鈴木さんと会わなくなってからしばらく経った。
毎日ハラハラしながら過ごしてる。
東京は何があるか分かんねぇからな。
鈴木さんが変な奴に騙されないように祈る。
それはそれとして、俺は連絡先を交換していなかったことを死ぬ程後悔していた。
───それ以外にも問題はあるが。
「よし、行くか」
俺は高校卒業したは良いものの、進路が全く決まっていなかった。
まぁいけんだろとか思ってたらこんなことになっちまった。
どっかに俺を雇ってくれる金持ちとかいねぇかな。
ま、とりあえず今日も今日とて単発バイトだ。
「おはようございます!」
飲食店の。
声量には自信あるんでな。
「じゃあ田中くんは、外でチラシ配り行ってくれる?」
「はい!」
「無理にお客さん捕まえようとか考えなくて良いからね。チラシを渡して、ウチを知ってもらえるようにお願いします!」
「了解しました!行ってきます!」
マジで思うが、こういうとこの店員さんは大変だ。
客側もできるだけ良い客であろうとする必要は絶対ある。
うぜぇ客がいたらぶっ飛ばしたって良いと思う。
けど、俺がそんなことをすると店に迷惑がかかるからできねぇ。
雇ってもらった恩もあるからな。
「おぉ兄ちゃん新人か!」
「今日だけです!」
「声出てんなぁ!行ってらっしゃい!」
「うす!」
○○○○○
そんなこんなでチラシを配ってる訳だが今俺の目の前には明らかに一般人じゃねぇ格好の女が立ってる。
THE・金持ちみてぇな格好の。
「あなた、体を鍛えたりはしているのかしら?」
「え?まぁ・・・・・」
バイトをしていて何より必要なのは体力だ。(多分)
最初は鈴木さんに好かれようと初めた筋トレだったが、バイトの件もあって継続していた。
「それに声もよく通るわね」
「どうも?」
「ここのお店の従業員の方かしら?」
「今日だけの日雇いっす」
「そう・・・・・」
「俺は田中っていうんですけど、貴方は?」
「あら、自己紹介がまだだったわね。私は有栖川夏葉。よろしくね・・・・・田中さん?」
名前かっけぇ。
「よろしくお願いします・・・・・有栖川さん?」
「好きに呼んでくれて構わないわ。それで、あなたにお話があるのだけど───」
○○○○○
今日のバイトを終えて、さっき有栖川さんと会った場所に戻ると、やっぱり周囲とは明らかに違うオーラの美人さんがいた。
「お待たせしました」
「私がお願いしたんだもの。気にしないで」
今俺は、結構心が踊っている。
なぜなら───
「あなた、私の付き人になる気はないかしら?」
俺の何がこの人に刺さったのかは分かんねぇけど、就職先ゲットだぜ!!
せっかく向こうから提案してきてくれたんだ。不相応だろうが乗らなきゃ損だろ!
「ぜひお願いします!」
ていうか向こうも俺が頷くの確信してたっぽいし、まぁwin-winだろ。
「決まりね。詳しいことは追って連絡するから、連絡先を交換しましょう」
「そっすね」
そんな感じで美人さんと知り合えてウキウキとか思って家でゴロゴロしてたら、有栖川さんからメッセージが。
《あなたの家はこれから東京になるから、準備は済ませておいてちょうだい》
えっ?
と、東京?
なんで!?
《有栖川さんて岡山の人じゃないんすか》
《実家は愛知だけど、今は東京に住んでるの》
ま、マジか!
てことは俺も住む場所探さねぇと。
《あなたの住む場所もこっちだから、荷物はしっかり持ってきてね》
《一生ついていきます》
《やる気十分ね!》
この人女神だわ。
家まで用意してくれるなんて・・・・・でも出来れば有栖川さんの家の近場が良いな。
遠かったら毎日行くのが面倒に感じちまうだろうし。
ま、あの有栖川さんならそういうとこもありがたい待遇にしてくれてそうだ。
《明日にでも向かっていいですか》
《えぇ。1、2時間前に連絡をくれたら、駅か集合場所まで迎えに行くわ》
《すみません。ありがとうございます》
○○○○○
ついに来たぜ、TOKYO───
「昨日ぶりね」
有栖川さんはすでに待ってくれていた。
うーん早速金持ちオーラに潰されそう。
「うす。待たせてすみません」
「構わないわ。さ、乗って」
初東京で初スポーツカー!?
あかんこの人金持ち過ぎる!
「せっかくだし、運転しながら話しましょうか」
「そうすね」
慣れた手つきで見たことねぇ車を運転する有栖川さん。
しっかしこの人マジで美人だな。芸能人とかじゃねぇの?
「サングラス似合うっすね」
「あら、ありがとう」
雰囲気から何から、パンピーとは違う感じがする。
マジキラキラって感じだ。
「そういえば聞くのを忘れてたわね。あなた、下の名前は?」
「下の名前?」
「付き人なのに苗字で呼ぶのは珍しいし、堅苦しいと思わない?」
「あー、まぁそんなもんじゃないすかね」
ほぼ初対面で下の名前で呼び合う奴の方が珍しいと思うけどな。
「あら、ご主人様に向かって───」
「太郎です。よろしくお願いします」
お嬢節出すの早過ぎんだろ。
「ふふ、よろしくね太郎くん」
「・・・・・くん?」
「あら、呼び捨ての方が良かったかしら?」
多分この人、シンプルに仲良くしようとしてくれてるんだろうな。
優しさを感じる。(あんまこの人の事知らねぇけど)
「別に。好きに呼んでもらっていいすよ」
「それで、私の事はなんて呼んでくれるのかしら?」
鈴木さんみてぇな楽しそうな声で聞いてくる。
名付けて「振りの声」だな。
ここをミスるわけにはいかねぇ。
無難な呼び方にしとくか。
「・・・・・夏葉お嬢様?」
「っ、あはははっ!」
何故かめちゃくちゃ笑い始めた。
なんだ喧嘩か?
「何笑ってんすか」
「あははっ、そんな嫌そうな声で・・・・・!」
「今のなしで。お嬢でいきます」
「ダメよ。さっき言ったんだから、な、夏葉お嬢様で・・・・・ふふっ」
「好きに呼べって言ったでしょ」
○○○○○
「お嬢、ここって───」
「私と貴方の家よ」
バカデカいマンション。
タワマンってやつの前に、俺とお嬢はいた。
「ただの一般人からタワマン住みってやべぇすね」
「あなたはもう私の付き人なのよ?付き人にぞんざいな待遇はできないわ。さ、入りましょう」
言われるがままについて行く。
そして俺の部屋と思しき場所に入った。
「ひっろ!?」
「ふふ、安心して寛いでいいわよ」
デカ過ぎんだろこの部屋・・・・・俺1人で住むには落ち着かねぇ。
それはそうとすげぇありがたいのは確かだ。
「ありがとうございますお嬢。俺1人の為にわざわざ1部屋用意してくれて」
ていうか部屋の装飾がなんか・・・・・新しい部屋って感じがしねぇな。
「え?」
「え?」
一瞬、時間が止まった感覚がした。
その時───
「あ?」
ソファに座るワン公───もとい犬と目が合った。
「お嬢、あの犬って」
「あの子はカトレア。私の愛犬よ。実家の頃からの仲良しなの」
「ほ、ほーん・・・・・」
なんでそんな愛犬が俺の部屋に・・・・・?
「お嬢、1つ聞いていいすか」
なんか・・・・・めっっっっちゃくちゃ嫌な予感がする。
「何?」
流石にそんな訳ねぇよな。
てかダメだろ。
「ここって俺の部屋っすよね」
お嬢は1人暮らしなんだから余計に。
「そうよ?」
だ、だよな!そうだよな!ここはお嬢の───
「厳密には───」
へ?
「私とカトレアと───」
お嬢とカトレア・・・・・
「貴方の部屋よ」
・・・・・・・・・・。
「・・・・・てことはつまり、俺とお嬢とカトレアがここに住むってことすか?」
「えぇ」
「一緒に?」
「一緒に」
・・・・・・・・・・。
「太郎くん?」
「あ・・・・・あ・・・・・」
「
「あかーーーーーーん!!!!!!!」