ようこそ俺の実力至上主義のまちがった青春がある教室へ 作:ゆっくりblue1
その翌日、俺は普通に授業を受けて、昼休みを過ごしている。pptが枯渇しているクラスメイトが嘆いているが、俺には特に関係無いと思って購買に行こうとする。しかし教室を出て廊下を出たところである生徒に呼び止められた。
「少し待ってくれないか?比企谷」
「はぁ…何の用だ?綾小路」
俺を呼び止めたのは綾小路だった。相変わらず感情が全く読めない顔で不気味だ。俺は何と無く嫌な予感を感じつつ、要件を問う。すると綾小路は話し始める。
「奢るから少し頼まれてくれないか?」
「断る」
絶対ろくなことじゃねえ……奢って確実に何かを手伝わせる気だろう。つっても此奴が自分から行動を起こしているとは思えない。cptの発表から中間テストに向けて平田を含めた一部の成績上位陣が勉強会を開催しようとしているのを耳にしている。例外は自由人の高円寺が参加していない。その中に別口で堀北が赤点候補者を救済させる勉強会を開催する為に腰巾着ポジの綾小路が動いてるって感じか?
そこまで思考して綾小路に言った。
「堀北に頼まれたって感じか?」
その言葉に綾小路は僅かに驚いた様な反応を見せた。何気に此奴が表情を動かすところは初めて見たな。そして俺の問いに頷くと言った。
「あぁ、堀北の指示でな。とりあえず要件を聞いてくれないか?」
その言葉に俺は小さく溜息を吐きながら話しを促すと綾小路は話し始める。
要件は1つ、今日から行われる堀北の勉強会の講師側になってくれないかという依頼。赤点候補者の筆頭である須藤、池、山内を教えるのに堀北だけでは対応しきれないから。ということらしい。俺はその依頼に違和感を感じたが、ある事を思い付いたので条件次第では助けになると言った。
「講師代を払ってくれるならやっても良いぞ?」
「……そうか、分かった。堀北に相談しておく」
綾小路は少し考えた後にそう答えると俺の前から去って行った。
そして放課後になって少しすると、廊下から綾小路が来て聞いてきた。堀北と件の3人、そして何故か櫛田の姿が見えなかった。ちなみに松下は友達と一緒に平田達が開いている勉強会に参加している。
「講師代はいくらだ?堀北のpptを預かってきたが……」
「じゃあ……一時間3000ptで良いぞ」
そう言うと綾小路は学生証を出して3000ptを払ってきたので契約が成立した。そして俺達は勉強会が行われる図書室に向かった。当然、向かう途中での俺達の間に会話は無い。
図書室に行くとやはりテスト対策週間ということで図書室を利用する生徒達は割と多くて混雑している。綾小路の案内で堀北達がいる席までに行く。すると堀北と須藤達、そして何故か櫛田と女子生徒?がいた。堀北は綾小路と俺の姿を捉えると驚いた様子を見せた後、綾小路を睨むと言った。
「何故、比企谷君を連れて来ているのかしら?綾小路君」
「この勉強会に必要な人材だと思ったからだ。比企谷は講師として手伝いをしてくれる」
おいおい、話しが違うぞ。どうやら綾小路は堀北に頼まれた訳ではなく、独断で連れて来たようだ。しかし何と無くそんな予感がしていた。今まで1人で行動して問題を解決する考え方の人間がそう簡単には人を頼る様な事は出来ない。第一、職員室に呼び出された時に俺の事を利用すんなって言ったしな。
堀北の様子からして、職員室で俺がアドバイスした事は実行されてはいる。俺は心中で溜息を吐きつつ堀北に聞いた。
「……とりあえず、来ちまったし。誰が講師側でどの教科を教えているのか言ってくれ」
そう聞くと綾小路を睨んでいた堀北だが、諦める様に静かに小さな溜息を吐くと、こう言った。
「……私と櫛田さんが講師側で、私は全教科を対応するつもりだけれど。櫛田さんは知らないわ。とりあえず今は須藤君達の基礎学力を見るための確認テストをしているわ。あの3人の学力次第で教え方も変わってくるから」
堀北はそう言って、丁度確認テストを終えたのを見てテストの結果を見て顔を僅かに顰めていた。大凡著しくない結果だったのだろう。まぁ堀北も最初からその結果を予想していたのか、こっちを向いて、貴方の教えられる教科は?と聞いてきたので、国語。と答えると、では沖谷君の教えてあげてと指示を出してきたので、俺は沖谷って誰?と思ったが、堀北の言葉が聞こえたのか男の娘の生徒が手を挙げた。
え、彼奴って男子?マジで?あの可愛らしい顔で男子とか、神は残酷だな。俺は驚きつつも沖谷の所に行って短く挨拶を交わして沖谷の苦手な部分を浮き彫りにさせて、教え初めた。堀北は櫛田と共に須藤達三馬鹿達を教え始める。綾小路も一緒に教えを受ける姿勢を見せているが綾小路は要らねえだろと内心突っ込みを入れた。
そして30分後にそれは起こった。俺は沖谷が苦手とする箇所を要点を整理しながら教えていると、堀北の声が聞こえた。
「余りに無知ね、中学校の方程式も解けないだなんて。如何やってこの学校に入学出来たのかしら?」
「ああ!?」
堀北の毒舌と鞭しかない指導に元々やる気の無かった須藤はついにキレて、堀北の襟首を掴んだ。その行為を櫛田が慌てて止めに入る。
「落ち着いて!須藤君」
しかし沸点の低い須藤がその言葉に素直に従える筈も無く、櫛田の声は届かない。そして須藤の様子に怯える事もなく、冷ややかな目で堀北は須藤を見て言った。
「貴方のその直ぐに暴力に訴える所、私には通用しないから。勉強も我慢も出来ない、そしてなによりやる気も無い。小学生でももうちょっとはマシよ」
「貴方はバスケットボール選手に成りたいと言っていたけれど、それで大成するのはほんの一握りだけ。それで暮らしていけるレベルだとは到底思えない。貴方の短気な所を見て、辞めてしまった方が賢明だと思うのだけれど」
「!テメェ!!」
勉強をする姿勢だけでなく、須藤の夢まで否定してしまった堀北に須藤はついには殴ろうとする。櫛田の悲鳴じみた制止の声と綾小路の制止の声が重なった。襟首を殴りかかる拍子に力を一瞬緩めた須藤の手から逃れて須藤の迫り来る拳を軽く避ける堀北。
避けられた事に更に腹を立てた須藤を綾小路と櫛田が宥めると、須藤は最早勉強をする気もなく堀北に悪態を吐いて乱暴にノートと筆記用具を鞄に入れて、そのまま退室して行った。そしてその様子を見て池や山内も堀北に対して文句を言って退室していく。
その場に残った沖谷も気まずそうな顔をしているので、今日はもう帰った方が良いぞ。と俺は言うと沖谷は申し訳無さそうな顔でノートと教科書を筆記用具をしまい、俺に頭を下げて、堀北達にも挨拶をすると去って行った。
そして残ったのは櫛田と綾小路と堀北、俺のみになってしまった。櫛田は堀北に向き直ると悲しそうな表情で訴える。
「堀北さん……そんな言い方じゃあ誰も付いてきてくれないよ」
「……それで困るのは彼らなのだから、これが彼ら自身の選択よ。私のとやかく言うことではないわ。それにやる気もない人達に教える程、私は器用ではないの」
櫛田の訴えにも堀北は突き放す発言をする。俺が職員室でアドバイスしたことを全く理解出来てないな此奴……思わず呆れて冷ややかな視線を向ける。
「とりあえず私、須藤君達の事を見てくるね……」
そう言って櫛田も須藤達を追って行った。そして俺は思いっきり溜息を吐いた。それに対して堀北が睨みつけてきたが気にせずに教えるために出した教科書と筆記用具をしまった後に堀北を見て言った。
「……Aクラスに行きたいんじゃなかったのか?」
「…そうよ。でも彼らを切った方が良いと思ってるわ。彼らは足手まといよ」
「だから、退学者が出た時点でAクラスに上がれない可能性もあるって前に言ったよな」
その言葉に返す言葉も無いのか、悔しそうに唇を噛んだ堀北に続ける。
「3人はやる気なくて須藤は特に短気だろうがな、お前の勉強会に理由が何であれ参加して"くれた"んだから彼奴等に根気強く向き合うことや如何にやる気を出させるかが堀北のやるべきことだ。彼奴等の能力、特に須藤の身体能力はかなり重宝すると思ってる」
俺の指摘に堀北は悔しそうな表情そのままで、拗ねたように口を開いた。
「……私のやり方は間違っているということなの?自分の事は自分で、当たり前のことだと思うのだけれど?」
「……別に間違っているだなんて言えるほど、堀北の事は知らないが、少なくともこの中間試験においては悪手だろうよ」
堀北の考え方は嫌いではない。寧ろ同じぼっちとしては賛同出来る。しかしその考え方はこの学校には通用しないだろう。クラス単位で順位が変動するのだから。中間テストが終わった後にもクラス単位の試験があっても可笑しくない。
「とりあえず今回はもう無理だ。頭を冷やして次、如何していくか良く考えろよ」
そう言い終えると、堀北から視線を逸らすと綾小路が頭を下げたので、俺も頭を下げて鞄を肩にかけてこの場から離れる。
何で俺がアドバイスしてんだ?綾小路にさせれば良かったな。彼奴は分かっているだろうし。1時間3000ptで30分しかやってないのに受け取ったが綾小路は指摘しなかったし、良いか。
そうして俺は図書室を出るか、このまま此処で復習するかを考えて周りを見渡す。図書室は先ほどより空いているし、喋り声も余り聞こえない。そして寮に帰って復習するのも面倒に思ったので、踵を返して先ほどの場所とは別の場所に行く。何故って?気不味いからに決まってんだろ。
人がいない席に座って鞄を隣の席に置き、鞄から教科書を出す。出したのは数学の教科書だ。此処が普通の高校だったら数学は捨てているのだが、赤点を取ったら退学だと言われた以上はしっかり復習しなければならない。苦手な教科だが、受験の時に死ぬ気でやって身に付けた知識と、学校の仕組み上しっかり授業を受けていたおかげで基本の問題は解ける。
しかし、応用だと解けない所も出てきて手が止まる。思わず溜息を吐きながら今日はこのぐらいにして違う教科を復習するか考えていると、不意に背後から声が掛かった。
「鞄を退けてくれるかしら?」
その言葉に驚き、振り向くとそこには前日に階段の所ですれ違った女子生徒が手に医学と薬学の専門書を抱えて立っていた。ふと周りを見て席が埋まっていたので、俺は鞄を自席の下に置き、席を一人分空けて席を譲るとその女子生徒は僅かに会釈してその席に座った。すると女子生徒を見て、気付いた。
眼の色が昨日はオッドアイで別々だったのが、今日は両方とも深海の底の色だった。見間違いか?思わず気になって女子生徒を見ているとその視線に女子生徒が鋭い流し目で冷たいアルトの声を響かせた。
「何か?」
「ひ、ひぃや、何でもない……」
すぐさま視線を逸らす。怖過ぎて思わず、噛んでしまった。そして数学をしまい、違う教科書を取り出して勉強する。隣の女子生徒もペラペラと専門書の頁をめくる音だけを出した。
しばらくの間、問題を解いては違う教科書を開いて問題を解く。それを繰り返し、ふと時間を確認すると6時を秒針が示していたので周りを見ると、図書室はかなり疎らになっていた。隣に座っていた女子生徒は未だ専門書を読んでいる。
そろそろ飯を食べに帰るか。俺は筆記用具と教科書とノート類をしまって席を立つと女子生徒も丁度専門書を閉じた。そして周りを確認するように見て俺を視界に捉えると、無表情のままで呟いてきた。
「……貴方、まだ居たのね」
「…あ、ああ。勉強の為に」
無表情にビビりつつも一応答えると、女子生徒はそう、と短く如何でも良さそうに言う。そして専門書を鞄にしまって図書室を去って行った。何だったんだ彼奴……帰ろ。そして俺も図書室を出た。
そして寮に向かっていると、丁度反対側に自販機の曲がり角のところに綾小路がいるところを見つけた。そしてその少し奥に薄暗くて見えづらいが堀北ともう1人の男子生徒が何やら言い合っていた。
痴話喧嘩かと思っていたが、会話が聞こえてきたので気になった俺は綾小路の反対側の角の気配を殺しながら潜んでスマホを起動する。
「まさか、この学校にまで追いに来るとはな。つくづく愚かだな」
「兄さん!私、兄さんに追いつく為に此処まで来ました」
「……鈴音、お前にAクラスに行ける程の力があると思っているのか?」
!あの男子生徒は堀北の兄貴か。……堀北がAクラスに拘っているのは兄貴がいるからなのか。堀北兄の冷淡な言葉に堀北は言葉を重ねる。
「絶対に追いついて見せます!」
「……お前はあの時から何も変わっていない。今のお前にはAクラスどころかCクラスにすら上がれん。お前のような妹がいると分かれば俺が恥をかく。そうならない今のうちにこの学校から退学しろ」
……妹に使う言葉じゃないだろ。どれだけ家庭内冷え切ってんだよ。その言葉に堀北がまたも反論すると堀北兄は壁に縫い付けるように堀北の両手を片手で拘束する。……サイレントモードっと。
そして堀北兄が堀北の身体を浮かせる。まさか床に叩きつける気か!?流石に見過ごせないと思ったので俺は音を立てて、注意を向けようとすると綾小路が角から飛び出し、堀北兄の叩きつけようとした腕を掴む。
「アンタ、床に叩きつけようとしただろう。此処の床はコンクリだぞ」
「あ、綾小路君!?」
「……いきなり飛び出して来るとはな」
綾小路の登場に2人は驚く。しかし堀北兄は堀北の拘束を解くことがしなかった。それを見た綾小路が更に言った。
「彼女を離せ」
「それは此方の台詞だ」
「辞めて、綾小路君……」
堀北の弱々しい声を聞いた綾小路は何を思ったのか、堀北兄の手を解放した。その刹那。
恐ろしい程の速度の右裏拳が綾小路の顔面に繰り出される。それを間一髪で上半身を後ろに逸らすことで躱す。しかし追撃に左脚のまたもや顔面を狙った上段蹴りが襲う。
しかし綾小路はそれをも身体を横に逸らして回避する。おいおい、身のこなしが両方ともヤバ過ぎるだろ。武術経験があるのだろう、それもかなりの修羅場を潜っていそうだ。立て続けに避けられた事に堀北兄は僅かに動きを止めた。しかし次の瞬間には綾小路を掴もうと手を伸ばしたが、綾小路はそれを左手の甲で弾く。それを見て堀北兄は感心したような声をあげた。
「全て凌がれるとはな。その動き、何か習っていたのか?」
「……音楽と書道を少し、音楽はピアノコンクールで優勝したことがある」
「……面白い奴だな」
どんな誤魔化し方だよ。少なくとも書道やピアノであんな動きはしねえよ。すると綾小路の眼が此方を向いた気がした。あ、嫌な予感。
「比企谷、出て来い」
「……何?」
綾小路の言葉に堀北兄と堀北の意識が俺の居る方へ向いた。俺が綾小路を見つけたから逆もしかりか。て言うか完全に気配消してたんだがなぁ。俺は諦めてスマホを片手に姿を見せる。すると堀北兄と堀北が目を見開いて驚く。
「…まさか本当に潜んでいたとは、気配を感じ無かったぞ」
「……そりゃあ気配消してたんで。それより……」
俺は距離を保ったままスマホを指し示してニヤリと笑うと言い放つ。これを使わない手は無い。後で言われたがこの時の俺の顔は綾小路も引き気味になる程の気味の悪い顔だったという。
「今の一部始終を録画してたんで、婦女暴行に傷害未遂……これ、提出したらどうなりますかね?」
「…!……何が目的だ?」
堀北兄は俺を鋭く睨みつけた。怖え……眼力強すぎねぇ?しかし俺が有利なのだから引かない。俺は努めて冷静に答える。
「…取り引きしましょう。取り引きに応じてくれたらこの録画は消します」
そう言うと堀北兄は瞑目して、俺の言葉に少し悩む様子を見せてややあって答える。
「……良いだろう。取り引きに応じてやる。条件は何だ?」
「取り敢えず条件は後で、この件は後日書面を通して正式に。今はこの場のケリを着けて下さいよ」
俺が堀北との事を片付ける様に言うと、堀北兄は俺から堀北と綾小路を見据えて言う。
「鈴音、この2人と言い、ユニークな奴が友達としているとはな」
「……この2人は友達ではありません。唯のクラスメイトです」
「……相変わらず、孤高と孤独の意味を履き違えているようだな。Aクラスに上がりたければ死にものぐるいで足掻け」
堀北に言うと、堀北兄は俺の方へ近づいて来る。俺は不意打ちを警戒して間合いに入らないように意識する。堀北兄が口を開いた。
「……それで、条件は一体何だ?」
「その前に……綾小路と堀北、お前らはどうすんだ?」
俺は綾小路と堀北が仕掛けられているところを録画しただけなので被害者は俺ではなく2人だ、なので決定権は2人にある。そう訊くと綾小路が先に言った。
「……比企谷に任せる」
「良いのか?」
「ああ、証拠を撮ったのは比企谷だ。俺としては目立ちたくないからこの件は流すつもりだからな」
綾小路は俺に決定権を委ねた。そして堀北に視線を移すと、俯き気味になって小さく言った。
「……私は、兄さんを訴えるつもりはないです。比企谷君の選択に任せます」
堀北は訴えるつもりもなく、綾小路と同様だった。床に叩きつけられそうだったのにも関わらず、兄貴を庇うのか。兄貴が余程恐れているのか、それとも好きなのか。……まぁ別に良いか、あくまで堀北兄と堀北の関係だ。俺が関わることじゃない。
「では、条件はーーーーー」
その言葉を言うと、堀北兄は少し悩む様子を見せていたが、やがて頷いて言う。
「……良いだろう。その条件を呑もう」
了承が返ってきたのに内心安堵する。そして堀北兄は黙って立ち去って行くので俺もこの場を去ろうと歩き出す。すると堀北が後ろから声をかけてきた。
「まさか生徒会長である兄さんを脅す様な取り引きを持ち掛けるなんて……貴方に恐れというものは無いの…!?」
「…堀北兄って生徒会長だったの?」
これは面倒くさくなってきそうだ。はぁ…、何でこんな濃い面子に関わることになるんだ?堀北は俺が堀北兄のことを知らないことに驚いた様子だった。てか、生徒会長ってそこまで凄いの?唯のやりたい生徒がやる役職にしか思えないんだが。この学校だから少し違うのかも知れない。最後にこう言っておく。
「まぁ別にそれは良い。それより生徒会長の言ったこと、よく考えた方が良いぞ」
そう言って綾小路に後は任せるように俺も立ち去った。その時綾小路が警戒している様な目つきで見ていると気付かずに。
そして後日の休日に学校に行って堀北生徒会長と書面上での契約を結んだ。仲介役の教師も付けているが何方の担任でもない教師に頼んだので録画の事を深くは掘り下げられることは無かった。契約内容はこうなっている。
・比企谷八幡(以下これを甲とする)と堀北学(以下これを乙とする)は下記の事を双方合意の元、契約を成立したものとする。
1.月の始め(一日目)に30万ppt(今月分も含む)を乙が甲に払うこと。
2.月の始めにpptが全額払われなかった場合、録画データを学校に提出する。もしくは来月分の滞納分の1.5倍のpptを払わなければならない(元の金額分×1.5)。
※正し、滞納分を払うことになった場合でも乙に次の月も元の金額分を払わなければならない。また、滞納が次の月にまで為されていた場合は、3倍となり、その次の月にまで及んだ場合は退学とする。尚、この選択権は甲に委ねる。
3.上記の契約は甲が退学にならない限り解約不可能とし、また乙が退学になった場合、乙のクラスの生徒を連帯保証人とする。※連帯保証人としての選択権は甲に有るものとする。また、連帯保証人も上記の条件通りに払わなければならない。
4.この契約は乙が卒業するまで続行する。尚、契約書は紛失しても契約を解約されないものとする。
5.乙が甲に対して上記通りの手続きを行っている場合、甲がデータを提出しても無効になる。
6.乙が甲に対して支払いが不可能となった場合も上記3の通りに連帯保証人に支払い者が移る。
と言うものになった。
契約を結んだ後に支払いが行われ、俺のpptは『76,290』から『376,290』になった。今はまだ5月なので此処から来年の3月まで続くので最低額でも30万×10(5月分の支払いを済ませている)になる。つまり300万の利益は確定しているのだ。正直滅茶苦茶楽になる。つっても散財する気は無い。
契約後、俺は堀北生徒会長に気になったことを聞いた。
「……本当に堀北がAクラスに上がれないと思っているんですか?」
その質問を堀北生徒会長は表情を変えることなく、眼鏡の奥にある眼を鋭くさせたままきっぱりと言った。
「不可能だ。それどころかCクラスにも上がれないことは目に見えている。少なくとも今の鈴音ではな」
今の……ね。堀北生徒会長は如何やらただ、妹に冷たくしている訳ではないのかもしれない。俺はそう考えていると、今度は堀北生徒会長が質問してきた。
「今度はこっちの質問をさせて貰おう。良いか?」
「……え、ええ。どうぞ」
何を質問してくるんだ?そう怪訝に思っていると予想外の事を訊かれた。
「お前も綾小路のように何かを習ってたのか?」
「…いや、習ってないですよ。何でそんな事を?」
この学校に来るまでは特に習ってない。……ただ綾小路のあの身体の動かし方に少し、見覚えがあるような気がしたが。
「……そうか。比企谷の接近に気付かなかったからな、気配の消し方が完璧だった。これでも空手も合気道も段位を持っている」
……ステルスヒッキーの性能がやばいと思うだけなんだが。中学校で告白騒動を起こしてから虐めをなるべく少なくするために気配を消してたし。それでも嫌がらせは受けてたが。まあ、肉体的虐めは無かった。
「…唯、気配が薄いだけですよ。点呼でも忘れられることが多々ありますから」
そう言うと堀北生徒会長の視線の色に憐憫が混じった気がする。やめて!そんな目を向けられる方がダメージ大きいから!