ようこそ俺の実力至上主義のまちがった青春がある教室へ   作:ゆっくりblue1

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人間はリスクがあるものでも、急にそれがなくなると戸惑ってしまうのである。

そしてそれから3日が経った日の事だった。俺は昼休みに習慣化している図書室での椎名との本の内容の感想を言い合う時間を過ごしていた。

 

「アーサー=コナン・ドイル氏著書の『シャーロック・ホームズ』で1番印象に残っているシーンってありますか?」

 

最近、椎名の勧めで原本の海外小説を読んでいるが、日本人の表現にはないユーモアやストーリー性があって面白い。

 

「……そうだな。強いて挙げるなら切り裂きジャックの所か?敢えて未解決事件を出すことでシャーロック・ホームズも解けない事件があったという所が印象的だったな」

 

「そうですか。しかし母親ばかりを狙った快楽殺人鬼になった彼を止めていてくれる存在が居ればと思ってしまいますね」

 

イギリスのロンドンが舞台の切り裂き魔のジャック・ザ・リッパーが起こした事件だ。巧妙なやり方で次々と殺人を繰り返し、尻尾を見せることなくロンドンを恐怖に落としいれた快楽殺人鬼。もしもジャック・ザ・リッパーの歪さに気付く存在が身近に居れば殺人は起こらなかったのだろうか。

 

「……如何だろうな。その存在の歪さを理解して受け入れることが出来たとしても、止められるかは別問題だしな」

 

自分では変えることがなくても未来での常識、評価基準が変われば時代ともに考え方は変えられていくのだろう。そしてそれに慣れていく。今、関わっている存在を未来でも変わらず理解出来るとは自信を持って思えない。受け入れられないかもしれない。

 

その言葉に椎名は頷く。すると後ろから声が掛けられた。

 

「比企谷君に椎名さん。お二人共読書の感想を述べているのですか?」

 

その声に振り向くと、坂柳と従者のように付き添う神室の姿があった。

 

「ああ。それにしても珍しいな、昼休みに図書室に来るなんて。しかも神室も連れて」

 

「読みたい本があったものですから彼女には付き合ってもらってます。それでお二人はどんなお話しを?」

 

「アーサー=コナン・ドイル氏のシリーズミステリー小説の『シャーロック・ホームズ』です。先程、比企谷君に1番印象に残っているシーンを聞いていまして」

 

その答えに坂柳は興味深そうに、神室は少し驚いた様子で口を開けた。

 

「あんた達、海外小説とかも読むんだ……」

 

「ふむ、あのシリーズは名作中の名作ですし、アニメでも題材になるくらいですからねぇ」

 

ほぉ、坂柳もアニメの話題とかを知ってんだなぁ。何と無くそう言うサブカルチャー文化に敬遠していそうに思えたが。俺は意外と言う思いを抱いていると椎名が坂柳に聞いた。

 

「坂柳さんはあのシリーズを読んだことがあるようなので聞きたいのですが、坂柳さんの1番印象に残ったシーンは何処でしょうか?」

 

すると坂柳はその問いに対して少しだけ考えると、一瞬だけこちらに視線を向けた後、椎名に向き直って言った。

 

「…そうですね、シャーロック・ホームズが唯一翻弄された女性のアイリーン・アドラーとの駆け引きが興味深かったです。あの駆け引きではアイリーンのキャラクター性が目を惹きました」

 

アイリーン・アドラー。主人公の唯一の愛した女性で女優の役職をしており、名探偵の主人公を翻弄した。小説のヒロインとして、ミステリアスの美女と言うのが頭に根付いている。それにしても坂柳が恋愛部分に着目するとはな。モリアーティ教授とかラスボス系に興味有るかと思ってた。

 

そう思っていると、坂柳達とは別の方向から男性の声が聞こえてきた。

 

「随分と楽しそうだな、ひより。お前に他クラスの知り合いがいたとはなぁ」

 

その声にこの場の全員の視線が向いて、椎名は珍しく表情を動かして呟くように言った。

 

「…龍園君」

 

如何やら椎名と龍園と言う男子生徒は知り合いのようだ。同じクラスか?その龍園は俺と坂柳達見た。すると坂柳を見た所で獰猛な笑みを浮かべて言った。

 

「これはこれは。お前が坂柳だな?噂には聞いているぜ。お前がAクラスの派閥のリーダーってな」

 

「ええ、そういう貴方もCクラスのリーダーでしょう?噂には聞いていますよ、恐怖政治を敷く暴君だとか」

 

龍園は坂柳の言葉に怒ることもなく笑う。此奴がCクラスのリーダーね。雰囲気や圧がそこらの生徒とは一線を画している。見た目がヤンキーっぽいが、坂柳との腹の探り合いをしているところを見るに知性もかなりあるだろう。油断してはいけないと俺の理性が警鐘を鳴らす。そう考えていると龍園の視線が此方に向いた。

 

「坂柳の下僕はともかく男のてめぇは見た事ねえな。不良品のクラスか?」

 

「…下僕って言うの不快だからやめてくれる?」

 

そう僅かに嘲笑する調子で聞いてくる龍園。坂柳の下僕と言われ、龍園を鋭く睨みながら冷たく言う神室。俺も明らかな挑発行為に乗る程、餓鬼じゃないので普通に答えようとすると椎名が珍しく怒ったような様子で言った。

 

「…比企谷君を侮辱する様な言い方はしないで下さい」

 

龍園を睨め付けて拳を白んでくるほど強く握りこむ椎名の様子に龍園は心底興味深そうに、ほぉ。と言った。俺も椎名の予想外な様子に驚いている。

 

「ククク…お前がそこまで言うとはよっぽどお熱みてえだな。おい、腐り目。お前の名前は?」

 

腐り目って……まぁ、事実だから何も言えないけど、ゾンビみたいだから嫌なんだよなぁ。と思いながらも短く言う。

 

「……比企谷八幡」

 

「比企谷か。ひよりに随分と気に入られているみてえだなぁ?おい」

 

「……さっさと本題に入れ。わざわざ冷やかしに来たわけじゃねえだろ」

 

Cクラスのリーダーがわざわざ揶揄いに来る訳もねえしな。揶揄いに来る雰囲気でも無いし。龍園がわざわざ出向きに来た理由は察しがつく。そして龍園が俺の予想通りのことを言ってきた。

 

「察しが良いみてえだから単刀直入に言ってやるよ。ーーー今後一切ひよりと関わるな」

 

龍園は鋭く俺を見据えて言った。その言葉を聞いた椎名は苦悶の表情を浮かべた後、俯く。……やっぱりか。俺の中で驚きはない。クラス格付けが終わった後、クラス間の競争を学校側が示した時点でそう遠くない未来、こうなる事が頭の片隅にあったからだ。俺は冷静にそう思った後、龍園に聞いた。

 

「椎名がCクラスの情報を漏らさなければ良いんじゃねえの?」

 

「そこまで分かってんなら、そう言う疑惑を摘んでおきたいって事も察しがついてんだろ。疑わしきは罰する、不確定因子はいらねえんでな」

 

俺の言葉に龍園が考えを変える様子は微塵も無い。言葉から読み取るに支配者として自分の考えだけが信じられるというタイプか。坂柳が恐怖政治を敷いてると言ったことから考えると龍園は独裁者のようだ。そう分析していると龍園はこう続ける。

 

「それでも関わりたいと思うんなら、お前のクラスの情報を随時提供しろ。俺が指定した情報をな」

 

その提示された条件に椎名は顔を挙げると、僅かに寂しげな表情を浮かべて俺の方を向いて言った。

 

「……比企谷君の自由に。私は何も言いません、貴方の意見を尊重します」

 

「……椎名」

 

椎名の寂しげな表情を見ると、今までの椎名と共有していた時間が思い出される。共に図書室の本を黙々と読み漁った時。本の内容で感想を語り合った時。本の貸し借りをし合った時。その都度に椎名の表情が、仕草が頭を駆け巡った。

 

『比企谷君、この小説を読んだことはありますか?』

 

『このシーンが面白いですね。比企谷君は何処が良いと思いますか?』

 

『……はぁあ…少し読み捗ってつい夜ふかしをしてしまいました』

 

『その小説が気に入ったんですか?ふふ、面白いですよね。その小説はシリーズですから続きがあるので買ったんですよ。良ければお貸ししますよ』

 

『比企谷君、あのライトノベルと言う小説をまたお借りしても良いですか?予想以上に楽しめたのでまた見たいです』

 

感想を語り合う時の楽しそうな表情、夜更かしの影響での眠そうな表情、意見が一致した時新たな面白い本を貸し借りした時の嬉しそうな表情。それを見て気を悪くする事は無く、むしろ心地いい空間だった。

 

俺にとって椎名は一体何だ?読書仲間……それだけだ。ただただ偶然にも読書が趣味という所から関わるようになった関係性。それがクラスの垣根を越えることが、此処までの期間を共有出来たのは奇跡的な偶然だった。それが今消えるだけ。

 

そもそも違うクラスの人間同士で関わることはスパイ疑惑をこの学校では生み出す。そんな事で椎名が疑われることは俺にとっても椎名にとっても望ましくない。

 

なのに、なのに……如何して俺はイライラしているんだ?癒しだからか?しかし何処か違う気がする。釈然としない感情が俺の中で燻り始めたのを覚えつつ、答えを出した。俺にとっても予想外の答えを。

 

「……少し時間をくれ」

 

……何故引き延ばした?別の答えを言う筈だったのに俺が発したのは保留だった。

 

そう言うと龍園は表情を変えることなく、淡々として言った。

 

「…良いぜ。2週間以内だ、本当は1週間にするつもりだったが慈悲に感謝しろよ?だからその間に決めろ。Dクラスを捨てるか、ひよりを捨てるかをな。勿論その間もひよりとは関わるなよ?」

 

2週間……その時間がタイムリミットか。丁度テストが終わった時か。まぁ、サービスしてくれたのだから良しとしよう。俺は頷くと龍園は椎名を促すと、椎名は寂しげに此方を一瞥した。

 

「……比企谷君、無理はしないでくださいね。……失礼します」

 

そう言って去って行く椎名の表情を忘れることはとてもじゃないが出来なさそうだ。坂柳達も見送ると、坂柳は俺に向き直ると神妙な表情で言った。

 

「…比企谷君にも1人で考えたいでしょうから、これで私達も戻ります。でもお節介で一つだけアドバイスを……自分の気持ちに偽りを持ってはならない。ではまた」

 

「……ああ」

 

そう曖昧に返事を返した後、坂柳達は去って行った。俺は暫くの間その場から動けなかった。

 

 

そしてテストの対策期間が1週間に迫った日の事。俺はいつも通りに学校に登校して、授業を受けて昼休みを過ごす。先週の1週間の間に変わった事はあの赤点候補筆頭の3バカが真面目に授業を受けているのだ。遅刻は無く、居眠りや私語もない。クラス格付け発表があってからもこそこそとやっていたので、実質初めて真面な授業になっている。

 

須藤に至ってはノートも取っている。この急な変化にクラスメイトは戸惑っていたが変化は変化でも良い傾向のものだったので悪く言う奴はいなかった。

 

堀北の勉強会が続けられている所を見るに、何かしらの変化をあの3バカに与えたのだろう。綾小路も櫛田も協力しているようで、堀北自身にも変化が起こったようだ。俺は勉強会には行っていない。綾小路や櫛田からも再度誘われたが、俺が居なくても勉強会は回ると言って断った。その時に櫛田がメルアドを交換しようと言ってきたので、登録した後に櫛田が消えた所で連絡先は消去した。幸い櫛田の関心は俺にはそこまで向いておらず、相手をすることは今のところはない。

 

そんなことがありながらも俺は変わらず、テスト勉強を行い続けている。しかし、今まで昼休みを過ごす上で活用していた図書室にはあの邂逅の後日から行っていない。行かない理由がある訳ではない。しかし、あの空間を黙々と本を読むだけで終わるのは何処か虚しいと思ったのだ。だから騒がしい教室で昼休みを過ごす。

 

3日前から自炊を始めた俺は自分で作った弁当を食べている。黙々と食べていると隣から声が掛かった。

 

「1週間、此処に居るけど行かないの?」

 

そう聞いてきたのは隣人の松下。俺は食べ終わると、弁当を鞄に入れてその後に言った。

 

「……ただの気分だ。特に用もないしな」

 

何でそんな事聞いて来るんだ?そう思いながらも俺は意に返さない言い方をすると、松下は目を鋭くした。

 

「嘘だよね、それ。本音は?」

 

まるで俺の心中に渦巻く何かを見透かす物言いに苛立って強く言い返す。

 

「……お前には関係無えだろうが。何でそんな事を聞いてくんだよ…!」

 

ああ、松下は全く関係無い。だから苛立ちをぶつけても何の解決にもならないのに。言ってから冷静になった俺は松下に謝ろうとすると、その前に松下が真面目な表情になって言った。

 

「……そうだね。比企谷君がどんな問題を抱えてるのかを知らないし、それは個人の問題だろうから関係無いよ。だけど隣人の様子がこの1週間ずっと上の空だったから気になっただけ。……出会って短いけど相談くらいなら乗るよ?最も解決できるかは保証しないけどね」

 

その松下の親切心から出た言葉を聞いた所で素直に頷くことはない。今抱えている問題は松下には言えない。他のクラスの生徒と関わり合いたいと言えばスパイ活動と思われる。それに、優しい女の子は嫌いだから。松下の思惑は知らんがそれを抜きに考えても、わざわざ相談に乗ろうとする優しい奴だ。それに此奴は俺の過去を知っているし、俺が日陰の立場にいることは重々分かっているだろう。

 

友達も多い松下とボッチの俺はどんなに頑張っても交わることはないのだ。そもそも立ち位置が違う。僻みも正直に言えばあるのでそんな思いがある状態で話しても返ってきた言葉を素直に呑み込めないだろう。

 

そう思っていると松下はまるでその考えを読んだかのように続ける。

 

「そんなに複雑に考え過ぎなくても良いと思うよ?別に唯の親切心で言ってるわけじゃないし。こんな考え方もあるんだ程度に留めておけば良いんじゃないかな」

 

「ナチュラルに心読むな」

 

そう突っ込んだ後に溜息を吐く。……まぁ、参考として訊くのは有りかもな。そう思って事情を説明すると、松下は少し考えて俺の目を見据えて言う。

 

「……比企谷君は如何したいの?」

 

「……俺?」

 

質問で返されると思っていなかったので戸惑ってしまうが、しっかり意味合いを考える。そして答える。

 

「俺は……スパイ活動って椎名が疑われる様な事をすべきじゃないと思っている」

 

「…そうじゃないよ」

 

松下の否定に俺は疑問符を浮かべる。俺が如何したいって聞いて来たから答えたんだが。すると松下が言った。

 

「比企谷君。君は椎名さんをスパイ活動の疑いを掛けさせたくないと言ってるけど、それは比企谷君自身のしたい事なの?」

 

「…そうだと思うが」

 

「……それはね、椎名さんが判断することだと思うよ。椎名さんだってそう言う疑いを掛けられるリスクがあることを分かっていると思う。その上で比企谷君と接触していると思うんだけど。そしてそれは比企谷君が椎名さんの立場を思って考えたことで、私が聞きたいのは椎名さんの立場を抜きに如何したいのかってこと」

 

…椎名の立場を抜きにして俺が如何したいか。俺は一体椎名と如何なりたい?松下の指摘を受けて少し考えてみる。

 

椎名ひより。Cクラスの女子生徒。普段はおっとりしていて感情の起伏がないが、本の事。特に小説の話題が出ると途端に表情が豊かになって口数が増える。出会ったきっかけは俺が図書室を騒がしい教室からの避難場所として訪れたときに読書していると話し掛けられた。

 

最初こそ今まで会ったことのないタイプの奴で、かなり天然だったから会話するのにも困惑した。だから二度目に図書室に訪れた時は会わないようにしていた。けれど、その時は椎名が取りたい本が高い位置にあって取れない状態を俺以外に気付かなかったので、それを助けたときに会話が発生した。

 

そうして会話していくと、椎名が純粋に本が好きだと分かって警戒心が解けた。本の話をしている時にも俺の見た目に怖がらないし、弄っても来ないことに安心した。俺の眼の事を聞いてみたら、独特な瞳で愛嬌がある。と言われた。その時から椎名から遠ざかる理由が少し消えた。

 

そして次の日から俺の席の隣に座ってくることが増えた。何故かを問うと。

 

『比企谷くんの本の捉え方がもの凄く斬新で興味深いですから、話をしていても聞いていても楽しいんです』

 

と言われた。そう言う椎名も本から得たであろう圧倒的な知識量と考察力は話をしていても飽きがこないどころか会話が苦手な俺も話が弾むし、新しい発見や考察の切り口があって面白い。

 

騒がしく話すこともなく、話したい時に話すが会話が途切れることも無い。そして何より考え方の強要もなく、そのまま受け入れて楽しそうに聞いてくれることが中々楽しいと思える。

 

そして会話が発生しなくても気不味さはなく、寧ろ無理に話題を提供せずとも落ち着いて過ごせる空間が何よりも心地良い。

 

言葉がなくとも分かり合えるというのは傲慢だ。それでも言葉にしたところで全てを受け入れて理解出来る訳もない。椎名はどういう気持ちで俺と向き合っていたかは分からない。だけど、あの空間で共有していた時間で俺達は少なくとも終わらせることは無かった。

 

龍園が言った言葉に俺は理解していた。けれど納得は仕切れなかった。その時に苛まれたものは、苛立ちだ。

 

何故苛立ちを感じた?どれだけあの関係性が心地良くても俺達の立ち位置は読書仲間だ。知り合い以上友人未満な曖昧な関係。プライベートにも足を突っ込んでない関係だ。ただそれが終わるだけ。今までの俺なら最終的には納得していて、何も思う事は無かっただろう。

 

しかし俺は終わりを切り出さなかった。それどころか引き延ばした。終わりたくない、終わらせたくないと思ってしまった。

 

では、終わらせたくないと思った理由は何だ?椎名のウィットに富む会話が楽しかったからか?椎名の知識を吸収するためか?

 

 

 

……違う。そんな上辺を取り繕った中身の無い関係性は俺には到底許容出来ないし、理解も出来ない。この関係性を終わらせたくないと思ったのは。

 

 

 

俺が、俺自身が椎名ひよりという存在を知りたいと思ったからだ。本の事だけでなく、それ以外の事も。だからこそ切りたくなかった。

 

 

 

俺は椎名ひよりという人間を知りたい。知って理解したい。知って安心したいのだ。俺にとって知らない事というのはとても恐ろしいことだから。

 

 

 

なんて悍ましくて浅ましいのだろう。ストーカーとかヤンデレと変わらないじゃないか。

 

 

 

けれどそれが一番納得できる。俺にとっての解。正直正しいとか間違っているとかは良く分からない。寧ろ間違っているのかもしれない。

 

 

 

けれどそれを曲げる事もしたくない。これで良い。

 

 

 

そう考えているとあの日坂柳が言った言葉を思い出した。そしてゆっくりと答える。

 

「俺は……俺は、これで終わりにはしたくない、んだと思う」

 

その言葉を口にすると松下は優しく笑って頷く。始まりは唯の偶然だったけど、あの空間で共有していた時間を俺は確かに心地よいと感じていた。それを手放すのは惜しい。

 

「それが比企谷君の望みなら、後はもう分かっているんじゃない?」

 

そう言う松下の声は打算を感じない純粋な柔らかさがある。俺は松下に言った。

 

「……ああ。その、助かった。怒鳴って悪かったな。今度なんか礼をするよ」

 

「良いよ。別にただ私が勝手に相談に乗っただけなんだから」

 

「俺は養われる気はあっても施しを受ける気は無いんでな。まぁ、俺が出来ることなら力になるぞ……ただ、無茶振りは勘弁な」

 

「どう違うのそれ……?まあ考えておくよ」

 

松下の言葉に頷くと、昼休みの終了時間が迫っていることに気づき、慌てて次の時間に必要な教科書を用意するのだった。

 

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