生徒は帰宅なり部活動に励め」
そしてHRが締め括られると、Dクラスの生徒は動き始める。帰りたいなぁ…と思いながらも手伝うと言った手前反故には出来ないので諦めて、教室を出ようとすると、松下が言った。
「……行ってらっしゃい」
「………おう、まあ適当にやってくるわ」
そうして教室を出て、茶柱先生に先導される形で緊張した面持ちで向かっている須藤と堀北。その後ろから黙って着いていく俺と目撃者の佐倉と付き添いの綾小路。綾小路は会議室には入らず、佐倉の付き添いだけらしい。俺は今回の話し合いには参加するが、話し合いで須藤の弁護をするつもりはない。基本的に堀北が全てやると言って、最終手段で俺が出るらしい。
一之瀬達のお蔭でこっちにも切れる手札はあるにはあるが、須藤が殴ったとされるCクラスの男子3名が中学では結構なワルだったらしいという程度、須藤の勝利する手段としては弱いし、目撃者の佐倉も居るがDクラスで口裏を合わせたと突いてくるだろう。
正直俺を頼ってきたところでこの話し合いで勝てる要素はほぼないに等しい。勝つという定義によるが。
そして会話も無い状態で緊張感が漂う中、遂に会議室に着いた。そして会議室に入る前に茶柱先生が言った。
「……では会議室に入るが、須藤と比企谷と堀北が入れ。佐倉は呼ばれるまで待機だ。綾小路は邪魔にならないのなら廊下で好きに待っていても構わない」
そう言って、扉を叩いて茶柱先生が失礼しますと言って、どうぞと許可を得て先に中に入っていくので須藤と堀北の後から入る。
「失礼、します」
「…失礼します」
「……失礼します」
中に入ると既にCクラスの生徒達は存在していて、顔には目立つ様にガーゼやら絆創膏やらが貼られて痛々しく見える。うん、第一印象で不利だわ既に。対面式のU字型で、その間に挟む形で生徒会長と癒し先輩がいた。生徒会長と癒し先輩が俺を見て少し目を見開くが、それ以上の反応は見せずに平然として司会進行式で始める。癒し先輩が言った。
「……では、両クラスの関係者が出揃いましたので席について下さい」
「失礼、少しその前によろしいですか?」
癒し先輩が進めている途中でCクラスの担任である坂上先生が言う。癒し先輩が、どうぞと言ったので坂上先生はこう言った。
「ありがとうございます。言いたいのはDクラスの人に対して少し遅れた事に謝罪をしてもらいたい」
時間には間に合った筈なんじゃねえの?そう思っていると癒し先輩が少しだけ遅刻ですねと言った。須藤は、は!?っと言い掛けるが須藤を堀北が制し、須藤は堀北の言うことには逆らわずに渋々堀北と共に頭を下げる。俺も一応頭を下げる。
「ッ……遅れて、すいませんでした」
「遅れて申し訳ありませんでした」
「……遅れて申し訳ありませんでした」
そう謝罪すると坂上先生は気を良くしたのかは知らないが、結構。と満足そうな声を出していた。本気で俺関係ないのに謝らないといけないって中間管理職みたいな感じだな。
そして進行が再び始まって席に勧められたので座って、お互いにお辞儀して諸々の注意事項を言われた後、話し合いは始まった。
Dクラスは無罪を主張して、被害側のCクラスは有罪を主張して須藤、ひいてはDクラスの責任を問う。
「……僕達は部活動に一生懸命励んでいたのですが、須藤君は僕達の事を気に入らなかったのか、舌打ちしたり、もっとちゃんとパス出せよ!とか使えねえな!とか言葉で責めて来て、我慢がならなくなったのか、特別棟に呼び出されて、一方的に……」
そのCクラスの主張に須藤は我慢がならなくなったのか、発言の許可を得ないで強く言った。
「はぁっ!?舌打ちしたりしてきたのはそっちだろうが!それに、特別棟に呼び出して殴りかかってもきただろうが!嘘ついてんじゃねえよ!!」
「……須藤君、発言の途中です。その荒い言葉遣いも控えて下さい」
癒し先輩がそう注意すると、須藤がバツが悪くなり押し黙った。するとCクラスの坂上先生が嘲笑する様に言った。
「……いやはや、発言中にも関わらず、遮る様な発言。何か疚しいことがあるから行ったのではないですか?」
その言葉に須藤はまたもや反論しようとするが、今度は間一髪で堀北が抑えた。すると坂上先生の発言に生徒会長が言った。
「……坂上先生、話し合いに関係の無い発言は控えて頂きたい」
「すいません。ちょっと口が本音を…」
生徒会長の注意に悪怯れる事無く、坂上先生はにやりと笑いながら謝罪する。途中だったCクラスの主張が終わるとそしてDクラスの主張に移った。敬語は使わないでもいいと言われたので須藤はたどたどしい敬語を辞めて話し出す。
「……俺は、いつも通りにバスケの練習をしてたんだ。普通に練習してると石崎達が鬱陶しい視線とか陰口を言ってきたんだ。腹は立ったが、特には何もせずにほっといて言わせてた。んで、先週此奴らに特別棟に呼び出されて、色々言われた後に殴りかかって来たんだ」
「……双方の意見ではやはり食い違いがあるようだな」
そう生徒会長が呟く。Dクラス側の"呼び出されて、殴りかかられ、殴られる前に殴った"。とCクラス側の"呼び出されて、一方的に殴られた"。の主張ではやはりDクラスの殴ったという事実があるのでこっちの方が不利だ。しかし、この話し合いで重要な要素はもう一つある。
「……つまりは双方何方かが虚実を述べていると言う事だ」
そう、嘘の供述だ。この嘘が話し合いを左右する。嘘をCクラス側が吐いているか、そして嘘を吐いているとすればその嘘を引き出させなければいけない。これを如何にか引き出させるのが堀北の仕事だ。
「双方の主張は把握しました。では次にDクラス側の弁護役の方の主張をどうぞ」
「ッ…はい」
癒し先輩がそう言うと堀北は生徒会長の方に一瞬視線を移してDクラス側の無罪の主張の根拠を話し始める。
「須藤君が一方的に殴ったとCクラスは主張しましたが、不可解な点があります」
「……何?」
堀北の言葉に石崎達が反応したが、堀北は構わずに続ける。
「喧嘩が起こる時、それは一定の力のある者同士の衝突によって起こると私は思っています。何故、3名も居る状態で、須藤君が一方的に殴り続けることが可能だったのか、無抵抗のまま殴られ続けるとは根拠に乏しいと私は考えます」
「…それは、抵抗も出来なかったからで……」
「……いえ、それは違います」
石崎達の反論を毅然として違うと言った堀北。その根拠は?と生徒会長が問うと堀北は言った。
「……石崎君達はバスケ部に所属している。体格も良い。試合中の選手同士の衝突も経験しているでしょう。その激しい動きを伴うスポーツをやっているにも拘らず、抵抗も出来ないとは不自然です。更に言えば」
淡々とした様子で続ける堀北は最初の手札を切った。
「石崎君は地元の中学校ではかなり喧嘩が強いと有名だった事は同じ元中学の卒業生が証言しました。裏が取れている証拠もあります」
そう畳み掛けるように言って証拠も提出する堀北。その証拠はBクラスの助力で得られたもので、それを見て生徒会長は癒し先輩に渡す。そして少しして、癒し先輩が言った。
「生徒のデータベースの過去資料で確認したところ、確かな証拠能力を持っています」
「……すいません、発言良いですか?」
すると、Cクラスの3人の真ん中に位置する生徒、確か此奴が石崎だったか。が発言の許可を貰おうとする。生徒会長が発言を許可すると、石崎は言った。
「確かにそうだけどな、だがこっちは実際に呼び出されて殴られているんだぜ?目撃者もいない中で、はっきり殴られた傷も残ってんだよ!Dクラス側が有罪に決まってる!」
堀北のペースにさせまいと石崎はCクラス側の絶対有利条件を振りかざしてきた。絶対に覆せないと思っている石崎達と坂上先生はニヤニヤしている。しかし堀北は凛として言った。
「目撃者はいます。そして現場を目撃した証拠も所持しています」
「な、何だと!?」
その言葉が完全に予想外だったのか、石崎達は動揺する。坂上先生も驚きに表情を染めた。出鱈目だと石崎達は言うが、堀北は表情を変えずに、生徒会長。この場に騒動の目撃の証拠提示として、第三者、目撃者の呼び出しの許可を願います。と言えば、許可する。と堀北の表情をはっきり見て言う。堀北は頷くと、凛とした声で言った。
「茶柱先生、お願いします」
「し、失礼します……」
茶柱先生に促され、緊張した様子で入ってきた。生徒会長に、氏名と学年クラスをと訊かれると佐倉がその形式に従って言えば、Cクラス側の坂上先生が待ったをかける様に言った。
「Dクラス側の目撃者が居るなんて口裏を合わせに来たのではないのかね?」
「し、証拠なら、あります!」
坂上先生の言葉に対抗する様にある一枚の写真を叩きつけるように机の上に置いた。それを見ると、特別棟で確かに須藤と石崎達が写っていて、日時もこの騒動の発端の日に一致している。佐倉の持っている写真の編集している跡は勿論無い。まさか目撃者だけでなく、目撃の証拠写真まで撮られていると当然思っていなかった石崎君は動揺する。
「…これで、証拠になりますか?」
そう佐倉が聞く。それにしても良く須藤の為に出てくれたな。須藤の隣の席で須藤に怖い思いもしているだろうに。まぁ、綾小路に頼まれたからだろうけど。そう思いながら話し合いの様子を見ていると坂上先生が言った。
「しかし、この写真があるからと言って須藤君が彼らに暴力を振るった事実は変わりませんよねえ」
この証言の弱いところ突いてきた。坂上先生は徹底的に其処を突いた。それに佐倉は動揺し、須藤は吠えるように訴えようとするが、弁護する側の堀北に手で制され、渋々辞める。そのまま続けるように傍聴者のDクラスの担任、茶柱先生に提案する。
「このままではどちらも譲らない押し問答になりそうです。そこで茶柱先生に提案があります」
「ほう、何でしょう?」
「こちらの生徒に1週間の停学、須藤君には2週間の停学及び部活動の停止がこちらの最大限の譲歩出来る条件です。pt等は払わずに頂いてもいいです。どうです?良い条件でしょう」
坂上先生はそう妥協案を提示する。確かにDクラスの立場からすれば破格の好条件だ。しかし、それは須藤の立場を抜きにした場合に限りだが。須藤は顔を顰め、その顔を見た石崎達はニヤニヤと笑う。石崎達の目的は須藤の部活動で出場することになった大会に出させなくすることが狙いだ。
要するにDクラスを掻き乱すための嫌がらせである。それにこの妥協案にはCクラスにデメリットがほとんどなく、Dクラスの足並みも更に乱せるという旨味がある。
茶柱先生は坂上先生の主張を聞いて肩を竦めながらフッと笑って返した。
「私はそれでも構いませんがね。しかしそれは当事者達が決めることですので、私はこの裁判の決着を見守るだけです」
おいおい、せめて何か堀北達に一言言ってやってもいいだろうに。いくら実力を重んじるからって冷たすぎないかこの先生。逆に坂上先生は肩入れが凄えんだが。
堀北を垣間見ると、何やら膝に手を置いて震えながら俯いている。
「……おい、どうすんだ?堀北」
「…………」
此処に来て初めて口を開く。そして堀北に問うが、反応が全くない。肌を見ると汗が流れている。生徒会長を前にする緊張感と、勝たなければならないというプレッシャーに動けないのか。Aクラスに、兄に追いつきたいという渇望。
はぁ……健闘したけど、負けるか。予想していたけれども。……此処までか。目立つがしょうがないな。俺は、堀北の目の前に両手をあげると、思いっ切り。
ーーーーーパアァンッッ!!!と鳴らした。その音に驚いた様に全員がこっちを見る。そして堀北も焦りの渦中から出たようだ。そして、俺は息を吐いて言った。
「……堀北、それでどうすんだ?俺は坂上先生の意見でもいいと思うが」
「……それは……」
堀北は俺の言葉に答えられない。坂上先生が、何だいきなりと言っているが無視した。癒し先輩も驚いているが、生徒会長は俺の行動を咎める様子もない。なので俺は堀北にこう続ける
「…堀北、[[rb:問題は問題にされない限り、問題にはならない> ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・]]んだ。勝たなくていい」
「………」
この意味は今の此奴には解るはずだ。監視カメラの無い特別棟。佐倉のカメラ。ピースはもう揃っている。問題を立て、定義して、理論を組み立て、立証する。この話し合いでDクラス側の勝利はない。では、話し合いを根本から解消すればいい。
そして堀北は目を見開く。もう一度俺の顔を見た。俺は少しだけ頷く。
もう、堀北は何時も通りの表情になった。焦りも無く、こう言った。
「……私達Dクラスも他のクラスも須藤君がこの騒動の当事者になった所為で、大変な迷惑を掛けられました」
「な、何だと!?俺は無実だって言ってんだろうが!!」
「この騒動は貴方の普段の行いで此処まで大事になったことをいい加減理解しなさい」
「…では、私の案を受け入れると言うことかね?」
思い通りに事が運ぶと思っているのか坂上先生を含めてほくそ笑むCクラス陣営。しかし、堀北はこう続ける。
「確かに、迷惑は被りました。ですが、須藤君に非があるのはCクラス側の人間ではない。この騒動において須藤君は無実。私達は須藤君の完全無罪だと提訴します!」
そう力強くCクラスに対抗した。
[newpage]
その後話し合いは完全に平行線となって、Dクラス側の不利な状況は変わらないが、Cクラス側の意見にも疑いが浮上してきたので判断がつかず、生徒会長が次回に何方かが納得、又はそれに準ずる証拠が出ずに判断がつかない場合は何方も自分の独断権限をもって裁決すると言って、一時閉廷した。
Cクラス側が全員退出した後にDクラス側も全員会議室の外に出る。そして須藤はそのまま気まずそうに部活に行って、堀北は佐倉に小さく礼を言い、生徒会長の方を見たが、話せないと思ったのか気まずそうに去っていく。佐倉は坂上先生に徹底的に攻められた事が悔しいのか、泣いていた。それを慰める綾小路。如何やらずっと会議室の外の廊下にいて待っていたらしい。茶柱先生は職員会議に行った。
というか坂上先生、生徒同士の問題なのに介入のし過ぎだろ。明らかにこっちをすり潰しにきている。逆に茶柱先生は完全に傍観してたし。そう思いながら、佐倉の方は綾小路に任せようと俺は綾小路に伝えようとするが、その前に生徒会長達が会議室を出てきた。そして、佐倉の出した証拠の足りないところを佐倉に責めるでも慰めるでも無く淡々と伝える。そして今度は俺に向き合うと言った。
「…比企谷、この状況をお前はどうするつもりだ?」
純粋な疑問としての言葉を投げ掛けられるので俺は平然として言った。
「……貴方の妹が解決するんじゃないですか?俺はもうこの騒動には関わりませんよ。彼奴の依頼はこなしたんで、後は待つのみって感じですかね」
俺に協力を求めて来たぐらいだし、他の奴に協力を求める事ぐらいは今の彼奴は出来るだろ。丁度協力している奴もBクラスも協力してくれるみたいだし。
「……本気で思っているのか?」
生徒会長は俺を見て短くそう問う。見透かすような視線に居心地悪く思いながらも俺は言った。
「……これぐらい堀北なら解決すると思いますよ?彼奴の学力は俺より上なんで」
「学力がモノを言うのがこの学校ではないとお前は知ってるだろう?」
そう言う生徒会長。堀北は頭の回転は速いから裏技を見つける術を教えたら後は勝手に何とか出来るタイプだろう。
「……妹なら少しぐらい信じるってのも兄の役割じゃないですかね」
「……」
俺の言葉に何も反応せずに、ただ見詰めてくる生徒会長。なんかどっかの腐女子が鼻血出しそうな光景だから早く帰って良いですか?俺にそんな趣味はない……テニス、男の娘、天使、とつかわいい…う、頭が。すると生徒会長がフッと少しだけ息を吐いて、口角を上げると、言う。
「………頼んだぞ」
「………頼まれても困るんすけど。俺、ぼっちなんで」
何を、とは敢えて聞かない。断ろうとも思ったが、あの少女の顔を思い出して断るのを辞めた。……ま、側にいてやれない気持ちは小町が居る身として理解出来るし、観ておくぐらいなら出来る。……俺も大概だが、この人は俺以上のシスコンだな。
俺の言葉に満足して癒し先輩と一緒にこの場を去っていく。佐倉の事を慰めていて動けない綾小路達に会釈すると、綾小路が反応して会釈し返したので、俺は会議室を離れて帰る為に荷物を取りに行く。
その途中で、さっき去った筈の堀北が廊下に立っていた。俺が怪訝に思っていると、俺に気付いた堀北は話しかけてきた。
「……比企谷君、少しだけ話に付き合ってくれないかしら?」
「……長くならないんならいいが、早く帰ってダラダラしたいし」
そう真剣そうな表情の堀北に茶化すこと無く、俺が言うと堀北は頷く。そして聞いてきた。
「……聞きたい事は山程あるけれど、この騒動が終わってからで良いわ。言いたい事は一つ、何故貴方は協力することを嫌がりつつも、話し合いまで付き合ったのかしら?」
「……いや、そりゃあお前に脅されたからだろうが」
何言っているのこの娘?自分のした事忘れたのん?すると堀北は目を鋭くして言った。
「そうでは無いわ。平田君や櫛田さんの時は貴方は協力を求められていても断っていた。なのに私が聞いた時は貴方はヒントも言った上に私がそうさせたとはいえ、話し合いの協力に素直に従った。それは何故なの?」
そう堀北が聞いてくる。……そんな特別な理由はないんだがな。まあ別に言わんで良いだろと思って適当に理由をでっち上げる。
「……あんな人気者の2人に頼まれたら、周りのプレッシャーも凄いだろ?失敗して周りに責められんのも嫌だし堀北の方に乗ったってだけで深い理由はない」
嘘では無い。実際にそう思ったし。しかし堀北は納得がいってないのか眉を寄せたままだ。顔が怖いのは元々が吊り目だからだろうか。
「……そんな理由であっても貴方にはこの騒動の解決手段があったのね」
「………偶々だろ」
「でも、貴方はそう言っても少なくとも貴方は兄さんに認められている。………兄さんには見向きもされない私と違って。……私も兄さんのようになりたいのに………」
悔しげに消えいりそうな声でそう言った堀北に俺は言ってやる。可愛い妹を持つ兄の目線で。
「……ならなくても良いだろ。そのままで」
「……え?」
俺の言葉が予想外だったのか呆けた顔を見せる堀北。何気にレアだな。そんな事を思いながらも俺は続ける。
「お前は生徒会長か?違うだろ?生徒会長は生徒会長だし、お前はお前だ。真似する事は悪いとは言わんけど、何もかも同じには出来ないし、出来たとしても怖いだけだ」
「……怖い?」
「そうだ。だって考えてもみろ。自分と同じ能力で自分と同じ好みを持ってて考え方も一緒とか怖過ぎるだろ。俺も妹がいるが、俺の真似をするのはそりゃあ可愛いし、嬉しくもなるが、何もかも同じにしたいとか言われたら妹の持つ魅力も半減する」
まぁ寧ろ小町は俺の真似どころか反面教師にしているが、どっちにせよ俺は小町が幸せに生活してくれるんなら何でも良いし、出来る協力は何でもするつもりだ。……俺の言葉に堀北は驚いたままだが、構わず続ける。
「生徒会長も同じこと思ってんじゃねえの?……多分、知らんけど」
そう言葉を濁しつつも多分その可能性は高い。なんだかんだ心配して堀北は勝てると思うのか?って聞いてきたんだろうし、気になるならその態度を軟化させたら良いんじゃないっすかね。不器用さに呆れていると、堀北は俯いて聞いてきた。
「……本当にそうなの……?」
「……まあ、俺の主観の話だし、確証は無いぞ?」
「………」
……千葉の兄として御節介を焼いたが、それであっても所詮は他人の言い分だし、信じられる根拠は無いのだ。他人の家庭の事情にこれ以上身内でもない俺が首は突っ込めないので、最後に言った。
「……話は変わるが、俺が次の話し合いに参加する必要は無いだろうし、後は綾小路と協力し合ってくれ。………じゃあ」
そして堀北との会話を終了して、その場を去ろうとすると。
「待って」
「……何だよ」
呼び止められたので堀北の方へ振り向くと、堀北はまるで迷いが晴れたような顔で初めての微笑みを見た気がする。その微笑みも本当に若干だが。
「……あ、ありがとう」
「……別に礼を言われる事はしてないが、どういたしまして……」
まぁ……そんな顔見られただけでも収穫はあったかもな。そして今度こそ俺は堀北と別れて荷物を取りに行った。松下には決着がつかなかった。持ち越しで次回決まるとメールしておく。すると直ぐに返信が来て、了解。次回も出るの?と訊かれたので次回は出ないと送っておく。ふぅ……帰るか。