ようこそ俺の実力至上主義のまちがった青春がある教室へ   作:ゆっくりblue1

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第15話。


松下千秋は彼の芯芽を観る。

ワンクッション注意前書き⚠️

 

今回は原作乖離の成分とキャラ改変が多く含まれている上に少し出血描写があります。苦手な方やこれは違うと思った方はブラウザバックを推奨します。尚御視聴する際は自己責任でお願いいたします。批判コメは受け付けておりますが、意味の無い誹謗中傷は受け付けておりませんので予めご了承下さい。

 

 

 

それから数日が過ぎて登校したクラスはいつもより三割り増しで緊張感が漂っていた。もっと具体的に言えば、何時もは喋ることが生き甲斐みたいな池や山内等の会話がほとんど無く、教室中がピリピリしているのだ。

 

それは何故かと言えば、今日が暴力事件のDクラスとCクラスの最終判決を下す為の話し合いが行われる日だからだ。この話し合いで、Dクラスが変わらず0pt生活を送ることになるか、それを脱することが出来るかが決まるのだから。

 

しかしながら当事者の須藤と須藤の弁護役である堀北の緊張感はその比ではないだろう。特に堀北は兄の前で醜態を晒さないかという別の緊張もある。俺は授業の準備をしながら教室の様子を見ているとスマホにメールが2件届いていた。

 

1件目は椎名だった。中身を確認すると、"今日でこの騒動の話し合いに決着がつきますが、今日にもそちらに戻っても良いでしょうか?"という内容だった。

 

「……こっちが負けたらもうちょい時間掛けないと駄目かもな」

 

周りに聞こえない程度で呟く。Dクラスが話し合いに負けたら、100%クラスの空気は悪くなる。その日に椎名が俺の部屋に戻って来てその事がクラスの奴にバレれば、俺はともかく椎名の方にも悪意が向く。それは俺の生活の安寧の為にも避けたい。一応その時の対処方法はあるが、これを使えば今後平穏な学校生活は諦めることになる。

 

俺は"こっちが負けたら、もうちょいそっちで過ごしてくれ"。と返信する。ふと、負けても最終的にはまたルームシェアするつもりである自分の考えに気付いてハッとした。如何やら俺自身が思った以上に椎名と過ごすのが楽しく感じているらしい。そしてもう1件目を見る。その主は一之瀬からだった。"昨日は本当にありがとう!比企谷君のお蔭で相手の子には悲しませる結果にはなったけど、友達のままでいてくれるみたい。助けてくれたお礼がしたいんだけど、何かあるかな?"昨日も似た様な内容で来たのだが、告白の一件は何とか無事に収束したようで、告白してきた相手とは友達の関係性は保たれたらしい。

 

そのメールに"俺は何もしてねえよ。礼は別にいい"。とだけ送っておく。礼目当てで助けた訳ではないので気にする必要も無い。というか正直一之瀬にして欲しい事ないしな。そう考えていると、隣の松下が聞いてきた。

 

「今日は話し合いだけど、本当に出なくてもいいの?」

 

「……別に堀北に任せとけば大丈夫だろ。特に事件に関係無い俺が出たところで何も変わらん」

 

正直もうあんまり関わりたくない。癒し先輩は兎も角生徒会長とかあの坂上先生は苦手だしな。後Cクラスの奴に悪目立ちして狙われんのは嫌だ。マジで時間外労働手当出てくれません?働きたくないのにいつの間にか働かされる現実が恐ろし過ぎる。専業主夫志望なのに。

 

「…何も変わらないと言うのは結果が見えてるからじゃないの?こっちが勝つ結果が」

 

そう神妙な表情で聞いてくる松下。そんな千里眼持ってねえよ。と肩を竦めながら答えると、俺の席に近づいてきた奴が居た。俺は内心げんなりする。その相手が櫛田桔梗だったからだ。

 

「…比企谷君、少しいいかな?」

 

「……何だ?」

 

相変わらずその完璧な仮面の櫛田。櫛田に話し掛けられる用件なんてないと思うんだがな。……さっさと用件聞いて話を終わらせるに限る。そう思っていると、櫛田は急に耳に顔を寄せて来た。

 

「放課後に少し話があるんだ。HRが終わったら屋上に来てくれないかな?」

 

「ッ…此処で言えねえの?あんまり時間掛けたくないんだけど」

 

俺は急な事にギョッとするが、何とか表情に出さずに平静を装って聞く。ていうか良い匂いだし、前屈みになったらその二つのお山が…ひえっ、何か隣の視線と後ろの剣呑になった気がするんだが。それに周りの視線もキツい。池や山内が凄え親の仇みたいに観てきてるんだが。

 

「比企谷君だけに話をしたいんだ。だから1人で屋上に来てね?」

 

そう言う櫛田の顏は強化外骨格から何時もの様子とは違うものを感じた。というか何か来る事が前提で話が進んでない?俺は拒否権を発動しようとしたところで、櫛田は遮るように言った。

 

「あ、もう授業始まっちゃうから行くね?放課後、待ってるから」

 

教室に設置されている時計を見て俺の耳元から離れてそう言った櫛田は、急ぐように俺の返事を聞かずに自分の席に戻っていった。……彼奴、時間を測ってギリギリになるようにして来たな。はぁ……行く気は全く起きないが、行かなかったら反故にされたって言われて、クラスの奴に睨まれそうだ。現に男子からの視線が凄いし。

 

「……行きたくないなぁ、誰か代わりに行って欲しいなぁ」

 

「……ねぇ、比企谷君?」

 

何でこんな面倒な事になんの?可笑しくない?俺何も悪い事してないのに。と遠い目しながら、隣の声から逃避する。このまま時間が経ってくれないかなぁ…

 

「…無視するなら、こっちも考えがあるよ?あー椎名さんとの事口が滑っちゃいそうだなー」

 

「ふ、無視なんてしてないから止めて下さいお願いします」

 

自己申告して口を滑らせるとか絶対矛盾してるよね。俺は早々に逃避から戻って松下に従う。くそ、まさか松下にまでに脅されるとは。もっとぼっちに優しくして?

 

「脅してないよ?交渉術って言ってね。それに私はちゃんと優しく接してるよ」

 

「…ナチュラルに心読まないでね?ドキッとしちゃうでしょうが」

 

主に恐ろしさで。ていうか後ろの方から視線をめっちゃ感じる。……ひえっ、チラ見したら何か堀北が睨んできてるぅ。そう思いながらも松下に聞かれる。

 

「櫛田さんに呼び出されることしたの?」

 

「…してない……と思うんだがなぁ」

 

「……自首するなら今のうちだよ?」

 

そう疑いをかけてくる松下に俺は言い返した。

 

「ばっか、俺があんな人気者を脅せる様な度胸ある訳ねえだろ。脅せる様な弱みも無いし、逆にこっちがやられる立場だわ」

 

「……その言葉で実際に納得させられるから反応に困るんだけど…」

 

そう松下はジト目から遠い目になった。それで納得させられるほどって俺普段どう思われてんの?私、気になります!

 

「小心者で物事を斜から構えて見る面倒くさがりのニート予備軍のヘタレぼっち」

 

「……クールのクの字も無い事を悲しめば良いのか、疑いが直ぐに晴れることを喜べば良いのか判らねえ……とりあえず松下、俺はニート予備軍じゃなくて専業主夫志望だからな」

 

「…突っ込むところそっち?それと、どっちにしろ社会に出て働く気は無いんだね……」

 

そう突っ込むと、松下は呆れた様な表情を浮かべる。大事なことだろ充分。専業主夫は社会に出る人を支えるから実質社会に貢献に出て働いていると言っても過言ではない。違うか……違うな。その時丁度チャイムが鳴り響いた。はぁ…憂鬱だ。俺は放課後の事を思って溜息を吐いた。

 

 

そして、緊張感がクラスを包み続けつつも時間は進んで行き、放課後になった。須藤君と堀北さんが話し合いに生徒会会議室へ、綾小路君が一之瀬さんから聞いた話では、Cクラスの当事者達と特別棟で仕掛けをしに準備する中でそれぞれ教室を抜ける中で、比企谷君は櫛田さんに呼び出されて屋上に向かった。

 

本当、比企谷君って女子との関わりあいが深くなったというか、何と言うか。比企谷君は妙に櫛田さんを苦手にしてるけど、まあ気持ちは理解出来なくはない。あの櫛田さんの如何にも可憐で皆に優しい女の子という出で立ちは、余りにも周りの人にとって理想的過ぎるし。裏の顔も有りそうだからね。

 

そう思っていると、綾小路君が教室から出ようとしたところで佐倉さんに話し掛けられていた。佐倉さんは何時もはオドオドしている様子が多かったのだが、今は何かを決心しているかのような強い眼差しだった。

 

そこまで声は大きくないので、話の内容が聞き取りにくい。なので口の動きから何を言っているかを汲み取ろうと集中する。

 

『……も、頑張るから』

 

そう言ったように見える。そうすると綾小路君が怪訝そうな顔をしたが、最終的には頷き、特別棟に行った。そして佐倉さんもいそいそと帰る準備をして教室を出た。

 

佐倉さんの言った、頑張るから。と言う言葉が引っかかり、考える。佐倉さんが頑張るようなこと、期末テスト?佐倉さんの成績は平均的だ。なので頑張って高得点を取るという事…?しかし、ああも真剣そうな顔で言う内容としては少し軽い。なら他に頑張る事は…性格を変える?だけど、佐倉さんに直すような要素は……遠慮気味なところと男性との関わり方の改善ぐらいで殆ど無い。

 

後は佐倉さんがやっていることはブログ……ストーカーの所為で一時停止しているのだが。ん?待って、ストーカー……性格……まさか!?

 

佐倉さんのしようとしていることに気が付き、私は心当たりのある場所へ佐倉さんが行っているのではと思って、鞄を持って急いで教室を出て後を追った。その様子をクラスメイトが怪訝そうに見詰めていたが、どうだっていい。

 

外れていて欲しい最悪の想像を頭の片隅に、私は昇降口に向かった。

 

 

 

つかつかとリノリウムの床を踏みしめて、目的の場所に向かう。そして階段を登っていき、着いた先のドアの向こうから風が外から吹いているのが音で分かる。ギィッ…と金切り音を立てて開く。其処は屋上、俺は外に出て、広いところで背後を向く女子生徒に言った。

 

「……それで、話は何だ?櫛田」

 

一定の距離感を保って、呼び出してきた人物である櫛田桔梗に怠い様子を隠さずに聞く。此奴とは一対一ではなるべく話し合うのは避けたかったからな。本気で早く済ませて帰りたい……そんな思いを抱えながらも櫛田は茶色の髪と制服を靡かせながらこっちを向いた。何時もと変わらず完璧な強化外骨格で、微笑みながら言った。

 

「その前に比企谷君、屋上の扉を閉めて欲しいの」

 

そこまでして聞かれたくないか。とも思いつつも早く済ませて帰りたいので素直に従って屋上の扉を完璧に閉めた。そして再び櫛田と向き合って用件を尋ねる。

 

「……んで、話は?」

 

「……うん、比企谷君。比企谷君ってさ、堀北さんと仲良いの?」

 

「…………は?」

 

いまいち櫛田の言いたい事が何なのかを汲み取れずに素っ頓狂な声が洩れてしまった。屋上に呼び出されて一対一にしてまで話すことが堀北と俺が仲が良い事についてとか絶対に違うだろ。堀北が好きだから近づくなとかか?一之瀬のデジャヴとか勘弁して!

 

「……別に仲良くなんて無いが?聞きたい事はそれか?」

 

そう聞けば、櫛田は暫く何も言わず俺を見詰めてきた。何だよ。俺の顔みても良い事なんて起き無いからね。出てくるのは腐った視線に見た奴からの悲鳴だけ。何、見てはいけないもの扱いなの?俺。それと美少女から無言で見詰められて喜ぶような性癖も持ってないんで。すると櫛田はやがて首を横に振って言った。

 

「……ううん、違う。聞きたい事はね、比企谷君。如何して比企谷君の電話が通じないのか聞きたかったんだ」

 

神妙そうな顔でそう聞く櫛田。……先週の休日の綾小路達に会った日の帰りの非通知って櫛田か?そう考えながらも櫛田に言う。

 

「……あー、その、間違って消したんだと思うわ。良く間違いメールや詐欺メール来るし、癖で消したんだわ」

 

適当にでっち上げた理由を話す俺。その言葉に櫛田は、そっか。と言って次の言葉を微笑みながら続ける。

 

「後でまた交換しよっ?連絡先を持ってないのクラスでは比企谷君だけだからさ」

 

……何で屋上に呼び出してまでそんな事を言うのかねぇ。と思って思わず俺は聞いた。

 

「……なぁ、何で俺ともわざわざ交換しようとするんだ?クラス全員分コンプとかゲーム感覚かとも思ってたが、屋上に呼び出してまでやる事じゃなくね?それに俺と交換したところで何も無いぞ」

 

「そ、そんな事無いよ。比企谷君とだってあんまりお話ししたことないから話してみたいなぁって……比企谷君って私の事、苦手そうであんまり話してくれないし、寂しいなって」

 

どうやら俺が敬遠している事が櫛田も分かっていたらしい。俺はこう言った。

 

「…………悪いな、今迄こんな成りだから関わりあいたくないと思われはしても関わりあいたいと言われた事は無かったんだわ。……………そう言うのは苦しくねえの?」

 

「えっ?」

 

俺の突然の問いに何のことかが分かっていない様子の櫛田。わざわざ帰りたいところを邪魔されたんだ。俺も此れくらいだったら良いだろ。

 

「……正直、俺はお前が怖い」

 

「何で池や山内みたいな普通女子生徒に嫌われるような奴にもあそこまで優しく接する事が出来るのか。俺みたいな腐った眼のぼっちにもわざわざ話しかけてくれるのか。俺がお前なら絶対遠慮する」

 

「……それは、皆と仲良くしたいからだよ?」

 

そう何時も通りな様子を見せようとするが、俺には分かる。僅かに櫛田の強化外骨格がズレ始めてきた。俺は続ける。

 

「皆と仲良くしたいね……じゃあ俺が仲良くしたいなら金払えとか言ったら?」

 

「………それは」

 

櫛田が答えあぐねる。強化外骨格が更にズレる。俺は更に続ける。

 

「……本当は皆と仲良くしたいんじゃないんだろ?皆と仲良くしている自分が1番だって思っているんだろ?」

 

「……如何して、そんな酷いこと言うの?」

 

そう瞳を潤ませて悲しそうに言う櫛田。しかしその眼には悲しみだけでなく、恐怖が見え隠れしている。強化外骨格が剥がされるのが怖い……いや、本当の自分を誰にも見せたくないのか?そう分析する。恐らくは俺の言った事は当たりだ。

 

櫛田が求めているのは周りの人と仲良くするなんてことではなく、正しく言えば誰からも認められたい、1番になりたいという自己承認欲求を満たすこと。その為にあの人当たりの完璧な強化外骨格を被っている。自分の承認欲求を満たしたくて俺や池達とも仲良くする。

 

しかし、その負担は大きすぎるのだろう。普通池達みたいな下心満載な奴と相対して仲良くしたいだなんて性の対象として見られてもいる女子生徒からすれば生理的に無理な筈である。男でもアレと一緒にはされたくない。だから相当鬱憤も溜まっている。

 

そしてその溜まったものが全て強化外骨格の奥にあるのだろう。それを解放すれば恐らくは櫛田の目的が叶わなくなる。だからこそ強化外骨格の状態のままなのだろう。

 

俺はそう思い、聞いた。

 

「……楽になりたいか?」

 

「……えっ?」

 

会話が成り立っていないので更に困惑気味になる櫛田。俺は櫛田の強化外骨格の奥を覗こうとも思ったが辞めた。櫛田が彼処まで隠そうとするものだ。大したものなのだろう。それに恐怖も見え隠れしているのに無理に覗ける程、大した関係性じゃないのだ。

 

それに、溜まったものが爆発しないとは限らない。もし何かの拍子で解放されれば、此奴は何をするか分からない。こっちにも被害が来るかもしれない。だから俺はスマホを差し出し、こう言った。

 

「…連絡先を交換するぞ。溜まったもの、全部メールで送って来ても良い」

 

「ええ!?」

 

急展開に着いて行けず更に困惑する櫛田。櫛田の溜まったものがどれだけかは知らんが、少しずつ解放するようにした方が良いだろう。これも俺が無事に学校生活を送る為にやる事だ。面倒臭さが半端なさそうだが、後で働く事になるより、最小限の労力で済む今ならまだマシだ。働きたくはないが人生は何処かで目を逸らした分のツケは必ず払わないといけないことを家の母ちゃんや親父が言ってたからな。楽な時に返せという教訓は定石だろう。

 

「……爆発したら敵わんしな」

 

「………良いの?」

 

櫛田は俺の言った事にそう聞く。櫛田の言いたい事は連絡先を交換しても良いの?ということでは無いだろう。俺はどういう意味かは問わずに頷いてスマホを渡す。すると、櫛田はもう一度聞いてきた。

 

「……本当に、良いの?こんな事したら見て見ぬフリは出来ないよ?」

 

「俺は何も言わないし、言う相手も特に居ない」

 

「……松下さん、いるじゃない」

 

そう言う櫛田が少し強化外骨格の奥を自分から覗かせてきた。泥々した深い闇。沼から恐る恐るこっちを見るもう1人。櫛田の最もな疑問に俺はこう言った。

 

「…はっ、彼奴も俺も雇用関係者だ。必要な事以外に言うのは弱みを握られるも同義だからな。小心者のただのぼっちがそんなこと出来る訳ないだろ」

 

そう苦笑気味に言っても櫛田は警戒した視線のままだ。……はぁ、まあ信用出来なくて当たり前か。なら、俺と櫛田の立場を対等にしてやればいい。俺はこう言った。

 

「……櫛田、俺はな。Cクラスの椎名と同居してんの」

 

「…はぁっ!?」

 

思わず素の自分が出た櫛田。驚きの表情は見る分には新鮮だったので思わず苦笑気味になる。

 

「これを知られたら俺はDクラスから叩かれる。……これでも信用出来ないんなら退学も掛けてもいい」

 

「……本気?」

 

退学も掛けてもいいという言葉に目を鋭くさせる櫛田。完全に素の状態になったな。俺は頷く。そして見つめ合うこと数秒、櫛田は溜息を吐いて言った。

 

「……ふぅ、其処まで言うなら信用はしてあげる。でも、バラしたら堀北と綾小路君と一緒に退学してもらうから」

 

そう睨むように言った櫛田。俺は内心は怖えと思いつつもこう答える。

 

「……自分で言ったことぐらいは自分でやんねえと誰もやってくれないからな。ぼっちの鉄則だ」

 

「……何言ってんの?キモいんだけど」

 

おぉう……初っ端から火力が高いんですが、此処まで嫌悪な視線でシンプルにキモいって言われるってダメージが凄い。……早まったかなぁと後悔し始めつつも今更遅いかと思いつつ、櫛田は俺のスマホに連絡先を入れた。そして言った。

 

「絶対にバラしたら退学だから。あんたの言った事は録音もしたし」

 

「……信用ねえ……」

 

録音もしているとは用意周到っすね……まぁ、予想してたが。想定通りだし問題は無い。そう思いながらも俺の信用の無さに肩を落とすと櫛田は僅かに吹き出す。

 

「……ぷ、く、あははっ!」

 

「……やっぱそっちの方が良いわ」

 

可笑しそうに素の状態で笑う櫛田に俺は聞こえない様に呟く。そして屋上から出ようとしたところで櫛田に聞かれた。

 

「……ねぇ、如何して其処までするの?対して話しても無いのに」

 

その問いに俺は、一度足を止める。櫛田の鬱憤を聞いてやる程の関係性も義理も確かにない。……強いて言えば。

 

「………似た者同士と思ったからだろうな。ただの自己満足だよ」

 

「……はぁ?」

 

俺の言葉に要領を得ないのか何言ってんの?頭湧いた?みたいな感じだった。泣きそう。

 

「……じゃあな」

 

最後にそう言って俺は屋上から去った。そして屋上前の階段を降りていると、電話が来た。松下からで、何だ?と思って電話に出る。

 

「もしも––––『比企谷君ッ!今直ぐ家電量販店に来てッ!!佐倉さんが危ないの!!』ッ!!」

 

松下のこれまでに聞いたことないほどの切羽詰まった状態の声音に俺はその場から走り出す。間に合えよ…!

 

 

 

私は佐倉さんを追っていた。佐倉さんがまさか自分から家電量販店の所に行くとは思わなかった。警備員さんには連絡する手段が特にない。かと言って警察では遅い。焦った私は取り敢えず緊急連絡先である教員の方へ連絡したが、何やら取り込み中で動きが無い。

 

「…何で出ないの……ッ!?」

 

走りながら、繋がらないことに苛立ち、男性の力が必要である可能性がある為に、1番連絡し慣れた男性に電話し、応援を求めた。

 

それから電話を切ってショッピングモールに辿り着くが、今はモールは一時休止で人の姿がない。その事に内心舌打ちしつつ家電量販店に向かう。

 

「……も、もう、私に付き纏うのは辞めて下さい!」

 

「な、何を言うんだい。雫ちゃん。僕はただ君が好きなんだ。この世で1番愛しているんだ!」

 

そんな声が聞こえて来たので、死角となっている場所から窺う。すると、佐倉さんが家電量販店のガレージを背後に大量の紙を地面にばら撒いていた。それを書いたであろう家電量販店の店員、もといストーカーは動揺しつつも興奮している様子で佐倉さんににじり寄っていた。

 

その様子を見て焦りながらも冷静に決定的な瞬間をカメラに収めようとした。

 

「い、嫌っ、来ないで!!」

 

「大丈夫だよぉ…怖い事はしないから。ちょっとおじさんと凄く気持ちいい事をするだけさぁ!」

 

しかしその前に佐倉さんに手を出そうとするストーカーの方が速かった。決定的な証拠が必要だという倫理観を無視した自分と助けなければという正義感を優先した自分が迫合い、私は咄嗟に大きな声で言った。

 

「キャアアアアアーッ!!此処に強姦魔が居て女性を襲ってます!!」

 

そう思いっきり言ったら慌ててストーカーは此方を向いた。姿を現してこっちにストーカーの注意を向けておく。ガレージに追い詰められた佐倉さんがへたり込んだ。これは不味いかな…!

 

「き、君、何を言っているのかな?僕は強姦魔じゃないよ?」

 

「……へぇ、今佐倉さんに手を出そうとしたのが、私にははっきりと解りましたが?ストーカーさん」

 

私は平静を装いつつも佐倉さんに意識を向けて何とか逃そうとストーカーに釘付けになる。視線が気持ち悪くて吐きそうだが、やってしまったものはどうしようもないので耐える。

 

「証拠の写真も撮りました。さっさと自首することをお勧めします」

 

平静を装いながらもブラフを言うとストーカーは更に動揺する。しかし佐倉さんは未だ腰が抜けていて動けない。そしてかなり全力で叫んだのだが、大人達が来る様子も無い。間が悪すぎる。

 

「…豚箱行きは嫌だなぁ、けど豚箱行きになるんだ。どうせならぁ……!」

 

ストーカーはニタリと醜悪に嗤うと、未だに動けない佐倉さんの方を向いた。不味い!私は駆け出し、手に持っていた鞄を思いっきり佐倉さんに遅い掛かろうとしたストーカーの横腹に殴打する要領で遠心力を利用して打つける。

 

「ぐああっ!」

 

「佐倉さん!」

 

当たり方が良かったのかストーカーが勢い良く吹き飛んだので3メートル程佐倉さんとの距離が空いた。その隙に佐倉さんの手を掴んで逃げようとするが未だ腰が抜けていて立てない。その事に歯噛みしつつも佐倉さんの前に立って庇うような体勢になる。他人にドライな自分が此処まで必死になるなんて…誰かさんの影響かな?と場違いな事を思いつつ、ストーカーが呻きながらも動いていた。……気絶しなかったか。

 

「僕と雫の邪魔をするなああああ!!」

 

最早狂気の沙汰で血走った眼を向けてくるストーカーに冷や汗を流しつつも鞄を盾に、対峙する。取り敢えず、誰でも良いから来て…!比企谷君…!私は祈るように思った。

 

 

–––––––––––––––––––––

 

屋上の階段から全力で駆け降りる。松下のあの焦りようは本当にヤバい状況に陥っている。取り敢えず誰でも良いから教員を見つけたいが時間がない。生徒に頼むか?

 

そう思いながら昇降口に向かっていると綾小路と一之瀬の姿が見えた。綾小路も何か急いでる様子だったので目的は多分同じだと思うが、かなりの速度で走る綾小路達に追いつく。

 

「比企谷」

 

「悪い、今急いでる。話す余裕は「佐倉の所に向かっている」っそうか…」

 

「じゃあ比企谷君も?」

 

走りながら聞いてくる一之瀬に頷くと、一之瀬に言った。

 

「一之瀬、教員達をモールの家電量販店に連れてきてくれっ。かなり状況が不味い」

 

「っ分かったよ!」

 

そう言うと一之瀬は素直に従ってくれて、踵を返して職員室に急いで向かった。俺と綾小路は無言で走りながら昇降口を出た。今履き替えている余裕はないので仕方ない。それくらいで学校は注意しないと思うし。

 

綾小路の走るペースに合わせながらだったら5分も掛からないが、走る速度を俺は更に上げた。すると綾小路もそれに合わせて加速した。

 

「綾小路は家電量販店の何処に佐倉達がいるか分かってんのかっ?」

 

「ああ、GPS機能のアプリが携帯に入っているからな。家電量販店のガレージ辺りだ」

 

おそらく松下もそこに居るな…最悪な状況になってないと良いが……!

 

そう思いながらもショッピングモールに着いた。モールは今日のこの時間帯は休止中の店が殆どなのだ。家電量販店はこの時間帯も営業している。

 

急いで家電量販店に向かえば、言い争っている声が聞こえてきた。丁度声が聞こえてきたところからは死角になっている所から俺と綾小路が覗く。

 

其処には、ガレージを背後に座り込んで震えている佐倉を鞄を盾にして庇うように立つ松下。その松下達にジリジリと異様な様子で詰め寄るストーカーが居た。最悪な状況には佐倉の様子からしてなっていないが、限り無くそれに近い状況になってしまっている。

 

如何する比企谷八幡……あの状況を如何やって打開する?あの感じでは出て行って脅しても恐らく逆効果。更に興奮してしまう。たとえ俺と綾小路が出て行ったとして、綾小路は何とか出来るだろうが、それでも俺達とストーカーとの距離が離れ過ぎてその前に松下や佐倉を人質にされれば動けない。

 

如何する……早く頭を回転させろ比企谷八幡!そう思いながらも綾小路を盗み見る。

 

しかし綾小路も予想以上に最悪に近い状況に案が出せないようだった。ならば此処で音を出して注意を引き付けようと思って、動き出そうとした瞬間。ストーカーが後ろのズボンのポケットに手を突っ込みながら叫んだ。

 

「僕と雫の邪魔する奴はあぁぁ…誰であろうと許さないいいいぃぃーーッ!!」

 

そう叫び、ポケットから出そうとした物が見えた。それは持ち手部分があり、その部分の先は光に反射する切っ先。–––––––ッ!

 

それが見えた瞬間に俺はストーカーの方に駆け出した。何故か身体が動いた。ナイフに対する恐れもなかった。綾小路が驚いた声で何かを言ったが、耳には入らない。

 

「ッ!」

 

「グハアアア!?」

 

俺はストーカーに目掛けて横後ろ斜めの方向からドロップキックで蹴り飛ばした。ストーカーは家電量販店の隣にある店のガレージ辺りにまで吹っ飛んだ。しかしあの吹き飛び方からして気絶するかは五分五分だ。

 

「比企谷君ッ!?」

 

「…綾小路!松下達を!」

 

突然の俺の登場に驚く松下を無視して綾小路に指示を出す。すると綾小路は既に動いていて、松下達の方へ行き、2人を連れてこの場から距離を置こうとする。俺はストーカーの突っ込んだ場所を注視する。しかし吹っ飛んだストーカーは思った以上にアドレナリンがドバドバ出ているのか地面に顔を打つけたのか鼻血は出ていても気絶もしなかった様で、ナイフも持ったままだ。

 

「お前かあああッ!僕は吹き飛ばしたのはあああああ!!」

 

鼻血を撒き散らしながら憎悪の視線を向けて叫ぶストーカー。最早興奮と怒りで理性は殆ど無い。これで俺も暴行罪を被る事になるが、取り敢えず警察を呼ばないといけない。つーか、教員はマジで早く来て…

 

そう思っているとストーカーは視界の隅に佐倉が綾小路と松下と共に逃げようするのが映ったのか、怒り狂う。

 

「何奴も此奴も僕の邪魔をしやがってえええええ!」

 

「ッ!」

 

「きゃあああああ!?」

 

ストーカーとの視線が佐倉と合ってしまい、ナイフを持ったまま近づくストーカーに悲鳴を挙げる佐倉。その際に恐怖で足が竦んで綾小路と松下と共に逃げるのが遅れてしまった。

 

「しぃいいいずぅううううくううううううーーー!!!」

 

そう突進する様にナイフを持って近づくストーカー。綾小路と松下が咄嗟に前に出る。しかし、その間に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––ズブッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………えっ………………?」

 

 

 

そんな声を洩らしたのは誰だろうか。生々しい音が聞こえてきた。肉を裂く様な音。裂かれたところからまるで燃える様な熱さと身を思いっきり引き裂かれた様な痛みが身体の神経から脳に伝わり、チカチカと一瞬意識が飛んだ。

 

 

「…ッぅ!!」

 

そんな呻き声を挙げたのは、またもや俺だった。受け止める為にストーカーにナイフで刺された左掌は思いっきりナイフの切っ先が手の甲から出て血が流れている。痛ぇ……めっちゃ痛い。比喩じゃなくて死ぬ程痛い。

 

「比企谷!?」

 

「………嘘……」

 

綾小路の珍しく驚いた様な声と松下の茫然とした呟きが聞こえる。ストーカーはまさかの事態に一瞬動きが止まった。刺されたんなら正当防衛だよな……!

 

痛みで気絶しない様に歯を食いしばって耐えながら俺はナイフで刺された左掌でストーカーの手を掴んで逃がさない様にして、思いっきり急所に膝蹴りを入れた。

 

嫌な感覚と共に今度こそストーカーは気絶してナイフを離して倒れた。……ふぅ、終わった。

 

何で俺は面倒事に巻き込まれるんだろと思いながら、綾小路達の方を向いて言った。

 

「……無事か?問題無いなら取り敢えず、警察に連絡してくれ。俺は死ぬ程痛くて何も出来んから」

 

そう言って俺は左掌からナイフの刃が突き刺さった状態で、座り込んで息を吐いた。左掌は痛みで感覚が可笑しい。………あー、もう働くのは御免だ。つーか、痛みで死ぬ。高校でこんな思いさせられるとか本気で辞めたい。

 

そう思っていると松下が俯いた様子でこっちにゆっくりと近寄って来た。俯いていて顔は良く見えない。

 

 

 

 

「……松下?」

 

 

 

 

「……………比企谷、君」

 

 

 

 

松下は崩れ落ちる様に膝立ちになった。俺はその様子に口を開け掛けたが、それは遮られた。突然抱きしめられたからだ。

 

 

 

 

「ッ松下?左手にナイフ刺さってるからあぶ––––––––––」

 

 

 

 

「無茶ッ、しないでよ…ッ!!」

 

 

 

 

そんな事はどうでも良いと言わんばかりに、激情をギリギリ抑えた様な声で鎖骨辺りに顔を埋め込む。其処からは啜り泣く様な声が聞こえてきた。余りの予想以上の反応に俺は固まっていると、くぐもった声が聞こえてきた。

 

 

 

 

「死ぬんじゃないかとッ……思ったじゃない、バカッ……」

 

 

 

 

「………左手で受け止めたから死なねえよ。俺が勝手に突っ込んだんだ。あれが1番効率的だった。だから、………そんな泣くなよ。泣かれるとどうすれば良いかぼっちの俺には分からん。小町専用コマンドならあるけどな……」

 

 

 

 

そう言って、傷付いてない右手で啜り泣く松下の頭をゆっくりと撫でた。そしてその時に一之瀬共に教員が複数名来た。俺はそれを見てぼそりと、来んのが遅えよ……と痛みに耐えながら愚痴ったのだった。………まあ此れくらいはな。

 

 

 

 

 

 

教員が駆けつけた後、予想以上の事態に目を見開いて、直ぐに警察を呼んだ。佐倉のストーカーは厳重に縛られた状態で教員が警備員に連絡して連行されて行った。

 

そして最も傷の深い俺は直ぐに医療機関へ連行された。松下は警察の事情聴取の為に現場に綾小路達と佐倉と共に残った。その時には眼には涙の跡があったが、泣き止んでいたので大丈夫だろう。

 

そして教員と共に医療機関に行ってナイフを摘出して、包帯とギブスと止血剤と鎮痛剤やら何やらが施されて診断された所、全治およそ2か月、絶対安静2週間の怪我だった。幸い刺さり方が良かったのか後遺症は残らないらしい。

 

刑事事件ものだが、学校側の意向とナイフに向かって行った自分の所為であるので自分の家族には伝えない方針を取った。情報規制も入り、事件関係者以外は情報漏洩は避ける様に注意喚起された。俺としても大事にすればそれこそストーカー被害に遭っていた佐倉にも余計な注目が集まってしまうので、事件被害者の佐倉の家族には事件の概要を説明する時に俺が庇った事は伏せてもらった。佐倉は申し訳なさそうにしていたが、別に気にはしてない。

 

その後、俺も警察の聴取に付き合うことになり、警察の方からは褒められると同時に状況が状況だけに仕方ないとは思うが無理はしないで欲しいとかなりの厳重注意を食らった。

 

ストーカーは強制わいせつに殺人未遂とかなりの罪状になる様で、しばらく外には出られないらしい。ストーカーは気絶から目覚めると自分が何をしたかを判り絶望していた。俺は暴行したが佐倉達の証言とストーカーに対しての正当防衛が認められ、特に問題は無かった。

 

医師からは入院も視野に入れていたが、日常的に余り使わない左手だったことや、学校の授業の事や生活の事を諸々考え、左手は絶対安静で、知り合いに日常生活の補助をしてもらう事を条件にこれまで通りに学校生活を送ることになった。まあぶっちゃけ入院しても何もないからどっちでも良かったのだが。

 

それから理事長が綾小路と松下と佐倉と俺の前に来て土下座した事は凄く驚いた。理事長の名前は何と坂柳だった。理事長の物腰の柔らかさからは想像つかないわ……今後はこんな事がない様に対策すると言われた。何故か俺と綾小路を見て何とも言えない表情を浮かべていたが。

 

そしてお詫びとして佐倉と俺が100万ppt、綾小路と松下が50万pptを贈られた。恐らく口止め料で此処までの金額になったのだろうなと思ったのは全員が解っていた。

 

それから、事件は幕を閉じて、履歴に問題の無い人員が確保されるまでモールの家電量販店は閉鎖して、事件とは無関係な一般生徒に対しては改修工事でしばらく閉鎖するという筋書きになった。後、家電量販店の隣の店のガレージも補修された。俺がやったみたいなものなので店の人に訴えられないか少しだけ懸念していたが、特に隣の店の人は何も言わなかった。

 

地面に付いた血も綺麗にされており、完全に事件は幕を下ろした。

 

そして漸く事情聴取も終わったのは午後の8時頃、流石にもう何もしたく無い。綾小路から聞いたところ無事にCクラスとDクラスは和解という名のCクラスが訴えを取り消したらしい。取った手は大博打で特別棟にカメラを着けるという手を使ったが、正直カメラの映像などは何も無いので見せろと言われた瞬間Dクラスは負けだった。カメラは昨日辺りに設置した物だろう。

 

BクラスがDクラスに協力した事で正式に同盟関係が築かれたらしい。これでしばらくはお互いを攻撃しないで協力するという状態になる筈だ。そう思いながら寮への帰路を松下と共に辿っていると松下が急に言った。

 

「……ねぇ、比企谷君」

 

「ん、如何した?」

 

松下は歩くのを1度止めるので俺も止まる。そして松下は言いにくそうにしていたがやがて深呼吸を一拍置いて、強い瞳で言った。

 

 

「……私も比企谷君の部屋で暮らして良いかな?」

 

 

「………は?」

 

 

そんな唐突の爆弾発言に俺はそんな声しか出せなかったが、何とか再起動して言う。

 

 

「……いやいやいや、何でそうなる?別にお前が来る必要は無いだろ」

 

 

「椎名さんも比企谷君の部屋に戻ってくるんだし、事情を誤魔化さないといけないよ?それに事情を知っている私がサポートした方が色々とやり易いでしょ?」

 

 

その松下の言い分も一理はある。確かに事情を知っている人物にサポートしてもらった方が色々とやり易いということはあるが。

 

 

「……別に泊まる必要は無いだろ。片手はあるし」

 

 

「片手でも限界はあるでしょ?それに椎名さんにわざわざ事情を隠しながらも手伝ってもらうの?そんな事出来るの?」

 

 

その言葉に俺はぐっと言葉を詰まらせた。確かに椎名に事情を誤魔化した状態で手伝ってもらうのは椎名ならやってくれそうだけど罪悪感はある。けれど、椎名との同居でも結構緊張してるのにやばいんだよな。何がやばいかって主に俺の社会的立場と理性がやばい。クラスの奴等にバレたら確実に屑扱い間違い無しだ。不純異性交遊扱いされてもおかしくない。

 

 

……まぁ、俺だけならまだしも、椎名と松下を巻き込むことはしたくない。そう思って松下に言う。

 

 

「……庇った事に対しての罪悪感で言ってんなら止めろ。さっきも言ったが俺が勝手にやったことだからな」

 

 

そう言えば松下は俯いて何かをボソッと呟いた後に顔を挙げると言った。

 

 

「じゃあ、私が比企谷君にやってあげたい事って言ったら納得してくれるの?」

 

 

「ぅぐっ………」

 

 

そう言われて今度こそぐうの音が出なくなる。松下の眼が絶対逃がさないという意思を感じるからだ。恐らく此処で断っても言ってくるだろう。これを断って今後に溝が出来れば、学校生活は兎も角、試験もあるだろうから面倒になってくる。

 

 

「……今後試験に必要な情報をタダで集めてあげるって言っても?」

 

 

松下の言葉を聞いて、俺は再びリスクリターンの計算を行う。松下が何で此処まで譲歩してまで俺の部屋で暮らそうとするのかは知らないが、タダで松下がやってくれるというならこっちとしてはやり易い。ただ、松下に対して何一つ得がないのが気になる。

 

 

「……そんなもんお前に得がないだろ?」

 

 

「……得ならあるから平気だよ」

 

 

その言葉にはぁ?と素っ頓狂な声が洩れた。俺の部屋で暮らす事の何処に得があるのか。俺は納得出来る理由が無いのでこう言った。

 

 

「……俺は養われる気はあっても施される気は無いぞ。お前に全く得がない様にしか思えない」

 

 

「………〜ッ!あー!面倒な人だなぁ!如何やったら納得するの!?」

 

 

「おい、急に叫ぶなよ……びっくりしちゃうだろうが。そんなイライラしてると幸せ逃げるぞ」

 

 

「誰のせいかなぁ…!?」

 

 

本当に誰のせいだろうな。俺からしたらお前の方がある意味面倒なんだが。松下は顔に青筋を浮かべたまま言った。

 

 

「比企谷君がこれで納得してくれないなら椎名さんとの同居の件が私の口がうっかり滑ってバレちゃうかもしれないけどそれでも?」

 

 

「すいませんマジでそれだけは勘弁して下さい」

 

 

思わず土下座する勢いで懇願した。くそぅ……そう言えば松下は同居の件を知ってるんだったわ。これで脅されたら言うこと聞くしかない。あれ?いつの間にか立場が逆転してない?俺って此奴の雇用主の筈だったよね?関係をさり気なく逆転させる松下恐るべし…!

 

 

「じゃあ同居しても良いよね?」

 

 

「……アレが「アレがアレでアレだからパスって言うのは無しだよ?」」

 

 

……最早先読みされてるんだが。比企谷検定第三級を贈呈出来るレベル。因みに第一級はもちろん小町。彼奴先読みの先読みして逆に空回りするからな。とこれ以上現実逃避をしていたら松下が本気でキレそうなので真面目に考えて溜息を吐いて言った。

 

 

「はぁ……其処まで言うなら好きにしてくれ。但し、俺の学校生活の安寧は崩さないでね?もし崩したら……」

 

 

「………崩したら?」

 

 

松下は真剣そうな表情を浮かべたので俺も真剣に言った。

 

 

「お前の耳元でずっと啜り泣き続けてやる」

 

 

「……うっわぁ、地味に鬱陶しい嫌がらせだね」

 

 

そんな引いた表情になった後に、松下は比企谷君の学校生活に迷惑になるような事はしないよ。と微笑んだ。そのまま俺達は寮へ戻っていった。

 

 

 

その日の夜、私は比企谷君の寮で暮らす事が決まった。そして話し合いの後に戻ってきた椎名さんに–––––もちろん比企谷君が刺された事は誤魔化した状態で–––––事情を説明して、今後の生活を共にすることになった。椎名さんが嫌悪する様子は無かったので一先ず安心した。同居人としては円満に行きたいからだ。

 

そして自分の部屋から必要な荷物を持ってきて、生活がし易いように整えた。その後に比企谷君にはなるべくじっとしとく様にさせて椎名さんと一緒に料理を作った。また一緒に暮らせる事が嬉しいのか、椎名さんはかなり張り切って料理を作っていて豪華になった。

 

料理を食べる時には比企谷君が左手がギブスをされているので皿を持てない為に食べにくそうだったので、椎名さんと一緒に比企谷君に食べさせ合いをした。椎名さんは嬉々として食べさせていたが、比企谷君は羞恥心で悶えていた。

 

料理は無事に食べ終わり、食器を洗ってある程度3人でのんびり過ごした後にお風呂の時間になったが、流石にお風呂まで入って補助する程の度胸はまだ付いてないので比企谷君が1人で入った。もちろんギブスをしている腕は濡れないように対策して。しかし背中が片手だけしか使えないので洗いにくそうと思ったので明日から背中だけなら洗ってあげようと思った。

 

そしてその後に椎名さんと私の順番でお風呂に入った後、リビングでのんびり過ごしていると、比企谷君が疲労が溜まっていたのか午後10時になる前には横になった。横になる時、左手を宙に上げて天井から吊り下げた布で吊るした状態なのでかなり寝にくそうだったが、疲労が勝ったのか、直ぐに比企谷君は眠った。

 

寝ている比企谷君を眺めながら椎名さんは比企谷君と暮らし始めた時から一緒のベッドで眠っていたから暫く出来そうになくて残念だと言っていたので驚いた。よく比企谷君が添い寝を許したなと思った。

 

 

そして豆電球モードで僅かなLEDの光の中、比企谷君を起こさないように静かに椎名さんと会話していると椎名さんが聞いてきた。

 

 

「……松下さん、少し聞きたい事があるのですけれど、良いでしょうか?」

 

 

「……何?」

 

 

「……松下さんは、八幡君の事をどう思っていますか?もちろん無理に答えなくても大丈夫ですが、出来れば答えて頂きたいです」

 

 

そう言った椎名さんの瞳は真っ直ぐで、一切の悪意を感じなかった。改めて比企谷君がとても素敵な女の子に好かれているのだなと思った。そんな椎名さんに向き合う様に私は比企谷君に対しての気持ちを嘘を付かずに話し始めた。

 

 

「………彼は、放って置けない人、かな」

 

 

「……放って置けない人、ですか」

 

 

何時もは何事も面倒くさそうにして働きたくないとか言って気怠げなくせに、1度向き合えばなんだかんだ言いながらも最後まで投げ出す事はしない天邪鬼。

 

 

「そう、まるで猫みたいなんだよね。近付いたら警戒して誰も近寄らせないのに、眼を離せば側にまで寄って来てるし」

 

 

そして放って置けば今回みたいに傷付いて、傷付いているのに誰にも寄っては行かない。集団から弾かれて濁った眼でその集団を遠くから見つめている。鳴きもしないから、本音もよく分からないで誤魔化したりするし。

 

 

「だから、放って置けないんだよ」

 

 

あのまま放って置けば何処か見えないところで、手が届かない場所に行ってしまうのではないかと思った。

 

 

彼がナイフで刺された時、血の気が引いて、心臓が止まった気がした。幸い手で受けたから良かったものの、彼の心臓に突き立っていたのではと思うと、今でもゾッとして震えてくる。

 

 

今回の事ではっきりした事がある。比企谷君は自己犠牲のきらいがある。いや少し違う。彼が問題と向き合い、解決又は解消する際、彼は自分が傷つくことを勘定に入れていない。だからこそ私達を庇ったのだと思う。まるでそれが最善の選択だというように。

 

 

このままいけば潰れてしまうのではないかと思った。だから私は彼の私生活を知って、彼のことを知って、いざという時に助けられるようにしたかった。だから比企谷君に無理を言って了承を貰った。もう2度とあんな思いはしたくない。

 

 

私の言葉に椎名さんはそうですか、答えて下さってありがとうございます。と言って微笑むと、就寝しようと思いますが、松下さんは?と聞いてきたので、後少しだけ起きておくよ、お休みなさい椎名さんと私が言えば、椎名さんも同じ様に返して、比企谷君が寝ているベッドの隣のフローリングに布団が敷いてあるので其処に横になって眠った。

 

 

私は眠っている比企谷君を見て、その頰に手で触れる。暖かい。その事に私は思わず泣きそうになる。生きている、また彼の捻くれた態度が見られると。

 

 

「……独りにはさせてあげないよ?八幡君」

 

 

そう呟いて比企谷君の髪を手の甲で撫でると、椎名さんの隣に敷いてある布団で私も就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛇足説明ーーー

 

今回の展開について、ストーカーがナイフを持ち出し暴れたのは、綾小路達が来る前に松下が駆けつけてしまい、ストーカーを刺激させてしまったからだと思って下さい。綾小路達が駆けつけていれば原作の展開になっていますがこの小説ではこの様な形を取りました。

 

不満がある方もいらっしゃると思いますが、この作品は作者の自己満足作品だと思って優しく許して頂けると助かります。今後ともよろしくお願い申し上げます。

 

 

 

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