南樺太での戦い
その日は特に寒かった。
樺太の陸軍基地司令である私はいつもの様に紅茶を飲みながら書類仕事をしていた。
「全く、外は酷い吹雪だな。そろそろ暖かくなっても良い頃なのに……」
4月下旬……地球温暖の影響で樺太も昔に比べると暖かくなったとはいえ、今日のような猛吹雪は4月では珍しい。
部下達は今頃支給品のウォッカを飲んで体を温めている頃だろうか。
「日本が大混乱に陥り、北海道に侵攻し、ロシア悲願の不凍港獲得のチャンスなのだが……」
そんな我が祖国ロシアは財閥による支配が行われていた。
ヨーロッパロシアではまだ政府が主導権を握っていたが、ウラル山脈以東は色々な企業の介入により政府の統制が行き渡っていない。
製造された武器が裏市場に流れることもしばしばで、この前は駆逐艦が何者かにより強奪されたという話も聞く。
一応ウラジオストクのロシア軍司令部が極東は機能しているため、最低限の軍の統制は取れているが……日本が混乱に陥って半年間……侵攻という話を上申しても却下の返答しか返ってこなかった。
日本の天然ガス採掘事業によりロシアの天然ガスの値段は下げざる得なくなり、一時大打撃を受けた。
日本の混乱により天然ガス相場は持ち直したが、それでも日本という土地に私は魅力があると思うのだが……。
「ふむ……基地司令の私が考えたところで戦略を動かせる立場ではないからな……」
そう呟いていると……空がいきなり光った。
眩い光が一瞬上空を照らすと、部屋がいきなり停電となる。
「どうした! 停電か!」
部下に言うと、部下も
「はい、今非常用電源に切り替えます」
と言っている。
しかし待てども待てども電源は切り替わらない。
それどころか私はスマホの電波が繋がらなくなっていることにも気がついた。
「電波が通じない……妙だな……」
「司令! 街の明かりも!」
部下の1人がそう言うので、街の方を見ると、街の明かりも全て消えていた。
吹雪いていて見えにくいが、普通なら明かりが少し見える。
しかしそれすらも見えなくなり、更にエアコンも止まったことで部屋がどんどん冷えていく。
断熱材を使った建物なので数時間は室温は持つが、それ以内に復興しなければ凍えることになる。
すると技術チームが慌てて駆け込んできた。
「司令! 電磁パルスによる攻撃で、電子機器が全て故障しています! 復旧がどれぐらいかかるか不明!」
「な、なに!」
ここでようやく何者かによる攻撃であると判明した私は部下達に口伝で戦闘配備に着くように命令する。
停電から20分……私が指示を行うのは遅すぎた。
ドカンと何かが爆発する音と共に基地の窓ガラスが次々に割れていく。
何事かと爆発音がした方に向かうと基地の燃料庫が爆発、炎上しており、隊員達が逃げ回っていた。
「基地内に既に浸透されているのか!」
状況を理解できない私は割れた窓から侵入してきた影に気がついた時には意識を失っていた。
「何事だ!」
「わかんねぇよ! 基地が攻撃を受けているらしい!」
猛吹雪により室内でトレーニングをしていた俺達はいきなり停電になり、自室に戻って待機していると、いきなり爆発音が響き渡った。
部屋から飛び出して爆発音がした方向を見ると黒煙が空高く舞っている。
「これ俺達何かした方が良いんじゃないか?」
「でも隊長からは待機の命令が出てるし……」
「俺班長に指示を聞いてくる」
「戦闘服に着替えていつでも出れる様にしておく」
俺は営内を走って移動し、吹雪の中、班長や隊長、基地司令が務める本部に走って向かった。
「あ? なんだ?」
本部に到着すると、停電しているからかいつもと様子が違う……足音は沢山聞こえるのに声が聞こえないのだ。
「どういう事だ?」
俺は班長が居る中隊室に向かうと、黒尽くめの人達が中隊室を占拠していた。
「おいおいマジか!」
明らかに軍人ではないし、この非常時にコスプレをするほどのアホはこの基地に居ない。
わかった事は既に本部が占拠されたこと、停電により電話等が使えなくなってしまっていること……
「急いで皆に伝えないと!」
俺は運良く黒尽くめの人物達に見つからずに営内に戻ることができた。
そして直ぐに仲間に本部が何者かによって占拠されていたことを伝えるといよいよマズイ状態であることを認識した。
頭が潰されると軍隊は機能停止状態になってしまう。
そしてこのままではここに居る俺達も黒尽くめの集団に攻撃を受ける可能性が高いと判断し、武器になりそうなスコップとナイフを持ってまずは武器庫に向かい、武器を調達することに決めた。
命令違反ではあるが緊急時だ。
処分は後でいくらでも受けよう。
俺達が営内から出て、武器庫のある建物に行くと、黒尽くめの集団が既に武器庫を占領していた。
「奴らに先回りされた! どうする!」
「行くしか無いだろ!」
俺達は遮蔽物に隠れながら近づいていき、一気に黒尽くめの人物達に襲い掛かった。
すると黒尽くめの人物達はこちらに気がつくと、水鉄砲の様な形をした銃から光線を発射し、次々に仲間が消えていく。
5人ほど仲間が消えてしまったが、俺は何とか目の前の人物の首にナイフを突き刺すと、液体になって溶けてしまった。
俺は素早く敵が使っていた銃を手に取ると、敵の仲間に銃を放つ。
しかし、敵にはこの光線が効かないらしく、反撃で俺は光線を食らってしまい、意識がそこでとぎれた。
ドガガガガ
「クソ! なんなんだこいつは!」
別の武器庫前では生き残った隊員達がバリケードを作り、小銃で迎撃を行っていた。
「少尉! なんなんですかあいつら!」
「知るか! とにかく近づけるな!」
しかし目の前の敵に効いている感じがしない。
黒い狼みたいな敵がどんどん近づいてくるので、銃で撃って撃破しているが、倒しても倒してもどんどん湧いてくる。
そうこうしていると通路の奥から飛行する物体が現れ、何かを発射してきた。
「ミサイ」
俺が飛行物体がミサイルと気がついて叫んだ時には爆発し、即席のバリケードは吹き飛び、俺の体も下半身が消え去っていた。
「あぁ……マカロフ……コソロスキーも」
奇跡的に意識があったが、もう死ぬだろうなと思いながら、俺は目の前でぐちゃぐちゃになっていた仲間の名前をつぶやいた。
すると狼の顔をした男が俺に近づき光線を充てると意識が途切れるのであった。
4月25日……樺太ロシア陸軍基地第68軍団所属の連隊はブラックカンパニーにより壊滅したのであった。