ようこそ俺の実力至上主義のまちがった青春がある教室へ 作:ゆっくりblue1
ジリジリと蒸し上がりそうな暑さと燦然とした陽射しを植生している木々が遮って、何とか汗は掻かない程度の気温になってくれている。それでも、蒸し暑さは体感的にはあまりよろしくない。学校に強いられた無人島生活も大変よろしくない。学校にあるクーラー、いや、人間社会圏に存在する文明の利器のありがたみが凄く分かった。クーラーって偉大だわ。
そんなことを考えながら日陰の方をゆっくりとクラスメイトよりも数歩程度遅れて付いていく。草木は生え広がり、辺り一面緑色である。歩く道は砂利や石は多少あるが、基本は平地の土だ。靴にかなり土が着いている。
「やっぱり結構整備されてんな……」
そう呟いて土の感触を確かめる。道の様子を察するにこの無人島は定期的に整備されているのだろう。土も渇いているが、付着量が結構多く、保水性が高い。こういう土は基本農業に適している物だ。家庭菜園とか小町が育てたいって言った時に親父が買ってきたが途中で飽きたのか忘れたのか小町の代わりに育てたので判る。
須藤達の先導の元、会話をしながら進むDクラス。そして先導していた池達が不意に興奮気味な声を出した。
「おーい、あったぜ!スポットが、しかも凄え良いとこに!」
そんな興奮気味な声にクラスの注目が集まり、池の方へ駆け寄っていく。俺もさり気なく見つけたというスポットの場所を見にいく。其処には川が流れていて、しかも上流の辺りだ。そして川の端にはスポットを占有する為の装置があった。池の言う通りかなり良い場所だ。お調子者で変態だがこういう運は持っているようだ。
「かなり良い場所だね。川があるし、比較的に涼しい。後は川の水さえ飲めればいいんだけど……川の水って普通に飲める物なの?」
いつの間か隣に来ていた松下が川を見つめながら聞いてきた。俺は川がどれくらい水源に近いかを目視で確認すると、言った。
「あの綺麗さなら普通に飲んでもいける可能性は高いが、川の水にも細菌類は居るからリスクを下げるなら煮沸して飲めばいけんだろ。川の底に石があるし、ろ過は既にされてるだろうからな」
「そっか…じゃあptが節約出来そうだね」
そう何処か安堵したようにホッと息を吐く。まぁ、ptを節制するなら何から何まで全て自分達で用意しなきゃいけないから無人島で水の問題を最初に解決出来るのは大きい。海は塩分濃度が高く、ろ過して塩分を抜くのは時間が相当かかる上に難しいからな。ほんと、ミネラルウォーターとか、水道水も偉大だったんだなって思う。水道局の仕事をしている人には感謝だわ。毎日お疲れ様です。
「…ま、まだまだ問題は山積みだがな」
そう呟いて、クラスの様子を見る。スポットを見つけて、これから過ごす拠点が決まった所で、最初のトイレ問題に戻る。池と篠何とかはまたもや言い合いをしていた。
「絶対トイレは居るわよ!あんな誰かが用を足した中で出来る訳ないでしょ!?」
「それぐらいは我慢すべきだろ!トイレだってかなり高いんだぞ!?」
「じゃああんた達男子だけが我慢すれば良いじゃない!」
「池君も篠原さんも喧嘩しないで、僕達はクラスメイト同士でこの試験は協力が不可欠なんだよ。仲間割れをしたら試験も越えられないから一旦落ち着いて」
双方の言い合いは目に見えて男女を分断してしまっていた。そして池の言葉に女子は更に憤慨してしまっていて、人気者の平田と櫛田の制止が有っても制御仕切れ無くなってきている。おいおい……トイレの問題で此処までに発展してんのDクラスだけだぞ?平田も櫛田も制止するならもっとしっかり制止するべきだ。まあただ観てるだけの俺が思っても説得力ねえけども。他は松下とか堀北とか綾小路とか高円寺とか、後長谷部?だったか?が興味薄そうに観ている。高円寺に至っては眼中にない様子。
しかし、実際此処ら辺がDクラスと他クラスとの大きな差なのだろう。AクラスもBクラスもCクラスも最後には絶対的なリーダーの役目を持った奴がいて、方針は決まる。一方でDクラスはリーダー的な役割を担う奴はいても意見を纏めるもしくは自分の意見を突き通すだけの器量を持った奴は現時点では居ない。平田も櫛田もクラスを引っ張るというよりは後ろから支えて押すという感じだ。
Dクラスで似ているのがBクラスだが、BクラスはDクラスの完全な上位互換であれる理由は主に二つ。一つ目はリーダーの一之瀬がクラス全員の信用又は信頼を獲得していること。平田と櫛田もクラス全員の信用を得るには至ってはいない。特に高円寺とか金髪御曹司とか自由人とかな。
俺?俺は良いんだよ。信用も信頼もしてない代わりに誰にも信用も信頼もされてないんだから。何なら隣人以外に認識されていないまである。だから意見を聞く奴も居ない。それでいてクラスに貢献するんだからやっぱり親父と母ちゃんの社畜の遺伝子は恐ろしい。
二つ目はDクラスに比べ、Bクラスには表立って反抗する様な我の強い奴が居ないこと。これが主にBクラスが平田と櫛田と同タイプの一之瀬がリーダーとしてやっていける理由だ。一之瀬が幾ら善人とはいえ、不満を持たない者が居ないわけじゃない。最低限クラスとして動ける連携を保っていると考えられる。
何方にせよ俺には出来ない芸当だけどな。リーダーなんてやった暁には三日天下どころか一日も掛からずクラスを崩壊させる自信がある。自分で思って悲しくなってくるから止めよ……
AクラスとCクラスはリーダーがカリスマか暴力での支配でワンマンだ。それでも纏まりが欠けないのはリーダーに其れ程の能力の高さがあるからだ。Aクラスは今の所二分されている状況だが、このまま行ってもいずれは坂柳が舵を取ることになるだろう。彼奴はね、正直葛城が可哀想に見えてくるほど能力に差がある。主に脳の地力で。葛城は船で初めて見たけど、あの対応を見る限りは坂柳に勝つには厳しいと断言出来る。
葛城の能力は全く知らない上に一発で判断するのは普通なら有り得ないが、この試験で成功を納めない限りは厳しい。其れ程坂柳という少女は底が知れないのだ。もうね、魔王だよ魔王。世界の半分くれてやると言ってきても違和感ないレベル。何それ勇者可哀想。
それにAクラスとCクラス、BクラスとDクラスでリーダーの在り方が違うのもある。
民主主義と社会主義では政治での議論の在り方も大きく違うのだが、どう違うか判るだろうか?
民主主義は多数決での採決を取るが、少数派は切り捨て難いのだ。民主主義は多角的な要素が強みだが、逆に言えば意見が多すぎると一本に纏め難いのだ。中々議論が終わらず問題を持ち越しにしてしまって、その分の時間をロスする。
社会主義は最初から絶対的な採決者が国という一つの最高責任者であるので、意見が多かろうが少なかろうが最高責任者が決めた時間内で決められる。不満がその分溜まりやすいのはネックでもあるが、上手くやれば此れ程強いものは無い。
つまり大雑把に纏めるとAクラスCクラスは社会主義、BクラスDクラスは民主主義だ。此処、テストに出ないからな、学ぶなよ。
まあDクラスが一丸になって纏まらないのが一番の理由なのだが、纏まる気がしないのは俺だけだろうか。特に高円寺とか。
そんな感じで無駄に如何でも良い思考を貪っている間に池と篠何とかの言い合いは平田によって流れが変わる。
「二人共、落ち着いて。このまま言い争いをしても何も始まらないよ。とりあえず僕は篠原さんの意見の方が建設的だと思う。此処は無人島で、この一週間は自分達で何とか過ごさなきゃいけない。医療機関は船の中にしかないし、衛生的にもトイレで菌やウイルスとかに感染してしまって体調を崩してしまったらリタイアするしか無い。そうでなくともただでさえ何時ものように過ごせないんだ、ストレスも溜まりやすい。そんな状況がいつまでも続けばストレスが溜まりすぎて試験どころではなくなる。この試験を皆で乗り越える為にトイレは必要だと僕は思うよ」
苛立つ生徒達に落ち着いて分かり易く自分の意見を表明する平田。その意見に篠何とか達女子は平田の支持を得た事によって勢いを増して池達男子は理路整然とした言い分に反論が出来ない。
まあ平田もその結論に達するわな。彼奴頭良いし、普通にテストで学年50位以内には入ってるし。イケメンで頭も良くて身体能力も高い上に彼女持ちという天に二物は与えられないとか嘘だよなぁ。
「ほら、平田君もこう言ってるじゃん。従ってよね」
篠何とかの言葉に池達男子は苛立ちつつも平田の意見が理に叶うと判断して渋々引き退った。しかし男女の溝は確実に形成された。これがBクラスだったら……と意味の無いたらればが頭を過ぎった。
トイレは20ptだったか?トイレ一台で回し使いするのは現実的ではない。最低でも二台で回していかないとならないだろう。そう思った矢先に今度はトイレの数で言い争いになり始めた。………一々言い争いしなきゃいけんのかよ。もうちょい冷静になれよ…ぼっちは言い争いもしないのでエネルギー効率が良いし、楽だわ。……とりあえず俺にもやらんといけないことがあるし、とっとと済ませたいしな。止めさせるか……櫛田が。関わりたくねえけど、男女で仲がいい上にヘイトが無いの彼奴くらいだし。
俺はゆっくりと櫛田の方へ歩み寄る。すると櫛田が此方に気付くので身振りで話したい事があると伝えると、櫛田は周りに気付かせないように近付いてきた。
「何かな?比企谷君から話って珍しいね」
「話って程でもない。あの言い争いを納得させる案を櫛田から言ってもらいたいだけだ」
バレない様にコソコソと話さなければならないので必然的に俺と櫛田の距離は近くなるので女子特有の良い匂いが漂ってきて集中が切れてしまいそうになる。何で椎名と言い松下と言い女子って良い匂いするのん?そう言えば櫛田は僅かに強化外骨格をズラした顔を覗かせる。
「それは貸し一つで良いのかな?」
「……んな訳ねえだろ。今回は試験での必須的な要素が絡むんだ。普通にクラスメイトとしての協力に決まってんだろ」
此奴は直ぐ様マウントを取ろうとするが、此奴に貸しは作りたくない。だって怖いし、あと怖い。櫛田の貸しで動かされるのは嫌だ。堀北と綾小路の退学を狙ってるんだぞ?堀北はあのシスコン兄貴の事があるし、綾小路は逆にこっちが退学させられそうだ。すると櫛田は残念そうに言った。
「まあそう来るよね。……解ったよ。それで私は何を言えばいいのかな?」
「とりあえずトイレと川の水の事だ。こう言えばいける。–––––––」
そうして櫛田に必要な事を伝えると櫛田と別れ、言い争いを傍観する。すると松下が寄って来た。
「櫛田さんと何を話してたの?」
「直ぐに分かる」
そう言ったところで、言い争いをしている両者の間に櫛田が入った。
「池君も篠原さんも落ち着こっ?私はトイレなら二台は必要だと思うの。男女とかに分けたら順番待ちとか、私達女子も安心だし。一台だけだったら緊急用のあのトイレも使われている時にはどうしようもないし」
櫛田の影響力で男女共に櫛田の意見に食いついてきた。改めて見ると凄えわ。言い争いの空気を消した上に意見を纏める程の器量は到底真似は出来ない。その流れに乗って櫛田は畳み掛ける。
「それと、池君達が見付けてくれたこのスポットにある川の水だけど、飲み水にする為に一時間程度、煮沸沸騰すれば細菌も消えるから大丈夫だよ」
その意見におー、と感心の声が集まる。誰も反論を述べるものは居ないようで言い争いが止まった事でピリピリしていた空気は少しだけ緩んだ。このまま行くかと思っていると篠何とかが言った。
「さっすが櫛田さん!ちゃんと考えてくれてるよね。……それに比べたら男子って本当にデリカシーないし」
「…何だと!?」
嫌味の呟きを洩らした事によって、男子達の表情に青筋が通った。はぁ……何でこうも声に出すのかね?世の中こう一言余計な事を言う奴がいるが、流石に時と場合を考えて欲しい。すると松下が呟いた。
「……篠原さんは言い争いしてただけじゃん。特に納得させる案を出した訳じゃないのに偉そうに……」
怖いなー、松下さん。思った以上に声が低い事に気づいてる?一応貴女と同じグループだよ?女子の関係性は怖いわー。とガクブル震えていると嫌味によって再度火が着きかけた言い争いを平田と櫛田が止めて、何とかリーダーを決める話し合いが始まる。
「じゃあ今度はスポットのリーダー何だけど–––––」
「あ、それも提案なんだけどね。スポットのリーダーって今後を左右する大切な役割だから責任感が有って隠しきれる頭の良さもある人が良いと思うんだ。平田君は有名だから直ぐリーダーって察しがついちゃうし、実績のある堀北さんが丁度良いと思う」
畳み掛ける櫛田の言葉にクラスメイトも驚きを隠せない様で、特に指名された堀北は櫛田の意図を読めずに警戒して眉を寄せている。
「何故貴女は私をリーダーに推薦するのかしら?」
「それはさっき言った通りだよ?堀北さんなら任せられると思っているから」
睨むように見る堀北に変わらずニコニコと笑顔を向ける櫛田。その状況が数瞬続き、折れるように堀北が言った。
「……解ったわ。何時迄もこんな状況を続けている間にも他のクラスとの差が広がり続けるのは本意ではないから。それで行きましょう」
堀北が頷くと、櫛田の言葉にクラスメイトも反論せずに受け入れて平田がキーカードを堀北に渡す。堀北はキーカードを持って茶柱先生の方に申請しにいく。その様子を見て重い責任を背負わずに済んだ事からの安堵でざわつき始める生徒達。まぁ、失敗すればこの学校にいる限りは三年間ずっと後ろ指さされるような役割なんて負いたくねえわな。その様子を見ていると櫛田が何故かこっちに来た。何で来んの?お前がこっち来ちゃったらステルスヒッキーが薄れちゃうでしょ。
「これで良いんだよね。比企谷君?」
「………ああ、これで良い。此処で決めなきゃ何も進まん。それと何でこっち来ちゃうの?」
お前居ると男子達に睨まれんだよ。これ以上面倒になりたくないのに。
「今度は何を企んでるの?」
すると松下が会話に割り込んで来た。つーか今度はって何だよ……俺がいつも何か企んでるような言い方だな。
「これ以上話したところで時間を浪費するだけだし。慣れない無人島の暮らしをするんだから必要なことを済ます以外では働きたくねえんだよ」
「…こんな所でも変わらないね比企谷君は」
松下は呆れた表情を浮かべて言う。この状況を見て事実を言っただけなんだが。つーか実際こんな炎天下の中でリーダーとかトイレ問題とかの話し合いとかしてても熱中症で倒れるだけだっつーの。
「それで、比企谷君は今度は何をしようとしているの?」
「……んまあ、お前らも解ってると思うが、とりあえず無人島での暮らしの安定化をさっさと済ませてptを稼ぐ」
「ptを稼ぐって事はスポットを見つけに行くってこと?」
櫛田の質問に、俺は一瞬だけ考える。此奴に坂柳の依頼の事を言えないし、かと言って協力を仰ごうにも借りを作れば面倒くさいしな。
「……そうなるんじゃねえの?現実的に考えれば妥当だろ」
妥当な手段で堅実に行った方が身を結ぶ場合の方が多いからな。そう言えば、櫛田はそっか。と言う。松下が俺を見詰めるが、敢えて無視しておく。そして平田が次の話題へ行く。
「じゃあとりあえずリーダーは決まった事だし、今度は今後の生活の為にテントを設置して準備を整えていこう。その後に食糧事情や節約できるところは節約するために灯りの為の焚き木を集めることや他のスポットを見つけに行く役割を決めよう」
平田が言えば、反論を言う奴はおらず、各々無人島での暮らしのために必要な準備に取り掛かる。男子女子でテントの設置を終わらせて、トイレを購入して設置する。
その準備以外で暇な人員を集め、平田が話し始める。
「テントの設置をしてくれている人以外で、今後の試験で必要な役割を決めようか。基本的に此処で単独で移動するのは迷ってしまった場合に危険だから複数人での行動を意識しよう」
ま、遭難でもして戻れなくなったら困る奴もいるだろうしな。平田がそう言えば、堀北が口を開いた。
「少し良いかしら。提案なんだけれど、スポットに見張りを設けた方が良いと思う。カモフラージュの為にも更新時には何人か着いていけばバレるリスクも避けられるわ」
堀北の提案に平田は頷く。これである程度のリスクも避けられるか。
「見張りの事もそうだけど、役割の動きはローテーションで回して行こう。そうすれば疲労も抑えてリーダーも悟られにくくなるからね」
平田がそう言えば、生徒達は全員頷く。やはりクラスの中の信頼が頭一つ抜きん出ているのは平田だ。頭の回転も速いし、暫定的なリーダーとしては十二分だ。何で平田はDクラス扱いにされてるんだ?
「さて、じゃあ役割を割り振って行こう。先ずは食糧集めの班になってくれる人」
平田の声に純粋に試験に向けて役立ちたい奴、試験を通して自己アピールを行う奴、出来そうな役割にただただ入る奴、仲良い同士で行動したい奴と何人か挙手する。しかしながら少ないな。特に女子は暑さで動きたくないのか少ない。
「私も行くよ。試験で役立ちたいし、食糧集めは重要だもんね」
それを見かねた櫛田がそう言って挙手すると、櫛田に釣られるように男子達が挙手する。大方櫛田にアピール、もしくは一緒に行動したいが為だろうが。山内や池も挙げてるし。後目立たないようにか綾小路と佐倉、何故か高円寺も挙げているが。
「うん、人数的には充分だね。挙手してくれた人達はありがとう。次はスポット探しをしてくれる人」
さっきまで挙がっていた手が、今度は動きを見せない。スポットはいたるところにある。近くにあれば遠くにもあるだろう。無人島での行動をなるべくしたくないのか、誰も挙げない。………はぁ、こんな中で挙手したくないんだがなぁ。
「…!比企谷君」
げんなりしながら手を挙げれば、平田が反応するので、注目が必然的に挙手した俺に集まる。櫛田や堀北も驚いたように見詰めてくる。ちょっと?わざわざ名前を呼ばんで良いって…目立つから。すると俺の隣からも手が挙がった。
「松下さんも……」
俺は隣に顔を向ける。すると松下もこっちに視線を向けてきた。これは少し予想外だった。此奴なら見張りに付いて目立たないようにしそうなものだが。思わず聞いた。
「……何でスポット探しに入ったんだ?クラスで目立つぞ。グループでも別行動になるし」
「それは私の台詞。比企谷君こそ、積極的に動くじゃない。日頃からあんなに目立ちたくない目立ちたくないって言ってるのにさ」
うぐ…俺だって本当なら見張りに行きたいよ?そしてAクラスの魔王と契約してしまったあの日の俺を心底殴りたい。何ならこの役誰かにおしつ…ゲフンゲフン、任せたいまである。
「俺は模範的なんだよ。ぼっちはな、ジッとしていると仕事を押し付けられるんだ。だから少しは仕事しているアピールが必要なんだよ。ソースは中学の雑用を押し付けられた時の俺」
「それ、模範生の考え方じゃないでしょ…仕事を押し付けられないようにしているだけじゃん」
別にちゃんと仕事はしているんだから問題じゃないんだよ。海外じゃサービス残業をしている日本の企業に驚くらしいし。中間管理職よりも上じゃ残業代出ないって親父も母ちゃんも愚痴ってたしな。うん、やっぱり専業主夫だな。
「まあ、比企谷君は何か企んでるっぽいし、私も仕事を押し付けられないようにするには丁度良かったけどね」
「丁度良いってなんだよ……」
「見張りだよ。見張り」
「堀北と此処のスポットの見張りは別だろ。堀北は向こうだぞ」
そっちじゃないよ。と小さく呟いてたが、そっちじゃないってなんだよ。見張りなんてそれぐらいだろ。見張られたい性癖してねえぞ。
「じゃあ比企谷君と松下さんと他は……長谷部さんと三宅君、かな?」
俺と松下の他に手を挙げたのは、青い長髪で目元に泣き黒子が特徴の女子生徒と気怠げな眼をした男子生徒がいた。うん、佐倉といい勝負しているな。ジャージを着ても隠し切れてねえわ。
「比企谷君?何処を見てるのかな?」
「べべべ別にぃ?何もみちぇねえぜ?」
ちょっと眼に入っただけだし。意図的じゃねえから、故意だから。ニュートンの説が正しかったとか、万乳引力の法則とか思ってないので冷気を飛ばさないでください。ジャージ越しに背の身の肉をミチミチ言わせて摘まないで!めっちゃ痛い!
その後に此処の居残り組を決めて、各々動き始めて、食糧集め組は周辺に食糧がないか集めに行き、居残り組は生活基盤を雑談を交わしながらも整え始める。平田はクラスを纏めるために居残り組のチームで奮闘中。
「さてと、で?如何するの?目星いスポットの場所に心辺りは有る?」
スポット探し班の俺達は話し合いをしていた。それぞれの自己紹介は割愛する。女子生徒は長谷部波瑠加、男子生徒は三宅明人というらしい。二人は知り合いで悪目立ちは避けたいために居残りを避けたという。長谷部の言葉に三宅は頷くと言った。
「分かり易い場所なら一ヶ所あるぜ」
「松下さんは?」
「私も一ヶ所ならあるよ」
「比企谷君は?」
「……大体でなら二ヶ所だな」
俺の言葉に長谷部と三宅は眼を見開いた。松下は流石と呟いたが、そこまで鵜呑みされても困るぞ。
「じゃあ一ヶ所目から言ってみようか。はい、みやっちから」
「船の旋回している時に見えた洞窟の方。彼処にスポットがあると思う」
「三宅君と同意見かな。分かり易い場所って言ったら其処だね」
俺も頷いておく。洞窟の方が一つ目で意見として一致している。観察力がある組が集まってくれていると話が速い。そして二つ目から目星を付けていると言った俺の意見に注目が集まる。
「後もう一つは船から降りたところの範囲一キロ以内にある…と思っている」
「そんな近くに?」
三人の訝しむ様子に頷く。実際、島のスポットのいくつかは特徴的な場所にスポットを当てないと差をつけなきゃいけない試験においては理にかなわなくなるからな。見つからない所にスポットを置いても意味ないし。
「AクラスとBクラス、そして俺たちのDクラスは直ぐに移動していたが、Cクラスは俺たちが移動し始めた後も移動してはいなかった。ってことは近くにスポットがある所を見つけている可能性がある」
俺がそう言えば、三人は確かにと納得したような表情になる。椎名と会った後も移動していない様子だったしな。龍園なら見つけてんだろ。
「なるほどね……ちょっと想像以上かも」
「は?何が?」
長谷部の言葉に俺はそう聞く。想像以上に眼がヤバかったとか?だったら泣くよ?いや、引かれるだけだな…言ってて悲しくなるからやめよ。
「ちょっと比企谷君ってDクラスじゃあ結構噂が建ってるから、どんな人かなぁって思ってたら想像よりずっと頭が切れてるからさ」
その噂については触れないでおこう。俺のSAN値が削れる。もうね、俺だって目立ちたくねえの。何なら綾小路や堀北に任せたいレベル。
「…んで、洞窟と、比企谷が言った下船した範囲の一キロ以内にある場所って言えば浜辺とその近くの林地内だが、どう調べる?ツーマンセルで行くか、全員で行くか」
「効率を考えればツーマンセル二つで分けていけば速いでしょ」
三宅の言葉に長谷部が答える。まあ全員で行けば目立つし、逆に相手にこっちの場所を把握されやすいしな。松下も頷くと口を開く。
「じゃあ次はメンバーだけど……」
「男子と女子で分けていけばいいんじゃね?俺と三宅が洞窟方面で、浜辺付近は長谷部と松下で」
洞窟方面って高所方面だから俺と三宅の方が速いし。女子に汚れやすい所に行かせんのも気がひける。
「は?」
すると松下が想定してなかった答えを聞いたかのような反応を見せてきた。え、何?何か問題だったか?俺が若干困惑していると今度は長谷部が言う。
「えー、別に男女に分けなくても良いんじゃない?こういう時にヒッキーみたいな初対面の人と話す機会としても丁度良いし。みやっちと松下さんは知ってるからさ」
おい、ヒッキーって何。俺を見つめてるってことはそういうことじゃないよな。
「ヒッキーって誰だよ……引きこもりみたいに聞こえるからやめろよ。かわいそうだろ」
「比企谷君でヒッキー。マスコットみたいで可愛くない?」
可愛いじゃなくてかわいそうだろ。あと、長谷部のコミュ力がヤバ過ぎんだろ。それと心臓に良くねえからもっとぼっちの取り扱いについて知ってください。いきなりあだ名で呼ばれるとか友達かよって思っちゃうだろ。
「……でも、知り合い同士で行動する方がやりやすいんじゃない?三宅君も長谷部さんの方が慣れてるだろうし」
「え、俺は別にどっちでm「やりやすいよね?」…アー、ソウダナー。オレモハセベノホウガヤリヤスイワ」
松下の言葉から発せられる謎の圧に何か感じたのか言い掛けた事を変えた三宅。何があったの?三宅の遠い目がめっちゃ気になるんだけど。
「よし、私と比企谷君は洞窟。長谷部さんと三宅君が浜辺付近で良いよね?」
「ああ」
「お預けかー。……ま、良いや。話しかけるきっかけは幾らでもあるし」
松下の言葉に長谷部と三宅が頷く。松下の有無を言わせない雰囲気に俺も頷くと。スポットの探索に三宅達が行った。その背を見送ると俺は松下に言う。
「良いのか?女子の方が色々とあれじゃねえの?」
「良いんだよ。あの二人は知り合いだし、比企谷君だって初対面の人との沈黙は気まずいでしょ?」
まぁ、確かに一理はあるんだが、女子同士での方がやりやすいんじゃないの?話とかも。
「それに……」
「?」
「折角のツーマンセルなんだからさ」
俺の前を歩いて、振り向いた松下の表情がヤケに嬉しそうな笑顔なので、眩しく感じて顔を背けた。勘違いするから止めてくれ。…割と本気で惚れそうだったぞ。