ようこそ俺の実力至上主義のまちがった青春がある教室へ   作:ゆっくりblue1

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第20話。


高校生に無人島サバイバルさせる学校は何を求めているのだろうか

ざわざわと風が吹いて、葉が擦れ合う音が響く。豪華客船は目的地である島に到着した。そして周りの生徒達は今後島で如何過ごすかを他の生徒達とハイテンションに話し合っている。俺はその様子をボーッと眺めながら、船から降りるアナウンスを待ち続けていた。

 

「比企谷君」

 

そう声が掛けてきたのは松下で、これから何が始まるのかをさっきの船の旋回で無人島の様子を観て察した様で、少し真剣味を帯びた表情を浮かべていた。

 

「……やっぱり普通に寮の部屋でゴロゴロしときたかった」

 

そんな嘆きの呟きを洩らすと松下は苦笑する。ついさっきまで一緒に居た櫛田はクラスメイトと笑いながら会話している。これから起きることに気づいているのかいないのか、とりあえずブーイングは起こるだろうな。

 

そう考えていると、スマホに着信が来ていた。スルーしようかなとも思ったが、島に降りて暫く確認出来なさそうなので見ておく。着信元は坂柳だった。

 

『島に降りたら貴方も察していると思いますが、試験だと思いますのでお願いしますね』

 

「………ほんと、働きたくねえな」

 

溜息を吐きながら、善処する。と送信する。そして船から降りる為のアナウンスが流れた。降りる際に携帯が回収され、担任から一度点呼を取られる。最初に降りるのはDクラスらしい。そして茶柱先生の点呼が俺に回る。

 

「––––––……比企谷八幡」

 

「……うす」

 

一瞬だけ交差した視線、俺は何かしらの反応を返す事もなく、船の下船用の階段を降りていく。天国と地獄を渡るような奇妙な感覚を覚えた。あー……行きたくない、戻りたい……社会という強制力の理不尽さを恨みながら重い足取りで、白い砂浜に足をつけた。

 

そして定位置にクラスが別れるように並ぶ以外は自由な状態の生徒達。その様子を列の最後尾で眺めていると、Cクラスが降りてき始め、椎名も降りてくる。すると椎名が此方に気付いて、小さく手を振って微笑み掛けてくるので、軽く手を振って頷き返した。はふぅ、癒される……

 

そう癒しを感じていると龍園も降りてきて、俺を見てニヒルで獰猛な笑みを浮かべてきたが、尻のあたりがゾワッとして何かキマシタワー!とか腐女子の興奮したような声が聞こえたような気がするので止めてほしい。

 

熱気がある暑さの中で嫌な寒気を感じている間にもどんどん船を降りてくる生徒達。そして最後のAクラスが凱旋の如き様子で降りてきたのを最後に砂浜に一年の全生徒……否、下船が出来なかった坂柳を除いた生徒が揃った。

 

そしてざわざわと騒ぐ生徒達の前に教師陣が来る。するとざわざわとしているが楽しそうな声に動揺の声が伝染し始める。それは何故か。降りてきた教師達が自然そのものの島に不似合いなPCなどの機械類をテントの造設と共に作業を始めたからである。

 

そんな動揺が走る生徒達を前にして、教師陣は淡々と作業をし終え、一人の教師、Aクラスの担任の真島先生がマイクを持って生徒達の前に立つと、口火を切った。

 

「静かにしろ。中には先生達の動きや島の様子で気付いた生徒もいるだろうが、大半の生徒は不可解に思っただろう。今から君達の疑問を解消する。これより、今回本年度最初に行われる特別試験について説明するのでよく聞くように」

 

その先生の言葉に更なる動揺を生徒達が見せる。俺も少しだけ同じ心境だった。バカンスって言われてたのに試験って騙し打ちにも程があるだろ。そこまで信用してなかったから別に良いが。そんな中でも先生は気にした様子はなく、そのまま説明を続ける。

 

「今から君達にはこの無人島で一週間過ごしてもらう。本試験は八月七日の正午を持って終了する。尚、この試験では君達主体で動いてもらう為、私達教師は試験に関して以外は一切関与しない。そしてこの試験は実際にある企業の研修として存在すると予め言っておく。今から試験内容について説明する」

 

「ちょっと待ってください。無人島で一週間寝泊まりするってことですか?」

 

一人の生徒がこの場にいる大半の生徒達の気持ちを代弁する様に聞いた。島の様子からみてある程度は予想してたが、生徒が試験を受ける側なのに生徒に対して雑な説明とはこれ如何に。つーか、ある企業の研修ってその企業怖い……やっぱり専業主夫が一番だわ。

 

「そうだ。寝泊まりに必要な食糧や飲料水など全て自分達で用意してもらう。もちろん、寝泊まりする場所もだ。尚、試験中に乗船するのは基本、正当な理由で無い限りは認められない。試験開始時点で、各クラス男女にテント二つ、懐中電灯二つ、マッチを一箱支給する。また、歯ブラシに関しては各生徒に一セットずつ、日焼け止め、といった類は女子生徒のみに生理用品は無制限で支給する。各クラスの担任に願い出るように。以上だ」

 

急激に与えられる情報を焦らない様にして整理しつつ、考える。衛生用品は最低限だな……食糧も飲料水の問題も自分達で解決しろってのは流石に鬼畜過ぎない?解決しろって言うって事は食糧や飲料水になる物がこの島にあるんだろう。

 

水は恐らく川があるので、比較的水源に近い上流を流れる場所を確保すれば、細菌類の問題は煮沸沸騰すれば良いとして、問題は食糧だが……そこまで考えが及んだ時、ふと気付く。

 

というか、俺は何でこんなに冷静なんだ?ボッチたるもの周りに流されず生きるのが矜持ではあるが、いくら何でも無人島でサバイバルしろって言われたんだからもっと慌てても不思議じゃないのだがな。自分の想像を超えた強靭なメンタルに自分自身で驚いていると真島先生の説明に理解も納得も出来ていない生徒が叫ぶ様に言う。

 

「ちょっと待ってくれよ!そんないきなり無人島で過ごせ、ってそんな無茶な事を言われても無理だって!!」

 

「ほう、無茶とは言うが何故、無茶と思う?君はそんな状況に陥ったことが無いだけなのに何故無茶と分かる?君はそんな濃い人生を歩んできたのか」

 

生徒の嘆きにそう冷ややかに言葉を返す真島先生。慌てて、怒りの乗った生徒も先生の冷静過ぎる返しにどう反論すれば良いか分からず押し黙るが、今度は違う生徒が反論を引き継いだ。

 

「待ってください。私達生徒は今回のこの行事は旅行という名目で先生方に言われて来ました。これが企業研修だとすればこんな騙し打ちはしないと思いますが」

 

先程とは違い、理路整然としたその言い分に真島先生は頷いて言う。

 

「なるほど、確かにそういう点では不満が出るのも納得できる。だが特別試験と言っても深く考えなくていい。この1週間、君らは何をしようと自由だ。海で泳いだり、バーベキューをしたり。キャンプファイヤーで友と語り合うのもいいだろう。この試験のテーマは『自由』だ」

 

自由……それは本当に何をしてもいいのか。それとも試験に沿う範囲なのか。生徒達は混乱する。それはそうだろうな、試験なのに自由って言われたんだから。

 

「この無人島における特別試験では、まず、試験専用のポイントを全クラスに300pt支給する。これを上手く使うことで、君らはこの試験を乗り切ることが可能だ。今から配布するマニュアルにはポイントで購入できるものが載っている。食料や水のみならず、無数の遊び道具なども取り揃えている」

 

300ptね……桁数からして普通の換算ではないだろうな。問題解決になるからといってただの使えるptではないな絶対。うちのクラスではこのptを巡っての喧嘩も起きそうである。真島先生の説明に生徒が尋ねた。

 

「つまりその300ポイントで欲しいものがなんでも買えるってことですか?」

 

「そうだ」

 

「で、でも試験っていうくらいだから、何か難しいのがあるんじゃ……」

 

最もな生徒の懸念にあっけらかんとしてこう返された。

 

「いや。どの様な形でこの試験を乗り越えようと二学期以降への悪影響は何もない。それは保障しよう」

 

悪影響は何もないか……悪影響『は』無いという言い方は裏を返せば良い影響はあるって事か。何も影響の無いものを試験には出すわけがない。もしかすると……そうある推測に至ったと同時に真島先生の言葉が続く。

 

「この特別試験終了時には、各クラスに残ったptをそのままcptに加算し、夏休み明け以降に反映する」

 

真嶋先生の言葉が風と共にビーチを吹き抜けて砂埃が舞い上がった。また面倒な事になりそうだな………と俺は内心で思いっ切り溜息を吐いた。

 

[newpage]

 

真島先生の説明が粗方終わったところで、今度はそれぞれの担任から試験に関する要項が説明されるのでそれぞれの担任の場所に行こうとしたその時。

 

「ひっきがっやく〜ん!」

 

「ひゃ…っ!?」

 

後ろから迫ってきていた誰かに耳元で言われ、思わず黒歴史増産する様な声が洩れた。その声が聞こえたのか、何人かのクラスメイトがこっちを向いてきた。櫛田と堀北と松下の視線もある。

 

何か迫ってきてんなとは思ってたが耳元で不意打ちしてくるとは流石に思わなかった。慌てて距離を置いて後ろを向けばニヤニヤと笑う桃と茶色が混ざった髪色で首元までの長さのウェーブの髪型をした女性が立っていた。端麗で男の視線を惹きつける容姿体型のその人は生徒と同じようにジャージを着ている。この先生はBクラスの担任の星之宮先生だったか。何でいんの?一之瀬達にする説明があるんじゃ無いのん?

 

「……何してんすか。びっくりするからやめてくださいよ」

 

「んー、比企谷君が居たから思わず悪戯したくなっちゃってね。後悔も反省もしてません!」

 

テヘペロッ☆とあざとい仕草でそう言う先生。小町ならあざといけど可愛いから許す、ってなっただろうが、この人がやるとあざといしか感じない。普通の男子ならともかく訓練されたボッチには効かん。………後、歳ってものがあるでしょうよ。

 

「んー?何か失礼な事思われてる気がするんだけど気の所為かなぁひ・き・が・や君?」

 

「き、気の所為じゃ、ないでしゅかねぇ…」

 

怖えよ……明るい声なのに何でそんな低い声出せんの?最近の女性って笑ってんのに目が据わる表情が流行ってんの?後さらっと心の中で思ってる事を読まないでほしい。

 

「じゃあ私の身体が未だ全然若いって事、……教えてあげよっか?」

 

そう妖艶な雰囲気を醸し出して耳元で囁かれた。俺は顔を顰める。

 

「ビッチはちょっと……」

 

「……じゃあその経験値を体験してみたくない?」

 

なん……だと!?女子高生には未だ備わっていない成熟した大人の色気が星之宮先生にはある。俺も健全な男子高校生なので、思わず唾を呑みそうになった時。

 

スパァンッ!と某お笑い番組で見るような突っ込み叩きを横からやって来た茶柱先生から星之宮先生に放たれ、その痛みに悶絶した。

 

「痛ったぁ…!ちょっと紗枝ちゃんっ、流石に痛いわよ!」

 

「喧しい!お前がしつこくうちのクラスの生徒に絡んでいるからだろうが。セクシャルハラスメントで問題視されるような事をするんじゃない。第一、お前のクラスの生徒をほったらかしにするな、職員会議で職務怠慢として報告するぞ」

 

そう注意される星之宮先生。ほったらかしにされたBクラスの生徒達は困ったような顔をしていた。この色んな意味で奔放な先生に振り回されてるんだろうなぁ。心中で共感していると、星之宮先生は慌てた。

 

「や、やだなぁ紗枝ちゃんったら冗談なのに……さ、仕事仕事〜!」

 

じゃあねー比企谷君!と言って最後までわざとらしくあざとさを振り撒いてBクラスの方へ戻っていった。その星之宮先生の背を見送ると茶柱先生に早く来いと促されたので目立った状態で行くの嫌だなぁ…と思いつつも渋々ついて行く。

 

列に行ってDクラスの生徒に奇異な視線を向けられ、内心辟易する。とりあえずあの先生も重大警戒人物リストに殿堂入りだな。あの先生も何か闇が有りそうで怖いんだよ。目立つのボッチに毒だから辞めて欲しい。これ以上目立ったら引き篭もっちゃいそう、割と真面目に。

 

そう切実に今後の俺の生活の事を案じていると、主に三カ所からの視線に気付く。その視線は嫌に鋭くジトッとという効果音がまさしく合うような視線だった。女子がしちゃいけない視線になっちゃってるんだが、俺みたいに目が腐るぞ。俺の目は伝染病だった……?

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………んだよ。何かあんの?」

 

『別に…』

 

そんな某芸能人の返しをされて、外方を向かれた。[[rb: 堀北と櫛田> 此奴ら]]って実は仲が良いんじゃね?と言えるシンクロした態度だ。椎名さんに言っとこ…と不穏な態度で呟いてくる松下に待ったを入れたい。俺は悪くねえ、社会が悪い、星之宮先生が悪い。

 

星之宮先生により、俺のSAN値がガリゴリ削られ、初っ端から試験を投げたい気持ちにさせられつつも茶柱先生がクラスメイトの前に立つ。茶柱先生の後ろに何かあるがあれは何だ?そう思いつつも説明が始まる。

 

「さて、真島先生の試験の基本的な要項が説明されたところで次にお前達に此れ等を配布する」

 

そう言って各生徒が受け取ったのは試験の概要や島の地図、ptで買える商品といったものが記載された試験マニュアルと、目立つボタンの付いた多機能そうな時計だ。どうでも良いがめっちゃ高そう。

 

「先ずこの時計から説明する。この時計はお前達生徒がこの島で過ごす間は必ず身に付けて置いてもらうものだ。時計の機能として、体調を測るために体温や脈拍、心拍数の変動が分かる機能や位置情報が分かるGPS機能を搭載している。私達教師陣は船の前の砂浜に居る。お前達の位置情報を随時確認する為にな。更にこの時計は頑丈でちょっとやそっとでは壊れない上に防水加工をしてあるので水の中でも活動出来る。万が一壊れた際にはptの変動関係無く、教師に申し出て何度でも交換可能だ」

 

説明を聞きながら時計を身に付ける。便利だが心拍数や位置情報を知られてるって割と怖い。これが試験の仕様だって言われても若干抵抗感はあるぞ。そう思いながらも茶柱先生の説明は続く。

 

「次にマニュアルだが、先程真島先生の言った試験の概要と島の地図が記載されている。各クラスに与えられた300ptで買える商品の内容も事細かに載っているので確認しておくと良い」

 

そう言った茶柱先生の雰囲気に若干の真剣味が帯びた。

 

「次にこの試験での追加ルールを説明する」

 

「この試験において、島には特定の場所に占有地、スポットという場所が複数存在する。その占有地を占有すると八時間に1ptのボーナスが発生する。占有地を占有するのに数に限りは無いので、早い者勝ちとなっている。ptを貯める余裕がある場合は狙ってみると良い」

 

占有地、八時間毎に1ptって事は二十四時間で3ptで複数占有出来ると。茶柱先生の言葉が続く。

 

「そのスポットを占有するにあたってお前達の中でリーダーを決めてもらう。スポットの占有時間はpt更新と同じく占有権は八時間までだ。そして一日に二回、スポットで午前と午後の八時に点呼を行う。一人でも揃っていなかった場合、支給した300ptから一人当たり5pt差し引く事になるから注意しておくように。そして体調不良などの理由で船に戻る場合は30pt差し引かれる。この場に参加出来なかった生徒も例外ではないため、Aクラスは270ptからスタートとなる」

 

クラスメイトがざわざわする中、平田にリーダー専用のキーカードを渡される。そして先生は続ける。

 

「そして他クラスで決まったリーダーを一週間の最後で当てる時間が取られる。その時にリーダーを当てれば、ボーナスで50pt獲得出来て他クラスのptを50ptとスポットで占有して生じたptから引かれる事になるから余裕が有ればやってみるといい。だが、それは逆の場合も同様なのでくれぐれもリーダーを決めるときは慎重に決める様に」

 

そう言われ、クラスメイト同士の相談が始まる。これが試験の競争の要素か。俺はマニュアルを開く。

 

・他クラスの生徒への暴力行為が発覚した場合は、失格とし、スポットのptや他クラスのリーダーを当てて生じたpt分を全て没収とする。更に暴力行為をした生徒は学校側の判断で罰を与えるものとする。

 

・大きく体調を崩したり、大怪我をしたりして続行不可能と判断された場合はマイナス30ポイントとなり、その者はリタイアとなる。

 

・環境を汚染する行為を発見したら、マイナス20pt。

 

・午前午後八時の一日二回ある点呼に遅れた場合、一人につきマイナス5pt。

 

・スポットを占有するためには専用のキーカードが必要である。

 

・一度の占有につき1ptを得る。占有したスポットは自由に使用できる。

 

・他クラスが占有しているスポットを許可なく使用した場合、50ptのペナルティを受ける。

 

・キーカードの使用権はリーダーのみ。

 

・原則、正当な理由なくリーダーを変更することはできない。

 

主に先生から受けた説明とあまり変わらない。そしてptで買える商品リストを見ると、テントやトイレなどの生活の生命線となる物からキャンプ経験者などが使いそうな物まで、バーベキューセットや水上バイクなど娯楽品もあるが、軒並み値段が張る。つーか、トランシーバーまであんのかよ……

 

粗方確認し終えたところで須藤が質問する。

 

「ちょっと質問なんだけどよ。トイレは如何したら良いんだ?船でジュースをガバ飲みしたから今行きてえんだ…」

 

その質問にクラスメイトが呆れた視線を送る。アナウンスされて準備しておく間に行けよ……内心突っ込みを入れていると茶柱先生が話し始める。

 

「良い質問だな須藤。トイレについては今から説明する」

 

そうして茶柱先生が背後にあった何かをビニール袋から取り出し、組み立て始めた。あれって防災で良く見る自然災害でトイレ使えない時に使う奴か?

 

「トイレの際にptを使用してトイレを買わない場合はこのトイレを使ってもらう。お前達の中には知っている者も居るだろうが、これは実際の自然災害用の緊急時に使用される物だ。使い方は今私が組み立てているやり方で組み立て、用を足す際は糞尿に対応している吸水ポリマーの袋を付けて、袋を結んで処分する。この吸水ポリマーのビニールは何枚でもptを払わずとも求められれば支給するから安心しろ」

 

その説明に男女拘らずに騒然とした。特に女子は阿鼻叫喚である。俺も思わず顔を顰める。無理だわ、本当に如何しようもない状況なら、使うのも止むを得ないが、ptでトイレが買える以上は身体的、心理的衛生上買う方が絶対良い。本当に生徒に対して優しくない試験だな。

 

「あれは無理……」

 

流石の松下も辟易とした様子である。そして説明が終わり、茶柱先生は教師用のテントがある砂浜の方へ戻って行った。すると早速試験のptについての論争が展開される。

 

「私は絶対無理っあんなの嫌!トイレ買いたい!皆もそうでしょ!?」

 

青い顔で振り乱して言ったのはクラスの女子最上位カーストグループの一人、篠何とかさんである。その同意を求める意見に女子は頷く。ptを節制してまでこんな事をしたくないのだろう。その意見に待ったをかけたのは男子達だ。

 

「待てよ!勝手に決めるなよ、トイレぐらい我慢するべきだろ!ptが残るんだぜ、無駄に使っちゃ駄目だろ」

 

男子の意見を代表したのは池。男子の一部以外はトイレを我慢してptを節制するという意見である。今後のptに直結するという将来を見据えた意見だ。頼もしい限りだが、俺としてはあまり良くないと思う。離れたところで論争を見ているとすると松下が隣に来て、聞いてくる。

 

「比企谷君は如何思う?」

 

「買う一択だろ」

 

「即答だね。理由は?」

 

「生活の最低限の衛生上の基盤は排泄も入ってる。無人島の暮らしに俺達みたいな都市の暮らしに慣れてる奴が急に順応出来る訳ねえし、仮に我慢出来てもストレスは溜まる。ストレスによって体調を崩す奴が出たらリタイアするリスクが高まる。リスクリターンを計算したら多少ptを消費してもある程度生活の基盤は整えた方がいいに決まってる。つーか、如何しようもない状況以外あのトイレは使いたくない」

 

ストレスを溜めればこのクラス単位での協力が不可欠な試験において、負の感情を生んで最低限の集団としての纏まりが崩壊する。ストレスが爆発してptを犠牲にしてでもリタイアする生徒が一人でも出れば、つられてリタイア者が続出する可能性だって出てくる。

 

「本音が出たね……でも私も同意見だよ。これ正直不毛な論争だよね」

 

松下がそう呆れ気味にヒートアップしていく論争を眺めていた。ふと何処からか視線を感じたので視線の元を辿れば、その視線の主がこっちに近づいてきていた。

 

その視線の主は椎名で、俺と視線が合うと何やら話したそうな感じがした。しかし、今この場を離れるのはリスクあるしなぁ………

 

「……」

 

「……」

 

躊躇から視線が絡まったまま、俺も椎名も動けないのだが、どんどんと椎名の様子がしょんぼりしていっているのを幻視する。三大天使ヒヨリエルを悲しませるようなことは出来ないな。うん、だからこの場を離れる俺は悪くない。社会、この試験を強いる学校が悪い。

 

脳内で言い訳して、言い争いが続くDクラスを尻目にその状況を利用して、ステルスヒッキーを最大にするとクラスから抜け出し、椎名の方へ行く。すると椎名が喜びに顔を綻ばせる。

 

「……如何した?クラスは良いのか?」

 

「ええ、我儘をするようで申し訳ありません。でもこの試験の仕組みでは暫くの間八幡君に会えない可能性が高いので、少しの間お話をしたくて……龍園君からの許可も有りますし」

 

そういうとCクラスの所でこちらを見てニヤっと顔を向けているのが見えたので、イラッとした。

 

「でも八幡君にもあまり時間はありませんし、長居はそちらのクラスにも怪しまれて、八幡君にご迷惑をおかけしてしまうので、少しだけ…」

 

そして椎名はこっちに近づくと自身の両手で俺の両手を包み込んだ。そして顔を近付けてきた。

 

「…ちょ、椎名?」

 

俺が声を掛けたところで、椎名と俺の額がコツンと当たり、至近距離で椎名の顔が映る。

 

「お互いに頑張りましょうね。これで頑張れますから」

 

「………ああ、そうだな」

 

月並みな返事しか出来ないのが申し訳ないぐらい幸せそうな微笑みを浮かべて少し。それを見て何処かがツキッと痛んだ。そして名残惜しそうにゆっくりと手を離すと、ゆっくりと椎名はCクラスの方へ踵を返す。

 

「試験中、また逢えたら逢いましょう」

 

「…ああ、また、な」

 

その返事に椎名は表情を綻ばせると、小さく手を振って戻っていった。俺は額に指で触れる。フレグランスの香りが残滓として匂う。……変態みたいで悲しくなるから止めよ。

 

そしてステルスヒッキーを発動すると最初からずっと居た様に自然な感じでDクラスに戻る。まだまだ論争が続いている様だった。すると松下がこそっと呟く。

 

「……逢引出来た?」

 

「言い方…つーか、見てたのかよ……」

 

盗み見は駄目だって教わらなかったのか?まあ俺もそんなこと教えて貰ってないけどね!すると松下が何処かジトっとして言う。

 

「見てたというか見える位置だったの。全く、比企谷君は椎名さんには甘いよね。バレたらどうするの?」

 

当たり前だろ、天使だぞ?無碍に出来る訳ねえだろ。こんなクラスの争いを見るぐらいなら天使とキャッキャウフフしてた方が良いに決まってるっつうの。ステルスヒッキーは破れない!

 

そして他のクラスは移動して、残るはDクラスのみとなっていた。池と篠何とかの言い争いが伝染するように男女で溝が形作られ始める。クラスのリーダーを買って出ている平田が間に入って両陣営を宥める。

 

「篠原さんと池君の意見も両方理解出来るよ。とりあえず他のクラスも移動しているから僕達も移動しよう。トイレの問題は移動した後で良いかな?」

 

リーダーであり、人気者の意見に反論する生徒は居らず、平田が綻びかけているクラスを纏めていく。流石爽やかイケメン、こういうことは楽勝か。

 

「移動するのに拠点を探さなければいけないけれど、如何しようか?全員で纏まって動こうか、それとも何人かで探しに行こうか」

 

そして拠点を探すための人選についての意見を出し、積極的に乗ったのは須藤達三馬鹿の体力自慢の男子だった。池や山内はカッコ付けようとする魂胆が丸見えだったが、須藤は冷静だったので純粋にクラスに貢献しようとしているらしく、あの騒動から変わろうとしているらしい。人間そんな急に変わろうと思って変われる訳じゃないが、少なくとも悪い所から挽回しようとする姿勢は誇れることだ。……案外格好いいじゃねえか。

 

須藤達を先頭に、Dクラスも移動し始めた。この無人島で始まった試験、クラスでの纏まりの悪さによる今迄、目を背けてきた問題に直面する生徒達と山積みの問題に俺は内心溜息を吐いた。

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