「鈴木さんがアイドル!?」
「うん」
「しかももうなってる!?」
「うん」
それを聞いた瞬間、俺は心の中で咽び泣いた。
思わず俯く。そんで震える。
アイドルってのは恋愛禁止だろ?
ってことは俺の恋心はまだ焦らされんのかよぉ!!
惚れた理由?顔と声。
あと───
「田中くん?どうしたの?」
急にしたから鈴木さんの顔が。
覗き込んできたのか。
───こういう風に、行動が可愛すぎてコロッとやられちまった。
「いやぁ、鈴木さんがアイドルになってくれて俺ぁ嬉しいっすよ」
「唇から血出てるよ?」
「嬉しすぎてニヤケちまうから、我慢してるんです」
嘘。
本当は怒り狂って泣き叫びたい。
じゃあもっと早く告白しとけって言われりゃそれまでだけど、可能性は高めていきたい。
フラれる可能性?そんなもん端から見てねぇわ。
仮にフラれたとしたら、死ぬほど凹みながら帰るだけだ。
「ふふ、嬉しいな。ても私のために喜んでくれてるんだったら、もっと見せて?」
うーん、まずい。
これからアイドルになる奴がこんなこと軽々しく言うべきじゃないんだろうが───
「ほらどうすか、この笑顔」
発言が可愛すぎて何も考えられねぇわ。
「うん、バッチリ!」
そう言って鈴木さんはニコッと笑った。
この笑顔を見れただけでしばらく頑張れそうだぜ。
「それで事務所はね、283プロってところなんだけど」
「あれ?そういうのって俺に話していいんすか?」
「うーん、多分ダメかも?」
なんてこった・・・・・。
「と、とりあえずアイドル関連の話はやめましょう」
「うん、そうだね」
さっきとは別の意味で軽はずみな言動を無くして欲しいもんだ。
「じゃあさ、何する?」
期待したような目を向けている(はず)の鈴木さん。
普段ならともかく、こういう(可愛さをめちゃくちゃ前に出してる)時の目なんざ見れるか。
ていうか声がめちゃくちゃ楽しそうなんだわ。
俺が照れてんの分かってて、しかもそれを関わる人全員(多分)にやってんだから恐ろしいぜ。
「人生ゲームでもしますか」
「2人しかいないよ?」
「サシでやりましょうよ」
「あはっ、良いね」
けど、男連中じゃ俺が1番仲良いはずだ。
こうやってちょっと話してはゲームしてんだからな。
あの鈴木さんと。
「今回はさ、負けたら何してくれるの?」
「そういうのは勝ってから言いな。オラかかってこいや!!」
しかし俺としても、この戦い負けてられんぜ。
かれこれ全敗してるしな。
基本負ける度に奢らされてる訳で、そろそろ素寒貧になる。
それに漫画だって向こうに取られてる。
俺の金だって無限じゃねぇし、そもそも私物は取り返さなきゃなんねぇ。
「いいよ。やろっか」
事の発端は鈴木さんだった。
《田中くん、あたしとゲームしない?》
《何でもやりますよ》
《ほんと?じゃああたしが負けたら、ご褒美に何でもしてあげるよ》
《勝つぜ!!!》
てな感じで、軽いやり取りから始まった話だったんだが、鈴木さんがすげぇ魅力的な提案をしてきたもんだから、パッと乗っちまったんだよな。
まさか俺にも敗者ペナルティがあるとは。
ま、鈴木さんと遊べるだけでめちゃくちゃ嬉しいけど。
「あたし人生ゲーム得意だけど、ほんとに良いの?」
「だ、大丈夫だわ!」
基本鈴木さんは俺の私物をオールインしてくる。
負けるって微塵も思ってねぇんだろうな。
ぜってぇ勝つ。
○○○○○
「田中くん、あたし結婚したよ」
「あぁ!?」
鈴木さんが結婚だ!?
ざけんじゃねぇぞ!!
「わぁびっくりしたぁ」
・・・・・くそ。これだけは毎回慣れねぇ。
呑気してらんねぇからな。
「もー、眉間に皺が寄っちゃってるよー?」
今回はアイドルになるっつってるから心配いらねぇかもしんねぇけど、イケメンのアイドルとか俳優とか、めっちゃ金持ちの芸人とか社長とか、この人狙う奴は死ぬほどいるだろ。
「あ、そうだ。ご祝儀ちょうだい?」
そんな奴に鈴木さんが取られるなんて許せねぇ!
・・・・・まぁ、俺ぁ恋人でもなんでもねぇけど。
「うす」
○○○○○
「お家買っちゃった♪そういえば田中くんはさ、どんなお家が好き?」
「今そんなこと言ってる場合じゃねぇ!」
どんどん金が無くなっていきやがる!
「えぇー、教えてよー」
○○○○○
「離婚だと!?」
「あちゃー・・・・・大丈夫?」
「クソ!!」
○○○○○
「じゃあいつもみたいにご褒美貰おっかな」
「何買えばいいんすか」
「うーん・・・・・あのさ、田中くん」
ん?なんか雰囲気変わったな。
「多分さ、私と田中くんがゲームするのって、これで最後になると思うんだ」
「あー、そうっすね」
鈴木さん東京行くし、そもそもアイドルが男と遊ぶのはよくねぇしな。
・・・・・って、今もそうか。
「だから最後はさ、大っきいお願いしてもいい?」
「任せてくださいよ。何だってやってやりますよ!」
そもそもどうやっても断れねぇわ!
しかしデカいお願いってなんだ?
マジで全財産使うか?
「ありがと。じゃあ言うね?」
「うす」
鈴木さんと目が合う。
いつもなら逸らしてる俺だが、今回は逸らしたらダメな気がした。
あーくそ・・・・・マジで可愛い。
未だにドキドキしやがる。
「あたしのこと、ずっと応援してて」
目を細めて、見るもの全てを虜にするなんて言葉がよく似合う笑顔で
鈴木さんは言った。
それに対する俺の答えなんて、1つしかねぇ。
「当たり前っすよ。一生推します」
・・・・・一生はちょっときめぇか?
い、いや!鈴木さんならそんなこと思わねぇはずだ!
そう思いながら鈴木さんの顔を見ると少し困った顔で
「・・・・・あははっ、そんなに重く考えてくれなくても大丈夫だよー?」
とか言ってるが、あの顔は誰でもファンになるだろ。
好きな人と推しの違いってのはよく分かんねぇけど、やってやらぁ!
○○○○○
案の定、話題になってた。
横に男が立ってた。
プロデューサーらしい。
クソが!!
○○○○○
「そういえば羽那って、少年漫画とか読むんだな」
「え?あー、そうだね。この作品だけだけど」
「へぇ・・・・・そういうの好きなのか?」
「うん。好きだよ」