1級冒険者ですが、コミュ障なのでソロとして頑張ってます 作:究極の闇に焼かれた男
ベルフラ地下遺跡の最下層である2階層、そこで一振の巨大な大鎌を手にした黒いボロ布のローブを羽織り鉄仮面を被る1人の冒険者が、階層主(フロアボス)である"ヘルフレイムドラゴン"と対峙していた。
ヘルフレイムドラゴンは咆哮を上げながら自身に刃を向ける敵対者を威嚇するも、対する冒険者は何処吹く風と言う様子で手にした大鎌を肩に担ぐ様にして構えた次の瞬間、地面を蹴って駆け出した冒険者は一瞬の内にヘルフレイムドラゴンへと肉薄すると宙へ飛び上がり体を螺旋状に捻りながら大鎌を振り抜いた。 螺旋を描く様にして振るわれた大鎌の一撃はヘルフレイムドラゴンの体を切り刻みながら頭上を取ると、そのまま降下しながら縦一閃に大鎌を振るうとヘルフレイムドラゴンの体を何の抵抗も無く一刀両断する。
ヘルフレイムドラゴンは断末魔の叫びを上げながら消滅すると、討伐の証である"レリック"が地面へと静かに転がる。
「……今日に至るまで多くの冒険者達を蹂躙していたフロアボスと聞いていたが、そこら辺のトカゲと何一つ変わらなかったな。 やはり噂ってのは当てにならない物だな」
まるで期待ハズレだったと言わんばかりの様子で仮面越しに発せられた声は若く、冒険者の正体がまだ"青年"と呼ばれる年齢である事が伺えた。
「まぁ…フロアボスも倒せた事だし、一先ず帰るとするか。 それにフロアボスがいなくなった以上、このダンジョンから他のモンスターが居なくなるのは時間の問題だろうしな」
そう言いながら大鎌を肩に担ぐと討伐の証であるレリックを拾いローブの内側に仕舞い込むと、早々にダンジョンの外に向かって歩き出すのだった。
「冒険者」──それは世界各地に存在するダンジョンへと赴き、名声と栄誉を得る為にダンジョンを攻略しながら先人達の高い技術によって作られた特殊な装飾品「レリック」を手に入れるべく命を懸けてモンスターと対峙する者たち。
そんな冒険者で上位1割しか居ないとされる実力者である1級冒険者にも関わらず誰ともパーティーを組まず、常にソロで活躍する1人の冒険者が居た。
これはソロで活躍する冒険者にして人々から「死神」と称される実力を有した1人の青年と、本来副業が禁止されているにも関わらず"残業地獄"を回避する為だけに秘密裏に冒険者として活動する"受付嬢"の物語である。
「大都市イフール」──そこに在る冒険者ギルド"イフールカウンター"の扉の前に黒いボロ布のローブを羽織り、鉄仮面で顔を隠した1人の冒険者が立っていた。
背中に身の丈と同程度の大きさを誇る大鎌を背負っており、その冒険者から発せられる空気は鋭利な刃物を思わせるものを感じさせていた。
そんな冒険者を遠巻きに見る他の冒険者は、彼の存在を目にすると何かを悟った様子を見せながら早々に帰り始める。
(…見られたと思ったら急に帰り始めた? もしかして俺、気付かぬうちに何かやらかしたか?)
帰って行く他の冒険者の姿に彼は内心そう思い酷く落ち込んだ様子を見せるも、即座に気を取り直してイフールカウンターへと入って行くのだった。
中に入ると其処彼処に冒険者が所狭しと前に進むのも難しい程に溢れ返っていた。 そんな中を彼は慣れた様子で進もうとすると、不意に彼の存在に気が付いた他の冒険者が目を見開きながら声を上げた。
「あれって……もしかしなくても"死神"か!?」
冒険者の1人の声が人で溢れ返っていたイフールカウンター内に響き渡った直後、周囲にいた他の冒険者達が「死神」と呼ばれた彼に一斉に視線を向ける。
「おい、死神が此処に来てるって事は…」
「間違いない、ベルフラ地下遺跡が攻略されたって事だ…」
「スゲー、今回もソロで攻略しやがったのか…」
「クソッ、また奴が攻略したせいで稼ぎが無くなった…」
「やってらんねーよ。 俺は帰らせてもらう…」
そう口々に言い始めると所狭しと居座っていた他の冒険者達は死神と呼ばれる彼に向けて様々な思いが籠った視線を向けながら、1人また1人とイフールカウンターから去って行くと多くの冒険者で溢れ返っていた先程と打って変わり閑散となっていた。
(…やっぱり俺、何かマズイ事でもしたのだろうか?)
他の冒険者達が去って行った事に彼は思わず呆然とするも、直ぐに気を取り直すとクエスト達成の報告をする為にカウンターへと早足で近付いて行く。
カウンターに近付いて行くと、クエストの受注や達成報告を行ってくれる受付嬢である長い黒髪の少女が立っていた。
「いらっしゃいませ。 冒険者様、本日はどのようなご要件でしょうか?」
彼が近付いてくると、受付嬢の少女は何処か嬉しげな表情を浮かべながら彼に問い掛けると、彼は鉄仮面越しに視線を彷徨わせながら恐る恐るといった様子で口を開いた。
「その…ベルフラ地下…遺跡の最下層の…階層主…えっと、ヘルフレイムドラゴン……の…討伐達成と……攻略完了の、報告に…来ました……」
「ヘルフレイムドラゴンの討伐と、ベルフラ地下遺跡の攻略完了ですね。 では、ヘルフレイムドラゴンの討伐の証であるレリックの御提示をお願いします」
受付嬢に促された彼は、懐からヘルフレイムドラゴンを討伐した際にドロップした赤い水晶玉の形をしたレリックを取り出し、受付嬢へと手渡す。
「お預かりいたします。 ……はい、間違いありませんね。 それではヘルフレイムドラゴン討伐達成の報酬と、ベルフラ地下遺跡攻略完了の報酬を御用意しまので少々お待ち下さい」
そう言って受付嬢の少女はカウンターの奥へと向かって行くと、暫くして報酬金が入った小袋を手に戻って来る。
「お待たせいたしました。 これがクエスト達成とダンジョン攻略完了の報酬となります」
「…あ、ありがとう…ございます」
彼は若干震えた手付きで受付嬢から報酬を受け取ると、即座に踵を返すと早足で外に向かい始めた。 そんな彼の後ろ姿に受付嬢の少女は「ご利用頂きありがとうございました」と、にこやかな表情で見送るのだった。
死神の異名で人々に知られる1級冒険者こと「アイン・スバルター」は、圧倒的な実力を有していながら、口数が少なく常に鉄仮面を被っており、偶に他の冒険者から話し掛けられても"俺に話し掛けるなと"言わんばかりの視線を鉄仮面越しに向けてくる事から、多くの人々から恐れられていた。
余りにも他人を寄せ付けない雰囲気と、誰ともパーティーを組もうとせずソロで活動し続ける彼に冒険者ギルドは密かに頭を抱えていた。 冒険者ギルドとしてはアイン程の実力者をソロで活動させ続けることに危機感を募らせており、何とかして他の冒険者とパーティーを組まずとも仲良くして欲しいと考えさせている。
しかし、他の冒険者や冒険者ギルドの面々には未だ知られて居ないが、寡黙で他人を寄せ付けようとしない雰囲気を出していると思われているアインが実は単なるコミュ障で、寡黙なのも何を話せばいいのか分からずに混乱しているだけで、他人を寄せ付けない雰囲気と言うのも実際にはどう受け答えするべきか考え過ぎて、無意識に張り詰めた雰囲気を出しているだけなのだ。
幼少の頃から内気で、人と顔を合わせただけで気分が悪くなったり、ビビり散らしてしまう性格のせいでアインは友達が作れずにいた。 そんな彼は、内気で他人にビビり散らしてしまう自分を変えるべく冒険者となり、今では最高位とされる1級となるに至った。
だが、それでもアインのコミュ障は治らず、それ所か悪化の一途を辿り続けており、未だに他人に対して面と向かって言葉を交わすことが出来ずにいた。
これは、そんな死神という異名で恐れられているアインが、自身のコミュ障を治すべく奮闘するも、持ち前の性格のせいで空回りしたり、時には勘違いを起こしたり、他人を勘違いさせたりしてしまう物語である。
続くかも?
続きは気が向いたら更新します。