僕はどんな時でも…仲介役だった。それは昔でも今でもどんな時でも変わらないこと。僕はストウ王国の王様であり、他の王族の仲介人であることが多い。ストウ王国は豊かな国とは言えないが、国民が貧困に困っているほどでもないような国。
そんな王国の王様は他国との付き合い方も真剣に考えなければいけない。
国民が普通に生きていけためには他国との関係は必要。どんな風に思われたとしても他国との関係を良好に保たなければならない。
なので僕は王同士の口喧嘩や争い事が起きた時はそれを仲介する役割になることが多い。両者の言い分を聞いて、上手く落としどころを見つける。
そして今は世界会議のために各国の王族がどんどん集結していく。そして世界会議中は王同士の間でいざこざが起きるのは日常茶飯事だ。
今回も世界会議の外で口喧嘩を繰り広げた王女の怒りを鎮めようとしていた。
「まぁまぁ…コマネ王女も怒りを収めてもらって」
「いやよ。何なのよ、あいつ!」
「あの王子も悪気があったわけではないと思いますよ。だから後でしっかり話し合ってください」
「ムカつくのよ!」
足を地団駄させながらコマネ王女は怒りを他のものにぶつけようとしているのだ。コマネ王女の性格は決して良いものではないですが、それは王族に生まれた者としては仕方ない。
「その怒りは理解できますが、まずは落ち着きましょう。これから世界会議が起ころうとしているのに問題を起こすのは父上も望んでないでしょうし、ね?」
「わ、わかったわよ。あなたの顔を立ててここは引いてあげるわ」
さすがに本人もここで問題を起こせばどうなるかが想像できないわけではないはず。ここに集まっているのはそれぞれが国の代表。そこでの揉め事は…戦争や紛争に結びつくのだ。ただ一言の言葉が世界情勢を変えてしまうこともあるのだ。
コマネ王女は苛立ちを隠せないような表情をしたまんま歩いて行った。その後ろ姿を見送っていると後ろから声がした。
「相変わらずあなたは大変そうね」
「モロロン女王。お久しぶりですね」
モロロン女王は他の王たちに比べればそれなりに話が通じる方で色々と話をする機会があった。モロロン女王の容姿はとても美しくて多くの男性を魅了してきて来たような人。
だが、いくら優しい顔をしていたとしても一国の王になった人間はほぼ全員が裏の顔というものを持っている。国民に見せる『表の顔』と取引や国の運営において見せる『裏の顔』でそれを上手く使い分けているのだと思う。僕も実際はそうですしね。国民にはとてもいい人のような感じで知れ渡ってはいるものの、裏ではやるべきことをやっている。
「ええ、あなたが前にうちの国に来たのが3年前だったからそれ以来ね」
「前にお会いした時よりもさらに美しさが増しているように感じますよ」
「あなたにそう言われると素直に嬉しいわね」
王同士の会話は言葉通りに受け入れることをしてはならない。お互いに裏の裏を読みながら話し合うのが普通だ。もし、言葉通りに受け取っているといつか……現実を思い知った時にキツイだろう。
「それにしてもあなたは色々と大変な役回りをさせられるわね」
「まあ、これに関してはいつものことなので特に気にならなくなりましたよ。これだけの王族が集まれば揉め事無しで終わる事の方が難しいですし、それを上手く取り持つような人間が必要なのは分かってますしね。そういうバランサーのような役割は僕にぴったりですしね」
「本当にあなたは苦労人ですね」
「そうですかね?もう慣れ過ぎて何とも思わなくなりましたけどね」
それにうちの国の状況を考えれば他国に恩を売る事はかなりのプラスだ。
「そう言えば、前に話したこと少しぐらいは考えてくれましたか?」
「前に話した?」
なにか話したかな。少なくともモロロン女王と会うのも3年振りなんだから、前に話したというのは3年前。それなりに記憶力の良い方ではあると自負しているものの、さすがに3年前のことは覚えていない。
「忘れてしまったのですか。私は悲しいですわ」
「す、すいません」
「まあ、私とあなたが出会ったのは3年振りですから仕方ありませんね」
でも、この口ぶりだと僕に対して何かお願いをしていたと考えるべきかもしれない。でも、モロロン女王みたいな人の頼みをすぐに返事しなかったことを考えれば簡単に。
「それではもう一度言いますね。私のところに嫁ぐ気はないですか?」
「え……」
僕はモロロン女王の言うことが理解出来なかった。何よりもそれを言っている時のモロロン女王はウソを言っているようには見えなかったし、そういうウソを付く人ではないことも知っているつもりだ。
「…ほんきですか?」
「本気以外のなにものでもないです。ウソでこんなことは言いませんよ」
「…モロロン女王も僕がこれでも王様という立場であることを知っていますよね」
「もちろん、わかっています」
「それなら僕が国から離れてモロロン女王のところに嫁ぎに行けないことは分かっていますよね。次期王子の弟の息子はまだ3歳ですから。なるべくいい形で彼に渡したいんです」
「では数年待てば私のものになってくれますか?」
「モロロン女王がそこまで僕のことを必要としてくれるのは有難いですが、僕は国のためにやらなければいけないことが残っているのでお断りさせてもらいます。答えがこんなに遅くなってしまったのは本当に申し訳ないと思っています」
「ではこれでどうでしょう。あなたが私の国に来てくれればタジン王国はあなたの国、ストウ王国と同盟を結んでもいいと考えています。それも同盟は食料や武器などを含めて貴国に損はさせないつもりですが」
モロロン女王がこんなことを提案してくるとは思わなかった。まさかそこまで僕のことを手に入れようとして来るとは……。
「僕にそこまでの価値はないですよ」
「私はあなたに価値があると思っています。それは私が決めること」
「…そうですか……」
良い状況であることは事実。でも、この瞬間に王位を譲ることに不安がないわけではない。弟は今まで王族として生きてきたものの、かなり自由奔放に生きている。少なくとも国の政治や状況についてどこまで理解できているかも分からないというのが正直なところ。
「今、お答えしないとダメですか?」
「無理強いはしませんが、早いうちにお願いします。それに私は嫁ぎに来ることが全てとは思っていません」
「どういうことですか?」
「例えば一日だけ私と一緒に過ごしてくれるとかでもいいですよ。あなたが私のものになるのなら時間は少なくても…」
「そうですか。ではなるべく早くお答えさせてもらいます」
そしてその場はどうにか終わった。モロロン女王には悪いかもしれないが、これを二つ返事で答えられない。
これは本人は自覚していないが裏で『傾国の王様』と呼ばれている男のお話。