ようこそ俺の実力至上主義のまちがった青春がある教室へ   作:ゆっくりblue1

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第23話


無人島を満喫出来るのは余程肝が座る奴のみである。

目を覚ました瞬間から思った事は暑苦しいである。25℃以上の気温で閉鎖的な場所に大量の人間がギチギチに敷き詰められている環境など男女問わず地獄である。ましてや寝ている奴のいびきが聞こえるのであれば尚更である。

 

「……うるっせぇ………」

 

テントの端で寝ているにしてもそこかしこから聞こえるいびきなどで心地よい睡眠などとれるはずも無い。

 

今日でまだ六日も無人島のこの寝床で寝ないといけないとかストレスでしかない。寮の部屋の静けさが恋しい。なんなら小町の居る実家に帰りたいまである。

 

起き抜けの回らない頭でそう思いつつ、寮の空間ではない無人島の押し詰められたテントで二度寝なんて出来ないので、周りを起こさない程度に朝日の遮られたテントの幕の方に音を立てないように向かう。

 

こうやって周りにも無意識に配慮していくのはボッチの修練進化の結果だ。親父が仕事に出る前に小町を愛でようとして起き抜けの小町にドタバタ五月蝿い!って言われて泣きそうな表情で仕事に行った所を見てしまったからでは決してない。急いでいたならとっとと行った方が良いのに行かなかった親父も悪いが少し不憫には思った。

 

そうしてテントの幕口を挙げると遮られていた朝日の光が直接視界に入り、一瞬眼を細めてテントの中から出る。やはりテントの中とは違うが暑いのは変わらんな…

 

そう蒸し暑い外気にげんなりしながら腕に巻かれた時計に目を向けた。時刻は午前六時。クラスの奴もまだ疎らにしか起きていないようで数人程度しかいない。しかも目に見える範囲では男子しかいない。

 

まぁ、慣れない無人島生活の初日に疲労が溜まるのは当然か……体力お化けの須藤もいびきを掻いて寝てるし。両隣の奴は災難だな。

 

昨日の夜に椎名との少しの交流した後にはテントへ戻った時刻は午後九時半辺りで、その時にはもう焚き火が消えていて外にいる奴は俺以外の全員テントの中だった。

 

硬い地面で寝た影響で固まった身体を解しながら顔を洗おうと川に向かった時、背後から声が聞こえた。

 

「あっ、比企谷君っ。おはよっ!」

 

この猫撫であざとボイスは…と聞こえた瞬間誰だか嫌でも分かってしまうこの学校で俺がなるべく会いたくないランキング二位の声の主。起きてたのかよ此奴…寝てると思ってたわ。ちなみに一位は鬼龍院先輩。二位タイは坂柳な。

 

「……櫛田か」

 

振り返ればいつもの強化外骨格の顔でニコニコと笑いながら近付いてくる。毎回思うんだけど表情筋攣らないのん?

 

「朝早いね比企谷君。もしかして顔洗いに行くの?」

 

「……ああ」

 

なるべく話したくないので、言葉少なく返す。二人きりだと男子の妬みが凄いし、最近では女子にもあることないこと広がってるようだし。まじで周り怖い。後此奴自体も怖い。

 

「私も一緒に行くよっ。ついさっき起きたからね」

 

此奴、一緒に行っていい?って訊かずに決定事項で言いやがった。聞かれたら無理って言うのを予知して先回りすんの止めてくれません?否定出来ないんだけど。

 

「……んじゃ先に行って来い」

 

「?……比企谷君も一緒に行こ?」

 

俺の言葉に櫛田が付いてくるよう促してくる。何でだよ…目立ちたいの?何でわざわざ自分から問題の火種になりに行くの?噂されて俺に妬みとか悪意が来そうだから嫌なんだけど。

 

もしかしてそれが狙い…でも無いよな?不安なんだが…そんな事を思いながら櫛田を警戒しつつも寝起きの顔を洗ってすっきりしたいのも事実なのでいざこざを起こして悪目立ちするよりマシかと諦めて川の方に行く事にした。

 

そして川へ櫛田を伴って歩いていると、櫛田がおもむろに口を開く。

 

「そう言えば昨日はみーちゃんの事、ありがとうね。比企谷君のお陰で大事にならなかったから良かったよ」

 

みーちゃん……ああ、ツインテ女子か。わざわざありがとうって言われることもやって無いのだが…

 

「ありがとうって言われる程じゃねえよ。俺がやったのは事情を確認したぐらいだ。後は松下達に任せてたしな」

 

本当に俺がやった事といえば上着を脱がせて横にさせる程度の事。その程度なら俺以外の誰でも良いし、女子の生理の事なんて妹の対応ぐらいしか無いし、雀の涙だ。しかも生理の痛みは個人差だし。俺の行動で楽になったとか分からんしな。

 

「それでも、だよ。比企谷君の迅速で的確な対応でクラスの全体の問題に発展はしなかったし、みーちゃんにも心の負担を最低限に出来たんだもの。みーちゃんもお礼を言いたがってたぐらい」

 

櫛田の言葉に何処かむず痒い心地になる。大事になって依頼の遂行が困難になるのを防いで尚且つ俺の仕事が増えないようにするぐらいの面持ちでやったからな…俺にとっての効率を取っただけなんだが。

 

「……まぁ、俺がやった事で悪化してないなら良いけども」

 

「うんっ」

 

櫛田の笑顔での頷きに何とも言えない気持ちになった。此奴が人のことで礼を言うと俺には裏がある様に勘繰ってしまいそうになる。ぼっち特有の悪癖の自意識過剰だったらまだ良いんだがな……

 

そんなことを考えながらも川へ着いて、顔を洗う。ふぅ…暑いから丁度良くすっきりするな。顔を濡らして日照りによる熱を冷やしていると横にいる櫛田が俺の顔を見つめていることに気づく。

 

「……な、何だ?」

 

「……ううん、改めて見ると比企谷君って意外と顔の造りは整ってるんだなって。眼が台無しにしちゃってるけどっ」

 

「ねえ、最後の一言を付け加える必要ある?そんな強烈かよ俺の眼は…」

 

明らかに要らないよな。や、事実は事実だけどさ。改めて美少女に言われるとダメージが酷い。そう内心突っ込んでいると櫛田が話題を変える。

 

「……ねえ、比企谷君はDクラスの事はどう思ってる?」

 

「あん?何だよ急に」

 

急にクラスの事を聞かれても困るんだけど。つーかどう聞いているつもりなのかが分からん。俺がぼっちってこと知ってるよね?ぼっちに答え聞いてもどうでも良いしか言えねえぞ。

 

「ほら、今のクラスの良いところとか修正して欲しいところとか、他のクラスと対決する場合の長所とか短所を比企谷君なら鋭く気づいてそうだから。弱点を補強することができたら上のクラスに進めるかもしれないし」

 

……弱点ねぇ。ぶっちゃけ今の時点のDクラスが勝てる要素って無いからなぁ。結束力はBクラスに劣るし、リーダーの統率力もA、Cクラスの足元にも届いてないし。そもそも総合のポテンシャル的にこのクラスが最も弱い。そもそもで内輪の擦り合わせすら難しい状態で外野から突っつかれたら目も当てられない。内輪にも問題は山積みだし。

 

「……地道に基礎を固めていくしかねえだろ。基礎もどのクラスよりも無いんだし、短所なら幾らでも言えるが言ったところで直ぐに解決出来る訳じゃねえしな」

 

クラスの弱い所を幾ら言っても直ぐに解決するならDクラスの評価はもう少し高かった筈だ。内輪揉めなら勝手にやってろと思うが強制的にこっちも巻き込まれるのは納得はいかん。基礎固めが出来てないクラスの良し悪しなど言うだけ無駄だ。やるなら基礎固めが出来てきてからだ。このクラスにとって目下の最優先の課題は集団にとって必要な要素を固めていくこと。基礎が出来て初めて応用を利かせられるのは何でも同じだ。

 

「……そっか。じゃあ、比企谷君はこのクラスは嫌い?」

 

そう再び聞いてきた櫛田の表情は笑顔だが、何処か妙な真剣味がある。何故そこまで聞いてくるのかはわからないが、俺が言えることは一つ。

 

「別に好きでも嫌いでも無い。ぼっちの俺がそんなクラス全体に思い入れはないし、試験関係無く平穏無事に過ごして卒業出来れば良い」

 

「…………そう、なんだ」

 

少し間がある返事をした櫛田は俯いて表情が一瞬見えなかったが、直ぐに強化外骨格の表情で続ける。

 

「じゃあ私のことは嫌い?」

 

「別に……って、おい、クラスの事についてじゃないだろ」

 

やっべえ…思わず返事するところだった。変な悪戯を仕込んでまで俺を弄りたいか。弄るなら池とか山内とかウェイウェイ系男子にしてくれよ。そう突っ込み入れれば横に居た櫛田は呆れていた。

 

「其処は迷わず好きって言えないのも比企谷君だよね…」

 

「……逆に迷わず好きって言える俺を想像出来るか?」

 

「うん、出来ない。池君と山内君だったら想像出来るけどね」

 

何と無く池達に対しての毒を含んでるよね?そして絶対心の中で引いてる。彼奴らは人一倍に欲というか彼女作りに餓えてるしな。あの性格を少しでも控えるだけでも見る目も若干変わると思うぞ。モテるとは限らないが。

 

それに俺にはそんな上っ面の中身のない関係が良いのかわからんがな。

 

そして川で顔を洗い終えて、何故か着いてくる櫛田については最早諦めて、拠点のテントのある方にまで戻ると、若干生徒達が起床してきたようで少し外にいる生徒の数が増えている。

 

するとこっちに眼が合い、近づいてくる女子生徒、松下に櫛田が変わらず笑顔で声をかけた。

 

「おはよっ!松下さん、昨日の疲れは如何?」

 

「おはよう櫛田さん。うん、疲れは大分とマシになったよ。心配ありがとう。それよりも比企谷君も一緒なのは珍しいね。何か話してたの?」

 

そう俺の顔を見つつ神妙な表情で訊く松下。語調は何時もの感じだけど眼がちょっと笑ってないように見えるのは気の所為だよな?別に変なことはしてないよ?此奴にそんな真似する勇気ねえし。むしろ此奴から絡んできて弄ってくるからタチが悪い。

 

「クラスの事を話してただけだから松下さんが不安になる事ではないと思うよ?」

 

「…不安っていう訳じゃないんだけどね。櫛田さんがそう言うなら聞かないよ」

 

笑顔の櫛田の言葉にそう笑顔で返す松下。どっちも笑顔なのに空気が寒々しい上に重いんだけど。怖い、まじ怖い。船でもこんな雰囲気になってたな。此奴等って相性悪いのか?

 

そして雰囲気を戻して、またねと櫛田は手を振って他の生徒達の方へ行ったのを見送り、松下が口を開く。

 

「……で、櫛田さんと一緒にいるって珍しいけど何かあった?」

 

「いや、別に何も無いが。顔を洗いに行くついでに櫛田が着いて来てクラスの事でちょっと会話しただけだ」

 

松下の若干の険しい語調を気にしないようにしつつ、さっき話した事を言えば、スッと松下の眼がジトッと効果音が聴こえそうな様子になった。

 

「……本当に?嘘って感じはしないけどまだ何かあるでしょ。比企谷君って変に重要なことを誤魔化すし」

 

「別に何も無えよ……さっき言ったことだけだっつーの。何、俺ってそんな信用無いの?」

 

変な疑いにそう突っ込むと松下は頷く。えー…別に誤魔化してる訳でも隠すつもりがあるわけじゃないんだが。むしろ素直で開放的で空気と同化しているまである。

 

「……クラスが好きか嫌いかを聞かれて、冗談で彼奴の好き嫌いまで言わされそうになっただけだよ」

 

「……ふーん。……櫛田さんがね」

 

松下が真剣そうな表情になり、生徒達の方へ行って雑談している櫛田の方へ顔を向ける。強化外骨格の中身を知ったとはいえ(今は知るべきじゃなかったなと思っているが)それでも櫛田の真意を測れない。自己承認欲求こそが櫛田桔梗という少女の本質であると思っていたが、時折わからない行動をする。

 

……と、いうがこれは俺の勝手な想像に過ぎない。何処まで行っても人の心中なんて考えても分からないし、思い込みや期待で裏切られることなどザラだ。要するに櫛田桔梗という少女は俺にとって苦手だということだ。

 

「……ま、今は良いか。そろそろ点呼の時間も近づいてきたし、私は寝ている人達を起こしてくるね」

 

「おう」

 

松下の言葉に適当に反応して松下が女子テントの方へ向かって行った。そして時刻を確認すると七時過ぎ。さて、今日は働かないように過ごすぞ。

 

点呼の時間となるまでダラダラ日陰で休む。そして茶柱先生が来て点呼を取る。そして生徒達がある事に気づき始める。それを点呼を取り終えた先生が報告した。

 

「まずお前達の何人かは既に気づいているだろうが、高円寺は昨日体調を崩したと報告しにきて、船で療養している」

 

『……は、はあああぁっ!!?』

 

その呆気無い程に淡々とした口調で重要な伝達をしたお陰でクラス中から驚嘆の声が挙がる。いや、彼奴めっちゃ動いてたんだけど。何の為の多機能腕時計なんだよ。仮病でももうちょいそれらしく見えるぞ。

 

「あの野郎!」

 

「ちょっと待って、って事は30ptが消えたってこと!?」

 

その報告の後に先生が居なくなり、生徒達は次々に高円寺への悪態を吐き始める。ほんとに災害みたいな奴だな……彼程自分勝手で気紛れな奴は中学にも居ない。つーか彼処まで行けば最早、一般常識は通用しないと思った方がいいな。

 

生徒達も慣れない環境と体力を磨り減っていく気温や試験へのプレッシャーにストレスはかなり溜まっているようで平田や櫛田など一早く落ち着いた生徒が宥めるまで悪態は続いた。あのTPOを省みない程の自己を貫く姿勢は関心もするが、後始末はちゃんとしやがれ。つーか俺も船に帰りたい。

 

そう内心高円寺を恨みつつ、平田が高円寺君の事は仕方ない。僕達で試験をどう乗り切るかを決めていこうと言えば、他の生徒もこの場に居ない生徒に文句を言ってもどうしようもないと思ったのか、不満が残るも今後の試験の議題に切り替わっていく。

 

その様子を端の木にもたれかかりながら見つつ、今後の展開に思い馳せていると役割を決め終えた様だ。すると松下と長谷部と三宅がこっちに近づいてくることに気付いた。

 

「比企谷君、昨日のスポット探索の事で長谷部さん達と話したんだけど、長谷部さん達が向かった浜辺の方には案の定Cクラスが拠点にしてたらしいわ」

 

「…そうか」

 

松下の言葉に頷く。やはりというか昨日に椎名と会った時点で察していた。

 

椎名と邂逅した夜、クラスの事は聞かなかったが浜辺の方面から来たとは聞いた。しばらくじっとその場に留まっていたが、椎名がうとうとし始めた時に戻った。正直二人きりで人が見えない暗さの夜の時間であの場にあれより長く居れば、俺の心臓が保たなかった。

 

クラスに戻る時の椎名の表情がとても残念そうに見えたのは自意識過剰という事にしたが、うん。凄い罪悪感だった。

 

「とりあえず私達も確認しに行く?」

 

松下の問いに俺は少しだけ思考しつつ、呟く。

 

「……まあ、他の仕事を押し付けられるよりは良いか」

 

やる事もちゃっちゃと仕込んで休む時間を増やしたいし、あのインテリヤンキーの策はちゃんと確認しておかないと依頼がスムーズにいかねえからな。そう思いながら松下の言葉に頷く。

 

「じゃあ俺達は他のスポットの探索とついでに食糧も探しに行くわ」

 

「ヒッキーと話す時間を取れると思ったんだけど……昨日は拠点でヒッキーが見つからなかったし」

 

三宅の言葉に何処か不満気に長谷部は呟く。昨日は拠点の端の方に居たが、だとしても拠点で探しても見つからない俺影薄過ぎじゃね。つーかヒッキーは止めろっつーの。

 

そんなこんなで長谷部達と別れて拠点を松下を伴って出ようとしたその時、後ろから声を掛けられた。

 

「………比企谷君に松下さん、貴方達も探索かしら?」

 

その声に振り向けば、俺達と同様に拠点から出ようとしている堀北と綾小路の姿が。堀北の格好は相変わらずジャージで前を閉めている。

 

「そういう堀北さんも探索っぽいけど…もしかして他のクラスの偵察?」

 

「ええ、そうよ。直ぐに検討がついたという事は貴方達も目的は同じようね」

 

松下の言葉に対して堀北は頷く。体力使う事を自分からしようって真面目だな。そして如何やら堀北達は先ずBクラスに行ってからCクラスに行くらしい。Bクラスね……和気藹々としてんだろうなぁ。

 

ある程度話した後に堀北達とも別れ、今度こそCクラスのスポットのある浜辺に向かう。その道中、松下が口を開く。

 

「……Cクラスの後にBクラスの方も探索しに行く?」

 

「……いや、堀北達が行くんだし、別に良いだろ」

 

堀北と綾小路で充分だ。Bクラスも一応同盟関係だし目に見える攻撃をしてDクラスの恨みを買うメリットも無い。

 

そう言いながらしばらく歩いていると、徐々に音というか、人のざわめきが聞こえてきた。何だ……?悲鳴じゃない。何方かと言えば歓声だろうか。松下も前から聞こえてくる声に怪訝そうな表情になる。

 

「何、このテンションの高い感じがする声…長谷部さん達は静かだったって言ってたけど」

 

「……行ってみれば分かるだろ」

 

そう言ってその声が聞こえる方向に進んで視界が開ける。すると、その浜辺の様子に俺達は驚く。陽射しの中、Cクラスの生徒達がワイワイと騒ぎ、海に入り泳いだり、砂浜ではビーチバレー、その外にはパラソルが刺さっており、バーベキューで肉や野菜などの食材を焼いて食べていたり、食材や飲料水などが入ったクーラーボックスが置いてあって、果てには水上バイクを乗り回した生徒の姿が見える。

 

「……これって、一体」

 

「………」

 

呆然として呟く松下の横で同じく驚きつつ、俺はDクラスなどでは考えられない状況を作ったであろう人物の方に視線を向けるとその人物と眼があった。何でこんな早く眼が合っちゃうのん?腐女子は喜びそうだから嫌なんだが。

 

「よぉ、腐り目に千秋。こんな場所までデートか?」

 

声を掛けながらパラソルが建てられてその中で飲み物と機械が置かれたテーブルの真横にある椅子から立ち上がって近づいてきたのはCクラスのリーダーの龍園。服装はジャージではなく、海パンのみ。割れた腹筋はますますヤンキー感を感じさせる。

 

「……デートじゃねえつーの。つーか予想はしてたが、この試験で此れ程の光景を見ることになるとは思わなかったぞ」

 

「ハッ、この程度の試験なんざ、俺が真面目にやると思ってんならそっちの馬鹿どもぐらいだ」

 

「……この様子じゃptを全部使い切ったってことで合ってそうだね」

 

「俺は嫌いな言葉は努力と我慢だ。わざわざ使えるモノを我慢して得るもんは大した量も無いptなら、使い切った方がいいと判断したまでだ」

 

そう吐き捨てるように嗤いながら言う龍園は続ける。

 

「遊んで行くなら歓迎してやるぜ?比企谷には丁度良い相手が居るから相手にしてやれよ。おい、ひより!」

 

龍園は俺に言いつつ、椎名の名前を呼んだ。するとある程度離れた砂浜の方に女子生徒の一人と話していたその声に反応してこっちを向いた椎名と眼が合った。ついでに他の生徒も注目してくる。

 

そして話していた女子生徒に何事かを言った後、走り寄ってきた。

 

「八幡君!それと松下さんも。此方に来て下さったんですね!」

 

「おぉ…テンション高いな。息切れしてるから落ち着け?」

 

「おはよう、椎名さん。少しの間、お邪魔するね」

 

そう俺と松下が言えば椎名さんは嬉しそうに微笑む。それをニヤニヤ見つめる龍園とざわつくCクラスの生徒達。居心地が……つーか龍園は笑うな。そして男子生徒が龍園に慌てた様子で話しかける。

 

「龍園さん、良いんすか!?此奴らはDクラスっすよ!?」

 

その男子生徒には見覚えがあった。須藤の暴力事件で訴えてきた、えーと石、石川?だっけ。が物申すが、龍園は獰猛な笑みを崩し、石脇を睨む。

 

「あ?解ってることを一々喚くんじゃねえよ石崎。此奴等に負けたテメエがモノ言ってんじゃねえ。それよりキンキンのコーラを持って来い」

 

そう言われると石山は怯えた様子で青ざめ、焦ってす、すみません。と頭を下げてクーラーボックスの置いてある場所に向かう。うっわぁ……恐怖政治国家の独裁者と奴隷国民みたいだな。これを見るとCクラスは別の意味でDクラスよりひでぇな。Dクラスで良かったわマジ。俺が石谷だったら胃に穴が空くまである。

 

よく小町にごみぃちゃんと称される俺でさえドン引きの光景を見せた張本人はまるで奴隷扱いの石上に見向きもせず、向き直ると悪辣な笑みを浮かべて言う。

 

「おっと、千秋も飲むか?此処で遊んでくれても良いんだぜ?」

 

「遠慮するよ」

 

「ツレねえ女だ。ククッ、何なら俺が相手になってやっても良いがな。お前みたいな女程鳴かせることに価値があるからなぁ」

 

「……」

 

嗤う龍園の言葉の意味を理解しているのか、松下は今にも凍りつきそうな程に冷ややかな眼で龍園を見る。怖えぇっ……人の神経を逆撫でることに対して龍園は天才だな。松下に、つーか女子に対してアウトだろうよ。それを聞いて椎名も眉をひそめる。

 

「口が過ぎますよ。何時もそうですが、貴方はタチが悪過ぎるのです」

 

「ハッ、腐り目にお熱なお前に言われたかねえな。ひより」

 

椎名の窘めにも龍園は平然と受け流す。殺伐とした空気にもう一刻も早くこの場を去りたくなってきている。もうね、この空間に居たら胃が痛いの何の。俺は思わず遠い眼になっていると不意に女子生徒が近づいてきて口を開いた。

 

「……あんたが比企谷八幡って奴?」

 

「お、おう……」

 

「伊吹さん」

 

そう椎名に呼ばれ、話しかけた女子生徒はショートボブの青みがかった黒髪に体操着越しの細身な身体付きをした目付きの鋭い美少女。雰囲気からして敵愾心が滲み出てる。何、Cクラスってこういう血の気の多そうな奴が集まってんの?

 

体幹が鍛えられていることと場慣れ感がある事が特徴的な伊吹と呼ばれた少女は睨みながら品定めの如く心地悪い視線を向けて言った。

 

「……軟弱そうだな。椎名が言ってたから見てみたけど、拍子抜けよ」

 

えー、いきなり拍子抜けられたんだけど。喧嘩売ってんのか。勝手な言い分にイラっとすると龍園がニヤニヤしながら伊吹に言う。

 

「拍子抜けとは言うが、伊吹よぉ。テメエじゃ此奴には勝てねーだろうよ」

 

「うっさい。あんたは口挟むな。こんなのさっさと捩じ伏せればいい」

 

ねえ、今こんなのって言われた?初対面の奴に言われたの初めてなんだけど。親父でも形容は未だ緩いぞ。それと椎名と松下よ。同情的な眼を向けないで!余計刺さるから!

 

「[[rb:一対一> サシ]]の[[rb:喧嘩> やり合い]]なら未だしも頭の勝負ならAクラスの女王様とトントンかそれ以上の此奴にテメエが勝てるんだったらAクラス行きも楽だったがな」

 

龍園の言葉を聞いて伊吹は一瞬目を見開く。此奴の中で俺の警戒評価高くね?俺は特に何もやってねえしこれからもやる気無いよ?が、伊吹がその評価に納得していないとみた龍園は俺を見てニヤニヤしながら聞いてきた。

 

「おい、腐り目。今回の試験でAクラスのリーダーが誰かか言ってみろ」

 

えー……面倒な。まあでも手間が省けたからいいか。溜息をつくと松下が視線で俺に言っても良いのかと問うので、頷き返すと声を抑え気味にして俺は答える。

 

「……戸塚」

 

その答えに椎名も伊吹も驚きの表情を浮かべているが、ただ一人、龍園は嗤いながら言う。

 

「クハハッ!ヤキがまわってんな彼奴等も。こんなに早くタネ明かしされるのは余程の間抜けでも少ねえぞ」

 

「……知ってんのか。いや、わざわざ自分から聞くってことは龍園…お前、手を組んだな?」

 

急に脈絡も無くAクラスの事に話題を振るということはそういうことだろう。俺がそう言えば、龍園は獰猛な笑みを深める。

 

「ククク……相変わらずの洞察力をしてやがる。俺と同じクラスだったら良い[[rb:駒> 部下]]になっただろうになぁ。潰すのが惜しいぜ」

 

此奴の部下(奴隷)とか絶対に御免なんだが。つーかそもそもでこんな血の気の多いCクラスに人畜無害で平和主義のボッチの俺が合うわけねえ。絶対パシられて金という名のpptを恐喝されるのが眼に浮かぶ。だからね、椎名さん、そんな名案が浮かんだような輝いた目でこっちを見ないで?後松下さん?さりげなく足を踏まないで。わりと痛い。

 

「……お前の部下だけは絶対やらねえだろうよ」

 

「ああ、そうだろうな。テメエは部下じゃなくて敵の方が丁度良い。同じクラスに同じ"[[rb:王> コマ]]"は要らねえ」

 

そう言って、龍園は踵を返そうとして、思い出したように足を止めて振り返るとニヤケながら言った。

 

「改めて言うが、此処で遊ぶなら歓迎するぜ?何なら人気のない場所にテントを張ってやってもいいし、それでひよりと千秋と大人の[[rb:階段を登る> あそび]]なり好きにしろ。だが避妊はしとけよ?」

 

「黙ってとっとと何処か行け。とっとと(地獄に)逝け」

 

龍園の悪ふざけに(笑う気もないが)睨んで即一蹴するも龍園は平然とパラソルチェアの方へ歩いて行く。心臓に悪い……やっぱり彼奴嫌いだわ。龍園の遺した笑えない冗談に顔を赤く染める少女二名と龍園を睨む少女一名の中で俺は溜息をついた。すると伊吹が俺に言う。

 

「……やっぱり彼奴は屑ね。比企谷、あんたも真に受けんじゃないわよ」

 

「……受けねえよ。……はぁ」

 

俺も某アニメの学校の日の屑男子生徒みたいな終わりは御免だっつーの。アレ最終回は放送禁止になったからなぁ……うん。もうこの話題は止めよう。悪寒がしそうだ。

 

「……んで、あんた達はどうすんの?」

 

伊吹の言葉に答えるか、一瞬迷ったが、まあ支障はないし良いか。

 

「……とりあえず、疲れたからクラスに戻る」

 

「……そうだね」

 

「……すみません。龍園君が」

 

俺と同様に疲れた表情(頰が未だ紅潮しているが)松下が頷き、椎名が(以下略)申し訳なさそうに謝るので、別に椎名は悪くねえよと苦笑して松下と共に元来た道に踵を返す。それを見て微笑んで見送る椎名に伊吹が聞いた。

 

「……椎名、あんた、良いの?そんなあっさり見送っちゃって」

 

「ええ、後ろ髪が引かれますが、我儘で長居させて八幡君がDクラスの生徒の方々から責められることは本意じゃありませんから。それに昨日の夜に満足させて頂きましたから」

 

『!!?』

 

椎名の発言に空気が凍った。思わず足を止めてしまい、主に俺の隣から冷気が漂ってくる。ちょっと椎名さん?天然過ぎじゃありません?さっきの会話の直後だし、もうちょい語弊が無い言葉を選んで欲しいっす。せめて昨日の夜に(浜辺で話が出来て)満足とかにして!

 

「………ひきがやくん?」

 

「なななななんでしょうきゃ?」

 

極寒地の底から響くような低い声に即座に聞き返すが、その声の主の方には怖過ぎて顔を向けられない。

 

「……"今"の立場的に私に聞く資格はないけれど、ここではちょっとそういうのはわらえないよ?あとでちょっとオハナシしようか」

 

「いやちょっと松下、お前何か勘違いして「ん?」……ハイ」

 

慌てて言葉を出すが、たった一言で黙らせられた。そして松下に腕を掴まれて引き摺られるようにCクラスのスポットを後にした。ちょっと松下さん、腕がミシミシ言ってるんで離してくれませんか。逃げないから!八幡の腕が鬱血しちゃうううう!!

 

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