別冊星達のミュージアム 第3号   作:苗根杏

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6作目は、アークさんの作品です。
ハーメルン→ https://syosetu.org/user/427622/
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秋の空、心は紅く色づいて。

 永遠に続くかのような酷暑が嘘のように消え失せ、肌を撫でる風がようやく心地よく感じられるようになった初秋の表参道。

 暇つぶしのように軽く身体を揺らしながら、私はある人を待つ。

 オレンジ色の流星模様が映える白地のワンピースに、紅いレザー生地のショート丈の上着。髪を下ろしたストレートヘアに、頭にはいつも被ってる黒いハット。今日の為に可可先輩と議論を重ねてコーデを完成させては来たけど、私にワンピースなんて本当に似合ってんのかな。

 

 可可先輩は、「メーメーは身体ノラインガ細いデスし、ふんわりシタラインのワンピースを着てモ絶対似合イマスヨ!」とは言ってくれたけど、正直まだ不安だ。

 がっかりされたらどうしよう、気を使わせたらどうしようって……あぁダメだ、どう考えても嫌な想像をしちまう。

 そろそろネガティブ思考にもウンザリしてきて、一旦心を落ち着かせるために下を向く。枯葉はまだ落ちていないけど、身体を吹き抜けていく風が良い心地だ。

 

「メイちゃん!」

 

 そうして秋風に身を任せているうちに聞こえた、綺麗で凛とした声。来た、ついに来た。私の待っていた人。オトちゃん先輩。

 自然と胸が高鳴り、身体に力が入る。ファーストミッション、なんて四季みたいな表現を1人使ってみるけれど、要はオトちゃん先輩をいっぱい褒める。今日のお出か……いや、デートを成功させる為の第一関門だ。

 

「ごめんね、メイちゃんっ。本当はもっと早く来る予定だったのに、待たせちゃった……」

 

「良いよオトちゃん先輩。私はそういうのあまり気にしねぇからさ。にしても、今日はバッチリ決めてんな。その服、似合ってるぜ?」

 

「そうかな、えへへ。メイちゃんとのお出かけだし、僕ももっとオシャレした方が良いかなって思ってくぅちゃんに服選びを手伝って貰ったんだけど……気に入って貰えたなら、良かった!」

 

 ま、マジかよ。まぁ可可先輩は服に関しちゃ『Liella!』イチ詳しいし、オトちゃん先輩が相談するのも当然の帰結ではあるけど、ちょっとお揃い要素増えて嬉しいな。

 そんな今日のオトちゃん先輩の服装は、小さな落ち葉の刺繍が施されたシャツとゆったりした形状のズボン。少し萌え袖気味のコートとベレー帽……えっ、属性過多か??? 

 男性としての細身なスタイルを考慮しながら、オトちゃん先輩の持つ可愛さと中性的な雰囲気が引き出されている。

 まさに完璧と言っても過言じゃねぇ……! 

 

「メイちゃんの服も、すっごく可愛いよ! でも、上着はクールな感じで逆にかっこ良くて、メイちゃんのイメージにピッタリな凄く素敵な服だと思う!」

 

「そうかっ? ワンピースでも、似合うか?」

 

「似合うよ。誰が見ても、きっと素敵って言ってくれると思う!」

 

「そ、そうか……えへへ、そっかぁ……」

 

 あぁ、杞憂だったな。

 頭ん中で渦巻いてたモノが一気に消え失せて、私の心の中の雲が晴れた。

 目の前で優しく笑顔を浮かべるオトちゃん先輩の瞳に、嘘偽りの気配は感じない。いつだって真っ直ぐな言葉を届けてくれるオトちゃん先輩が、私は好きだ。

 だから、今日で一気に距離を縮める。誰にも……四季にも取られないように。オトちゃん先輩の心の中に、私を刻みつけるんだ。

 

「メイちゃん……?」

 

「んっ……あぁ悪ぃ、ちょっと考え事してた。じゃ、行くか!」

 

「うんっ。今日は良い天気だし、色んな所に行けそうだね!」

 

「へへっ、今日は夕方までしっかり付き合って貰うぞ?」

 

「お、お手柔らかにお願いするね……?」

 

 ありゃ、ちょっと困らせちまったか。

 困り顔のオトちゃん先輩も可愛いけど……って、後輩としてどうなんだそれは。それに、こういうのは私の趣味じゃないし、ちゃんと安心してもらわないと一緒に楽しめないしな、よし。

 

「オトちゃん先輩の行きたい場所もちゃんと行くから、安心してくれよ。な?」

 

「でも、それじゃメイちゃんが楽しくないかもしれないけど……良いの?」

 

「何言ってんだ。オトちゃん先輩が楽しめる場所なら、私も楽しめる場所に決まってる。だから心配しないでくれ」

 

「そっか……ふふっ、ありがと。今日はいっぱい楽しもうね!」

 

 あぁ、やばい。思わず顔がふにゃふにゃになりそうだ。でも我慢、まだ我慢だ。まだしっかりした私でいなきゃカッコがつかねぇ……! 

 

「おうっ……! そんじゃまず1軒目だ。行くぞ!」

 

「わっ、ちょっとメイちゃんっ、いきなり走ったら危ないよ~!」

 

 照れ隠しがてら、すっかり熱くなった頬を冷ますように全速力で走ったのは良いけど……やべ、オトちゃん先輩置いてけぼりにしちまった。追いかけて来てくれてるけど、大丈夫かな……? 

 

「はぁっ、は……メイちゃん、いきなり走ったら転けちゃうよ?」

 

「わりぃ、ついテンション上がっちまった。その……手、繋いでくか?」

 

「良いの?」

 

「おう。手を繋いどけば、私が前に行き過ぎる事も無いし、オトちゃん先輩と逸れる事も無いしな。それに、最近のお出か……いや、デートってのは手を繋ぐのが流行りらしいぞ?」

 

「そうなんだ……じゃあ、繋ごっか!」

 

「おおっ!? お、おうっ!」

 

 お、オトちゃん先輩が、私の手を握って……あぁ~!! 手ちっちゃ、てか暖かい……ってやべぇ、危うく『Liella!』ファンモードに切り替わる所だったぜ。私達はファンと推しの関係でもあるけど……もう友達だもんな。だったら友達らしく、落ち着いて接さなきゃいけない。そこら辺弁えないと、オトちゃん先輩に迷惑がかかるからな。

 

「んんっ。それじゃ改めて、行くか!」

 

「うんっ。そういえば、今日はデートって言ってたけど……僕が相手で良かったの?」

 

「良いに決まってるだろ。私がオトちゃん先輩とデートしたかったんだ。その……大好きな先輩だしなっ」

 

「んぅ……あ、ありがとうっ……」

 

 互いの頬が真っ赤に染まった丁度良いタイミングで、風が強くなり始めた。

 私達の身体を包み込むようにして、吹き抜ける風が気持ち良い。ちょっと前まで吹いてた夏の熱風とは大違いだぜ。それはオトちゃん先輩も同じみたいで、風に身を任せて気持ち良さそうに目を細めている。可愛い。

 そんな親切な風に心の中でお礼を言いながら、赤く染まりだした並木道を2人揃って歩き始めた。

 

 ~~~

 

 しばらく歩いてたどり着いたのは、私がいつもお世話になってるスクールアイドルショップ。今日のデートの第一目的地だ。ここは品揃えも在庫も豊富だし、商品も見やすいからついつい行っちまうんだよな。

 何回かオトちゃん先輩と来た事はあるけど、その度に良い反応するから、それを見るのも楽しみだ。

 私達は入店するとすぐに階段を登り、2階を目指す。お目当てはもちろん、『Liella!』のグッズコーナーだ。

 

「わぁ、皆のグッズがいっぱいだ。あっ、この間のライブ衣装のもある! すごいなぁ、もう作られてるんだ……」

 

「この列の並びのアクスタ、3つずつ下さい。あ、それとこの段のもお願いします」

 

「えっ。め、メイちゃん。そんなに買っちゃって、お金とか大丈夫なの……?」

 

「大丈夫。こういう買い物をする為に毎月小遣いやりくりしてるんだ」

 

「それでメイちゃんがお金に困ってないなら……良いの、かな?」

 

「おう。あれこれ買いすぎて親に迷惑かけんのも情けないしさ。これぐらい考えてお金貯めないと、オタ活は続けらんねぇよ」

 

「ふふっ。メイちゃんはしっかりしてるね」

 

「そんな大したことじゃねぇよ、いつだって欲しいものを買えるようにしときたいだけだ。おっ、見ろよオトちゃん先輩。先輩のアクスタもあるぞ!」

 

「えっ、僕の? そんなのある訳……あった!?」

 

「そりゃあるだろ。オトちゃん先輩も『Liella!』の一員なんだしさ。グッズ業者の人が来た時も、ちゃんと先輩の分まで版権の使用許可取ってたろ?」

 

「そうだけど、まさか本当に作られてるとは思わなくて……」

 

「サポーターの自分のグッズなんて需要が無い、ってか?」

 

「うん……」

 

 まぁ、オトちゃん先輩ならそう思っちまうよな。スクールアイドルのサポーターなんて、普通は話題にされるどころか、雑誌の記事の隅でピックアップされるかどうかも怪しい立ち位置だ。それに加えて先輩は男性のサポーター、本当に希少種レベルだ。妬みなのか何だか知らないけど、よく色んな場所で陰口を叩かれたりもする。でもそれ以上に、応援してくれる人も沢山居るんだ。こうしてグッズが何種類も作られるぐらいに。さっきだって、何人もオトちゃん先輩のアクスタを買って行く人を見かけた。だから、私のやる事はもう決まってる。

 

「すみません。こちらの音羽くんのアクスタ、左から3つずつ頂けますか?」

 

「かしこまりました。あらっ、今の分でもう売り切れになりましたね。結構在庫用意してたのに」

 

「売り切れ……?」

 

「はい。音羽くんのアクスタは3日前初めて入荷したんですが、半日で売り切れてしまいまして。緊急で在庫を確保して今日売り場に出したんですが、まさか前より早く売れるとは思いませんでした……。まぁ、待望の音羽くんのグッズですし、これぐらい早く売れても私は不思議には思いませんね」

 

「待望の……僕の、グッズがですか?」

 

「僕の……って、えっ。まさかご本人……!?」

 

「あっ……ちょ、ちょっと店員さん。ここにオトちゃん先ぱ……んんっ。東音羽が居るって事は内密にしてくれないか? どうか頼む……!」

 

 目を見開き口を手で押えながら首を縦に振る店員さん。脅しにはなってないと思う。

 しっかし、来てくれたのがこの人で良かったぜ。この店の店員さんとはほぼ全員知り合いだけど、この人は昔からの顔なじみだし、すごく口が硬い人だから信頼できる。

 興奮が隠せない店員さんと、未だに不思議そうな顔をしているオトちゃん先輩と一緒に会計を済ませ、バレないように素早く店を出る。いつもだったら身バレして囲まれても別に構わないんだけど、今日はオトちゃん先輩との大事なデートの日だ。周りにバレて身動き出来なくなったらたまったもんじゃないからな。

 

「その、メイちゃん。僕のグッズ、本当に今ので売り切れだったの? 気を使って、在庫全部買ってくれたとかじゃないよね……?」

 

「そりゃオトちゃん先輩のグッズだったらいくらでも買いたいけど、私が買った時点で本当に3個ずつしか無かったんだよ。あの店はアクスタとかだと最低でも10個は入荷するから、7個はもう売れてたって事になるな。実際、オトちゃん先輩のアクリルキーホルダーを買ってる人も見かけたしな」

 

「そう、なんだ。でも、なんでそんなに売れてるんだろう。僕、スクールアイドルでもないただのサポーターなのに……」

 

「オトちゃん先輩はただのサポーターじゃないって、皆分かってるんだよ。半年前ぐらいから、SNSで先輩のグッズが欲しいって声はそれなりに上がってたし、今日からネット通販も開始されてるはずだから……へへっ、やっぱりな。これ見てみろよ」

 

「えっと……えっ、売り切れ……!?」

 

「有名どころを何店舗か見てみたけど、どこも売り切れか在庫があと僅かになってる。ものすごい人気だよ。『Liella!』の先輩達でさえあんまりこうはならないのにさ」

 

「そんな、どうして……?」

 

「オトちゃん先輩は、頑張り屋で、誠実で、いつも私達『Liella!』の為に動いてくれてる。SNSの投稿や配信の時だって、自分の事はそっちのけでいつも皆の宣伝ばかりだ。でも、そうやってひたむきに頑張ってる姿が、ファンの心に響いてるんだ。サポーターとして、『Liella!』の一員として、真っ直ぐ自分に出来る事を頑張ってるオトちゃん先輩が、皆大好きなんだよ」

 

「っ……!」

 

「オトちゃん先輩の事、嫌いって言う奴がもしかしたら何人かはいるかもしれねぇ。でもその何倍も、先輩の事を好きだって言ってくれる人が、応援してくれる人がいるって事を忘れないでくれ。私も、そのうちの1人だからさ!」

 

「そっか……うん。僕頑張るよ。もっともっと頑張る……! 僕の事を好きになってくれた人を、後悔させないように!」

 

「へへっ、それでこそオトちゃん先輩だ!」

 

「むきゅ……頭わしゃわしゃしないでぇ……」

 

「おっと、これ以上やったらクセついちまうな。ちょっと髪整えるから、下向いててくれるか?」

 

「うんっ。ん……ありがとうね、メイちゃん」

 

「これくらいお安い御用さ。にしても、オトちゃん先輩の髪の毛柔らかいなぁ。猫ちゃんの身体を触ってるみたいだ」

 

「ん……そんなに肌触り良いかな。ただの髪の毛だよ?」

 

「ただの髪の毛で、これだけ肌触りが良いからすげぇんだよ。クセもすぐに取れるしな。髪質も素直で持ち主にそっくりだぜ……っと。よし、こんな感じで良いかな」

 

「わぁ……前より綺麗な髪型になってる!? メイちゃん、凄い!」

 

「えへへ……そうでもねぇさ」

 

 私が取りだした手鏡に映る自分の姿を見て、目を輝かせるオトちゃん先輩。正直男性の髪型とかに詳しくないから失敗したらどうしようって思ってたけど、気に入って貰えて何よりだ。念の為に手鏡とクシ持ち歩いといて良かったぜ。

 しかし、自分が原因とはいえ、予期せぬタイミングでオトちゃん先輩の髪の毛の感触を堪能できたのは思わぬ収穫だったな。

 ふわふわで、さらさらで、クシで解いたらいい匂いがフワッと……何のシャンプー使ってるんだろう。すごく優しい匂いだったな。

 おっと、これ以上詮索したら顔が歪んじまいそうだからこの話題は一旦置いといて、と。

 ゆっくり深呼吸をして心を落ち着かせる。今は興奮する時じゃない。

 

「そういえばメイちゃん。同じグッズを何個も買ってるけど、どういう風に使うの?」

 

「ん? あぁこれか。飾る用と保管用、後は布教用だな。本当はもう2つぐらい欲しいんだけど、また今度買うよ」

 

「成程。何だか、凄いね?」

 

「はは……まぁ、こればっかりはオタクの性だからな」

 

「でも、皆のグッズを嬉しそうに買ってるのを見たらね、メイちゃんは本当に『Liella!』の皆が大好きなんだなぁって思って、嬉しくなっちゃった」

 

「んんっ……と、特殊な買い方だから、オトちゃん先輩はくれぐれも真似しないようにな。一瞬で財布の中身吹き飛んじまうし」

 

「うん、分かった。よく考えて買わないとね!」

 

「おう。そんじゃ次行くか!」

 

「うんっ!」

 

 私達は、風が吹き抜ける道を、手を繋ぎながら再び歩き始めた。

 

 ~~~

 

 お次は最近出来た貸切制の猫カフェ。周りの目を気にせずに猫ちゃんとの時間を過ごせるって事で最近注目されてるスポットだ。

 中々予約が空いてないんだけど、今日は奇跡的に午後から90分だけ枠が空いていたから、すかさず申し込んだ。オトちゃん先輩も猫ちゃんが好きだし、喜んでくれるだろうなって提案したら、なんと先輩も同じ所に行こうとして同じ時間に予約を取っていたらしい。こんな偶然があって良いのか……? 

 お互い可笑しくなって笑い合いながら、目的地に到着。先に支払いを済ませてドアを開けば、そこは至福の空間。後は楽しむのみだ。

 

「ふふっ、君はここが気持ち良いのかな? ああっ、ごめんね。今はこの子を撫でてるから、もう少し待ってて?」

 

「オトちゃん先輩、ちょっとその子を抱えながらピースしてくれないか?」

 

「分かった。こう、かな?」

 

「おう。そんじゃ、はいチーズ……よしっ! あぁ~~たまんねぇ~~!! 可愛いしゅぎるぅぅぅ……」

 

「メ、メイちゃんが喜んでくれたなら、良かったの、かな……?」

 

「ニャオン」

 

「ん? おぉ、お前達また来たのか! ちょっと待ってろ、今玩具持ってくるからな?」

 

 あぁ、ダメだった。てか、猫ちゃんとオトちゃん先輩を同時に前にして理性を保てるわけねぇだろ。数匹の猫ちゃんを同時にあやす先輩。撫でられてる子もすっかりお腹を見せて気持ち良さそうにしてる。猫ちゃんにもすぐに懐かれるなんて、さすがオトちゃん先輩だぜ。

 

「ふふっ。メイちゃんはここの猫ちゃんと仲良しなんだね」

 

「あぁ。この子達は私が初めてここに来た時から懐いてくれててさ。最初はちょっと怖がられてた時もあったけど、今じゃ……ほらっ!」

 

「ニャンッ!」

 

「わぁっ……すごいっ!」

 

「結構活発な子達だから相手するの大変だけど、それもまた楽しいんだよな。ほれほれ、こっちだぞ!」

 

「ニャウ!」

 

「ははっ、それそれ!」

 

「ふふっ。猫ちゃんと遊んでるメイちゃん、可愛いな」

 

「うにゃっ!? な、なな何言い出すんだオトちゃん先輩っ!」

 

「あっ、ごめんっ。猫ちゃん達と楽しそうに遊んでるメイちゃんが、すごく可愛くて……嫌な気持ちにさせちゃったかな?」

 

「そんなわけねぇだろっ! オトちゃん先輩にそう思って貰えるの……その、嬉しいからさ」

 

「ほんと?」

 

「おうっ。いつも可愛いって言われるのを嫌がってんのは、照れ隠しみたいなもんだから。だから……その、んんっ……」

 

「可愛いって……言って欲しいって事?」

 

「……うん」

 

「分かった。メイちゃんが嫌じゃないなら……可愛いって思った時は、素直に言うね?」

 

「おう。よろしく頼む……っんんん~~!!」

 

「め、メイちゃんっ!?」

 

 あぁ、とうとう言っちまった。柄じゃないから言わないように我慢してたのにさ。

 いや、オトちゃん先輩の前で嘘つくのなんて無理に決まってんだろ。だからこれは仕方ない事なんだよ、うん。でも、可愛いかぁ……。

 

「えへへ……」

 

「大丈夫……? 頭、痛いの?」

 

「いや、もう大丈夫だ。吹っ切れた」

 

「そっか……いきなり叫び出したからびっくりしちゃった。猫ちゃん達も心配してたよ?」

 

「ニャウ……?」

 

「あぁ悪ぃ、心配かけちまったな。私はもう大丈夫だぞ」

 

「ニャン!」

 

「おう、そんじゃ遊ぶか!」

 

「ふふっ、良かった」

 

「っとその前に。オトちゃん先輩、こっち向いてくれ」

 

「うん、どうしたの……わぷっ!?」

 

「へへっ、引っかかったな!」

 

「も、もーっ、メイひゃんっ……!」

 

「さっき、私の事可愛いって言ってくれたけどさ……オトちゃん先輩も、すっごく可愛いぞ?」

 

「ふぇ……?」

 

「ほら、赤くなった顔も可愛い」

 

「あ、うぁ……そんな事無いよっ……」

 

「そんな事ある。オトちゃん先輩は、いつも可愛いよ」

 

「うぅ……」

 

 私に頬を指でつつかれながら、恥ずかしそうに俯くオトちゃん先輩。いや本当に可愛いなオイ。普段から男の子らしくない見た目だとは思ってるけど、もう一歩間違えたら女の子だな。そんなオトちゃん先輩の嬉しそうな顔を見る度に、この人の事が、どうしようもなく大切で、大好きだなって思える。

 オトちゃん先輩が笑顔でいられるなら、どんな事だって頑張れる。どんな事だってやってやる。胸の中で情熱の赤い炎を燃やしながら、未だに照れたままの先輩の頭を、また静かに撫でた。

 

「ニャオ……」

 

「あ……ごめん、つい……いだだっ! わ、悪かったからっ、爪で引っ掻かないでくれぇ~!」

 

 それからしばらく、私と音ちゃん先輩は予期せぬお預けを喰らって拗ねた猫ちゃん達の機嫌を治す為に四苦八苦したのだった。皆、ごめんな。

 

 ~~~

 

 猫カフェを堪能していたらあっという間に日が落ち始めたので、今日はもう帰る事にした。いっぱい歩いたり猫ちゃんと戯れたりでめちゃくちゃ疲れたけど、不思議と悪い気はしない。これが幸せ疲れってやつか、と実感しながら、お土産の猫ちゃんクッキーを手に私達は帰り道を歩く。

 

「イテテ……まったく、あいつら手加減って奴を知らないのかよ……」

 

「メイちゃん、大丈夫?」

 

「おう。血は出てないし平気だよ。それに、元はと言えば放ったらかしにした私達が悪いんだしな」

 

「そうだね。悪い事しちゃったな……」

 

「今度来た時は、めいっぱい甘やかしてやらなきゃな」

 

「その時は、また誘ってくれる?」

 

「勿論だ!」

 

「ふふっ、ありがとう……あっ、メイちゃん。お空見て!」

 

「ん、何だ……って、これは……」

 

 空を見上げた私達の目の前に広がったのは、茜色。地平線に沈んでいく太陽が、名残惜しそうに空を自分の色で明るく染めていく。それがあまりに綺麗で、しばらく2人で見つめ続けていた。

 

「こんなに綺麗な夕日、なかなか見れねぇよ」

 

「そうだね……ふふっ。空がメイちゃんの色で染まってる」

 

「私の色?」

 

「うん。メイちゃんの髪の色って、夕日みたいに綺麗でかっこいい茜色だから。それに、メイちゃんの声からも茜色が見えるんだ。炎みたいに真っ赤で、力強い色。僕ね、そんなメイちゃんの色が大好きなんだ!」

 

「っ、あ……へ?」

 

 ……えっ。告白? いや、あのオトちゃん先輩だぞ。先輩達のあらゆるアプローチを全て斜め上の答えで返してきた鈍感王のオトちゃん先輩だぞ!? だから、これも……でも、もし本当に、万が一、"そう"なのだとしたら……。

 決めた。違ってもいい。ここで、全部ぶつける。

 

「メイちゃん?」

 

「私も、好きだよ。オトちゃん先輩が、好きだ。今夕日に染まってる姿も、そうじゃない時も、どんな時のオトちゃん先輩も大好きだよ。一緒に居るだけで、毎日がすごく楽しくて堪らないんだ。だから、これからも……ずっと、一緒にいてぃくりぇっ……!!」

 

「うんっ。僕も、メイちゃんの事大好きだよ! だからメイちゃんが良かったら、これからも……"友達"でいようねっ!」

 

「……っ、おうっ!」

 

 こうなる事は分かってたよ。というか最後噛んだし。ホント情けねぇ……。でも、ここで変に落ち込んだらせっかくの雰囲気が変になっちまう。落ち込む気持ちは押さえ込んで、めいっぱいの笑顔で終わらなきゃな! 

 

「じゃあ先輩、帰るか!」

 

「うんっ!」

 

 ~~~

 

「ありがとうメイちゃん、わざわざ家の近くまで送ってもらって……」

 

「いいよ、これくらい。オトちゃん先輩が変な奴に襲われたら大変だからな」

 

「ふふっ。メイちゃんが傍に居てくれたら、どんなに怖い事があっても平気でいられるかも」

 

「へへっ。私で良ければ、もっと頼りにしてくれよ。そんじゃ、また来週な!」

 

「あっ……待ってっ!」

 

「わっ!? ど、どうしたんだよ先輩?」

 

「また今度……一緒にお出かけしようねっ!」

 

「へへっ、おうよ!」

 

「じゃあ、またね!」

 

「おう、またな!」

 

 オトちゃん先輩に別れを告げ、私は1人小走りで路地を駆ける。

 何だったんだろう、さっきの。両手で私の手をしっかり握って、夕日の色とは少し違うピンクがかった色で頬を染めて、少し恥ずかしそうに……えっ、え、え……あぁ、もう、なんなんだよ……。

 

「オトちゃん先輩の、バカヤローっ!!!」

 

 そう叫ばなきゃやってられないぐらいに、あの一瞬で私の心はめちゃくちゃに掻き乱されちまった。胸の中を焼き尽くしそうな熱い気持ちを押さえつけながら、私は火傷しそうなぐらいに火照った頬を押さえて、帰り道を走り抜けるのだった。

 ホント、敵わないなぁ。

 

 ~~~

 

「メイちゃん、あっという間に見えなくなっちゃった。足早いなぁ……」

 

 メイちゃんが見えなくなっても、僕の心臓は何故かすごくうるさくて、なかなか落ち着いてくれない。今日のメイちゃんの顔を思い出す度に、ほっぺが熱くなって、火傷しちゃいそう。

 何だろう。いつもと違うのに、不思議と嫌には感じない。僕、どうしちゃったんだろう。

 

「今度、メイちゃんに聞いてみようかな……」

 

 茜色の夕日が、今日はいつもより煌めいて見えた。

 

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