ようこそ俺の実力至上主義のまちがった青春がある教室へ   作:ゆっくりblue1

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第14話


他人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて死んでしまえとあるがその通りである。

決着が持ち越しになり、次回の話し合いで裁決されることが決定したその後日。いつも通りに学校に行って、授業を受けようと1時間目の準備をしていると、急に声を掛けられる。

 

「……おはよう、比企谷君」

 

「……お、おお」

 

声を掛けて来たのは堀北だった。普段は挨拶さえしない間柄だった為に急に挨拶されてめっちゃびびった。堀北はその反応に不満だったのか眉を寄せ、言った。

 

「……何故そんなに驚くのかしら?」

 

「……いや、何時もは挨拶もしてないんだから当然だろ」

 

堀北は俺の言葉にそうだったわね。と言ってそのまま自席に行く。幸い周りはこっちに注目することはなくざわざわしているが、須藤がこっちを睨んできててめっちゃ怖い。ただ挨拶されただけだろうと思っていると、隣人の松下から何故かジトッと視線をもらいつつ、言われる。

 

「……随分と堀北さんと仲良くなったんだね」

 

「……いや、挨拶されただけだろ。そこまで仲良くなってねえよ」

 

「………堀北さんが挨拶する人って、綾小路君だけだったんだけど」

 

挨拶にそこまでの価値は無い筈だ。ていうか仲良くなる様な事は本当にやってないんだがな。そう思いつつ、松下のジト目を受け流しつつ授業の準備を進めた。

 

 

 

 

そして今日は本当に平和に授業が進んで、昼休みも図書室に行って過ごした。ただ、松下も図書室の方へ来る様になった。グループと何かあった様だが、本人は特に気にしている様子も無いので、俺が首を突っ込む理由はない為に何故なのかとは聞かない。

 

椎名と度々此処に訪れる様になった坂柳と神室と楽しそうに話しているし、気にする必要もねえか。

 

それから何故か坂柳が先週の休日で椎名と松下とラーメンを食べた事が知られて不満気な視線を向けられたり、堀北の朝の事が松下によって話題に出されて椎名や坂柳と一緒に問い詰められたりして、神室に本当に同情の視線を向けられたり、色々有ったが、何とか乗り切って放課後になった。

 

HRが終わり、帰る準備を済ませていつも通りに帰ろうとする。すると、隣人の松下が言った。

 

「……今日は比企谷君と一緒に帰って良い?」

 

「………本当に最近グループの奴と一緒に居ないな。仲悪くなったのか?」

 

松下は俺の言葉にちらっとグループの奴等を見るが、グループの奴等は何やら話に夢中の様で視線に気付かない。松下は肩を竦めながら、今喧嘩中みたいなものだよ。と答える。喧嘩中ね……リア充の内輪揉めはリーダーの軽井沢の機嫌が悪くなったりするが、平田が上手く抑えてるから教室の空気はあまりギスギスしてない。ギスギスしてるのは取り巻きの篠何とかさん達が主だ。

 

「……あんまり、ぼっちを目立たせんなよ。俺とお前みたいなリア充との組み合わせは異様に目立つからな。特に女子のネットワークは怖い」

 

「……比企谷君にはリア充って言われたくないなぁ」

 

そう言いながら教室を出た。松下も勝手に着いてくるので、もう俺は止めるのを諦めた。松下の数歩後ろから着いていくことで目立つのを避ける程度しか俺に出来ることはない。

 

そして昇降口辺りまで来たところだった。ズボンのポケットに入れているスマホから着信音が聞こえた。相手が相手の場合は無視は出来ないので、取り出して着信元を確認すると、予想外の人物からだった。

 

「…一之瀬?」

 

思わず呟き、メールの内容を確認する。すると、"お願いがあるの。今から体育館の裏で待ってるから来てくれないかな?出来れば誰にも知られないようにお願いしたいな。ごめんね"という内容だった。此処で女の子の呼び出しに中学の頃の俺なら、もしかして…と勘違いして期待するのだろうが、今は失敗はしない。それにお願いということから、用件は俺の想像とは別のものだろう。

 

わざわざ呼び出しをしてまで俺を頼るぐらいならもっと相応しい奴がいるだろうに。それに、面倒くさそうだなぁ…と思いつつも見捨てられたと思われるのもアレだしなと思った俺は内心溜息を吐いて、一応松下に言った。

 

「……あー、松下。ちょっと用事出来たから別に帰ってくれ」

 

「用事?比企谷君に?………先生の眼に触れることでもしたの?」

 

松下は予想していなかったのか、とても驚きに満ちていた。ていうか真っ先に教師に何か問題を知られたから呼び出しくらったシチュを想像するのはやめてくれない?一応俺は問題行動しない模範生なんだよ?

 

「……違うから。名前は伏せるが、生徒だよ」

 

「………ふーん、名前は言えないんだ」

 

松下は俺が名前を言わない事に怪訝そうな視線をしたが、事情は察したのか、じゃあね。と言って寮に向かい始めた。俺は踵を返して一之瀬に呼び出しを受けた場所に向かい始める。

 

メール通り、体育館の裏の端の辺りで、一之瀬帆波は何かを持って立っていた。一之瀬の他に人はいないし、近くに気配もしない。良かった。居なくてドッキリ大成功みたいな感じで他の奴が出てくる事はなさそうだ。中学の頃に永山達にそれをやられたのが割とトラウマになってるからな。俺は内心安堵していると、一之瀬は俺が来たことに気づき、こっちだよ。と手招きしてきたので、近付いて用件を問う。

 

「……んで、わざわざ別クラスの俺を呼び出す用件はなんだ?」

 

ptを借りるとかそういうのは自分のクラスの仲の良い人間に一之瀬ならば借りることは可能だろう。別のクラスの俺に頼むってことは自分のクラスの人間には知られたくない事。内輪の人間関係か?けどわざわざ俺のようなぼっちに頼むような人間関係って何だ?そう怪訝に思っていると、一之瀬は手に持った物を見せながら言った。

 

「…お願いしたい事っていうのはこの手紙の事なんだけど……」

 

その手紙は可愛らしい外見をした一枚の紙。この手紙を届けろとかか?中身は見てないが、この感じからしてラブレターという名の呪いの手紙だろう。けど俺に頼む理由がわからない。しかし、一之瀬は予想だにしない事を言った。

 

「……実は、私、もうすぐ告白されるんだ」

 

「…………………はい?」

 

告白"する"んじゃなくて、"される"って言ったか?どゆこと?俺は思わぬ展開に呆然としたが、一之瀬ぐらいの容姿なら不思議ではないかと思い直して一之瀬に聞いた。

 

「……で、俺は本気で何で呼び出されたの?公開告白するわけじゃないんだろ?」

 

「…うん、この手紙をくれたのはBクラスの子なんだけどね。気持ちは嬉しいけど、その……」

 

一之瀬は言い淀む。………はぁ、御断りしたいけど、どう言えばいいかわからないって感じか?俺はそう思って手紙の名前の部分だけに目を通した。流石に中身を見る勇気は紳士な俺にはないわ。ヘタレなだけだろって?ばっか、俺程紳士な奴はな。真っ先にクラスの後夜祭を空気を読んで辞退するんだからな。俺の前に無言で置かれた使い終わった機材を無言で片付けるレベル。俺は一つも了承してないのに、これも良いよね?って空気だして勝手に置いていくのはやめて欲しい。担当のしてないもの混ざってて何処に片付けに行けば良いか解らないから!

 

って、ん?……異様に男子の文字にしてはあざとさ満載……いや、可愛らしさのある丸文字だな。俺はまさかと思いつつも聞いてみる。

 

「……なぁ、一之瀬?言い難いんだが、お前に告白する奴の性別は?」

 

「……女の子、です」

 

……まさかのそっちだったか。いや、別に問題はないんだが。それにしても百合なぁ……思わず遠い目になってしまった。しかし用件を聞かなければ告白する相手と鉢合わせしてしまうのは気まず過ぎるし、何より状況だけが状況だけに変な勘違いをされてしまう。俺としてもそれは嫌だし、一之瀬にも迷惑を掛けてしまう為にもう単刀直入に聞いた。

 

「……それで、一之瀬は俺に何をして欲しいんだ?」

 

すると、一之瀬は一瞬また言い淀んで、深呼吸を一拍おいて言った。

 

「…その、比企谷君には……彼氏の振りをして欲しいんだ」

 

彼氏の振り、という単語の意味を理解するのに数秒掛かった。その言葉を理解して俺は慎重に理由を聞いた。

 

「……如何言う事か、聞いてもいいか?」

 

「うん。その告白する子はとても慕ってくれる優しい良い子なんだ。だから告白してきた時になるべく悲しませたくない。だけど、如何すれば良いかわからなくて、彼氏が居るからって言ったら納得してくれると思ったから。同じクラスの人だったら違うって分かっちゃうだろうし……」

 

「…………」

 

告白する相手を悲しませたくない。その言葉に一之瀬からは純粋な優しさしか感じない。

 

「……嫌われても仕方ないけど、それでも私はあの子を悲しませたくないし、出来ることなら何時ものような関係性でいたいんだ」

 

一之瀬帆波は自分の事より他人の事を想う人間だ。そんな優しい女の子だ。………けれど。

 

 

「……そんなの欺瞞だろ」

 

 

「………え?」

 

 

変わりたくないから、悲しませたくないから、だから自分の意見を通したい。けれど、だからといって他人に彼氏の振りを頼む事が誠意なのだろうか?勇気を出して行うであろう告白に対して。否、それは違うと俺にも解る。少なくともそんなことはしてはいけないと思う。

 

 

「……変わりたくないから、悲しませたくないからと言って告白を断る。その時点で悲しませると思うぞ?」

 

 

「……!」

 

 

「嘘言って誤魔化して、その場は取り繕えるだろう。けどな、一之瀬。俺にはそんな上辺だけの関係性に価値があるとは思えない。そんなの偽物だ。只の自己満足だ」

 

 

この言葉は一之瀬にも自分の戒めでもある。一之瀬は俯くが俺は構わず続ける。

 

 

「……俺から言わせれば、お前らの関係性は告白一つで崩れる関係性ってことだ」

 

 

自分の戒め。俺も龍園との契約時や椎名の告白を受けた時に関係性が崩れることを恐れた。心地よい関係性が変わってしまうのではないか。自分に向けられる好意は唯の勘違いではないか。自分でもはっきりしていないのに曖昧な気持ちで告白に向き合う事は無理ではないか。

 

変わらない事は肯定する。けれど、その考えは変えたいという奴の否定にもなる。一之瀬は優しい。敵対しているクラスが困っている状況を無償で手助けするくらいには善人だ。困っている人、傷付く人を見過ごせないタイプの稀有な奴。しかも見返りも求めないほどの。

 

 

けれど、その優しさは時に人を無自覚に傷付けかねない。一之瀬帆波は平田と同じで皆という不特定多数を優先する。皆の安寧を優先して輪を乱すのを嫌う。しかし、輪が欠けることもしたくない。故にやんわりと波風を立てない事を考える。

 

 

それはあくまで皆という不特定多数の利益を優先するのであって、決して個人の利益を優先しない。相手が変えたいと思ってもそれを皆という輪が乱されるために出来ない。リア充の関係性はぼっちの俺から見れば薄いものだと思う。空気が、輪が乱された途端に関係性が変わるのだから。一之瀬はそんな薄氷の関係性を望むのか。そう思っていると、一之瀬は力強く言った。

 

 

「……違う。私と千尋ちゃんはそんな関係性じゃない。例え告白は断って、嫌われても。どんな状況であっても絶対に私は一緒に闘ってくれるクラスメイトを見捨てない」

 

 

「上辺なんかじゃないよ」

 

 

顔をあげた一之瀬の瞳は強い信念を感じた。絶対に上辺の関係性とは言わせないという決意の現れだった。……上辺の関係性でも突き詰めていけば或いは……か。俺はその言葉にフッと顔の力を抜いて言った。

 

 

「………そう別のクラスの人間の俺にそこまで言えるんなら、別に彼氏の振りを頼む必要は無いんじゃねえの?」

 

「……!」

 

その言葉に一之瀬はハッとしていた。一之瀬の想いは正しいのか間違いかはともかく、少なくとも偽物ではなかった。一之瀬帆波は俺なんかよりもずっと強い奴だった。すると一之瀬がゆっくり言った。

 

「…比企谷君、まさかワザと……?」

 

「……俺は只、お前らの関係性を色々言っただけだ。俺もこれで帰ること出来るから良かったけどな」

 

少なくとも俺では告白する側で振られる事においてはともかく、される側の、しかもゆるゆりじゃなくて本気の奴は完全に門外漢だから少なくとも俺には上手く対処するやり方なんて知らんしな。精々出来ることといえば本人同士で向き合わせる様に誘導するぐらいだ。

 

「さっきお前が言った様に誠心誠意向き合ってやれば良いんじゃねえの。そうすれば無駄な遺恨は出ないと思う……多分、知らんけど」

 

そう言って俺は踵を返して帰ろうとすると、一之瀬が言った。

 

「比企谷君っ…ありがとう」

 

「……おう」

 

憑き物が取れた様な笑みにそう短く答えると、告白する人物と鉢合わせしない為にステルスヒッキーを全開にして、足早に去る。そしてある女子生徒にすれ違ったが、その女子生徒はステルスヒッキーの影響か、こっちを一瞥することも無く、体育館へ向かって行った。

 

振られるのを知っていて見送るとか、される側はともかく、する側は初めてだな。俺は嗤いのネタにされてたが、いざなってみるとネタにする気も起きないな。

 

そして寮に向かう途中で帰ってた筈の松下が途中のベンチに携帯を弄りながら座っていた。俺が来た事を察知したのか携帯から視線をこっちに向けてきたので俺は聞いた。

 

「……何してんの?」

 

「……ゆっくり今日は帰ろうかなって」

 

俺の質問にそう短く答える松下。俺はそのまま寮へ向かいに足を運ぶと松下もベンチから立ち上がって携帯をしまって追ってきた。

 

「……無理に答えなくてもいいんだけどさ。用件はなんだったの?」

 

もうHRが終わった時刻から結構時間が経っているため、周りは俺と松下のみだった。松下の質問に俺はこう答えた。

 

「……経験者からのアドバイスって奴だな」

 

何それ。と軽く笑う松下を見て俺は帰路を辿った。

 

 

 

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