ようこそ俺の実力至上主義のまちがった青春がある教室へ   作:ゆっくりblue1

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第16話。


ぼーなす・とらっく やはり俺の休日が休日として機能していないのはまちがっている。

注意⚠️ 今回はキャラ崩壊がいつもよりあると思われるので無理な方はブラウザバック推奨します。それでもオーケーな方はどうぞ!前回にもあった通り、意味の無い誹謗中傷コメントは受け付けておりませんので予めご了承下さい。

 

 

休日とは、休む日と書いて休日と読む。この日は学校の学生や社会の労働者への癒しの日である。普段のしなければならない事、勉学の為の登校や給料を貰う為に行う出勤が無く、家に居てダラダラして良い日である。まあ、自分から勉強したい人や、仕事が好きでやっている人はこの日も忙しいだろうが、それは例外である。

 

今日はそんな俺がダラダラ出来る休日なので、ヒーロータイムとプリ◯ュアでも見て過ごそうかなと思ったのだが。

 

「ちょっと比企谷君、聞いてる?」

 

「何を濁った眼で見詰めているのかしら?」

 

「…ほぉ、中々に面白そうだ。とりあえずお茶を貰っても良いかな?」

 

「比企谷君は女性を引っ掛ける何かがあるのでしょうかね」

 

「……何この予想外のメンバー」

 

「あはは……こんなに集合することって見たことないよ」

 

「ちょい、比企谷、お前モテ過ぎだろ?こりゃ俺ら男子から恨まれて刺されたとしても文句は言えねえよな」

 

「…八幡君、大丈夫ですか?」

 

「眼が死んでるけど、とりあえず全員にお茶を出すから冷蔵庫開けるけど良いよね?」

 

今、俺の目の前には休日を平和に享受出来そうにない面子が俺を含めないで9人。喋った順から、櫛田、堀北、鬼龍院先輩、坂柳、神室、一之瀬、橋本、椎名、松下である。休日には遭遇したくない程の濃いメンバー、それがオールスターで俺の部屋に来ているのである。そして俺は眼を腐らせている自覚がありつつも、頭を抱えた。

 

「……本当に如何してこうなった………」

 

俺はそう呟く。このメンバーがここに来る事態になった理由は今から数時間前に遡る。

 

 

 

––––––––––––––––

 

昨日から松下が俺の部屋に滞在することが決められた後日、俺は昨日の騒動で左手の大怪我、疲労が重なって倒れ込むようにベッドに入ったのだが、左手を吊るした状態で寝ているので寝返りをうつことが出来ずにかなり寝難かった。夜中に何度か違和感を感じて起きてたし。寝返りって偉大だったのね。

 

そして次に起きたのは7時くらいで、まだまだ早い時間帯だったのだが、何度か寝て起きてを繰り返しているうちに眠気も覚めてしまっていて、宙釣りの左手も流石に下ろしたいと思っていたので俺は起きた。

 

「…あっ、起きたんだ。おはよう比企谷君」

 

先に起きてたのか、既にぱっちりと眠気も無さそうな松下が私服の状態で挨拶してきた。見た所椎名も起きていて、洗面所にでも行っているのだろうか、居間に姿は見えない。

 

「………うす、休日なのに起きんの早くない?」

 

そう言えば、松下はこの時間帯に起きるのが習慣になっちゃったみたい。と言う。習慣になっても普通眠気に負けるんじゃね?と思うが、まあそれは松下の事なので好きにすれば良い話だ。そうしていると椎名も洗面所から戻って来た。

 

「起きたのですね。おはようございます八幡君。ちゃんと眠れましたか?」

 

「…左手宙釣りにした状態だったから、超寝難かったわ。何回か目が覚めてる」

 

「そうですか……早くギブスが取れる状態になると良いですね」

 

俺の言葉に心配そうな視線を送ってくる椎名。癒しの波動が伝わってくるわ〜……マイナスイオンも常時発動しているということでいつでも回復可能になる最高の癒し。これならメラ◯ーマにも耐えられる気がする。そう癒されていると松下も言った。

 

「お風呂も背中が洗いにくいだろうし、結構不便そうだった感じに見えたからね」

 

「……本当にそれ。片手で洗えると思ったら案外洗い難いんだよな。背中の左側まで手が回らんくて時間掛かった」

 

右手で洗える範囲が広くないことが今回で良く分かった。左手が使えない所為で一部が洗えてない状態になっている。ナイフで刺したストーカーマジで許すまじ。

 

それでも悪運が有ったのかは知らんけど、制服に刺された時の血が付かなかったのは良かった。血痕取る為に洗っても中々取れんらしいからな。椎名にも事情を説明し難いし。

 

それからは休日にしてはかなり早い朝食になって、朝食を済ませた後、居間でダラダラしている。と言っても片手が使えないので本も読めないし、ゲームも出来ない。それに加えてじわじわと痛みがあるので、面倒くさい。鎮痛剤は飲んでも完璧に痛みが治まる訳ではないので仕方ないが。

 

片手で暇を潰せる目覚まし機能付き暇潰し機であるスマホで暇を潰そうとすると、メールが昨日から十件以上来ていたことに気づく。件名は無題。着信元はK,Kという名前だった。何かの詐欺メールか?と一瞬思ったが、昨日のことを思い出して、あぁ……と思って怖いなぁ、見たくないなぁと思いながらも自分で蒔いた種という事で内容を確認する。

 

『池が馴れ馴れしい。後、山内が事ある毎に触れようとして来て気持ち悪い』

 

『女子のグループで私を勝手に愚痴聞き役にして来るのが腹立つ。マジで内輪の問題は内輪で解決しろっての』

 

『後、最近堀北が目立つようになってきたからそれもイラっとくるし』

 

……これは酷い。櫛田の中身をクラスの奴等や他の仲良い生徒が見たら一瞬誰?ってなるな。こんな毒吐くのにあの強化外骨格で過ごせるって二重人格疑うレベル。良くあんなニコニコして池とか山内に近づいてたな。そんなに嫌なら辞めとけば良いのに。ある意味特殊性癖の持ち主なのん?

 

その後の数件も愚痴のオンパレード。特に目立ったのは山内と堀北。山内は兎も角、此奴堀北の事嫌いだったんだな。じゃあ屋上で聞いたあの質問は何だったんだよ。堀北と仲が良い俺も敵扱いされるとか?何それ怖すぎ。

 

あまりの櫛田の変貌に引きつつも昨日に続いて今日の朝の6時からのメールが数件。昨日の分の内容が濃過ぎてアレだが、見ないでいるのもなんか嫌な感じがするので見てみるか。

 

『返信遅いんだけど?何やってんの?』

 

『アンタが良いって言ったんだからちゃんと対応してよ』

 

『………ねえ、何で返信しないの。ねえ』

 

『自分で言っといて返信しないとか、有り得ないんだけど?早くしてよ。ねえ!』

 

『今日の昼まで返信しなかったら、椎名さんとのことクラスに広めるからね』

 

………こっわ。待って、え、何これこっわ。櫛田って病んでんの?構ってちゃんはまだ良いけど櫛田みたいなタイプは無理だわ。凄え怖い。とりま返信しないとな。

 

『ちょっとまて、広めるなよ?』

 

そう返信すると数秒後に返信が来た。返信早過ぎて引く。本格的にやばいやつだろこれ。

 

『遅い、どんだけ待ったと思ってんの?自分で言ったことは自分でやらないとなってキモいドヤ顔で言ってたクセに遅過ぎるんだけど』

 

『おい、キモいドヤ顔ってキモいは要らんだろ。昨日は色々有って見る暇もなかったんだよ。あのメールは何?お前構ってちゃん?病んでんの?返信催促は止めろよ。怖いつーか怖い』

 

『はっ?愚痴聞き役に自らなったのはアンタでしょ?私の愚痴ぐらい付き合いなさいよ。て言うか、本当に何で返信しなかったの?』

 

昨日のことは緘口令が敷かれている為に本当の事は言えない。とは言え、言わなければ櫛田は納得しないし、此処で拗れるのは面倒くさいので嘘と真実の一部を混ぜた椎名に説明した事情を話すことにする。

 

『昨日学校の帰り道で派手に転けて左手を骨折したんだよ。んで、医療機関に行って医者に見せたりしてたからそれ何処じゃなかったんだよ』

 

『…適当にでっち上げた嘘じゃないでしょうね?』

 

『嘘付いて俺に得なんかねえよ。現にお前に問い詰められてるんだし』

 

まあ普通は疑うわな。此奴の立場だったら俺だって何で今日に限って骨折するの?って疑うし。俺もあんな事が起きるなんて思ってなかったしな。

 

『……まあ良いけど、とりあえず私がメールを送ったら1日の何処かで一言ぐらいは返して』

 

えー、俺は返信するって屋上で言ってないんだけど。………はぁ、軽率過ぎたか。つっても自分で言った事は自分でやるって言っちまったし、仕方ないか。それに此奴の病み具合からして屋上であのまま何もせず放置出来る程、俺は肝が座ってない。別に此奴の事が心配だとかそんなんじゃないが、いつか爆発して俺に被害が出んのは嫌だし、取り敢えず適当に愚痴に付き合いますか……はぁ、俺マジで最近働き過ぎじゃね?癒しが欲しい。癒し先輩の波動を浴びたい。

 

『……取り敢えず善処はする。ただ今回みたいに催促は止めろよ?マジであのメールはヤンデレが送る奴だから。返事すんの戸惑うから』

 

『別に病んでない!それで、アンタに聞きたい事があるから答えて』

 

聞きたいことねぇ……嫌な予感がするなぁと身構えていると、ある意味予想通りである意味予想外の質問をしてきた。

 

『前に須藤君の手助けの頼みを私や平田君が頼んだ時は断ったクセに、堀北に頼まれたらすぐ了承してたけど、あれはどういう事なのよ』

 

……言えない。言ったら堀北の事が嫌いな此奴のことだ、面倒な事になる。万に一つ納得させられたとしても不満は残る筈だ。変な溝を作って俺の働かないように過ごす生活が崩れる。

 

俺は、偶々だ。他意はないと送り返すと、携帯を閉じて思いっ切り溜息を吐いた。はぁ…この学校に来てから溜息が多くなった気がする。幸せ、どんだけ逃げてんだろ。

 

そう遠い目をしていると、松下がその溜息を聞いたのか、椅子に座って本読んでいたのを本から目を逸らして、こっちを向いてきた。

 

「濁った目が死んだ目になってるけど大丈夫?」

 

「…おい、何で大丈夫って言いながら俺は若干ディスられてんの?器用過ぎんだろ」

 

濁った目が死んだ目って、生気無えじゃん。何、俺は遠い目したら瞳の瞳孔開いてんの?だから中学で遠い目してたらゾンビってコソコソ言われたのか、納得したわ。納得して良いのか分からんけど。そう言えば松下は苦笑しながら返した。

 

「だって、何か中年の解雇されたサラリーマンみたいな凄い哀愁が漂ってるんだもの。スマホ弄ってるだけでそんな目をする人居ないと思うよ?」

 

中年、しかも解雇されてるって酷くない?せめて社畜……いや、働きたくない俺からしたらそんな感じか?ただ中年って言われんのは納得がいかない。

 

そう考え込んでいると松下が聞いてきた。

 

「誰からのメールなの?比企谷君が部屋でスマホを弄ってるのは珍しいんだけど。椎名さんや私は居るし、一之瀬さんはそんな目になる事を言わないだろうし、だとしたら坂柳さん?」

 

そんな松下の質問に俺は答えを濁して、まぁ、そんなところだ。と誤魔化した。松下には悪いが事情は櫛田との相互確証破壊みたいな契約なので言えない。言ったら、高校退学で中卒になって意地でも働かんと駄目になる。専業主夫として養ってくれる人が居てくれたら話は別だけどね。俺としては此処の高校出て、大学行ったら家で小町に養ってもらうという完璧な計画があるからな。え、無理。絶対嫌だ。って聞こえた気がしたが、気の所為という事にしておこう。……気の所為だよね?

 

そう脳内で慌てていると、着信が鳴った。櫛田からの返信で思わず頭を抱える内容だった。

 

『巫山戯てんの?そんな答えで納得出来る訳ないでしょ。画面越しだし、誤魔化されそうだからアンタの部屋に行って直接聞きに行くわよ』

 

……うっわぁ、めんどい、嫌な展開になった。思わず頭を抱えて、椎名達の方に顔を向けた。俺の様子に怪訝そうな表情を浮かべている。……どう乗り切るもんかね。事情は話せんし……はぁ。

 

「……済まんがこれから坂柳以外の奴が来るから、一応目に付く所に置いてある荷物を見えないとこに移動させてくれ」

 

その言葉に椎名達は怪訝そうにした後に、椎名が聞いた。

 

「誰がいらっしゃるのですか?」

 

俺はその質問に対して迷いつつも答えた。

 

「…櫛田だ」

 

「……櫛田さん?」

 

松下が眉を上げる。椎名は顔と名前がイマイチ一致して無いのか、誰かわからない様だが、事情の知らない人物が来るので、荷物を片付けに行った。椎名はもうバレてるから隠さなくても良いんだけど、まぁあんまり勘繰られんのも嫌だからな。そこが問題ではない。問題は、訝しんでる松下の方だ。

 

「……どういう事?何で比企谷君の部屋に櫛田さんが来るの?……まさか事情がバレたの?」

 

そう聞く松下に俺はどの程度まで事情を明かすかを考える。……取り敢えず椎名の件を自分からバラした事を言えば何故って勘繰られるし、バレたって事にしておこう。

 

「……如何もそうみたいだ。俺と椎名の様子を見て、屋上に来て勘繰ってきてな。バレたからある程度は事情は知ってる。ただ、松下が泊まり始めたのは知らんから、松下の荷物も見えないとこにしまってくれ」

 

そう嘘半分、真実半分の答えに松下は納得がいかないのか、こう聞いた。

 

「……本当に?自分で言っておいてなんだけど、腑に落ちない。……本当の事情は?」

 

「……本当だよ。櫛田には俺がミスってバレたんだ」

 

松下の再度の問いに俺はそう答えると、松下は若干睨む様な表情を見せる。椎名の事が櫛田にバレたのが駄目だったか?すると予想外の事を聞いてきた。

 

「……何かまた無茶しようとしてる?」

 

「……無茶って何だよ。俺が自分から労働しなきゃいけない様な事に首を突っ込む訳ねえだろ。本当、誰か養って……」

 

切実に。櫛田の事情に首を突っ込んだ時点で間違いだったかもしれん。これ以上は本当、働きたくねえ……働いても給料が出るどころか櫛田みたいなヤンデレ…いや、デレてねえな。病んでる女子を抱えるっておかしな話だ。はっ!これは俺が専業主夫になる事が正道だと言う神からの啓示なのでは?やっぱり専業主夫しかねえな。

 

「……だったら良いんだけど」

 

松下は納得がいっていない表情を浮かべたまま、そう言って自分の荷物を目に見えない位置に移動させに行った。そして其処で部屋にインターフォンの音が鳴った。ちょっ、早くね?俺はなるべくゆっくり動いて時間をかける。居留守って思って帰ってくんねえかなぁと思っていると、再びインターフォンが鳴った。

 

そしてもう一度鳴ったので、椎名達に片付けたか?と視線を送って頷くのを確認すると、小声で靴も出しとくぞ。と言って椎名と松下に靴を出してもらい、居間に戻ってもらった後に俺は溜息を吐きながらドアを開ける。

 

「……インターフォンは一回にして–––––––––って堀北?」

 

「朝早くから失礼するわ。比企谷君」

 

そう言って扉の向こうに居たのは予想した人物ではなく珍しい私服姿の堀北の姿だった。

 

「……何か用か?」

 

「聞きたい事があってきたのだけれど、上がらせてもらっても良いかしら?」

 

「……いや、時間が掛からないなら外で話すぞ」

 

堀北と相性最悪の櫛田との鉢合わせは確実に面倒になるからさせたくない。それに俺が居ないなら多分櫛田も帰るだろ。帰るよね?

 

堀北が頷いたので、ちょっと待っといてくれ、準備する。と言って1度扉を閉めて居間にいる椎名達に言った。

 

「……来たのは堀北だったわ。取り敢えず話があるみたいだから、外に出てくる」

 

「解りました。気をつけて下さいね」

 

「堀北さんが?……まぁ、良いか。取り敢えずいってらっしゃい」

 

椎名は心配そうに言って、松下は怪訝そうな表情を浮かべたが、見送る様だ。俺は靴を履いて、外に出ると堀北に言った。

 

「…話は寮の広場で良いよな?」

 

「……ええ、大丈夫よ。それにしても比企谷君、その左腕……」

 

堀北に指摘されるので、転けた時に折れた。と端的に言って寮の広場に向かう。

 

そして、広場に着いて誰も居ない事を確認した後に、堀北に聞く。

 

「……んで、堀北。話って何だ?」

 

「話したいのは、須藤君のあの騒動の事よ」

 

………あー、何か聞きたい事があるって言ってたな。面倒くさくて後回しにしたけど。俺がそう思っていると堀北は早速聞いてきた。

 

「比企谷君、貴方は最初からあの案に考え付いていたようだけれど、最初からCクラスの策略を知っていたのかしら?」

 

「…いや、策略自体は知らんかったが、4月に特別棟に行った時にカメラがない事が分かったからな。目撃された中でも暴言とか言う須藤がわざわざ特別棟に行くことをあの時点で考える程の悪知恵はないだろうし、Cクラスが須藤を呼び出してDクラスに嫌がらせしてきたって推測は立つから、監視カメラは実は有りましたーっつう展開になって、動揺をさせられたら少なくとも五分にはなるだろうって思っただけだ」

 

でもまぁ、殴られた当事者が冷静になれる程の頭があったらこの策は通用しないし、ぶっちゃけCクラスが呼び出されて殴り掛かられたっつう嘘さえ言わなきゃ、普通に負けてた。須藤を嵌める仕掛けを作ったのは龍園だが、彼奴がそんな初歩的ミスをするとは思えない。これも推測だが、殴りかかったあの3人が独断でやった可能性が高い。須藤の事相当嫌ってた様子だったしな。これなら龍園が直接須藤に仕掛ければもはやこっちの勝ち目はなかったのだが。

 

そう思っていると、堀北はこめかみに手を当て、呆れた表情を見せる。美少女がやると様になるな。

 

「……呆れた、そんな策を茶柱先生から事件の概要を聞いただけでよく思いつくわね。呆れを通り越して軽蔑ものだけれど」

 

「おい、そこは通り越したら尊敬しろよ」

 

「最初から嘘百八だもの、尊敬出来る要素は無いわ」

 

ごもっともで。まあ、堀北みたいな王道を行く奴はこんな策は最初から出てこないだろうし、出てきたとしてもリスクが高くて多分躊躇する。すると、堀北が続ける。

 

「……そして私は貴方の筋書き通りに動いたわけね。全く、Aクラスに行く気もない人に掌の上で踊らされてたと思うと物凄く遺憾だわ」

 

「その遺憾と思う様な奴の助けを借りたお前もお前だけどな。しかも俺、脅されたんだけど」

 

そう言い返すと堀北は頰を赤らめつつもムッとした表情を見せた。竹噛んでムッ!って言ってくんねえかな。中の人的に。そして堀北は咳払いをすると、言った。

 

「……んんっ!まあ、それはそれとして、よ。貴方には遺憾だけれど、助けられたのは事実よ。誠に遺憾だけれど」

 

「どんだけ遺憾の意を示してんだよ。助けられたって言いながらそう言うのって矛盾してるよね?」

 

そう俺が突っ込む。遺憾の意が強くて逆にクレームみたいに聞こえるのは俺だけじゃない筈だ。

 

「……それで、貴方は何か無いのかしら?」

 

「何か無いと聞かれれば無いと答える」

 

急に何か無いって聞かれたら困る。俺に有るもんとか小町ぐらいだし。でもこの場に居ないから無いって答えるしかない。

 

「……本当に無いのかしら?」

 

「ああ、別に無い」

 

「……そう」

 

堀北はいつも通りの表情を見せているが、若干不満そうな雰囲気を醸し出していた。……まぁ、本当にやって欲しいことなんてないからな。

 

「………じゃあ戻るわ」

 

俺がそう言って踵を返す。堀北も黙って着いてくるが、俺の部屋を行った先にエレベーターが有るので、道中が一緒なのだろう。

 

会話も無く、俺の部屋に到着して俺は玄関の扉を開く。そして堀北が其処から通り過ぎようとした時に、俺は玄関に入って気付いた。

 

え、ちょっ、はぁ?……俺の入れて椎名と松下が居るから二足三組の筈なのに何で二足七組になってんの?そう困惑していると居間の奥から予想外の奴が見えた。

 

「あ、帰って来たんだ比企谷君。待ってたよ」

 

「漸くか…邪魔をしているぞ比企谷」

 

「お邪魔しています。比企谷君……あら、やはり……」

 

「……こんな朝早くから悪いね」

 

「おかえりなさい。そしてすみません。少し人が多くなってしまいました」

 

「……おかえり。取り敢えず、ここに来た人は比企谷君に用があるみたい」

 

櫛田、鬼龍院先輩、坂柳、神室、椎名、松下が俺を見て言った。一瞬、俺の部屋なのか分からなくなるぐらいに人口密度がヤバい。

 

「…………お、お邪魔しました」

 

思わず自分の部屋の扉を閉めようとした時、背後から冷たい感覚がした。あれ?今日って気温は真夏日並だってあったんだけど、如何してこんな寒いのん?不意に肩を掴まれた。そして底冷えするような声で。

 

「……比企谷君?」

 

「ひえっ…なな何でしょうか……?」

 

怖い、怖いよ…何でそんな温度の無い声出せんの?前世まさかの雪女?それと肩がミシミシ言ってるんだけど!ギギギと錆びた機械のような音を立てて肩を掴んできた主である堀北は今迄見たことないような微笑みを浮かべて宣告してきた。

 

「貴方と仲の良いと思われる椎名さんや松下さんがいるのは良いわ。でもあのAクラスで噂になっている坂柳さん達……何故普段喋っていない櫛田さんがいるのか、あの前の放課後で何を喋っていたのか、そして何故女性ばかりが貴方の部屋に居るのか。些か、疑問があるのよ。それについても色々聞きたいから取り敢えず中に入っても良いかしら?」

 

「きょ、拒否権は?」

 

「……そうね、拒否はしない方をお勧めするわ」

 

そう続けられて、最早逃げ場は無い。本当、なんて日だ……と某芸人の台詞が洩れた。

 

––––––––––––––––

 

そしてドナドナされながら、中に入って、先ず状況確認として椎名達に聞いたところ、櫛田は先ほどのメール通りの要件だったらしく、俺が来るまで待つと言ったのだ。俺としては俺以外の第三者の椎名や松下がいる中で話はしないで帰るだろうと思ったのだが、何のつもりか、待つと言ったらしい。

 

そしてその後直ぐに坂柳達が来た。堀北との話で外に行っている間、部屋に置いてきたスマホに遊びに行って良いかの連絡を入れていた。実は坂柳と神室はあのストーカーの騒動の中で俺が医療機関に行っていた道中をかなり遠目だが目撃していたらしい。所謂見舞い目的だった。怪我をした原因までは知らないようでホッとした。

 

そして問題は鬼龍院先輩だが、鬼龍院先輩も坂柳達と同様だったらしい。もう半分は何か面白い予感がしたから、らしい。何つう俺に迷惑な直感……一之瀬は教員を連れてきた事によってストーカーの騒動の事は知っているので、その見舞い目的ともう1つの用件があるらしい。

 

因みに橋本は普通に遊びに来たらしい。此奴が1番如何でも良い。

 

そして、場面は冒頭に戻って俺は回想による現実逃避から半ば無理矢理女性陣によって引きずり出された後、俺は溜息を吐いて、全員の用件を確認する。

 

「……はぁ……先ず、櫛田から聞くが、お前は俺に聞きたいことがあるんだよな?」

 

櫛田は見事な強化外骨格の状態を維持して、微笑んだまま頷くが、覚悟しとけよって雰囲気が滲み出ている。顔と雰囲気を合わせて欲しい。そして次に堀北の方へ向く。

 

「堀北も櫛田と同じように俺に聞きたいことがあるんだな?」

 

堀北は先程の良い笑顔ではなく、若干険しい表情で俺を見つつ、1度櫛田を見て、もう1度俺の方は見て小さく頷く。そして同じ様に坂柳達にもやった後に、優先順位として櫛田の方の質問に対して俺は答える。

 

「さっきの櫛田の質問に対して答えるが、お前って人気者だろ?お前に頼まれたら、周りのプレッシャーも凄いからぼっちには厳しい訳。だから堀北の方へ乗ったんだよ」

 

そう前に堀北へ言った理由を話す。櫛田は、そっか。と頷きつつも眼には納得の色はない。けれど、これ以上深く聞けばこれだけ人数がいる中で強化外骨格をずらす訳にはいかないので、櫛田の言葉は呑み込まれた。そして今度は堀北へ言う。

 

「それで、堀北の質問に対して答えると、屋上で話したのは、前に櫛田のメルアドを間違えて消してな。櫛田はメルアドコンプ目的で交換したから俺に繋がらないことに気付いたから再度交換したんだよ。櫛田が今日ここに来てるのは、DクラスとCクラスの騒動の事でのさっきの質問があったからだ」

 

そう説明する。堀北も納得し切ってはいない様子だったが、特に言葉を続ける様子はない。俺はちらっと松下を見る。松下は俺に視線を寄越すが俺は敢えて反応をしない。

 

そして、質疑応答はしないで次に行く。俺は鬼龍院先輩を見て言った。

 

「……それで、坂柳達と理由は同じらしいっすけど、もう半分の面白いからここに来たって何なんですかね……」

 

「何、深い理由はない。唯の勘だ。私は私のしたいようにする。それに、見舞い目的もある。来てはいけない理由はないだろう?」

 

それらしい理由があるお陰で追い返そうとも出来ないのが厄介なんだよな。俺は溜息を吐いて、一之瀬と橋本を見た。

 

「橋本はまぁ如何でも良いとして、一之瀬は何で来たんだ?ただ遊びに来た訳じゃないだろ」

 

「おい、比企谷。俺の扱い酷くね?」

 

そんな橋本の突っ込みは受け付けずに一之瀬を見る。すると一之瀬は悩んだ様な表情を見せる。え、何?そんな言いにくい事なのん?しかし、何か決心した様で話し始める。

 

「比企谷君にあの時のお礼がしたくて来たんだ。比企谷君は別にいらないって言ったけど……本当に嫌だったらもちろん止めるけど、何か無いかな?」

 

一之瀬の言葉には純粋な感謝の念がこもっていて、断りにくい。如何言えば納得をしてくれるのかと頭を悩ませる……あ、あれがあったわ。

 

「……礼ならもう貰ってる」

 

「えっ?……でも、特に何かした記憶も無いんだけど」

 

「詳しく事情は言えないが、教員を連れて来てくれたあの時だよ」

 

正直一之瀬が教員を連れて来てくれなかったら、事件の処理が大変だっただろうしな。俺は左手にナイフ生やしてたし、松下は泣いてたから落ち着くのに少し掛かった筈だ。佐倉は恐怖で動けなくなっていたし、綾小路が警察に通報するよりもやり易かっただろうからな。

 

そう言えば、一之瀬は口止め料は貰ってなさそうだが、何でだろうか。いや、あの場で貰ってないだけで、後になって貰っている可能性は充分ある。ま、別に如何でも良いけどな。

 

「……あれで良いの?」

 

「……おう。充分だ。だからあんま気にすんな」

 

一之瀬は俺の言葉に若干納得がいっていない顔をしているが、俺も結論を変える気は無いし、これ以上気を使わせるのも気不味いからな。教員を呼んでいた事については松下以外は疑問があるようだったが、俺が答える気は無い事を察したのか、誰も聞かない。

 

さてと……これで全員の用件は済んだ筈なので、とりあえず帰ってもらおう。休日くらいは誰にも振り回されたくない。

 

「…ふむ、全員の用件は済んだ様ですし、折角集まったのですから、この場にいる全員で遊びませんか?」

 

俺は帰ってもらっていいですかね?と聞こうとした時、その前に坂柳がそう宣った。……は?何言っちゃってるんですかねこの人。

 

「それは楽しそうですね。私は賛成です」

 

「私も参加して良いかな?こんな機会滅多に訪れないだろうし」

 

「私も賛成かな。違うクラスのこの人数で遊べることは少なそうだからね。それに坂柳さん達Aクラスの人とはあんまり交流がないから丁度良いよ」

 

椎名と櫛田と一之瀬は賛成の意を示す。櫛田は何か企んでるだろ。俺の事をちらっと見て、納得もいかない上にこのまま黙って帰るのも癪だから嫌がらせしてやろ。っていう魂胆が見える。

 

「……用件済んだんだから帰りたいんだけど」

 

「まあまあ、こんな機会滅多に無いのは本当だし、折角だから神室も遊んでいこうぜ?」

 

立ち上がりかけて言った神室の帰りたいという言葉に橋本が宥めるように引き止めに入る。すると神室は坂柳の愉しそうな様子を見て、大きく溜息を吐いて、また座る。もっと抵抗してくれよ……

 

坂柳に弱い神室が封殺されて、後は俺と松下と堀北と鬼龍院先輩。俺はダラダラ過ごしたいんだ。こんな面子で何も起きない訳がないとアホ毛センサーが察知しているので、俺は口を開く。

 

「…俺はぱs「ああ、比企谷君、あの時のお願いを聞いて頂く権利は此処で使いますので強制参加です」」

 

俺の言葉を遮って、坂柳は微笑みをニッコリと浮かべて言った。此処であのお願いを使って来るのか…俺にはYesorNoどころか選択肢が無かった。この遊びが大したことじゃ無ければいいと願いたいが、そうじゃないんだろうなぁ。まぁ早めにあの借りを消費出来る事を喜ぼう。そうじゃないとやってられん。……はぁ、癒しが足りない。椎名と癒し先輩の事を考えておこ。

 

「…私は帰るわ」

 

堀北がそう言って立ち上がるが、坂柳がその様子を見てこう言った。

 

「あら、もうお帰りになるのですか?貴方とも是非お話しをしてみたいと思っていたのですけどねぇ…」

 

「……貴方の言う遊びがどんなものかは知らないけれど、興味は無いわ」

 

そんな挑発じみた言葉を聞く事なく堀北は一蹴して玄関に移動する。すると坂柳がこう続ける。

 

「"命令"が出来るゲームなのですけどねぇ……比企谷君に」

 

ちょっ、何言ってんの?俺を生贄にすんなよ。て言うか何をする気なんだよ。それに俺に堀北が命令出来て良い事なんてなくない?無いよな。うん、無いから乗らない筈。

 

「………一つ聞きたいことがあるのだけれど」

 

「何でしょう?」

 

「その命令が出来るゲームは、命令は何でも可能なのかしら?」

 

………ん?思ってた反応じゃないんだけど?ちょっと、堀北さん?

 

「そうですねぇ……ポイント関係の命令は無効なぐらいでしょうかね」

 

坂柳の言葉に堀北は数秒間考えた後に何故か俺の方を見た。……嫌な予感するんだが。ちょっと胃が痛いんで帰って良いですかね。駄目?駄目かー……って此処、俺の部屋だったわ。あれ、もしかしてこれ詰んでる?

 

「……そのゲームに私も乗るわ。貴女の挑発に乗った様で少しだけ遺憾だけれど」

 

「…ふふ、そう来なくては」

 

予想外で堀北も坂柳の言うゲームに参加することになってしまった。坂柳は愉しそうに企んでいる。逃げたい俺の肩に松下が手を置いてこう言った。

 

「……諦めたら?たまにはこういうのも良いと思うし」

 

「………そう言う割に俺の肩を強く抑えてるのは何でって聞きたいが……はぁ…」

 

押して駄目なら諦めろ。自分の座右の銘だが、変えた方がいいのかな。そんなドナドナとBGMが頭の中で流れる。しかしそんな俺の様子には目もくれず、櫛田が坂柳に聞いた。

 

「それで坂柳さん。さっき堀北さんに比企谷君に命令出来るゲームって言ってたけど、具体的に何のゲームをするの?」

 

「この人数でぴったりのゲームというと王様ゲームでしょうね」

 

そんな美しい程の微笑みを称えて坂柳から出た言葉に俺は愕然とした。多分、この政府経営の学校の理事長の娘だから名家のお嬢様なのだろうが、そんな人間からは想像も出来ない俗世に塗れた名前出てきたんだが……理事長、貴方の娘さん。多分想定外の方向に育ってますよ。

 

「おー、良いねぇ!うちの姫さんは相変わらず面白い事をお考えになる」

 

『王様ゲーム?』

 

橋本がテンションを上げて、軽く鬱陶しさが増し、女性陣は松下と櫛田と神室以外が聴き覚えのないゲームに首を傾ける。すると神室が、嫌そうな表情を見せて坂柳に言った。

 

「ちょっと、あのゲームって命令とかちゃんと設定しないとセクハラになる奴じゃない。その辺とかどうすんのよ」

 

神室の言葉に眉を寄せる女性陣。そして俺と橋本を見る。俺は言う。

 

「…ちょっとこっち見ないでくれます?そんな事をする度胸ある訳ねえだろ。つーか、俺はそういうリア充が悪ノリするような事は大っ嫌いなんだよ。リア充の橋本は知らんけど」

 

「ちょ、さり気なく俺がセクハラ認定されるような事言うなよ」

 

知らん。リア充ってノリが激しくなるとヒートアップするし、ストッパーで入って軽いような事したらお前、空気読めよ。シラけたんですけど。とかグループ全員が睨んでくるの。お前ら放置してたらやばいから止めたんだけど。そして何故か止めた俺が悪い空気になってそれからグループの遊びには誘われなくなった。

 

「……ふむ、では男性が王様になった場合の命令で女性に対しての身体的な過度な接触を伴う命令でセクハラ行為は無効という事で。些か平等ではありませんが良いでしょうか?」

 

そう女性陣に坂柳が問えば女性陣は頷く。そして俺と橋本を見てくるので俺も頷く。橋本は何かめっちゃ落ち込んでる。何するつもりだったんだよ…まぁ、俺も少し残念ではある。椎名に触れたかった。主に癒される為に頭を撫でる意味で。ホントだよ?ハチマンウソツカナイ。

 

そして王様ゲームを知らない女性陣に対しての説明。王様ゲームは主に一つの箱などにランダムに入った全員分のくじを一気に全員で『王様誰だ』と言いながら引き抜き、その中のどれか一つのくじに王様の権限があるくじを引いた奴がそれ以外の番号の書かれたくじを引いた奴に番号を指名して命令出来るゲーム。くじの役割を担えるものなら何でも良く、それを適当に中身が取り出すまでは解らない箱に入れて混ぜれば、後は全員で引くだけ。ぶっちゃけこれ王様ゲームじゃなくて奴隷ゲームに名前変えた方が良いんじゃないかと思う今日この頃。

 

今回のルールは『ラウンドは5回まで』『王様が命令出来る人数は最大で3名』『番号のみの命令で、ポイントに関する命令、男子は女子に対しての過度な身体接触を伴う命令は無効(ただし、女子の大半が有りだといった場合は実行可能)』となった。

 

そして適当に人数分の割り箸を用意して、一本は王様の印を、それ以外は数字を箸の先に付け、箸が取り出せて尚且つ外から全員が見えない箱に印が底になるように入れて混ぜる。そして順序が解らなくなった所で、全員が円状に箱を中心として座る。そして、坂柳が言った。

 

「準備は整ったので始めましょうか」

 

未だにドナドナされてる俺以外の全員が頷くと、全員で箱の中に入った自分に1番近い箸を一つ掴む。箸は番号が相手に見えない様に番号の書かれた橋の向きの反対側には防止策で紙が貼ってある。隣の人物の番号は見えそうだが、見ないようにする事。俺は内心溜息をつきつつ、声を揃える。

 

『王様だーれだ』

 

「……私が王様ですね」

 

1回目の王様は左隣に居る椎名になった。っぶねぇ……当たる確率は10分の1だが、主に当たって欲しくない人物が坂柳と櫛田、堀北に鬼龍院先輩と4人はいるからな。俺の番号は5番だが、まあ椎名なら大丈夫だろ。これがさっきの4人だったら胃が痛くなる。

 

「そうですね……では、4番と5番はこのゲームが終わるまで語尾に『にゃん』と言って下さい」

 

「え!?」

 

そう驚いたのは恐らく4番である一之瀬。一之瀬は恥ずかしそうに頰を染めて言った。

 

「うう〜……これ、恥ずかしいよ。にゃん」

 

「そんな事ないよ!とっても可愛いよ一之瀬さんっ」

 

そうフォローに成ってないフォローをした櫛田。すると、坂柳が言った。

 

「5番は誰ですか?」

 

そう坂柳が聞きながら自分の引いた1の番号を示した。すると俺以外の奴も番号を見せてしまったので、俺は諦めて溜息を着いて手を挙げる。すると俺以外全員が驚き、その後直ぐに坂柳がにっこりと笑顔、他もなんか面白そうと笑う。俺はげっそり顰め面を浮かべると坂柳がこう言った。

 

「では、比企谷君。鳴いて下さい」

 

言葉だけ聞くとめっちゃ鬼畜。鬼か此奴。俺は顔を顰めながら拒否を態度で示すが、だんまりを決め込めばこの状況が何時迄も続くのは言うまでもないので諦める。俺は溜息を吐いて言う。

 

「……これで良いか?にゃん」

 

『ブフッ!』

 

不貞腐れ気味に答えれば一之瀬以外の全員が噴き出す。ちくしょう…ぼっちを苛めて楽しいかよ。

 

「す、すみません。くふっ、不貞腐れた猫、ふふ、みたいで面白くて、ふふふ」

 

「ああ、その通りだ。くく、可愛いぞ比企谷」

 

「ふふ、アンタからそんな言葉が聞けるとは思わなかったよ、ふっ」

 

「……ふ、似合っているわよ、猫谷君、ふふ」

 

「か、可愛いよ、ふふふ、比企谷君、飼いたいくらいには」

 

「ぶっは、ごほっ、ごほ、不貞腐れ過ぎてるぜ。猫背だし丁度良いんじゃねえか?くく」

 

「ふふ、ふふふ、可愛い、もっと言っても良いよ?」

 

「可愛いです八幡君、ふふ!」

 

坂柳と鬼龍院先輩はニヤニヤと笑い、神室と堀北と櫛田は思わず耐え切れない様子で笑い、橋本は噴き出して松下と椎名は微笑ましいものでも見た様な笑いを浮かべてそう言う。橋本は絶対許さない奴ノートに殿堂入りだな。

 

そんな羞恥塗れの状況に今直ぐ投げ出したい思いにかられながらも王様ゲームは続く。

 

『王様だ〜れだ(にゃん)』

 

そして割り箸を引くと、俺は王様–––––ではなく、3番の割り箸を引いた。そして今回の王様は。

 

「あ、王様」

 

そんな声を漏らしたのは神室だった。神室か……まぁ、神室も其処まで無茶振りはしないだろうし、まぁ当たらん事を願う。

 

「……うーん、じゃあ6番は5分くらい私の肩を揉んで。7番はココア買ってきて」

 

「……ふむ、6番の私ですか。まぁ肩揉みなら出来ますかね」

 

「7番って事は俺か。じゃあ適当に買ってくるわ」

 

6番は坂柳で7番は橋本だった。坂柳は神室の後ろに行って肩揉みを始めて、橋本は部屋を出てココアを買いに行った。もっと強く。と神室が言えば、仕方ないと苦笑気味に、はいはい。と言って神室の肩を揉む坂柳。神室の奴めっちゃ嬉しそうだな。まあ、扱き使われてるからそうだろうけど。

 

そして橋本がココアを買って戻って来て神室に渡すと3回目に入る。

 

『王様だ〜れだ(にゃん)』

 

「私が王様だっ」

 

そんなあざとさが見え隠れする声で言ったのは俺が王様になって欲しくない人物第2位の櫛田だった。俺は一瞬歯噛みして命令される確率を計算する。

 

人数は王様以外の奴が9人で命令出来る数は3人だから3分の1だ。結構確率は高い。俺は一瞬だけ周りに視線を移す。だが特に何も無い。すると櫛田が反対側にいる堀北に視線を移し、俺にも視線を一瞬寄越してきた。

 

あの様子からして多分櫛田が狙っているのは俺か堀北、もしくはその両方に何かしらしてくるつもりだろう。くそ、ちゃんとメール反応しとけば良かった。

 

何を命令するつもりだ…?と警戒しながら櫛田の言葉を待つ。すると櫛田は完璧な強化外骨格で俺の緊張感とは裏腹に明るい声で言った。

 

「じゃあ1番と」

 

そう言いながら周りの反応を見渡す。堀北は反応せず、俺も反応しない。それを見て櫛田が続ける。

 

「5番と……」

 

堀北が少し眉を寄せて視線を割り箸に移した。その様子を見た櫛田は笑みを濃くする。如何やら当たったらしい。俺の番号は5番より

大きい数字だ。残る数字は4つ。緊張感で張り詰め、小さく息を呑む。

 

そして櫛田が最後の数字を宣告する。

 

「8番は気になる異性もしくは好きな人の特徴を皆の前で言うっ」

 

そして言葉を一瞬切った。わずか1秒間にも満たない静寂の中で、俺は割り箸を持つ手が震えた––––––––

 

 

 

––––––––安堵で。俺は表情には出さない様に努めながら、内心溜息を吐いた。

 

ヤバかった。7番って言われてたら公開処刑の内容だった。こんな大勢の前で言ったら黒歴史ランキングのトップが久々に更新するところだった。それにしても何つう内容を命令してきてんの?特徴とは言え、不特定多数の前でそこにもし好きな奴が居たら公開告白みたいなもんだろ。櫛田、恐ろしい子ッ!

 

「…私だ……」

 

そう顔を顰めて言ったのは、俺の隣に座る松下。如何やら8番は松下だったようだ。そして最初に言われた1番は鬼龍院先輩だった。鬼龍院先輩は何故かこっちを見て愉しそうに笑みを浮かべている。何で?それと5番は想像通りの堀北で、顔を松下と同じく顰めている。すると松下が櫛田に聞いた。

 

「櫛田さん、特徴だけで良いんだよね?」

 

「うん、名前を言うのは流石にやり過ぎだろうから。特徴だけ」

 

……驚いた。特徴だけで良いかを聞くということは、松下にも好きな奴、もしくは気になる奴がいるという事だ。それはつまり……いや、勘違いに決まっている。

 

浮かび上がった自分の思い上がりを早々に消して静かに息を吐く。松下がほんの一瞬こっちを見て視線がかち合ったとか気の所為だ。

 

「じゃあ1番の人から」

 

そう櫛田が言うと鬼龍院先輩は特に躊躇は無く、言った。

 

「ふむ、特徴は色々と有るが1番印象なのは、とても目立つのが嫌いらしい」

 

鬼龍院先輩はこっちをガン見してくる。言いながらこっち見ないでください。俺のようなぼっちに毒だから!何かめっちゃ部屋の温度が低い気がする。クーラーってこんな効き目あったっけなー?……椎名さん、腰の肉抓らないで?痛い上にどっからそんな力出てんの?あとむぅ、って頰を膨らませても可愛さ100%のヒヨリエルは流石っす。ともう5つ程の冷たい視線を如何にかやり過ごす。

 

そして次は堀北。あいもかわらず冷めた視線である。そして溜息を吐くように言った。

 

「はぁ……そうね。四字熟語で言うなら、精励恪勤な人かしら?」

 

やばい、精励恪勤って生徒会長ぐらいしか思い浮かばんのだが。どんだけ兄の事大好きフリスキーなの?小町も此れくらいだったらなぁ……後、須藤はどんまい。松下は若干驚いてんのは何で?

 

櫛田はにこにこと笑っているが、多分内心舌打ちしてるだろうな。そして次に松下に移った。松下は何か思い付いたのか、こう言った。

 

「堀北さんの四字熟語を真似るなら、小心翼翼な癖に怜悧狡猾で放縦惰弱な人かな?」

 

いや、それ悪口じゃん。気になる人って悪い意味で気になってんのかよ。ほら、なんか皆、ええ…って顔してるし。鬼龍院先輩は笑ってるけど。櫛田は苦笑して言った。

 

「ええっと……それ、気になる人のこと、なんだよね?」

 

「うん」

 

そして頷いたので、そうなんだ……と櫛田も反応に困った様で、それ以上何も言えず、4回目に進む。何か神室と堀北と一之瀬から同情みたいな感じの視線が来たのは何で?私、気になります!そして再び混ぜられた箸を掴む。

 

『王様だ〜れだ?(にゃん)』

 

「…おっと、私が王様か」

 

そう言ったのは鬼龍院先輩だった。そして何やら企んでいる様子にげんなりしつつ、命令されないように祈る。松下も顔が険しい。

 

「では、そうだな…」

 

そして少しの間が空いて何か考えている。そして俺と、ある人物に視線を移すとニヤリと笑う。この人混ぜた筈の番号解ってるとかないよね?混ぜるのはその時王様になった奴が混ぜるのだが、櫛田は結構振り混ぜてたし、外から見えない奴だから出来るはずは無いのだが。勿論櫛田は見てない。

 

俺が若干嫌な予感を覚えていると、鬼龍院先輩は命令を告げる。

 

「では1番が2番にあすなろ抱きをする」

 

「「はっ!?」」

 

思わず声を挙げてしまう。櫛田が一瞬、素の状態の反応を見せる程の命令内容だった。1番は櫛田、2番は俺。鬼龍院先輩が視線を移した人物である。怖っ!当ててくるとかマジで怖い。勘にしても戸惑い無さすぎんだろ。某腹ペコ王様の直感スキルでもあんの?この人場合は反転した奴の方が性格の感じ的に似てるけど。

 

「…いやいやいや、鬼龍院先輩。流石にやり過ぎでしょう。櫛田が嫌がるに決まってますって……」

 

俺は思わず番号をもう一度見た後に櫛田を見て、語尾を無視してそれらしい理由をつけて鬼龍院先輩に物申す。鬼龍院先輩はニヤニヤ笑って言った。

 

「何故だ?彼女がただ後ろから抱き締めるだけだろう。君は女性に抱きつかれるだけだ。ルール的にも問題は無い上に何もしなくても済む。それと語尾が戻っているぞ?」

 

櫛田に触れられる事が地味に怖いんですよ。語尾については流石に今は勘弁して下さい。此奴の本性知ってる俺からしたらゾッとする。だからそんな椎名も松下も睨まないで!後、堀北が視線で人殺せそうだし、何か一之瀬も子犬みたいな視線向けて来てるのは何故?

 

「……鼻の下伸びてますよ。あからさまに」

 

「……いや、伸びてないから……多分」

 

そう言う坂柳の表情は微笑んでんのに雰囲気は凄い冷たい上に目が笑ってないのが凄い怖い。ていうか肝心の櫛田が静かなんだけど…

 

そうして視線を櫛田に向けると、櫛田は何やら頰を若干赤らめつつも何か思い付いたのか、ほんの一瞬素の状態が見え隠れしている。何あれ怖い。

 

「とにかく王様の命令は絶対なのだろう?私は撤回する気は無い」

 

「……勘弁して下さいって」

 

そう鬼龍院先輩が言うので、俺は溜息を吐いて憂鬱の雰囲気を隠さずに櫛田を見る。すると櫛田は何時もの強化外骨格に戻っていた。

 

「お前も止めろよ……」

 

「私は大丈夫だよっ」

 

……分かってるのに対処出来ない事って時として何も分かってない時よりもきついんだな。八幡賢くなった。

 

櫛田は俺の背後に回る。何されるか分からんから凄い怖いんだが。俺は視線を櫛田に向けて言った。

 

「……さっさと終わらせるぞ」

 

「比企谷君は嫌なの?私に抱き締められるの」

 

そう首を傾げて聞いてくる。あざといんだよ……ていうか何企んでんのか知らんけど、顔が地味に笑ってんぞ。周りの視線を一身に浴びて胃が痛い思いをしながら言う。

 

「……後で文句言うなよ。割とガチで」

 

最早抵抗しても無駄だなと悟った俺は諦めの溜息を吐いて、小町と椎名と癒し先輩のことを脳内に思い浮かべて癒されることにする。抱きついてくるのが小町だったら、めっちゃ頭撫でてドーナツとか買ってやれんのになぁ……親父の金で。

 

「えいっ」

 

そして背後の首辺りから両腕が前に回されて抱きつかれる。脳内で今、きゃっきゃうふふの状態で小町に抱きつかれたから癒されている最中なのだ。決して良い匂いとか背後から服越しに感じる柔らかな2つの富士山とか感じてないからね。そう思いながら冷たい視線から逃げていると。

 

「ふぅ〜」

 

「ふぁっ!?」

 

『ッ!!』

 

櫛田が急に耳に息を吹き掛けてきた。ぞわぞわっと産毛が逆立ったような感覚に思わず変な声が出た。何か企んでると思ったらそういう事かよ。

 

「…ふふ、比企谷君って耳が弱いんだね。良いこと知っちゃった」

 

「…おま、形振り構わねえの?お前も十分恥ずかしい格好になってたからね?」

 

ぱっと俺から離れた櫛田の言葉にそう言う俺。くっそ、黒歴史が今この人数の前で創られた……死にたい。恥ずか死ぬ。多分しばらくこれで弄ってくるな。櫛田のニコニコとした表情の中に愉悦が有るのが分かる。朝の件の仕返しかよ……

 

「もう駄目、お婿に行けない……つーか、引き篭もる……」

 

「大丈夫ですよ八幡君……いざという時は私が娶りますから」

 

悶絶しているとそう椎名に慰められる。ついでにめっちゃ小さな声で爆弾を耳元で設置するのは辞めてね?この状況に収拾がつかなくなるから。魅力的とは思ってないよ?……嘘です、ほんの一瞬思いましたんで松下は腰の肉つねんないで。椎名の声めっちゃ小さかったんだけど、俺を挟んでんのにどんだけ耳良いのん?

 

そんなこんなで深刻なダメージを受けつつ最早これで最後。もうさっさと終わらせて此奴等には帰ってもらいたいので進めることにする。

 

『王様だ〜れだ(にゃん)』

 

「……あ、私だ」

 

王様になったのは松下だった。これで最後が坂柳とかだったら本気でヤバかった。もう弄って来られるのは勘弁。それと堀北にも当たんなくて良かった。絶対何か企んでたし。

 

「……じゃあ、4番は7番を膝枕する」

 

そう言った松下の言葉に反応したのは堀北と橋本だった。どうやら4番は堀北で7番が橋本らしい。橋本は兎も角として堀北はめっちゃ嫌そうな表情を浮かべてる。此処に須藤が居なくて良かった。橋本をボコボコにする状況だからな。

 

「……変な事をするそぶりを見せたら、分かってるわね?」

 

「分かってるって、俺は紳士だからレディにそんな事はしないよ」

 

そう言った橋本の顔を胡散臭そうに見る。そして渋々橋本の方へ行って膝を出した堀北が、松下に聞いた。

 

「何秒までしないといけないのかしら?」

 

「……30秒ぐらいかな」

 

「長いわね。もう少し短く出来ないかしら?」

 

そう注文をつける堀北。すると橋本は、どんだけ俺を膝枕するの嫌なんだよ…と呟いている。安心しろ橋本。多分これが須藤とかだったら絶対何があってもやらんと思うぞ。すると櫛田が仲裁に入った。

 

「まぁまぁ、堀北さん。橋本君は他人が嫌がる事はしない人だから大丈夫だよ」

 

「……何故貴方が保証するのかしら?櫛田さん」

 

ニコニコと笑う櫛田を鋭く見詰める堀北。すると坂柳が言った。

 

「基本的に王様の命令は絶対ですから。松下さんも撤回はしないでしょう?」

 

「そうだね」

 

坂柳の質問に松下も答える松下も多分面白がってるな…目が笑ってるし。そして駄目押しで坂柳が言った。

 

「もし万が一彼、橋本君が貴女に粗相をしたら、AクラスがDクラスの要求を何でも一つ呑むというのでも構いませんよ?勿論橋本君を使ってくれても構いません」

 

微笑んでそう言い切った坂柳。その言葉に橋本の顔が引き攣っているのを見て、堀北は溜息を吐いて頷く。王様ゲームでクラスが変動するような命令は駄目だが、これは王様ゲーム以外でのことだから可能なのだ。良くそんな事言えるな。余程、橋本の事を信用しているらしい。というか前に坂柳のクラスはかつ、かつ…かつ何とかさんと派閥争いしていると言ってたのにそう言いきれるってことは、やはり相当なカリスマ性があるのか。

 

納得した堀北の膝に恐る恐るといった様子で後頭部を下ろす橋本。そのまま30秒、無言の時間が空間を包む。堀北の無表情と緊張してガチガチに固まる橋本の絵面は…何ていうか、膝枕ってこんな重い空気でやるもんだっけ?少女漫画とかラノベのラブコメの感じとは真逆なのだが。やはりフィクションはフィクションらしい。

 

そしてきっちり30秒を測った堀北によって終了を告げられ、橋本はボソッと、想像と違うなぁ…と呟いていた。

 

「……これで終了ですね。王様に成れずにいた事は少し残念ですが、私的には中々に興味深いモノが見れたので良いでしょう」

 

そう坂柳が告げて、全体を見渡す。今回はランダムに箸を掴む訳じゃなくて混ぜられ、その時に自分に1番近い位置にある箸を掴むやり方だったからな。そのおかげで坂柳を王様にさせなかったのだが、結果的に俺はダメージ食ったからあんまり意味が無い。

 

「皆さんは如何でしたか?」

 

「私は楽しませていただきました」

 

椎名が微笑んで答えると坂柳は満足そうに、そうですか。良かったです。と答えると次に神室を観た。すると神室は言う。

 

「……王様になったり、見る分には良いけど、命令されるのはしんどそうと思ったね。まぁ、私は命令されてないからそれなりだったよ」

 

「……私は楽しかったけどちょっと恥ずかしかったかな」

 

神室の後を継いで一之瀬が照れたようにそう言う。語尾に猫語付けてたしな。でも一之瀬は大分マシだろう。俺なんか黒歴史創ったからな!すると鬼龍院先輩が言った。

 

「私は楽しかったぞ。後輩と遊ぶのは余り機会がなくてね。面白いモノもあったからな」

 

そう俺に笑いながら視線を向けて来るが俺は見ない振りをする。そして次に強化外骨格を綺麗にはめた櫛田が言った。

 

「私もすっごく楽しかったよ。また誘ってくれたら行くよっ」

 

アンタで遊びに。と言う意味が入っている視線が俺に向けられた。来んな。俺の胃が死ぬから来ないで。そう思っていると橋本が今度は言った。

 

「楽しかったのはそうなんだが、最後のは想像と違ったな」

 

「良いだろ、我儘言ってんじゃねえ。張っ倒すぞ」

 

「比企谷は何で俺にそんな厳しいんだよ!」

 

うるせぇ!状況はどうあれ膝枕してもらってたんだから。お前が1番得だったんだろうが(偏見)。あの空気?知らん。すると次に堀北が言った。

 

「……王様になれなかったのは本当に遺憾だわ。比企谷君を動かせると思っていたのだけれど」

 

怖っ!その為に参加してたのかよ。んなもん綾小路に頼めよ。あいつ意外とアクティブだし、なんだかんだ働いてくれると思う。

 

「……絶対面倒だから勘弁して」

 

嘆息しながら俺は言う。……龍園や坂柳とぶつかんのはしんどいに決まっている。俺の生活が崩されない程度には動くけど、多分。

 

「…私も楽しかったかな。櫛田さんの命令には少し驚いたけどね」

 

そして松下がそう言って、何故かこっちに視線を向けてくる。あの命令で言ってた事って悪口だよな。気になる人(嫌い)が俺じゃないよね?こっち見たってそういう意味じゃないよね?

 

「……比企谷君は如何でしたか?」

 

坂柳にそう問われて、視線がこっちに集まった。それを若干居心地悪く思いながらも俺は言った。

 

「……疲れた。そして黒歴史が増えた。あと休日が休日じゃない」

 

本当に疲れた。王様が坂柳とか堀北に成ってたらもっとやばかったと思う。櫛田の命令が当たんなくて良かったと今回は心底思う。

 

 

 

 

………まぁ、新鮮ではあったし。悪いことばかりでも無かったとは思う。絶対言わんけどな。

 

 

 

それでも振り回されたから、やはり俺の休日が休日として機能していないのはまちがっている。

 

 

 

 

王様ゲームは終わり、俺の黒歴史が新たに製造されてげんなりしている中で、坂柳達が帰ったので、昼はやや遅めに食べることになった。

 

その後は特に何もなかったが、その代わりといった感じか、櫛田の愚痴メールが凄かった。

 

『堀北とやっぱり仲が良いじゃない。仲が良くないって嘘でしょ』

 

『ていうか、アンタってそんな見た目なのに何で女ばかり集まってんのよ』

 

『いつか絶対後ろから刺されるんじゃない?その時は笑ってあげる』

 

など、その他数件俺の愚痴を列ねられて、バラすなよと脅されて終了した。松下や椎名には観られないように細心の注意を払っているが、松下は覗き込む可能性もあるので、愚痴メールは消去している。ラインとかじゃない空メールなので直ぐに消せる。

 

というか、俺は本気で堀北と仲が良くなることはないのだが。それに何で女が知り合いで多いかなんて俺が聞きたい。刺されないようにステルスヒッキーの精度を上げないといけない。主にあの三馬鹿から。

 

そう思いながら1日を過ごして、夜になって飯を食べて(椎名と松下に食べさせられる。羞恥心でゴリゴリSAN値が削られる。早く手が完治して欲しい切実に)風呂に入っていると、洗面所の奥に風呂がある造り構成で、その風呂の出入り口の曇りガラスに人影がシャワー立て掛けの横にある全身が映る鏡に映った。あの人影は松下だ。俺は片手で頭を洗いながらドア越しなので大きめに鏡越しの人影に問いかける。

 

「如何した?何かあったか?」

 

そう訊くが直ぐに返事は来ずに、何か躊躇している様な気がしたので怪訝に思った。Gでも出たか?それにしては悲鳴も無いし、違うか。着替えの服は持ってきたから用は無い筈と思っていると、ややあって松下が言った。

 

『……背中を洗いに来たんだけど、入って良い?』

 

シャワーを切った後にそんな言葉が聞こえたので、音は水滴が滴る音が聞こえるだけ。思わず息が止まる。そして何事かを考える前に俺は条件反射で言った。

 

「御免なさい。それは無理」

 

『即答の上に、何で言い回しがそんな丁寧なの?』

 

そんな声が悲しいかな、気にすることの出来る余裕はなかった。いや、何でそうなった?いや、多分俺が片手じゃ背中が洗いにくいと思ったから聞いたんだろうけど!こんなギャルゲーみたいな展開が怒涛に起こるって可笑しいだろ!

 

「洗いにくいけど、松下が来る必要は無い。だから戻ってくれ」

 

『片手で如何やって背中を洗うのさ。背中を洗いに来ただけだよ。私は服は着たまま入るから肌は見せないし』

 

「………待て待て待て、今一瞬それならいいか。って思っちゃいそうになったけど俺が裸なんだよ」

 

松下の言葉に一瞬安心していたが、自分の裸を見られることを思い出して待ったをかける。家族だったらともかくとして、他人の異性に裸とか下半身見られる事態になるのってラノベとかご都合主義の世界だけだと思ったが、いざ自分に降り掛かったらめっちゃ慌てる。

 

『背中洗えなかったら背中だけ臭くなるし、学校生活だってあるんだから洗わないと駄目でしょ。自分の隣人が臭いとか私も嫌だし』

 

そう言えば此奴隣人だったわ。それに後ろだけ臭うってなってヒキタニは臭えとかいう噂を無駄に立てるのもアレだし、そして此処で過ごしている椎名や松下の気持ちも考慮して、俺は内心溜息を吐いて言った。

 

「……前は見ないでくれ。主に下半身はな」

 

『…ッ、見ないよ!』

 

そんな怒った様子で突っ込まれた。そして少しした後にゆっくりと扉が開く。その後に立て掛けてあるハンドタオルなどで下半身部分を覆って隠す。洗うのはスポンジが有れば大丈夫なハズだ。

 

「…失礼するね」

 

そんな声が浴場に響いて、自分の心臓の鼓動が聞こえてきた。松下の声も上擦って何処か緊張していると思うのは自分の勘違いか。

 

そしてゆっくりと俺の背後に近付いてきた松下。深呼吸を静かにしつつ、身体の緊張を抜きながら鏡に映る松下を見ると、白いカッターシャツに赤いジャージ用ズボンを捲っている状態で、髪は括ったのかポニーテールの状態だった。そして松下は台にあるスポンジをとってシャワーで充分に濡らすとボディーソープを付ける。

 

「何処まで洗った?」

 

「……頭と下半身は洗った。上半身は未だだ」

 

そう緊張しつつも平常心を保つよう努めて答えると、松下はボディーソープを付けたスポンジを泡立てながら言った。

 

「頭、一応もう一回洗おうか?」

 

「……じゃあ頼む」

 

片手じゃ、両手が使える時よりは洗い方雑になるし、痒くなるのも鬱陶しいのでこの際洗ってもらうことにした。松下はスポンジを台に一度置いて、自分の両手を濡らしてボディーソープを洗い流すと、俺の頭に直接シャンプーを付ける。

 

「…じゃあ洗うね」

 

「……おう」

 

そう言って松下は頭に付けたシャンプーを両手を使って泡立て始めた。女子特有の柔らかな手触りが頭越しに感じられて若干身を硬くする。しばらくすると痒いところはない?と聞かれるので、無い。と答えると、そう。シャワーかけるから目に泡を入れないようにね。と言いながらシャワーを点けて俺の泡立った髪を一気に洗い流した。

 

そして松下が泡立ったスポンジを台から取った時に俺は顔を腕で拭った後にふと気になった事があったので、松下に聞いた。

 

「そう言えば椎名は如何してんの?」

 

そう聞けば、松下は俺の背中をシャワーで濡らしながら言った。

 

「椎名さんは本を読んでると思う。背中洗いに行く事で行きたいって言って相談されて一日置き交代制になったから明日は椎名さんだよ」

 

ちょっと待って、情報量多い。一日置きの交代制?交互にやるって事だよな。俺は手で顔を覆う。いつの間にぼっちからギャルゲーの主人公みたいな奴になったんだっけ。小町が見たら、こんなのお兄ちゃんじゃない!って言いそう。

 

「椎名さんも服は着ているから大丈夫だと思うよ?」

 

「違う、そうじゃない。……何で俺の背中を洗いに行きたがってんの?」

 

いくら椎名から告白されたとは言え、男の背中を洗いに行きたいにまで気持ちを昇華させるの早過ぎない?某音速さんもびっくりだよ?音速どころかむしろ光速すら超えるまであるんだが。

 

「好きな人だからじゃない?良かったじゃない。彼処まで想ってくれる人は中々いないよ?」

 

そう言いながら背中をスポンジで擦っていく手が強くなった気がする。一般論としては嬉しい事なんだがな……正直早過ぎると思ってしまうのはぼっちの弊害か。俺は内心溜息を吐きつつ、聞いた。

 

「……お前は如何なんだ?」

 

「……如何いう意味?」

 

俺が聞けば、松下は逆に聞き返してきた。鏡は水蒸気によって曇っているので松下の表情は分からない。

 

「……いや、何でもない。忘れてくれ」

 

何と無く、聞くのは止めた。王様ゲームで松下が言った気になる人が悪い意味なのか、それともその逆か。それを聞けるほどの俺達の関係性ではないと思ったからだ。堀北のように四字熟語で示した人物という事は本人に繋がる言及は避けたいのだと思ったからだ。

 

何故、俺の部屋で過ごすかなんて聞けない。聞けば、一線を超える気がするから。それが超えても良いものなのか、そうでないのかはわからないが、今は止めておくべきだろうと判断した。

 

「……そっか」

 

松下もそれ以上何も言わなかった。そこから無言の状態で背中は洗われていき、いつの間かシャワーは切れていた。ふと、松下が言った。

 

「……あの時、比企谷君を呼んだのは失敗だったかな」

 

 

「……何でだ?」

 

 

「だって、比企谷君に痛い思いさせちゃったじゃない。比企谷君だって刺されないんだったらその方が良いでしょ?」

 

 

顔は相変わらず見えないが、その声には後悔が含まれているように思えた。

 

 

「……そうだな。俺もこんな面倒くさいことにならないんだったら、帰る筈だった」

 

 

「………」

 

 

あんな痛みを味わいたいと思うような性癖は持ってないし、綾小路が居たから解決出来た可能性は高い。あの時点で現場に行かなくても良かったのかもしれない。俺が一之瀬の行動を取れば良かったのかもしれない。俺は誰も傷つけずに助けられる技量は持ってないし、持っていると思うのは浅ましくて傲慢だ。

 

 

「…でも」

 

 

「……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時にああいう行動をした事に後悔はしてない」

 

 

俺は平田や櫛田の様な奴ではない。けれど、プロぼっちとして自分で出した答えで誰かに責任は押付けるほど、ぼっち歴は浅くない。アレがあの時では最善だったと思う。松下にとって迷惑だったならその限りではないけれど。

 

 

「………私、戻るね」

 

「……おう。助かったわ」

 

「うん、別に良いよ」

 

そう言って松下は風呂を出たので、俺は下半身部分を覆っていたハンドタオルを外して、ゆっくりと息を吐いた。

 

 

 

……駄目だ。顔が熱い。私はお風呂場を出て、風呂の入り口から死角になる所で壁に背をつけるとそのまま力が抜けてしまい、ずるっと座り込む。

 

 

"あの時にああいう行動をした事に後悔はしてない"。

 

 

その台詞は変ではない。むしろ彼らしい。けれど、私が言った質問を改めて考えれば、私が言ったのは。

 

 

"私を見捨てることが出来た筈なのに、何故現場に来て、あまつさえ庇ってナイフに刺されたのか"。という事だ。

 

 

彼が見捨てるという可能性はないと思うが、あの台詞が出てくるとは思わなかった。

 

 

あの場に私が居なくても彼は同じ行動を起こしたのかもしれない。けれど、少なくとも私は彼によって守られた事は変えようの無い事実だ。

 

 

今も身体を洗っているであろう捻くれ者の事が頭の中から離れない。

 

 

「…でも、彼には椎名さんがいる」

 

 

そう自分で呟いた言葉にヒュッとある種の高揚感はなりを潜める。椎名ひより。比企谷君を異性として好いている女の子。

 

 

私と彼の関係性は唯の隣人であり、雇用関係である。恋人でもないにも拘わらず、椎名さんと彼の同居生活に入り込んだ謂わば異物のような存在。そんな存在であるのにも拘らず、椎名さんは毛嫌いどころかむしろ親しく話してくれる。一般の反応であれば、むしろ嫌われる筈。椎名さんの内心は分からないが、少なくとも嫌悪を抱いている様子は見られない。

 

 

そんな優しい彼女が好いている存在を私は一体どう思っているのだろう。私からすれば彼は知り合い以上友人未満である。そうである筈だ。

 

 

でもそんな存在と同居生活を送るなんてことはありえないこと。私が彼が無茶をするのが見たくなくて此処に住むことを決意しただけだ。……そうである筈。

 

 

そんな現時点での私の曖昧な気持ちと立場だが、はっきりしていることがある。

 

 

それは、比企谷君が誰からも敵対される様な事になっても私はついて行くという事だ。そして彼が私を裏切ったとしても、私は敵対しない事だ。

 

 

今は有り得る訳のない話だけど。もし、彼が、私を欲したなら–––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……一緒に墓場まで行くのも満更じゃなくなってるかも、ね」

 

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