「2号、この区画のお米の品種改良は成功したわ」
「流石テトだ。お陰で既存の米の300%の収穫率になっているよ」
植物を自在に操る能力を持つテトとバイオテクノロジーを駆使して品種改良を繰り返し、食料の味と品質を向上させ続けていた2号により着実に他所と勝負が出来る作物が大量に出来上がりつつあった。
「お米も管理された地下農園であれば四期作も出来るのよね?」
「あぁ、土を毎回取り替える必要はあるが、お陰で最初に仕込んだ作物は収穫だ。まだ米、小麦、芋に多少の野菜類だけだが、果実類も早めに生産しないとな」
「その時は成長を早める私の力が必要かしら?」
「そうだね。果実は数年単位でかかるから育てるのをお願いすると思う」
現在ブラックカンパニーの総人数は約1万人、今のところの食料自給率は250%であるが、肉の生産量は50%、魚はまだ漁業出来る人員が育ってないので0%であった。
ちなみに肉は培養肉である。
「それでも地下農園は着実に拡大している! 人員の拡充ペースよりは食料生産量の方が上回る予定だ。ようやく地下農園の規模は初期目標の2%に到達した段階だけどね!」
初期目標とは言うが、樺太の地下丸々くり抜いて1階層分の面積を農地にする広大な計画であり、それが完了すれば更に次の地下階層とどんどん下に深くなっていく予定である。
地下空間で覆われることになるため、地上の木々はそのうち地下の栄養が吸収できなくなり枯れていくだろうが、環境活動家では無い為に、木々よりも作物優先であった。
2号の計算では樺太の面積の80%が地下農園に変える予定であり、完了すれば2500万人の食料、培養肉による肉の供給、そしてバイオ燃料による燃料確保も出来る予定である。
石炭や石油は最終的に掘り尽くしてしまえば枯渇してしまうため、将来を見越すと農地に切り替えていくほうが得であると2号は判断していた。
「戦闘員達も従事になれたのか、今のところ5000人以上が農業に従事してくれている。ロボットに頼る所はロボットに頼り、人の手の方が良いところは人の手で……」
なお農園で作られる植物には人造人間に製造不可欠な培養液だったり、成長促進剤、超人化薬、怪人化薬の原料も含まれており、他にも戦略物資である天然ゴムなんかも作られていた。
元々博士がこの分野に強かったが、活かせる環境ではなかったが、その知識を引き継いだ2号が遺憾無く実力を発揮した結果、緑の革命をも凌駕する量の作物を育てることに成功した。
更にテトの能力で、本来十数年単位で行う品種改良を数日単位まで短縮出来た事で、予定よりも遥かに多く、高品質な作物を作るに至っていた。
「この技術を応用できれば月面や火星でも作物を作ることが出来るが……そこまでは無理かな」
「その前に海底都市を作るんじゃないかしら?」
「たぶんそうだろうね」
テトと2号は語り合うのだった。
「うーん」
バニーは悩んでいた。
自分がこのまま総領を続けて良いものかと……。
今自分が総領にしがみついているのは兄が守ってきた地位を自身の子供に継承させるためであり、自分自身の能力が足りてないのは薄々気がついていた。
「Kや博士に負担をかけてしまってるなぁ」
バニーは日本地図を見ながら話し始める。
「うーん、たぶん引き際は樺太に新しい国家を建国する時だろうな。その時にKに総領の地位を譲り、次の総領を私とKの子供達の誰かに引き継ぐことを約束してくれたら……最高なんだけどな」
日本政府と友好的な関係を築きたいKの思いと兄達の目標であった日本征服に拘る自分……どちらが時勢が読めてないかは分かっているし、兄が生きていたら戦略を転換していたんだろうなぁともバニーは思っていた。
「所詮、私は事務員がお似合いの女性だったか……」
総領室に飾られている父と兄の写真を見ながらそう呟く。
コンコンとドアがノックされた。
「入れ」
「失礼します」
入ってきたのはホワイトだった。
「どうしたホワイト」
「バニー総領に伺いたい事がありまして……時間よろしいでしょうか」
「別に良いけど」
椅子に座り直し、私はホワイトの話を聞くことにした。
「で? 伺いたいことって?」
「日本征服が戦略目標になっていることで……本当に達成出来るとお思いで?」
「なに? ホワイトは出来ないと?」
「ブラックカンパニーの総人数は現在1万人、人格の定着だったり、人造人間の製造により3年で約20万人には増員出来る見通しです」
「まぁそうね」
「一方で日本政府の動かせる兵力は約1120万人がこの内戦を戦っています。戦時解除されたとて、戦闘経験者がこれだけ居ることになると、20万ポッチのブラックカンパニーが支配できるはずがありません」
「その為に樺太に国家建国の準備は進めているわ。国家となれば相手は迂闊に手出し出来なくなる。正面ではなく内部……経済や外交等で攻撃をすることになっているわ」
「それこそ滑稽でしょう。日本の人口は約9000万人に減りましたが、人造人間の製造を今後も続ければ人はどんどん増えていくことになります。恐らく復興の為に1億5000万人程度まで人口を増やし、放置されていた田畑も新しい地主階級が産まれて作物を作り、自国での供給を増やしていくことになるでしょうし、海外に疎開していた技術者や企業も日本に戻り、安く働かせられる人造人間の力を使って質の良い商品を産み出し始めるでしょう」
「そうなった場合、経済面での侵略は一部のシェアは奪えてもとても効果的とは言えません」
「じゃあ何? 幹部の間で決まった日本征服を覆せと言うの?」
「幹部の間? バニー総領が独断で決定したの間違いでは無いでしょうか」
「癪に障る事を言うわね……じゃあなに? ホワイトには明確な戦略……プラントがあるとでも言うの?」
「つくるべきは第二の日本です」
ホワイトが私に資料を渡してきた。
「大昔、極東共和国という国が数年だけ存在しました。まずはこれを作ることから始めませんか」
「ロシアと利権が衝突するわよ」
「今だって樺太を占領しているんです。それにロシアは極東の関心を失っています。遅々として極東司令部が再建されていないのがその証拠です。ヨーロッパロシア以外の地域は腐敗しきっていると言って良いでしょう」
「で? 極東共和国を作ってどうするの?」
「目指すべきは空にあります」
「空?」
「宇宙利権……これを確固たるものにすれば日本が復興に取りかかっている間に主権国入りが出来る可能性すらある。極東共和国の地位が上がれば裏で操るブラックカンパニーの地位も上がり、その間にKお父様に匹敵する戦闘力を持った怪人を増やす。Kお父様の子供達を増やし、ブラックカンパニーの主権を創業者一族からKお父様を中心としたものに切り替える」
「いかがですか」
「総領としては納得する部分はあるけど、これから産まれてくる母親としては否定したい。主権は私の子供に引き継がせたい」
「……時期を見てまた伺います。私はこの計画こそブラックカンパニーの目指すべき道と考えていますので」
「……退室しなさい。不愉快だ」
「……失礼しました」
ホワイトは退室する。
「ホワイトは指導者としての素質があるのは認める……でも……ううん……」
バニーは机に顔を伏せてまた悩むのであった。