ようこそ俺の実力至上主義のまちがった青春がある教室へ   作:ゆっくりblue1

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第19話。


ボッチなのに何故か女子達と船内を巡るのはおかしい。

色々あった高級レストランでの食事の後、坂柳はクラスの事で用事があって離脱して、椎名も龍園に呼び出しを受けて名残惜しい表情を浮かべながらも別れた。一之瀬はあのままクラスの奴と合流していた。

 

そして残ったのは松下だ。俺としては悠々自適に過ごしたいので、一人にさせてくれるとありがたいがそんな俺の細やかな思いなど知ったこっちゃねえという様に行動を共にしている。

 

「本当に船内も凄いね。パンフレットを見たら、ジャグジー付きの大浴場まで有るみたいだし」

 

廊下を歩きながらそう言う松下の表情は楽しそうだ。寮の設備も充実はしているが部屋自体は一人暮らしには丁度良い広さという感じなので、普段では目にしないものにも興味を惹かれるのも無理はない。

 

「……設備の維持費はめっちゃ掛かるんだろうなぁ」

 

「……急に現実的な呟きを入れないでよ。何か入りにくくなるじゃん」

 

俺の呟きにジト目で抗議してくる松下。や、風呂入る用途だったら絶対に個室の方が良いと思うんだが。わざわざ知らない誰かと一緒に入る気は余りないし。急に話しかけられても困るし。

 

「んで、松下さんや。何故に俺と居るの?遂にバリア無効化の比企谷菌にでも感染した?」

 

比企谷菌に感染した奴はどんどん目が腐ってぼっちになっていくらしい。中学で消しゴムを落としたからそれを渡したら、わざわざアルコールで拭かれたんだよな。あれはわりとガチでショックだった。

 

「比企谷菌って………まぁ、あながち間違いでもないけど」

 

そんな小さな呟きは難聴系のラノベ主人公じゃないので聴こえているが、その真意までは流石に分からない。あながち間違いじゃないって何?隣人の眼が腐ってきたら俺もびっくりしちゃうからね?

 

そんなこんなで廊下を歩いていると、ある人物と鉢合わせした。俺は顔を顰めた。

 

「……げっ」

 

「…げっ、って偶然会って流石にそれは酷いよ比企谷君!」

 

「櫛田さん。本当に偶然だね」

 

本当に思わず出てしまった本音に怖いぐらい完璧な強化外骨格で返す櫛田。プンプンッという様子が相応しく、その仕草一つで男を手玉に取れるだろう可憐さとは裏腹に眼が笑っていない。後で覚えとけよ。というのが伝わる。此奴わりと中身を見せてくるから分かり易いんだよな。

 

そんな様子を強化外骨格で覆い隠しながらも、櫛田は言う。

 

「比企谷君と松下さんは一緒にいるけど………私、何かお邪魔だった?」

 

そう何故かニヤニヤと松下と俺を交互に見てきた櫛田。何かロクでもない事を考えてんな。その言葉に松下は慌てた様子で言った。

 

「べ、別に邪魔じゃないよ。そういう櫛田さんこそ一人でいるのは珍しいね。友達とかと行動してるのをよく見かけるのに」

 

そう言い返した松下に俺も内心同意した。此奴、乗船した時に自他クラスの男子に寄られてたからな。青い空に海、普段とは違うシチュエーションに酔ったんだろう。修学旅行あるある、気分に酔った男女が勢いで付き合って、修学旅行で大量のカップルが出来る現象である。そのまま卒業する奴までいるしな。で、周りにドヤ顔する奴。間違ってるからな、下手したら人生棒に振るだけだからな。

 

「たまには一人で行動するのも良いかなって。こんな豪華客船、パンフレットで見るだけで乗ったことも無いからじっくり見て周りたいし」

 

そう笑う櫛田。本音は言い寄られるのがウザくて離脱したんだろうな。此奴の仮面に気付かない奴は或る意味幸運だから気付かない間に絶対止めた方が良い。底に希望の無いパンドラの箱だからな。

 

「何か失礼な事、思わなかった?」

 

「……べ、別に?」

 

器用にもニコニコと笑いながら圧をかけて聞いてきた櫛田から逃げる様に視線を逸らした。何で皆ナチュラルに考えてる事を察知してくるんですかねぇ……プライバシーの尊重が欲しいと思っている今日この頃。すると櫛田は急に言い始める。

 

「私も一人でいるのも寂しいし、松下さんもいるし、一緒に行動しても良いかな?」

 

「…何で?」

 

唐突で予想外の言葉に思わずそう言葉を洩らしてしまった。いや、本気でその意図が分からない。

 

警戒を内心で二段階上げる。何故櫛田がわざわざ一緒に行動するのか。ただ、俺で遊ぼうという魂胆ならまだマシだが、此奴の場合は打算が服を着て歩いている様な奴だ。俺の弱みを握る為に近づいて来た可能性は高い。が、櫛田には知られて困る弱みは無いこともないが、櫛田には効果が薄くなる。だが、警戒しておく事に越したことはない。

 

「何時もとは違う人達と喋りたいっていう気持ちもあるし、お休みの日に遊んだ仲じゃない」

 

異議あり!と某逆転弁護士ばりの勢いで突っ込みを入れておく。内心で。あれは(櫛田が)遊んで、(俺は)遊ばれたんだが。つーか、俺なんか強制参加だからな。櫛田の理由の真偽が分からない上に、単純に櫛田の事は苦手なので拒否を行使する。

 

「ことわ––––」

 

「比企谷君、う・わ・さ」

 

俺の言葉を遮って、耳元に向かってそう言ってきた櫛田。松下には聴こえていないのか怪訝そうな表情を浮かべている。………此奴、本気で良い性格してやがる。櫛田が言っているのは椎名と松下の二股疑惑の噂の解消の件の事だろう。簡単に言えば、噂を消したので代わりに言うことを聞け。という事だ。

 

それはDクラスの事で貢献するという条件で了承したのだが、此処にきて条件を変えてきたという事だ。取引のモノまで使ってくるとはいよいよ本気で何を企んでいるのか。

 

というか急に接近して来ないで?そういうつもりがないと解ってても健全な男子高校生には毒だから。そう思いながらも俺は櫛田に努めて平静に返した。

 

「……今回だけだ」

 

「……ふーん、まあ仕方ないか。じゃあ宜しくね」

 

何処か納得がいって無さそうな顔だったが、怖いくらい潔く引き退った。

 

何を企んでいるのか分からない上に行動を此奴と共にすれば目立つのは避けられないのがぼっちとしてはネックだが、裏を返せば此奴の動きも察知出来るという事。何かを企んでいるのであれば先回りしてしまえばいい。

 

と言っても、簡単に此奴が自分の手の内を晒す筈はないのは当たり前なのだが。本当、此奴と屋上で必要以上に話さなければ良かったと俺は内心で溜息を吐くと、松下が櫛田に言う。

 

「櫛田さん、比企谷君と何かあった?」

 

「………あったと言えばあったかな?まあ松下さんの"邪魔"をする訳じゃないから安心して?」

 

「…………」

 

「…………」

 

そう視線を交わす二人。何だろうか。何処か空気が緊張して、険呑な様子に見えるのは気の所為か?バチッと火花を幻視した。松下と櫛田って仲は悪くなかった筈だよね?櫛田は強化外骨格でニコニコしてるが、松下は微笑みつつも眼が何処か鋭い。

 

というか松下の邪魔って何だ?何かを計画しているんだろうか。少し気掛りはあるが、何か地雷の様な気もするので触れないでおく。小町に女の子の秘密には軽く触れないって教育されたからな。知らぬが仏、君し危うきに近寄らずである。

 

目立つし、一人で居たいのだが、逃げたら逃げたで後がもっと凄惨で面倒(特に櫛田)な事になると思うので、諦める事にする。押して駄目なら諦めるが座右の銘だが、最近は押せてもいない気がする。

 

部屋に戻りたいが、ルームシェアなので他の男子が居る状況で、二人が付いて来たら騒がれるので部屋に戻るというのは却下だな。甲板に出るのは……暑い上に生徒も多いと思うので却下。レストランは既に行ったし論外。今は人が少ないであろう大浴場で風呂に入るのは……気分じゃないので今はいい。となると、残るは––––––

 

「ねえ、折角だし、このメンバーでゲームセンターに行ってみようよ」

 

俺の思考を読んだかの如く、櫛田が提案してきた。ゲーセンならば生徒もゲームに集中するのでそこまでは目立たないだろう。しかし、急な櫛田からの提案を警戒しない訳にはいかない。すると松下が言った。

 

「私は良いけど……」

 

「………一応聞いておくが櫛田と松下だけで行くってのは?」

 

「もちろん比企谷君も一緒だよ!」

 

俺が一人で行動出来て、女子二人の仲を深める建設的で画期的な提案を良い笑顔で一蹴する櫛田。もしもの場合に入社した会社で呑みに行き、盛り上がった状況を邪魔しないようにフェードアウトするのに最適な回答だったのだが。

 

「そもそも比企谷君って誘われるか如何かも怪しいよね」

 

「暗に呑みに誘ってくれる奴が出来ないみたいに言うのは止めろよ……」

 

これ考えた瞬間にあれ、別に必要無くね?って思ったんだからな。俺の夢的に。断じて会社を独りで直帰する事を考えた訳じゃない。断じて。あれ?意外と魅力的では?このままだと俺のHPががんがん削られるので、無理矢理だが、話を変える。

 

「………んで、ゲーセンで何かしたい事とかあんの?」

 

「うーん、ゲームセンターはあんまり行ったことが無かったから色々遊んでみたいとは思ってるけど、比企谷君はお勧めはある?」

 

そうあざとく首を傾げて悩む櫛田に聞かれる。お勧めつっても、俺の想像だと女子が好きそうな奴は限られてくる。

 

「……まあ行ってみてから考えれば良いんじゃね?」

 

そう言って、俺と松下と櫛田という奇妙な組み合わせで豪華客船内のゲーセンに行くことになった。

 

[newpage]

 

幸いな事にゲーセンに向かう間の道にはほとんど生徒が居らず、会話する櫛田と松下の数歩後ろからステルスヒッキーを発動して歩いていたので目立つことは無く、ゲーセンに着いた。

 

「わぁ…!凄いゲーム機でいっぱい!」

 

櫛田の感嘆の声にあざといなと思いつつも同意した。ゲーセンの中は船の中だとは思えない程広く、ゲーム機の数は視える物だけでも百以上はある。松下も想像以上だったのか、少し唖然としている。

 

ゲーセンの中にはそれなりに人が居て、そこら中からゲーム音が聞こえてくる。すると櫛田がゲーム音が響くので声が聞こえないと判断したのか耳元に近付いてきて聞いてきた。ちょっと近いって…

 

「ねえ、椅子があるゲーム機があるけど、アレって?」

 

櫛田が指を軽く指した方向にはゲーム機の前に椅子があり、ゲーム機にはハンドルなどが付いている。デザインからしてマ◯カーだ。

 

「……カートレースゲームだよ。ハンドル付いてるだろ」

 

「へぇ…じゃああれで遊んでみよっと」

 

「……いってら「比企谷君も一緒だよ。やり方分かんないから教えてね。松下さんも行こっ!」」

 

見送ろうとするが、櫛田に腕を掴まれてしまった。そしてズリズリと引き摺られるようにしてゲーム機の方へ連れてかれる。その様子を松下は苦笑しながら付いてくる。観てないで助けてくれ……

 

そうしてゲーム機の所まで連れてかれ、ちょいちょい櫛田に松下と共に説明して、プレイした。

 

マ◯カーのキャラクターを適当に選び、カートを決める。俺はバイク型、松下と櫛田はカート型だ。アーケードゲームなのでカート性能に違いは殆ど無い。

 

そして始まったレース。スタートダッシュを決めて走り出す。松下は俺と同じく経験者なので綺麗に走っているが櫛田は初心者なので、下位に沈んでいる。

 

「これ、意外と、難しい、ね!」

 

所々でぶつかりながら走る櫛田のカート。ゲームとは言え、アーケードは実際の車の様にアクセルとブレーキが存在するので操作性は実際に運転する感覚に近いのである。未成年なので苦労するのは無理も無い。俺も初めはまともに走れんかったし。最下位じゃないだけマシである。

 

そしてアイテムを取りながら、それを活用して走るが、未だ操作性に慣れてないのもあって、ゴールした際の順位はCPUを含んで十二位までで、俺は二位、松下は三位、櫛田は九位となった。一位のCPUと俺と松下で結構白熱したレースだったのだが、最終周回で、二週目の後続が残したバナナの皮とゴール直前で一位の放った甲羅に引っかかった結果だ。櫛田は途中キ◯ーなどを駆使したが、不運にも後続のアイテムの餌食になった。

 

「……ふぅ、楽しかったけど難しかったよ」

 

そう言う櫛田だが、満足の行く結果じゃない所為か、不服そうな雰囲気がある。まあ爽快な走り方じゃ無かったしな。すると松下が提案する。

 

「じゃあ、リズムダンスゲームは?」

 

松下が言ったのは音ゲーを実際に行う体感型ゲーム機だ。そんな物まで備えてんのか、凄えな豪華客船。普通のゲーセンでもそこまで見ないぞ。並んでいる生徒は居ないので直ぐに使える。

 

「それなら出来るよ!」

 

「俺はパスで」

 

今度は言葉を遮られないように断りを入れる。人も多いし、誰かに見られてんのに目立つような事はしたくない。その意思が通じたのか、櫛田と松下は苦笑しつつも了承した。

 

そうしてリズムダンスゲームの前まで来て、対戦モードにする。先行は櫛田で、曲はアニソンの奴を選んだ。性格(本性)的に想像し難かったが、理想の自分を魅せて過ごしてきた櫛田だ。何処かで機会が有ったのだろう。

 

※SAO『オーディナルスケール』〜Ubiquitous dB〜

 

曲調としては早すぎず遅過ぎずといった感覚だが、途中に細かい部分があるので難易度的には高めだ。しかし櫛田はアイドル顔負けの踊りを魅せた。足のステップから手の動き、肩や腰に至るまであざとさを感じる動きだが、そのどれもが魅せるのに洗練されている。しかも踊る中でターンまで入れる余裕。

 

そんな櫛田の踊りに惹きつけられ、他のゲームをやってた生徒達が続々と集まってきた。本気でアイドルのライブみたいになってきたんだけど……

 

「櫛田ちゃーん!もっと踊ってええええ!」

 

「最高ッ!櫛田ちゃんの踊りを豪華客船で見れるなんて、此処に来れて良かったッ…!!」

 

「ゲーセンに来てねえ奴は損してんぜ!ヒャッホォオウ!」

 

「桔梗ちゃんが踊る毎に、その男のマロンが…!スカートが、花園の絶対領域が…!」

 

そんな男子の歓声にちらほら来ている女子生徒は侮蔑の眼差しを送りながらも櫛田の踊りに歓声を上げている。俺は大量に集まった人集りを抜けて、離れた方でその様子を見る。そのままこの場からフェードアウトしたかったが、凄え面倒そうな予感がするので止めておく。

 

櫛田は良いとして後攻の松下には結構なプレッシャーだろうな。人集りは想定外だろうし、実際に櫛田のスコアも高い。彼奴のことだから勝とうとせずにそこそこのスコアで終わるだろう。そう思ったところで自分に嘲笑する。

 

何を松下の事を分かった気になっている?それは中学の時に戒めた事だ。勝手に分かった気になって、他人に期待するのは。そして期待が外れたら失望する。

 

俺は離れた位置にいる松下を見る。何時もと変わらない表情だ。すると視線に気付いたのかこっちを見て、軽く手を振ってきた。俺は軽く頷いた。そして櫛田が終わって、大歓声が挙がった。櫛田の方に注目が集まり、ゲーム台を離れた後生徒達に詰められている。

 

松下はその動きに合わせるように目立たない様にゲーム台の前に行く。櫛田に生徒達が集まった影響で俺の位置からは松下が良く見えた。そして曲を選んで、踊る準備をする。

 

※仮面ライダーW W-B-X ~W-Boiled Extreme~

 

「仮面ライダーW……しかも劇場版の奴かよ」

 

俺は松下の選んだ曲を聴いて驚いた。松下が仮面ライダーを観ているとは思わなかったからだ。しかしWは世代的に合い、最近では女性でも戦隊モノを見る人は増えてきているので何も不思議じゃない。

 

俺が驚いたのはこの曲の歌詞だ。Wは二人で一人の仮面ライダーがコンセプトだ。設定的に一人でも変身出来て戦えるが、二人の場合は更に相乗効果を発揮する強さを持つ仮面ライダーだ。なので変身者二人のイメージに繋がる歌詞が多い。

 

〜♪

 

踊りだした松下に櫛田へ寄っていた生徒の注目が集まる。松下にも仲の良い生徒は多く、歓声が挙がる。櫛田の踊りとはまた違った踊りのキレに惹きつけられている。

 

 

 

 

 

 

 

そしてその歌詞が来て、松下の視線が偶然か俺と絡んだ。一瞬の交差。松下は微笑んだ。心から嬉しそうに、微笑んだ。

 

 

 

………ダンスが思いの外楽しくて笑ったんだろう。視線が合ったのは、俺じゃない他の誰か………偶然だ。

 

 

 

踊る松下を観て俺はそう自分を戒めた。最後まで、踊り終わるまで、その光景を灼きつけて。

 

 

 

………

 

……

 

 

 

 

そしてダンスが終わり、櫛田に負けない程の大歓声が挙がった後、人集りが漸く落ち着いてきた所でゲーセンの外で待っている俺に櫛田と松下が合流した。

 

「お待たせっ、比企谷君ちゃんと観てくれた?」

 

「……ああ、観た。凄えアイドルのライブみたいになってたが」

 

櫛田の言葉にそう言えば、流石に予想外だったけどね。と苦笑した。そう言いながらもかなり色々なモノの発散に成ったのか、素らしい部分が見えるが、泥々とした闇は治まっているように見える。どうやら思っていないところで効果が有ったっぽいな。

 

「流石にアンコールには応えられなかったけど、それでも楽しかったよ」

 

松下がオーディエンスと化した生徒達のことを思い出したのか、苦笑する。松下が曲を踊り終わった時にアンコールが起きたが、アレには俺もビビった。ゲーセンがライブ会場に様変わりである。ゲーセンの店員もアンコールしてたし。

 

そう思っていると、櫛田がニコニコして俺の顔を見詰めた。何か嫌な予感がするんだが……此奴の笑顔には良い思い出がない。まあ他の奴もあまり変わらないが。椎名を除いて。

 

「……何だよ」

 

「比企谷君は私と松下さん、何方の踊りが良かった?」

 

そんな櫛田の言葉に内心溜息を吐いた。何で此奴はそんなことを聴いてくるんだか。大方俺を弄ろうとしているんだろうな。あの休日からヤケに俺を弄りに来る様になった。俺の反応が其れ程面白いのか?ストレス解消に使われているのは癪だが、泥々とした闇が今後爆発しないならそれでいい。

 

「…」

 

松下も気になるのか、櫛田の言葉を諌めることなく、見詰めてくる。俺は言った。

 

「……どっちもよかったじゃ「どっちもは無しだよ?ちゃんと選んでねっ」」

 

デスヨネー………俺もこの手が通用するとは思ってなかったが、これ、どっち選んでも面倒な事になる気がする。櫛田が聞いた目的は些細な自己承認欲求を満たす為だろうが、俺なんかに聞いても意味も無い気がする。しかし問題は松下だ。松下の意図がわからん。

 

如何するかを考え、口を開けようとした時、船内アナウンスが鳴った。

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。まもなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

 

「……って事らしいから、デッキに行くわ。じゃあな」

 

「「えっ、ちょっと!?」」

 

船内アナウンスに従い、櫛田と松下の静止の声を無視してその場から走ってデッキに向かう。神がかり的なタイミングで鳴ってくれたアナウンスに内心感謝する。ったく、あんな面倒な選択肢は俺じゃなくて平田にでもしとけっつうの。

 

それにしても意義ある景色ね………俺はさっきのアナウンスについて考えながらデッキに向かった。

 

デッキに出た時、生徒達が集まっている中、俺は人集りの空白部分を探し、其処に滑り込んだ。そして一息吐いていると、声を掛けられた。

 

「比企谷」

 

そう声を掛けてきた方向を向いて見ると、相変わらずの無表情で無機質な綾小路と、しっかりと制服を着込んだ冷たい表情の堀北が立っていた。

 

「アナウンスで来たのか?」

 

「ああ、堀北に同伴した」

 

俺の疑問に綾小路はそう言う。堀北も頷く。スピードが速くなり、髪が靡く。結構速いな。そう感じながら堀北を見る。俺の視線に堀北は赤くなっている顔で聞いた。

 

「っ…………何かしら?」

 

「…………いや、別に何でもねえよ」

 

………本人が言うまで待つか。言っても聞かんだろうし。そう言って堀北から視線を外し、船の先端の外に眼を向ける。するとでかい島が見えてきた。何か後ろで言い合いっぽい声が聞こえたが、無視した。

 

その島が今回のバカンスで泊まる島だろう。距離は近くなり、島の直径は四キロ以上は余裕だろう。島の周りをヤケにゆっくり旋回し始める。自然だらけで、外側は白い砂浜、島の中心には山っぽいモノがある。

 

生徒達は感嘆とした声を挙がったが、一部の生徒は眉を顰める。洞窟の様なモノも見え、やがて上陸用の施設に船を近づけた。

 

………バカンスって言っときながら、他人の姿が見えない上に宿泊施設が無いんですが、如何なってんですかね。

 

そんな思いを馳せつつ、再び船内アナウンスが鳴った。

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸致します。生徒の皆様は三十分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れずに持ち、デッキに集合して下さい。またしばらく御手洗に行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいて下さい』

 

「………はぁ………やっぱり鬼畜だわこの学校」

 

そんな呟きは風が吹くとともに消え、俺は再び溜息を吐いて、諦めの境地でアナウンス通りに動いた。

 

 

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